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【発明の名称】 アップライトピアノのアクション
【発明者】 【氏名】詰石 健

【要約】 【課題】良好なタッチ重さおよびタッチ感を確保しながら、レットオフのタイミングを明確にすることができることによって、表現力に優れた高い演奏性を実現できるアップライトピアノのアクションを提供する。

【解決手段】バットフレンジ24に回動自在に支持されるとともに、ハンマー41が立設されたバット2に、ジャック16が離鍵状態において係合し、ジャック16は、押鍵に伴い、バット2を突き上げて、後方に回動させ、その回動の途中で、バット2から離脱する。バット2を前方に付勢するためのバットスプリング3が、バット2の後方に設けられ、その上端部および下端部が、バット2およびバットフレンジ24に取り付けられたバットフレンジコード4にそれぞれ係止されている。押鍵に伴ってジャック16がバット2から離脱する直前に、ストッパ5が、バットフレンジコード4の移動を規制することで、バットスプリング3の付勢力を増大させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押鍵に伴って作動し、ハンマーを後方に回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションであって、
バットフレンジと、
当該バットフレンジに回動自在に支持されるとともに、前記ハンマーが立設されたバットと、
前記鍵の離鍵状態において前記バットに係合し、前記鍵の押鍵に伴い、前記バットを突き上げることによって当該バットおよび前記ハンマーを後方に回動させるとともに、当該回動の途中で、前記バットから離脱する回動自在のジャックと、
前記バットフレンジに取り付けられたバットフレンジコードと、
前記バットの後方に設けられ、上下方向に延びるとともに、上端部および下端部が前記バットおよび前記バットフレンジコードにそれぞれ係止され、前記バットを前方に付勢するためのバットスプリングと、
前記鍵の押鍵に伴って前記ジャックが前記バットから離脱する直前に、前記バットフレンジコードが当接し、当該バットフレンジコードの移動を規制することによって、前記バットスプリングの付勢力を増大させるストッパと、
を備えることを特徴とするアップライトピアノのアクション。
【請求項2】
前記ハンマーは、左右方向に並んだ複数のハンマーで構成されており、
前記ストッパは、左右方向に延びるロッドで構成されており、
当該ロッドの上下方向および前後方向の位置を調整するための調整機構をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項3】
前記ロッドは、左右方向に延びる本体部と、当該本体部から垂直に延びる腕部とを備え、
前記調整機構は、
第1挿入孔を有する不動の取付部材と、
前記腕部が挿入された第1ロッド孔を形成した筒状の周壁と、当該周壁の左右方向の一端側に設けられ、第2挿入孔を形成した端壁とを有する第1嵌合部と、
当該第1嵌合部に前記周壁の左右方向の他端からはめ込まれ、前記腕部が挿入された第2ロッド孔を形成した本体部と、当該本体部から左右方向に延び、前記第1および第2の挿入孔を介して前記取付部材から突出するねじ部とを有する第2嵌合部と、
前記ねじ部に締め付けられることにより、前記第1および第2の嵌合部を前記取付部材に固定するとともに、前記腕部を前記第1および第2のロッド孔で挟持することによって、前記ロッドを前記取付部材に固定する締付け部材と、を備えることを特徴とする、請求項2に記載のアップライトピアノのアクション。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵の押鍵に伴って作動し、ハンマーを後方に回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアップライトピアノのアクションとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このアクションは、一般的なものであり、バットフレンジに回動自在に取り付けられ、上下方向に延びるハンマーシャンクを有するハンマーが立設されたバットと、鍵の離鍵状態においてバットの下端部に係合するジャックと、バットに設けられたバットスプリングとを有している。このバットスプリングは、ねじりコイルばねで構成された一般的なものであり、バットを復帰方向に常に付勢している。
