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【発明の名称】 プラズマ電子状態測定装置および方法
【発明者】 【氏名】佐々木 浩一

【氏名】池田 裕二

【要約】 【課題】簡単な装置構成で高精度にプラズマ電子密度および温度を測定し得る方法ならびに装置を提供すること。

【構成】チャンバーの内部に第1ガスと第2ガスとのプラズマを発生させておき、前記第1ガスのプラズマにレーザ光を照射して、2つの準安定状態の吸収によるレーザ光の透過率を検出し、当該透過率に基づいて2つの準安定状態にある第1ガスの密度を決定し、それぞれの密度と各準安定状態の生成・消滅過程を記述したレート方程式とに基づいて電子密度と電子温度とを取得する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に第1ガスと第2ガスとのプラズマを含むチャンバーと、
前記第1ガスのプラズマ中に存在する2つの準安定状態における吸収波長に対応した中心波長のレーザ光を前記プラズマに照射するレーザ光照射手段と、
前記プラズマを透過した前記レーザ光を検出する透過レーザ光検出手段と、
前記照射したレーザ光と透過したレーザ光との強度に基づいて前記2つの準安定状態にある第1ガスの密度を決定する密度決定手段と、
前記準安定状態の定常状態を記述する以下の式:
【数1】


ここで、ng1は準安定状態の第1ガスの密度、ng1は基底状態の第1ガスの密度、nは電子密度、ng2は第2ガスの密度、kexは基底状態の第1ガスと電子との衝突によって準安定状態が生成する反応の速度係数、kdexは準安定状態の第1ガスと電子との衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応の速度係数、kg2dexは準安定状態の第1ガスと第2ガスとの衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応の速度係数である;
にて前記2つの準安定状態を記述してそれぞれの式に前記準安定状態にある第1ガスの密度を代入し、前記電子密度と前記kexに対応する前記電子温度とを取得する電子状態取得手段と、
を備えるプラズマ電子状態測定装置。
【請求項2】
前記第1ガスはアルゴンである、
請求項1に記載のプラズマ電子状態測定装置。
【請求項3】
前記レーザ光照射手段は、半導体レーザ素子を備え、
前記2つの準安定状態におけるそれぞれの吸収波長は、前記半導体レーザ素子にて出力可能な波長の範囲内に含まれる、
請求項1または請求項2のいずれかに記載のプラズマ電子状態測定装置。
【請求項4】
前記電子温度は、以下の式:
【数2】


ここで、vは電子速度、σex(v)は前記基底状態の第1ガスと電子との衝突によって準安定状態が生成する反応の断面積、f(v)は電子速度分布関数である;
における電子速度分布関数と電子温度との対応関係に基づいて取得する、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のプラズマ電子状態測定装置。
【請求項5】
前記電子状態取得手段は、前記密度決定手段にて得られた前記2つの準安定状態における第1ガスの密度のそれぞれを前記準安定状態の定常状態を記述する式に代入し、それぞれの式を満たす複数の前記電子密度と電子温度との組み合わせを取得し、両方の式を同時に満たす略同じ値の電子密度と電子温度との組み合わせを取得する、
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のプラズマ電子状態測定装置。
【請求項6】
前記電子状態取得手段は、前記電子密度の誤差が2倍以内の範囲にあり、前記電子温度の誤差が±0.2eV以内の範囲にある場合に略同じ値とする、
請求項5に記載のプラズマ電子状態測定装置。
【請求項7】
前記電子温度は、以下の式:
【数3】


ここで、Teは電子温度、f=kdex・n、f=kg2dex・ng2である;
を満たす範囲である、
請求項1〜請求項6のいずれかに記載のプラズマ電子状態測定装置。
【請求項8】
プラズマ電子密度と電子温度とを測定する方法であって、
チャンバーの内部に第1ガスと第2ガスとのプラズマを発生させるプラズマ発生工程と、
前記第1ガスのプラズマ中に存在する2つの準安定状態における吸収波長に対応した中心波長のレーザ光を前記プラズマに照射するレーザ光照射工程と、
前記プラズマを透過した前記レーザ光を検出する透過レーザ光検出工程と、
前記照射したレーザ光と透過したレーザ光との強度に基づいて前記2つの準安定状態にある第1ガスの密度を決定する密度決定工程と、
前記準安定状態の定常状態を記述する以下の式:
【数4】


