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【発明の名称】 鍵盤楽器の鍵
【発明者】 【氏名】吉末 健治

【要約】 【課題】経年劣化や演奏者の好みなどに応じて、鍵カバーを容易に交換することができる鍵盤楽器の鍵を提供する。

【解決手段】前後方向に延びる回動自在の鍵本体2aと、鍵本体2aに着脱自在に取り付けられ、鍵本体2aの上面の前部を覆う鍵カバー11と、を備えており、鍵カバー11は、合成樹脂の成形品で構成され、鍵本体2aの上面前部を覆う上壁11aと、鍵本体2aの左右の側面を覆う左右の側壁11b、11bと、左右の側壁11b、11bの下端部から内側に突出し、鍵本体2aの下面に係合する係合部11c、11cと、を有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延びる回動自在の鍵本体と、
当該鍵本体に着脱自在に取り付けられ、前記鍵本体の上面の前部を覆う鍵カバーと、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵。
【請求項2】
前記鍵カバーは、下方に開放した中空の合成樹脂の成形品で構成され、
前記鍵本体の上面を覆う上壁と、
前記鍵本体の左右の側面を覆う左右の側壁と、
当該左右の側壁の下端部から内側に突出し、前記鍵本体の下面に係合する係合部と、
を有していることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵。
【請求項3】
前記鍵カバーの前記上壁に、当該上壁を覆う鍵表皮が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の鍵盤楽器の鍵。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器の鍵に関し、特に、鍵本体に取り付けられた鍵カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鍵盤楽器の鍵として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この鍵は黒鍵であり、鍵本体(棒状基材)と、その上面前部に取り付けられた鍵カバー(黒鍵本体)を備えている。
【0003】
鍵本体は、断面方形の木質材で構成され、前後方向に延びており、その上面には、鍵カバーを取り付けるための前後2つのダボ孔が形成されている。鍵カバーは合成樹脂で構成された中空箱形のものであり、下方に開口している。この鍵カバーの左右の側壁の内面には、複数のリブが設けられている。具体的には、左側壁の前部および後部に、前後方向に並設された一対のリブがそれぞれ設けられており、右側壁の前部および後部にも、左側壁のリブに対向するように、各一対のリブが設けられている。
【0004】
鍵本体と鍵カバーの間には、前後2つのダボ片が設けられている。前側のダボ片の上部は、鍵カバーの一対のリブ間に係合しており、ダボ片の下部は鍵本体のダボ孔に嵌合している。また、後ろ側のダボ片も前側と同様に設けられている。以上により、鍵カバーは、2つのダボ片を介して鍵本体に取り付けられている。
【0005】
また、一般に、白鍵は、木製の鍵本体、および鍵カバーを有している。鍵カバーは、側面形状がL字形の薄い板状のものであり、アクリルやアセチルセルロースなどの合成樹脂、または象牙で構成され、鍵本体の上面の前部および前面に接着されている。
【0006】
アセチルセルロースや象牙は、吸水性を有しており、演奏時に指先にかいた汗を吸収するので、演奏者は、汗で指を滑らせることなく演奏することができる。しかし、そのような材料で構成された鍵カバーは、経年劣化により次第に黄色に変色し、鍵盤楽器の外観を損なうので、その場合、鍵カバーを交換する必要がある。また、演奏者が押鍵したときの触感は、鍵カバーの材料ごとに異なるため、演奏者の好みに応じて、鍵カバーを交換することが好ましい。
【0007】
しかし、前述したように、白鍵の鍵カバーは鍵本体に接着されているので、鍵カバーのみの交換作業は非常に煩雑になる。また、前述した従来の黒鍵では、鍵本体から鍵カバーを取り外すことは可能であるものの、鍵カバーが中空で、その内部に設けたリブとダボ片との係合によって、鍵カバーを取り付けているので、この鍵カバーを、薄い板状の白鍵用の鍵カバーとして用いることはできない。
【0008】
