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【発明の名称】 鍵盤楽器の鍵
【発明者】 【氏名】田中 功介

【氏名】新井 伯竹

【要約】 【課題】鉛に代わる代替材料を用いながら、鍵への取付けを簡単に行えることで、鍵盤の組立コストを削減でき、しかも、埋設孔が変形した場合でも、重りの十分な保持力を長期間にわたって確保することができる鍵盤を提供する。

【構成】埋設孔8を形成した揺動自在の鍵本体2と、鉛以外の金属および合成樹脂を所定の配合割合でブレンドした所定の比重を有する複合材料で構成され、埋設孔8に圧入することにより鍵本体2に取り付けられた重り8と、を備え、重り8は、鍵本体2の硬度以下の硬度を有するとともに、外力の作用により変形したときの変形量と、その状態から外力の除去により変形から回復したときの回復量との比を回復率としたときに、所定値以上の回復率を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設孔を形成した揺動自在の鍵本体と、
鉛以外の金属および合成樹脂を所定の配合割合でブレンドした所定の比重を有する複合材料で構成され、前記埋設孔に圧入することにより前記鍵本体に取り付けられた重りと、を備え、
前記重りは、前記鍵本体の硬度以下の硬度を有するとともに、外力の作用により変形したときの変形量と、その状態から当該外力の除去により当該変形から回復したときの回復量との比を回復率としたときに、所定値以上の回復率を有することを特徴とする鍵盤楽器の鍵。
【請求項2】
前記鍵本体は、木材で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵。
【請求項3】
前記鍵本体は、所定の測定条件で測定したときの硬度が90kgf以上の木材で構成され、
前記重りの前記硬度は、90kgf以下であることを特徴とする請求項2に記載の鍵盤楽器の鍵。
【請求項4】
前記重りの前記回復率が、20%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノなどの鍵盤楽器の鍵に関し、特に所望のタッチ重さを得るために重りを取り付けた鍵盤楽器の鍵に関する。
【背景技術】
【0002】
鍵盤楽器、特にグランドピアノなどのアコースティックピアノでは一般に、鍵の所要のタッチ重さ(静荷重)を得るために、鍵盤の各鍵に重りが取り付けられている。従来一般に、この重りは、鉛で構成されており、図7に示すように、鉛を成形した所定サイズの円柱状の複数(この例では3個)の重り11を、鍵12の木製の鍵本体13の所定位置に側方に貫通した複数の埋設孔13aに埋め込み、かしめることによって、鍵本体13に取り付けられている。このように、重りとして鉛が採用されているのは、金属の中でも比重が高い(約11.3)こと、安価であること、柔軟性や延性に富むこと、さらに上記のような加工を行いやすいことなどによる。しかし、鉛は、有害物質であるため、鍵の重りにもできるだけ使用しないことが望ましく、鉛に代わる代替材料が求められている。そのため、近年、鉛以外の材料から成る種々の重りが開発されており、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。
【0003】
特許文献1の重りは、タングステン粉末と合成樹脂(熱可塑性樹脂および/または熱可塑性エラストマー)を、所定の配合割合でブレンドした材料で構成されている。この重りには、塑性変形可能なもの、および弾性変形可能なものの2種類がある。前者の重りは、所定の外力(0.5〜15kg/cm2)で塑性変形するようになっており、鍵本体に形成した埋設孔よりも一回り小さく形成され、埋設孔に挿入した状態でかしめることによって、取り付けられる。一方、後者の重りは、所定の弾性率(0.5〜25GPa)を有しており、鍵本体に形成した埋設孔よりも一回り大きく形成され、埋設孔に圧入することによって、取り付けられる。
【0004】
