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【発明の名称】 波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法及び装置
【発明者】 【氏名】間 久直

【氏名】永井 亨

【氏名】室 幹雄

【氏名】高谷 芳明

【要約】 【課題】ポンプ光とシグナル光を非線形光学結晶に入射させて差周波光を出力させる波長変換レーザ装置に適用するための、差周波光出力を単独に分離して光ファイバの小さな光導入部に導く方法であって、出力光の波長を変更したときにも光学的調整が容易で簡便な光ファイバ導光方法を提供する。

【構成】非線形光学結晶1に入射するポンプ光ω1とシグナル光ω2の入射角に僅かな角度差θinを与え、非線形光学結晶1の結晶軸を位相整合条件に合わせて調整したときに、出射する差周波光(DFG)ω3が波長が異なる場合にも常に光路が通過する共通通過点2を仮想的な点光源とみなして、分散素子4、イメージリレーレンズ系6、あるいは回転反射鏡7などの光学系によって、共通通過点2を通過したDFGを光ファイバ3の光導入口31に導く。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学結晶に入射するポンプ光とシグナル光の入射角に僅かな角度差を与え、非線形光学結晶の結晶軸を位相整合条件に合わせて調整したときに、出射する差周波光(DFG)が波長が異なる場合にも常に光路が通過する共通通過点の位置を求めて、この共通通過点を物点とし光ファイバの光導入口を像点とするようにイメージリレーレンズ系を配置して、非線形光学結晶で発生するDFGを光ファイバに導くことを特徴とする波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法。
【請求項2】
非線形光学結晶に入射するポンプ光とシグナル光の入射角に僅かな角度差を与え、非線形光学結晶の結晶軸を位相整合条件に合わせて調整したときに、出射する差周波光(DFG)が波長が異なる場合にも常に光路が通過する共通通過点の位置を求めて、前記共通通過点に分散素子を配置し、分散素子により波長によらず出射光が同じ方向に屈折するようにして、集光レンズでDFGを光ファイバに導くことを特徴とする波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法。
【請求項3】
非線形光学結晶に入射するポンプ光とシグナル光の入射角に僅かな角度差を与え、非線形光学結晶の結晶軸を位相整合条件に合わせて調整したときに、出射する差周波光(DFG)が波長が異なる場合にも常に光路が通過する共通通過点の位置を求めて、前記共通通過点に回転可能な反射鏡を配置し、反射方向を調整して反射光が波長によらず同じ方向に向くようにして、集光レンズでDFGを光ファイバに導くことを特徴とする波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法。
【請求項4】
前記ポンプ光は波長1.064μmのネオジムYAG(Nd:YAG)レーザであり、前記DFGが波長範囲5〜14μmの可変範囲を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法。
【請求項5】
ポンプ光を供給するポンプ光発生装置と、シグナル光を供給するシグナル光発生装置と、ポンプ光とシグナル光を入射すると差周波光を出力する非線形光学結晶と、該非線形光学結晶の傾きを調整する制御装置と、物点の映像を像点に伝達するイメージリレーレンズ系を備え、前記ポンプ光とシグナル光の光路を調整して前記ポンプ光とシグナル光が僅かな角度差を持って前記非線形光学結晶に入射するようにし、前記制御装置が前記非線形光学結晶の結晶軸を位相整合条件に合わせて調整し、前記イメージリレーが前記非線形光学結晶から出力する差周波光(DFG)の波長が異なる場合にも常に光路が通過する共通通過点を物点とし光ファイバの光導入口を像点とするように配置され、DFGを光ファイバに導くことを特徴とする波長変換レーザ出力の光ファイバ導光装置。
【請求項6】
