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【発明の名称】 音響再生システム及び音響再生方法
【発明者】 【氏名】佐藤 伸一

【氏名】辻 拓哉

【氏名】菅原 啓太郎

【要約】 【課題】聴取者に対してオフセットした位置にあるスピーカから放出される再生音が互いに正相となるように自動調整し、より自然なマルチチャンネルサラウンド音場を実現する音響再生システムを提供する。

【構成】前方左右のオフセット位置に設けられたフロントスピーカFL,FRから放出される再生音の両耳間相関関数が小さくなるときの周波数範囲(200Hz〜500Hz)において、各スピーカFL,FRから放出される再生音が受聴者の左右の耳に到達するのに要する時間差に相当する位相πで、左チャンネルの音声信号Linと右チャンネルの音声信号Rinを相対的に移相して、各スピーカFL,FRに供給する位相調整器2を設ける。これにより、受聴者の左右の耳に到達するサラウンド再生音を互いに正相にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオ方式の左チャンネルの音声信号と右チャンネルの音声信号からサラウンド信号を擬似的に生成し、受聴者の左右のオフセット位置に設けられた各フロントスピーカに前記左チャンネルの音声信号と右チャンネルの音声信号を供給し、前記受聴者の左右のオフセット位置に設けられた各リアスピーカに前記サラウンド信号を供給して、マルチチャンネルサラウンド再生を行わせる音響再生システムであって、
前記各フロントスピーカから放出される再生音の両耳間相関関数が負値となるときの周波数範囲において、前記各フロントスピーカから放出される再生音が前記受聴者の左右の耳に到達するのに要する時間差に相当する位相で、前記左チャンネルの音声信号と右チャンネルの音声信号を相対的に移相して、前記各フロントスピーカに供給する位相調整手段と、
前記サラウンド信号のうち前記周波数範囲内の信号成分を抽出して、前記各リアスピーカに供給するフィルタ手段と、
を具備することを特徴とする音響再生システム。
【請求項2】
前記フィルタ手段で抽出された信号成分と前記位相調整手段で移相された信号とを合成して、前記各フロントスピーカに供給する加算手段を有すること、
を特徴とする請求項1に記載の音響再生システム。
【請求項3】
前記フィルタ手段で抽出された信号成分と前記位相調整手段で移相された信号とを合成して、前記各リアスピーカに供給する加算手段を有すること、
を特徴とする請求項1に記載の音響再生システム。
【請求項4】
前記周波数範囲は200Hz乃至500Hz、前記位相はπであること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の音響再生システム。
【請求項5】
ステレオ方式の左チャンネルの音声信号と右チャンネルの音声信号からサラウンド信号を擬似的に生成し、受聴者の左右のオフセット位置に設けられた各フロントスピーカに前記左チャンネルの音声信号と右チャンネルの音声信号を供給し、前記受聴者の左右のオフセット位置に設けられた各リアスピーカに前記サラウンド信号を供給して、マルチチャンネルサラウンド再生を行わせる音響再生方法であって、
前記各フロントスピーカから放出される再生音の両耳間相関関数が負値となるときの周波数範囲において、前記各フロントスピーカから放出される再生音が前記受聴者の左右の耳に到達するのに要する時間差に相当する位相で、前記左チャンネルの音声信号と右チャンネルの音声信号を相対的に移相して、前記各フロントスピーカに供給する位相調整工程と、
前記サラウンド信号のうち前記周波数範囲内の信号成分を抽出して、前記各リアスピーカに供給するフィルタ工程と、
を具備することを特徴とする音響再生方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチチャンネルサラウンド再生を行う音響再生システムと音響再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の音響再生システムとして、特開平5−91600号公報(特許文献1の図1を参照)に開示されたものがある。
【0003】
この従来の音響再生システムは、図1(a)に示す基本構成を有し、左右2チャンネルのステレオ信号(左チャンネルの声信号Linと右チャンネルの音声信号Rin)を、聴取者の左右前方に設けられているフロントスピーカFL,FRに独立に供給する他、信号減算回路によって音声信号Lin,Rinとの差の信号(Lin−Rin)を生成し、その差の信号(Lin−Rin)に基づいてサラウンド回路がサラウンド信号SL,SRを生成して、聴取者の左右後方に設けられているリアスピーカRL,RRに独立に供給するようになっている。
