トップ :: H 電気 :: H01 基本的電気素子

【発明の名称】 スパークプラグ
【発明者】 【氏名】堀田 信行

【氏名】小寺 英司

【氏名】杉本 典康

【氏名】大林 和重

【要約】 【課題】主体金具に応力腐食割れ等が生じることを抑制することができ、従来に比べてさらに信頼性の向上を図ることのできるスパークプラグを提供する。

【構成】主体金具1は、略円筒状に形成されており、その先端側の外周面には、ねじ部7が形成され、このねじ部7より後端側の外周部には、工具係合部8が設けられている。この工具係合部8よりさらに後端側に嵌合部9が設けられ、この嵌合部9に、略円筒状に構成され、その内部に中心電極3が嵌め込まれた絶縁碍子2が圧入され保持されている。主体金具1の表面には、その全面に厚さ5nm以上の酸化膜が形成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延在する中心電極と、
前記中心電極を保持する円筒状の絶縁碍子と、
先端部に接地電極を備え、機関取り付けのためのねじ部と、当該ねじ部の後端側に設けられた工具係合部とを有する円筒状の主体金具と、
を備えたスパークプラグであって、
前記主体金具は、Fe又はNiを主成分とし、Cr含有率が11.5mass%〜26mass%の材料から構成され、少なくとも表面の一部に厚さが5nm以上の酸化膜が形成されていることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
請求項1記載のスパークプラグにおいて、
前記ねじ部と、機関に取り付けた際に当該機関と当接される座面との間に位置するねじ首部の外側部位に前記酸化膜が形成されていることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項3】
請求項1記載のスパークプラグにおいて、
前記主体金具の前記工具係合部よりも後端側に、圧入、焼き嵌め、冷やし嵌めのいずれかによって前記絶縁碍子を保持する嵌合部を備え、当該主体金具の内側部分であって、前記嵌合部に隣接する先端側部位に前記酸化膜が形成されていることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項4】
請求項3記載のスパークプラグにおいて、
前記主体金具の前記嵌合部の内側部分と、前記絶縁碍子の外側部分との間によって気密が保持されていることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のスパークプラグにおいて、
前記酸化膜が、熱処理により形成されていることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項6】
軸線方向に延在する中心電極と、
前記中心電極を保持する円筒状の絶縁碍子と、
先端部に接地電極を備え、機関取付のためのねじ部と、当該ねじ部の後端側に設けられた工具係合部とを有する円筒状の主体金具と、
を備えたスパークプラグであって、
前記主体金具の前記工具係合部よりも後端側に圧入、焼き嵌め、冷やし嵌めのいずれかによって前記絶縁碍子を保持する嵌合部を備え、当該嵌合部の肉厚Tと、前記嵌合部と前記工具係合部との間の肉厚tが、t<Tの関係を満たすことを特徴とするスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジン等の内燃機関に使用されるスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スパークプラグとして、中心電極と、この中心電極を保持する絶縁碍子と、先端部に接地電極を備えた主体金具とを備え、主体金具内に絶縁碍子が支持固定された構造のものが知られている。このようなスパークプラグでは、筒状に形成された主体金具内に絶縁碍子の径大の鍔状の部位を挿入し、主体金具の一方の端部を加締めて絶縁碍子の鍔状の部位を軸線方向に押圧することによって主体金具内に絶縁碍子に支持固定する構造とすることが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記構造のスパークプラグでは、絶縁碍子に鍔状の部位を形成する必要がある。この鍔状の部位が大径であるため小径化の妨げとなっている。そこで、絶縁碍子を主体金具に、溶接結合、接着結合、焼き嵌め等によって支持固定するようにしたスパークプラグも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