【0003】
また、アクションでは、鍵が押鍵されると、ジャックがバットを突き上げ、それにより、バットおよびハンマーは、バットスプリングの付勢力に抗しながら、バットフレンジを支点として後方に回動する。この回動の途中、ジャックはバットから離脱し、それにより、鍵のタッチ重さ(指先にかかる荷重)からハンマーの重量分が失われることで、演奏者にレットオフ感が付与される。また、このジャックの離脱後、ハンマーは、慣性でそのまま回動し、後方に張られた弦を打弦することによって、演奏音を発生させる。
【0004】
一般に、豊かな演奏表現のためには、ジャックがハンマーから離脱するタイミング、すなわちレットオフのタイミングを正確に把握し、ハンマーの打弦速度を細かくコントロールすることが重要である。例えば、ピアニッシモのような弱音は、ハンマーを弦の付近まで一旦、回動させ、その状態からさらに回動させることにより、ハンマーの打弦速度を小さくすることによって得ることができる。すなわち、鍵を、ジャックがハンマーから離脱するレットオフ直前まで一旦、押鍵し、その状態から押し切ることによって、弱音を得ることができる。
【0005】
これに対して、従来のアクションを適用したアップライトピアノでは、前述したように、ハンマーシャンクが上下方向に延びているために、ハンマーの重心がその回動支点に近い位置にあるので、ハンマーの自重による回動支点回りのモーメントは小さい。このため、レットオフ直前のタッチ重さであるレットオフ荷重は小さく、レットオフ前後のタッチ重さの変化量もまた小さいので、レットオフのタイミングを把握し難い。これに対して、グランドピアノでは、ハンマーシャンクが前後方向に延びていて、ハンマーの自重による回動支点回りのモーメントは大きいので、上記のような問題はほとんどない。以上の結果、アップライトピアノでは、グランドピアノと比較して、ハンマーの打弦速度を細かく調整し難いことによって、ピアノの表現力や演奏性が低くなってしまう。
【0006】
一方、前述したように、バットスプリングの付勢力は、バットを復帰方向に付勢するように作用するため、押鍵時に鍵に反力として作用する。このため、上記のような不具合を解消すべく、レットオフのタイミングを明確にするために、このバットスプリングの付勢力を増大させることが考えられる。しかし、その場合には、バットスプリングの付勢力が常に作用するため、鍵の静的荷重が大きくなり、タッチ重さが過大になるとともに、ばねを変形させるときに得られるような「ばねっぽい」タッチ感になり、タッチ感を悪化させてしまう。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、良好なタッチ重さおよびタッチ感を確保しながら、レットオフのタイミングを明確にすることができ、それにより、表現力に優れた高い演奏性を実現することができるアップライトピアノのアクションを提供することを目的とする。
【0008】
【特許文献1】特開平6−27934号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、鍵の押鍵に伴って作動し、ハンマーを後方に回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションであって、バットフレンジと、バットフレンジに回動自在に支持されるとともに、ハンマーが立設されたバットと、鍵の離鍵状態においてバットに係合し、鍵の押鍵に伴い、バットを突き上げることによってバットおよびハンマーを後方に回動させるとともに、回動の途中で、バットから離脱する回動自在のジャックと、バットフレンジに取り付けられたバットフレンジコードと、バットの後方に設けられ、上下方向に延びるとともに、上端部および下端部がバットおよびバットフレンジコードにそれぞれ係止され、バットを前方に付勢するためのバットスプリングと、鍵の押鍵に伴ってジャックがバットから離脱する直前に、バットフレンジコードが当接し、バットフレンジコードの移動を規制することによって、バットスプリングの付勢力を増大させるストッパと、を備えることを特徴とする。
【0010】
