| 【発明の名称】 |
電波吸収性磁性結晶および電波吸収体 |
| 【発明者】 |
【氏名】大越 慎一
【氏名】黒木 施老
【氏名】桜井 俊介
【氏名】佐藤 王高
【氏名】佐々木 信也
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| 【要約】 |
【課題】種々のGHz帯域で電波吸収性能を安定して発揮する汎用性の高い電波吸収性の素材およびそれを用いた電波吸収体を提供する。
【構成】上記課題はε−Fe2O3からなる電波吸収材料用の磁性結晶によって達成される。また、このε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子の充填構造を有する電波吸収体が提供される。当該充填構造を有する電波吸収体は、横軸に周波数、縦軸に電波吸収量をとったグラフにおいて、少なくとも25〜110GHzの全域、あるいは特に少なくとも50〜110GHzの全域で電波吸収性能が発現する。この粒子の充填構造を維持するためには、個々の粒子が非磁性高分子化合物をバインダーとして固着された充填構造を形成させることが有利である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ε−Fe2O3からなる電波吸収材料用の磁性結晶。 【請求項2】 ε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子の粉体からなる電波吸収材料。 【請求項3】 ε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子の充填構造を有する電波吸収体。 【請求項4】 ε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子の充填構造を有し、横軸に周波数、縦軸に電波吸収量をとったグラフにおいて、少なくとも25〜110GHzの全域で電波吸収性能が発現する電波吸収体。 【請求項5】 ε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子の充填構造を有し、横軸に周波数、縦軸に電波吸収量をとったグラフにおいて、少なくとも50〜110GHzの全域で電波吸収性能が発現する電波吸収体。 【請求項6】 ε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子が非磁性高分子化合物をバインダーとして固着されることにより、当該粒子の充填構造を形成している請求項3〜5のいずれかに記載の電波吸収体。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、ε−Fe2O3系の鉄酸化物からなる電波吸収性磁性結晶およびそれを用いた電波吸収体に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、情報通信技術の高度化に伴い、GHz帯域の電波が種々の用途で使用されるようになってきた。例えば、携帯電話、無線LAN、衛星放送、ノンストップ自動料金徴収システム(ETC)など、すでに25GHz未満の周波数領域を中心に電波利用の実用化が進んでいる。このように高周波域での電波利用形態が多様化すると、電子部品同士の干渉による故障、誤動作、機能不全などが懸念され、その対策が重要となってくる。その1つとして、電波吸収体を用いて不要な電波を吸収し、電波の反射および侵入を防ぐ方法が有効である。 【0003】 特に昨今では、自動車の運転支援システムの研究が盛んになり、ミリ波を利用して車間距離等の情報を検知する車載レーダーの開発が進められている。国内では76GHz帯域の電波が利用される。高速無線LAN等の高速通信用としては60GHz帯域あるいは65GHz帯域の電波利用が研究されている。また、FWA(固定無線アクセス;Fixed Wireless Access)のサービスも開始され、これには26GHz帯域、38GHz帯域などの電波が利用されている。今後は100GHz帯域、あるいはさらに高い周波数帯域での電波利用も考えられる。これらの電波利用が盛んになるに伴い、それぞれの周波数帯域でより安定した電波吸収性能を発揮する素材の出現が望まれる。 【0004】 特許文献1にはBaFe(12-x)AlxO19、x=0.6のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを用いた電波吸収体において、53GHz付近で吸収ピークをもつものが示されている。