また、白鍵の鍵カバーの材料が象牙の場合には、象牙の輸出入がワシントン条約で禁止されているため、国内向けに生産した鍵盤楽器を海外向けに容易には転用できず、生産・在庫の管理が煩雑になってしまう。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、経年劣化や演奏者の好みなどに応じて、鍵カバーを容易に交換することができる鍵盤楽器の鍵を提供することを目的としている。
【0010】
【特許文献1】実開平5−21296号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、前後方向に延びる回動自在の鍵本体と、鍵本体に着脱自在に取り付けられ、鍵本体の上面の前部を覆う鍵カバーと、を備えていることを特徴とする。
【0012】
この鍵盤楽器の鍵によれば、演奏者は、鍵本体の前部に取り付けられた鍵カバーを介して、鍵を押すことによって、演奏を行う。本発明では、鍵カバーが鍵本体に着脱自在に取り付けられているので、例えば経年劣化による鍵カバーの変色に応じて、鍵カバーのみを新品のものに交換するだけで、鍵盤楽器の良好な外観を容易に回復させることができる。また、互いに異なる材料で構成された複数の種類の鍵カバーをあらかじめ用意しておくことにより、鍵の触感が演奏者の好みに合わない場合でも、他の材料の鍵カバーに交換するだけで、演奏者の好みの触感を容易に得ることができる。
【0013】
また、鍵カバーが鍵本体に対して着脱自在であるので、鍵カバーとして象牙を用いて国内向けに生産した鍵盤楽器でも、鍵カバーを取り外し、他の材料で構成した鍵カバーに交換するだけで、海外向けに容易に転用することができ、それにより、生産・在庫の管理を容易にすることができる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵において、鍵カバーは、下方に開口した中空の合成樹脂の成形品で構成され、鍵本体の上面を覆う上壁と、鍵本体の左右の側面を覆う左右の側壁と、左右の側壁の下端部から内側に突出し、鍵本体の下面に係合する係合部と、を有していることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、鍵カバーが下方に開口した中空の合成樹脂製の成形品で構成されており、鍵本体の上面および側面が鍵カバーの上壁および左右の側壁でそれぞれ覆われている。また、鍵カバーの各側壁の下端部から内側に突出する係合部が、鍵本体の下面に係合している。したがって、鍵カバーを鍵本体に取り付ける際には、合成樹脂の弾性を利用し、鍵カバーの側壁を左右に押し広げ、係合部を鍵本体に係合させることにより、スナップ嵌めで鍵本体に容易に取り付けることができる。また、これと同様にして、鍵カバーを容易に取り外すことができる。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の鍵盤楽器の鍵において、鍵カバーの上壁に、上壁を覆う鍵表皮が設けられていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、鍵カバーの上壁に、これを覆う鍵表皮が設けられているので、離鍵状態においては、ほぼ鍵表皮だけが露出する。また、押鍵の際、演奏者の指が直接、接触するのは鍵表皮だけである。したがって、鍵表皮だけを所望の材料で構成すればよく、象牙のような希少な材料を鍵表皮に用いる場合、鍵カバー全体を象牙で構成する場合と比較して、材料を大幅に節約でき、製造コストを抑制することができる。また、鍵表皮は鍵カバーの上壁に設けられているので、鍵本体に対する鍵カバーの着脱性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるグランドピアノの鍵盤1を部分的に示している。以下の説明では、演奏者側から見たときのピアノの手前側を「前」、奥側を「後」として説明する。
【0019】
鍵盤1は、複数の白鍵2(鍵)および黒鍵3(鍵)(それぞれ1つのみ図示)で構成されている。各白鍵2は、鍵本体2aと、その前部に取り付けられた白鍵カバー11(鍵カバー)などを備えており、演奏者が白鍵カバー11を介して白鍵2を押すことによって、演奏が行われる。鍵本体2aは、例えばスプルスなどの木質材で構成され、断面矩形に形成されており、前後方向に延びている。また、鍵本体2aの前端部の幅は、その後ろ側の部分よりも広くなっており、鍵本体2aの前面には、合成樹脂製の前壁2bが貼り付けられている。また、各黒鍵3は、白鍵2の鍵本体2aよりも短い鍵本体3aと、その前部に取り付けられた黒鍵カバー21(鍵カバー)などを備えている。
【0020】
