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【発明の名称】 鍵盤楽器の鍵および鍵本体への重りの取付方法
【発明者】 【氏名】田中 功介

【要約】 【課題】鉛に代わる代替材料を用いながら、鍵本体に取付可能な重りを容易に作製できるとともに、その取付けも容易に行うことができ、それにより、製造コストを削減することができる鍵盤楽器の鍵および鍵本体への重りの取付方法を提供する。

【解決手段】鍵盤楽器の鍵1は、埋設孔8を形成した揺動自在の鍵本体2と、ビスマスから成る芯部4a、および鉛以外の延性を有する材料から成るとともに芯部4aを被覆する被覆部4bで構成され、鍵本体2の埋設孔8に取り付けられた重り4と、を備えている。また、鍵本体2への重り4の取付方法は、埋設孔8を形成した鍵本体2を準備する鍵本体準備工程と、ビスマスおよびこのビスマスを被覆するスズで構成された重り4を準備する重り準備工程と、重り4を所定温度に加熱する重り加熱工程と、加熱された重り4を、鍵本体2の埋設孔8に挿入し、かしめることにより、鍵本体2に取り付ける重り取付工程と、を備えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設孔を形成した揺動自在の鍵本体と、
ビスマスから成る芯部、および鉛以外の延性を有する材料から成るとともに前記芯部を被覆する被覆部で構成され、前記鍵本体の前記埋設孔に取り付けられた重りと、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵。
【請求項2】
前記被覆部がスズで構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵。
【請求項3】
埋設孔を形成した鍵本体を準備する鍵本体準備工程と、
ビスマスおよびこのビスマスを被覆するスズで構成された重りを準備する重り準備工程と、
当該重りを所定温度に加熱する重り加熱工程と、
前記加熱された重りを、前記鍵本体の前記埋設孔に挿入し、かしめることにより、当該鍵本体に取り付ける重り取付工程と、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵本体への重りの取付方法。
【請求項4】
前記重り準備工程が、
ビスマスで構成された所定の形状およびサイズの芯部を金型内にセットする芯部セット工程と、
前記金型内の前記芯部の周囲に溶融したスズを流し込み、前記芯部を被覆する芯部被覆工程と、
を有することを特徴とする、請求項3に記載の鍵盤楽器の鍵本体への重りの取付方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノなどの鍵盤楽器の鍵に関し、特に所望のタッチ重さを得るために重りを取り付けた鍵盤楽器の鍵および鍵本体への重りの取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍵盤楽器、特にグランドピアノなどのアコースティックピアノでは一般に、鍵の所要のタッチ重さ(静荷重)を得るために、鍵盤の各鍵に重りが取り付けられている。従来一般に、この重りは、鉛で構成されており、鉛を成形した所定サイズの円柱状の複数の重りを、鍵の木製の鍵本体の所定位置に側方に貫通した埋設孔に埋め込み、かしめることによって、鍵本体に取り付けられている。このように、重りとして鉛が採用されているのは、金属の中でも比重が高い(約11.3)こと、安価であること、柔軟性や延性に富むこと、さらに上記のような加工を行いやすいことなどによる。しかし、鉛は、有害物質であるため、鍵の重りにもできるだけ使用しないことが望ましく、鉛に代わる代替材料が求められている。
【0003】
そのため、近年、鉛以外の材料から成る種々の重りが開発されており、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。特許文献1の重りには、比重が比較的高く(約9.8)、毒性が低いビスマスが用いられており、単体のビスマス、またはビスマスを主成分とする化合物により、円柱状の重りが構成されている。ビスマスは、比較的もろい金属であるため、単体のビスマスで構成された重りをかしめによって鍵本体に取り付けようとすると、かしめの際の押圧力により、重りが砕けるおそれがある。そのため、この特許文献1では、重りを単体のビスマスで構成した場合には、その外周面にねじを形成し、埋設孔にねじ込むことによって、鍵本体に取り付けられる。一方、ビスマスを主成分とする化合物で重りを構成した場合には、柔軟性や延性に富むスズやインジウムなどを含むことにより、もろさが低減される。そのため、この重りは、埋設孔に挿入し、かしめることにより、鍵本体に取り付けられる。
【0004】
しかし、鍵の重りとして、単体のビスマスを採用する場合には、上述したように、重りの外周面に、切削加工などでねじを形成しなければならないため、その分、重りの製造に手間がかかり、製造コストが高くなる。一方、ビスマスを主成分とする化合物を採用する場合には、単体のビスマスに比べてもろさを低減できるものの、重りをかしめる際に、従来の鉛の場合よりも大きな押圧力が必要である。また、特に、インジウムは希少金属であるため、これを含む化合物によって重りを作製する場合には、製造コストが高くなる。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、鉛に代わる代替材料を用いながら、鍵本体に取付可能な重りを容易に作製できるとともに、その取り付けも容易に行うことができ、それにより、製造コストを削減することができる鍵盤楽器の鍵および鍵本体への重りの取付方法を提供することを目的とする。