ここで、ng1は準安定状態の第1ガスの密度、ng1は基底状態の第1ガスの密度、nは電子密度、ng2は第2ガスの密度、kexは基底状態の第1ガスと電子との衝突によって準安定状態が生成する反応の速度係数、kdexは準安定状態の第1ガスと電子との衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応の速度係数、kg2dexは準安定状態の第1ガスと第2ガスとの衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応の速度係数である;
にて前記2つの準安定状態を記述してそれぞれの式に前記準安定状態にある第1ガスの密度を代入し、前記電子密度と前記kexに対応する前記電子温度とを取得する電子状態取得工程と、
を含むプラズマ電子状態測定方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマの電子密度および電子温度を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマの工業的利用(プラズマプロセシング)を促進するうえで、プラズマの基礎量(物理的性質)を把握すること、即ちプラズマ計測(プラズマ診断)は重要である。例えばプラズマ電子温度や電子密度の空間分布や時間的変化を測定することによって、目的に応じて効率のよいプラズマプロセシングを実現することができる。このため、従来、種々のプラズマ電子物性測定方法が利用されている。典型的なものとしてラングミュア・プローブ法、トムソン散乱法、発光分光法が挙げられる。また、特許文献1には、ライン・リバーサル法に基づくプラズマ電子温度の測定方法および測定装置が記載されている。
【特許文献1】特公平4−81132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ラングミュア・プローブ法では、プラズマ中に金属探針(プローブ)を挿入する必要があり、プラズマが金属汚染する問題が生じるのでプラズマプロセシングにおけるプラズマ計測には不向きである。また、トムソン散乱法や前記特許文献に記載されるライン・リバーサル法に基づく方法では、複雑な構成の計測機器を必要とし、技術的にも難易度が高く、プラズマプロセシングにおいて簡易な装置構成でのプラズマ計測に適用し難い。また、発光分光法に基づく方法では、算出されるプラズマ電子状態の信頼性に欠け、正しい電子状態が得られることのほうが稀である。さらに、以上の従来技術においては、簡単な装置によって電子密度と電子温度とを同時に、正確に測定することができなかった。
そこで本発明は、従来のプラズマ計測技術、特にプラズマ電子状態の測定に関する従来の問題点に鑑みて創出されたものであり、簡単な装置構成で高精度にプラズマ電子密度と電子温度とを測定し得る装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決すべくここで開示されるプラズマ電子状態測定装置は、第1ガスと第2ガスとのプラズマを含むチャンバーに対してレーザ光を照射し、レーザ吸収分光に基づいて2つの準安定状態にある第1ガスの密度を決定する。そして、準安定状態の定常状態を記述する以下の式:
【数1】