上記のように主体金具と絶縁碍子とを加締めによって固定したスパークプラグでは、十分な固着強度を確保することができ、信頼性も高いが、小径化することが困難である。また、溶接結合、接着結合、焼き嵌め等によって主体金具と絶縁碍子とを固定したスパークプラグでは、小径化することは可能であるが、耐振動性や結合部分の十分な信頼性を確保することが困難であるため未だ実用化されるには至っていない。
【特許文献1】特開2002−164147号公報
【特許文献2】特開2002−158078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したスパークプラグは、一般に使用されているスパークプラグ同様、主体金具の素材としては、加工が容易で安価である低炭素鋼が使用されている。低炭素鋼は、耐食性に優れるとは言い難く、主体金具の表面には、亜鉛(Zn)メッキやニッケル(Ni)メッキが施されている。
【0006】
ところで、主体金具には高強度の素材を用いて構成されることが望まれる背景がある。例えば、ねじの呼び径がM10やM8以下の小径化したスパークプラグを実現するためには、主体金具を肉薄に構成することが検討される。主体金具の肉薄化に際し、低炭素鋼を用いてこれを試みると、その強度不足が懸念される。例えば、燃焼圧の検知を行うために環状の圧力センサをスパークプラグと共締めして内燃機関に取り付ける場合には、その出力のS/N比を向上させるためにもスパークプラグの締め付けトルクを強くすることが望まれ、主体金具の破損を防ぐためにも、主体金具の高強度化が望まれている。
【0007】
このような事情に鑑み、主体金具の素材としてインコネル(商品名)やSUS等の素材、すなわち、Fe又はNiを主成分とし、Cr含有率が11.5mass%〜26mass%の素材等の使用が検討される。このような素材からなる主体金具は、一般に信頼性が高いものであるが、本発明者等が詳査したところ、過酷な条件下では、応力腐食割れ等を生じる場合があることが判明した。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。本発明は、主体金具に応力腐食割れ等が生じることを抑制することができ、従来に比べてさらに信頼性の向上を図ることのできるスパークプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスパークプラグは、軸線方向に延在する中心電極と、前記中心電極を保持する円筒状の絶縁碍子と、先端部に接地電極を備え、機関取り付けのためのねじ部と、当該ねじ部の後端側に設けられた工具係合部とを有する円筒状の主体金具と、を備えたスパークプラグであって、前記主体金具は、Fe又はNiを主成分とし、Cr含有率が11.5mass%〜26mass%の材料から構成され、少なくとも表面の一部に厚さが5nm以上の酸化膜が形成されていることを特徴とする。
【0010】
主体金具を、Fe又はNiを主成分とし、Cr含有率が11.5mass%〜26mass%の材料から構成した場合、その表面には、厚さ1nm以下程度の自然酸化膜が形成される。このような自然酸化膜が形成された状態の主体金具を、例えば嵌合部において圧入により絶縁碍子を支持するよう構成されたスパークプラグに使用した場合、例えば、150℃に加熱した後に水冷する試験を100サイクル程度行うと、嵌合部に隣接する工具係合部等に割れが発生することがあった。この原因は、応力が加わった状態で高温に晒されるため、カーボンと主体金具母材のCrが反応し腐食する応力腐食割れのためと推測される。すなわち、母材自身はCrの自然酸化膜によって耐食性を有しているが、カーボンとCrが反応することで脆い反応層ができることと、この反応によってCrが欠乏し、自然酸化膜が育成できずに腐食が進行して割れが発生すると考えられる。なお、このような現象は、絶縁碍子を主体金具へ圧入する際に、潤滑材を使用した場合にその潤滑材に含まれるカーボンが一因となると考えられる。しかし、潤滑材を使用しない場合でも、スパークプラグを機関に取り付けた際には、燃焼ガスに含まれるカーボン等によって同様な現象が生じると考えられる。
【0011】