白鍵2および黒鍵3は、互いにほぼ同じ構成を有するので、以下、これらを代表し、白鍵2を中心として説明する。白鍵2の鍵本体2aの上面中央には中座板4が貼り付けられており、鍵本体2aから中座板4にわたって、上下方向に貫通するバランスピン孔2cが形成されている。一方、鍵盤1の下側には筬6が設けられている。この筬6は、前側から順に筬前6a、筬中6bおよび筬後6cで構成されており、これらは左右方向に延びている。
【0021】
筬中6bには、バランスピン6dが鍵ごとに立設されており(2つのみ図示)、白鍵2は、そのバランスピン孔2cがバランスピン6dに係合した状態で、筬中6bに回動自在に支持されている。また、筬前6aには、フロントピン(図示せず)が鍵ごとに立設されており、このフロントピンに、鍵本体2aの前端部に形成されたフロントピン穴(図示せず)が係合している。また、離鍵状態において、鍵本体2aの後端部が、筬後6cの上面に貼り付けられた鍵盤枕6fに着座している。
【0022】
鍵本体2aの中座板4よりも後ろ側の部分は、他の部分よりも低くなっており、その上面には、後ろ側から順に、トップフェルト5、バックチェック座板7およびキャプスタン座板8が設けられている。バックチェック座板7には、バックチェックワイヤ9aを介してバックチェック9が取り付けられている。また、キャプスタン座板7には、キャプスタンスクリュー10がねじ込まれており、このキャプスタンスクリュー10に、アクションのウィッペン(図示せず)が載置されている。
【0023】
黒鍵3もまた、その中央のバランスピン孔3cがバランスピン6dに係合した状態で、筬中6bに回動自在に支持されている。また、鍵本体3aの上面後部には、バックチェック9やキャプスタンスクリュー10などが、白鍵2と同様に設けられている。
【0024】
白鍵2の鍵本体2aに取り付けられた白鍵カバー11は、アクリルやアセチルセルロースなどの合成樹脂の成形品で構成されており、図2に示すように、上壁11a、左右の側壁11b、11bおよび左右の係合部11c、11cなどを有し、下方に開口する中空状に形成されている。上壁11aの形状およびサイズは、鍵本体2aの前部とほぼ同じに構成されており、したがって、上壁11aは、前側の幅広部と、その後ろ側の幅狭部で構成されている。左右の側壁11b、11bは、上壁11aの幅広部の左右の端部から垂直下方に延びている。また、係合部11cは、各側壁11bの下端部から内方に突出している。
【0025】
また、上壁11aには、幅広部の後端部と幅狭部の中央に、下方に突出する前後2つの凸部11d,11dが設けられており(1つのみ図示)、鍵本体2aの上面前部の所定の位置には、前後2つの穴2d、2dが、凸部11d、11dに対応するように形成されている。図3に示すように、凸部11d、11dは鍵本体2aの穴2d、2dに嵌合しており、それにより、白鍵カバー11は、鍵本体2aに対して位置決めされる。また、白鍵カバー11の上壁11aの幅広部および側壁11b、11bが、鍵本体2aの前端部の上面および両側面を、それぞれ覆うとともに、幅狭部が鍵本体2aの上面を覆っている。また、左右の係合部11c、11cは、鍵本体2aの下面に係合している。
【0026】
以上の構成により、白鍵カバー11は、鍵本体2aに対して着脱自在であり、鍵本体2aに取り付ける際には、その側壁11b、11bを左右に押し広げ、係合部11c、11cを鍵本体2aに係合させることにより、スナップ嵌めで鍵本体2aに容易に取り付けることができる。また、これと同様にして、白鍵カバー11を容易に取り外すことができる。
【0027】
一方、黒鍵カバー21は、白鍵カバー11と同様、アクリルまたはアセチルセルロースなどの合成樹脂の成形品で構成されており、図4に示すように、カバー本体21a、左右の側壁21b、21bおよび左右の係合部21c、21c(1つのみ図示)などを有している。カバー本体21aは中空箱形のものであり、下方に開放している。左右の側壁21b、21bは、カバー本体21aの前後方向の中央に設けられており、その左右の側部から下方に延びている。また、係合部21cは、各側壁21bの下端部から内方に突出している。また、カバー本体21aの前部および後部には、その上壁から下方に突出する凸部21d、21dが設けられている。
【0028】