【0004】
かかる構成の音響再生システムによると、記録メディア等に2チャンネルステレオ方式で録音されている音声信号Lin,Rinからサラウンド信号SL,SRを擬似的に生成し、その音声信号Lin,Rinとサラウンド信号SL,SRに基づいて各スピーカFL,FR,RL,RRを駆動することで、単に2チャンネルステレオ再生を行う場合に較べて、より臨場感の得られるマルチチャンネルサラウンド音場を実現するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−91600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の音響再生システムが自動車の車室内に設けられる例えばカーオーディオシステムとして用いられた場合、車室内という制限があることから一般に、図1(b)に示すように、カーオーディオユニットAU内に内蔵された音響再生システムから、前部座席の両側に設置されたフロントスピーカFL,FRに音声信号Lin,Rinを供給し、後部座席の両側に設置されたリアスピーカRL,RRにサラウンド信号SL,SRを供給している。
【0007】
ところが、フロントスピーカFL,FRとリアスピーカRL,RRは、各搭乗者の着座位置に対してオフセットした位置(左右非対称の位置)となるため、各搭乗者の左右の耳に到達する左チャンネルの再生音と右チャンネルの再生音が互いに逆相となり、各搭乗者に不自然で違和感を与える場合があった。
【0008】
例えば、右側の前部座席(運転席)に着座する運転者に対して左側のフロントスピーカFLより右側のフロントスピーカFRの方が近い位置となるため、フロントスピーカFL,FRから放出され運転者の左右の耳に到達するステレオ再生音の両耳間相関関数が逆相を示す負値となり、不自然で違和感を与える場合があった。更に、リアスピーカRL,RRについても同様に、運転者に対して左側のリアスピーカRLより右側のリアスピーカRRの方が近い位置となるため、リアスピーカRL,RRから放出され運転者の左右の耳に到達するサラウンド再生音の両耳間相関関数が逆相を示す負値となり、不自然で違和感を与える場合があった。
【0009】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、聴取者に対してオフセットした位置にあるスピーカから放出される再生音が互いに正相となるように自動調整し、より自然なマルチチャンネルサラウンド音場を実現する音響再生システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、ステレオ方式の左チャンネルの音声信号と右チャンネルの音声信号からサラウンド信号を擬似的に生成し、受聴者の左右のオフセット位置に設けられた各フロントスピーカに前記左チャンネルの音声信号と右チャンネルの音声信号を供給し、前記受聴者の左右のオフセット位置に設けられた各リアスピーカに前記サラウンド信号を供給して、マルチチャンネルサラウンド再生を行わせる音響再生システムであって、前記各フロントスピーカから放出される再生音の両耳間相関関数が負値となるときの周波数範囲において、前記各フロントスピーカから放出される再生音が前記受聴者の左右の耳に到達するのに要する時間差に相当する位相で、前記左チャンネルの音声信号と右チャンネルの音声信号を相対的に移相して、前記各フロントスピーカに供給する位相調整手段と、前記サラウンド信号のうち前記周波数範囲内の信号成分を抽出して、前記各リアスピーカに供給するフィルタ手段と、を具備することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好適な実施形態について図2(a)(b)(c)を参照して説明する。
【0012】
図2(a)は、第1の実施形態の音響再生システムの構成を示すブロック図、図2(b)は、第2の実施形態の音響再生システムの構成を示すブロック図、図2(c)は、第1,第2の実施形態の音響再生システムの機能を説明するための説明図である。
【0013】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態の音響再生システム1は、同図(a)に示すように、位相調整器2と減算器3L,3Rとバンドパスフィルタ4L,4Rを有して構成され、図示しない信号源から供給される2チャンネルステレオ方式の音声信号(左チャンネルと右チャンネルの音声信号)Lin,Rinに対して所定の信号処理を施すことで、スピーカFL,FRを駆動するための左チャンネルと右チャンネルの音声信号L,Rを生成すると共に、スピーカFL,FRを駆動するためのサラウンド音声信号SL,SRを生成する。
