トップ :: G 物理学 :: G01 測定;試験

【発明の名称】 地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法及び地震マグニチュードの早期予測プログラム
【発明者】 【氏名】山内 常生

【要約】 【課題】地震動を受けている時の建造物の変形量を測定する装置,及び,そのデータを歪に変換後に歪解析し,主歪方向が特定方向を継続する時間から地震マグニチュードを決めるプログラムを提供する.

【構成】P波と呼ばれる揺れの小さな地震動を受けている時間に測定した建造物の変形量から歪を求め,歪解析により特定の面内の主歪の方向を求める.この主歪の方向が,断層運動に対応して特定の方向を継続する継続時間の長さから地震マグニチュードを算出し,地震防災情報として重要な,P波に後続して到来するS波の最大振幅の大きさを推定する.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震時に建造物に生じる変形量を測定し、その変形量を歪に変換し、歪解析を行い,主歪の方向を決め,該主歪方向が特定方向を継続する時間から,地震マグニチュードを決める,地震時の建造物変形量による地震マグニチュードの早期予測方法であって,
被測定物である建造物に備えた少なくとも3方向の変形量測定手段,及び,
該測定手段により測定した地震時における建造物の変形量に基づく歪データを歪解析する手段とを備え,
該変形量測定手段を特定の面内の歪解析ができるように配置し,
歪解析で得た主歪の方向が特定方向を継続する時間を求め,その時間の長さから地震マグニチュードを予測することを特徴とする,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法.
【請求項2】
請求項1に記載の前記変形量測定手段を,水平方向の歪解析ができるように配置し,歪解析で得た主歪の方向が震央方向を継続する時間を求め,その時間の長さから震央方向と地震マグニチュードを予測することを特徴とする,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法.
【請求項3】
請求項1,及び,請求項2に記載の前記変形量測定手段を特定の面内の歪解析ができるように配置した,該面と斜行する方向,好ましくは該面と直交する方向に第4の変形量測定手段を備え,該面と震源方向との間の角度情報を有する変形量を得ることを特徴とする,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法.
【請求項4】
前記変形量測定手段が変位検出手段であることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法.
【請求項5】
前記変形量測定手段が光学的手段であることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法.
【請求項6】
前記変形量測定手段が,建造物の変形量をその変形量に対応する電気力の変化に変換し,電気力の大小として測定することを特徴とする請求項1から請求項3に記載の,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法.
【請求項7】
前記変形量測定手段が歪ゲージであることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法.
【請求項8】
前記変形量測定手段が,建造物の変形量をその変形量に対応する液体の体積変化に変換し,体積の大小として測定することを特徴とする請求項1から3に記載の,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法.
【請求項9】
前記変形量測定手段が,建造物の変形量をその変形量に対応する電気容量の変化に変換し,電気容量の大小として測定することを特徴とする請求項1から3に記載の,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測方法.
【請求項10】
地震時に生じる建造物の変形量を測定し,得られた変形量を歪に変換し,該歪に基づいて歪解析し,主歪の方向を決め,主歪方向が特定方向を継続する時間から,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードを早期予測をするための,地震マグニチュード早期予測プログラムであって,
地震時に生じる建造物の変形量より算出した歪データを解析する処理において,
少なくとも3方向の変形量より歪を算出する処理,
歪から歪解析により主歪方向を算出する処理,
算出した主歪方向の継続時間を特定する処理,
予めメモリーに記録された前記継続時間と地震マグニチュードの対応関係を示す情報を読み出し、地震マグニチュードを算出する処理,
を実行させることを特徴とする,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測プログラム.
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は,地震時の建造物変形量より算出した歪データを歪解析して得た主歪方向が,特定方向を継続する時間の長さに基づき地震マグニチュードを決める,地震マグニチュードの早期予測方法及び地震マグニチュードの早期予測プログラムに関する.
