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【発明の名称】 ピアノのハンマーシャンクおよびその製造方法
【発明者】 【氏名】吉末 健治

【要約】 【課題】乾湿の影響による2つの腕部間の寸法の変化を抑制でき、それにより、ハンマーの円滑で安定した動作を確保することができるピアノのハンマーシャンクを提供する。

【解決手段】フレンジ23に支持され、押鍵に伴って回動するピアノのハンマーシャンク24であって、木材で構成されたシャンク本体24aと、このシャンク本体24aの一端部に形成され、互いに対向するとともにフレンジ23の両側に平行に延び、フレンジ23に回動自在に支持された二股状の2つの腕部24b、24bと、木材で構成され、2つの腕部24b、24bの互いに対向する対向方向の変位を抑制するために、対向方向に沿うように繊維方向が配置され、2つの腕部24b、24bの根元間に接着された木製ブロック28と、を備えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレンジに支持され、押鍵に伴って回動するピアノのハンマーシャンクであって、
木材で構成されたシャンク本体と、
このシャンク本体の一端部に形成され、互いに対向するとともに前記フレンジの両側に平行に延び、当該フレンジに回動自在に支持された二股状の2つの腕部と、
木材で構成され、前記2つの腕部の互いに対向する対向方向の変位を抑制するために、当該対向方向に沿うように繊維方向が配置され、前記2つの腕部の根元間に接着された変位抑制部材と、
を備えていることを特徴とするピアノのハンマーシャンク。
【請求項2】
互いに対向する平行な二股状の2つの腕部を一端部に連続して延びるように形成した木製のハンマーシャンク材を準備し、
連続して延びるとともに幅方向に繊維方向が配置された木製の変位抑制部材を準備する準備工程と、
前記変位抑制部材を、前記2つの腕部の根元間に挿入し、接着することにより、前記ハンマーシャンク材に取り付ける取付け工程と、
前記変位抑制部材を取り付けた前記ハンマーシャンク材を、前記腕部の延び方向の所定間隔ごとに、当該延び方向と直交する方向に沿って切断することにより、複数のハンマーシャンクを切り出す切断工程と、
を備えていることを特徴とするピアノのハンマーシャンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、押鍵に伴って回動するピアノのハンマーシャンクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハンマーシャンクを有するピアノのハンマーとして、例えば特許文献1に記載のものが知られている。このハンマーは、各鍵に対応するように設けられており、ハンマーシャンクフレンジ(以下、単に「シャンクフレンジ」という)に回動自在に支持されている。各ハンマーは、細長い棒状の木製のハンマーシャンクと、このハンマーシャンクの後端部に固定されたハンマーヘッドなどで構成されている。ハンマーシャンクの前端部には、互いに対向し、前方に平行に延びる二股状の左右2つの腕部が形成されている。また、シャンクフレンジは、合成樹脂の成形品で構成されており、ハンマーシャンクレールにねじ止めされている。シャンクフレンジの後端部には、後方に突出する係合部が設けられており、この係合部の両側に、ハンマーシャンクの2つの腕部が係合している。また、両腕部および係合部には、ピンが水平に通されており、このピンは、係合部に固定される一方、両腕部に対して回動自在になっている。これにより、ハンマーは、シャンクフレンジと一体のピンを介して、シャンクフレンジに回動自在に支持されている。また、シャンクフレンジの係合部の両側面は、互いに平行に形成されており、ハンマーシャンクの両腕部の内側面に、若干の隙間をもって対向している。
【0003】
以上の構成により、鍵が押鍵されると、アクションが作動することによって、ハンマーシャンクが突き上げられることにより、ハンマーが上方に回動し、ハンマーヘッドが弦を打弦することによって、ピアノ音が発生する。また、このハンマーの回動時には、ハンマーシャンクが、その両腕部およびシャンクフレンジの係合部で案内されることにより、ハンマーは、左右にぶれることなく回動する。
【0004】