【0006】
【特許文献1】特開2005−31174号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、埋設孔を形成した揺動自在の鍵本体と、ビスマスから成る芯部、および鉛以外の延性を有する材料から成るとともに芯部を被覆する被覆部で構成され、鍵本体の埋設孔に取り付けられた重りと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、重りが、ビスマスから成る芯部と、鉛以外の延性を有する材料から成るとともに芯部を被覆する被覆部とで構成されている。ビスマスの比重は約9.8であり、鉛の比重(約11.3)に近いため、ビスマスを重りの主要な芯部として用いることによって、所要のタッチ重さを付与することができる。したがって、ビスマスを鉛の代替材料として有効に用いることができる。また、重りは、ビスマスから成る芯部を被覆部で被覆した状態に構成されるので、この重りを作製する場合、例えば、被覆部を構成する材料として、ビスマスよりも融点の低いものを選択し、芯部をセットした金型の内部に溶融した材料を流し込むことなどにより、所望の形状およびサイズの重りを容易に成形することができる。また、ビスマスは、比較的もろい金属であるものの、芯部が延性を有する被覆部によって被覆されているので、重りを鍵本体の埋設孔にかしめによって取り付けることができる。その結果、既存のかしめ工程用の工場のラインをそのまま利用でき、それにより、製造コストを削減することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵において、被覆部がスズで構成されていることを特徴とする。
【0010】
スズは、延性に富むとともに、融点が約232℃であり、ビスマスの融点(約271℃)よりも低いため、スズを被覆部の材料として用いることにより、請求項1の重りを容易に作製することができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、埋設孔を形成した鍵本体を準備する鍵本体準備工程と、ビスマスおよびこのビスマスを被覆するスズで構成された重りを準備する重り準備工程と、重りを所定温度に加熱する重り加熱工程と、加熱された重りを、鍵本体の埋設孔に挿入し、かしめることにより、鍵本体に取り付ける重り取付工程と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、埋設孔を形成した鍵本体と、ビスマスおよびこれを被覆するスズで構成された重りとを準備するとともに、この重りを所定温度に加熱する。そして、この加熱した重りを、鍵本体の埋設孔に挿入し、かしめることにより、鍵本体に取り付ける。一般に、スズは、所定温度(例えば100℃)において、延性が特異的に非常に高くなるという特性を有する。したがって、重りを埋設孔に取り付ける際に、あらかじめ所定温度に加熱することによって、比較的小さい押圧力で十分にかしめることができ、重りを鍵本体に容易に取り付けることができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の鍵盤楽器の鍵本体への重りの取付方法において、重り準備工程が、ビスマスで構成された所定の形状およびサイズの芯部を金型内にセットする芯部セット工程と、金型内の芯部の周囲に溶融したスズを流し込み、芯部を被覆する芯部被覆工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、重り準備工程として、まず、ビスマスで構成された所定の形状およびサイズの芯部を金型内にセットする。そして、金型内の芯部の周囲に溶融したスズを流し込み、芯部を被覆する。スズの融点は約232℃であり、ビスマスの融点(約271℃)よりも低い。したがって、芯部がセットされた金型に溶融したスズを流し込むことにより、芯部を構成するビスマスの形態を維持しながら、ビスマスをスズで被覆した重りを容易に作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるグランドピアノの鍵(白鍵を1つのみ図示)を示している。同図に示すように、この鍵1は、鍵本体2と、鍵本体2の前部に取り付けられた白鍵カバー3と、鍵本体2に取り付けられた複数の重り4などを備えている。
【0016】
鍵本体2は、スプルスなどの比較的軽量で、粘り強く、弾力性に富む木材から成り、矩形の断面を有し、前後方向に延びている。白鍵カバー3は、アクリルなどのプラスチックにより、L字形に形成されており、鍵本体2の上面前半部および前面に、これらを覆うように接着されている。鍵本体2の上面中央部には中座板5aが接着され、これらを上下方向に貫通するように、バランスピン孔5が形成されている。そして、このバランスピン孔5が、立設するバランスピン(図示せず)に係合することによって、鍵1が揺動自在に支持されている。また、鍵本体2の下面の前端部には、フロントピン穴6が形成されており、このフロントピン穴6が、立設するフロントピン(図示せず)に係合することによって、鍵1の左右の振れが防止される。