そこで、主体金具に厚さ5nm以上、例えば30nmの酸化膜を形成したところ、上記の150℃に加熱した後に水冷する試験を500サイクル行っても割れが発生しないことが確認できた。このように厚さ5nm以上の酸化膜を形成することによって、主体金具に応力腐食割れ等が生じることを抑制することができ、従来に比べてさらに信頼性の向上を図ることができる。
【0012】
なお、このような酸化膜は、主体金具の全面に形成しても、割れが生じ易い部分にのみ選択的に形成しても良い。酸化膜を主体金具の一部にのみ形成する場合、例えば、機関に取り付けるためのねじ部と機関に取り付けた際に当該機関に当接される座面との間に位置するねじ首部の外側部位に酸化膜を形成することが好ましい。このねじ首部には、スパークプラグを機関に取り付ける際に、応力が加わるため、割れ等が発生する可能性があるからである。
【0013】
また、例えば、主体金具の工具係合部よりも後端側に、圧入、焼き嵌め、冷やし嵌めのいずれかによって絶縁碍子を保持する嵌合部を備えている場合、当該主体金具の内側部分であって、嵌合部に隣接する先端側部位に酸化膜を形成することが好ましい。この場合、嵌合部に隣接する先端側部位には、嵌合に伴う応力が加わり、割れ等が発生する可能性があるからである。また、例えば、嵌合の際に潤滑剤を使用した場合、嵌合部に隣接する先端側部位では、残った潤滑剤に含まれるカーボンによって腐食が発生し易くなり、さらに割れ等が発生する可能性が高まるためである。
【0014】
さらに、主体金具の嵌合部の内側部分と、絶縁碍子の外側部分との間によって気密が保持される構造の場合、上記部位は、高温の燃焼ガスに晒されるとともに、燃焼ガス中のカーボンが付着して腐食が発生し易くなり、割れ等が発生する可能性がより一層高くなるめ、この部位に酸化膜を形成することが好ましい。
【0015】
上記の酸化膜は、例えば熱処理により形成することができる。この熱処理の条件の一例を挙げれば、大気雰囲気中で温度350℃、時間は1時間程度である。
【0016】
上記のように主体金具の工具係合部よりも後端側にて絶縁碍子を締まり嵌め状態にて保持すると、この嵌合部の先端側に隣接する部位にまで燃焼ガスが入り込む構成となりうる。この部位にて応力腐食割れ等が生じうるが、特に応力については、次の構成を採用することによって、応力による主体金具の損傷を抑制ないし低減することが可能となる。
【0017】
すなわち、スパークプラグを、軸線方向に延在する中心電極と、前記中心電極を保持する円筒状の絶縁碍子と、先端部に接地電極を備え、機関取付のためのねじ部と、当該ねじ部の後端側に設けられた工具係合部とを有する円筒状の主体金具と、を備えたスパークプラグであって、前記主体金具の前記工具係合部よりも後端側に圧入、焼き嵌め、冷やし嵌めのいずれかによって前記絶縁碍子を保持する嵌合部を備え、当該嵌合部の肉厚Tと、前記嵌合部と前記工具係合部との間の肉厚tが、t<Tの関係を満たす構成とすることで応力を緩和し、割れの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のスパークプラグによれば、主体金具に応力腐食割れ等が生じることを抑制することができ、従来に比べてさらに信頼性の向上を図ることのできるスパークプラグを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るスパークプラグ100の要部断面構成を拡大して示すものであり、図2は、スパークプラグ100の全体の外観を示している。スパークプラグ100は、略円筒状の主体金具1と、先端部が突出するようにその主体金具1内に嵌め込まれる略円筒状の絶縁碍子2とを備えている。図1中に点線で示すように、絶縁碍子2内の先端側の中心部分にはその軸方向に沿って銅芯入りの中心電極3が配置されており、中心電極3の先端部は絶縁碍子2の先端面から突出した状態となっている。そして、この中心電極3の先端部と対向するように、接地電極10が配置されている。この接地電極10は、一端が主体金具1に結合され、接地電極10と中心電極3の間には所定間隔の火花放電ギャップが形成されている。
【0020】
