トップ :: H 電気 :: H01 基本的電気素子

【発明の名称】 セミ沿面スパークプラグ
【発明者】 【氏名】森 清輝

【要約】 【課題】奥飛火現象を起こりにくくし、セミ沿面用接地電極との間で正常な放電を起こりやすくすることのできるセミ沿面スパークプラグを提供する。

【解決手段】スパークプラグは主体金具と、絶縁体2と、中心電極3と、接地電極4A〜4Dとを備える。各接地電極4〜4Dの先端面と中心電極3との間に火花放電経路が形成され、その一部に絶縁体2の先端面2aに沿う沿面放電経路が含まれる。中心電極3を軸線C1方向に見た場合において、全ての各接地電極4A〜4Dに対応して中心電極3に規定される4つの接地電極側領域53、並びに、内側円周線33で囲まれた内側領域54が第1エリアE1とされ、それ以外の領域が第2エリアE2とされる。中心電極3の先端部分は、凹部分62と、該凹部分62よりも0.1mm以上先端側に突出する凸部分61とを具備し、第1エリアE1は凸部分61、第2エリアE2は凹部分62となっている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔に挿設された中心電極と、
前記絶縁体の外周に設けられ、自身の先端より前記絶縁体の先端面が突出するように配置された主体金具と、
自身の基端部が前記主体金具の先端面に固着された複数本のセミ沿面用接地電極とを備え、
前記各セミ沿面用接地電極の先端と前記中心電極との間の火花放電経路の一部に、前記絶縁体の先端面に沿う沿面放電経路が含まれるセミ沿面スパークプラグであって、
前記中心電極の先端部分は、凹部分と、該凹部分よりも先端側に突出する凸部分とを具備しており、
前記中心電極を軸線に対し直交する方向に見た場合に、
前記絶縁体の先端面をゼロとし当該先端面よりも先端側をプラス側としたとき、
前記凸部分の先端面は、−0.1mm又は−0.1mmよりもプラス側に位置し、
前記凹部分の先端面は、−0.2mm又は−0.2mmよりもマイナス側に位置し、
前記中心電極を軸線方向に見た場合に、
前記中心電極の中心点と前記セミ沿面用接地電極のうちの一に対し、当該セミ沿面用接地電極の先端の内端角点とを結ぶ一対の線分と、
前記中心電極の外周縁と、
前記中心電極の中心点を中心とし前記中心電極の外周縁よりも内側の内側円周線と
で囲まれた領域を接地電極側領域とし、
全ての前記各セミ沿面用接地電極に対応して前記中心電極に規定される複数の前記接地電極側領域、並びに、前記内側円周線で囲まれた内側領域を第1エリアとし、
前記第1エリア以外の領域を第2エリアとしたとき、
前記凸部分は、前記第2エリアに位置することなく、前記第1エリアのうち、前記接地電極側領域においてそれぞれ少なくとも一部に位置する、又は、
前記凸部分は、前記第1エリアのうち、前記接地電極側領域においてそれぞれ少なくとも一部に位置するとともに、前記第2エリアのうち、前記第1エリアの前記接地電極側領域に位置する部分よりも内周側に位置し、
前記凹部分は、前記第2エリアにおいてそれぞれ少なくとも一部に位置することを特徴とするセミ沿面スパークプラグ。
【請求項2】
前記中心電極を軸線に対し直交する方向に見た場合に、
前記絶縁体の先端面をゼロとし当該先端面よりも先端側をプラス側としたとき、
前記凸部分の先端面は、−0.1mm〜+0.3mmの範囲内に位置し、
前記凹部分の先端面は、−1.0mm〜−0.2mmの範囲内に位置することを特徴とする請求項1に記載のセミ沿面スパークプラグ。
【請求項3】
前記凸部分を、前記中心電極を構成する母材に対し接合され、前記各セミ沿面用接地電極に相対して配設された複数の貴金属チップにより構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のセミ沿面スパークプラグ。
【請求項4】
前記凸部分を、前記中心電極を構成する母材に対し接合された多角柱状又は多角錐台状をなす単一の貴金属チップにより構成するとともに、当該貴金属チップのうち、隣接し合う側面同士が交わるエッジ部に対し、前記各セミ沿面用接地電極を対向させて配設したことを特徴とする請求項1又は2に記載のセミ沿面スパークプラグ。
【請求項5】