上述したように、塑性変形可能な重りを取り付ける場合には、鉛を用いた場合と同様に、重りを埋設孔に挿入してかしめなければならず、特に木製の鍵本体への取付けの際には、鍵本体が割れないよう、かしめ量を調整する必要があり、重りの取付け作業が非常に煩雑である。また、木製の鍵本体は、鍵盤楽器の使用環境、特に湿度や温度の影響を受けやすく、膨張および収縮を生じることがある。具体的には、例えば鍵本体が吸湿したときには、木材の異方性により、図8に示すように、埋設孔13aが上下方向に拡大しかつ前後方向に縮小することによって、埋設孔13aが縦長に変形する。このような鍵本体の膨張・収縮に伴って埋設孔が拡大した場合には、埋設孔の壁部と塑性変形した重りとの間に隙間ができることなどにより、埋設孔において重りを保持する力(以下「重りの保持力」という)が低下してしまう。このように、重りの保持力が低下すると、重りががたつきやすいとともに、押鍵の繰り返しにより、重りが隣の鍵側に次第に移動し、その鍵に接触することがあり、その場合には、鍵のタッチ感や回動動作に悪影響を及ぼす。
【0005】
一方、弾性変形可能な重りは、上記の塑性変形可能な重りと異なり、埋設孔への圧入によって取付け可能であるため、かしめ作業が不要である。また、埋設孔が変形した場合でも、それに追従するように、重りが弾性変形することで、埋設孔と重りの隙間の発生を抑制することが可能である。
【0006】
しかし、この重りが鍵本体よりも硬い場合には、鍵本体の膨張・収縮に伴って埋設孔の変形が繰り返されることにより、重りの保持力が次第に低下することがある。例えば、埋設孔が狭まるように変形した場合には、重りからの反力により、主として埋設孔の壁部に圧縮変形が生じる。木製の鍵本体は通常、弾性が非常に低いため、一旦生じた埋設孔の壁部の圧縮変形はほとんど回復せず、その後に、埋設孔が広がるように変形した場合には、重りがその変形に追従したとしても、埋設孔の壁部と重りの間に隙間が生じやすくなり、それにより、重りの保持力が次第に低下してしまう。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、鉛に代わる代替材料を用いながら、鍵本体への取付けを簡単に行えることで、鍵の組立コストを削減でき、しかも、埋設孔が変形した場合でも、重りの十分な保持力を長期間にわたって確保することができる鍵盤楽器の鍵を提供することを目的とする。
【0008】
【特許文献1】特開2002−265793号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、埋設孔を形成した揺動自在の鍵本体と、鉛以外の金属および合成樹脂を所定の配合割合でブレンドした所定の比重を有する複合材料で構成され、埋設孔に圧入することにより鍵本体に取り付けられた重りと、を備え、重りは、鍵本体の硬度以下の硬度を有するとともに、外力の作用により変形したときの変形量と、その状態から外力の除去により変形から回復したときの回復量との比を回復率としたときに、所定値以上の回復率を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、重りは、鉛以外の金属および合成樹脂を所定の配合割合でブレンドした複合材料で構成されており、鍵本体に形成した埋設孔に圧入することによって、鍵本体に取り付けられ、鍵に重さを付加する。この場合、鉛以外の金属として、例えば適当な高比重の金属を用いることにより、合成樹脂をブレンドした複合材料全体の比重を、鉛と同等にすることが可能である。したがって、上記構成の複合材料を、従来の鉛に代わる代替材料として用いることができる。また、複合材料で構成された重りを、埋設孔に圧入することによって取り付けることができるので、従来のかしめによる取付けに比べて、重りの取付けを容易に行うことができ、それにより、鍵の組立コストを削減することができる。
【0011】
また、重りの硬度は、鍵本体の硬度以下であり、すなわち、重りの硬さが鍵本体と同等あるいは鍵本体よりも軟らかいので、埋設孔が狭まるように変形した場合には、より軟らかい重りがある程度、圧縮変形し、埋設孔の壁部が重りの外周面に食い込んだ状態になる。また、埋設孔が広がるように変形しても、重りは、所定値以上の回復率を有しているので、それに追従するように、重りの圧縮変形が回復することによって、埋設孔と重りの隙間の発生を抑制することができ、保持力が確保される。したがって、上記構成の鍵によれば、重りとして、回復率が比較的低いものや鍵本体よりも硬いものを用いる場合に比べて、埋設孔との良好な密着性や機械的な噛合いを維持することができ、それにより、重りの十分な保持力を長期間にわたって確保することができる。
【0012】