絶縁碍子2は、例えばアルミナ等のセラミック焼結体により略円筒状に構成されている。図1中に点線で示すように、絶縁碍子2の内部には自身の軸方向に沿って中心電極3を挿通させるための貫通孔が設けられ、その後端側に端子金具4が挿入・固定され、先端部側に中心電極3が挿入・固定されている。これらの端子金具4と中心電極3とは、絶縁碍子2の貫通孔内において抵抗体30及び導電性ガラスシール層31を介して電気的に接続されている。また、絶縁碍子2は、主体金具1の後端寄り部位や主体金具1より後端側で主体金具1より露出する部位を含む碍子径大部21と、碍子径大部21より先端側で碍子径大部21より小径の碍子中胴部22と、碍子中胴部22より先端側で碍子中胴部22より小径でありエンジン等の内燃機関に取り付けた時に燃焼ガスに晒される碍子脚長部23とを有している。本実施形態では、碍子中胴部22は、後端側に位置し大径の後端側碍子中胴部220と、先端側に位置し小径の先端側碍子中胴部221とから構成されている。
【0021】
主体金具1は、Fe又はNiを主成分とし、Cr含有率が11.5mass%〜26mass%の材料(インコネル(商品名)又はSUS)から円筒状に形成されており、スパークプラグ100のハウジングを構成するとともに、その先端側(図中下側)の外周面には、スパークプラグ100を図示しないエンジンのプラグ取付孔に取り付けるためのねじ部7が形成されている。このねじ部7より後端側の外周部には、主体金具1をエンジンに取り付ける際に、スパナやレンチ等の工具を係合させる工具係合部8が設けられている。そして、この工具係合部8よりさらに後端側には、嵌合部9が設けられている。
【0022】
嵌合部9は、絶縁碍子2を嵌合保持するためのものであり、本実施形態においてこの嵌合部9は、絶縁碍子2を圧入することによって、径方向に嵌合保持するようになっている。このように、嵌合部9を工具係合部8よりも後端側に設けることにより、工具係合部8に工具を係合させてスパークプラグ100をエンジンに取り付けた際などに、嵌合部9にねじれトルクや軸力が加わることを防止でき、嵌合部9における結合部分(嵌合保持)の信頼性を向上させることができる。すなわち、スパークプラグ100のエンジンへの取り付け、取り外しを繰り返して何度も行ったとしても、嵌合部9にねじれトルクや軸力が加わらないので、絶縁碍子2との結合状態に緩み等が生じることがない。また、主体金具1の後端側で絶縁碍子2を支持することにより、絶縁碍子2が振動した際の振動周波数を高めることができ、耐振動性を向上させることができる。
【0023】
また、上記のような嵌合部9を、例えばねじ部7の部分に設けたとすると、絶縁碍子2の圧入によってねじ部7が膨らみ、ねじ精度が低下する可能性があるが、本実施形態のように、工具係合部8よりも後端側に設けることにより、このような不具合が生じることを防止することができる。更に、後端側に設けることで絶縁碍子2の碍子径大部21側で嵌合することができる。碍子径大部21は他の部位に比べて厚肉に構成することができ、絶縁碍子2の破壊荷重が小/中径部と比べて高く、そのため嵌合力を強めに設計しても、絶縁碍子2が破壊、損傷することを防ぐことができる。また、エンジンで使用したときに、比較的低温となるため気密漏れ等の不具合が生じにくい。なお、図1,2において、5はスパークプラグ100を機関に取り付けた際に当該機関に当接し機関との間で気密封止面を形成する座面である。この座面5と機関の当接面との間には、例えば気密シールのためのリング状のシール部材(ガスケット)が配置される場合がある。
【0024】
主体金具1の内周面は、絶縁碍子2の碍子径大部21と対向する大孔部11と、碍子中胴部22と対向する中孔部12と、碍子脚長部23と対向する小孔部13とを有している。また、中孔部12は、主に後端側碍子中胴部220と対向する大径の後端側中孔部120と、主に先端側碍子中胴部221と対向する小径の先端側中孔部121とから構成されている。
【0025】
本実施形態では、上記構成の主体金具1には、内周面及び外周面ともにその表面全面に厚さが5nm以上の酸化膜が形成されている。この酸化膜は、例えば熱処理によって形成することができる。この熱処理の条件としては、例えば、大気雰囲気で、温度約350℃、時間約1時間の条件を採用することができ、この条件で形成された酸化膜の厚さを測定したところ、厚さは約30nmであった。また、この条件で形成した酸化膜の成分を分析したところ、酸素とCrを含むものであり、Feはその表面に僅かに含まれるが酸化膜中にはほとんど含まれていなかった。
【0026】
上記の絶縁碍子2と主体金具1との間には、これらの間に介在するように、環状の放熱部材40,41が設けられている。これらの放熱部材40,41は、例えば主体金具1と同様な金属から構成されており、絶縁碍子2と主体金具1との間の放熱経路を形成している。
【0027】