前記第1エリアを画定する前記内側円周線の外径は、前記中心電極の外径の60%〜90%の範囲内にて設定されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のセミ沿面スパークプラグ。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に使用されるスパークプラグに係り、特に、セミ沿面放電を行いうるスパークプラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐汚損性を改善した内燃機関用のスパークプラグとしてセミ沿面放電型と呼ばれるものが知られている。このようなセミ沿面放電型のスパークプラグは、通常の気中放電型のスパークプラグと同様に、中心電極と、その外周に設けられた絶縁体と、当該絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、基端部が前記主体金具の先端部に接合された接地電極とを備える。但し、セミ沿面放電型のスパークプラグにあっては、絶縁体の先端面が中心電極の発火部と接地電極の発火部との間に入り込む位置関係で配置されている。これにより、絶縁体先端面に沿う形で火花放電が起こりうる。
【0003】
一般に、電極温度が例えば450℃以下の低温環境でスパークプラグが長時間使用されると、いわゆる「燻り」や「かぶり」と称される状態となり、絶縁体先端面がカーボンなどの導電性汚損物質で覆われて作動不良が生じやすくなる。この点、上記セミ沿面放電型のスパークプラグによれば、絶縁体先端面を這う形で火花放電が生じうる。そのため、汚損物質が焼き切られる(火花清浄される)こととなり、気中放電型のスパークプラグと比べて耐汚損性の向上が図られる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−50455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば筒内直噴エンジン等にあっては、スパークプラグ近傍において比較的リッチな混合気が存在する燃焼状態がある(成層燃焼)。このため、燻り汚損が比較的起こりやすく、汚損物質たるカーボンを伝って電流がリークする、所謂「奥飛火」なる現象が起こりやすくなってしまう。
【0005】
特に、セミ沿面放電型のスパークプラグにあっては、燻り汚損が起きたときの絶縁体先端面に着目すると、中心電極近傍周縁のみが火花清浄され絶縁状態が保たれている一方で、外周側に汚損物質が堆積している場合がある。この場合においては、中心電極と前記絶縁体先端面外周側に堆積した汚損物質との間でも火花放電が起こりうる。このときの火花放電の飛火方向が接地電極側を向いていれば、前記外周側に堆積した汚損物質からさらに接地電極に飛火する確率が高い。ところが、飛火方向が接地電極側を向いていない場合には、接地電極に飛火しにくく、上述したれば「奥飛火」なる現象が起こってしまう傾向にある。
【0006】
そして、このように正常に接地電極との間で放電せず(正規放電が行われず)、「奥飛火」現象が起こってしまうと、着火性能が悪化し、燃焼不良や失火といった不具合を招くおそれがある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、セミ沿面放電を行うスパークプラグに関し、奥飛火現象を起こりにくくし、セミ沿面用接地電極との間で正常な放電を起こりやすくすることのできるセミ沿面スパークプラグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題等を解決するのに適した各構成を項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果等を付記する。
【0009】
構成1.本構成のスパークプラグは、軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔に挿設された中心電極と、
前記絶縁体の外周に設けられ、自身の先端より前記絶縁体の先端面が突出するように配置された主体金具と、
自身の基端部が前記主体金具の先端面に固着された複数本のセミ沿面用接地電極とを備え、
前記各セミ沿面用接地電極の先端と前記中心電極との間の火花放電経路の一部に、前記絶縁体の先端面に沿う沿面放電経路が含まれるセミ沿面スパークプラグであって、
前記中心電極の先端部分は、凹部分と、該凹部分よりも先端側に突出する凸部分とを具備しており、
前記中心電極を軸線に対し直交する方向に見た場合に、
前記絶縁体の先端面をゼロとし当該先端面よりも先端側をプラス側としたとき、
前記凸部分の先端面は、−0.1mm又は−0.1mmよりもプラス側に位置し、
前記凹部分の先端面は、−0.2mm又は−0.2mmよりもマイナス側に位置し、
前記中心電極を軸線方向に見た場合に、
前記中心電極の中心点と前記セミ沿面用接地電極のうちの一に対し、当該セミ沿面用接地電極の先端の内端角点とを結ぶ一対の線分と、
