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【発明の名称】 鍵盤楽器の筬
【発明者】 【氏名】釘本 英範

【氏名】吉末 健治

【要約】 【課題】温度や湿度が変化した場合でも、筬の変形を抑制でき、それにより鍵の適正な取付け状態を維持し、安定したタッチ感と、鍵、アクションおよびハンマーの適正な動作を確保することができる鍵盤楽器の筬を提供する。

【構成】ピン係合部3b、3cを有する複数の鍵3aを載置し、支持する鍵盤楽器の筬11であって、左右方向に延びるとともに、前後方向に並び、互いに接合された複数の木質材12a〜12fおよび13a〜13fと、隣り合う少なくとも2つの木質材の間に介在し、一体に設けられたフェノールバッカー10a〜10fと、木質材に立設され、鍵3aのピン係合部3b、3cがそれぞれ係合するピン13f、12gと、を備えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン係合部を有する複数の鍵を載置し、支持する鍵盤楽器の筬であって、
左右方向に延びるとともに、前後方向に並び、互いに接合された複数の木質材と、
隣り合う少なくとも2つの前記木質材の間に介在し、一体に設けられたフェノールバッカーと、
前記木質材に立設され、前記鍵の前記ピン係合部が係合するピンと、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の筬。
【請求項2】
前記フェノールバッカーは、前記木質材の左右方向の全体にわたって設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の筬。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の鍵を載置し、支持する鍵盤楽器の筬に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鍵盤楽器の筬として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この筬は、鍵盤の前端部の下側に配置され、左右方向に延びる筬前と、鍵盤の前後方向の中央の下側に配置され、左右方向に延びる筬中を有している。また、筬前にはフロントピンが、筬中にはバランスピンが、鍵ごとに立設されている。一方、鍵の前端部の下面には、フロントピン穴が形成され、鍵の前後方向の中央にはバランスピン孔が形成されている。そして、鍵は、そのフロントピン穴がフロントピンに係合し、バランスピン孔がバランスピンに係合した状態で、筬中に回動自在に支持されている。
【0003】
筬前は、前後方向に並び、互いに継ぎ合わされた複数(この例では6つ)の部材で構成され、筬中もまた、前後方向に並び、継ぎ合わされた複数(5つ)の部材で構成されている。また、これらの複数の部材のうち、フロントピンやバランスピンを立設した部材は、ブナやカエデなどの堅木から成る板材で構成され、他の部材はむくのスプルス材で構成されている。
【0004】
一般に、木材には、温度や湿度の変化に伴って反りや捻れなどの変形が発生しやすいという特性がある。上述した従来の筬では、フロントピンやバランスピンを立設した部材が合板で構成されているので、その部分の変形はある程度、抑制できるものの、筬全体としての反りや捻れを十分に抑制できない。そのような変形が筬に発生すると、その上にバランスピンを介して支持された鍵の位置や角度が適正な状態からずれるとともに、それに伴い、鍵と、アクションおよびハンマーとの位置関係なども変化してしまう。特に、筬の反りや捻れは、鍵の高さに直接、影響し、鍵の「あがき」(押鍵深さ)を変化させるため、アクションの整調が困難になってしまう。同じ理由から、鍵のタッチ感が変化するとともに、鍵、アクションおよびハンマーの適正な動作を確保できなくなり、演奏に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、温度や湿度が変化した場合でも、筬の変形を抑制でき、それにより鍵の適正な取付け状態を維持し、安定したタッチ感と、鍵、アクションおよびハンマーの適正な動作を確保することができる鍵盤楽器の筬を提供することを目的としている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−143143号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本願の請求項1に係る発明は、ピン係合部を有する複数の鍵を載置し、支持する鍵盤楽器の筬であって、左右方向に延びるとともに、前後方向に並び、互いに接合された複数の木質材と、隣り合う少なくとも2つの木質材の間に介在し、一体に設けられたフェノールバッカーと、木質材に立設され、鍵のピン係合部が係合するピンと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この鍵盤楽器の筬では、左右方向に延びるとともに前後方向に並び、互いに接合された複数の木質材のうち、互いに隣り合う少なくとも2つの木質材の間に、フェノールバッカー(フェノール樹脂含浸紙)が介在しており、複数の木質材とフェノールバッカーが一体化されている。フェノールバッカーは、高い剛性と、温度や湿度の変化に対する高い寸法安定性を有している。したがって、木質材が、これと一体のフェノールバッカーで拘束されることにより、温度や湿度が変化した場合でも、木質材の変形、ひいては筬全体の変形を十分に抑制することができる。その結果、木質材に立設されたピンおよびピン係合部を介して筬に支持された鍵の位置や角度が、適正な状態に維持されるとともに、鍵とアクションおよびハンマーとの位置関係も適正に維持されるので、アクションの整調を容易に行うことができる。また、同じ理由により、温度や乾湿にかかわらず、鍵の安定したタッチ感と、鍵、アクションおよびハンマーの適正な動作を確保することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の筬において、フェノールバッカーは、木質材の左右方向の全体にわたって設けられていることを特徴とする。