ここで、ng1は準安定状態の第1ガスの密度、ng1は基底状態の第1ガスの密度、nは電子密度、ng2は第2ガスの密度、kexは基底状態の第1ガスと電子との衝突によって準安定状態が生成する反応の速度係数、kdexは準安定状態の第1ガスと電子との衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応の速度係数、kg2dex準安定状態の第1ガスと第2ガスとの衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応の速度係数である;
にて前記2つの準安定状態を記述する。
【0005】
当該2つの準安定状態にある第1ガスの密度は密度決定手段によって決定されているため、前記2つの準安定状態を記述した2つの式の左辺は決定されている。そこで、前記電子密度と前記電子温度とを未知の値とした連立方程式によって当該電子密度と電子温度とを取得することができる。
【0006】
すなわち、前記ng1は前記チャンバー内に導入された第1ガスの圧力、前記ng2は前記チャンバー内に導入された第2ガスの圧力、kdexは準安定状態の第1ガスと電子との衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応についての測定値あるいは文献値、kg2dexは準安定状態の第1ガスと第2ガスとの衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応についての測定値あるいは文献値によって予め決定することができるので、上述のように密度決定手段にて前記2つの準安定状態にある第1ガスの密度を決定すれば、前記2つの式において、チャンバー内の電子密度と電子温度とが未知であり、これらの値を決定することができる。なお、前記kexは電子温度の関数であるので、前記2つの式にて電子密度とkexに対応する電子温度とを容易に決定することが可能である。
【0007】
以上の構成によれば、チャンバー内にレーザ光を照射することで電子状態を測定することが可能であり、チャンバー内のプラズマを汚染することがない。従って、正確にプラズマ電子状態を測定することができる。また、プラズマ電子状態の測定に必要な機器としては、プラズマを含むチャンバーに対してレーザ光を照射し、透過したレーザ光を取得すればよいので、極めて単純な機器によってプラズマ電子状態を反映した物理量を測定することができる。従って、簡易な構成によって正確にプラズマ電子状態を測定することができる。なお、上述の式においては、第1ガスがチャンバーの壁面によって消滅する過程を省略しているが、むろん、その影響を拡散時定数τにて表現し、式の右辺の分母に1/τを加えた状態であっても本発明を利用していると言える。
【0008】
なお、前記チャンバーは、第1ガスと第2ガスのプラズマを含めばよく、むろん、これに付随して基底状態の第1ガスや第2ガスが存在し得るし、プラズマプロセシングによる処理対象の物質がチャンバー内に存在していても良い。プラズマプロセシングによる処理対象の物質が含まれるチャンバーに本発明を適用すれば、プラズマプロセシングに利用しているプラズマの電子状態を測定することができ、第1ガスあるいは第2ガスの状態を推定することが可能である。
【0009】
また、第1ガス(分子または原子)は、プラズマ状態において少なくとも2つの準安定状態が存在し、レーザ光によってこれらの準安定状態に関するレーザ吸収分光を行うことができればよく、例えば、アルゴン等の希ガスを第1ガスとすることができる。また、第2ガス(分子または原子)は準安定状態の第1ガスと衝突することによって第1ガスの準安定状態を消滅させるようなガスであればよく、種々のガスを採用可能である。さらに、第2ガスをプラズマプロセシングにおけるプロセスガスとしても良く、例えば、H,N,O,Cl,HBr,SF,CF,CHF,CH等を第2ガスとすることができる。
【0010】
レーザ光照射手段においては、少なくとも2つの準安定状態における吸収波長に対応した中心波長のレーザ光を出力することができればよく、その態様は特に限定されないが、その構成例としては、半導体レーザ素子を利用する構成を採用可能である。すなわち、半導体レーザ素子においては出力するレーザ光の中心波長をチューニングすることが可能であり、このチューニングの範囲内に吸収波長が含まれる2つの準安定状態を選択すれば、一つの半導体レーザ素子によってプラズマ電子状態を測定可能な装置を提供することができる。
【0011】
透過レーザ光検出手段においては、プラズマを透過したレーザ光を検出することができればよく、例えば、レーザ光の検出器と前記レーザ光照射手段とを対面させ、その間にプラズマが配置される構成とすればよい。なお、レーザ光照射手段と透過レーザ光検出手段とにおいては、両者によってレーザ吸収分光を行うことができればよく、チャンバー内外のいずれに形成されていても良いし、レーザ吸収分光を実施可能な限りにおいてその態様は特に限定されない。光路としても直線に限定されず、鏡や光ファイバ等によって透過レーザ光を検出器に導く構成等を採用可能である。
【0012】
密度決定手段においては、前記レーザ吸収分光によって準安定状態にある第1ガスの密度を決定することができればよく、レーザ光の透過率を2つの準安定状態について取得することによって2つの準安定状態にある第1ガスのそれぞれについて密度を取得すればよい。
【0013】
電子状態取得手段においては、前記電子密度と電子温度とを取得することができればよく、前記電子温度は前記kexと電子温度との対応関係に基づいて取得すればよい。この構成例としては、以下の式:
【数2】