また同文献には、BaFe(12-x)AlxO19系のマグネトプランバイト型六方晶フェライトを使用すると強磁性共鳴周波数を50〜100GHz程度にすることができると記載されている。しかし、50〜100GHzで優れた電波吸収性能を呈する電波吸収体を実現した例は示されていない。 【0005】 特許文献2には炭化ケイ素粉末をマトリクス樹脂中に分散させた電波吸収体において、76GHz付近で吸収ピークをもつものが示されている。しかし、炭化ケイ素粉末は炭化ケイ素繊維に比べると安価ではあるが、電波吸収体用の素材としては高価である。また、導電性を有するため電子機器内部(回路付近)において接して使用する時などは、絶縁処置を施す必要がある。 【0006】 一方、酸化鉄系磁性材料の研究においては、最近、20kOe(1.59×106A/m)という巨大な保磁力Hcを示すε−Fe2O3の存在が確認されている。Fe2O3の組成を有しながら結晶構造が異なる多形には最も普遍的なものとしてα−Fe2O3およびγ−Fe2O3があるが、ε−Fe2O3もその一つである。このε−Fe2O3の結晶構造と磁気的性質が明らかにされたのは、非特許文献1〜3に見られるように、ε−Fe2O3結晶をほぼ単相の状態で合成できるようになったごく最近のことである。このε−Fe2O3は巨大な保磁力Hcを示すことから、高記録密度の磁気記録媒体への適用が期待されている。 【0007】 【特許文献1】特開平11−354972号公報 【特許文献2】特開2005−57093号公報 【非特許文献1】Jian Jin,Shinichi Ohkoshi and Kazuhito Hashimoto,ADVANCED MATERIALS 2004,16,No.1、January 5,p.48-51 【非特許文献2】Jian Jin,Kazuhito Hashimoto and Shinichi Ohkoshi,JOURNAL OF MATERIALS CHIMISTRY 2005,15,p.1067-1071 【非特許文献3】Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto and Shinichi Ohkoshi,JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN,Vol.74,No.7,July,2005、p.1946-1949 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 上述のように、今後は25GHz以上の高周波、特にミリ波(30〜300GHz)の利用が増大するものと予想される。しかし、これまでに開発されている電波吸収材料は、粉末の化学組成と電波吸収体の厚さに依存して、特定の狭い周波数領域でのみ電波吸収が起きるものである。このため、目的の周波数に応じて固有の化学組成および板厚の電波吸収体を用意する必要がある。種々の周波数帯域で幅広く使用できる汎用性を有するものは開発されていない。 本発明は、種々のGHz帯域で電波吸収性能を安定して発揮する汎用性の高い電波吸収性の素材およびそれを用いた電波吸収体を提供しようというものである。 【課題を解決するための手段】 【0009】 前述のように、ε−Fe2O3は巨大な保磁力Hcを呈することが知られており、その特性を利用した磁性用途への適用が期待されている。ところが、発明者らの詳細な研究の結果、ε−Fe2O3結晶は、GHz帯域において広範囲で連続して安定した電波吸収が起きるという特異な性質を有していることが明らかになった。ε−Fe2O3結晶について電波吸収性が調べられた例はない。この未知の属性の発見に基づき、ε−Fe2O3結晶の新たな用途が展開される。 【0010】 すなわち本発明では、ε−Fe2O3からなる電波吸収材料用の磁性結晶が提供される。このε−Fe2O3磁性結晶は、例えば後述の、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせた工程および焼成工程によって合成することができる。その際、原料の選択によっては、ε−Fe2O3結晶のFeサイトの一部が3価のM元素(例えばAl、Ga、Inなど)で置換された結晶が生成する場合もある。この場合、厳密には結晶の組成をε−MxFe2-xO3と表記すべきかも知れない。しかし、このようなFeの一部がMで置換されたε−MxFe2-xO3結晶であっても、本発明の効果を阻害しないものは、本発明の対象として扱うことができる。