なお、重りの硬度の下限は、特に限定されないが、重りが埋設孔から簡単に外れない程度の硬さ以上の硬度を有していればよい。また、重りの回復率の上限は、特に限定されず、むしろ回復率がより大きいことが好ましく、100%(完全弾性)でもよい。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵において、鍵本体は、木材で構成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、従来一般に使用されている木製の鍵本体を用いることができるとともに、この鍵本体に対して請求項1に記載した条件を満たす重りを用いることにより、前述した請求項1の作用を得ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の鍵盤楽器の鍵において、鍵本体は、所定の測定条件で測定したときの硬度が90kgf以上の木材で構成され、重りの硬度は、90kgf以下であることを特徴とする。
【0016】
木製の鍵本体には一般に、スプルスなどの木材が使用され、後述する所定の測定条件で測定したときの硬度は、90〜130kgf程度である。したがって、重りの硬度が90kgf以下であれば、重りが、鍵本体と同等あるいは鍵本体よりも軟らかいという条件が満たされるので、前述した請求項1の作用を得ることができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵において、重りの回復率が、20%以上であることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、後述する試験結果から明らかなように、鍵本体の膨張・収縮に伴って、埋設孔が変形した場合でも、それに十分に追従するように、重りが回復することにより、埋設孔との良好な密着性や機械的な噛合いを維持することができる。これに対し、重りの回復率が20%よりも小さい場合には、圧縮変形した重りが十分に回復できないため、埋設孔との密着性や機械的な噛合いを確保することができない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明を適用したグランドピアノの鍵(白鍵を1つのみ図示)を示している。同図に示すように、この鍵1は、鍵本体2と、鍵本体2の前部に取り付けられた白鍵カバー3と、鍵本体2に取り付けられた複数の重り4などを備えている。
【0020】
鍵本体2は、スプルスなどの比較的軽量で、粘り強く、弾力性に富む木材から成り、矩形の断面を有し、前後方向に延びている。白鍵カバー3は、アクリルなどのプラスチックにより、L字形に形成されており、鍵本体2の上面前半部および前面に、これらを覆うように接着されている。鍵本体2の上面中央部には中座板5aが接着され、これらを上下方向に貫通するように、バランスピン孔5が形成されている。そして、このバランスピン孔5が、立設するバランスピン(図示せず)に係合することによって、鍵1が揺動自在に支持されている。また、鍵本体2の下面の前端部には、フロントピン孔6が形成されており、このフロントピン孔6が、立設するフロントピン(図示せず)に係合することによって、鍵1の左右の振れが防止される。
【0021】
さらに、鍵本体2の上面のバランスピン孔5よりも後ろ側の位置には、キャプスタン座板7aを介して、キャプスタンスクリュー7が取り付けられており、このキャプスタンスクリュー7上にアクション(図示せず)が載置される。以上の構成により、鍵1の前部を押鍵したときに、鍵1がバランスピンを中心として揺動するのに伴い、アクションがキャプスタンスクリューで突き上げられることで作動する。また、鍵1のタッチ重さは、アクションと鍵1の重さによるバランスピン回りのモーメントのバランスによって定められることになる。
【0022】
また、鍵本体2には、3つの埋設孔8が形成されており、これらの埋設孔8に、重り4がそれぞれ圧入されることによって、取り付けられている。これらの埋設孔8は、鍵本体2のバランスピン孔5よりも前側の所定位置に、前後方向に並んで配置されるとともに、断面が円形で互いに同じ所定の径(例えば12mm)を有し、側方に貫通するように形成されている。
【0023】
重り4は、所定の径(例えば12mm)および長さ(例えば11mm)を有し、ほぼ円柱状に形成されている。図2に示すように、この重り4は、両端面4a、4aの径が埋設孔8のそれと同じであり、中央部4bが端部よりも一回り(例えば1.5〜3%程度)大きく形成されている。また、この重り4は、鉛以外の粉状の金属、例えばタングステンと、合成樹脂、例えばポリプロピレンなどを、所定の配合割合でブレンドし、鉛と同程度の比重を有する複合材料で構成されており、例えば射出成形によって成形されている。
【0024】