ここで、vは電子速度、σex(v)は前記基底状態の第1ガスと電子との衝突によって準安定状態が生成する反応の断面積、f(v)は電子速度分布関数である;
を利用可能である。
【0014】
すなわち、ある電子温度の電子速度分布関数(例えば、マクスウェル分布)を想定すれば、その電子温度におけるkexを算出することができる。従って、前記準安定状態の定常状態を記述する式の連立方程式によって得られたkexに対応する電子温度を取得することができる。
【0015】
さらに、前記電子状態取得手段にて連立方程式を解くための手法は種々の手法を採用可能である。例えば、解析的に解いても良いし、前記式に複数の電子密度および電子温度の数値を代入し、測定した第1ガスの密度に合致する電子密度および電子温度を取得しても良い。例えば、前記準安定状態の定常状態を記述する式の左辺に前記準安定状態における第1ガスの密度を代入し、電子密度あるいは電子温度の一方について何らかの値を仮定すれば他方の値を特定可能である。
【0016】
そこで、準安定状態にある第1ガスの密度の測定値を与える電子密度と電子温度との組み合わせを複数個取得する処理を前記2つの準安定状態のそれぞれについて実施すれば、各式を満たす電子密度と電子温度との組み合わせを複数個取得することができる。従って、これらの組み合わせの中から電子密度と電子温度とが同じ値となっている組み合わせを抽出すれば、前記第1ガスの密度を満たす電子密度および電子温度、すなわち、チャンバー内の電子密度および電子温度を特定することができる。むろん、以上の処理を実現するための具体的構成は、種々の構成を採用可能であり、準安定状態にある第1ガスの密度に対応する複数の電子密度と電子温度との組み合わせを予めテーブルデータ等として保持しておき、当該テーブルデータを参照することによって電子密度と電子温度とを取得する構成等を採用可能である。
【0017】
なお、上述のように別の式に対応する電子密度と電子温度との組み合わせを比較して、厳密に一致する電子密度と電子温度とが得られないときに、所定の誤差範囲であれば同一であると見なす構成を採用可能である。その際の好ましい例としては、2つの電子密度の値の誤差が2倍以内にあり、2つの電子温度の誤差が±0.2eV以内にある場合に各値を同じ値と見なす構成を採用可能である。
【0018】
すなわち、上述の従来の技術において得られる電子密度と電子温度との精度は、電子温度について±0.2eV、前記電子密度の値について2倍程度である。そこで、これらの精度の範囲内にある電子密度と電子温度とを同じと見なしてこれらの電子状態を測定することにより、本発明によって取得された電子密度と電子温度との精度を悪くても従来の手法による測定精度にすることができ、大半は従来の手法より高精度に電子密度と電子温度とを取得することが可能になる。
【0019】
さらに、出願人の計算による評価によれば、前記電子温度が以下の式:
【数3】


ここで、Teは電子温度、f=kdex・n、f=kg2dex・ng2である;
を満たす範囲であるときに、前記電子密度と電子温度とが精度良く特定可能であることが判明している。従って、この式を満たす範囲では本発明による効果が顕著に現れる。
【0020】
さらに、本発明のように2種類のプラズマガスを導入したチャンバーにて2つの準安定状態におけるガスの密度を計測することによって電子密度と電子温度とを測定する手法は、この測定を行うプログラムや方法としても適用可能である。また、以上のようなプラズマ電子状態測定装置、プログラム、方法は、単独の装置として実現される場合もあれば、他の装置の一部として実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。また、一部がソフトウェアであり一部がハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。さらに、プラズマ電子状態測定装置を制御するプログラムの記録媒体としても発明は成立する。むろん、そのソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、本発明の具体的な実施に必要な事柄は、当該分野における技術常識に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示される内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0022】
図1は、本実施形態におけるプラズマ電子状態測定装置10を模式的に示す図であり、レーザ光源部12とチャンバー14と光学系機器16と光検出部18と演算部20とを備えている。チャンバー14は図示しないプラズマ源(例えば図示しないプラズマ発生用高周波電源およびコイル)を備えたプラズマ発生装置のチャンバーであり、本実施形態においては、当該チャンバー14内にアルゴンと窒素とが導入されている。従って、この例において、チャンバー14内に生成されるプラズマはアルゴン添加窒素プラズマである。
【0023】
レーザ光源部12は、レーザ光源として半導体レーザ素子を備えており、本実施形態においてこの半導体レーザ素子は出力レーザ光波長のチューニングが可能であり、アルゴンの2つの準安定状態の吸収波長に対応した中心波長のレーザ光Lを出力可能である。光検出部18は、レーザ光を受光してその強度に応じた電気信号に変換する素子(例えばPINフォトダイオード、フォトトランジスタ)を備えている。また、光学系機器16は、当該光検出部18への受光の適正化を図るための種々の機器(干渉フィルタ等)である。
【0024】
チャンバー14には、透過窓14A,14Bが形成されており、レーザ光源部12は透過窓14Aに向けられ、光検出部18は透過窓14Bに向けられている。従って、透過窓14Aからレーザ光Lをチャンバー14内の空間Sに導入し、当該レーザ光Lを透過窓14Bからチャンバー14外へ導出可能であり、レーザ光の照射強度と透過したレーザ光の強度とに基づいてレーザ光の透過率を検出することができる。
【0025】
演算部20は、図示しないCPU,RAM,ROM等を備えており、光検出部18が出力する電気信号および前記レーザ光の照射強度から得られる前記透過率に基づいて、前記2つの準安定状態にあるアルゴンガスの密度を取得可能である。また、後述する処理によってチャンバー14内の電子密度と電子温度とを算出可能である。なお、プラズマ電子状態測定装置10においては、適当なレーザ光の波長の測定、レーザ発振状態、波長掃引幅把握、等の目的のために波長計22、スペクトルアナライザ24等を備えることが好ましい。
【0026】
本実施形態においては、上記のような構成のプラズマ電子状態測定装置10にてプラズマP中に存在するアルゴンガスにおける任意の2つの準安定状態の吸収波長を予め決めておき、この吸収波長に対応した中心波長のレーザ光をレーザ光源部12から照射する。例えば、準安定状態4s[3/2]o2を下準位とし、上準位4p[3/2]1に励起するときの吸収波長は772.376nm、準安定状態4s’[1/2]o0を下準位とし、上準位4p’[1/2]1に励起するときの吸収波長は772.421nmなので、これらの吸収波長を選択すれば、一つの半導体レーザ素子によって容易に両者の吸収波長に対応したレーザ光を照射可能である。
【0027】
チャンバー14内でアルゴンと窒素とがプラズマになっている状態で上述の各吸収波長に対応した中心波長のレーザ光を照射すれば、光検出部18においてそれぞれのレーザ光についてプラズマによる吸収後の透過レーザ光が検出される。そこで、一方の準安定状態の吸収波長に対応したレーザ光の照射強度をI、透過したレーザ光の強度をIとすれば、この吸収波長におけるレーザ光透過率I/Iを決定することができる。同様に、他方の準安定状態の吸収波長に対応したレーザ光の照射強度をI、透過したレーザ光の強度をIとすれば、この吸収波長におけるレーザ光透過率I/Iを決定することができる。
【0028】
演算部20は、これらの透過率に基づいて、各準安定状態にあるアルゴンガスの密度を算出する。すなわち、この透過率とアルゴンガスの密度とは以下の式(A)の関係がある。
【数4】