図1に示すように、絶縁碍子2の大径部21の中径部22側端部には、所定角度のテーパーが形成され、主体金具1の嵌合部9に圧入するための圧入導入部24とされている。この圧入導入部24のテーパー角度は、1〜5度程度とすることが好ましく、2〜4度程度とすることがさらに好ましい。テーパー角度を1度以上、好ましくは2度以上とする理由は、テーパー角度によって、テーパー長(圧入導入部長さ)が変化し、テーパー角度が1度未満となると、テーパー長が急激に長くなるためである。また、テーパー角度を5度以下、好ましくは4度以下とする理由は、十分な抜き後の嵌合代を確保するためである。この抜き後の嵌合代とは、一旦圧入した後引き抜いた時の絶縁碍子2の外形(D1)と圧入部9の内径(D2)との径差(D2−D1)のことを示しており、十分な嵌合強度(一定以上の抜け荷重)を得るためにはある程度大きい必要がある。
【0028】
上記のように、本実施形態では、嵌合部9に、絶縁碍子2を圧入して嵌合保持する構成となっているので、従来のように主体金具1の加締め部を係合させるための大径の鍔状の部位を絶縁碍子2に設ける必要がなく、スパークプラグ100の最大径を細くすることができる。これによって、エンジンに設けるスパークプラグ100用のプラグ取付孔の径を小さくすることができ、エンジン設計における自由度を高めることができる。なお、圧入の他、焼き嵌め、冷やし嵌め、或いはこれらの組み合わせによって、嵌合部9に絶縁碍子2を嵌合させるようにしても良い。
【0029】
また、本実施形態のスパークプラグでは、嵌合部分の信頼性を高める、すなわち抜け荷重を高くする必要があるが、この抜け荷重を高くすればするほど、圧入荷重も高くなってしまう。このようなときには、圧入時に潤滑材を使用することで嵌合部の信頼性を高く保ったまま、圧入荷重を少なくすることができる。この場合、圧入後に熱処理を行うことで抜け荷重が増大する。これは、熱処理によって潤滑材が分解され潤滑効果がなくなるためと、嵌合部9の接触状態が熱処理前では点接触の状態にあるが、点接触部には局所的に高面圧が掛かっており、この状態に熱を与えることで主体金具材が軟化、そして塑性変形することで接触状態が点から面接触へと変化し、嵌合部9の真の接触面積が増大するための2つの効果による。このような潤滑材としては、例えばパスキンM30(商品名)、セロゾール(商品名)等を使用することができる。
【0030】
熱処理は、例えば温度300℃で15分程度行うことが好ましい。このような圧入後の熱処理を行わなかった場合、圧入荷重と抜け荷重は略同一となる。ところが、上記のような熱処理を行うことにより、例えば嵌合部直径(絶縁碍子の外径)が10mmのスパークプラグの場合に実際に測定したデータの一例を挙げれば、圧入荷重が150Kgに対して、室温での抜け荷重が610Kg、200℃での抜け荷重が520Kgとなった。また、例えば嵌合部直径(絶縁碍子の外径)が8mmのスパークプラグの場合に実際に測定したデータの一例を挙げれば、圧入荷重が157Kgに対して、室温での抜け荷重が357Kg、200℃での抜け荷重が276Kgとなった。この圧入の際は、主体金具1の座面5を支持して絶縁碍子2の圧入を行っている。主体金具1には公知の方法によって、先端に接地電極10が接合されているので(図1参照。)、この接地電極10を変形させてしまうことなく圧入を行うためには座面5を支持して圧入することが好ましい。
【0031】
さらに、上記嵌合部9は、絶縁碍子2の外側との間で、必要とされる気密性が確保できるようになっている。スパークプラグ100を取り付けた状態で内部から1.55MPaの圧力が加わった場合の気密性について測定したところ、常温では漏れ量が略0ml/min、200℃で略1ml/min程度であり、一般に市販されている加締めによるスパークプラグと同等以上の気密性が確保されていることが分かった。このように、本実施形態に係るスパークプラグ100では、嵌合部9において気密性を確保するようになっているので、従来のように気密性を確保するためのシールとなるタルク粉末等の充填が必要なく、このため構造を簡易化することができる。
【0032】
本実施形態のスパークプラグ100のように、主体金具1の嵌合部9において、圧入により絶縁碍子2を支持する構成とした場合、例えば、嵌合部9に隣接する工具係合部8等に応力が加わっている。このため、表面に酸化膜を形成しない主体金具、つまり自然酸化膜のみが形成された主体金具を用いた場合、例えば、スパークプラグを150℃に加熱した後に水冷する熱サイクルの試験を行った場合、100サイクル程度行うと、工具係合部等に割れが発生することがあった。この原因は、前記したとおり、応力が加わった状態で高温急冷に晒されるため、カーボンと主体金具母材のCrが反応し腐食する応力腐食割れのためと推測される。