【背景技術】
【0002】
地震の大きさを示す地震マグニチュードを決める方法として,気象庁は,大きな地震に対しては「変位振幅を用いる方法」,小さな地震に対しては「速度振幅を用いる方法」を採用している.前者の場合は変位型地震計による最大の変位振幅を,後者の場合は速度型地震計による最大の速度振幅を用いて,震央からの距離による減衰を考慮しつつ,複数点の記録に基づいて地震マグニチュードを決定している.一方,大久保他は,地球惑星科学関連学会2005年合同大会予稿集(S098−004)で,地下深部の岩盤内に設置したボアホール式歪計による岩盤変形量の歪解析を行い,地震時の主歪の方向変化から,地震のモーメントが推定できることを報告している.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通常の地震は,小さな揺れの後に大きな揺れがあるが,小さな揺れを受けている初期の間に後続する大きな揺れの大きさを予測することは難しい.地震マグニチュードが大きければ揺れが大きくなるため,通常は,地震マグニチュードを予測し,予測した地震マグニチュードから,後続してくる揺れの大きさを推定する.しかしながら,地震マグニチュードの予測は容易ではない.気象庁が採用している地震マグニチュードを決める方法では,観測点で記録された最大の揺れの大きさが,地震マグニチュードの決定に係わる情報となっている.これら,気象庁が地震マグニチュードの決定に利用する地震動の変位振幅や速度振幅は,観測地点の地盤の構造に依存して大きく変わり,単一の観測点の記録だけで地震マグニチュードを決定すると誤差が大きくなる.このため,複数の観測点の記録を解析し,地震マグニチュードの決定誤差を少なくする必要があった.また,最大の変位振幅や速度振幅を利用しなければ地震マグニチュードを決定することができないため,主要な揺れが到来する前に地震マグニチュードに関わる情報を発信することができなかった.
【0004】
建造物等の地震防災のためにはできるだけ早く地震マグニチュードを知り,到来する最大の地震動の大きさを予測する必要がある.従前の技術では,震源域に近い観測点で得た地震の揺れの情報を,テレメーター等を介して受信し,複数の観測点の記録に基づいて地震マグニチュードを決め,地震防災用の事前情報として利用している.しかしながら,この方法では,テレメーター等が故障した場合は,地震マグニチュードを決める地震の揺れの情報を取得することができない.
【0005】
一方,大久保他(2005)は,岩盤の変形量の測定結果を用いて地震マグニチュードを推定する方法を提案している.しかしながら,岩盤の変形を利用する方法は都市では活用しにくい.なぜなら,都市において岩盤の変形量の測定結果を得るためには,深いボーリング孔を掘削しなければならない.例えば東京の場合は,地下の岩盤に達するにはボーリング孔を3000m程度の深度まで掘削する必要があり,掘削経費が膨大になる.また,都市では空き地が少なく,ボーリング孔を掘削する際に必須であるボーリングマシンを設置するスペースの確保が難しい.
【0006】
本発明は,上記のような事情に基づいて考え出されたものであって,建造物が揺れの小さなP波と呼ばれる地震波を受けている時に,建造物の変形量を測定して,その変形量を歪に変換し,歪解析することで地震マグニチュードを予測する.そして,予測した地震マグニチュードの大きさに基づいて,後続して到来するS波の最大振幅の大きさを推定し地震防災に利用する.本発明では,岩盤の変形量ではなく建造物の変形量を歪に変換して入力データとして解析する.このため,地下深部までボーリング孔を掘削して,地震マグニチュードの大きさの推定に必要な入力データである歪を得る必要はない.
【課題を解決するための手段】
【0007】
気象庁は地震時における建造物の揺れに基づく最大の変位振幅や速度振幅を利用し地震マグニチュードを決定する.請求項1の発明は,地震時に建造物に生じる変形量を測定し,その変形量を歪に変換し,歪解析を行い,主歪の方向を決め,該主歪方向が特定方向を継続する時間から,地震マグニチュードを決める,地震時の建造物変形量による地震マグニチュードの早期予測方法であって,被測定物である建造物に備えた少なくとも3方向の変形量測定手段,及び,該測定手段により測定した地震時における建造物の変形量に基づく歪データを歪解析する手段とを備え,該変形量測定手段を特定の面内の歪解析ができるように配置し,歪解析で得た主歪の方向が特定方向を継続する時間を求め,その時間の長さから地震マグニチュードを予測することを特徴とする.
【0008】
通常の状態では建造物には鉛直方向に作用する重力以外に大きな外力は作用せず,歪解析により得られる水平方向の面内の主歪方向はランダムに乱れる.しかし,地震が発生すると震源方向から建造物の地下部分に力が作用し,建造物地下部分を変形させる.建造物の地下部分の変形量を歪解析して得た主歪方向は,力が作用する方向になる.震源域で破壊が進行している間は(言い換えれば,断層運動が継続し,震源域が拡大している間),建造物地下の大地には震源方向からの力が卓越して作用するため,歪の主軸方向は一定の方向を維持する.