ポンプ光を供給するポンプ光発生装置と、シグナル光を供給するシグナル光発生装置と、ポンプ光とシグナル光を入射すると差周波光を出力する非線形光学結晶と、該非線形光学結晶の傾きを調整する制御装置と、波長により屈折角が異なる分散素子を備え、前記ポンプ光とシグナル光の光路を調整して前記ポンプ光とシグナル光が僅かな角度差を持って前記非線形光学結晶に入射するようにし、前記制御装置が前記非線形光学結晶の結晶軸を位相整合条件に合わせて調整し、前記分散素子が前記非線形光学結晶から出力する差周波光(DFG)が波長の異なる場合にも常に光路が通過する共通通過点に配置され、該分散素子を透過した前記DFGの光路が波長が異なってもほぼ同じ方向になるようにされ、集光レンズで前記分散素子を透過してきたDFGを光ファイバに導くことを特徴とする波長変換レーザ出力の光ファイバ導光装置。
【請求項7】
ポンプ光を供給するポンプ光発生装置と、シグナル光を供給するシグナル光発生装置と、ポンプ光とシグナル光を入射すると差周波光(DFG)を出力する非線形光学結晶と、該非線形光学結晶の傾きを調整する制御装置と、鏡軸の周りに回転制御可能な反射鏡を備え、前記ポンプ光とシグナル光の光路を調整して前記ポンプ光とシグナル光が僅かな角度差を持って前記非線形光学結晶に入射するようにし、前記制御装置が前記非線形光学結晶の結晶軸を位相整合条件に合わせて調整し、前記反射鏡が前記非線形光学結晶から出力するDFGが波長の異なる場合にも常に光路が通過する共通通過点に配置され、前記反射鏡で反射してきたDFGを集光レンズで光ファイバに導くことを特徴とする波長変換レーザ出力の光ファイバ導光装置。
【請求項8】
前記ポンプ光は波長1.064μmのネオジムYAG(Nd:YAG)レーザであり、前記DFGが波長範囲5〜14μmの可変範囲を有することを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の波長変換レーザ出力の光ファイバ導光装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数の異なる2つのレーザ光を非線形光学結晶に入射させて入射レーザ光の差周波のレーザ光を出力させる波長変換レーザ装置において差周波光出力を光ファイバに導く導光方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、波長の異なる2つの励起光を非線形光学結晶中で混合すると励起光の周波数の差に対応する長い波長のコヒーレント光が発生するという差周波発生の原理を利用して、赤外領域のレーザ光を発生するようにした波長変換レーザ装置が知られている。
この波長変換レーザ装置は、波長の短い第1励起光(ポンプ光)が非線形光学結晶中で第2励起光(シグナル光)と相互作用し波長変換されて長波長の差周波光(DFG)を発生するので、DFGの波長は第2励起光の波長を変えることにより調整できるから、波長可変の長波長レーザ発生装置となる。
【0003】
たとえば特許文献1には、短波長側のポンプ光としてネオジムYAG(Nd:YAG)レーザを用い、これより長波長側のシグナル光としてクロムフォルステライト(Cr:forsterite)レーザを用いることにより構成した、高出力かつコンパクトで波長チューニング可能な赤外光発生装置が開示されている。
この赤外光発生装置では、Nd:YAGレーザが波長1.064μmのパルスレーザをポンプ光として非線形光学結晶に入射し、これと同期したCr:forsteriteレーザを1.15〜1.35μmの範囲で波長を選択できる波長可変固体レーザのシグナル光として非線形光学結晶に入射し、ポンプ光とシグナル光の差周波数に係る5〜14μmの波長範囲の赤外光を選択的に発生する。
【0004】
非線形光学結晶からは、差周波光(DFG)の他にポンプ光とシグナル光が射出してくるので、赤外線選別性の高いフィルタでDFGを選別して出力し、光ファイバに入射させて必要な場所に伝送する。
ゲルマニウム(Ge)は赤外線選択性が高いので、Geフィルタを用いれば、波長が1μm近辺にあるYAGレーザ光やCr:forsteriteレーザ光をよく遮断して、純度の高い赤外光を得ることが期待される。
ところが、本発明の発明者らが実際に構成した差周波光発生装置における赤外光出力は設計値の半分程度の強さで、当初の期待から外れた結果となった。
【0005】
発明者らは、この問題について研究した結果、GeフィルターにNd:YAGレーザ光を照射するとDFGの透過率が低下する現象を捉えた。
分離したDFGをGeフィルターに照射し、DFGが透過する部分にNd:YAGレーザを照射し、Nd:YAGレーザの強度を変化させてGeフィルターに対するDFGの透過率を測定すると、YAGレーザの照射強度が強くなるに従ってDFGの透過率が低下することが確認できた。YAGレーザにより透過率が減少するメカニズムは明らかでないが、この現象がGeフィルターを用いた差周波光発生装置のDFG出力が期待通りにならない原因になっていることは確実である。