【0014】
ここで、スピーカFL,FR,RL,RRは、図1(b)に示したように、自動車の車室内に、各受聴者に対してオフセットした位置に設けられているものとして説明することとする。
【0015】
位相調整器2は、フル帯域(可聴周波数の全帯域)においてほぼ一定の利得特性を有すると共に、そのフル帯域のうちの所定の周波数帯域PBWにおいて、音声信号LinとRinの両者間で、位相を相対的にπ(180°)移相する移相回路等で形成されている。そして、移相後の音声信号L,RをフロントスピーカFL,FRに独立に供給する。
【0016】
つまり、位相調整器2は、音声信号Linの位相だけをπ移相することで音声信号Lin,Rinの両者間で位相を相対的にπ移相する移相回路、または、音声信号Rinの位相だけをπ移相することで音声信号Lin,Rinの両者間で位相を相対的にπ移相する移相回路、若しくは、位相φ1とφ2の和が位相πとなる関係に基づいて、音声信号Linの位相をφ1移相すると共に音声信号Rinの位相をφ2移相することで、音声信号Lin,Rinの両者間で位相を相対的にπ移相する移相器で形成されている。
【0017】
上述した周波数帯域PBWは、次のようにして決められている。つまり、実験などにより、運転席又は助手席に対してオフセット位置に設けられている左右のフロントスピーカFL,FRに同じ音声信号を供給して鳴動させ、運転席又は助手席に着座する受聴者の左耳に到達する再生音と右耳に到達する再生音との周波数に対する両耳間相関関数を測定する。このように測定を行うと、自動車の車室内では、図1(c)に示すように、約200Hz〜約500Hzの周波数範囲において、両耳間相関関数が負値(−1に近い値)となり、受聴者が違和感を感じる。更に、両耳間相関関数が上述の負値となるということは、フロントスピーカFLから放出され受聴者の左耳に到達する再生音とフロントスピーカFRから放出され受聴者の右耳に到達する再生音との伝搬遅延による時間差が、ほぼ位相πに相当することを意味する。
【0018】
そこで、車室内で用いられる音響再生システム1では、約200Hz〜約500Hzの周波数帯域PBWにおいて、音声信号Lin,Rinの両者間で位相を相対的にπ移相する移相回路等によって、位相調整器2が形成されている。
【0019】
次に、減算器3Lは、左チャンネルの音声信号Linから右チャンネルの音声信号Rinを減算することで差信号(Lin−Rin)生成し、バンドパスフィルタ4Lに供給する。
【0020】
減算器3Rは、右チャンネルの音声信号Rinから左チャンネルの音声信号Linを減算することで差信号(Rin−Lin)生成し、バンドパスフィルタ4Rに供給する。
【0021】
バンドパスフィルタ4Lは、上述の周波数帯域PBWとほぼ同じ通過帯域幅(約200Hz〜約500Hz)BWを有するバンドパスフィルタで形成され、差信号(Lin−Rin)のうち通過帯域幅BWを通過した信号(すなわち、通過帯域幅BWで抽出した信号)をサラウンド信号SLとして左側のリアスピーカRLに供給する。
【0022】
バンドパスフィルタ4Rも同様に、周波数帯域PBWとほぼ同じ通過帯域幅(約200Hz〜約500Hz)BWを有するバンドパスフィルタで形成され、差信号(Rin−Lin)のうち通過帯域幅BWを通過した信号をサラウンド信号SRとして右側のリアスピーカRRに供給する。
【0023】
次に、かかる構成を有する本実施形態の音響再生システム1の動作について説明する。
【0024】
信号源から2チャンネルステレオ方式の音声信号Lin,Rinが出力されると、位相調整器2が周波数帯域PBW内の音声信号Lin,Rinに対して両者間で位相を相対的にπ移相し、移相後の信号を左チャンネルの音声信号Lと右チャンネルの音声信号RとしてフロントスピーカFL,FRに供給して鳴動させる。
【0025】
ここで、フロントスピーカFLから放出される再生音が受聴者の左耳に到達するのに要する遅延時間τ1と、フロントスピーカFRから放出される再生音が受聴者の右耳に到達するのに要する遅延時間τ2との時間差(τ1−τ2)がほぼ位相πに相当することから、上述の相対的にπ移相された音声信号L,Rに基づいてフロントスピーカFL,FRから放出される両者の再生音が、互いにほぼ正相となって受聴者の左右の耳に到達する。このため、受聴者に対しオフセット位置に設けられているフロントスピーカFL,FRからの再生音を受聴する受聴者にとって違和感を低減することができる。