このアップライトピアノのアクションによれば、離鍵状態では、ジャックがバットに係合しており、この状態から鍵が押鍵されると、ジャックはバットを突き上げ、それにより、バットは、これに立設されたハンマーとともに、バットフレンジを支点として後方に回動する。この回動の途中、ジャックがバットから離脱し、それにより、ハンマーの重量分がタッチ重さから失われることによって、演奏者にレットオフ感が付与される。また、このジャックの離脱後、ハンマーは、慣性でそのまま回動し、弦を打弦することによって、ピアノ音を発生させる。
【0011】
また、押鍵に伴ってバットが後方に回動すると、バットスプリングの上端部は、バットと一体に後方に移動する。一方、バットスプリングの下端部においては、バットフレンジに取り付けられたバットフレンジコードに係止されているため、その移動が規制される。その結果、バットスプリングの上端部と下端部の間の距離が短くなるのに伴い、バットスプリングがたわむことによりバットを前方に付勢する。このバットスプリングの付勢力は、押鍵時に鍵に反力として作用する。
【0012】
また、本発明によれば、押鍵に伴うバットの回動中、ジャックがバットから離脱するレットオフ直前に、バットフレンジコードがストッパに当接し、このストッパによって、バットフレンジコードの移動が規制され、それに伴い、バットスプリングの下端部の移動がさらに規制される。これにより、通常のアクションと比較して、レットオフ直前におけるバットスプリングのたわみが増大し、その付勢力が増強される。したがって、レットオフ荷重を増大させ、レットオフ前後のタッチ重さの変化量を増大させることができるので、レットオフのタイミングがより明確になり、それにより、表現力に優れた高い演奏性を実現することができる。また、レットオフ直前にのみ、ストッパによるバットスプリングの付勢力の増強が行われ、それ以前には、通常のアクションと同様、比較的小さな付勢力が得られるので、良好なタッチ重さおよびタッチ感を確保することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、ハンマーは、左右方向に並んだ複数のハンマーで構成されており、ストッパは、左右方向に延びるロッドで構成されており、ロッドの上下方向および前後方向の位置を調整するための調整機構をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、左右方向に延びるロッドにより複数のハンマーのバットフレンジコードの移動を規制するので、複数のバットやハンマーに対してロッドを共用することができる。また、調整機構により、ロッドの上下方向および前後方向の位置を調整することによって、ロッドの設置位置を、上下方向および前後方向の任意の位置に調整でき、それにより、バットフレンジコードを、その所望の位置およびタイミングでロッドに当接させることができる。したがって、請求項1の効果を最適に得ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、ロッドは、左右方向に延びる本体部と、本体部から垂直に延びる腕部とを備え、調整機構は、第1挿入孔を有する不動の取付部材と、腕部が挿入された第1ロッド孔を形成した筒状の周壁と、周壁の左右方向の一端側に設けられ、第2挿入孔を形成した端壁とを有する第1嵌合部と、第1嵌合部に周壁の左右方向の他端からはめ込まれ、腕部が挿入された第2ロッド孔を形成した本体部と、本体部から左右方向に延び、第1および第2の挿入孔を介して取付部材から突出するねじ部とを有する第2嵌合部と、ねじ部に締め付けられることにより、第1および第2の嵌合部を取付部材に固定するとともに、腕部を第1および第2のロッド孔で挟持することによって、ロッドを取付部材に固定する締付け部材と、を備えることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、ロッドが左右方向に延びる本体部と、本体部から垂直に延びる腕部を備えており、このロッドの上下方向および前後方向の位置が、調整機構により次のようにして調整される。すなわち、まず、調整機構の締付け部材を緩めた後、ロッドを、その腕部を挿入した第1嵌合部および第2嵌合部とともに、ねじ部の軸線、すなわち左右方向に延びる軸線を中心として回動させることによって、腕部の角度が調整される。それに加え、ロッドを、第1および第2のロッド孔に沿って腕部の延び方向に移動させることによって、調整機構からの腕部の突出長さが調整される。以上のような腕部の角度と突出長さの調整によって、ロッドの上下方向および前後方向の位置が調整される。また、そのようにロッドの位置を調整した状態で、締付け部材をねじ部に締め付けることによって、第1および第2の嵌合部が取付部材に固定されるとともに、腕部を第1および第2のロッド孔で挟持することによって、ロッドが取付部材に固定され、調整した位置に保持される。
