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【発明の名称】 経皮吸収促進剤、並びにこれを含有する皮膚処理用製剤及び経皮吸収型製剤
【発明者】 【氏名】川村 尚久
【氏名】土屋 純子
【課題】薬物の経皮吸収を促進し、且つ、皮膚に対する刺激性の少ない安全性に優れた高級脂肪酸のトリグリセリドを含有する経皮吸収促進剤を提供する。また、該高級脂肪酸トリグリセリドを含有する皮膚処理用製剤及び経皮吸収型製剤を提供する。

【解決手段】本発明の経皮吸収促進剤は、炭素数14以上である高級脂肪酸のトリグリセリドを含有し、薬物適用の前に用いることで薬物の経皮吸収をより促進することができる。また、高級脂肪酸トリグリセリドを含有する皮膚処理用製剤及び経皮吸収型製剤は、ヒトの皮脂を構成する成分であるので、皮膚刺激性が低く、安全性に優れる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの脂肪酸が炭素数14以上の高級脂肪酸であるトリグリセリドからなる経皮吸収促進剤。
【請求項2】
前記高級脂肪酸が不飽和脂肪酸である請求項1に記載の経皮吸収促進剤。
【請求項3】
前記不飽和脂肪酸がオレイン酸である請求項2に記載の経皮吸収促進剤。
【請求項4】
請求項1に記載の経皮吸収促進剤を含有し、薬物を適用する前に用いる皮膚処理用製剤。
【請求項5】
剤形が、貼付剤、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、エアゾール剤又はスプレー剤である請求項4記載の皮膚処理用製剤。
【請求項6】
請求項1に記載の経皮吸収促進剤と薬物とを含有する経皮吸収型製剤。
【請求項7】
支持体と、前記支持体上に形成された請求項1に記載の経皮吸収促進剤及び薬物を含有する層と、を備える経皮吸収型貼付剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収促進剤に関し、より詳しくは、少なくとも1つの脂肪酸が炭素数14以上の高級脂肪酸であるトリグリセリドからなる経皮吸収促進剤に関する。また、本発明は、該経皮吸収促進剤を含有する皮膚処理用製剤及び経皮吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の経皮投与は、皮膚面の毛細血管から薬物を直接吸収することができるため、肝臓での初回通過効果を回避することができる。また、経皮投与は、薬物が持続的に放出するため、短時間に大量の薬物が吸収されることによる副作用を軽減することができる。このため、経皮投与は薬物投与の有効な手法のひとつである。
【0003】
ところが、皮膚は、外部からの異物の侵入を防ぐバリアの働きを有しているため、単に薬物を皮膚に塗布又は貼付しても、薬効を生じる必要且つ十分な量の薬物を体内に送り込むことは難しい。そのため、一般的に、薬物の皮膚透過を促進することを目的とした物質を薬剤に配合することで、薬物の効果を発揮させている。
【0004】
このような経皮吸収促進作用を有する物質としては、エタノール、クロタミトン、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が知られているが、エタノールやクロタミトンには、皮膚刺激性等の問題があった。
【0005】
中鎖脂肪酸トリグリセリドは、支持体を構成する成分との親和性が乏しく、支持体には吸収され難い反面、粘着剤成分との相溶性がよいことから経皮吸収型の製剤に用いられている。
【0006】
例えば、特許文献1には、炭素数8の中鎖脂肪酸であるカプリル酸のトリグリセリドを薬物の経皮吸収促進剤として用いた医療用経皮吸収テープ製剤が開示されている。また、炭素数8〜10の中鎖脂肪酸トリグリセリドと、水と、γ−アミノ酪酸及び/又はジイソプロピルアミンジクロロアセテートとからなる外用剤は、カルボキシル基含有水溶性化合物の経皮吸収を促進する効果を有する旨の報告がある(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、前述した中鎖脂肪酸トリグリセリドによる経皮吸収促進作用は、未だ満足できるものとは言い難い。
【0008】
また、薬物を経皮投与する皮膚は、人種・年齢・部位・皮膚組織状態等によって異なるため、薬物の経皮吸収性にばらつきを生じる場合があり、個々の条件に適した薬物経皮吸収のコントロールが十分にできていなかった。更に、経皮吸収促進剤を薬物含有経皮製剤に配合させることは従来あったが、薬物の適用前に、経皮吸収促進剤を皮膚に適用する概念はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2004/112760号パンフレット