重り4を構成する金属として、上述したタングステン(比重:19.3)の他、例えば、タンタル(同:16.64)、モリブデン(同:10.23)、鉄(同:7.86)、ニッケル(同:8.845)、銅(同:8.92)、亜鉛(同:7.14)、ビスマス(同:9.8)、スズ(同:7.3)、またはハフニウム(同:13.3)などを使用することができる。なお、これらの金属は、単体で使用される他、それを主成分とする合金や2種以上を混合して使用することが可能である。
【0025】
一方、重り4を構成する合成樹脂は、上述した金属とブレンドすることにより、重り4が、鉛と同程度の比重で、後述する所定の硬度(90kgf以下)および回復率(20%以上)を有することが可能であればよく、上述したポリプロピレンの他、例えば、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエステル、またはナイロンなどを使用することができる。なお、これらの合成樹脂は、単体で使用される他、それを主成分とする合成樹脂や2種以上を混合して使用することが可能である。
【0026】
次に、重り4の硬度、回復率および保持力を測定するための試験方法およびその試験結果について説明する。なお、試験用の重り(以下「試験重り」という)は、上述した重り4と同一の形状およびサイズのものを使用した。
【0027】
硬度・回復率試験
本試験では、まず、試験重りを、所定の試験機(図示せず)の水平な試験台上に縦置きした状態(図2(b)に示す状態)で載置する。次いで、試験重りの上面を鋼球の圧子(直径21mm)で上方から押圧し、5kgfの初期荷重を作用させる。そして、この状態から、圧子で試験重りを所定の低速度(1.5mm/分)でさらに押圧(載荷)し、圧子を試験重りに0.3mm押し込む。図3の曲線Aは、このときの圧子の変位と荷重との関係を示しており、圧子の変位(押込み量)が増大するのに伴って、荷重も増大する。そして、圧子の変位が0.3mmになったときの荷重を、その試験重りの硬度と規定する。
【0028】
次いで、この状態から、圧子を所定の低速度(1.5mm/分)で上昇させ、図3の曲線Bに示すように、荷重を徐々に減少させる(除荷)。そして、その荷重が、初期荷重である5kgfまで低下したときの圧子の変位を測定し、得られた回復量X(mm)を用いて、下記の式により、試験重りの回復率Rを算出する。
回復率R(%)=(X/0.3)×100
以上から明らかなように、この回復率Rは、試験重りに外力を作用させることによって、試験重りが変形したときの変形量(0.3mm)と、その状態から外力を除去することによって、試験重りが変形から回復したときの回復量(Xmm)との比として定義される。
【0029】
なお、本試験における圧子の押込み量を0.3mmとしたのは、次の理由による。すなわち、重り4を圧入によって取り付ける埋設孔8の径は、重り4の外径よりも一回り小さく設定される。また、ピアノの使用環境により、鍵本体2が膨張・収縮するのに伴って埋設孔8が変形する。以上の状況を勘案し、圧子の押込み量を、経験値として0.3mmに設定した。
【0030】
保持力試験
本試験では、まず、鍵本体2に使用される木材から成る試験用の鍵材(以下「試験材」という)に、埋設孔8と同じ径の埋設孔を形成する。次いで、この埋設孔に、試験重りを圧入し、埋設した状態に取り付ける。そして、試験材を、所定の試験機(図示せず)の試験台に固定し、所定の圧子で試験重りを、その圧入方向と同じ方向に、所定の一定の速度で押圧する。そして、試験重りが埋設孔から脱落するまでに測定された最大荷重を、保持力と規定した。また、試験重りを取り付けた状態の試験材を、図4の(a)〜(d)の順に、所定の温度および湿度で所定時間、所定の試験室(図示せず)内に放置することにより、乾湿を交互に繰り返す環境試験を行い、その環境試験後の試験重りの保持力も測定した。
【0031】
図5は、上段に、実施例1〜3および比較例としての試験重りを構成する材料の配合割合を示し、下段に、前述した試験の結果を、従来例の試験重りの試験結果とともに示している。なお、この従来例の試験重りは、鉛で構成されており、前述した埋設孔8の径よりも一回り小さい径を有する円柱状に形成し、埋設孔に挿入した状態でかしめることによって、試験材に取り付けた。
【0032】