具体的には、ε−Fe2O3結晶のFeサイトの一部が3価のM元素で置換されたε−MxFe2-xO3結晶であって、ε−Fe2O3結晶と空間群が同じである結晶については、例えばMがAlあるいはGaの場合は上記xが0.2未満であるものを本発明の対象として扱うことができる。またMがInである場合は上記xが0.01未満であるものを本発明の対象として扱うことができる。したがって、本発明でいうε−Fe2O3には、このようなFeの一部がMで置換されたε−MxFe2-xO3結晶も含まれる。 【0011】 上記のような工程で合成される当該磁性結晶を磁性相にもつ粒子は、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測される平均粒子径が5〜200nm程度の範囲にある。本発明では、このような磁性粒子(すなわち上記のε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子)の粉体からなる電波吸収材料が提供される。ここでいう「磁性相」は当該粉体の磁性を担う部分である。「ε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ」とは、磁性相がε−Fe2O3結晶からなることを意味し、その磁性相に製造上不可避的な不純物磁性結晶が混在する場合を含む。 【0012】 本発明の電波吸収材料(すなわち上記のε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子の粉体)には、磁性相を構成する結晶、または非磁性結晶として、ε−Fe2O3結晶と空間群を異にする鉄酸化物の不純物結晶(具体的にはα−Fe2O3、γ−Fe2O3、FeO、Fe3O4およびこれらのFeの一部が他の元素で置換された結晶)が混在することがある。しかし、本発明の電波吸収材料は、上記「ε−Fe2O3磁性結晶」を主相とするものである。すなわち、当該電波吸収材料を構成する鉄酸化物結晶の中で「ε−Fe2O3磁性結晶」の割合が、化合物としてのモル比で50モル%以上であるものが対象となる。結晶の存在比は、X線回折パターンに基づくリードベルト法による解析で求めることができる。磁性相の周囲にはゾル−ゲル過程で形成されたシリカ(SiO2)等の非磁性化合物が付着していることがある。 【0013】 また本発明では、上記ε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子の充填構造を有する電波吸収体が提供される。特に、横軸に周波数、縦軸に電波吸収量をとったグラフにおいて、少なくとも25〜110GHzの全域、あるいは少なくとも50〜110GHzの全域で電波吸収性能が発現する(すなわち安定した電波吸収が起きる)電波吸収体が提供される。この電波吸収体では、現時点で電波吸収特性の測定法が確立されていない110GHzを超える高周波領域においても、連続して電波吸収性能が発現すると考えられる。この粒子の充填構造を維持するためには、個々の粒子が非磁性高分子化合物をバインダーとして固着された充填構造を形成させることが有利である。 【発明の効果】 【0014】 本発明の磁性結晶によれば、上述の種々の用途で利用される25〜110GHz帯域において、安定して連続的に電波吸収性能を発揮する電波吸収体が構築できる。この磁性結晶を使用すれば後述の実施例に示されるように、電波吸収体の厚さを増大することにより電波吸収量を向上させることができる。従来の電波吸収体のように、厚さに依存して電波吸収が起きる周波数が鋭敏に変化することがなく、厚さを変えても広い周波数領域で安定して電波吸収が起きるという特異な電波吸収挙動が維持される。また、現時点で電波吸収特性の測定法が確立されていない110GHzを超える高周波領域においても電波吸収性能が発揮されるものと期待される。したがって本発明は、GHz帯域で極めて汎用性の高い電波吸収体を提供することにより、今後の電波利用の進展に資するものである。 【発明を実施するための最良の形態】 【0015】 非特許文献1〜3に記載されるように、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせた工程と、熱処理(焼成)工程により、ε−Fe2O3ナノ微粒子を得ることができる。逆ミセル法は、界面活性剤を含んだ2種類のミセル溶液、すなわちミセル溶液I(原料ミセル)とミセル溶液II(中和剤ミセル)を混合することによって、ミセル内で水酸化鉄の沈殿反応を進行させることを要旨とする。