【特許文献2】特開平11−80029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、薬物の経皮吸収を促進し、且つ、皮膚に対する刺激性の少ない安全性に優れた経皮吸収促進剤、皮膚処理用製剤及び経皮吸収型製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、ヒトの皮脂成分に含まれるトリグリセリドを構成する脂肪酸の大部分が高級脂肪酸であることに着目し、鋭意研究を重ねた結果、高級脂肪酸のトリグリセリドに優れた経皮吸収促進作用があるという知見を得た。
【0012】
また、別の観点から、薬物適用前に高級脂肪酸のトリグリセリドを皮膚に適用し、皮膚中に含有させることにより、薬物経皮吸収性が向上すること、更には、人種・年齢・部位・組織状態等により異なる皮膚の薬物経皮吸収性をコントロールできることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0013】
本発明の経皮吸収促進剤は、少なくとも1つの脂肪酸が炭素数14以上の高級脂肪酸であるトリグリセリドからなることを特徴とする。
【0014】
本発明の経皮吸収促進剤では、高級脂肪酸は不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0015】
本発明の経皮吸収促進剤では、不飽和脂肪酸はオレイン酸であることが好ましい。
【0016】
本発明の皮膚処理用製剤は、請求項1に記載の経皮吸収促進剤を含有し、薬物を適用する前に用いることを特徴とする。
【0017】
本発明の皮膚処理用製剤では、剤形は、貼付剤、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、エアゾール剤又はスプレー剤であることが好ましい。
【0018】
本発明の経皮吸収型製剤は、請求項1に記載の経皮吸収促進剤と薬物とを含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の経皮吸収型貼付剤は、支持体と、前記支持体上に形成された請求項1に記載の経皮吸収促進剤及び薬物を含有する層と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の経皮吸収促進剤は、少なくとも1つの脂肪酸がヒトの皮脂成分を構成する炭素数14以上の高級脂肪酸であるトリグリセリドからなるので、薬物経皮吸収性に優れ、且つ皮膚刺激が少なく安全性にも優れていると推測される。
また、本発明の皮膚処理用製剤は、薬物適用前に用いると、適用皮膚部にトリグリセリドを移行・含有させることができるので、その後、薬物含有経皮製剤を適用した際に薬物の経皮吸収性を促進することができる。
更に、本発明の経皮吸収型製剤及び経皮吸収型貼付剤は、本発明の経皮吸収促進剤と薬物とを含有させたので、トリグリセリドが、薬物の皮膚透過性を向上させ、薬物の経皮吸収性を促進すると推測される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ヒト皮膚の角質細胞間脂質ラメラ液晶構造を示す顕微鏡写真(上段A:倍率150、下段B:倍率800)である。
【図2】ヘアレスラット皮膚の角質細胞間脂質ラメラ液晶構造を示す顕微鏡写真(上段A:倍率150、下段B:倍率800)である。
【図3】ヘアレスラット及びヒト皮膚の皮表脂質の組成を示すHPTLCクロマトグラム(S:内部標準、A:ヒト、B:ヘアレスラット)である。
【図4】トリグリセリドを除去したヒト皮膚へのツロブテロール透過性を示す図である。
【図5】ヘアレスラットにおけるトリグリセリドの塗布によるツロブテロールの透過性への影響(累積透過性)を示す図である。
【図6】ヘアレスラットにおけるトリグリセリドの塗布によるツロブテロールの透過性への影響(皮膚透過速度)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について更に具体的に説明する。
【0023】
本発明の経皮吸収促進剤とは、皮膚に適用することで皮膚の薬物透過性を高めたり、結晶型の薬物等を溶解させることで吸収性を高めたりするもの等を意味する。経皮吸収促進剤の適用は、薬物を適用する前であっても、同時であってもよく、適用する薬物の溶解性、安定性等の性質に応じて適宜選択することができる。また、本発明の経皮吸収促進剤は、例えば、医薬品や化粧料に適用することができる。更に、本発明の経皮吸収促進剤は、薬物のスクリーニング法にも適用できる。すなわち、本発明の経皮吸収促進剤に対する薬物の溶解性、及び/又は本発明の経皮吸収促進剤を適用した皮膚に対する薬物の透過性を評価することで、当該薬物の経皮吸収性を評価できるので、これを利用した薬物のスクリーニングが可能であると考えられる。