一方、黒鍵3の鍵本体3aの前端部には、黒鍵カバー21の左右の側壁21b、21bに対応するように、上下方向にわたって延びる左右2つの切欠き3b、3bが形成されており、切欠き3b、3bの前後には、黒鍵カバー21の凸部21d、21dに対応する前後2つの穴3d、3dが形成されている。黒鍵カバー21の凸部21dは、鍵本体3aの穴3dに嵌合しており、それにより、黒鍵カバー21は、鍵本体3aに対して位置決めされた状態で、側壁21b、21bを利用したスナップ嵌めによって、鍵本体3aに取り付けられている。この状態では、鍵本体3aの上面前部はカバー本体21aで覆われており、また、側壁21bおよび係合部21cは、鍵本体3aの切欠き3bおよび下面にそれぞれ係合している。以上の構成により、黒鍵カバー21は、白鍵カバー11と同様、鍵本体3aに対して着脱自在に取り付けられている。
【0029】
以上のように、本実施形態の白鍵2によれば、白鍵カバー11が鍵本体2aに着脱自在に取り付けられているので、例えば経年劣化による白鍵カバー11の変色に応じて、白鍵カバー11のみを新品のものに交換するだけで、ピアノの良好な外観を容易に回復させることができる。また、互いに異なる材料で構成された複数の種類の白鍵カバー11をあらかじめ用意しておくことにより、白鍵2の触感が演奏者の好みに合わない場合でも、他の材料で構成された白鍵カバー11に交換するだけで、演奏者の好みの触感を容易に得ることができる。また、黒鍵カバー21もまた、鍵本体3aに対して着脱自在であるので、黒鍵3についても白鍵2と同様の効果を得ることができる。
【0030】
図5は、白鍵カバーの変形例を示している。この白鍵カバー12(鍵カバー)は、前述した白鍵カバー11の上壁11aに、鍵表皮13をさらに接着したものである。鍵表皮13は、アクリルやアセチルセルロースなどの合成樹脂や、象牙などから薄板状に形成されており、上壁11aのほぼ全面を覆っている。
【0031】
この変形例によれば、離鍵状態においては、ほぼ鍵表皮13だけが露出する。また、押鍵の際、演奏者の指が直接、接触するのは鍵表皮13だけである。したがって、鍵表皮13だけを所望の材料で構成すればよく、象牙のような希少な材料を鍵表皮13に用いる場合、白鍵カバー全体を象牙で構成する場合と比較して、材料を大幅に節約でき、製造コストを抑制することができる。また、鍵表皮13は鍵カバー11の上壁11aに貼り付けられているので、鍵本体2aに対する鍵カバー12の着脱性を維持することができる。
【0032】
また、白鍵カバー12が鍵本体2aに対して着脱自在であるので、鍵表皮13として象牙を用いて国内向けに生産したピアノでも、白鍵カバー12を取り外し、鍵表皮13として象牙以外の材料を用いた白鍵カバーに交換するだけで、海外向けに容易に転用でき、それにより、生産・在庫の管理を容易にすることができる。
【0033】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態の鍵カバーを、着色した鍵カバーに交換したり、透明な材料で構成した鍵カバーに交換するとともに鍵本体に発光体を取り付けたりすることによって、意匠性の多様化を容易に図ることができる。また、例えば、透明な鍵カバーを用いるとともに、鍵本体の上面に音階などを表示することによって、音楽の教材として利用することも可能である。
【0034】
さらに、実施形態は、本発明をグランドピアノの鍵に適用した例であるが、これに限定されることなく、アップライトピアノの鍵や、他の鍵盤楽器の鍵に適用してもよい。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態による鍵を用いたグランドピアノの鍵盤を示す斜視図である。
【図2】図1の白鍵の前部を、白鍵カバーを取り外した状態で示す斜視図である。
【図3】図1の線A−Aに沿う白鍵の断面図である。
【図4】図1の黒鍵の前部を、黒鍵カバーを取り外した状態で示す斜視図である。
【図5】白鍵カバーの変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
2 白鍵(鍵)
2a 鍵本体
3 黒鍵(鍵)
3a 鍵本体
11 白鍵カバー(鍵カバー)
12 白鍵カバー(鍵カバー)
13 鍵表皮
21 黒鍵カバー(鍵カバー)
【出願人】 【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
【出願日】 平成19年1月10日(2007.1.10)
【代理人】 【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄


【公開番号】 特開2008−170628(P2008−170628A)
【公開日】 平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願番号】 特願2007−2492(P2007−2492)