【0009】
建造物内,ないしは,建造物表面における変形量の測定場所は,大地からの力を受ける必要があり,建造物が岩盤に接している場合は,その近傍で測定することが望ましく,次には,地中にある建造物の基礎部分で測定することが望ましい.しかし,大地が震源から受けている力の作用を反映する場所であればよく,必ずしも基礎部分である必要はない.
【0010】
震源域で断層運動が継続し,震源域の拡大が進行している間は建造物には震源方向からの力が卓越して作用する.このため,断層運動が継続している間は,建造物が一定方向の力の作用を受け,主歪方向が特定方向を継続する.このようにして得た,特定方向は,建造物の構造に左右されるため,測定場所によっては,必ずしも震源方向から大地に作用している力の方向とは一致しない.
【0011】
本発明による方法では,地震マグニチュードの予測の判断基準は,主歪方向が特定方向となる継続時間の長さである.したがって,主歪方向が,建造物が受ける力の方向と異なる方向であってもよいし,建造物上部で得た変形量に基づく歪を解析する場合でも,歪解析により主歪方向を算出し,その主歪方向が特定方向を維持すれば良く,必ずしも算出された主歪方向が震源方向を向く必要はない,
【0012】
請求項2の発明は,請求項1の発明において,前記変形量測定手段を,水平方向の歪解析ができるように配置し,歪解析で得た主歪の方向が震央方向を継続する時間を求め,その時間の長さから震央方向と地震マグニチュードを予測することを特徴とする.水平方向に配置された3方向の変位測定手段より得た変形量に基づく歪を入力データとして歪解析をすれば,主歪方向が建造物に作用する力の方向,すなわち,震央方向となる.
【0013】
請求項3の発明は,請求項1,及び,請求項2に記載の該変形量測定手段を特定の面内の歪解析ができるように配置した,該面と斜行する方向,好ましくは該面と直交する方向に第4の変形量測定手段を備え,該面と震源方向との間の角度情報を有する変形量を得ることを特徴とする.水平方向に配置された3方向の変形量測定手段の他に,該面と斜交する方向の変形量測定手段を備えていれば,該変形量から震源の深さに係わる情報が得られる.第4の変形量測定手段が水平方向と直交した方向であれば,震源の深さに関わる情報を得やすい.
【0014】
請求項4の発明は,請求項1から請求項3の発明において,該変形量測定手段が磁気センサ・差動トランス・渦電流センサ等の微少な変位変化が検出できる変位検出手段であることを特徴とする.
【0015】
請求項5の発明は,請求項1から請求項3の発明において,該変形量測定手段が光学的手段であることを特徴とする.
【0016】
請求項6の発明は,請求項1から請求項3の発明において,該変形量測定手段が,建造物の変形量をその変形量に対応する電気力の変化に変換し,電気力の大小として測定することを特徴とする.
【0017】
請求項7の発明は,請求項1から請求項3の発明において,該変形量測定手段が歪ゲージであることを特徴とする.
【0018】
請求項8の発明は,請求項1から請求項3の発明において,該変形量測定手段が,建造物の変形量をその変形量に対応する液体の体積変化に変換し,体積の大小として測定することを特徴とする.
【0019】
請求項9の発明は,請求項1から請求項3の発明において,該変形量測定手段が,建造物の変形量をその変形量に対応する電気容量の変化に変換し,電気容量の大小として測定することを特徴とする.
【0020】
請求項10の発明に関わる地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードの早期予測プログラムは,地震時に生じる建造物の変形量を測定し,得られた変形量を歪に変換し,該歪に基づいて歪解析し,主歪の方向を決め,主歪方向が特定方向を継続する時間から,地震時の建造物変形量に基づく地震マグニチュードを早期予測をするための,地震マグニチュード早期予測プログラムであって,地震時に生じる建造物の変形量より算出した歪データを解析する処理において,少なくとも3方向の変形量より歪を算出する処理,歪から歪解析により主歪方向を算出する処理,算出した主歪方向の継続時間を特定する処理,予めメモリーに記録された前記継続時間と地震マグニチュードの対応関係を示す情報を読み出し,地震マグニチュードを算出する処理,を実行させることを特徴とする.