【0024】
本発明の高級脂肪酸は、炭素数14以上であれば特に限定されないが、炭素数14〜20が好ましく、炭素数16〜18がヒトの皮脂成分に多く含まれる点において特に好ましい。また、飽和脂肪酸であるか、不飽和脂肪酸であるかは問わないが、薬物溶解性という観点からは不飽和脂肪酸が好ましい。
【0025】
本発明の高級脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、アラキン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、プロピオール酸、ステアロール酸等が挙げられる。この中でも、オレイン酸、パルミトレイン酸、パルミチン酸、及びリノール酸が好ましく、炭素数18のオレイン酸が経皮吸収促進性と安全性という点において特に好ましい。オレイン酸は、ヒトの皮膚の皮脂を構成する主要成分であるので、他の脂肪酸に比べて、特に皮膚刺激性が低く、安全性に優れると考えられる。
【0026】
本発明のトリグリセリドは、上述の高級脂肪酸を少なくとも1つ含み、同じ種類の高級脂肪酸で構成されても、異なる種類で構成されてもよい。例えば、トリグリセリドは、3つの脂肪酸がグリセリンとエステル結合した構造を取っているが、1)オレイン酸、2)リノール酸、3)パルミチン酸がグリセリンと結合した構造であってもよく、3つともオレイン酸が結合した構造であってもよい。
【0027】
また、グリセリンと結合した脂肪酸の少なくとも1つが高級脂肪酸であればよく、高級脂肪酸と中鎖脂肪酸(中級脂肪酸)の両脂肪酸がグリセリンと夫々結合していてもよいが、好ましくは、3つの脂肪酸の全てが高級脂肪酸のトリグリセリドである。
【0028】
本発明のトリグリセリドは、様々な製法で得られ、特に制限されるものではない。例えば、天然植物・天然動物を起源とする油脂、具体的には、サザンカ油、ツバキ油、アボカド油、アーモンド油、オリーブ油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーシック油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、パーム油、ヤシ油、カカオ脂等の植物油脂、ミンク油、卵黄油、牛脂、豚脂等から得ることができ、これらの油脂等から通常の方法でトリグリセリドを単離精製して本発明に用いることが可能である。また、高級脂肪酸とグリセリンとを通常の方法によりエステル結合して得られる化学合成品を本発明に用いることも可能である。
【0029】
本発明の皮膚処理用製剤とは、薬物を適用する前に、適用皮膚部を薬物経皮吸収に適した状態に処理するためのものを意味する。皮膚処理用製剤の使用時期は、薬物を適用する前であれば、特に限定されないが、好ましくは、薬物を適用する約12時間前から適用する直前である。皮膚処理用製剤が適用皮膚部に留まり、薬物の経皮吸収促進効果が得られる時間であると推測されるからである。
【0030】
皮膚処理用製剤の剤形としては、皮膚に適用しやすい剤形であれば目的に応じて任意に選択することができる。例えば、貼付剤、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、エアゾール剤、スプレー剤等が挙げられる。なお、貼付剤とは、皮膚に貼付する製剤全般を意味し、テープ剤、パップ剤、硬膏剤等も含む。
【0031】
なお、本発明の皮膚処理用製剤には、本発明の経皮吸収促進剤のほか、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、医薬品、化粧料に用いられる各種成分、すなわち、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、香料、色剤等を適宜含有させることができる。
【0032】
本発明の経皮吸収型製剤は、本発明の経皮吸収促進剤を含有する経皮吸収型の製剤であり、剤形限定されず、例えば、貼付剤、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、エアゾール剤、スプレー剤等が挙げられ、中でも経皮吸収型の貼付剤が好ましい。なお、貼付剤とは、皮膚に貼付する製剤全般を意味し、テープ剤、パップ剤、硬膏剤等も含む。また、本発明の経皮吸収型製剤は、日本薬局方の製剤総則に記載されたものに限定されるものではない。