ゾル−ゲル法は、ミセル内で生成した水酸化鉄微粒子の表面にシリカコートを施すことを要旨とする。シリカコートをもつ水酸化鉄微粒子は、液から分離されたあと、所定の温度(700〜1300℃の範囲内)で大気雰囲気下での熱処理に供される。この熱処理によりε−Fe2O3結晶の微粒子が得られる。 【0016】 より具体的には、例えば以下のようにする。 n−オクタンを油相とするミセル溶液Iの水相には、鉄源としての硝酸鉄(III)、および界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)を溶かし、同じくn−オクタンを油相とするミセル溶液IIの水相にはアンモニア水溶液を用いる。その際、ミセル溶液Iの水相に適量のアルカリ土類金属(Ba、Sr、Caなど)の硝酸塩を溶解させておくことができる。この硝酸塩は形状制御剤として機能する。すなわち、アルカリ土類金属が液中に存在すると最終的にロッド形状のε−Fe2O3結晶を得ることができる。形状制御剤がない場合は、粒状のε−Fe2O3結晶を得ることができる。 【0017】 両ミセル溶液IとIIを合体させたあと、ゾル−ゲル法を併用する。すなわち、シラン(例えばテトラエチルオルトシラン)を合体液に滴下しながら攪拌を続け、ミセル内で水酸化鉄の生成反応を進行させる。これにより、ミセル内で生成する微細な水酸化鉄沈殿の粒子表面にはシランの加水分解によって生成したシリカがコーティングされる。次いで、シリカコーティングされた水酸化鉄粒子を液から分離・洗浄・乾燥して得た粒子粉体を炉内に装入し、空気中で700〜1300℃、好ましくは900〜1200℃、さらに好ましくは950〜1150℃の温度範囲で熱処理(焼成)する。この熱処理によりシリカコーティング内で酸化反応が進行して、微細な水酸化鉄粒子は微細なε−Fe2O3粒子に変化する。この酸化反応の際に、シリカコートの存在がα−Fe2O3やγ−Fe2O3の結晶ではなく、ε−Fe2O3結晶の生成に寄与すると共に、粒子同士の焼結を防止する作用を果たす。また、適量のアルカリ土類金属が共存していると、ロッド状のε−Fe2O3粒子に成長しやすくなる。 【0018】 Fe2O3の組成を有しながら結晶構造が異なる多形には最も普遍的なものとしてα−Fe2O3およびγ−Fe2O3があり、その他の鉄酸化物としてはFeOやFe3O4がある。上記のようなε−Fe2O3の合成において、ε−Fe2O3結晶と空間群を異にする上記のような鉄酸化物結晶(不純物結晶)が混在する場合がある。このような不純物結晶の混在は、ε−Fe2O3結晶の特性をできるだけ多く引き出す上で好ましいとは言えないが、本発明の効果を阻害しない範囲で許容される。 【0019】 本発明で提供される電波吸収材料の典型的な形態は、上記のような工程で得られた「磁性粉体」である。この粉体は前述のε−Fe2O3磁性結晶を磁性相にもつ粒子で構成される。その粒子の粒子径は、例えば上記工程において熱処理(焼成)温度を調整することによりコントロール可能である。電波吸収材料としての用途では、磁性粉体の粒子径が大きいほど吸収性能の向上が期待できるが、あまり大きなε−Fe2O3粒子を合成することは現時点において困難である。発明者らの検討によれば、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせた手法において、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測される平均粒子径で5〜200nmの範囲の粒子を合成することが可能である。このような微粒子であっても、広い周波数領域で連続して安定的に電波吸収が起きるという特異な性質を有する汎用的な電波吸収体を構築することができる。個々の粒子の粒子径が10nm以上である粉体がより好ましく、30nm以上であることが一層好ましい。分級操作により、粒子径の大きいε−Fe2O3粒子だけを抽出する技術も研究されている。 【0020】 TEM写真からの粒子径の計測は、60万倍に拡大したTEM写真画像から各粒子の最も大きな径(ロッド状のものでは長軸径)を測定することにより求めることができる。独立した粒子300個について求めた粒子径の平均値を、その粉末の平均粒子径とする。これを「TEM平均粒子径」と呼ぶ。TEM平均粒子径が30nm以上である粉体が電波吸収材料として好ましく、50nm以上のものが一層好ましい。 【0021】 本発明の電波吸収材料は、磁性相がε−Fe2O3結晶の単相からなるものであることが理想的であるが、上述のように、粉体中にはこれと異なる結晶構造の不純物結晶(α−Fe2O3等)が混在することがあり、その混在は本発明の効果を阻害しない範囲で許容される。