【0017】
以上のように、本発明によれば、締付け部材を緩めた状態で、ロッドを回動させるとともに、腕部の延び方向に移動させるだけで、ロッドの上下方向および前後方向の位置を、きめ細かくかつ容易に調整することができる。また、そのようなロッドの位置の調整後、締付け部材をねじ部に締め付けるだけで、ロッドを調整した位置に容易に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本実施形態によるアップライトピアノのアクション1を、鍵盤31およびハンマー41などとともに、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、演奏者側から見て手前側を「前」、奥側を「後」、左側を「左」、右側を「右」として説明する。
【0019】
鍵盤31は、左右方向(図1の奥行き方向)に並んだ多数の鍵32(1つのみ図示)によって構成されている。各鍵32は、筬33に立設されたバランスピン33aに、回動自在に支持されており、筬33は、棚板(図示せず)の上面に取り付けられている。
【0020】
ハンマー41は、鍵32ごとに設けられており(1つのみ図示)、各ハンマー41は、ハンマーシャンク42およびハンマーヘッド43を有している。ハンマーシャンク42は、断面円形の細長い棒状に形成され、アクション1の後述するバット2の上面に立設されており、上下方向に延びている。ハンマーヘッド43は、ハンマーシャンク42の上端部に設けられており、離鍵状態では、後方に鉛直に張られた弦Sに対向している。
【0021】
アクション1は、左右方向に延びるセンターレールCRに取り付けられており、このセンターレールCRは、上述した棚板の後端部の左右の端部にそれぞれ設けられたブラケットB、B(図1には右側のもののみ図示)に渡されている。この構成により、アクション1は、鍵盤31の後端部の上方に位置し、左右のブラケットB、Bの間に位置している。また、左右のブラケットB、Bの間には、ハンマーレールHRが渡されている。また、アクション1は、鍵32ごとに設けられたウィッペン15、ジャック16およびバット2を有している(各1つのみ図示)。
【0022】
ウィッペン15は、例えば合成樹脂や木材によって所定の形状に形成されており、その後端部において、センターレールCRの下端部に固定されたウィッペンフレンジ17に、回動自在に支持されている。ウィッペン15の前部には、下方に突出するヒール部15aが設けられており、ウィッペン15は、このヒール部15aを介して、対応する鍵32の上面後端部に設けられたキャプスタンボタン32aに載置されている。ウィッペン15の上面前端部には、バックチェック18が立設されている。また、ウィッペン15の上面のウィッペンフレンジ17よりも後ろ側の部分には、後述するダンパー45を駆動するためのスプーン19が立設されている。
【0023】
ジャック16は、例えば合成樹脂で構成されており、射出成形によって一体成形されている。ジャック16は、前後方向に延びる基部16aと、基部16aの後端部から上方に延びるハンマー突上げ部16bを有しており、基部16aとハンマー突上げ部16bとの角部において、ウィッペン15の中央部に回動自在に支持されている。ジャック16の基部16aとウィッペン15の間には、離鍵時にジャック16を復帰回動させるためのジャックスプリング20が設けられている。また、基部16aの上方には、レギュレティングボタン21が鍵32ごとに設けられている(1つのみ図示)。このレギュレティングボタン21は、レギュレティングブラケット22やレギュレティングレール23を介して、センターレールCRに固定されている。
【0024】
バット2は、合成樹脂により所定の形状に形成されるとともに、その背面側の下端部において、センターレールCRの上端部に固定されたバットフレンジ24に、ピン状の支点2aを介して回動自在に支持されており、それにより、ハンマー41は回動自在になっている。また、離鍵状態では、バット2の下面の前端部で構成される被突上げ部2dに、ジャック16のハンマー突上げ部16bが下方から係合することによって、ハンマー41が静止した状態になっている。