【0026】
更に、バンドパスフィルタ4L,4RからリアスピーカRL,RRに供給されるサラウンド信号SL,SRは、差信号(Lin−Rin),(Rin−Lin)から生成されるので、互いに位相がπ(180°)ずれることとなる。そして、リアスピーカRLから放出される再生音が受聴者の左耳に到達するのに要する遅延時間τ3と、リアスピーカRRから放出される再生音が受聴者の右耳に到達するのに要する遅延時間τ4との時間差(τ3−τ4)がほぼ位相πに相当することとなる。このことから、サラウンド信号SL,SRに基づいてリアスピーカRL,RRから放出される両者の再生音が、互いにほぼ正相となって受聴者の左右の耳に到達する。このため、受聴者に対しオフセット位置に設けられているリアスピーカRL,RRからの再生音を受聴する受聴者にとって違和感を低減することができる。
【0027】
更に、各スピーカFL,FR,RL,RRは、前部座席と後部座席に着座する各々の搭乗者(受聴者)に対して、ほぼ同じ位置関係でオフセット配置されている。このため、前部座席に着座する運転者と搭乗者と後部座席に着座する搭乗者に対して、違和感を感じさせることなく自然なマルチチャンネルサラウンド音場を提供することができる。
【0028】
このように、本実施形態の音響再生システム1によると、フロントスピーカFL,FRからの再生音を互いにほぼ正相、リアスピーカRL,RRからの再生音も互いにほぼ正相にして受聴者の左右の耳に到達させることができるため、違和感を感じさせることなく、自然なマルチチャンネルサラウンド音場を実現することができる。
【0029】
なお、以上に説明したように、位相調整器2が移相回路で形成されているが、夫々所定の位相特性を有するバンドパスフィルタやハイパスフィルタ、ローパスフィルタを並列接続又は直列接続して適宜に組み合わせることで、上述した周波数帯域PBWにおいてほぼ一定の位相特性を発揮するフィルタバンク構造の移相回路を実現することが可能である。
【0030】
また、位相調整器2としてAPF(適応位相フィルタ)を用いて、上述した周波数帯域PBWにおいてほぼ一定の位相特性を発揮させるようにしてもよい。
【0031】
また、バンドパスフィルタ4L,4Rの通過帯幅BWを、位相調整器2の周波数帯域PBWとほぼ同じにすることとして説明した。しかし、通過帯幅BWは少なくとも周波数帯域PBWを含んでいればよく、より高い周波数までを通過帯域とする通過帯幅にしてもよい。つまり、バンドパスフィルタ4L,4Rの通過帯幅BWは、位相調整器2の周波数帯域PBWを含み更に高い周波数まで通過帯域とする通過帯幅としてもよい。このように、バンドパスフィルタ4L,4Rの通過帯幅BWを高い周波数まで拡大すると、ボーカル帯域での奥行き感を増すことができ、更に音像定位感、音の広がり感を向上させることができる。
【0032】
また、本実施形態の音響再生システム1は、音声信号Lin,Rinがアナログ信号として供給される場合にはアナログ回路で形成することができ、また、音声信号Lin,Rinがディジタル信号として供給される場合にはディジタル回路で形成することができる。
【0033】
また、上述のディジタル回路の構成に相当するコンピュータプログラムを作成し、そのコンピュータプログラムをマイクロプロセッサ(MPU)やディジタルシグナルプロセッサ(DSP)に実行させることで、音響再生システム1を実現してもよい。
【0034】
〔第2の実施形態〕
次に、第2の実施形態の音響再生システム1について、図2(b)(c)を参照して説明する。なお、図2(b)において、図2(a)と同一又は相当する部分を同一符号で示している。
【0035】
図2(b)に示す本実施形態の音響再生システム1は、図2(a)に示した音響再生システムに更に加算器5L,5Rが追加された構成となっている。そして、図2(b)に示したように、自動車の車室内に設けられた各スピーカFL,FR,RL,RRを駆動することで、マルチチャンネルサラウンド再生を行う。
【0036】
ここで、加算器5Lは、周波数帯域PBWにおいて位相調整器2で位相調整された左チャンネルの音声信号Lとバンドパスフィルタ4Lを通過したサラウンド音声信号SLとを加算(合成)し、その合成した信号を左チャンネルの音声信号LoutとしてフロントスピーカFLに供給する。
【0037】
加算器5Rは、位相調整器2で位相調整された右チャンネルの音声信号Rとバンドパスフィルタ4Rを通過したサラウンド音声信号SRとを加算(合成)し、その合成した信号を右チャンネルの音声信号RoutとしてフロントスピーカFRに供給する。
