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【発明の名称】 音響発生装置
【発明者】 【氏名】棚瀬 廉人

【氏名】清水 寧

【氏名】中谷 隆雄

【要約】 【課題】音の明瞭度と拡がり感を示す空間印象を制御することができる音響発生装置を提供すること。

【構成】音響発生装置1は、設定された明瞭度と拡がり感に応じた音を聴衆位置において聞くことができるように、記憶部3に事前に記憶された使用するホールの壁面の形状、聴衆位置、音響発生装置1が設置された位置の情報と、操作部5から出力された設定値とに基づいて、制御部6において明瞭度と拡がり感の指標としてD50、LFを用いて遅延時間と増幅率を計算し、信号処理部8においてオーディオ信号を遅延処理し、アンプ7−1、7−2において増幅し、スピーカ2−1、2−2から聴衆位置方向にメイン音響ビームを側壁方向にサイド音響ビームを放出することにより、聴衆位置111における音の明瞭度と拡がり感を簡易に制御することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響を発生する音響発生装置において、
少なくとも1面の壁面を有する領域における壁面の形状を示す壁面情報と、前記領域内の聴衆領域を示す聴衆領域情報と、前記領域内における前記音響発生装置の位置を示す設置位置情報とを有する記憶手段と、
前記聴衆領域における音の感じ方を示すパラメータの値を設定するパラメータ設定手段と、
前記壁面情報と、前記聴衆領域情報と、前記設置位置情報とを前記記憶手段から読み出す読出手段と、
前記聴衆領域に直接放音を行う第1の放音経路と前記壁面で1回もしくは複数回反射して前記聴衆領域に放音を行う第2の放音経路とを設定する放音経路設定手段と、
オーディオ信号を前記第1の放音経路を用いて放音させる場合の第1の遅延時間と第1の増幅率、前記オーディオ信号を前記第2の放音経路を用いて放音させる場合の第2の遅延時間と第2の増幅率を決定する遅延・増幅率決定手段と、
前記遅延・増幅率決定手段が決定した前記第1、第2の遅延時間に基づいてオーディオ信号に遅延処理をして第1、第2の信号を生成する信号処理手段と、
前記遅延・増幅率決定手段が決定した前記第1、第2の増幅率に基づいて前記第1、第2の信号を増幅して第1、第2の増幅信号を生成する増幅手段と、
前記第1の増幅信号に基づいた音を前記第1の放音経路に向けて放出する第1の放音手段と、
前記第2の増幅信号に基づいた音を前記第2の放音経路に向けて放出する第2の放音手段とを具備し、
前記遅延・増幅率決定手段は、前記読出手段によって読み出された前記壁面情報と、前記聴衆領域情報と、前記設置位置情報とに基づいて、前記聴衆領域における音波の到達態様が前記パラメータ設定手段によって設定されたパラメータに対応するように前記第1、第2の遅延時間および前記第1、第2の増幅率を決定することを特徴とする音響発生装置。
【請求項2】
前記パラメータは、前記第1、第2の放音手段からインパルスを発生させたときに、前記聴衆領域に到達する全音響エネルギーと第1の所定時間に到達する音響エネルギーとの比を示す値であり、前記遅延・増幅率決定手段は前記比に対応して前記第1、第2の遅延時間および前記第1、第2の増幅率を決定することを特徴とする請求項1に記載の音響発生装置。
【請求項3】
前記パラメータは、前記第1、第2の放音手段からインパルスを発生させたときに、前記聴衆領域に第2の所定時間に到達する音響エネルギーと第3の所定時間に前記壁面の反射を介して到達する音響エネルギーとの比を示す値であり、前記遅延・増幅率決定手段は前記比に対応して前記第1、第2の遅延時間および前記第1、第2の増幅率を決定することを特徴とする請求項1に記載の音響発生装置。
【請求項4】
前記第1、第2の放音手段は、複数のスピーカを有するアレイスピーカであって、