ただし、νはレーザ光の振動数、σ(ν)は吸収断面積、nArは準安定状態アルゴンガスの密度、lはプラズマ中をレーザ光が透過する部分の長さ(即ち吸収長)である。
【0029】
ここで、吸収線の中心ν=νにおける吸収断面積は、以下の式(B)で与えられる。
【数5】


ただし、hはプランク定数、B12はアインシュタインのB係数、cは光速、Δνはドップラー幅である。
【0030】
この式においてΔνに着目すると、準安定状態アルゴンガスの温度Tとの関係において、以下の関係式(C)が成立する。
【数6】


ただし、Mはアルゴン原子の質量、kはボルツマン定数である。
【0031】
従って、各準安定状態についての透過率に式(A)を適用すれば、それぞれの準安定状態にあるアルゴンガスの密度を算出することができる。なお、敢えて説明するまでもなく、準安定状態アルゴンガスの温度Tは、当該分野で公知の諸方法、例えば吸収スペクトルの幅から容易に求めることができる。例えば、図1に示すプラズマ電子状態測定装置10において、チャンバー14内に照射するレーザ光Lの波長を掃引し、スペクトルアナライザ24によってアルゴン原子の熱運動に起因したドップラー効果による吸収スペクトルの広がり形状を測定し、アルゴンガスの温度を求めることができる。
【0032】
典型的には、準安定状態アルゴンガス温度Tは300〜1000Kの範囲に設定され、レーザ光透過率(I/I)の測定に基づいて、目的とする準安定状態アルゴンガス密度(具体的には吸収長の範囲の平均的ガス密度)を決定(算出)することができる。
【0033】
以上の演算プロセスをまとめると、2つの準安定状態にあるアルゴンガスの密度はそれぞれ、以下の式(D)(E)のように算出することができる。
【数7】