しかし、ハンマーシャンクは木製であるため、ピアノの使用環境、特に乾湿の影響を受けやすく、両腕部間の寸法の変化により、ハンマーの円滑で安定した回動動作を得られなくなるおそれがある。具体的には、乾燥による収縮によって、ハンマーシャンクの両腕部間の寸法が小さくなると、両腕部と係合部の間の隙間がなくなり、ハンマーが円滑に回動しないような動作不良(以下「スティック」という)を生じることがある。逆に、湿潤による膨張によって、両腕部間の寸法が大きくなると、両腕部と係合部の間の隙間が広がり、その結果、ハンマーが回動する際に、左右にぶれたり、がたつきが生じたりすることにより、打弦を適切に行えないおそれがある。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、乾湿の影響による2つの腕部間の寸法の変化を抑制でき、それにより、ハンマーの円滑で安定した動作を確保することができるピアノのハンマーシャンクおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【特許文献1】特開2005−77455号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、フレンジに支持され、押鍵に伴って回動するピアノのハンマーシャンクであって、木材で構成されたシャンク本体と、このシャンク本体の一端部に形成され、互いに対向するとともにフレンジの両側に平行に延び、フレンジに回動自在に支持された二股状の2つの腕部と、木材で構成され、2つの腕部の互いに対向する対向方向の変位を抑制するために、対向方向に沿うように繊維方向が配置され、2つの腕部の根元間に接着された変位抑制部材と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、木材で構成されたシャンク本体の一端部に、互いに対向するとともにフレンジの両側に平行に延びる二股状の2つの腕部が形成され、両腕部がフレンジに回動自在に支持されている。これにより、ハンマーシャンクは、押鍵に伴い、2つの腕部およびフレンジで案内されながら回動する。また、変位抑制部材は、シャンク本体の2つの腕部の互いに対向する対向方向に沿うように繊維方向が配置され、両腕部の根元間に接着されている。この変位抑制部材は、木材で構成されているので、比較的容易にかつ安価に作製でき、しかも、シャンク本体の腕部との接着は、木材同士の接着であるので、両者の良好な接着性を確保することができる。その結果、変位抑制部材が両腕部に強固に取り付けられ、それにより、特に、湿潤環境下における両腕部間の広がりを抑制することができる。また、一般に木材は、乾湿による水分の増減によって伸縮するものの、繊維方向においては、他の方向、具体的には、年輪円に接する方向である接線方向、および樹心から放射する方向である放射方向に比べて、伸縮の度合が極めて小さく、乾湿による伸縮が生じづらい。したがって、変位抑制部材の繊維方向が両腕部の対向方向に沿うように配置されていることにより、乾湿による変位抑制部材の伸縮が両腕部の対向方向にほとんど生じることがない。
【0009】
以上のように、上記の変位抑制部材がシャンク本体の2つの腕部の根元間に接着されていることにより、両腕部が拘束され、乾湿の影響による両腕部間の寸法の変化を抑制することができる。それにより、両腕部とフレンジの間の隙間の大きさを維持することができ、その結果、乾湿によるスティックの発生およびハンマーが回動する際のぶれやがたつきを防止することができる。したがって、乾湿にかかわらず、ハンマーの円滑で安定した動作を確保することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、互いに対向する平行な二股状の2つの腕部を一端部に連続して延びるように形成した木製のハンマーシャンク材を準備し、連続して延びるとともに幅方向に繊維方向が配置された木製の変位抑制部材を準備する準備工程と、変位抑制部材を、2つの腕部の根元間に挿入し、接着することにより、ハンマーシャンク材に取り付ける取付け工程と、変位抑制部材を取り付けたハンマーシャンク材を、腕部の延び方向の所定間隔ごとに、延び方向と直交する方向に沿って切断することにより、複数のハンマーシャンクを切り出す切断工程と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、まず、上記の木製のハンマーシャンク材および変位抑制部材を準備する。このハンマーシャンク材は、一端部に連続して延び、互いに平行な二股状の2つの腕部を有する一方、変位抑制部材は、連続して延びるとともに幅方向に繊維方向が配置されるように構成されている。次いで、変位抑制部材を、ハンマーシャンク材の両腕部の根元間に挿入し、接着することにより、ハンマーシャンク材に取り付ける。そして、そのハンマーシャンク材を、腕部の延び方向の所定間隔ごとに、延び方向と直交する方向に沿って切断し、ハンマーシャンク材から複数のハンマーシャンクを切り出す。これにより、2つの腕部の根元間に変位抑制部材を取り付けたハンマーシャンク、すなわち前記請求項1で述べた作用、効果を有するハンマーシャンクを得ることができる。また、連続して延びる変位抑制部材をハンマーシャンク材に取り付けてから、ハンマーシャンクを切り出すので、ハンマーシャンクごとに、それに応じたサイズの変位抑制部材を取り付ける場合に比べて、ハンマーシャンクを効率良く製造することができる。