前記放音経路設定手段は、前記スピーカからの放音を制御して前記第1、第2の放音経路を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の音響発生装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ホール等での音場の広がりを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホール等の音響施設は、用途の多様化に伴って、スピーチなどの声を明瞭に伝えるために残響音を少なくする音響特性や、コンサート等で音の拡がり感を与えるように残響音を付加した音響特性など、様々な音響特性が求められている。この音響特性の制御は、ホールを構成する壁などの構造物を移動させたりすることで対応することも可能であるが、大掛かりな装置になってその制御も難しかった。そのため、この音響特性を簡易に制御するために、放音対象となるオーディオ信号をFIR(Finite Impulse Response)フィルタによって、信号処理することで制御する方法がある。(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開平6−149276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に開示された発明では、複数のマイクロフォンをホールの各所に配置する必要があり、設置に手間がかかってしまう。また、自然に近い音色の初期反射音を放出することについての開示はあるが、音の伝達態様を自在に設定する手段は、開示されていない。
【0004】
本発明は、上述の事情を鑑みてなされたものであり、1箇所のスピーカシステムで、聴衆方向とホール等の側壁方向へ別々に音を放出し、それぞれの音の遅延と音量を変化させて音の明瞭度と音の拡がり感を制御することができる音響発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明は、音響を発生する音響発生装置において、少なくとも1面の壁面を有する領域における壁面の形状を示す壁面情報と、前記領域内の聴衆領域を示す聴衆領域情報と、前記領域内における前記音響発生装置の位置を示す設置位置情報とを有する記憶手段と、前記聴衆領域における音の感じ方を示すパラメータの値を設定するパラメータ設定手段と、前記壁面情報と、前記聴衆領域情報と、前記設置位置情報とを前記記憶手段から読み出す読出手段と、前記聴衆領域に直接放音を行う第1の放音経路と前記壁面で1回もしくは複数回反射して前記聴衆領域に放音を行う第2の放音経路とを設定する放音経路設定手段と、オーディオ信号を前記第1の放音経路を用いて放音させる場合の第1の遅延時間と第1の増幅率、前記オーディオ信号を前記第2の放音経路を用いて放音させる場合の第2の遅延時間と第2の増幅率を決定する遅延・増幅率決定手段と、遅延・増幅率決定手段が決定した前記第1、第2の遅延時間に基づいてオーディオ信号に遅延処理をして第1、第2の信号を生成する信号処理手段と、遅延・増幅率決定手段が決定した前記第1、第2の増幅率に基づいて前記第1、第2の信号を増幅して第1、第2の増幅信号を生成する増幅手段と、前記第1の増幅信号に基づいた音を前記第1の放音経路に向けて放出する第1の放音手段と、前記第2の増幅信号に基づいた音を前記第2の放音経路に向けて放出する第2の放音手段とを具備し、前記遅延・増幅率決定手段は、前記読出手段によって読み出された前記壁面情報と、前記聴衆領域情報と、前記設置位置情報とに基づいて、前記聴衆領域における音波の到達態様が前記パラメータ設定手段によって設定されたパラメータに対応するように前記第1、第2の遅延時間および前記第1、第2の増幅率を決定することを特徴とする音響発生装置を提供する。
【0006】
また、別の好ましい態様において、前記パラメータは、前記第1、第2の放音手段からインパルスを発生させたときに、前記聴衆領域に到達する全音響エネルギーと第1の所定時間に到達する音響エネルギーとの比を示す値であり、前記遅延・増幅率決定手段は前記比に対応して前記第1、第2の遅延時間および前記第1、第2の増幅率を決定してもよい。
【0007】
また、別の好ましい態様において、前記パラメータは、前記第1、第2の放音手段からインパルスを発生させたときに、前記聴衆領域に第2の所定時間に到達する音響エネルギーと第3の所定時間に前記壁面の反射を介して到達する音響エネルギーとの比を示す値であり、前記遅延・増幅率決定手段は前記比に対応して前記第1、第2の遅延時間および前記第1、第2の増幅率を決定してもよい。
【0008】