したがって、Geフィルターを使用するときは、DFGの照射位置にYAGレーザ光が重ならないようにすることが好ましい。
【0006】
特許文献2には、DFGとYAGレーザが重なることを避けて純粋なDFGを取り出す方法が記載されている。波長可変テラヘルツ波発生装置を開示する特許文献2には、出力部分にGeフィルターを設ける代わりに、DFGの出射方向をポンプ光やシグナル光の出射方向と異なるようにして出力光の純化を行う構成が記載されている。
【0007】
非線形光学結晶に入射するポンプ光の角周波数をω1、シグナル光の角周波数をω2、DFGの角周波数をω3とすると、角周波数ω3は、ωを波数ベクトルとしてω3=ω1−ω2で表される関係を有する。
したがって、図9に示すように、ポンプ光とシグナル光の光軸に僅かに角度差θinを持たせると、波数ベクトルω1とω2の差であるDFGの波数ベクトルω3はポンプ光を挟んでシグナル光の反対側に変移し、さらに結晶表面で屈折して角度差θoutだけ逸れた方向に放出される。したがって、非線形光学結晶から十分離れた位置では、DFGをポンプ光やシグナル光から分離させることができる。
そこで、ポンプ光とシグナル光の入射角の間に僅か数分の差θinを与えることにより、非線形光学結晶からのDFGの出射角θoutを数10度にさせて、ポンプ光やシグナル光からDFGを分離するものである。
【0008】
しかし、特許文献2に記載された構成では、DFGの波長を変化させるたびにDFGの出射角が変化するため、出射光を光ファイバに入射させようとすると、導光光学系の光軸調整をする必要があり不便である。
たとえば、ポンプ光とシグナル光の入射角差θinが0.3度である場合、DFGの波長を5.5μmから10μmに変化させると、DFGの出射方向は約1.3度も変化するので、使用時の光学的調整が極めて煩雑になる。
【0009】
なお、引用文献3には、波長可変光源の波長変化に合わせて可変バンドパスフィルタの選択波長を追尾させる波長可変光源装置が開示されている。
開示された可変バンドパスフィルタシステムは、APC制御回路を用いて可変バンドパスフィルタへの入力光を所定値に制御した上、可変バンドパスフィルタの選択光の一部を無偏光ビームスプリッタによって分岐してモニタし、波長追尾回路によって可変バンドフィルタを駆動して、出力光が一定になるように選択波長を調整する。開示装置に適合する可変バンドパスフィルタは、特別な出力特性を有することが求められるが、誘導体多層膜によって形成することができるとされている。
【0010】
引用文献3に開示された出力波長の選択方法は、出力光の光軸が一定するので光学的位置調整が不要であるが、透過波長の追尾ができる可変バンドパスフィルター、光源の安定化制御回路、フィルタの透過波長追尾回路などを備える必要があり、システムの複雑化が避けられない。
したがって、差周波発生用非線形光学結晶を用いた波長可変レーザ装置において、背景光を効果的に除去して、目的とする差周波のみを極めて小さいターゲットである光ファイバのコアに注入する簡便で安価な方法の提供が待たれている。
【特許文献1】特開2005−331599号公報
【特許文献2】特開2004−318028号公報
【特許文献3】特開2004−039677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、波長変換レーザ装置において差周波光出力をポンプ光やシグナル光と分離して光ファイバの小さな光導入部に導く、より簡便な光ファイバ導光方法を提供すること、特に、出力光の波長を変更したときにも光学的調整が容易な光ファイバ導光方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法は、非線形光学結晶に入射するポンプ光とシグナル光の入射角に僅かな角度差を与え、非線形光学結晶の結晶軸を位相整合条件に合わせて調整したときに、出射する差周波光(DFG)が波長が異なる場合にも常に光路が通過する共通通過点を見いだして、この共通通過点を物点とし光ファイバの入射点を像点とするようにイメージリレーを配置して、非線形光学結晶で発生するDFGを光ファイバに導くことを特徴とする。
【0013】