【0017】
さらに、鍵本体2の上面のバランスピン孔5よりも後ろ側の位置には、キャプスタン座板7aを介して、キャプスタンスクリュー7が取り付けられており、このキャプスタンスクリュー7上にアクション(図示せず)が載置される。以上の構成により、鍵1の前部を押鍵したときに、鍵1がバランスピンを中心として揺動するのに伴い、アクションは、キャプスタンスクリュー7を介して突き上げられることによって作動する。また、鍵1のタッチ重さは、アクションと鍵1の重さによるバランスピン回りのモーメントのバランスによって定められることになる。
【0018】
また、鍵本体2には、3つの埋設孔8が形成されており、これらの埋設孔8にそれぞれ、重り4が取り付けられている。これらの埋設孔8は、鍵本体2のバランスピン孔5よりも前側の所定位置に、前後方向に並んで配置されている。各埋設孔8は、断面が円形で所定の径を有し、側方に貫通している。
【0019】
図2に示すように、重り4は、所定の径および長さを有する円柱状の芯部4aと、この芯部4aの周囲全体を被覆する被覆部4bによって構成されており、埋設孔8の径よりも若干小さい径と、鍵本体2の幅(左右方向の長さ)とほぼ同じ長さを有し、円柱状に形成されている。芯部4aは、比重が約9.8のビスマスで構成される一方、被覆部4bは、比重が約7.29のスズで構成されている。なお、被覆部4bの厚さ、特に、重り4の両端面側の厚さは、後述する重り4のかしめの際に、被覆部4bが破れないような十分な厚さに設定されている。これにより、重り4のかしめによって芯部4aが仮に砕けた場合でも、その破片が被覆部4bによって保持され、外部にこぼれ出ることはない。
【0020】
また、重り4は、例えば次のように作製される。まず、ビスマスを鋳造することにより、所定の径および長さを有する円柱状の芯部4aを成形する。次いで、この芯部4aを、所定の金型内にセットし、溶融したスズを金型に流し込む。そして、これを冷却し、スズを凝固させることにより、重り4が作製される。
【0021】
また、重り4の鍵本体2への取り付けは、例えば次のように行われる。まず、埋設孔8を形成した鍵本体2を準備する。次いで、上述のようにして作製した重り4を、所定温度(例えば100℃)に加熱する。そして、加熱した重り4を、鍵本体2の埋設孔8に挿入し、かしめる。前述したように、重り4の被覆部4bを構成するスズは、所定温度において延性が特異的に非常に高くなるという特性を有する。したがって、上記のように、重り4をあらかじめ所定温度に加熱することによって、埋設孔8に取り付ける際に、比較的小さい押圧力で十分にかしめることができ、重り4を鍵本体2に容易に取り付けることができる。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、重り4が、鉛の比重(約11.3)に近い比重を有するビスマスおよびスズで構成されているので、所要のタッチ重さを付与することができる。また、ビスマスおよびスズは、鉛と異なり、毒性が比較的低いので、鉛の代替材料として有効に用いることができる。また、スズは、融点が約232℃であり、ビスマスの融点(約271℃)よりも低いため、前述したように、金型内にビスマスから成る芯部4aをセットした後、溶融したスズを流し込むことにより、ビスマスをスズで被覆した重り4を容易に作製することができる。また、ビスマスは、比較的もろい金属であるものの、延性に富むスズで覆われているので、重り4を鍵本体2の埋設孔8にかしめによって取り付けることができる。その結果、既存のかしめ工程用の工場のラインをそのまま利用でき、それにより、製造コストを削減することができる。
【0023】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、重り4の被覆部4bをスズで構成したが、延性に富むとともにビスマスよりも融点の低い材料であれば、他の材料(例えばインジウム)を採用してもよい。また、実施形態は、グランドピアノの鍵の例であるが、本発明は、アップライトピアノ、電子ピアノまたは鍵盤楽器玩具の鍵など、重りが取り付けられるすべての鍵に広く適用することが可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態によるグランドピアノの鍵を示す斜視図である。
【図2】(a)重りを示す斜視図、(b)A−A線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 鍵
2 鍵本体
4 重り
4a 芯部
4b 被覆部
8 埋設孔
【出願人】 【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
【出願日】 平成18年10月4日(2006.10.4)
【代理人】 【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄


【公開番号】 特開2008−90164(P2008−90164A)
【公開日】 平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願番号】 特願2006−273060(P2006−273060)