【0033】
なお、本発明の経皮吸収型製剤には、本発明の経皮吸収促進剤のほか、薬物等の有効成分や、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、医薬品、化粧料に用いられる各種成分、すなわち、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、香料、色剤等を適宜含有させることができる。
【0034】
本発明の経皮吸収型貼付剤の形態としては、支持体上に本発明の経皮吸収促進剤と薬物とが混在している粘着剤層が形成されているものが挙げられる。この形態は、高級脂肪酸のトリグリセリドが、薬物の皮膚透過性を向上させ、薬物の経皮吸収性を促進すると推測される点において好ましい。
【0035】
本発明の経皮吸収型貼付剤の他の形態としては、支持体上の粘着剤層において、本発明の経皮吸収促進剤と薬物とが濃度勾配を形成しているものが挙げられる。この形態は、皮膚に近い部分の経皮吸収促進剤の濃度を調整することで、薬物の皮膚透過性をコントロールし、ひいては薬物の経皮吸収性をコントロールできると推測される点において好ましい。
【0036】
本発明の経皮吸収型貼付剤の更に他の形態としては、支持体上に薬物を含有する粘着剤層と、本発明の経皮吸収促進剤を含有する粘着剤層とが形成されているものが挙げられる。例えば、薬物を含有する粘着剤層と、本発明の経皮吸収促進剤を含有する粘着剤層との間に剥離シート等を設け、互いが接触しないようにしてもよい。剥離シート等を設けることで、本発明の経皮吸収促進剤を含有する層は皮膚面にのみ接し、薬物を含有する層とは接しない。これによって、最初に皮膚の薬物透過性を高め、その後、薬物を含有する層と本発明の経皮吸収促進剤を含有する層との間の剥離シート等を取り除くことで、互いの層が接するので、薬物が徐々に高級脂肪酸のトリグリセリドを含有する層に移行し、高級脂肪酸のトリグリセリドにより薬物が溶解することで、更に経皮への吸収性が高まると推測されることから、該形態は好ましい。また、該形態は、高級脂肪酸のトリグリセリドと長期間接触することで分解等する、不安定な薬物を含有する経皮吸収型貼付剤に特に好ましい。
【0037】
ここで、剥離シートとは、薬物を含有する粘着剤層及び/又は本発明の経皮吸収促進剤を含有する粘着剤層を保護するものである。素材としては、薬物を含有する粘着剤層及び/又は本発明の経皮吸収促進剤を含有する粘着剤層から容易に取り除くことのできる素材であり、薬物及び本発明の経皮吸収促進剤非透過性の素材であれば用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等のプラスティックフィルム、金属フィルム等の素材から選ばれる単層のフィルム、又は2種以上の素材を積層したものが挙げられる。これらのフィルムの表面をシリコン処理したものを用いることもできる。
【0038】
本発明の支持体は、伸縮性のある支持体がより好ましいが、非伸縮性のものであっても柔軟性があればよく、薬物非透過性の素材であれば用いることができ、単層構造の支持体であっても、複数の素材が積層された構造の支持体であってもよい。単層構造の支持体の場合には、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリウレタン等のプラスティックフィルム、あるいは金属製のフィルム類が好適に用いられ、フィルムの表面はシリコン処理を施すことも可能である。支持体は、無色透明であっても、白色あるいは肌色等に着色したものであってもよく、白色あるいは肌色等に着色したものは、支持体の表面を色素でコーティングしたものであっても、支持体中に色素又は顔料等を均一に練り込んだものであってもよい。積層構造の支持体を用いる場合は、少なくとも1層が薬物非透過性のフィルムを用いればよく、単層構造の支持体フィルムに、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン等の不織布、織布、編布、紙、金属フィルム等から選ばれる1種又は2種以上の素材を積層することによって得られる積層フィルムを用いることができる。
【0039】