粉体にはこれ以外にも製造上混入が避けられない不純物や、必要に応じて添加される元素が含まれることがある。また、粉体を構成する粒子には非磁性化合物等が付着していることがある。これらの化合物の混在も、本発明の効果を阻害しない範囲で許容される。 【0022】 例えば、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせた工程を実施する際に、ミセル内に適量のアルカリ土類金属イオンを共存させておくと最終的にロッド形状の結晶が得られやすくなる(前述)。形状制御剤として添加したアルカリ土類金属(Ba、Sr、Caなど)は、生成する結晶の表層部に残存することがあり、したがって、本発明に従う電波吸収材料は、このようなアルカリ土類金属元素(以下、アルカリ土類金属元素をAと表記)の少なくとも1種を含有することがある。その含有量は、多くてもA/(M+Al)×100で表される配合比が20質量%以下の範囲であり、20質量%を超えるアルカリ土類金属の含有は、形状制御剤としての機能を果たす上では一般に不必要である。10質量%以下であることがより好ましい。 【0023】 さらに、ゾル−ゲル法で水酸化鉄微粒子の表面にコーティングされたシリカコートが、熱処理(焼成)後の粉末粒子の表面に存在することがある。粉末粒子の表面にシリカのような非磁性化合物が存在していると、この磁性粉体の取り扱い上や、各種用途の磁性材料として使用する場合に、耐久性、耐候性、信頼性等を改善できるメリットが生じる場合がある。このような機能を有する非磁性化合物としてはシリカのほか、アルミナやジルコニア等の耐熱性化合物が挙げられる。ただし、非磁性化合物の付着量があまり多いと、粒子同士が激しく凝集してしまうなどの弊害が大きくなり好ましくない。種々検討の結果、非磁性化合物の存在量は、例えばシリカSiO2の場合だと、Si/(M+Al)×100で表される配合比が100質量%以下であることが望まれる。 【0024】 なお、本明細書ではε−Fe2O3結晶の合成法について、その前駆体となる水酸化鉄の微粒子を逆ミセル法で作製する例を挙げたが、ε−Fe2O3結晶への酸化が可能なサイズ(数百nm以下と考えられる)の同様の前駆体が作製できれば、その前駆体作製は特に逆ミセル法に限られるものではない。また、該前駆体微粒子をゾル−ゲル法を適用してシリカコーティングした例を挙げたが、該前駆体に耐熱性皮膜をコーティングできれば、その皮膜作製法はここに例示した手法に限られるものではない。例えばアルミナやジルコニア等の耐熱性皮膜を該前駆体微粒子表面に形成させる場合にも、これを所定の熱処理温度に加熱すればε−Fe2O3結晶を磁性相にもつ粒子の粉体を得ることは可能である。 【0025】 本発明の電波吸収材料(磁性粉体)は、その粉体粒子の充填構造を形成させることによって、電波吸収体として機能する。ここでいう充填構造は、粒子同士が接しているかまたは近接している状態で、各粒子が立体構造を構成しているものを意味し、最密充填を意味する用語ではない。電波吸収体の実用に供するためには充填構造を維持させる必要がある。その手法として、非磁性高分子化合物をバインダーとして、個々の粒子を固着させることによって充填構造を形成させることが一般的である。 【0026】 具体的には、本発明の電波吸収材料の粉体を非磁性の高分子基材とともに混練して混練物を得る。混練物中における電波吸収材料粉体の配合量は60質量%以上とすることが好ましい。電波吸収材料粉体の配合量が多いほど電波吸収特性を向上させる上で有利となるが、あまり多いと高分子基材との混練が難しくなるので注意を要する。例えば電波吸収材料粉体の混合割合は80〜95質量%あるいは85〜95質量%とすることができる。 【0027】 高分子基材としては、使用環境に応じて、耐熱性、難燃性、耐久性、機械的強度、電気的特性を満足する各種のものが使用できる。例えば、樹脂(ナイロン等)、ゲル(シリコーンゲル等)、熱可塑性エラストマー、ゴムなどから適切なものを選択すれば良い。また2種以上の高分子化合物をブレンドして基材としてもよい。 【0028】 高分子基材との相溶性や分散性を改善するために、電波吸収材料粉体には予め表面処理剤(シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等)による表面処理を施すことができる。また、電波吸収材料粉体と高分子基材との混合に際し、可塑剤、補強剤、耐熱向上剤、熱伝導性充填剤、粘着剤などの各種添加剤を添加することができる。 