非線形光学結晶にポンプ光とシグナル光を入射すると、ポンプ光とシグナル光の光軸と非線形光学結晶の光学軸が位相整合条件を満たすときに、ポンプ光とシグナル光の波数ベクトルのベクトル差となる波数ベクトルを有する差周波光を出力する。
波長調整可能な波長変換レーザ出力装置では、ポンプ光とシグナル光の入射角が変わらなくても、出力するDFGの波長を変化させれば、非線形光学結晶からの出力方向が変化する。波長が長くなるほどDFGの出力軸が傾き出射角が大きくなる。
【0014】
しかし、非線形光学結晶中のポンプ光の光軸と結晶光学軸との角度は、位相整合条件に基づいて、DFGの波長が長くなるほど大きくなる。
そこで、非線形光学結晶に入射する前のポンプ光とシグナル光の光路を固定して、位相整合条件に合わせて非線形光学結晶軸の方向を調整すると、DFGの波長が長いほどポンプ光などが非線形光学結晶を射出する位置がDFGの射出方向の後ろ側に後退する。
【0015】
したがって、波長の異なるDFGの光路同士は出射後に交差する点を有する。実際に、色々な波長のDFGについて光路を描いてみると、ある波長範囲における全てのDFGは幅1〜2mm程度の比較的狭い領域を通過することが分かる。この全てのDFGが通過する領域が最も狭くなる空間上の位置を求める。この領域は十分小さいので擬似的に点とみなすことができ、どの波長のDFGもこの点に光源があるように扱うことができる。この点を共通通過点と呼ぶことにする。
【0016】
本発明の光ファイバ導光方法は、この共通通過点を物点とし光ファイバのコアに導く入射点を像点とするようにイメージリレーを配置するので、共通通過点におけるDFGは光ファイバの小さな芯位置に投影される。したがって、異なる波長のDFGであっても、全て共通通過点を通ることから、正確に光ファイバに導入することができる。
【0017】
本発明第2の波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法は、共通通過点に分散素子を配置し、プリズムなどの分散素子により波長によらず出射光が同じ方向に回折するようにして、集光レンズでDFGを光ファイバに導くことを特徴とする。
共通通過点に集合するDFGは、波長にしたがって入射角が変化するので、プリズムなどの分散素子を適度に選択して入射角度差を相殺させ、分散素子を透過した波長の異なるDFGがほぼ同じ方向に向くようにする。
【0018】
たとえば、光学結晶の屈折率は波長の長い光線に対するもの方が短い光線に対するものより大きいので、光学結晶のプリズムを分散素子として使用し、分散素子へのDFGの入射角を波長の長い方が短いものより大きくなるように配置すれば、入射角度差を相殺することができる。
そこで、光軸がDFGの光路と平行で焦点位置に光ファイバのコアが位置するように配置した集光レンズを光ファイバの前に配置すれば、波長の異なるDFGも全て光ファイバに導入することができるようになる。
【0019】
本発明第3の波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法は、共通通過点に回転可能な反射鏡を配置し、反射方向を調整して反射光が波長によらず同じ方向に向くようにして、この方向に光軸を持つ集光レンズでDFGを光ファイバに導くことを特徴とする。
共通通過点を通過するDFGは、波長により共通通過点に入射する方向が異なるので、反射鏡の向きを調整して光ファイバのコアに光を集中する集光レンズの光軸と一致する光路、あるいは光軸と平行な光路を形成するようにすれば、波長が異なるDFGも確実に光ファイバに導入することができる。
【0020】
また、上記課題を解決するため、本発明の波長変換レーザ出力の光ファイバ導光装置は、ポンプ光を供給するポンプ光発生装置と、シグナル光を供給するシグナル光発生装置と、ポンプ光とシグナル光を入射すると差周波光を出力する非線形光学結晶と、非線形光学結晶の傾きを調整する制御装置と、物点の映像を像点に伝達するイメージリレーを備える。
【0021】
さらに、ポンプ光とシグナル光が僅かな角度差を持って非線形光学結晶に入射するような光路を有し、制御装置により非線形光学結晶の結晶軸を位相整合条件に合わせて調整し、非線形光学結晶から出力する差周波光(DFG)の波長が異なる場合にも常に光路が通過する共通通過点を物点とし光ファイバの入射点を像点とするようにイメージリレーを配置して、DFGを光ファイバに導くようにする。
なお、イメージリレーの代わりに、分散素子と集光レンズの組合せや反射鏡と集光レンズの組合せを光路上に設けても良い。