【0010】
この構成では、フェノールバッカーが木質材の左右方向の全体にわたって設けられているので、木質材およびフェノールバッカーがより強固に一体化される。それにより、木質材の変形に対して、フェノールバッカーの拘束による抑制効果を最大限に発揮させることができる。その結果、筬の変形がさらに抑制されるので、上述した請求項1に係る発明による効果をより良好に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明による筬11を用いたグランドピアノの鍵盤装置を示している。この鍵盤装置1は、棚板2上に設けられた筬11と、筬11に載置され、複数の白鍵および黒鍵で構成された鍵盤3と、アクション4(図2参照)などで構成されている。
【0012】
筬11は、前後方向に間隔を隔てて配置され、互いに平行に左右方向に延びる筬前12、筬中13および筬後14を有している。また、筬11の左右の端部には、筬妻15、15がそれぞれが設けられ、両筬妻15、15の間には、所定の間隔で3つの筬中束16が設けられており、これらの筬妻15および筬中束16によって、筬前12、筬中13および筬後14が互いに一体に連結されている。
【0013】
図3に示すように、筬前12は、第1〜第6部材12a〜12f(複数の木質材)と、フロントピン12g(ピン)などで構成されている。第1〜第6部材12a〜12fは、前側から順に並んでおり、同じ長さと矩形の断面を有し、左右方向に延びていて、例えば接着剤で互いに接着されている。また、後ろ側の第4〜第6部材12d〜12fは、前側の第1〜第3部材12a〜12cよりも高さが若干、低くなっている。第2部材12bおよび第5部材12eは、硬い木質材、例えばブナやカエデなどの堅木で構成され、他の部材は、より軟らかい木質材、例えばスプルス材で構成されている。また、第2部材12bの所定の複数の位置には、白鍵用のフロントピン12gが、左右方向に並んで立設されており、第5部材12eの所定の複数の位置には、黒鍵用のフロントピン12gが、左右方向に並んで立設されている(図1に一部のみ図示)。
【0014】
また、第2部材12bと、その前後の第1および第3部材12a、12cの間には、所定の厚さを有する薄板状のフェノールバッカー10a、10aがそれぞれ介在しており、また、第5部材12eと、その前後の第4および第6部材12d、12fの間には、同様のフェノールバッカー10b、10bがそれぞれ介在している。フェノールバッカー10a、10bは、フェノール樹脂を含浸させた紙で構成されており、第1〜第6部材12a〜12eと比較して、高い剛性と、温度や湿度の変化に対する高い寸法安定性を有している。
【0015】
フェノールバッカー10aは、第1部材12aと第2部材12bの間、および第2部材12bと第3部材12cの間に、それらの左右方向および上下方向の全面にわたって設けられ、貼り付けられている。同様に、フェノールバッカー10bも、第5部材12eと第4部材12dの間、および第5部材12eと第6部材12fの間に、それらの全面にわたって設けられ、貼り付けられている。以上のように、筬前12の第1〜第6部材12a〜12f、および計4枚のフェノールバッカー10a、10bは一体に構成されている。
【0016】
筬中13は、筬前12と同様の構成を有している。図4に示すように、筬中13は、前側から順に並んだ第1〜第5部材13a〜13e(複数の木質材)を有しており、これらの第1〜第5部材13a〜13eは、左右方向に延びるとともに、接着剤で互いに接着されている。第2および第4部材13b、13dは、ブナやカエデなどの堅木で構成され、他の部材はスプルス材で構成されている。第2部材13bの上面後部、第3部材の上面および第4部材13dの上面前部は後ろ下がりに若干、傾斜しており、第4部材13dの上面後部と第5部材13eの上面は、より急角度で後ろ下がりに傾斜している。第2部材13bの上面前部および第1部材13aの上面は前下がりに傾斜している。また、第2部材13bの所定の複数の位置には、白鍵用のバランスピン13f(ピン)が立設され、第4部材13dの所定の複数の位置には、黒鍵用のバランスピン13fが立設されている(図1に一部のみ図示)。
【0017】
また、第1〜第5部材13a〜13eの隣り合う2つの部材の間には、前述した筬前12のフェノールバッカー10a、10bと同様に構成され、前側から順に並んだフェノールバッカー10c〜10fが介在している。各フェノールバッカーは、その前後の隣り合う部材間の全面にわたって設けられ、貼り付けられている。以上のように、筬中13の第1〜第5部材13a〜13eと、フェノールバッカー10c〜10fは一体に構成されている。
【0018】