また、別の好ましい態様において、前記第1、第2の放音手段は、複数のスピーカを有するアレイスピーカであって、前記放音経路設定手段は、前記スピーカからの放音を制御して前記第1、第2の放音経路を設定してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1箇所のスピーカシステムで、聴衆方向とホール等の側壁方向へ別々に音を放出し、それぞれの音の遅延と音量を変化させて音の明瞭度と拡がり感を示す空間印象を制御することができる音響発生装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
<実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る音響発生装置1の構成を示したブロック図である。まず、ホールに設置された音響発生装置1の構成について説明する。スピーカ2−1および2台のスピーカ2−2は、スピーカの向きを変えることにより、指向方向を変化させることができる狭指向性のホーンスピーカであって、方向制御部10によってスピーカ2−1はホールの聴衆領域に、2台のスピーカ2−2は各々ホールの両サイドの壁面(聴衆領域において、音響発生装置1の設置方向に向かって左右に存在する壁面、以下、側壁という)に放音されるように、スピーカの向きが制御される。以後、スピーカ2−1から放出された音はメイン音響ビームといい、スピーカ2−2から放出された音はサイド音響ビームという。
【0012】
記憶部(記憶手段)3は、情報入力部4から入力された音響発生装置1が設置されたホールの壁面の形状の情報(壁面情報)、ホール内において音響発生装置1からの放音を聴く領域を示す聴衆領域の情報(聴衆領域情報)、音響発生装置1が設置された位置(座標、音響発生装置1の向き)の情報(設置位置情報)など音響発生装置1が設置された環境の情報を記憶する部屋情報記憶領域を有する。なお、壁面情報は、ここでは、ホールを形成する全ての壁面の形状を示しているが、少なくとも側壁の壁面の形状の情報を有していればよい。
【0013】
操作部(パラメータ設定手段)5は、聴衆領域における音の感じ方を示すパラメータとして、音の明瞭度と拡がり感をそれぞれ設定するボリュームを有し、それぞれの設定値を制御部6に出力する。制御部6は、記憶部3の所定の領域に記憶されているプログラムを読み出して実行することにより、記憶部3の部屋情報記憶領域から読み出した壁面情報と、聴衆領域情報と、設置位置情報と、操作部5から出力された設定値とに基づいて、メイン音響ビームおよびサイド音響ビームの遅延時間と音量を決定する増幅率とを計算する。例えば、明瞭度、拡がり感の指標として、それぞれD(definition)50、LF(early lateral energy fraction)を用い、制御部6は、明瞭度を向上させるためにはD50を増加させ、拡がり感を増加させるためにはLFを増加させるように、メイン音響ビームとサイド音響ビームの遅延時間と増幅率とを計算する。そして、計算した遅延時間を示す遅延制御信号を信号処理部8に出力し、また、計算した増幅率になるようにアンプ7−1、7−2を制御する。
【0014】
ここで、D50、LFについて説明する。D50は、数1で示す数式で表され、所定の位置(本実施形態においては、聴衆領域)におけるインパルス応答の全音響エネルギーに対するインパルス応答の初期の50msまでの音響エネルギーの比であり、スピーチの明瞭度と相関があるとされている値である。そして、所定の位置に対して、初期の50msまでに音響エネルギーを多く到達させることによりD50を増加させるようにすれば、音の明瞭度を向上させることができる。
【0015】
【数1】


【0016】
また、LFは、数2で示す数式で表され、所定の位置(本実施形態においては、聴衆領域)における初期の80msまでのインパルス応答の音響エネルギーに対する、インパルス応答の5msから80msまでの側方からくる音響エネルギーの比であり、音の拡がり感と相関があるとされている値である。そして、所定の位置に対して、5msから80msまでの間に側方からくる音響エネルギー(本実施形態においては、サイド音響ビームの音響エネルギー)を多く到達させることによりLFを増加させれば、音の拡がり感を増加させることができる。
【0017】
【数2】


【0018】
ここで、数1、数2に記載のp(t)は、全方向からのインパルス応答を示し、数2に記載のp(t)は側方からのインパルス応答を示している。
【0019】