【0022】
本発明の方法および装置は、波長1.064μmのネオジムYAG(Nd:YAG)レーザをポンプ光とし、シグナル光を1.15〜1.35μmの範囲で波長可変のクロムフォルステライト(Cr:forsterite)レーザ光をシグナル光として、波長範囲5〜14μmの可変DFGを得る波長変換レーザ装置の出力部に適用することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、非線形光学結晶にポンプ光とシグナル光を入射して差周波光(DFG)を出力する波長調整可能な波長変換レーザ出力装置において、非線形光学結晶を射出した波長の異なるDFGがいずれも通過する共通通過点が存在することを利用して、波長が変化しても狭い光ファイバの光導入口に確実にDFGを導くようにしたものである。
【0024】
ポンプ光とシグナル光に対して位相整合条件に合わせて非線形光学結晶軸の方向を調整すると、DFGの波長が長いほどDFGの出力軸が傾き出射角が大きくなる一方、ポンプ光やDFGなどが非線形光学結晶を射出する位置がDFGの射出方向の後ろ側に後退する。このため、波長の異なるDFGの光路は狭い領域である共通通過点で互いに交差することになる。
そこで、異なる波長のDFGに対しても、あたかも共通通過点に点光源があるかのように光学系を設計すれば、波長変換レーザ出力装置において発生したDFGを確実に光ファイバに導入することができる。
【0025】
以下、実施例に基づき、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は非線形光学結晶内におけるポンプ光とシグナル光と差周波光のベクトル図、図2はシグナル光の波長に対する位相整合角の変化の1例を示す関係図、図3は非線形光学結晶において差周波光の波長を変えたときの光路を示す図面、図4は差周波光の光路と共通通過点の関係を表したグラフである。
【0026】
ポンプ光とシグナル光が非線形光学結晶に入力して差周波光(DFG)が得られるとき、ポンプ光とシグナル光とDFGのそれぞれの波数ベクトルk1,k2,k3の間には、
k1=k2+k3
の関係が成立する。また、それぞれの波長をλ1,λ2,λ3とすると、
1/λ1=1/λ2+1/λ3
の関係が成立する。
【0027】
図1のベクトル図に示すように、結晶内でポンプ光k1とシグナル光k2のなす角度αが一定の場合でも、シグナル光k2がk2’,K2”と変化してポンプ光とシグナル光のベクトル差(k1−k2)が小さくなると、差周波光のベクトルk3がk3’、k3”と小さくなるので波長λ3が長くなり、また、差周波光とポンプ光のなす角βはβ’,β”と大きくなる。角度βは、差周波光の波長λ3が長いほど大きい。
【0028】
実際には、ポンプ光とシグナル光の角度αをたとえば0.1〜0.5°程度、わずかにずらすと、差周波光とポンプ光のなす角度βはαの4〜8倍となる。そたがって、非線形光学結晶から十分離れたところでは、差周波光がポンプ光やシグナル光から空間的に分離し、特別な分離機構を使用しなくても差周波光を単独に扱うことができる。
【0029】
ただし、差周波光が発生するためには、光路と結晶光学軸の角度に依存する位相整合条件を満たす必要がある。
位相整合条件は、結晶から射出するときに3つの光の位相が一致するための条件で、波数ベクトル保存則として、
1e(θ)/λ1=n2o/λ2cosα+n3e(θ−β)/λ3cosβ
2o/λ2sinα=n3e(θ−β)/λ3sinβ
で表される関係を満たさなければならない。
【0030】
なお、ポンプ光、シグナル光、差周波光の波数ベクトルは、
k1=2πn1e(θ)/λ1
k2=2πn2o/λ2
k3=2πn3e(θ−β)/λ3
と表される。
ここで、θはポンプ光の光路と結晶軸のなす角度、n1e (θ)は結晶軸とθの角を有するポンプ光異常波に対する非線形光学結晶の屈折率、n2oは結晶のシグナル光正常波に対する屈折率、n3e(θ−β)は結晶軸と(θ−β)の角を有する差周波光異常波に対する屈折率である。
【0031】
図2は、位相整合角の変化例を示すグラフである。グラフの横軸は、シグナル光として使ったクロム・フォルステライト(Cr:forsterite)レーザの波長を示し、縦軸に位相整合角θを示す。
図2のグラフに示したものは、ポンプ光としてNd:YAGレーザ光、シグナル光としてCr:forsteriteレーザを使い、長さ24mmの非線形光学結晶にポンプ光とシグナル光を同じ方向から入射する場合、すなわち角度αが0の場合について位相整合するポンプ光の光路と結晶軸のなす角度θを算出した結果である。