【0025】
また、バット2の前面には、キャッチャー25が取り付けられており、キャッチャー25は、離鍵状態では、前述したバックチェック18の後方に位置し、これと対向している。さらに、バット2の背面の上端部は後方に若干突出し、その左右方向の中央に、溝2bが形成されており、この溝2bには、バットスプリング3が取り付けられている(図3参照)。
【0026】
図2および図3に示すように、このバットスプリング3は、ねじりコイルばねで構成されており、コイル部3a、第1腕部3bおよび第2腕部3cを有している。コイル部3aは、バット2の溝2bに嵌合した状態でバットスプリングコード2cに係止されており、第1腕部3bは、コイル部3aの一端から下方に延び、溝2bの底面に係合している。第2腕部3cは、コイル部3aの他端から、バット2の背面に対向するように下方に延びており、その下端部のフック部3dが、バットフレンジコード4に引っ掛けられ、係止されている。
【0027】
バットフレンジコード4は、その左右の両端部が、バットフレンジ24の左右に二股に分岐したバット取付部24a,24aに取り付けられており、バットフレンジコード4の中央部に、上記のフック部3dが引っ掛けられている(図3参照)。以上の構成により、バットスプリング3は、バット2とバットフレンジ24の間に圧縮された状態で取り付けられており、それにより、バット2を前方に付勢し、ハンマー41を図1の時計回りに付勢している。また、離鍵状態では、バットフレンジコード4は、バットスプリング3の付勢力により引っ張られることによって、後ろ側上方に斜めに延びている。
【0028】
また、アクション1の後方には、ダンパー45が鍵32ごとに設けられている(1つのみ図示)。ダンパー45は、ダンパーフレンジ45aを介してセンターレールCRに回動自在に取り付けられたダンパーレバー45bと、ダンパーレバー45bの上側にダンパーワイヤ45cを介して取り付けられたダンパーヘッド45dと、ダンパーヘッド45dを弦S側に付勢するダンパーレバースプリング45eなどで構成されている。このダンパー45は、離鍵時に、ダンパーレバースプリング45eの付勢力により、ダンパーヘッド45dが弦Sを押圧することによって、止音動作を行う。
【0029】
さらに、アクション1は、バットフレンジコード4の移動を規制するためのストッパロッド5(ストッパ、ロッド)と、このストッパロッド5の上下方向および前後方向の位置を調整するための左右一対の調整機構6,6とを有している(図4参照)。
【0030】
ストッパロッド5は、剛性の高い金属、例えば鋼で構成されており、円形の断面を有している。また、図4に示すように、ストッパロッド5は、アクション1の全体にわたって左右方向に延びる本体部5aと、本体部5aの左右の端からそれぞれ垂直に前側に延びる腕部5b,5bとを一体に有している。また、ストッパロッド5は、左右の調整機構6,6を介して、左右のブラケットB,Bに取り付けられている。これにより、図5に示すように、ストッパロッド5の本体部5aは、バットフレンジコード4の下方の所定位置に配置され、離鍵状態では、バットフレンジコード4に所定のクリアランスCを隔てて対向しており、このクリアランスCは、調整機構6,6によって調整される。
【0031】
左右の調整機構6,6は、左右対称に構成されており、図6〜図8に示すように、各調整機構6は、ケース7(取付部材)、第1嵌合部8、第2嵌合部9、スプリング10、およびナット11(締付け部材)を有している。
【0032】
ケース7は、上下の壁7a,7aと両壁7a,7aの一端間に延びる側壁7bとから、断面が「コ」字状に形成されており、さらに、上下の壁7a,7aの他端には、つば7d,7dが、それぞれ上方および下方に若干、突出するように設けられている。側壁7bの中央には、第1挿入孔7cが形成されている。また、各つば7dには、ねじ止め用の貫通孔7eが形成されており、ケース7は、各貫通孔7eを介して、ねじ7fをブラケットBにねじ込むことによって、ブラケットBに固定されている(図2参照)。
【0033】