【0033】
一方、本実施形態のスパークプラグ100のように、主体金具に厚さ5nm以上、例えば30nmの酸化膜を形成した主体金具1を用いた場合、上記の150℃に加熱した後に水冷する熱サイクルの試験を500サイクル行っても割れが発生しないことが確認された。このように、本実施形態のスパークプラグ100では、厚さ5nm以上の酸化膜を形成することによって、この酸化膜が保護層の役割を果たし、主体金具1に応力腐食割れ等が生じることを抑制することができる。これによって、従来に比べてさらに信頼性の向上を図ることができる。
【0034】
なお、厚さ5nm以上の酸化膜は、必ずしも主体金具1の全面に形成する必要はなく、応力が加わり、応力腐食割れが生じ易い部分にのみ形成しても良い。この場合、本実施形態の如き圧入によって絶縁碍子2を支持する構造のスパークプラグでは、嵌合部9に隣接する先端側部位、つまり、嵌合部9から工具係合部8にかけての内側部分表面等に上記酸化膜を形成すれば良い。この部分には応力が加わるとともに、高温の燃焼ガスに晒され、また、上記したように圧入の際に潤滑剤を使用した場合は、潤滑剤のカーボン成分が残っているからである。また、上記の工具係合部8部分における割れの発生を防止するためには、図3に示すように、嵌合部9の部分の肉厚Tに対して、嵌合部9と工具係合部8との間の部分の肉厚tを、t<Tとすることが好ましい。これによって、工具係合部8に加わる応力を緩和することができ、さらに割れ等が発生する可能性を低減することができる。
【0035】
また、例えば、スパークプラグ100を機関に取り付けた際には、図1に示すネジ部7に隣接した後端側の部位、所謂ねじ首部71の部分に応力が加わる。そして、このねじ首部71の内側部分は、高温の燃焼ガスに晒される。したがって、このねじ首部71の外側部分表面等に上記酸化膜を形成すれば良い。上記のねじ首部71については、本実施形態のように、主体金具に絶縁碍子を圧入することによって支持する構造のスパークプラグではなく、加締めによって絶縁碍子を支持する構造のスパークプラグの場合でも同様に応力が加わる。このため、加締めによって絶縁碍子を支持する構造のスパークプラグについても同様にして適用することができる。なお、図1に示したスパークプラグ100は、ネジ部7と座面5との間に、表面にねじの形成されていない円筒状部位72を有する所謂ハーフネジタイプとなっているが、座面5の先端側直近部位からねじが形成されているタイプのスパークプラグについても同様にして適用することができる。
【0036】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。例えば、本実施形態に記載したL字形状の接地電極10の他、複数の接地電極を組み合わせたもの、さらには一般に沿面放電タイプと呼ばれるもののひとつである主体金具の先端部が火花放電電極を兼ねるタイプであってもよい。
【0037】
また、嵌合部において絶縁碍子と当接する部分の長さは1mm以上とすることが好ましい。しかしながら、長すぎると過剰な圧入荷重を必要としてしまうため、作製の面からは嵌合部の内径を上限とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係るスパークプラグの要部断面構成を拡大して示す図。
【図2】図1のスパークプラグの全体の外観構成を示す図。
【図3】図1のスパークプラグの要部構成をさらに拡大して示す図。
【符号の説明】
【0039】
1……主体金具、2……絶縁碍子、3……中心電極、7……ねじ部、8……工具係合部、9……嵌合部、100……スパークプラグ。
【出願人】 【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
【出願日】 平成18年5月16日(2006.5.16)
【代理人】 【識別番号】100077849
【弁理士】
【氏名又は名称】須山 佐一


【公開番号】 特開2008−4267(P2008−4267A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−136778(P2006−136778)