前記中心電極の外周縁と、
前記中心電極の中心点を中心とし前記中心電極の外周縁よりも内側の内側円周線と
で囲まれた領域を接地電極側領域とし、
全ての前記各セミ沿面用接地電極に対応して前記中心電極に規定される複数の前記接地電極側領域、並びに、前記内側円周線で囲まれた内側領域を第1エリアとし、
前記第1エリア以外の領域を第2エリアとしたとき、
前記凸部分は、前記第2エリアに位置することなく、前記第1エリアのうち、前記接地電極側領域においてそれぞれ少なくとも一部に位置する、又は、
前記凸部分は、前記第1エリアのうち、前記接地電極側領域においてそれぞれ少なくとも一部に位置するとともに、前記第2エリアのうち、前記第1エリアの前記接地電極側領域に位置する部分よりも内周側に位置し、
前記凹部分は、前記第2エリアにおいてそれぞれ少なくとも一部に位置することを特徴とする。
【0010】
ここで、本構成1のスパークプラグがセミ沿面スパークプラグである以上、各セミ沿面用接地電極の先端と中心電極との間の火花放電経路の一部に、絶縁体の先端面に沿う沿面放電経路が含まれている必要がある。すなわち、絶縁体の先端面を延長させた場合にその延長面が、つまり絶縁体先端面を含む仮想平面が、セミ沿面用接地電極の先端の放電面と交わるよう、セミ沿面用接地電極が設けられる必要がある。一例を挙げれば、セミ沿面用接地電極が中心電極に向かって曲げられている前提において、絶縁体の先端面が、軸線方向においてセミ沿面用接地電極先端面の一端縁と他端縁との間に位置している構成である。
【0011】
また、「前記第1エリア以外の領域を第2エリアとしたとき、」とあるが、これは、「前記中心電極を軸線方向に見た場合に、」という要件を前提としている。すなわち、第1エリア、第2エリアいずれも、中心電極を軸線方向に見た場合の中心電極の端面領域を意味するものである。
【0012】
上記構成1によれば、火花放電経路の一部に、絶縁体の先端面に沿う沿面放電経路が含まれるため、絶縁体先端面を這う形で火花放電が生ずる。このため、汚損物質が焼き切られることとなり、耐汚損性の確保が図られる。
【0013】
特に、構成1では、前記中心電極の先端部分は、凹部分と、該凹部分よりも先端側に突出する凸部分とを具備しており、中心電極を軸線に対し直交する方向に見た場合に、前記絶縁体の先端面をゼロとし当該先端面よりも先端側をプラス側としたとき、凸部分の先端面は、−0.1mm又は−0.1mmよりもプラス側に位置し、前記凹部分の先端面は、−0.2mm又は−0.2mmよりもマイナス側に位置している。このため、凸部分においては、凹部分に比べ、火花放電がより起こりやすいものとなる。
【0014】
また、中心電極を軸線方向に見た場合に、中心電極の中心点とセミ沿面用接地電極のうちの一に対し、当該セミ沿面用接地電極の先端の内端角点とを結ぶ一対の線分と、中心電極の外周縁と、中心電極の中心点を中心とし中心電極の外周縁よりも内側の内側円周線とで囲まれた領域が接地電極側領域と規定される。そして、中心電極を軸線方向に見た場合において、全ての各セミ沿面用接地電極に対応して中心電極に規定される複数の接地電極側領域、並びに、内側円周線で囲まれた内側領域を第1エリアとし、第1エリア以外の領域を第2エリアとしたとき、前記凸部分は、第2エリアに位置することなく、第1エリアのうち、接地電極側領域においてそれぞれ少なくとも一部に位置しているか、又は、第1エリアのうち、接地電極側領域においてそれぞれ少なくとも一部に位置するとともに、第2エリアのうち、第1エリアの前記接地電極側領域に位置する部分よりも内周側に位置している。一方で、前記凹部分は、第2エリアにおいてそれぞれ少なくとも一部に位置している。
【0015】
このため、接地電極側領域の凸部分は、凹部分と比較して、セミ沿面用接地電極との距離がより短いものとなる。従って、凹部分、つまり、セミ沿面用接地電極から比較的離間した位置から、火花放電が起こる頻度が少なくて済む。そのため、例えば絶縁体先端面外周側に汚損物質が堆積している状態において、中心電極と絶縁体先端面外周側に堆積した汚損物質との間で火花放電が起こった場合、火花放電の飛火方向がセミ沿面用接地電極側を向いている頻度がより高いものとなり、外周側に堆積した汚損物質からさらにセミ沿面用接地電極に飛火する確率が高くなる。その結果、セミ沿面用接地電極の方へ向かない飛火が起こりにくく、「奥飛火」なる現象を抑制することができる。
【0016】