【発明の効果】
【0021】
請求項1から請求項9の発明は,建造物がP波と呼ばれる初期の揺れの小さな地震動を受けているときに建造物の変形量を測定し,得られた変形量を歪に変換し,該歪を入力データとして歪解析を行い,主歪方向を特定し,その主歪方向が特定方向を継続する時間の長さを利用して,地震マグニチュードを早期に予測するためになされた.地震災害の直接の原因となる地震時の最大の揺れの大きさは,地震マグニチュードの大きさに対応する.したがって,揺れの小さな時に地震マグニチュードを知ることができれば,到来する地震動の最大の揺れの大きさが推定できる.本発明による方法は,気象庁が実施しているように,変位型地震計による最大の変位振幅を用いたり,速度型地震計による最大の速度振幅を用いて,震央からの距離による減衰を考慮しつつ,複数観測点の記録に基づいて地震マグニチュードを決定する方法とは異なっている.
【0022】
即ち,本発明の構成では,地震時に生じる建造物の変形量を測定し,その変形量を歪データに変換し,リアルタイムで歪解析を行って主歪方向を算出する.この解析方法で得られる主歪方向は,建造物に作用する力の方向に依存する物理量で,早い周期で変化する力であっても遅い周期で変化する力であっても,力が作用する方向を求めることができ,方向を決める際の誤差が小さい.震源域で破壊が進行し断層運動が継続している間に生成された地震動は,その断層運動の方向の情報を持ったまま,周辺に伝搬する.断層運動が停止すれば,断層運動を反映した地震動は生成されなくなる.断層運動で生成されるP波は,同じく断層運動で生成される揺れが大きなS波より早く伝搬するため,遠方では,揺れの小さなP波が先に到来する.建造物にP波が到来して揺れが励起されるときは,断層運動の継続時間に対応して震源方向からの力が卓越して建造物に作用する.このため,P波部分の歪解析の結果得られる主歪方向が特定方向を継続する.本発明では,この継続時間の長さから,地震マグニチュードを決定する.請求項10の発明は.主歪方向が特定方向を継続する時間を求め,地震マグニチュードを算出するためのプログラムである.
【0023】
P波により建造物が揺れる場合,作用する力が小さくても,その力による歪変化がノイズレベルと見なせる通常の歪変化を少しでも上回れば,歪解析で求めた主歪方向が,力が作用する方向になる.建造物の変形量が分かれば,簡単に歪が求まり,リアルタイムで歪解析が実施できる.このように,主歪方向はリアルタイム監視がし易い物理量である.その継続時間は断層運動の継続時間と対応しており,継続時間の長さから,地震マグニチュードを予測できる.地震マグニチュードの予測に利用する情報は,P波と呼ばれる地震動の振幅が小さな揺れの初動部分であり,しかも,本発明による方法は,他の観測点からの地震に関する情報が無くても,リアルタイムで地震マグニチュードを算出できるため,地震防災のためには有益である.
【0024】
継続時間が一定の長さを超えれば,その時点で地震マグニチュードの下限を推定することが可能で,その時点における地震マグニチュードの下限情報を地震防災に活用できる.また,地震が遠方で発生し,P波と呼ばれる地震動の揺れが小さな場合でも,地震マグニチュードが大きければ,建造物に作用する震源からの力が卓越し,歪地震動を解析して得た主歪方向が特定方向を継続するため,継続時間の判断ができる.継続時間が長くなれば,時間の経過に対応して,地震マグニチュードのより大きな下限が予測され,ランクアップした地震防災の情報を,順次,発信できる.先にも触れたが,建物の地下で観測した歪地震動記録から,直接,リアルタイムで地震マグニチュードが分かり,地震防災情報として重要な,後続して到来するS波の最大の揺れの大きさが予測できる.
【0025】
従前の技術では,震源域に近い観測点で得た地震に伴う揺れの大きさに関する情報を,テレメーター等を介して受信できなければ,地震マグニチュードが決定できず,地震防災上の情報が得られなかった.しかし,本発明によれば,観測地点そのもので地震マグニチュードの情報が得られ,他の観測点からの情報は必ずしも必要とせず,自主防災のためには効果的である.
【0026】
当然のことながら,地震波が早く到来する震源に近い地点では,震源から遠方の地点より地震マグニチュードの下限や地震マグニチュードの予測が早くでき,その情報を震源から遠い地域に伝達すれば,遠方では,より早く地震防災のための情報として活用できる.