【0032】
図2で分かるように、位相整合角θは、Cr:forsteriteレーザの波長が1.17μmから1.35μmまで変わる間に、38°から50°まで単調に増加する。
波長1.06μmのNd:YAGレーザをポンプ光とするとき、この範囲で発生する差周波光の波長λ3は、11.3μmから4.9μmの範囲で変化することになる。
なお、角度αが0.1°から0.5°の範囲では、位相整合角と図2の値の差はわずかである。
【0033】
図3は、非線形光学結晶において差周波光の波長を変えたときの光路を示して、共通通過点の説明をする図面である。
波長1.06μmのNd:YAGレーザをポンプ光ω1とし、波長可変のCr:forsteriteレーザをシグナル光ω2として、長さ24mmの非線形光学結晶1に入射する。レーザ光路調整の煩雑を避けるため、ポンプ光ω1とシグナル光ω2の入射方向と入射位置11は予め決めて固定し、差周波光ω3の波長λ3を変える場合にも変えないようにする。
【0034】
非線形光学結晶面1の傾きδを調整して、非線形光学結晶1に入射したポンプ光ω1の結晶内光路と結晶光学軸12の角度が位相整合角θになるようにする。
なお、ポンプ光ω1とシグナル光ω2の非線形光学結晶1への入射方向相互間の角度θinが固定されていて、非線形光学結晶1への入射角が異なるため、非線形光学結晶表面の傾きδが変化すれば、結晶内における光路間の角度αはスネルの屈折の法則にしたがって変化する。このため、厳密には位相整合角θはわずかに変化する。
【0035】
試験により、正しい位相整合角に対して0.04°の角度ずれがあると差周波光への変換効率が約50%低下するという結果が得られているので、正確な光路間角度αを求めてこれに対する位相整合角θを算出し、新しく算出された位相整合角に合わせて結晶面の傾きδを調整することが好ましい。
なお、シグナル光ω2の入射方向を正確に調整することができる場合は、入射方向の角度差θinを調整して結晶内の角度差αを一定に維持してもよい。
【0036】
ポンプ光ω1とシグナル光ω2が光路相互間の角度αで非線形光学結晶1内を走行すると、ポンプ光ω1に対して角度βを持つ差周波光ω3が発生して、非線形光学結晶1の端面から出射する。差周波光ω3は出射面においてスネルの法則に従って屈折し、出射後の光路は出射後のポンプ光ω1に対して角度θoutをもつようになる。なお、非線形光学結晶1の入射端面と出射端面が平行である場合は、ポンプ光ω1が端面から出射する方向は入射方向と同じである。
差周波光の波長λ3が長いほど角度βが大きいので、出射後の光路のポンプ光に対する角度θoutも大きい。
【0037】
一方、ポンプ光などが非線形光学結晶1から出射する位置13は、非線形光学結晶1が傾くと出射面が傾いて元の出射位置がずれる方向に遷移する。波長λ3が長い差周波光を生成する場合は、小さい位相整合角θに合致するように非線形光学結晶1を図中右側に傾けるので、たとえば図中太線で表示した波長10μmの差周波光ω3を発生させる構成におけるように、ポンプ光ω1の出射点13が図中下方に遷移する。
一方、差周波光の波長λ3が短い場合は、位相整合角θが大きいので、たとえば波長が5.5μmの構成として表された場合のように、結晶光学軸を図中上方に持ち上げて調整するため、ポンプ光ω1の出射点13は図中上方に遷移する。
【0038】
このように、差周波光の波長λ3が長い場合はポンプ光に対する角度θoutが大きく射出位置13が図中下方にずれ、波長λ3が短い場合は逆になるため、波長の長い差周波光と波長の短い差周波光の光路は、図に見られるように1点2で交差する。
【0039】
図4は、発明者らが構成した装置において、差周波光の波長λ3が色々に変化した場合の光路を示した図面である。図4は、横軸に非線形光学結晶1から射出した後の距離、縦軸にポンプ光と平行な適宜の基準線からの距離を表し、この装置で発生することができる差周波光の下限となる5.5μmから上限の10μmまでの波長範囲において、非線形光学結晶1を出射したあとの差周波光の軌跡を描画したものである。
【0040】
図4から、全ての軌跡を包絡した領域が幅約2mmの極小さい領域2を有することが分かる。この領域は点とみなすことができ、ここではこの点を共通通過点と呼ぶ。すなわち、この装置で生成される差周波光は波長が異なる場合にも、全て共通通過点2を通過する。