前述したように、鍵盤3は、複数の白鍵および黒鍵(以下、総称して「鍵」という)によって構成されており、図2に示すように、各鍵3aの中央には、上下方向に貫通するバランスピン孔3b(ピン係合部)が形成されている。このバランスピン孔3bは、筬中13のバランスピン13fに係合しており、鍵3aは、バランスピン13fを中心として筬中13に回動自在に支持されている。また、鍵3aの前端部の下面には、フロントピン穴3c(ピン係合部)が形成されており、このフロントピン穴3cは、筬前12のフロントピン12gに係合している。また、離鍵状態においては、鍵3aの後端部が、筬後14の上面に設けられた鍵盤枕クロス14aに載置されている。
【0019】
また、筬中13の下面には、丸型の頭部を有するボルトから成る複数の筬すべり金具11b(図1に1つのみ図示)が、筬中13の長さ方向に間隔を隔てて配置され、取り付けられている。筬11は、これらの筬すべり金具11bの頭部が棚板2に接した状態で、棚板2に載置されている。この構成により、筬11は、棚板2に対して前後方向および左右方向にスライド自在であるとともに,棚板2から前方に引き出し可能になっている。
【0020】
また、筬11の上面の左右の端部には、ブラケット台11a、11aが設けられており、それらの上に固定されたブラケット5、5(図2に1つのみ図示)を介して、前記アクション4が取り付けられている。具体的には、左右のブラケット5、5の間には、ウィッペンレール6およびハンマーシャンクレール7が渡されており、ウィッペンレール6にはウィッペン4aが、ハンマーシャンクレール7にはハンマー8が、それぞれ鍵3aごとに設けられ(ともに1つのみ図示)、回動自在に支持されている。また、各ウィッペン4aは、対応する鍵3aのバランスピン13fよりも後ろ側の位置に、キャプスタンスクリュー3dを介して載置されている。また、ウィッペン4aにはジャック4bが回動自在に支持されている。
【0021】
以上の構成により、鍵3aが押鍵されると、鍵3aがバランスピン13fを中心として、フロントピン12gに案内されながら回動することにより、キャップスタンスクリュー3dを介してウィッペン4aが突き上げられることによって、アクション4が作動する。それにより、ジャック4bによりハンマー8が突き上げられ、上方に張られた弦Sを打弦することによって、ピアノ音が発生する。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、筬前12の第1〜第6部材12a〜12fが、これらと一体のフェノールバッカー10a、10bにより拘束され、筬中13の第1〜第5部材13a〜13eが、これらと一体のフェノールバッカー10c〜10fに拘束されることによって、温度や湿度が変化した場合でも、筬前12および筬中13の変形、ひいては筬11全体の変形を十分に抑制することができる。
【0023】
その結果、筬中13に立設されたバランスピン13fに支持され、筬前12に立設されたフロントピン12gによって案内される鍵3aの位置や角度が適正な状態に維持されるとともに、鍵3aとアクション4およびハンマー8との位置関係も適正に維持されるので、アクション4の整調を容易に行うことができる。また、同じ理由により、温度や乾湿にかかわらず、鍵3aの安定したタッチ感と、鍵3a、アクション4およびハンマー8の適正な動作を確保することができる。
【0024】
また、フェノールバッカー10a、10bが筬前12に、フェノールバッカー10c〜10fが筬中13に、それぞれ左右方向の全体にわたって設けられているので、木質材の変形に対して、フェノールバッカー10a〜10fの拘束による抑制効果を最大限に発揮させることができる。その結果、筬11の変形がさらに抑制されるので、上述した効果をより良好に得ることができる。
【0025】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態は、フェノールバッカーを、フロントピン12gを立設した部材とその前後の部材の間、およびバランスピン13fを立設した部材とその前後の部材との間に設けた例であるが、これに限定されることなく、すべての部材間、または任意の隣接する部材間に適宜、設けてもよい。また、実施形態は、本発明をグランドピアノに適用した例であるが、本発明を、アップライトピアノや筬を有する他の鍵盤楽器に適用してもよい。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による筬を用いたグランドピアノの鍵盤装置を示す斜視図である。
【図2】図1の線A−Aに沿う断面図である。
【図3】図2の筬前を示す部分拡大断面図である。
【図4】図2の筬中を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0027】
3a 鍵
3b バランスピン孔(ピン係合部)
3c フロントピン穴(ピン係合部)
10a〜10f フェノールバッカー
11 筬
12a〜12f 第1〜第6部材(複数の木質材)
12g フロントピン(ピン)
13a〜13e 第1〜第5部材(複数の木質材)
13f バランスピン(ピン)
【出願人】 【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
【出願日】 平成18年7月24日(2006.7.24)
【代理人】 【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄


【公開番号】 特開2008−26755(P2008−26755A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−201358(P2006−201358)