【0038】
かかる構成を有する本実施形態の音響再生システム1によると、上述した第1の実施形態と同様の効果が得られ、更にフロントスピーカFL,FRからもサラウンド再生音を放出させることができることから、より臨場感の得られるマルチチャンネルサラウンド音場を実現することができる。
【0039】
つまり、左チャンネルの音声信号Loutが供給されるフロントスピーカFLからは、音声信号Lによる再生音とサラウンド音声信号SLによる再生音が放出され、右チャンネルの音声信号Routが供給されるフロントスピーカFRからは、音声信号Rによる再生音とサラウンド音声信号SRによる再生音が放出される。そして、音声信号Lによる再生音と音声信号Rによる再生音は伝搬遅延の時間差に相当する位相πで互いにずらされて放出されるため、互いにほぼ正相となって受聴者の左右の耳に到達し、更に、サラウンド音声信号SL,SRは元々位相πで互いにずれているので、サラウンド音声信号SLによる再生音とサラウンド音声信号SRによる再生音は伝搬遅延の時間差に相当する位相πで互いにずらされて放出され、互いにほぼ正相となって受聴者の左右の耳に到達する。更に、サラウンド音声信号SL,SRによってリアスピーカRL,RRから放出される再生音も、伝搬遅延の時間差に相当する位相πで互いにずらされて放出され、互いにほぼ正相となって受聴者の左右の耳に到達する。
【0040】
このように、フロントスピーカFL,FRから放出される再生音が受聴者の左右の耳にほぼ正相となって到達すると共に、リアスピーカRL,RRから放出される再生音も受聴者の左右の耳にほぼ正相となって到達することから、違和感を与えることなく自然なマルチチャンネルサラウンド音場を実現することが可能となり、更にフロントスピーカFL,FRからもサラウンド再生音を放出させることができることから、より臨場感の得られるマルチチャンネルサラウンド音場を実現することができる。
【0041】
なお、以上に説明した本実施形態においても、バンドパスフィルタ4L,4Rの通過帯幅BWを、位相調整器2の周波数帯域PBWとほぼ同じにすることとして説明した。しかし、通過帯幅BWは少なくとも周波数帯域PBWを含んでいればよく、より高い周波数までを通過帯域とする通過帯幅にしてもよい。つまり、バンドパスフィルタ4L,4Rの通過帯幅BWは、位相調整器2の周波数帯域PBWを含み更に高い周波数まで通過帯域とする通過帯幅としてもよい。このように、バンドパスフィルタ4L,4Rの通過帯幅BWを高い周波数まで拡大すると、ボーカル帯域での奥行き感を増すことができ、更に音像定位感を向上させることができる。
【0042】
また、図2(b)に示した構成では、フロントスピーカFL,FRには、音声信号L,Rとサラウンド音声信号SL,SRとを加算器5L,5Rで夫々加算して供給し、リアスピーカRL,RRには、サラウンド音声信号SL,SRだけを供給する構成となっているが、本実施形態の変形例として、図3に示す構成としてもよい。
【0043】
つまり、図3に示すように、音声信号L,Rとサラウンド音声信号SL,SRとを加算器5L,5Rで夫々加算してフロントスピーカFL,FRに供給する他、位相調整器2から出力される音声信号Lとバンドパスフィルタ4Lから出力されるサラウンド音声信号SLとを加算器5SLで加算してその加算信号SLoutを左チャンネルのリアスピーカRLに供給し、位相調整器2から出力される音声信号Rとバンドパスフィルタ4Rから出力されるサラウンド音声信号SRとを加算器5SRで加算してその加算信号SRoutを右チャンネルのリアスピーカRRに供給する構成としてもよい。
【0044】
かかる構成の変形例においても、フロントスピーカFL,FRから放出される再生音が受聴者の左右の耳にほぼ正相となって到達すると共に、リアスピーカRL,RRから放出される再生音も受聴者の左右の耳にほぼ正相となって到達することから、違和感を与えることなく自然なマルチチャンネルサラウンド音場を実現することが可能となる。更に、フロントスピーカFL,FRからメインチャンネルの再生音だけでなくサラウンド再生音を放出させることができると共に、リアピーカRL,RRからサラウンド再生音だけでなくメインチャンネルの再生音を放出させることができることから、より臨場感の得られるマルチチャンネルサラウンド音場を実現することができる。
【0045】
また、本実施形態(変形例を含む)の音響再生システム1も、第1の実施形態で説明したのと同様に、アナログ回路又はディジタル回路で形成することができる。
【0046】