【数8】


なお、式(D)(E)においては、2つの準安定状態を数字1,2で区別しており、以下、2つの準安定状態を準安定状態1,準安定状態2と呼ぶ。
【0034】
以上のようにして、演算部20が2つの準安定状態1,2にあるアルゴンガスの密度を取得すると、当該演算部20は、さらに、これらの密度に基づいてプラズマの電子密度と電子温度とを取得する。本実施形態においては、プラズマの生成・消滅過程を記述するレート方程式に基づいて電子密度と電子温度とを決定する構成を採用している。
【0035】
すなわち、プラズマ中における準安定状態アルゴンガス(Ar)の生成過程は、基底状態アルゴンガス(Ar)と電子(e)との衝突(Ar+e→Ar+e)によると考えることができる。他方、準安定状態アルゴンガス(Ar)の消滅過程は、放射による崩壊が無視し得るため、準安定状態アルゴンガスと電子との衝突(Ar+e→Ar+e)と、準安定状態アルゴンガスと窒素ガスとの衝突(Ar+N→Ar+N)と、拡散(Ar→チャンバー壁面(wall))とにより規定することができる。なお、一般的なプロセスプラズマ中では中性Arとの衝突による準安定状態アルゴンガス(Ar)のクエンチングは無視し得る。
【0036】
このような生成・消滅過程を想定すると、準安定状態1,2のレート方程式は、それぞれ以下の式(F)(G)によって定義することができる。
【数9】


【数10】


ここで、nArは準安定状態のアルゴンの密度、nArは基底状態のアルゴンの密度、nは電子密度、nN2は窒素の密度である。また、kexは基底状態のアルゴンと電子との衝突によって準安定状態が生成する反応の速度係数、kdexは準安定状態のアルゴンと電子との衝突によってアルゴンの準安定状態が消滅する反応の速度係数、kN2dexは準安定状態のアルゴンと窒素との衝突によってアルゴンの準安定状態が消滅する反応の速度係数である。また、τは準安定状態のアルゴンがチャンバー14の壁面に衝突して消滅する反応の拡散時定数である。以上の式においても符号1,2は準安定状態1,2を区別する符号である。
【0037】
プラズマ発生中の定常状態では、nArは一定値を示すので、前記レート方程式の左辺をゼロにすることにより、以下の関係式(H)(I)が成立する。
【数11】


【数12】


【0038】
ところで、通常のプロセスプラズマ雰囲気中、好ましい例を挙げれば、チャンバー内(プラズマ発生空間)における電子密度が1010/cm以上であるか、或いはチャンバー内のプラズマ発生空間のガス圧が10Pa以上(例えば100mTorr(約13Pa)以上)であるか、或いは拡散長(プラズマ中における準安定状態アルゴン原子の平均自由行程)が1cm以上であるか、或いはそれら条件の二以上又は全部を具備するプラズマ雰囲気中においては、、kdex・n≫1/τとなる。従って、前記式(H)(I)は、以下の式(J)(K)のように記述し得る。
【数13】


【数14】


【0039】
以上の式(J)(K)において、準安定状態にあるアルゴンガスの密度を特定できれば、各式における未知数は電子密度nと反応速度係数kex1,ex2に含まれる電子温度Tのみである。すなわち、反応速度係数kdexはプラズマの電子速度分布関数に実質的に依存せず、文献等を参照して固定値とすることができる(kdex1=2×10−7cm/s,kdex2=3.5×10−7cm/s等)。また、kN2exは、各準安定状態について文献を参照して固定値とすることができる(例えば、kdex1=3.6×10−11cm/s、kN2dex2=1.6×10−7cm/s等)。
【0040】
さらに、基底状態のアルゴンガスの密度nArと窒素ガスの密度nN2とはチャンバー14に各ガスを導入する際に予めガス圧を測定することにより、そのガス圧に対応した密度として特定することができる。従って、以上の式(J)(K)に対して、前記演算部20にて算出した準安定状態1,2にあるアルゴンガスの密度を与えると、未知数が電子密度nと反応速度係数kex1,ex2に含まれる電子温度Tとになり、両者の値を特定することが可能になる。
【0041】
なお、本実施形態において、チャンバー14内にアルゴンガスと窒素ガスとを導入していることによって上述の式(J)(K)の右辺分母第2項(kN2dex2・nN2、kN2dex1・nN2)が現れる。仮に、チャンバー14内に窒素ガスが存在しない場合、アルゴンガスと他のガスとの衝突による準安定状態の消滅過程は存在しないため、式(J)(K)に前記右辺分母第2項は現れない。この場合、式(J)(K)に相当する式において電子密度nが約分され、当該式(J)(K)に相当する式に基づいて電子密度nを算出することは不可能である。
【0042】
しかし、本実施形態においては、チャンバー14内にアルゴンガスと窒素ガスとを導入していることにより、式(J)(K)に相当する式に前記右辺分母第2項が現れるようにしている。この結果、電子密度と電子温度とを同時に算出することが可能になった。従って、本発明においては、チャンバー内に第1ガスと第2ガスとを導入することが極めて重要である。
【0043】
また、以上述べた反応速度を特定する文献としては例えばG. R. Scheller,
R. A. Gottscho, D.B. Graves and T. Intrator, J. Appl. Phys. 64, 598(1988)、C. M. Ferreira, J.Loureiro, A. Ricard, J. Appl. Phys. 57, 82(1985)、L. G. Piper, J. E. Velazco, D. W. Setser, J Chem. Phys. 59,
3323(1973)が挙げられる。むろん、各種文献によれば、例えば、以下の表のように、N以外のガスを請求項における第2ガス(g2)として、反応速度を特定可能である。
【表1】