この共通通過点2を擬似的な点光源とみなして、点光源から放射される光を光ファイバのコアに導くような光学系を構成すれば、波長変換レーザから出射する波長の異なる差周波光を全て光ファイバに導入することができる。
【実施例1】
【0041】
図5は、本発明の実施例1に係る波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法及び装置を説明する概念図である。
実施例1の光ファイバ導光方法は分散素子を利用するものである。
本方法を実施する本実施例の光ファイバ導光装置では、非線形光学結晶1の差周波光出射点13と光ファイバ3の光導入口31の間に分散素子4と収束光学系5を配設する。なお、図示しないが、本実施例の光ファイバ導光装置は、非線形光学結晶1の傾きδを精密に調整する制御装置を備えている。
【0042】
分散素子4を共通通過点2に配置することにより、波長変化に伴って異なる入射角に対応して、差周波光が分散素子4から出射するときに、どの波長の差周波光も走行方向が同じものになるようにする。たとえば、材料の屈折率、入射面の傾きと出射面の傾き、などを的確に選択したプリズムを使って、調整することができる。
分散素子4の後方に、平行光線を焦点に収束させる収束光学系5を差周波光ω3の走行方向と光軸が平行になるように配置し、その焦点位置に光ファイバ3の光導入口31を配置する。
【0043】
すると、差周波光ω3の波長λ3が変化した場合も、非線形光学結晶1の出射点13から出射した差周波光は共通通過点2を通過する。共通通過点2に置かれた分散素子4に入射する差周波光ω3は、波長によって入射角が異なるが、分散素子4から出射するときには、いずれの波長の差周波光も同じ方向に走行するようになる。すなわち、波長の異なる差周波光は互いに平行な光路を走行することになる。
収束光学系の光軸がこの平行光路に平行であるため、どの波長の差周波光も同じ焦点を通る。すなわち、差周波光は焦点に設けられた光導入口に確実に導入される。
【0044】
図6は、フッ化カルシウム(CaF)プリズムを用いてほぼ同一方向に走行方向を補正して集光レンズで光ファイバに収束させた場合の各波長の光路例を示す図面である。横軸は結晶出射面に対して垂直方向の距離、縦軸は出射面に平行な方向の距離を表す任意スケールである。縦軸は、横軸と比較して大きく拡大して表している。
【0045】
図面に表示された通り、波長がそれぞれ5.5μm、7.5μm、9.5μmの差周波光ビームは、いずれもほぼ共通通過点2に集まる。CaFの屈折率は、入射光の波長が長いほど大きく、波長が2μmのとき1.424、9μmのとき1.327となる。そこで、波長による光路差を勘案して、ウェッジ角8.5°の断面三角形のプリズム4を共通通過点2の位置に置いて、ポンプ光の光路に対して入射面が8.5°傾くように配置する。
【0046】
すると、差周波光ビームは、共通通過点2に設けたプリズム4に入射するときと出射するときに、波長毎に多少異なる屈折を行って入射角度差を相殺し、結果として波長にかかわらずほぼ同一の方向に走行するようになる。
そこで、集光レンズ5の光軸が差周波光ビームの走行方向と平行になるように配設しておけば、どの波長のビームも、集光レンズ5によって焦点に収束し、焦点位置に置かれた光ファイバ入力部を介して光ファイバ中に導入される。
【実施例2】
【0047】
図7は、本発明の実施例2に係る波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法及び装置を説明する概念図である。
実施例2の光ファイバ導光方法はイメージリレーを利用するものである。
本方法では、結晶の傾きを精密に調整する制御装置が付属した非線形光学結晶1の差周波光出射面13と光ファイバ3の光導入口31の間にイメージリレーレンズ系6を配設する。イメージリレーレンズ系6は2枚以上の集束レンズ61,62で構成されたもので、イメージリレーレンズ系6の物点側焦点を共通通過点に位置させ、像点側焦点の位置に光ファイバ3の光導入口31を配置する。
【0048】
なお、イメージリレー光学系6の初めのレンズ61には、目的とする波長範囲内の差周波光ω3の軌跡が全て入射して、それぞれイメージリレーが行えるようにする。
非線形光学結晶1から射出した差周波光ω3は、イメージリレーレンズ系6に入射して拡大収縮し、光ファイバの光導入口31に収束する。このとき、波長により差周波光ω3の軌跡がずれるが、共通通過点2における物体像を光導入口31の位置に、たとえば1/25の大きさの実像として結像させるような光学系を組んであるので、波長にかかわらず差周波光ω3を光ファイバの光導入口31に注入することができる。