【0012】
また、従来一般に、ハンマーシャンクの製造工程では、上記のようなハンマーシャンク材、すなわち変位抑制部材を取り付けていないハンマーシャンク材を、上記と同様にして切断することによって、ハンマーシャンク材からハンマーシャンクを切り出している。したがって、ハンマーシャンクを製造する際に、上記取付け工程以外の工程は、従来の製造ラインをそのまま利用でき、製造コストの上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるピアノのハンマーシャンクを適用したグランドピアノの鍵盤1、アクション2およびハンマー3などを、離鍵状態において示している。
【0014】
鍵盤1は、グランドピアノの左右方向に並んだ多数の鍵1a(1つのみ図示)によって構成されている。各鍵1aは、前後方向(図1の左右方向)に延び、その中央において、棚板上の筬に立設されたバランスピン(いずれも図示せず)を中心として、回動自在に支持されている。
【0015】
アクション2は、鍵盤1の後部の上方に設けられており、ウィッペン11、ジャック12およびレペティションレバー13などを、鍵1aごとに備えている。ウィッペン11は、前後方向に延び、後端部において、ウィッペンフレンジ14に支持されている。このウィッペンフレンジ14は、上下方向に延びており、左右方向に間隔を隔てて配置された複数のブラケット15(図1では1つのみ図示)に渡されたウイッペンレール16にねじ止めされている。また、ウィッペンフレンジ14の上端部には、二股状の左右2つの腕部14a、14a(図1では左側のもののみ図示)が設けられている。これらの両腕部14a、14a間には、ウィッペン11の後端部が係合し、これらにセンターピン17が水平に通されている。これにより、ウイッペン11は、センターピン17を中心として、ウィッペンフレンジ14に回動自在に支持されている。また、ウィッペン11の前後方向の中央部には、下方に突出するヒール部11aが設けられている。ウィッペン11は、このヒール部11aを介して、鍵1aの後部に設けられたキャプスタンスクリュー1bに載置されている。また、ウィッペン11の前端部には、ジャック12が支持されている。
【0016】
ジャック12は、上下方向に延びるハンマー突上げ部12aと、その下端部から前方にほぼ直角に延びるレギュレーティングボタン当接部12bとにより、側面形状がL字状に形成されている。ウィッペン11の前端部には、二股状の左右2つの腕部11b、11b(図1では左側のもののみ図示)が設けられている。これらの両腕部11b、11b間には、ジャック12の角部が係合し、これらにセンターピン18が水平に通されている。これにより、ジャック12は、センターピン18を中心として、ウィッペン11の前端部に回動自在に支持されている。また、ハンマー突上げ部12aの上端部は、レペティションレバー13の後述するジャック案内孔13aに係合するとともに、レペティションレバー13に載置された後述するシャンクローラ26と若干の間隔を存して対向している。さらに、ジャック12は、後述するレペティションスプリング22によって、復帰方向(図1の反時計方向)に付勢されている。
【0017】
レペティションレバー13は、斜め前上がりに前後方向に延び、ウィッペン11の前後方向の中央部から上方に突出するレバーフレンジ部21に支持されている。このレバーフレンジ部21の上端部には、二股状の左右2つの腕部21a、21a(図1では左側のもののみ図示)が設けられている。これらの両腕部21a、21a間には、レペティションレバー13の中央部が係合し、これらにセンターピン19が水平に通されている。これにより、レペティションレバー13は、センターピン19を中心として、レバーフレンジ部21の上端部に回動自在に支持されている。また、レペティションレバー13は、レバーフレンジ部21に取り付けられたレペティションスプリング22によって、復帰方向(図1の反時計方向)に付勢されている。さらに、レペティションレバー13には、その前部に、上下方向に貫通するジャック案内孔13aが形成され、上面のジャック案内孔13a付近に当接するシャンクローラ26を介して、ハンマー3が載置されている。