【0027】
大久保他(2005)による方法は,地震時の岩盤の変形量を用いて主歪方向を求める方法で,ボーリング孔を掘削する必要があり,東京等では,3000mの深度までボーリング孔を掘削しなければならない.しかし,本発明による方法では,地震時の建造物の変形量を用いて主歪方向を求めるため,必ずしもボーリング孔を掘削する必要がなく,安価に必要な情報としての主歪方向を特定できる.
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明で使用する歪計(伸縮計)は,測地学の外観(1974年日本測地学会発行)の230ページに記載された定義によると,図1のような構成で,「伸縮計は図1で示すように,物さし(定尺)ABの1端B(固定端)を地面の定点Dに固定しておき,自由端Aと地面のもう1つの定点Cとの距離の変化を拡大して記録する器械である.」とされている.伸縮計で記録した距離の変化量を定尺AB間の距離で割れば,歪となる.一般に,小型の伸縮計は歪計と表記されることが多く,本発明では歪計と記す.
【0029】
第1の実施形態を図2,図3を参照しつつ説明する.
図2は建造物の任意の平面上,例えば建造物地下の水平になっている鉄筋コンクリート製の基礎部分3に設置された歪計の状態を側面から見た図である.台1と台2は基礎部分3に固定されており,台1には棒状の基準尺としての弾性体4の一端が固定され,その先端には,変位センサ5が備えられた構成である.このような構成の歪計であれば,台1と台2の間に生じる紙面と平行な方向の変位量測定できる.
【0030】
基礎部分3が紙面と平行な方向から圧力6を受けた場合,基礎部分3は収縮し,上記した台1と台2距離が短くなる.台1に固定されている基準尺としての弾性体4の先端に取り付けられた変位センサ5は,台1と一体となっている.このため,変位センサ5は台1と同じように動き,台1と台2の間の変位を,変位センサ5で測定することができる.台1と台2の間の変化量Δdを変位センサ5で検出し,その変化量Δdを台1と台2の距離Dで割れば,台1と台2を結ぶ方向の歪となる.
【0031】
建造物の基礎部分が震源方向からの力の作用で変形している時に,地震動帯域のデータが得られるサンプリング間隔(例えば100Hz)で,上述の方法により台1と台2の間の歪変化を測定すれば,地震動帯域の歪変化が得られ,この方向の歪地震動記録となる.
【0032】
図3は,図2に示した歪計を3方向に設置した第1の実施例で,その状態を上方から見た図である.図3で分かるように,台10から台11,台12,台13の3方向に台10に固定された基準尺としての弾性体14,15,16があり,その先端に変位センサ17,18,19が備えられている.
【0033】
紙面と平行になっている水平方向の基礎部分3が,紙面と平行な方向から圧力6を受けた場合,基礎部分3は圧力受けた方向は収縮し,その方向と直交する方向には伸張する.伸張する変位量は基礎部分の材質に依存するポアソン比に対応する割合になる.この収縮量と伸張量の大きさを,それぞれの方向の台の間の距離で割れば,それぞれの方向の歪変化となる.台に固定されているそれぞれの基準尺の配置が,想定している面と必ずしも一致していなくても,面状に投影した長さと変形量から歪を求めれば,その歪を用いて想定している面内の歪解析を行うことができ,主歪方向が求められる.また,変形量の測定方向も45度や直交している必要はなく,歪解析ができる方向に展開していればよい.
【0034】
建造物の基礎部分が震源方向からの力の作用で変形している時に,地震動帯域のデータが得られるサンプリング間隔で,上述の方法により台10と,台11,台12,台13の間の歪変化を測定すれば,それぞれの方向の地震動帯域の歪変化である歪地震動記録となる.このようにして得た歪地震動記録を歪解析すれば,3方向の歪計を取り付けた平面内でどの方向から地震動帯域の力を受けているか判断できる.
【0035】
第1の実施例では,3方向の歪計は建造物の基礎部分が水平面内にあると考えたが,この面と斜行する面の方向,好ましくは直交する鉛直方向の歪計があれば,変形量の割合から,力が作用する深さ方向の情報が得られる.図4に,第1実施例に基準尺等を追加した第2実施例の概念図を示す.この場合,建造物の鉄筋コンクリート製の基礎部分において鉛直になっている柱や壁の上に台20設け,柱や壁に沿って基準尺としての弾性体21を取り付け,その先端に,変位センサ22を備えて鉛直方向の歪地震動を測定する.