さらに、制御部6は、方向制御部10に、記憶部3の部屋情報記憶領域から読み出した壁面情報と、聴衆領域情報と、設置位置情報とに基づいて、スピーカ2−1をホールの聴衆領域に、2台のスピーカ2−2を各々ホールの両サイドの壁面に放音するようにスピーカの指向方向を制御させる。
【0020】
信号処理部8は、信号入力部9から入力されたオーディオ信号に対して、制御部6から出力された遅延制御信号に応じて遅延処理を行い、メイン音響ビームとして放出するためのメイン音響ビーム用オーディオ信号と、サイド音響ビームとして放出するためのサイド音響ビーム用オーディオ信号とを生成する。そして、メイン音響ビーム用オーディオ信号をアンプ7−1に出力し、サイド音響ビーム用オーディオ信号をアンプ7−2に出力する。ここで、サイド音響ビーム用オーディオ信号は、アンプ7−2に出力される前に、FIRフィルタによって側壁多重反射の間を埋めるように信号処理される。なお、ここでは、デジタルフィルタとしてFIRフィルタを用いたが、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタを用いてもよいし、デジタルフィルタを用いずに、サイド音響ビーム用オーディオ信号をそのままアンプ7−2に出力するようにしてもよい。
【0021】
アンプ7−1は、信号処理部8から出力されたメイン音響ビーム用オーディオ信号を制御部6から制御された増幅率で増幅し、スピーカ2−1に出力してメイン音響ビームとして放出する。同様にアンプ7−2は、信号処理部8から出力されたサイド音響ビーム用オーディオ信号を制御部6から制御された増幅率で増幅し、スピーカ2−2に出力してサイド音響ビームとして放出する。
【0022】
次に、図2に示すような15m幅のホール100に音響発生装置1を設置した場合の動作について説明する。音響発生装置1は、図示のように、ホール100の15m幅の壁面100a付近に設置されている。ここでは、聴衆位置は図中の破線で示すように、本来、一定の範囲をもった聴衆領域110となっているが、以下、説明を簡易にするために、聴衆領域110の重心の位置を聴衆位置111とし、音響発生装置1の正面方向に20mの位置であるものとする。
【0023】
最初にホール100に音響発生装置1を設置した際に、情報入力部4を介して、記憶部3の部屋情報記録領域に、CAD情報などにより生成したホールの壁面の形状の情報、聴衆位置111の情報、音響発生装置1が設置された位置の情報を記憶させておく。部屋情報記録領域の情報に基づいて、制御部6は、方向制御部10に、スピーカ2−1をホールの聴衆領域に、2台のスピーカ2−2を各々ホールの側壁に放音するようにスピーカの指向方向を制御させる。また、部屋情報記録領域の情報と音速340m/sとから、スピーカ2−1から発せられたメイン音響ビームが聴衆位置111に到達する時間t、スピーカ2−2から発せられたサイド音響ビームが側壁に1回反射して聴衆位置111に到達する時間t、2回反射して聴衆位置111に到達する時間t、そして順にt、t、・・・が計算できる。例として、側壁に2回反射している状態を示すサイド音響ビームsb2の様子を図2に2点鎖線として示してある。このサイド音響ビームの行路長36.1mと音速からt=106msとして計算することができる。同様にして、t=59ms、t=74ms、t=145ms、t=186msと計算できる。図3に、遅延処理、増幅処理をされていないインパルス信号を示すメイン音響ビームおよびサイド音響ビームが放出された場合の聴衆位置111におけるインパルス応答列を示す。グラフの横軸は、メイン音響ビームおよびサイド音響ビームがスピーカ2−1,2−2から放出されてから経過した時刻、縦軸は、インパルス応答の音量を示している。そして、図中の破線は、信号処理部8において、サイド音響ビーム用オーディオ信号にFIRフィルタによって信号を畳み込んだ場合のインパルス応答を示している。
【0024】
次に、操作者は、操作部5を操作し、明瞭度(D50)と拡がり感(LF)の設定を行う。そして、制御部6は、操作部5での設定に応じて、信号処理部8に対してオーディオ信号の遅延処理をさせ、また、アンプ7−1、7−2の増幅率の制御を行う。ここで、遅延時間と増幅率の制御を行った場合の、D50とLFの増減について説明を行う。
【0025】
まず、オーディオ信号の遅延を制御した場合について図4(a)〜図4(e)を用いて説明する。図4(a)〜図4(e)は、図3と同様にインパルス応答列を示し、グラフの横軸は、メイン音響ビームまたはサイド音響ビームのうち、先に放出された少なくとも一方が放出された時から経過した時刻を示している。