図5の上段に示すように、実施例1〜3はいずれも、粒径が3μmおよび15μmのタングステンを47.9重量%ずつ含有している。このように、粒径が互いに異なる粉状のタングステンを使用することにより、同じ粒径のみのタングステンを使用する場合に比べて、重りの製造時にタングステンを容易に混練できるとともに、タングステンからの樹脂の剥離を抑制することができる。また、実施例1は、ポリプロピレンおよび所定のエラストマーをそれぞれ1.0および3.2重量%含有し、実施例2は、ポリプロピレンおよび所定のエラストマーをいずれも2.1重量%含有している。さらに、実施例3は、ナイロンを4.2重量%含有している。これらの実施例に対し、比較例は、粒径が3μmおよび15μmのタングステンを47.75重量%ずつ含有するとともに、シラン系架橋樹脂を4.5重量%含有している。また、従来例は、前述したように、鉛のみで構成されている。
【0033】
なお、実施例1および2のポリプロピレンとして、具体的には日本ポリプロ(株)製のノバテック(登録商標)を使用し、エラストマーとして、(株)クラレ製のセプトン(登録商標)を使用した。また、実施例3のナイロンとして、ナイロン6またはナイロン66を使用した。さらに、比較例のシラン系架橋樹脂として、三菱化学(株)製のリンクロン(登録商標)を使用した。なお、図5では省略したが、実施例1〜3および比較例には、微量の防錆剤を添加した。
【0034】
次に、実施例1〜3、比較例および従来例の試験結果について説明する。なお、鍵材としての試験材についても、硬度・回復率試験によって硬度を測定した。木材から成る試験材は、材種や選択した試験材によって硬度にばらつきがあるものの、90〜130kgfの硬度を有することが確認された。
【0035】
図5に示すように、従来例の硬度および回復率はそれぞれ、34kgfおよび12%である。この従来例は、鉛をかしめることによって試験材に取り付けられているため、環境試験を行っていない状態(以下「常態時」という)では、100kgf以上の非常に大きな保持力を有している。また、環境試験後には、保持力が30kgfまで大きく低下している。これは、従来例の鉛の回復率が12%と、非常に低いために、環境試験による試験材の膨張・収縮に伴う埋設孔の変形に対して、試験重りが十分に追従して変形できないことによると考えられる。ただし、この従来例は、長年の使用実績により、鍵の重りとしての機能を十分に保つことが確認されている。したがって、この従来例の30kgfという保持力は、一般的に使用可能な重りの保持力の基準となり得るものであり、それ以上の保持力を有していれば、鍵の重りとして使用可能であると考えられる。
【0036】
また、比較例の硬度および回復率はそれぞれ、165kgfおよび69%である。この比較例は、常態時の保持力が41kgfであり、重りとして使用可能な30kgfを上回っている。しかし、環境試験後には保持力が28kgfに低下し、また、試験重りの外周面に傷がほとんど付いていないことが確認されている。これは、比較例の試験重りが試験材に比べて非常に硬いため、前述した理由から、保持力が低下していると考えられる。すなわち、従来技術の問題点として述べたように、試験材の埋設孔が狭まるように変形するのに伴って、非常に硬い重りは、ほとんど圧縮変形せず、主として弾性が非常に低い埋設孔の壁部に圧縮変形が生じ、その圧縮変形がほとんど回復しないために、埋設孔の壁部と試験重りの間に隙間が生じ、それにより、保持力が低下したためである。この試験結果から、比較例の試験重りは、長期間にわたって十分な保持力を確保できず、したがって、鍵の重りとして使用するのには適していないことがわかる。
【0037】
上記の従来例および比較例に対し、実施例1〜3はいずれも、硬度が試験材の硬度(90〜130kgf)以下であるとともに、回復率が20%以上であり、従来例の回復率(12%)よりも大きいことが確認されている。
【0038】
具体的には、実施例1の硬度および回復率はそれぞれ、15kgfおよび21%である。また、実施例1の保持力は、常態時の79kgfから、環境試験後に32kgfに低下しているものの、重りとして使用可能な30kgfを上回り、また、環境試験後の試験重りの外周面に、深い傷ができていることが確認されている。これは、実施例1の試験重りが試験材に比べて軟らかいため、埋設孔が狭まるように変形したときに、試験重りが圧縮変形し、その外周面に埋設孔の壁部が食い込んだ状態になり、また、試験重りが20%以上の十分な回復率を有しているため、埋設孔が広がるように変形したときに、それに追従して試験重りの変形が回復することによって、試験重りと埋設孔との良好な密着性や機械的な噛合いが維持されるからである。この試験結果から、実施例1は、長期間にわたって十分な保持力を確保でき、したがって、鍵の重りとして十分に使用できることがわかる。なお、実施例1は、比較的軟らかいことで、切削性が良好であることも確認されており、したがって、鍵への取付け後であっても、重りを軽量化する重量調整を容易に行うことが可能である。