また、上述のディジタル回路の構成に相当するコンピュータプログラムを作成し、そのコンピュータプログラムをマイクロプロセッサ(MPU)やディジタルシグナルプロセッサ(DSP)に実行させることで、音響再生システム1を実現してもよい。
【0047】
また、位相調整器2としてAPF(適応位相フィルタ)を用いて、上述した周波数帯域PBWにおいてほぼ一定の位相特性を発揮させるようにしてもよい。
【実施例1】
【0048】
次に、より具体的な実施例について、図4を参照して説明する。図4(a)(b)(c)は、本実施例の音響再生システムの構成を表したブロック図であり、図2(a)と同一又は相当する部分を同一符号で示している。図4(d)(e)(f)は、機能を説明するための説明図である。
【0049】
図4(a)に示す本実施例の音響再生システム1は、2つの移相回路2L,2Rを有する位相調整器2と、減算器3L,3Rと、バンドパスフィルタ4L,4Rと、増幅器6L,6Rを備えて構成され、図1(b)に示したように、自動車の車室内に設けられた各スピーカFL,FR,RL,RRを駆動することで、マルチチャンネルサラウンド再生を行う。
【0050】
ここで、移相回路2Lは、図4(b)に示すように、2チャンネルステレオ方式の音声信号(左チャンネルの音声信号)Linを入力するハイパスフィルタHPFL1及びローパスフィルタLPFL2と、ハイパスフィルタHPFL1の出力とローパスフィルタLPFL2の出力とを加算(合成)する加算器ALとを有して形成されている。
【0051】
更に、図4(d)の周波数対位相特性に示すように、ハイパスフィルタHPFL1は、カットオフ周波数500Hzを境にして、低い周波数での位相がほぼ0、高い周波数域での位相φL1がほぼπ/2(進相)に設定され、ローパスフィルタLPFL2は、カットオフ周波数500Hzを境にして、低い周波数での位相がほぼ0、高い周波数域での位相φL2がほぼ−π/2(遅相)に設定されている。
【0052】
移相回路2Rは、図4(c)に示すように、2チャンネルステレオ方式の音声信号(右チャンネルの音声信号)Rinを入力するハイパスフィルタHPFR1及びローパスフィルタLPFR2と、ハイパスフィルタHPFR1の出力とローパスフィルタLPFR2の出力とを加算(合成)する加算器ARとを有して形成されている。
【0053】
更に、図4(e)の周波数対位相特性に示すように、ハイパスフィルタHPFR1は、カットオフ周波数200Hzを境にして、低い周波数での位相がほぼ0、高い周波数域での位相φR1がほぼπ/2(進相)に設定され、ローパスフィルタLPFR2は、カットオフ周波数200Hzを境にして、低い周波数での位相がほぼ0、高い周波数域での位相φR2がほぼ−π/2(遅相)に設定されている。
【0054】
更に、ハイパスフィルタHPFL1,HPFR1及びローパスフィルタLPFL2,LPFR2の各通過帯域における利得がほぼ等しくなっている。
【0055】
そして、移相回路2Lが左チャンネルの音声信号Linを上述の位相φL1,φL2で移相し、その移相した信号を左チャンネルの音声信号LとしてフロントスピーカFLに供給する。更に、移相回路2Rが右チャンネルの音声信号Rinを上述の位相φR1,φR2で移相し、その移相した信号を右チャンネルの音声信号RとしてフロントスピーカFRに供給する。
【0056】
ここで、位相φL1,φL2で移相される音声信号Lと位相φR1,φR2で移相される音声信号Rとの、200Hzから500Hzの周波数範囲における位相の差φLRが、図4(f)に示すように、ほぼπ(180°)となり、200Hzから500Hzの周波数範囲以外の位相の差がほぼ0となる。つまり、200Hzから500Hzの周波数範囲における位相の差は、位相φR1とφR2の差(φR1−φR2)で表されるπとなる。
【0057】
このことから、移相回路2L,2Rによって、200Hzから500Hzの周波数範囲内において音声信号LinとRinの両者間で位相を相対的にほぼπ(180°)移相させることができ、その位相調整を施した音声信号L,RをフロントスピーカFL,FRに供給するようになっている。
【0058】
増幅器6Lは、右チャンネルの音声信号Rinの振幅を調整するための可変利得型増幅器、増幅器6Rは、左チャンネルの音声信号Linの振幅を調整するための可変利得型増幅器で形成されている。
【0059】
そして、減算器3Lが減算処理によって、音声信号Linと増幅器6Lの利得αで増幅された音声信号(αRin)との差信号(Lin−αRin)を生成し、減算器3Rが減算処理によって、音声信号Rinと増幅器6Rの利得βで増幅された音声信号(βLin)との差信号(Rin−βLin)を生成する。