尚、前記凸部分の先端面が、−0.1mmよりもマイナス側に位置していると、放電距離が長くなり、要求電圧の上昇を招いてしまったり、また、放電による絶縁体の削れ(所謂チャンネリング)の発生を招いてしまったりするおそれがあるため、望ましくない。また、前記凹部分の先端面が、−0.2mmよりもプラス側に位置していると、上述した凹部分から火花放電が起こる頻度が少なくて済むという作用効果が十分に発揮されないおそれがあるため、望ましくない。
【0017】
構成2.本構成のセミ沿面スパークプラグは、上記構成1において、前記中心電極を軸線に対し直交する方向に見た場合に、前記絶縁体の先端面をゼロとし当該先端面よりも先端側をプラス側としたとき、
前記凸部分の先端面は、−0.1mm〜+0.3mmの範囲内に位置し、
前記凹部分の先端面は、−1.0mm〜−0.2mmの範囲内に位置することを特徴とする。
【0018】
上記構成2のように、凸部分の先端面を−0.1mm〜+0.3mmの範囲内に、凹部分の先端面を、−1.0mm〜−0.2mmの範囲内に、それぞれ位置する構成とすることで、上述した作用効果がより確実に奏されることとなる。尚、前記凸部分の先端面が+0.3mmよりもプラス側に位置すると、絶縁体先端面を這う形での火花放電が起こりにくくなり、セミ沿面スパークプラグとしての機能を発揮し難い。また、中心電極は、ニッケル合金等よりなる外層及び銅よりなる内層の2層構造を具備しているケースが多いのが一般的であるところ、前記凹部分の先端面が−1.0mmよりもマイナス側に位置すると、内層が露出してしまうことが懸念される。また、−1.0mmよりもマイナス側に位置すると、上記露出のみならず、加工に要する工数の増加や、中心電極のボリューム(体積)の減少により耐久性が過剰に低下してしまうことも懸念される。
【0019】
構成3.本構成のセミ沿面スパークプラグは、上記構成1又は2のいずれかにおいて、 前記凸部分を、前記中心電極を構成する母材に対し接合され、前記各セミ沿面用接地電極に相対して配設された複数の貴金属チップにより構成したことを特徴とする。
【0020】
上記構成3のように、凸部分を、各セミ沿面用接地電極に相対して配設された複数の貴金属チップにより構成してもよい。この場合、貴金属チップを母材に対し接合すればよいため、別途中心電極の先端部分を切削加工等する必要がなく、また、凹部分の先端面と凸部分の先端面との距離を比較的大きく構成することもできる。さらに、切削加工等を必要としないため、複数の凸部分同士の間隔を比較的狭く構成することもできる。
【0021】
構成4.本構成のセミ沿面スパークプラグは、上記構成1又は2のいずれかにおいて、 前記凸部分を、前記中心電極を構成する母材に対し接合された多角柱状又は多角錐台状をなす単一の貴金属チップにより構成するとともに、当該貴金属チップのうち、隣接し合う側面同士が交わるエッジ部に対し、前記各セミ沿面用接地電極を対向させて配設したことを特徴とする。
【0022】
上記構成4のように、凸部分を、前記中心電極を構成する母材に対し接合された多角柱状又は多角錐台状をなす単一の貴金属チップにより構成してもよい。但し、当該貴金属チップのうち、隣接し合う側面同士が交わるエッジ部(例えば多角柱状であれば軸線と平行に延びるエッジ部)に対し、前記各セミ沿面用接地電極が対向させられて配設される。この場合、単一の貴金属チップを母材に対し接合すればよいため、接合後において切削加工等を要しないのみならず、一度の接合工程を経ればよいため、製造に要する工数、時間等の著しい削減を図ることができる。尚、本構成4においては、セミ沿面用接地電極が対向していないエッジ部が存在していても差し支えない。
【0023】
構成5.本構成のセミ沿面スパークプラグは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、 前記第1エリアを画定する前記内側円周線の外径は、前記中心電極の外径の60%〜90%(より望ましくは70%〜85%)の範囲内(例えば80%)にて設定されることを特徴とする。
【0024】