【0049】
なお、より正確に差周波光ω3を光ファイバ3に導光するために、イメージリレーレンズ系6の位置を細かく調整する微調整機構を備えて、波長毎に微調整できるようにしても良いことは言うまでもない。
本実施例の光ファイバ導光方法により、共通通過点2を通過する各波長の差周波光を光ファイバ3に導入することができる。
【実施例3】
【0050】
図8は、本発明の実施例3に係る波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法及び装置を説明する概念図である。
実施例3の光ファイバ導光方法は回転可能な反射鏡を利用するものである。
本方法では、結晶の傾きが調整できる非線形光学結晶1の差周波光出射面13と光ファイバ3の光導入口31の間に回転可能な反射鏡7を配設して、反射光が光ファイバ3の光導入口31に入射するようにする。
反射鏡7の回転軸71は反射鏡面72上にあるようにして、回転軸71の位置に共通通過点2が来るように配置する。
【0051】
非線形光学結晶1から射出した差周波光ω3は、反射鏡7の反射面72で反射して集束レンズ5で光ファイバ3の光導入口31に集光させられる。差周波光3の波長λ3が変化すると反射鏡7に対する入射角が変化するので、反射面72の向きを調整して、常に光ファイバ3の光導入口31に集光するようにする。
【0052】
なお、差周波光ω3は波長λ3が変化しても常に共通通過点2を通り、入射方向のみが変化するので、反射鏡7の回転軸71が反射面72上にあってしかも共通通過点2が回転軸71の上にあれば、差周波光ω3の波長が変化して入射方向が変化しても、他の光学的配置を固定したまま反射面72を回転させて向きを調整するだけで、反射面72で反射する差周波光ω3を光ファイバ3の光導入口31に集光させることができる。
本実施例では、差周波光の波長が変化したときに反射鏡面の角度を調整するだけで、差周波光を途切れなく光ファイバに導光し続けることができる。
【0053】
本発明によって、非線形光学結晶を用いて差周波光を発生する波長可変な波長変換レーザ装置において、差周波光を光ファイバに導く、より簡便な方法と装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法における非線形光学結晶内のポンプ光とシグナル光と差周波光のベクトル図である。
【図2】本発明の光ファイバ導光方法におけるシグナル光の波長に対する位相整合角の変化の1例を示す関係図である。
【図3】本発明の光ファイバ導光方法における非線形光学結晶において差周波光の波長を変えたときの光路を示す図面である。
【図4】本発明の光ファイバ導光方法における差周波光の光路と共通通過点の関係を表したグラフである。
【図5】本発明の実施例1に係る波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法及び装置を説明する概念図である。
【図6】実施例1における各波長の光路例を示す概念図である。
【図7】本発明の実施例2に係る波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法及び装置を説明する概念図である。
【図8】本発明の実施例3に係る波長変換レーザ出力の光ファイバ導光方法及び装置を説明する概念図である。
【図9】非線形光学結晶によって差周波光を発生する機構を説明する図面である。
【符号の説明】
【0055】
1 非線形光学結晶
11 入射位置
12 結晶光学軸
13 出射位置
2 共通通過点
3 光ファイバ
31 光導入口
4 分散素子、プリズム
5 収束光学系、集光レンズ
6 イメージリレーレンズ系
61,62 集束レンズ
7 反射鏡
71 回転軸
72 反射面
【出願人】 【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
【出願日】 平成18年6月23日(2006.6.23)
【代理人】 【識別番号】100104341
【弁理士】
【氏名又は名称】関 正治


【公開番号】 特開2008−3422(P2008−3422A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−174615(P2006−174615)