第1嵌合部8は、円筒状の周壁8aと、周壁8aの一端側に設けられ、周壁8aよりも小さな円形の端壁8bと、両壁8a,8bの間に延びる傾斜壁8cとを一体に有しており、ケース7内に収容されている。周壁8aには、径方向に対向する位置に、一対の第1ロッド孔8dが形成されており、端壁8bの中央には、第2挿入孔8eが形成されている。この第1ロッド孔8dの径は、前述したストッパロッド5の腕部5bよりも若干大きい。また、第1嵌合部8の内部空間は、第2嵌合部9を収容するための収容凹部8fになっている。
【0034】
第2嵌合部9は、左右方向に延びるねじ部9aを有するボルトで構成されており、その本体部9bには、上記の第1ロッド孔8d,8dに対応して貫通する第2ロッド孔9cが形成されている。第2ロッド孔9cの径は、第1ロッド孔8dと同じ大きさに設定されている。また、図7および図8に示すように、第2嵌合部9は、第1嵌合部8の収容凹部8fに収容され、はめ込まれるとともに、そのねじ部9aが、第1嵌合部8の第2挿入孔8e、スプリング10、およびケース7の第1挿入孔7cに順に挿入され、ケース7の外側に若干、突出している。
【0035】
さらに、スプリング10は、コイルばねで構成され、第1嵌合部8の端壁8bとケース7の側壁7bの間に圧縮された状態で設けられており、ナット11は、ケース7の外側からねじ部9aにねじ込まれ、締め付けられている。これにより、第1および第2の嵌合部8,9が、ケース7に固定されている。
【0036】
また、第1および第2の嵌合部8,9の第1および第2のロッド孔8d,9cには、ストッパロッド5の腕部5bが挿入されている。上記のナット11の締付けにより、これらのロッド孔8d,9cの中心が互いに若干、ずれた状態で、腕部5bが、第1ロッド孔8dの内壁と第2ロッド孔9cの内壁との間で挟持されることによって、ストッパロッド5は、第1および第2の嵌合部8,9とともに、ケース7に固定されている。また、この状態では、上述したスプリング10の付勢力は、第1嵌合部8を第2嵌合部9側に付勢するように作用することによって、ナット11が緩んだときのストッパロッド5の緩み止めとして機能する。
【0037】
以上の構成の調整機構6では、ストッパロッド5の上下方向および前後方向の位置が、次のようにして調整される。すなわち、まず、ナット11を緩めた後、ストッパロッド5を、第1および第2の嵌合部8,9とともに、ねじ部9aの軸線、すなわち左右方向に延びる軸線を中心として回動させることによって、腕部5bの角度が調整される。それに加え、ストッパロッド5を、第1および第2のロッド孔8d,9cに沿って腕部5bの延び方向に移動させることによって、調整機構6からの腕部5bの突出長さが調整される。以上のような腕部5bの角度と突出長さの調整によって、ストッパロッド5の上下方向および前後方向の位置が調整される。また、そのようにストッパロッド5の位置を調整した状態で、ナット11をねじ部9aに締め付けることによって、上述したようにストッパロッド5がケース7に固定され、調整した位置に保持される。
【0038】
次に、上述したアクション1およびハンマー41などの押鍵の開始から離鍵の終了までの一連の動作について説明する。演奏者により離鍵状態の鍵32が押鍵されると、鍵32は、バランスピン33aを中心として図1の時計回りに回動し、その後端部に載置されたウィッペン15は、鍵32により突き上げられることによって、ウィッペンフレンジ17を支点として、上方(反時計回り)に回動する。このウィッペン15の回動に伴い、ジャック16は、ウィッペン15と一緒に上方に移動し、ハンマー突上げ部16bを介してバット2を突き上げる。これにより、バット2およびハンマー41は、バットスプリング3の付勢力に抗しながら、後方の弦Sに向かって反時計回りに回動する。
【0039】
このバット2の回動に伴い、バット2に係止されたバットスプリング3のコイル部3aは、バット2と一体に後方に移動する。一方、バットスプリング3のフック部3dは、このコイル部3aの移動に伴って、後ろ側下方に斜めに移動しようとするものの、バットフレンジコード4に係止されているため、主としてその下方への移動が許容され、後方への移動が規制される。その結果、押鍵による^「バット2の回動に伴い、バットスプリング3のフック部3dがコイル部3aに対して相対的に前方に移動することによって、バットスプリング3のたわみが大きくなり、その付勢力が大きくなる。
【0040】