本発明の薬物は、特に限定されるものではなく、その治療目的に応じて任意に選択することができ、例えばステロイドホルモン、非ステロイド鎮痛抗炎症剤、精神安定剤、抗高血圧薬、虚血性心疾患治療薬、抗ヒスタミン薬、抗喘息薬、抗パーキンソン薬、脳循環改善薬、制吐剤、抗うつ薬、抗痴呆薬、シェーグレン症候群治療薬、抗不整脈薬、抗凝固薬、抗痛風薬、抗真菌薬、麻薬性鎮痛薬、ベータ遮断薬、β1作動薬、β2作動薬、抗腫瘍薬、利尿薬、抗血栓薬、局所麻酔剤、ヒスタミンH1レセプター拮抗薬、ヒスタミンH2レセプター拮抗薬、抗アレルギー薬、セロトニンレセプター拮抗薬、抗高コレステロール薬、禁煙補助剤等の種々の薬物であって、皮膚面上に滞留するものではなく、皮下若しくは血中まで浸透して局所作用若しくは全身作用を発揮する経皮吸収可能な薬物であれば使用することができる。これらの薬物は必要に応じては2種以上の薬物を併用することも可能である。また、これらの薬物の配合量は、薬物の種類、薬効、及び投与目的によって適宜設定することができる。
【0040】
また、本発明に係る薬物は、本発明の経皮吸収促進剤に溶解又は相溶するものが好ましく、具体的には、交換神経のβ2受容体の選択的刺激薬(β2作動薬)であるツロブテロール、硝酸イソソルビド、局所麻酔剤のリドカイン、また、非ステロイド鎮痛抗炎症剤のフェルビナク、インドメタシン、ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウムが挙げられる。
【0041】
更に、本発明に係る薬物は、溶解型製剤であっても、結晶型製剤であってもよいが、本発明の経皮吸収促進剤の効果が顕著に発揮される点において、製剤中で薬物が一部結晶型で存在する結晶型製剤がより好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に従って本発明を更に詳しく説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことは言うまでもない。なお、皮膚透過性試験の方法は次の通りである。
【0043】
<皮膚透過性試験(1):ヘアレスラット及びヒト摘出皮膚>
縦型拡散セルに装着された摘出皮膚の真皮側(reciever側)に0.05mol/L McIlvaine buffer(pH7.4)を入れ、角質層側(donor側)にツロブテロール含有貼付剤(製品名:ホクナリンテープ,アボットジャパン社製,結晶型製剤(製剤中で薬物が一部結晶で存在))を適用した。各時点でreciever液を0.6mLサンプリングした後、0.05mol/L McIlvaine buffer(pH7.4)を同量加えた。サンプリング溶液中の薬物濃度をHPLCにて測定し、累積透過量及び時間曲線の勾配部分から定常状態の皮膚透過速度を算出した。なお、サンプリング時間は2、4、6、8、10、12及び24時間とし、温度は32℃一定、繰り返し数は6〜12とした。
【0044】
<皮膚透過性試験(2):ヘアレスラット>
縦型拡散セルに装着された摘出皮膚の真皮側(reciever側)に0.05mol/L McIlvaine buffer(pH7.4)を入れ,角質層側(donor側)に薬物含有貼付剤を適用した。薬物には、リドカイン(製品名:ペンレステープ,日東電工社製)、硝酸イソソルビド(製品名:ニトラステープ,大協薬品工業社製)、ケトプロフェン(製品名:モーラステープ,久光製薬社製)、ジクロフェナクナトリウム(製造法1参照)を用いた。各時点でreciever液を0.6mLサンプリングした後、0.05mol/L McIlvaine buffer(pH7.4)を同量加えた。サンプリング溶液中の薬物濃度をHPLCにて測定し、累積透過量を算出した。なお、サンプリング時間は3、6及び9時間とし、温度は32℃一定、繰り返し数は6〜12とした。
【0045】
[製造例1]
ヘンシェルミキサ(登録商標)内に、流動パラフィン、ロジンエステル樹脂(商品名:KE−100,荒川化学工業社製)、ジブチルヒドロキシトルエン、硬化油(K−3ワックス200,川研ファインケミカル社製)を加え、混合攪拌した。得られた混合物に、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(D−KX401CS,クレイトンポリマージャパン社製)を加え、更に、1−メントール、N−メチル−2−ピロリドン、ジクロフェナクナトリウム、クエン酸を加え、混合攪拌することで、膏体を作成した。支持体(100g/m目付のメリヤス(ポリエステル製))上に、作成した膏体を展延し、この膏体上に剥離ライナーフィルムを積層することで、貼付剤を作成した。配合表を表1に示す。
【0046】
【表1】


【0047】
[試験1]
ヒト摘出皮膚表面をテープで剥離し、顕微鏡(KEYENCEデジタルHFマイクロスコープVH−8000)で観察した。その結果を図1(A:倍率150、B:倍率800)に示す。