【0018】
図2は、ハンマー3およびこれを支持するハンマーシャンクフレンジ23(フレンジ)を示している。ハンマー3は、前後方向に延びるハンマーシャンク24、およびその後端部に設けられたハンマーヘッド25を有しており、ハンマーヘッド25は、上方に張られた弦S(図1参照)に対向している。ハンマーシャンク24は、例えばシデなどの木材で構成され、細長い棒状のシャンク本体24aを有している。このハンマーシャンク本体24aは、その繊維方向が長さ方向に沿っていて、前端部の左右方向の幅が他の部分よりも広く形成されるとともに、その前端部の上面および下面が互いに平行な平面で構成されている。
【0019】
また、シャンク本体24aの前端部には、二股状の左右2つの腕部24b、24bが形成されている。図3に示すように、両腕部24b、24bは、互いに左右方向に所定の間隔を隔てて対向し、前方に平行に延びている。各腕部24bには、左右方向に貫通したピン孔24cが形成されており、このピン孔24cに、フェルトで構成された円筒状の軸受27が取り付けられている。また、シャンク本体24aの前端部には、下面にシャンクローラ26が取り付けられ、2つの腕部24b、24bの根元間に、木製ブロック28(変位抑制部材)が接着によって取り付けられている。
【0020】
この木製ブロック28は、例えばシデなどの木材で構成され、シャンク本体24aの左右2つの腕部24b、24b間の寸法とほぼ同じ横幅、シャンク本体24aの前端部の高さ寸法とほぼ同じ高さ、および所定の厚さ(例えば3〜10mm)を有するブロック状に形成されている。また、木製ブロック28は、その繊維方向が横幅の方向に沿うように構成されている。つまり、両腕部24b、24bの根元間に取り付けられた木製ブロック28では、その繊維方向が両腕部24b、24bの互いに対向する方向(以下、適宜「対向方向」という)に沿うように配置されている。
【0021】
また、ハンマーシャンクフレンジ(以下「シャンクフレンジ」という)23は、例えば合成樹脂で構成されており、複数のブラケット15の間に渡されたハンマーシャンクレール29(図1参照)の上面にねじ止めされている。図3に示すように、シャンクフレンジ23は、前後方向に延び、断面が矩形状に形成されている。シャンクフレンジ23の後端部には、ハンマーシャンク24の両腕部24b、24b間の寸法よりも若干小さい幅を有するとともに後方に突出し、両腕部24b、24b間に係合する係合部23aが設けられている。この係合部23aには、左右方向に貫通するピン取付孔23bが形成されている。そして、係合部23aが、両腕部24b、24b間に、それらの内側面との間に若干の隙間をもって配置された状態で、センターピン20が、軸受27、27およびこれらの間のピン取付孔23bに通されている。センターピン20は、その中央部がピン取付孔23bに固定されるとともに、両端部が軸受27、27に対し回動自在になっている。これにより、ハンマー3は、シャンクフレンジ23と一体のセンターピン20を介して、シャンクフレンジ23に回動自在に支持されている。
【0022】
以上の構成によれば、図1に示す離鍵状態から鍵1aが押鍵されると、ウィッペン11が、キャプスタンスクリュー1bを介して突き上げられることにより、センターピン17を中心として上方に回動するとともに、ジャック12およびレペティションレバー13も、それぞれのセンターピン18および19を中心として回動する。そして、ハンマー3は、ジャック12によりシャンクローラ26を介して突き上げられ、ハンマーシャンク24の両腕部24b、24bおよびシャンクフレンジ23の係合部23aで案内されながら、センターピン20を中心として、図1の時計方向に回動することにより、弦Sを打弦し、それによりピアノ音が発生する。
【0023】
次に、ハンマーシャンクについて行った乾湿試験について説明する。図4は、乾湿試験を行ったハンマーシャンクの前端部を示しており、(a)および(b)はそれぞれ、実施例1および2のハンマーシャンク24であり、これらのシャンク本体24aには、両腕部24b、24bの根元間に木製ブロック28が取り付けられている。一方、(c)は、従来、一般的に使用されているハンマーシャンク30であり、このシャンク本体30aには、実施例1および2と異なり、木製ブロック28が取り付けられていない。また、これらのハンマーシャンク24、30のシャンク本体24a、30aはいずれも、シデで構成され、その繊維方向が長さ方向(図4の上下方向)に沿うように配置されている。さらに、実施例1および2のシャンク本体24aに取り付けられた木製ブロック28は、シデで構成され、その繊維方向が両腕部24b、24bの対向方向(図4の左右方向)に沿うように配置されていて、前者の厚さtが3mm、後者の厚さtが7mmに設定されている。また、これらの木製ブロック28は、木材用の接着剤(例えば酢酸ビニル系の接着剤)によって、両腕部24b、24bの根元間に接着されている。なお、実施例1および2のシャンク本体24aは、従来例のシャンク本体30aと同一のものを、その両腕部30b、30bの根元間において適宜、切削加工することによって作製されたものである。また、実施例1および2のハンマーシャンク24では、腕部24bの先端から木製ブロック28までの長さが、互いにほぼ同一に設定されている。