【0060】
バンドパスフィルタ4Lは、200Hzから500Hzの通過帯域幅BWを有し、差信号(Lin−αRin)のうち通過帯域幅BWを通過する信号をサラウンド音声信号SLとしてリアスピーカRLに供給する。
【0061】
バンドパスフィルタ4Rも同様に200Hzから500Hzの通過帯域幅BWを有し、差信号(Rin−βLin)のうち通過帯域幅BWを通過する信号をサラウンド音声信号SRとしてリアスピーカRRに供給する。
【0062】
かかる構成を有する本実施例の音響再生システム1によると、移相回路2L,2Rが200Hzから500Hzの周波数帯域内の音声信号Lin,Rinに対して両者間で位相を相対的にπ移相し、移相後の信号を左チャンネルの音声信号Lと右チャンネルの音声信号RとしてフロントスピーカFL,FRに供給して鳴動させる。このため、フロントスピーカFL,FRから放出される両者の再生音を互いにほぼ正相にして受聴者の左右の耳に到達させることができ、受聴者にとって違和感を低減することができる。
【0063】
更に、バンドパスフィルタ4L,4RからリアスピーカRL,RRに供給されるサラウンド信号SL,SRは、差信号(Lin−αRin),(Rin−βLin)から生成されるので、互いに位相がπ(180°)ずれることとなる。このことから、サラウンド信号SL,SRに基づいてリアスピーカRL,RRから放出される両者の再生音が、互いにほぼ正相となって受聴者の左右の耳に到達する。このため、受聴者にとって違和感を低減することができる。
【0064】
なお、以上に説明したように、移相回路2L,2RがハイパスフィルタHPFL1,HPFR2とローパスフィルタLPFL1,LPFR2で形成されているが、第1の実施形態で説明したように、夫々所定の位相特性を有するバンドパスフィルタやハイパスフィルタ、ローパスフィルタを並列接続又は直列接続して適宜に組み合わせることで、上述した200Hzから500Hzの周波数帯域においてほぼ一定の位相特性を発揮するフィルタバンク構造の移相回路で形成するようにしてもよい。
【0065】
また、図4(a)の移相回路2L,2RをAPF(適応位相フィルタ)で構成し、上述した200Hzから500Hzの周波数帯域内の音声信号Lin,Rinに対して両者間で位相を相対的にπ移相し、移相後の信号を左チャンネルの音声信号Lと右チャンネルの音声信号RとしてフロントスピーカFL,FRに供給するようにしてもよい。
【0066】
また、図2に示したのと同様に、フロントスピーカFL,FRに、音声信号L,Rとサラウンド音声信号SL,SRとを夫々加算して供給し、サラウンド音声信号SL,SRをリアスピーカRL,RRに供給する構成としてもよい。
【0067】
また、図3に示したのと同様に、フロントスピーカFL,FRに、音声信号L,Rとサラウンド音声信号SL,SRとを夫々加算して供給する他、音声信号L,Rとサラウンド音声信号SL,SRとを加算してリアスピーカRL,RRに供給する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1(a)は従来の音響再生システムの構成を表したブロック図、図1(b)は車室内に設けられたスピーカの位置を説明するための説明図である。
【図2】図2(a)は第1の実施形態の音響再生システムの構成を表したブロック図、図2(b)は第2の実施形態の音響再生システムの構成を表したブロック図である。
【図3】図2(b)に示した音響再生システムの変形例の構成を表したブロック図である。
【図4】図4(a)(b)(c)は実施例1の音響再生システムの構成を表したブロック図、図4(d)(e)(f)は、図4(b)(c)に示したハイパスフィルタとローパスフィルタの周波数対位相特性及び機能を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1…音響再生システム
2…位相調整器
4L,4R…バンドパスフィルタ
FL,FR…フロントスピーカ
RL,RR…リアスピーカ
【出願人】 【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
【出願日】 平成18年9月7日(2006.9.7)
【代理人】 【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所


【公開番号】 特開2008−67087(P2008−67087A)
【公開日】 平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願番号】 特願2006−243198(P2006−243198)