【0029】 上記混練物を圧延により所定のシート厚に成形することで前記充填構造が維持された電波吸収体が得られる。また、圧延の替わりに混練物を射出成形することにより所望の電波吸収体形状に成形することもできる。また、本発明の電波吸収材料の粉体を塗料中に混合し、これを基体の表面に塗布することによっても、充填構造が維持された電波吸収体が構築される。 【実施例】 【0030】 《実施例1》 以下の手順により、ε−Fe2O3結晶を合成した。 【0031】 〔手順1〕 ミセル溶液Iとミセル溶液IIの2種類のミセル溶液を調整する。 ・ミセル溶液Iの作製 テフロン(登録商標)製のフラスコに、純水6mL、n−オクタン18.3mLおよび1−ブタノール3.7mLを入れる。そこに、硝酸鉄(III)9水和物を0.0030モル、および形状制御剤として硝酸バリウム0.00015モルを添加し、室温で良く撹拌しながら溶解させる。さらに、界面活性剤としての臭化セチルトリメチルアンモニウムを、純水/界面活性剤のモル比が30となるような量で添加し、撹拌により溶解させ、ミセル溶液Iを得る。 【0032】 ・ミセル溶液IIの作製 25%アンモニア水2mLを純水4mLに混ぜて撹拌し、その液に、さらにn−オクタン18.3mLと1−ブタノール3.7mLを加えてよく撹拌する。その溶液に、界面活性剤として臭化セチルトリメチルアンモニウムを、(純水+アンモニア中の水分)/界面活性剤のモル比が30となるような量で添加し、溶解させ、ミセル溶液IIを得る。 【0033】 〔手順2〕 ミセル溶液Iをよく撹拌しながら、ミセルI溶液に対してミセル溶液IIを滴下する。滴下終了後、混合液を30分間撹拌しつづける。 【0034】 〔手順3〕 手順2で得られた混合液を撹拌しながら、当該混合液にテトラエトキシシラン(TEOS)1.34mLを加える。約1日そのまま、撹拌し続ける。 【0035】 〔手順4〕 手順3で得られた溶液を遠心分離機にセットして遠心分離処理する。この処理で得られた沈殿物を回収する。回収された沈殿物をクロロホルムとメタノールの混合溶液を用いて複数回洗浄する。 【0036】 〔手順5〕 手順4で得られた沈殿物を乾燥した後、大気雰囲気の炉内で950℃で4時間の熱処理を施す。 【0037】 〔手順6〕 手順5で得られた熱処理粉を2モル/LのNaOH水溶液中で24時間撹拌し、粒子表面に存在するであろうシリカの除去処理を行う。次いで、ろ過・水洗し、乾燥する。 【0038】 以上の手順1から6を経ることによって、目的とする試料(電波吸収材料の粉体)を得た。この粉体のTEM写真を図4に示す。TEM平均粒子径は34.8nm、標準偏差は28.9nmであった。(標準偏差/TEM平均粒径)×100で定義される変動係数は83.1%であった。 【0039】 得られた試料を粉末X線回折(XRD:リガク製RINT2000、線源CuKα線、電圧40kV、電流30mA)に供したところ、図3に示す回折パターンが得られた。この回折パターンにおいて、ε−Fe2O3の結晶構造(斜方晶、空間群Pna21)に対応するピーク以外は観察されなかった。 【0040】 また、得られた試料について、常温(300K)における磁気ヒステリシスループを測定した。磁気ヒステリシスループを図5に示す。磁気ヒステリシスループの測定は、カンタムデザイン社製のMPMS7の超伝導量子干渉計(SQUID)を用いて、印加磁界50kOe(3.98×106A/m)の条件で行った。測定された磁気モーメントの値は酸化鉄の質量で規格化してある。その際、試料中のSi、Feの各元素は全てSiO2、Fe2O3で存在しているものと仮定し、各元素の含有割合については上記の蛍光X線分析で求めた。印加磁界50kOe(3.98×106A/m)の測定条件での保磁力Hcは19.7kOe(1.57×106A/m)、飽和磁化12.0emu/g(A・m2/kg)であった。 【0041】 次に、得られた試料を用い、厚さ10mmの電波吸収体を模して、粒子の充填構造を形成し、自由空間法により、その電波吸収特性を測定した。自由空間法とは、自由空間に置かれた測定試料に平面波を照射し、そのときのSパラメータを測定することにより電波吸収特性を求める方法である。粉末を直径46.8mm×厚さ10mmの円柱状に装填できる石英製の試料ケースを用意し、この試料ケースに上記の試料粉末16.3gを装填することにより直径46.8mm×厚さ10mmの円柱状の充填構造を形成した。この充填構造からなる構造体をここでは「電波吸収体試料」と呼ぶ。