【0024】
以上の構成を有する実施例1および2のハンマーシャンク24、24、ならびに従来例のハンマーシャンク30を常態(例えば、温度20℃、湿度50%)において作製し、まずそれらのハンマーシャンク24、24および30を、所定の加湿条件(温度23℃、湿度95%)の試験室内に1週間放置した。その後、ハンマーシャンク24の両腕部24b、24b間、およびハンマーシャンク30の両腕部30b、30b間の寸法(以下、これらを「腕部間寸法W」という)を測定した。次いで、加湿後のハンマーシャンク24、24および30を、所定の乾燥条件(温度48℃、湿度30%)の試験室内に3日間放置した。その後、加湿後と同様に、ハンマーシャンク24および30の腕部間寸法Wを測定した。また、この乾湿試験では、実施例1および2のハンマーシャンク24、24、ならびに従来例のハンマーシャンク30をそれぞれ、20個ずつ作製し、それらの腕部間寸法Wを測定した。図5は、乾湿試験の試験結果を示しており、腕部間寸法Wの平均の変化率を、従来例のそれを100%として示している。なお、ハンマーシャンク24、30の加湿後には、両腕部間が広がり、腕部間寸法Wが大きくなるように変化し、逆に、乾燥後には、両腕部間が狭まり、腕部間寸法Wが小さくなるように変化した。
【0025】
図5に示すように、加湿後の変化率については、従来例が100%であるのに対し、実施例1が27.0%、実施例2が32.4%である。この結果から、木製ブロック28を両腕部24b、24bの根元間に取り付けることにより、湿潤環境下では、ハンマーシャンク24の両腕部24b、24b間の広がりを、木製ブロック28が取り付けられていない従来のハンマーシャンク30に比べて、30%前後に抑制できることがわかる。また、乾燥後の変化率については、実施例1が17.5%、実施例2が5.0%である。この結果から、乾燥環境下では、ハンマーシャンク24の両腕部24b、24b間の狭まりを、従来のハンマーシャンク30に比べて、20%未満に抑制できることがわかる。特に、木製ブロック28の厚さtが実施例1よりも大きい実施例2では、変化率が5.0%ときわめて小さく、木製ブロック28の厚さtを比較的大きくすることで、両腕部24b、24b間の狭まりを、より効果的に抑制できることがわかる。なお、データは省略するが、実施例1および2の木製ブロック28はいずれも、両腕部24b、24の内側面に強固に接着されていることが確認された。
【0026】
以上のように、本実施形態では、木製ブロック28が、シャンク本体24aの2つの腕部24b、24bの根元間に接着によって取り付けられている。この木製ブロック28は、木材で構成されているので、比較的容易にかつ安価に作製でき、しかも、シャンク本体24aの腕部24bとの接着は、木材同士の接着であるので、両者の良好な接着性を確保することができる。その結果、木製ブロック28が両腕部24b、24bの内側面に強固に取り付けられ、それにより、特に、湿潤環境下における両腕部24b、24b間の広がりを抑制することができる。また、木製ブロック28の繊維方向が両腕部24b、24bの対向方向に沿うように配置されているので、乾湿による木製ブロック28の伸縮が両腕部24b、24bの対向方向にほとんど生じることがない。したがって、木製ブロック28がシャンク本体24aの両腕部24b、24bの根元間に接着されていることにより、両腕部24b、24bが拘束され、乾湿の影響による両腕部24b、24b間の寸法の変化を抑制することができる。それにより、両腕部24b、24bの内側面とシャンクフレンジ23の係合部23aとの間の隙間の大きさを維持することができ、その結果、乾湿によるスティックの発生およびハンマー3が回動する際の左右のぶれやがたつきを防止することができる。したがって、乾湿にかかわらず、ハンマー3の円滑で安定した動作を確保することができる。
【0027】