第1エリアを画定する内側円周線の外径が、上記範囲の最小の径よりも小さい場合には、耐消耗性(耐久性)が低下してしまうという懸念が生じる。また、第1エリアを画定する内側円周線の外径が、上記範囲の最大の径よりも大きい場合には、凹部分が、セミ沿面用接地電極に対しより遠くなることによる作用効果が得られ難くなるという懸念が生じる。この点、構成5によれば、第1エリアを画定する内側円周線の外径が、上記範囲内に設定されているため、耐消耗性の低下を招きにくく、かつ、セミ沿面用接地電極の方へ向かない飛火が起こりにくい。つまり、奥飛火の抑制、耐久性確保といった両作用効果がバランスよく奏されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1(a),(b)及び図2(a),(b)に示すように、本実施形態のスパークプラグ100は、主体金具1と、絶縁体2と、中心電極3と、4本のセミ沿面用接地電極(以下、単に「接地電極」と称する)4A,4B,4C,4Dとを備えている(但し、図1(a)においては、図面の煩雑化を避けるべく説明の便宜上「4B」、「4D」の図示を省略している)。主体金具1は、低炭素鋼等の金属により円筒状に形成されており、スパークプラグ100のハウジングを構成するとともに、その外周面には、スパークプラグ100を図示しないエンジンのシリンダヘッドに取り付けるためのねじ部7が形成されている。主体金具1の内側には、絶縁体2が保持されている。絶縁体2の先端面2aは主体金具1の先端面から先端側(図1の上側)に突出している。
【0026】
絶縁体2は、例えばアルミナ等のセラミック焼結体により構成され、その内部には自身の軸線C1方向に沿って軸孔6が形成されており、当該軸孔6に前記中心電極3が挿入状態で固定されている。
【0027】
さらに、接地電極4A〜4Dは、中心電極3を中心として等間隔毎(90゜間隔)に設けられており、それぞれの基端面が、前記主体金具1の先端面に対し溶接されている。接地電極4A〜4Dは、長手方向中間位置において軸線方向へ屈曲(又は湾曲)させられている。
【0028】
尚、接地電極4A〜4Dは、外層及び内層からなる2層構造となっている。外層は、ニッケル合金等で構成されている。これに対し、内層は、ニッケル合金よりも良熱伝導性金属(例えば銅を主体とする金属材料や、前記ニッケル合金よりも熱伝導性に優れる高純度ニッケル等)で構成されている。中心電極3(母材)もまた、ニッケル合金等よりなる外層及び銅よりなる内層の2層構造を具備している。
【0029】
さて、本実施形態では、接地電極4A〜4Dは、中心電極3に向けて曲げられており、接地電極4A〜4Dの先端面が軸線C1方向と平行に延びている。そして、各接地電極4A〜4Dの先端面と中心電極3との間に火花放電経路が形成されている。特に、本実施形態では、当該火花放電経路の一部に、絶縁体2の先端面2aに沿う沿面放電経路が含まれるように設定されている。すなわち、火花放電経路は、接地電極4A〜4Dの先端面と絶縁体2との間に形成される気中放電経路(図1(a)、図2(a)中のギャップGA参照)と、当該気中放電経路の絶縁体2側の経路の基点となった点と中心電極3との間に絶縁体2の先端面2aに沿うようにして形成される沿面放電経路とからなる。
【0030】
より詳しく説明すると、本実施形態では、絶縁体2の先端面2aを延長させた場合における延長面、つまり、絶縁体2の先端面2aを含む仮想平面(図1(b)において符号γで示す)が、接地電極4A〜4Dの先端面と交わるよう、接地電極4A〜4Dが設けられている。さらに換言すれば、絶縁体2の先端面2aが、軸線C1方向において接地電極4A〜4Dの先端面の一端縁(上エッジ部分)UEと他端縁(下エッジ部分)LEとの間に位置している。かかる構成下、絶縁体2の先端面2aを這う形で火花放電が生じ、当該先端面2aに堆積した汚損物質が焼き切られることとなり、耐汚損性の確保が図られるようになっている。
【0031】
次に、本実施形態における特徴的構成について説明する。まず、本実施形態では、中心電極3を軸線C1方向に見た場合において、その端面領域が、第1エリアE1と第2エリアE2とに区別される。
【0032】
より詳しく説明すると、図2(b)に示すように、中心電極3を軸線C1方向に見た場合において、当該中心電極3の中心点31と接地電極4A〜4Dのうちの一に対し、当該接地電極4A〜4Dの先端の内端角点41,42とを結ぶ一対の線分51,52と、中心電極3の外周縁32と、中心電極3の中心点31を中心とし中心電極3の外周縁32よりも内側の内側円周線33とで囲まれた領域(図2(b)では網目模様を付した領域)を接地電極側領域53と規定する。尚、本実施形態では、前記内側円周線33の外径は、中心電極3の外径(本実施形態では例えば直径2.0mm)の60%〜90%(例えば80%)にて設定される。また、前記内側円周線33で囲まれた内側の領域(図2(b)では散点模様を付した領域)を内側領域54と規定する。
【0033】
そして、全ての各接地電極4A,4B,4C,4Dに対応して中心電極3に規定される複数の(本例では4つの)接地電極側領域53、並びに、前記内側円周線33で囲まれた内側領域54が第1エリアE1とされる。また、中心電極3を軸線C1方向に見た場合において、その端面領域うち、第1エリアE1以外の領域(図2(b)では白地領域)が第2エリアE2とされる。