【0026】
まず、図4(a)に示すように、インパルス応答列の各インパルス応答に対して到達順にアルファベットを振った場合、最初のインパルス応答Aが到達したtからt+50msまでの間には、インパルス応答AからFまで含まれ、tからt+80msまでの間には、インパルス応答AからIまでが含まれる。そして、図4(b)に示すように、メイン音響ビーム用オーディオ信号に10msの遅延を行った場合には、tからt+50msまでの間にはインパルス応答AからHまでが含まれ、遅延処理をしない場合に比べて、インパルス応答G、Hが加わることによりD50が増加する。また、t+5msからt+80msまでの間に側方から届く、すなわちサイド音響ビームに対応するインパルス応答には、インパルス応答BからKまでが含まれ、遅延処理をしない場合に比べて、インパルス応答J、Kが加わることによりLFも増加する。
【0027】
一方、図4(c)に示すように、サイド音響ビーム用オーディオ信号に10msの遅延を行った場合には、tからt+50msまでの間には、インパルス応答AからDまでが含まれ、遅延処理をしない場合に比べて、インパルス応答E、Fが無くなることによりD50が減少する。そして、t+5msからt+80msまでの間に側方から届くインパルス応答には、インパルス応答BからHまでが含まれ、遅延処理をしない場合に比べて、インパルス応答Iが無くなることによりLFも減少する。
【0028】
次に、増幅率を制御した場合について説明する。図4(d)に示すように、図4(a)の場合に比べて、メイン音響ビーム用オーディオ信号の増幅率を増加させて、サイド音響ビーム用オーディオ信号の増幅率を減少させることにより、相対的にメイン音響ビームの音量を増加させた場合、メイン音響ビームの音響エネルギーの割合が増加し、全体の音響エネルギーに対する、tからt+50msまでの間に到達するインパルス応答AからFの音響エネルギーの比が増加するから、D50が増加する。また、tからt+80msまでの間に到達するインパルス応答AからIの音響エネルギーに対する、t+5msからt+80msまでの間に側方から届くインパルス応答BからIまでの音響エネルギーの比が減少するからLFは減少する。
【0029】
一方、図4(e)に示すように、相対的にサイド音響ビームの音量を増加させた場合、メイン音響ビームの音響エネルギーの割合が減少し、全体の音響エネルギーに対する、tからt+50msまでの間に到達するインパルス応答AからFの音響エネルギーの比が減少するから、D50が減少する。また、tからt+80msまでの間に到達するインパルス応答AからIの音響エネルギーに対する、t+5msからt+80msまでの間に側方から届くインパルス応答BからIまでの音響エネルギーの比が増加するからLFは増加する。
【0030】
このように、メイン音響ビームの遅延時間を大きくすると、D50とLFは、ともに増加し、サイド音響ビームの遅延時間を大きくすると、D50とLFはともに減少する。そのため、遅延時間の制御によりD50とLFがともに正の相関をもって増減することになる。一方、メイン音響ビームの音量をサイド音響ビームの音量に比べて相対的に増加させると、D50は増加し、LFは減少する。また、サイド音響ビームの音量をメイン音響ビームの音量に比べて相対的に増加させると、D50は減少し、LFは増加する。そのため、音量の制御すなわち増幅率の制御によっては、D50とLFが負の相関をもって増減することになる。これにより、遅延時間と増幅率の制御の組み合わせによって、D50とLFを様々な値に調節することができ、様々な明瞭度と拡がり感に対応することができる。
【0031】
例えば、明瞭度のみを向上させ、拡がり感については変化させたくない場合については、D50を増加させてLFは一定に保つようにすればよい。その場合、メイン音響ビーム用オーディオ信号を遅延させる処理によりD50を増加させ、その効果によりともにLFは増加する。一方で、LFを元の水準にもどすため、サイド音響ビームの音量がメイン音響ビームの音量に対して、相対的に小さくなるようにアンプ7−1、7−2の増幅率を制御すれば、D50をさらに増加させて、LFを低下させることができる。これにより、LFは一定に保ちD50のみを増加させることが可能となる。なお、ここでは、メイン音響ビーム用オーディオ信号を遅延させる処理を行っているが、さらに、サイド音響ビーム用オーディオ信号に対しても遅延処理を行ってもよい。この場合は、サイド音響ビームに対してメイン音響ビームが相対的に遅延するように処理を行えばよい。