なお、この表では複数のガス(g2)の4sについての反応速度を準安定状態1、4s’についての反応速度を準安定状態2に対応させて示している。
【0044】
むろん、以上の反応速度係数は、文献によらず測定によって特定しても良い。例えば、標的ガスに準安定状態のアルゴンガスを衝突(あるいは準安定状態のアルゴンガスに標的ガスを衝突)させて準安定状態アルゴンの増減を測定したり、準安定状態のアルゴンガスに電子を衝突させて準安定状態アルゴンの増減を測定するなどの構成を採用可能である。
【0045】
以上の式において、kex1,ex2の値は、プラズマの電子速度v、基底状態アルゴンガスと電子との衝突現象(Ar+e→Ar+e)の断面積σex1(v),σex(v)及びプラズマの電子速度分布関数f(v)によって準安定状態1,2についてそれぞれ以下の式(L)(M)のように決定される。
【数15】


【数16】


ここで、σex1(v),σex2(v)は文献(例えばA. Dasgupta, M.Blaha and J. L. Giuliani, Phys. Rev., A61,
012703-1(1999)及びS. Tsurubuchi, T. Miyazaki and K.
Motohashi, J. Phys. B; At. Mol. Opt. Phys. 29, 1785(1996))によって特定可能である。
【0046】
従って、電子速度分布関数f(v)がマクスウェル分布であるとし、ある電子温度T(eV)を仮定すれば、式(L)(M)の右辺を算出可能である。本実施形態においては、演算部20にて取得した準安定状態にあるアルゴンガスの密度が特定されるので、演算部20は、さらに、測定された密度を与えるような電子温度Tおよび電子密度nの組み合わせを式(J)(K)のそれぞれに基づいて取得し、双方の式を同時に満たす電子温度Tおよび電子密度nの組み合わせを特定することで、これらの値を決定する。
【0047】
図2は、以上のような電子温度Tおよび電子密度nの算出例を示す図である。すなわち、前記レーザ光源部12と光検出部18とによって演算部20が準安定状態1(4s)にあるアルゴンガスの密度を測定すると、式(J)において電子密度nと反応速度係数kex1,に含まれる電子温度Tとが未知数となる。そこで、電子温度Tについて複数の値を想定して式(L)によって対応する反応速度係数kex1を取得し、式(J)に代入する。この結果、各電子温度Tに対応する電子密度nを特定することができる。図2においては、このようにして決定した準安定状態1の電子密度nと電子温度Tとの組を丸印で示している。
【0048】
準安定状態2(4s’)についても同様であり、アルゴンガスの密度を測定し、前記電子温度Tから算出した反応速度係数kex2を式(K)に代入すると、各電子温度Tに対応する電子密度nが得られる。図2においては、このようにして決定した準安定状態2の電子密度nと電子温度Tとの組を矩形で示している。以上のようにして各式(J)(K)に基づいて複数の電子密度nと電子温度Tとの組が特定されると、演算部20は、電子密度nと電子温度Tとが同じ値となっている組を抽出する。すなわち、図2に示すグラフの交点を特定する。
【0049】
このような電子密度nと電子温度Tとの組は、演算部20にて測定した2つの準安定状態のアルゴンガスの密度値(すなわち、式(J)(K))を同時に満たす電子密度nと電子温度Tとの組である。従って、これらの値をチャンバー14内の電子密度と電子温度との測定値とすることができる。なお、本実施形態においては、電子密度nと電子温度Tとが同じ値であるか否かを判定するために、電子密度nについては2倍以内の範囲、電子温度Tについては±0.2eV以内の範囲を誤差範囲とし、この範囲に含まれる値を同じ値と見なしている。
【0050】
すなわち、これらの誤差範囲は、従来のプラズマ電子状態測定装置によって生じる誤差範囲であるため、演算部20による判定のしきい値をこの範囲に設定することにより、本実施形態による測定精度を悪くても従来のプラズマ電子状態測定装置による測定精度程度にすることができ、大半は従来のプラズマ電子状態測定装置より高精度に測定することが可能になる。図3、図4は、電子密度nと電子温度Tとの測定例を示す図である。この例においては、窒素ガス圧を2mTorr(0.26Pa)に固定し、アルゴンガス圧を10〜50mTorr(1.33〜6.67Pa)まで5mTorrずつ変化させた場合の測定例を示しており、いずれにおいても精度よく電子密度と電子温度とを測定することができた。
【0051】
<他の実施形態>
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、第1ガスとしてアルゴンガス以外のガス(例えば、ネオン、クリプトン、キセノン、ヘリウム等)を採用しても良いし、第2ガスとして窒素ガス以外のガス(例えば、H,N,O,Cl,HBr,SF,CF,CHF,CH等)を採用しても良い。
【0052】
さらに、本願出願人は、本発明による電子密度と電子温度との計測が特に高精度に実施可能な範囲を特定しており、この範囲に含まれるガス種および条件でのプラズマについて本発明を適用すると、極めて高精度に電子密度と電子温度とを計測可能である。図5は、この範囲を説明する説明図であり、横軸はf/f(f=kdex・n、f=kg2dex・ng2)、縦軸は電子温度(eV)である。
【0053】
本願出願人は、第1ガスおよび第2ガスとして選択可能なガスから適宜ガスを選択し、多数のガスの組み合わせおよびプラズマ条件について計算による評価を行った。すなわち、各ガスおよびプラズマ条件における結果について、上述の誤差範囲(電子密度nについては2倍以内、電子温度Tについては±0.2eV以内)内で同じ値の電子密度と電子温度とを特定できるか否かを判定し、判定可能な場合と判定不能な場合とを図2に示すようなグラフ上にプロットした。
【0054】
この結果、前記判定可能な条件のプロットが特定の領域に分布し、前記判定不能な条件のプロットが他の領域に分布することが判明した。図2においては、両領域の境界付近に存在し、かつ、前記判定可能な条件の領域に含まれる代表的な点を丸印で示している。また、前記判定可能な条件の領域は各プロットによって形成される下に凸の領域の内側である。
【0055】
そこで、これらの点を多次関数でフィッティングしたところ、下記の式(N)が得られた。
【数17】