そして、ウィッペン15が所定角度、回動したときに、ジャック16の基部16aがレギュレティングボタン21に当接し、上方への移動が阻止されることにより、ジャック16がウィッペン15に対して時計回りに回動する。それに伴い、上述したように、フック部3dがバットフレンジコード4と一体に下方に移動することによって、図9に示すように、バットフレンジコード4が、ストッパロッド5の本体部5aに部分的に当接するようになる。
【0041】
押鍵がさらに進むと、ジャック16がウィッペン15に対してさらに回動することによって、ハンマー突上げ部16bがバット2から前方に外れ、ジャック16がハンマー41から離脱する(レットオフ)。これにより、鍵32のタッチ重さからバット2およびハンマー41の重量分が失われることによって、演奏者にレットオフ感が付与される。
【0042】
上記のようにバットフレンジコード4がストッパロッド5に当接し始めてから、レットオフが行われるまでの間、バットフレンジコード4は、当接するストッパロッド5により移動が規制されることによって、ストッパロッド5との当接部分で屈曲しながら、これよりも後ろ側の部分が下方に移動する。その結果、レットオフ直前には、図10に実線で示すように、上記のようにバットフレンジコード4が屈曲する分、ストッパロッド5がない場合(同図の二点鎖線)よりも、バットフレンジコード4に係止されているフック部3dの前方への移動量が大きくなり、バットスプリング3のたわみが増大し、その付勢力が増強される。
【0043】
また、上記のジャック16の離脱後、ハンマー41は、慣性で回動し、弦Sを打弦することによって、ピアノ音を発生させる。その後、ハンマー41は、バットスプリング3の付勢力によって時計回りに復帰回動し、キャッチャー25がバックチェック18に係止されることによって、一旦、停止する。
【0044】
そして、押鍵が終了し、鍵32が離鍵されるのに伴い、バックチェック18によるハンマー41の係止状態が解除され、それにより、ハンマー41は復帰回動を再開する。また、これと並行して、鍵32およびアクション1なども復帰回動することによって、図1に示す離鍵状態に復帰し、押鍵の開始から離鍵の終了までの一連の動作が終了する。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、レットオフ直前に、バットフレンジコード4の下方への移動をストッパロッド5で規制することによって、通常のアクションよりも、レットオフ直前におけるバットスプリング3のたわみが増大し、その付勢力が増強される。したがって、レットオフ荷重を増大させ、レットオフ前後のタッチ重さの変化量を増大させることができるので、レットオフのタイミングがより明確になり、それにより、表現力に優れた高い演奏性を実現することができる。また、レットオフ直前にのみ、ストッパロッド5によるバットスプリング3の付勢力の増強が行われ、それ以前には、通常のアクションと同様、比較的小さな付勢力が得られるので、良好なタッチ重さおよびタッチ感を確保することができる。
【0046】
さらに、左右方向に延びるストッパロッド5により複数のハンマー41のバットフレンジコード4の移動を規制するので、複数のバット2やハンマー41に対して、ストッパロッド5を共用することができる。また、調整機構6により、ストッパロッド5の設置位置を、上下方向および前後方向の任意の位置に調整できるので、バットフレンジコード4を、その所望の位置およびタイミングでストッパロッド5に当接させることができる。したがって、上述した効果、すなわち、表現力に優れた高い演奏性を実現できるとともに、良好なタッチ重さおよびタッチ感を確保できるという効果を、より最適に得ることができる。
【0047】
さらに、ナット11を緩めた状態で、ストッパロッド5を回動させるとともに、腕部5bの延び方向に移動させるだけで、ストッパロッド5の上下方向および前後方向の位置を、きめ細かくかつ容易に調整することができる。また、そのようなストッパロッド5の位置の調整後、ナット11をねじ部9aに締め付けるだけで、ストッパロッド5を調整した位置に容易に保持することができる。さらに、バットスプリング3自体の構成は、既存のものと何らかわらないので、これをそのまま利用することができる。