【0034】
また、図2,3に示すように、中心電極3の先端部分は、凹部分62と、該凹部分62よりも先端側に突出する凸部分61とを具備している。そして、本実施形態では、前記凸部分61は、第2エリアE2に位置することなく、第1エリアE1の全域に位置している。一方で、前記凹部分62は、第1エリアE1に位置することなく、第2エリアE2の全域に位置している。つまり、第1エリアE1は凸部分61、第2エリアE2は凹部分62となっている。
【0035】
さらに、図4に示すように、中心電極3を軸線C1に対し直交する方向に見た場合であって、絶縁体2の先端面2aをゼロとし当該先端面2aよりも先端側をプラス側としたとき、凸部分61の先端面は、−0.1mm又は−0.1mmよりもプラス側(特に、−0.1mm〜+0.3mmの範囲内、本実施形態を示す図面では「0」mm)に位置し、凹部分62の先端面は、−0.2mm又は−0.2mmよりもマイナス側(特に、−1.0mm〜−0.2mm、本実施形態では−0.2mm)に位置している。
【0036】
上記のように構成されてなる本実施形態のスパークプラグ100によれば、接地電極側領域53の凸部分61は、凹部分62と比較して、各接地電極4A〜4Dとの距離がより短いものとなる。従って、凹部分62、つまり、接地電極4A〜4Dから比較的離間した位置から、火花放電が起こる頻度が少なくて済む。そのため、図5に示すように火花放電の飛火方向が接地電極4A〜4D側を向いている頻度がより高められる。その結果、接地電極4A〜4Dの方へ向かない飛火が起こりにくく、「奥飛火」なる現象を抑制することができる。
【0037】
ここで、上記作用効果を確認するべく、従来技術に相当する先端が単に円柱形状をなす中心電極を有するスパークプラグサンプルと、上記実施形態のスパークプラグサンプルとを作製し、種々の評価を試みた。その実験結果を以下に記す。
【0038】
まず、両サンプルについて、スノーモービル用の内燃機関に相当する過酷な条件下で放電試験を100回ずつ行い、そのときの時間経過に対する放電電圧の関係をチャート化した。当該チャートについては図示を省略するが、放電が正規放電である場合には、図6(a)に示すような波形になり、奥飛火(リーク放電)が生じた場合には、図6(b)に示すような波形になることが経験的に知られている。同図に示すように、放電した直後の所定のタイミング(「接続時間」と称される)における放電電圧(図中矢印で示す)を見比べると、正規放電の場合には、リーク放電の場合よりも前記接続時間における放電電圧が大きい。具体的には、前記接続時間における正規放電時の放電電圧がおよそ0.6〜1.4[kV]であるのに対し、前記接続時間におけるリーク放電時の放電電圧がおよそ2.8〜4.0[kV]である。
【0039】
そして、上記放電試験を繰り返し行い、前記接続時間における放電電圧を頻度(ヒストグラム)で表したのが図7(a),(b)である(但し、サンプル数は100)。尚、図7(a)が従来技術に相当するスパークプラグサンプル(つまり所謂通常のセミ沿面プラグ)に対応し、図7(b)が本実施形態のスパークプラグサンプルに対応する。同図に示すように、従来サンプルに比べ、本実施形態のスパークプラグサンプルの方が、正規放電の発生頻度が高いことがわかる。
【0040】
また、上記両サンプルをエンジンに取付け、成層燃焼実験を行い、時間の経過に対する排気ガス中の未燃焼ガス(HC)濃度を測定した。その結果を図8に示す。尚、図中太線が従来技術に相当するスパークプラグサンプルに対応し、細線が本実施形態のスパークプラグサンプルに対応する。同図に示すように、いずれの時点においても、従来技術に相当するスパークプラグサンプルに比べ、本実施形態のスパークプラグサンプルの方が未燃焼ガスの発生濃度が少なくて済んでいることがわかる。すなわち、本実施形態によれば、正規放電が行われる頻度が高く、奥飛火が起こりにくいため、正常な燃焼がより確実に行われ、結果として未燃焼ガスが発生しにくいといえる。
【0041】
また、本実施形態では、中心電極3の先端部分が凸部分61及び凹部分62を具備しているが、凹部分の先端面を種々変更したスパークプラグサンプルを用意するとともに、従来技術に相当する、先端面が−0.1mmに位置するスパークプラグサンプルを用意し、上記同様過酷な条件下で放電試験を100回ずつ行い、そのときの時間経過に対する放電電圧の関係をチャート化し、リーク放電頻度を測定した。
【0042】