なお、Teは電子温度、f=kdex・n、f=kg2dex・ng2である。
【0056】
従って、この式(N)の左辺>右辺という条件を満たす場合には電子密度と電子温度とを同時かつ高精度に決定可能である。なお、前記式(N)の左辺は電子温度Teであり、右辺には、電子密度n、準安定状態の第1ガスと電子との衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応の速度係数kdex、準安定状態の第1ガスと第2ガスとの衝突によって第1ガスの準安定状態が消滅する反応の速度係数kg2dex、第2ガスの密度ng2が含まれる。従って、前記式(N)においては、高精度に決定可能な電子密度と電子温度、そのときのプラズマの条件、第2ガスの条件を規定していると言える。
【0057】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のプラズマ電子温度測定装置の典型的な構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】電子温度Tおよび電子密度nの算出例を示す図である。
【図3】電子密度nの測定例を示す図であり、横軸はアルゴンガス圧(mTorr)、縦軸は電子密度(1010cm-3)である。
【図4】電子温度Tの測定例を示す図であり、横軸はアルゴンガス圧(mTorr)、縦軸は電子温度(eV)である。
【図5】高精度に電子密度と電子温度とを計測可能な範囲を示す図であり、横軸はf/f、縦軸は電子温度(eV)である。
【符号の説明】
【0059】
10…プラズマ電子状態測定装置、12…レーザ光源部、14…チャンバー、14A,14B…透過窓、16…光学系機器、18…光検出部、20…演算部、22…波長計、24…スペクトルアナライザ
【出願人】 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】504293528
【氏名又は名称】イマジニアリング株式会社
【出願日】 平成18年8月21日(2006.8.21)
【代理人】 【識別番号】100117466
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 渉

【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠

【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子


【公開番号】 特開2008−47501(P2008−47501A)
【公開日】 平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願番号】 特願2006−224688(P2006−224688)