【0048】
[試験2]
試験1と同様の方法により、ヘアレスラット摘出皮膚表面を顕微鏡で観察した。結果を図2に示す。
【0049】
ヒトの皮膚ではラメラ液晶構造の部分と、一部に白い塊とがあり、ラメラ液晶構造を覆うような状態が観察されたのに対し、ヘアレスラットの皮膚では、細胞間脂質のラメラ液晶構造が比較的均一に観察された。このことから、ヒトとヘアレスラットでは、皮膚表面の状態に違いがある事が明らかとなった。
【0050】
[試験3]
ヒト摘出皮膚表面からクロロホルム/メタノール(2:1)で皮表脂質を抽出し、HPTLC展開を行って、その組成を調べた。その結果を図3(A)に示す。
【0051】
[試験4]
試験3と同様にして、ヘアレスラットの皮表脂質の組成を調べた。その結果を、図3(B)に示す。
【0052】
ヒトには、皮脂腺由来の皮脂の主成分であるオレイン酸トリグリセリドが特徴的に含まれているのに対し、ヘアレスラットでは、コレステロールエステルが特徴的に含まれており、皮表脂質の組成に違いがあることが認められた。皮脂は、皮膚表面に皮脂膜となって存在する事が知られていることから、ヒト摘出皮膚表面において観察された白い塊(図2)は、オレイン酸トリグリセリドであると考えられた。
【0053】
[試験5]
クロロホルムを用いてヒト摘出皮膚表面の拭取りを行った後、ヒト摘出皮膚の表面をテープで剥離し,顕微鏡で観察を行ったところ、ヒト皮膚に特徴的に観察された細胞間脂質のラメラ液晶構造を覆うような白い塊の減少が確認された。また、皮表脂質の測定を行ったところ、トリグリセリドが選択的に減少した。このことから、白い塊は主にトリグリセリドであると考えられた。
【0054】
[試験6]
クロロホルムによりトリグリセリドを除去したヒト摘出皮膚を用いて皮膚透過性を評価した。試験は、皮膚透過性試験(1)に記載の方法に従った。その結果を図4に示す。トリグリセリドを除去した皮膚では、ツロブテロールの皮膚透過性が低下することが明らかとなった。
【0055】
[比較例1]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、ツロブテロールの皮膚透過性を評価した。試験は、皮膚透過性試験(1)に記載の方法に従った。累積透過量の変化を図5に、皮膚透過速度を図6に示す。
【0056】
[実施例1]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、ツロブテロールの皮膚透過性を評価した。試験は、皮膚透過性試験(1)に記載の方法に従った。皮膚処理用製剤としてオレイン酸トリグリセリド(製品番号:T7140(シグマ社製))をヘアレスラットの摘出皮膚に塗布(摘出皮膚サンプル4.52cmに対し10mg)し、約10分経過後にツロブテロール含有貼付剤を適用した。累積透過量の変化を図5に、皮膚透過速度を図6に示す。
【0057】
ツロブテロール含有貼付剤を適用する前に、オレイン酸トリグリセリドを塗布することで、ツロブテロールの透過性は、塗布しないもの(比較例1)に比して2倍以上に向上した(実施例1)。
【0058】
[比較例2]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、リドカインの皮膚透過性を評価した。試験は、皮膚透過性試験(2)に記載の方法に従った。累積透過量の変化を表2に示す。
【0059】
[比較例3]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、硝酸イソソルビドの皮膚透過性を評価した。薬物に硝酸イソソルビドを用いる以外は、比較例2と同様の方法にて行った。累積透過量の変化を表2に示す。
【0060】
[比較例4]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、ケトプロフェンの皮膚透過性を評価した。薬物にケトプロフェンを用いる以外は、比較例2と同様の方法にて行った。累積透過量の変化を表2に示す。
【0061】
[比較例5]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、ジクロフェナクナトリウムの皮膚透過性を評価した。薬物にジクロフェナクナトリウムを用いる以外は、比較例2と同様の方法にて行った。累積透過量の変化を表2に示す。
【0062】