従来技術に相当する、先端面が−0.1mmに位置するスパークプラグサンプルにおけるリーク放電頻度は、60%であった。また、凹部分及び凸部分を有し、凹部分の先端面を種々変更したスパークプラグサンプルにおけるリーク放電頻度は表1に示される。
【0043】
【表1】


上記表1に示すように、凹部分の先端面が−0.1mmに位置するスパークプラグサンプルのリーク放電頻度は、55%であり、従来技術と比較して、それほど差はなかった。これに対し、凹部分の先端面が−0.2mmに位置するスパークプラグサンプルのリーク放電頻度は、40%となり、正規放電の頻度が飛躍的に高められることが明らかになった。また、凹部分の先端面が−0.4mm、−0.7mm、−1.0mmと、マイナス側になるほどスパークプラグサンプルのリーク放電頻度は少なくなることが明らかとなった。しかしながら、凹部分の先端面が−1.1mmに位置するスパークプラグサンプルについては、母材の内層が露出してしまうという結果となった。これらのことから、凹部分62の先端面は、−0.2mm又は−0.2mmよりもマイナス側である必要があるといえる。なお、より望ましくは−0.4mm又は−0.4mmよりもマイナス側であるとよい。凹部分の先端面が−0.2mmであると、スパークプラグの汚損の進行が軽度であっても、凹部分にカーボンが堆積して詰まり、本発明の効果を奏しなくなるおそれがあるためである。このため、−0.2mmでは総合評価を「△」としている。また、−1.0mmよりもマイナス側だと、プラグを構成することが困難となることが明らかとなった。
【0044】
なお、上述した実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
【0045】
(a)上記実施形態では、前記凸部分61は、第2エリアE2に位置することなく、第1エリアE1の全域に位置している一方で、前記凹部分62は、第1エリアE1に位置することなく、第2エリアE2の全域に位置している構成であった。つまり、第1エリアE1は凸部分61、第2エリアE2は凹部分62となっていた。これに対し、必ずしも第1エリアE1が全て凸部分61、第2エリアE2が凹部分62となっている必要はなく、
凸部分61は、
i)第2エリアE2に位置することなく、第1エリアE1のうち、前記接地電極側領域53においてそれぞれ少なくとも一部に位置する、又は、
ii)第1エリアE1のうち、前記接地電極側領域53においてそれぞれ少なくとも一部に位置するとともに、第2エリアE2のうち、前記第1エリアE1の接地電極側領域53に位置する部分よりも内周側に位置し、
凹部分62は、前記第2エリアE2においてそれぞれ少なくとも一部に位置する
という要件を満たしていればよい。
【0046】
(b)従って、例えば図9(a),(b),(c)のように構成することも可能である。すなわち、前記各接地電極4A〜4Dに相対して、中心電極3を構成する母材の先端面3aに対し複数の円柱状の貴金属チップ71,72,73,74を溶接等により接合し、当該貴金属チップ71〜74を凸部分61として構成し、母材の先端面3aを凹部分62として構成してもよい。この場合、貴金属チップ71〜74を母材の先端面3aに対し接合すればよいため、別途中心電極の先端部分を切削加工等する必要がなく、また、貴金属チップ71〜74として細長いものを採用することで凹部分62の先端面と凸部分61の先端面との距離(高低差)を比較的大きく構成することもできる。さらに、切削加工等を必要としないため、複数の凸部分61同士の間隔を比較的狭く構成することもできる。勿論、貴金属チップは円柱状でなくてもよく、角柱状であってもよい。
【0047】
また、ベース部分から4本の円柱状の突起が突出形成された1つのチップを、中心電極3を構成する母材の先端面3aに対し接合し、突起を凸部分61とし、ベース部分の先端面を凹部分62としてもよい。
【0048】
(c)また、例えば図10(a),(b),(c)のように構成することも可能である。すなわち、中心電極3を構成する母材の先端面3aに対し単一の多角柱状貴金属チップ81を溶接等により接合し、当該貴金属チップ81を凸部分61として構成し、母材の先端面3aを凹部分62として構成してもよい。但し、接合に際しては、多角柱状貴金属チップ81のうち軸線と平行に延びるエッジ部81Eを、前記各接地電極4A〜4Dに相対向させて配設する必要がある。
【0049】