次に、ハンマーシャンク24の製造方法について説明する。図6は、ハンマーシャンク24の製造方法の工程の一部を順に示している。同図(a)に示すように、まず、木製のハンマーシャンク材31および木製ブロック材32(変位抑制部材)を準備する(準備工程)。具体的には、所定の形状およびサイズの板材を切削加工することなどにより、互いに対向する平行な二股状の2つの腕部31a、31aを一端部に連続して延びるように形成したハンマーシャンク材31を準備する。また、これとともに、ハンマーシャンク材31の両腕部31a、31aの根元間と相補的な断面形状を有し、連続して延びる木製ブロック材32を準備する。この木製ブロック材32では、その繊維方向が幅方向に配置されており、したがって、木製ブロック材32がハンマーシャンク材31の2つの腕部31a、31a間に取り付けられたときには、繊維方向が両腕部31a、31aの互いに対向する方向に一致する。
【0028】
次いで、ハンマーシャンク材31の両腕部31a、31aの内側面の根元に、前述したのと同様の接着剤を塗布した後、木製ブロック材32を両腕部31a、31aの根元間に挿入し、接着する(取付け工程)。これにより、図6(b)に示すように、木製ブロック材32は、ハンマーシャンク材31の両腕部31a、31aの根元間に、しっかりと取り付けられる。次いで、同図(c)に示すように、木製ブロック材32を取り付けたハンマーシャンク材31を、腕部31aの延び方向の所定間隔Tごとに、その延び方向と直交する方向に沿って、挽割りなどによって切断する(切断工程)。それにより、前述した木製ブロック28を取り付けたハンマーシャンク24とほぼ同様の複数のハンマーシャンク(以下「半製品ハンマーシャンク」という)が、切り出される。その後、この半製品ハンマーシャンクを適宜、切削加工することなどにより、前述したハンマーシャンク24、すなわち木製ブロック28を有するハンマーシャンク24が得られる。
【0029】
このハンマーシャンクの製造方法によれば、連続して延びる木製ブロック材32をハンマーシャンク材31に取り付けてから、そのハンマーシャンク材31を切断するので、シャンク本体24aごとに木製ブロック28を取り付ける場合に比べて、木製ブロック28を有するハンマーシャンク24を効率良く製造することができる。また、前述したように、木製ブロック材32をハンマーシャンク材31に取り付ける以外の工程は、従来一般に行われるハンマーシャンクの製造工程と同じであるので、ハンマーシャンク24を製造する際に、従来の製造ラインをそのまま利用でき、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0030】
なお、実施形態では、木製ブロック28に採用される木材の種類として、シデを例示したが、本発明の木製ブロック28はそれに限定されるものではなく、乾湿によるシャンク本体24aの両腕部24b、24b間の変位を抑制できるものであれば、他の種類の木材を採用することも可能である。また、実施形態で示したハンマーシャンク24のシャンク本体24aや木製ブロック28の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態によるハンマーシャンクを用いたグランドピアノの鍵盤、アクションおよびハンマーなどを、離鍵状態において示す側面図である。
【図2】ハンマーおよびハンマーシャンクフレンジを示す斜視図である。
【図3】図2のハンマーシャンクとハンマーシャンクフレンジの連結部分を拡大して示す分解斜視図である。
【図4】乾湿試験を行ったハンマーシャンクの前端部を示す平面図であり、(a)実施例1、(b)実施例2、および(c)従来例を示す。
【図5】乾湿試験の試験結果を示す表である。
【図6】ハンマーシャンクの製造方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 鍵盤
1a 鍵
3 ハンマー
23 ハンマーシャンクフレンジ(フレンジ)
24 ハンマーシャンク
24a シャンク本体
24b 腕部
28 木製ブロック(変位抑制部材)
31 ハンマーシャンク材
31a 腕部
32 木製ブロック材(変位抑制部材)
【出願人】 【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
【出願日】 平成19年3月26日(2007.3.26)
【代理人】 【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄


【公開番号】 特開2008−241839(P2008−241839A)
【公開日】 平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願番号】 特願2007−78822(P2007−78822)