【0048】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、本実施形態では、バットスプリング3を、ねじりコイルばねで構成したが、その上端部および下端部がバット2およびバットフレンジコード4にそれぞれ係止されるとともに、バット2を前方に付勢するものであれば、他の適当なばね、例えば板ばねで構成してもよい。また、本実施形態では、ストッパロッド5を、左右方向にアクション1の全体にわたって延びる1本のロッドで構成しているが、左右方向に分割した複数のロッドで構成してもよい。
【0049】
さらに、本実施形態では、調整機構6を、第1および第2の嵌合部8,9などを用いて構成しているが、ストッパロッド5の上下方向および前後方向の位置を調整できるものであれば、他の構成を採用してもよいことはもちろんである。また、本実施形態では、第1および第2の嵌合部8,9を、ケース7を介してブラケットBに取り付けているが、ケース7を用いることなく、ブラケットBに直接、取り付けてもよい。さらに、本実施形態では、ねじ部9aを、雄ねじで構成しているが、雌ねじで構成してもよいことはもちろんである。また、本実施形態では、第1ロッド孔8dを、周壁8aの径方向に対向する位置にそれぞれ設けるとともに、第2ロッド孔9cを貫通させ、第1ロッド孔8dに連続させているが、第1ロッド孔8dをストッパロッド5側に1つのみ設けるとともに、第2ロッド孔9cを第1ロッド孔8dに連続する止まり穴として構成してもよい。
【0050】
さらに、本実施形態は、2つのブラケットB,Bを備えるアップライトピアノに、本発明を適用した例であるが、これに限らず、3つ以上のブラケットBを備えるアップライトピアノに本発明を適用してもよいことは、もちろんである。この場合、ブラケットBと同じ数の腕部5bをストッパロッド5に設けるとともに、各ブラケットBに調整機構6を設けることによって、ストッパロッド5をより確実に支持することができる。また、本実施形態では、調整機構6をブラケットBに取り付けているが、ブラケットBがない場合、ブラケットBの代わりの取付部材を棚板やフレームなどに設けてもよい。さらに、本実施形態において、センターレールCRに部材を設けるとともに、この部材にストッパロッド5の本体部5aを載置することによって、本体部5aのたわみを防止するようにしてもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態によるアクションをハンマーなどとともに離鍵状態において示す側断面図である。
【図2】バット、ストッパロッド、および調整機構などを、離鍵状態において示す拡大側面図である。
【図3】図1のバットなどの拡大背面図である。
【図4】ストッパロッド、調整機構およびブラケットの平面図である。
【図5】図1のバット、ストッパロッド、およびジャックなどの拡大図である。
【図6】調整機構の分解正面図である。
【図7】調整機構の正面断面図である。
【図8】図4の一部を拡大するとともに、調整機構を破断して示す図である。
【図9】バット、ストッパロッド、およびジャックなどを、押鍵時において示す拡大側面図である。
【図10】バット、ストッパロッド、およびジャックなどを、レットオフ直前において示す拡大側面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 アクション
2 バット
3 バットスプリング
4 バットフレンジコード
5 ストッパロッド(ストッパ、ロッド)
5a 本体部
5b 腕部
6 調整機構
7 ケース(取付部材)
7c 第1挿入孔
8 第1嵌合部
8a 周壁
8b 端壁
8d 第1ロッド孔
8e 第2挿入孔
9 第2嵌合部
9a ねじ部
9b 本体部
9c 第2ロッド孔
11 ナット(締付け部材)
16 ジャック
24 バットフレンジ
32 鍵
41 ハンマー
S 弦
【出願人】 【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
【出願日】 平成18年10月4日(2006.10.4)
【代理人】 【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄


【公開番号】 特開2008−90169(P2008−90169A)
【公開日】 平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願番号】 特願2006−273081(P2006−273081)