かかる観点からは、各接地電極の数や配置に合わせて、多角柱の形状を設定するのが望ましい。すなわち、図示するように、4つの接地電極4A〜4Dが等間隔に配置されている場合には、エッジ部81Eが各接地電極4A〜4Dに相対する正四角柱であることが望ましく、3つの接地電極が等間隔に配置されている場合にはエッジ部が各接地電極に相対する正三角柱であることが望ましい。
【0050】
上記のように、凸部分61を、中心電極3を構成する母材3aに対し接合された単一の多角柱状貴金属チップ81により構成することで、切削加工等を要しないのみならず、一度の接合工程を経ればよいため、製造に要する工数、時間等の著しい削減を図ることができるという効果が奏される。また、多角柱状に代えて、多角錐台状としてもよい。
【0051】
(d)上記実施形態では、第1エリアE1を画定する内側円周線33の外径は、中心電極3の外径の60%〜90%(より望ましくは70%〜85%)の範囲内(例えば80%)にて設定されているが、必ずしも上記範囲に限定されるものではない。
【0052】
尚、第1エリアE1を画定する内側円周線33の外径が、上記範囲の最小の径よりも小さい場合には、耐消耗性(耐久性)が低下してしまうという懸念が生じる。一方で、第1エリアE1を画定する内側円周線33の外径が、上記範囲の最大の径よりも大きい場合には、凹部分62が、接地電極4A〜4Dに対しより遠くなることによる作用効果が得られ難くなるという懸念が生じる。かかる観点からは、第1エリアE1を画定する内側円周線33の外径が、上記範囲内に設定されるのが望ましく、これにより、耐消耗性の低下を招きにくく、かつ、セミ沿面用接地電極の方へ向かない飛火が起こりにくい。つまり、奥飛火の抑制、耐久性確保といった両作用効果がバランスよく奏されることとなる。
【0053】
(e)上記実施形態では全ての接地電極4A〜4Dがセミ沿面放電を行いうるものであったが、セミ沿面放電を行わない接地電極を別途有する所謂ハイブリッドタイプのスパークプラグに適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(a)は本実施形態のセミ沿面スパークプラグの構成を示す一部破断部分正面図であり、(b)はその要部の拡大図である。
【図2】(a)はセミ沿面スパークプラグの部分平面図であり、(b)は第1エリア、第2エリア等を説明するための平面模式図である。
【図3】中心電極の先端部分を示す部分斜視図である。
【図4】中心電極及び絶縁体の先端部分を示す部分断面図である。
【図5】中心電極の先端部分と接地電極の一部との関係を示す部分斜視図である。
【図6】(a)は正規放電である場合の時間経過に対する放電電圧の関係を模式的に示すチャート図であり、(a)はリーク放電である場合の時間経過に対する放電電圧の関係を模式的に示すチャート図である。
【図7】接続時間における放電電圧を頻度(ヒストグラム)で表した図であって、(a)は従来技術に相当するスパークプラグサンプルに対応し、(b)は本実施形態のスパークプラグサンプルに対応する。
【図8】成層燃焼実験を行い、時間の経過に対する排気ガス中の未燃焼ガス(HC)濃度の関係を示すグラフである。
【図9】別の実施形態における中心電極先端部分を示す図であって、(a)は部分斜視図、(b)は部分平面図、(c)は第1エリア、第2エリアとの関係を示す平面模式図である。
【図10】別の実施形態における中心電極先端部分を示す図であって、(a)は部分斜視図、(b)は部分平面図、(c)は第1エリア、第2エリアとの関係を示す平面模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1…主体金具、2…絶縁体、2a…先端面、3…中心電極、4A,4B,4C,4D…(セミ沿面用)接地電極、31…中心点、32…外周縁、33…内側内周線、41,42…内端角点、51,52…線分、53…接地電極側領域、54…内側領域、61…凸部分、62…凹部分、71,762,73,74…貴金属チップ、81…多角柱状貴金属チップ、81E…エッジ部、E1…第1エリア、E2…第2エリア。
【出願人】 【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
【出願日】 平成18年10月23日(2006.10.23)
【代理人】 【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男


【公開番号】 特開2008−108448(P2008−108448A)
【公開日】 平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願番号】 特願2006−287531(P2006−287531)