[実施例2]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、リドカインの皮膚透過性を評価した。試験は、皮膚透過性試験(2)に記載の方法に従った。皮膚処理用製剤としてオレイン酸トリグリセリド(製品番号:T7140(シグマ社製))をヘアレスラットの摘出皮膚に塗布(摘出皮膚サンプル4.52cmに対し10mg)し、約10分経過後にリドカイン含有貼付剤を適用した。累積透過量の変化を表2に示す。
【0063】
[実施例3]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、硝酸イソソルビドの皮膚透過性を評価した。薬物に硝酸イソソルビドを用いる以外は、実施例2と同様の方法にて行った。累積透過量の変化を表2に示す。
【0064】
[実施例4]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、ケトプロフェンの皮膚透過性を評価した。薬物にケトプロフェンを用いる以外は、実施例2と同様の方法にて行った。累積透過量の変化を表2に示す。
【0065】
[実施例5]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、ジクロフェナクナトリウムの皮膚透過性を評価した。薬物にジクロフェナクナトリウムを用いる以外は、実施例2と同様の方法にて行った。累積透過量の変化を表2に示す。
【0066】
【表2】


【0067】
いずれの薬物含有貼付剤も、適用前にオレイン酸トリグリセリドを液剤として塗布することで、塗布しないもの(比較例2〜5)に比して、薬物透過性が向上した(実施例2〜5)。
【0068】
[実施例6]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、ツロブテロール(結晶型)の皮膚透過性を評価した。試験は、サンプリング時間を4、8及び12時間とする以外は、皮膚透過性試験(1)に記載の方法に従った。皮膚処理用製剤としてパルミトレイン酸トリグリセリド(製品番号:T2630,シグマ社製)をヘアレスラットの摘出皮膚に塗布(摘出皮膚サンプル4.52cmに対し10mg)し、約10分経過後にツロブテロール含有貼付剤を適用した。累積透過量の変化を表3に示す。
【0069】
【表3】


【0070】
ツロブテロール含有貼付剤を適用する前に、パルミトレイン酸トリグリセリドを塗布することで、ツロブテロールの透過性は向上した(実施例6)。
【0071】
[比較例6]
ヘアレスラットの摘出皮膚を用いて、ツロブテロール(結晶型)の皮膚透過性を評価した。試験は、サンプリング時間を4、8及び12時間とする以外は、皮膚透過性試験(1)に記載の方法に従った。皮膚処理用製剤としてトリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリド(製品番号:トリエスターF810(日光ケミカル社製))をヘアレスラットの摘出皮膚に塗布(摘出皮膚サンプル4.52cmに対し10mg)し、約10分経過後にツロブテロール含有貼付剤を適用した。累積透過量の変化を表4に示す。
【0072】
【表4】


【0073】
ツロブテロール含有貼付剤を適用する前に、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリドを塗布したもの(比較例6)は、塗布しないもの(比較例1)と同等の累積透過量を示し、透過性の向上は認められなかった。
【0074】
[実施例7]
ヘアレスラットの摘出皮膚表面にオレイン酸トリグリセリド(製品番号:T7140(シグマ社製))を塗布(摘出皮膚サンプル4.52cmに対し10mg)した後、ヘアレスラット摘出皮膚の表面をテープで剥離し、顕微鏡で観察を行ったところ、トリグリセリドと思われる白い部分が観察された。
【符号の説明】
【0075】
1 スクワラン
2 コレステロールエステル
3 オレイン酸トリグリセリド
4 脂肪酸
5 コレステロール・セラミドI
6 セラミドII
7 セラミドIII
8 セラミドVI
9 コレステロール硫酸
10 リン脂質
【出願人】 【識別番号】000174622
【氏名又は名称】ニプロパッチ株式会社
【出願日】 平成21年3月3日(2009.3.3)
【代理人】 【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之

【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
【公開番号】 特開2009−235065(P2009−235065A)
【公開日】 平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願番号】 特願2009−48952(P2009−48952)