【0032】
そして、遅延、増幅制御されたそれぞれのオーディオ信号は、スピーカ2−1からメイン音響ビームとして、スピーカ2−2からサイド音響ビームとして放出され、設定された明瞭度と拡がり感に応じた音として、聴衆位置111に到達する。
【0033】
このように、音響発生装置1は、設定された明瞭度と拡がり感に応じた音を聴衆位置において聞くことができるように、記憶部3に事前に記憶された使用するホールの壁面の形状、聴衆位置、音響発生装置1が設置された位置の情報と、操作部5から出力された設定値とに基づいて、制御部6において明瞭度と拡がり感の指標としてD50、LFを用いて遅延時間と増幅率を計算し、信号処理部8においてオーディオ信号を遅延処理し、アンプ7−1、7−2において増幅し、スピーカ2−1、2−2から聴衆位置方向にメイン音響ビームを側壁方向にサイド音響ビームを放出することにより、聴衆位置111における音の明瞭度と拡がり感を簡易に制御することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
【0035】
<変形例1>
実施形態においては、スピーカ2−1は、ホールの聴衆領域に向けられた狭指向性のホーンスピーカであり、2台のスピーカ2−2は、ホールの側壁に向けられた狭指向性のホーンスピーカとしたが、これらのスピーカをアレイスピーカ12として聴衆領域に指向したメイン音響ビームと側壁に指向したサイド音響ビームを放出するようにした音響発生装置11としてもよい。この場合は、図5に示すように構成し、アレイスピーカ12から放出される音の指向方向の制御を行えるように、信号処理部8から出力された信号の位相や振幅などを制御し、各スピーカ12−1、12−2、・・・12−nに接続されているそれぞれのアンプ17−1、17−2、・・・、17−nに対して出力する指向制御部18を具備するようにすればよい。ここで、指向させる方向については、記憶部3の部屋情報記憶領域に記憶されている音響発生装置11が設置されたホールの壁面の形状、聴衆領域、音響発生装置11が設置された位置など音響発生装置11が設置された環境の情報に基づいて制御部6が計算すればよい。このとき、指向させる方向だけでなく、指向角(音響ビームの拡がり)も制御するようにしてもよい。これにより、実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、アレイスピーカを複数用いて使い分けるようにして、異なる指向方向のメイン音響ビームとサイド音響ビームを放出してもよい。
【0036】
<変形例2>
実施形態においては、聴衆位置111を聴衆領域110の重心の位置として設定したが、聴衆位置を聴衆領域110内の複数箇所設定してもよい。この場合は、操作部5により設定された明瞭度により決まるD50と、放音された場合のそれぞれの聴取位置におけるD50との差を算出し、それぞれの聴衆位置におけるD50の差の合計が最小になるように、制御部6に計算させればよい。このようにすると、1箇所における計算でなく、一定の範囲における計算となるため、設定された明瞭度をより広い聴衆領域に対して違和感無く与えることができる。なお、LFについてもD50の場合と同様に制御部6に計算させればよい。
【0037】
<変形例3>
実施形態においては、音速を340m/sとして設定していたが、図1に破線で示したように、温度センサ11を制御部6に接続し、温度センサ11が検出した温度に基づいて音速に温度依存性を持たせるようにして制御部6に計算させてもよい。その場合は、温度センサ11が検出した温度がt(℃)であった場合、331.5+0.61t(m/s)として計算して補正すればよい。これにより、明瞭度と拡がり感をより精度良く制御することができる。なお、温度センサ11は、音響発生装置1と同じ場所に設置されていてもよいし、聴衆領域など音響発生装置1と離れた場所に設置して、その検出した温度の情報を有線や無線などにより制御部6に伝達してもよい。
【0038】
<変形例4>