【0039】
また、実施例2の硬度および回復率はそれぞれ、48kgfおよび45%である。実施例2の保持力は、常態時の77kgfから、環境試験後に40kgfに低下しているものの、実施例1と同様に、重りとして使用可能な30kgfを上回り、環境試験後の試験重りの外周面に、傷ができていることが確認されている。さらに、実施例3の硬度および回復率はそれぞれ、85kgfおよび60%である。実施例3の保持力は、常態時の74kgfから、環境試験後に48kgfに低下しているものの、実施例1および2と同様に、重りとして使用可能な30kgfを上回り、環境試験後の試験重りの外周面に、傷ができていることが確認されている。これらの実施例2および3は、上述した実施例1と同様の理由から、試験重りと埋設孔との良好な密着性や機械的な噛合いが維持される。以上の試験結果から、実施例2および3は、上記実施例1と同様、長期間にわたって十分な保持力を確保でき、鍵の重りとして十分に使用できることがわかる。なお、実施例2および3も、実施例1と同様、切削性が良好であることが確認されている。
【0040】
図6は、横軸および縦軸にそれぞれ硬度および回復率をとり、上述した実施例1〜3、比較例および従来例の試験結果をまとめたものである。前述したように、環境試験後に30kgf以上の十分な保持力が得られているのは、実施例1〜3であり、同図および前述した理由から、十分な保持力を長期間にわたって確保するためには、重りの硬度が鍵本体の硬度以下、すなわち90kgf以下であることが必要である。また、回復率については、実施例1〜3のうち、最も低いものが実施例1の21%であることから、少なくとも20%であることが必要である。以上から、重りの硬度が90kgf以下でかつ20%以上の回復率を有することによって、長期間にわたって十分な保持力を確保する重りを得ることができる。
【0041】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態は、グランドピアノの鍵の例であるが、本発明は、アップライトピアノ、電子ピアノまたは鍵盤楽器玩具の鍵など、重りが取り付けられるすべての鍵に適用することが可能である。また、実施形態では、重り4の硬度を90kgf以下としたが、重り4の硬度は、鍵本体2の硬度以下であればよい。また、本発明の重りの硬度および回復率の数値は、あくまで実施形態で示した試験条件に基づくものであり、試験条件が異なれば、それに応じて異なるものである。さらに、実施形態で挙げた金属および合成樹脂は、あくまで一例であり、両者をブレンドした複合材料で構成された重りが、鉛と同等の比重を有するとともに、鍵本体2の硬度以下でかつ十分な回復率を有するものであれば、他の種類の無害の金属や合成樹脂を採用することが可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明を適用したグランドピアノの鍵を示す斜視図である。
【図2】重りを示す(a)平面図および(b)側面図である。
【図3】硬度試験によって得られる変位と荷重との関係を示す曲線である。
【図4】試験重りを取り付けた試験材の環境試験の条件を示す一覧表である。
【図5】各試験重りを構成する材料の配合割合、および試験結果を示す一覧表である。
【図6】横軸および縦軸にそれぞれ硬度および回復率をとり、各試験重りの試験結果を示す図である。
【図7】鉛製の重りを取り付けた従来の鍵の前部を示す部分側面図である。
【図8】鍵本体の膨張・収縮に伴う埋設孔の変形を説明するための図である。
【符号の説明】
【0043】
1 鍵
2 鍵本体
4 重り
8 埋設孔
【出願人】 【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
【識別番号】592262532
【氏名又は名称】ダイセー工業株式会社
【出願日】 平成18年8月7日(2006.8.7)
【代理人】 【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄


【公開番号】 特開2008−40151(P2008−40151A)
【公開日】 平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願番号】 特願2006−214626(P2006−214626)