電波吸収体試料を送信アンテナと受信アンテナの中央に置いて、電磁波を試料に垂直に照射し、反射波および透過波(すなわち反射係数S11および透過係数S21)を測定した。そして、エネルギー吸収量を、1−|S11|2−|S21|2により算出し、これを電波吸収量(dB)として表示した。測定は、25〜110GHz帯域(Kaバンド、Vバンド、Wバンドで行った)。結果を図1に示す。 【0042】 図1からわかるように、この電波吸収体試料では、25〜110GHz帯域で安定した電波吸収が起きることが確認された。なお、各バンドの測定境界ではアンテナ切り替えにより曲線が分断されている。 【0043】 さらに、上で得られた粉体を用い、厚さ4mmの電波吸収体を模した粒子の充填構造、および厚さ2mmの電波吸収体を模した粒子の充填構造を形成し、それぞれの電波吸収体試料について上記と同様の方法で電波吸収特性を調べた。厚さ4mmの電波吸収体試料は、粉体を48mm×49mm×4mmの板状に装填できる石英製の試料ケースを用い、この試料ケースに上記の試料粉末8.2gを装填することにより48mm×49mm×4mmの板状の充填構造を形成したものである。厚さ2mmの電波吸収体試料は、粉体を96mm×98mm×2mmの板状に装填できる石英製の試料ケースを用い、この試料ケースに上記の試料粉末14.0gを装填することにより96mm×98mm×2mmの板状の充填構造を形成したものである。測定結果を、上述の10mmのデータと併せて図2に示す。 【0044】 図2からわかるように、これらの電波吸収体試料では、厚さが増大すると電波吸収量が向上し、厚さを変えても広い周波数帯域で安定した電波吸収が起きるという特異な電波吸収挙動が維持された。 【0045】 《比較例1、2》 比較のため、α−Fe2O3(比較例1)およびγ−Fe2O3(比較例2)の試料を用いて厚さ10mmの充填構造(直径26.8mm×厚さ10mmの円柱状)を形成し、これらについて上記と同様の手法で50〜110GHzにおける電波吸収特性を調べた。α−Fe2O3試料は(株)関東化学製、鹿特級のα−Fe2O3試薬を使用し、γ−Fe2O3試料は(株)添川理化学製、純度99%のγ−Fe2O3試薬を使用した。測定結果を図1中に示す。 【0046】 図1からわかるように、α−Fe2O3およびγ−Fe2O3では安定した電波吸収が起こらない。つまり、これらは電波吸収性能が発現するものではない。したがって、図1および図2に見られるε−Fe2O3の電波吸収特性は、ε−Fe2O3の結晶構造に起因したものであると考えられる。 【図面の簡単な説明】 【0047】 【図1】実施例1および比較例1、2の粉体について、厚さ10mmの充填構造における周波数と電波吸収量の関係を示したグラフ。 【図2】実施例1の粉体について、厚さ2mm、4mm、10mmの各充填構造における周波数と電波吸収量の関係を示したグラフ。 【図3】実施例1で得られた粉体についてのX線回折パターン。 【図4】実施例1で得られた粉体のTEM写真。 【図5】実施例1で得られた粉体の磁気ヒステリシスループ。
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| 【出願人】 |
【識別番号】504137912 【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学 【識別番号】000224798 【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
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| 【出願日】 |
平成18年9月1日(2006.9.1) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100129470 【弁理士】 【氏名又は名称】小松 高
【識別番号】100076130 【弁理士】 【氏名又は名称】和田 憲治
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| 【公開番号】 |
特開2008−60484(P2008−60484A) |
| 【公開日】 |
平成20年3月13日(2008.3.13) |
| 【出願番号】 |
特願2006−238365(P2006−238365) |
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