実施形態においては、サイド音響ビームはホールの側壁に向けて放出されていたが、さらに別のサイド音響ビームを聴衆方向や1次反射音が聴衆に届く方向以外の方向、例えば、天井、側壁上部、後壁上部などに向けて放出してもよい。これにより、明瞭度や拡がり感とは別に、残響音による音に包まれた感じ(LEV:Listener Envelopment)を制御することができる。また、自然さやハウリング防止のために、指向軸をダイナミックに動かし、音場構造に時変性を持たせてもよい。
【0039】
<変形例5>
実施形態においては、明瞭度はD50を用いて、聴衆位置におけるインパルス応答の全音響エネルギーに対する初期の50msまでの音響エネルギーの比を音の明瞭度の指標として使用していたが、50msという時間を変更できるようにしてもよい。この場合は、操作部5を操作することにより変更できるようにすればよい。このようにすると、さまざまな設定値において音の明瞭度の変化を試すことができ、設置された環境にあった最適な設定値を選定することができる。LFについてもD50同様に時間に関する値(5ms、80ms)を設定できるようにしてもよい。
【0040】
<変形例6>
実施形態においては、明瞭度や拡がり感の指標として、D50、LFを用いていたが、新たに別の指標を作成して計算してもよい。この場合は、情報入力部4を介して記憶部3の所定の領域に記憶されているプログラムを新たな指標に基づいて計算できるようなプログラムに変更しておいてもよいし、事前に記憶部3に複数のプログラムを記憶させておき、操作部5において、プログラムを選択するようにしておいてもよい。このようにすると、さまざまな指標によって明瞭度や拡がり感の変化を試すことができ、設置された環境にあった最適なプログラムを選定することができる。
【0041】
<変形例7>
実施形態においては、音響発生装置1は、壁面により閉じた空間のホール100に設置されていたが、聴衆領域と、少なくとも1面の壁面とを有する領域に設置するようにしてもよい。この場合は、メイン音響ビームを聴衆領域へ放出し、サイド音響ビームを当該壁面に放出するようにすればよい。そして、当該壁面において反射したサイド音響ビームが、聴衆領域に到達するようにすればよい。このように、音響発生装置1は、室内への設置に限らず、多様な場所に設置することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ホールに設置された音響発生装置と聴衆位置の関係を示す説明図である。
【図3】遅延処理を行わない場合の聴衆位置におけるインパルス応答列を示す説明図である。
【図4(a)】聴衆位置におけるインパルス応答列を示す説明図である。
【図4(b)】メイン音響ビームに遅延処理を行った場合の聴衆位置におけるインパルス応答列を示す説明図である。
【図4(c)】サイド音響ビームに遅延処理を行った場合の聴衆位置におけるインパルス応答列を示す説明図である。
【図4(d)】メイン音響ビームの音量を相対的に大きくした場合の聴衆位置におけるインパルス応答列を示す説明図である。
【図4(e)】サイド音響ビームの音量を相対的に大きくした場合の聴衆位置におけるインパルス応答列を示す説明図である。
【図5】本発明の変形例1に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0043】
1,11…音響発生装置、2−1,2−2,12−1,12−2,・・・,12−n…スピーカ、3…記憶部、4…情報入力部、5…操作部、6…制御部、7−1,7−2,17−1,17−2,・・・,17−n…アンプ、8…信号処理部、9…信号入力部、10…方向制御部、11…温度センサ、12…アレイスピーカ、18…指向制御部、100…ホール、100a…ホール壁面、110…聴衆領域、111…聴衆位置
【出願人】 【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
【出願日】 平成18年9月6日(2006.9.6)
【代理人】 【識別番号】100098084
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 研二


【公開番号】 特開2008−67000(P2008−67000A)
【公開日】 平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願番号】 特願2006−241905(P2006−241905)