【0036】
図5に地球環境調査計測辞典第1巻陸域編(P351)から引用した,マイケルソン干渉計の模式図を示す.第2実施例では,歪地震動の検出に変位センサを利用する例を示したが,変位センサ17,18,19,22の代わりに,光学的手段,例えば,光の干渉を利用する(センサー部では,図5で示すような手段を用いて変形量を測定する),第3実施例ような方法もある.第3実施例はセンサ部が異なるだけで第2実施例と類似であるためここでは図示しない.
【0037】
図6に地球環境調査計測辞典第1巻陸域編(P559)から引用した,フードバック型地震計の模式図を示す.第2実施例では,歪地震動の検出に変位センサを利用する例を示したが,変位センサ17,18,19,22の代わりに,例えば,図6の例で示すように,変形量を変形量に対応する電気力の変化に変換し,電気力の大小として変形量を測定する,第4実施例ような方法もある.この場合,通常は,変位量に相当する電気力を発生させ,変位がゼロを保つように調整し,変形量を電気力の大小に変換する.第4実施例はセンサ部が異なるだけで第2実施例と類似であるためここでは図示しない.
【0038】
第2実施例では,歪地震動の検出に変位センサを利用する例を示したが,変位センサ17,18,19,21の代わりに,例えば,歪ゲージ24を利用する,図7で示した第5実施例ような方法もある.歪ゲージを利用する場合は,台を設けることなく,建造物の表面や内部に,複数の歪ゲージを貼り付けて歪地震動を測定する.建造物の表面や内部が変形すると,その変形量に比例して歪ゲージからの電気信号が変化する.この電気信号の変化を測定する.
【0039】
図8に地球環境調査計測辞典第1巻陸域編(P517)から引用した,坂田式三成分歪計の模式図を示す.第2実施例では,歪地震動の検出に変位センサを利用する例を示したが,変位センサ17,18,19,21の代わりに,例えば,図8の例のように,変形量を変形量に対応する液体の体積変化に変換し,体積の大小25として測定する,第6実施例ような方法もある.図8では,変位量の検出部が側面から力受けると内部の容積が変化する.この容積の変化を体積変化として測定する.第6実施例は図8に示した模式図と類似であるためここでは図示しない.
【0040】
図9に地球環境調査計測辞典第1巻陸域編(P555)から引用した容量変化型変換器の概念図を示す.第2実施例では,歪地震動の検出に変位センサを利用する例を示したが,変位センサ17,18,19,22の代わりに,容量変化型変換器を利用する(センサー部では,図9で示すような手段を用いて変形量を測定する),第7実施例ような方法もある.第7実施例はセンサ部が異なるだけで第2実施例と類似であるためここでは図示しない.
【0041】
図10に地球環境調査計測辞典第1巻陸域編(P518)から引用した複合型地殻活動観測装置の概念図を示す.この観測装置に組み込まれたボアホール歪計のごとく容器内部に歪計を設け,建造物内部,好ましくは基礎部分内部に設置し,建造物の変形量を測定しても第1実施例から第7実施例と同様の結果が得られる.この例のごとく,歪計を容器に入れ,建造物内部に固定すれば,短周期の温度変化の影響を受けにくく,データの質が向上する.
【0042】
変位を直接測定する歪計の実施例を上記した(ただし、図8に示した例は別である).図10に示した複合型地殻活動観測装置に組み込まれた歪計の変位拡大装置の概念図を図11に示す.この例と同様に,変位をメカニカルに拡大する構成の歪計であれば,精度よく変位を検出でき,精度の高い歪解析ができ,歪計を小型にできる.
【0043】
演算手段による変形量から地震マグニチュードを予測する具体的処理については図12に基づいて説明する.この場合,本発明による歪計で測定した建造物の変形量に基づいて算出した,主歪方向が特定の方向を継続する,その継続時間と,地震マグニチュードとの関係式,又は,対応テーブルは予め準備されているとして説明する.地震時にP波が到来して地震による力の作用を受け,構造物が変形する場合に以下の順で演算処理を実行する.
1)S1で建造物の少なくとも3方向の変形量を測定する.
1)S2で測定した変形量を歪に変換する.
2)S3で3方向の歪の組み合わせから主歪方向を算出する.
3)S4で算出した主歪方向が誤差の範囲で特定の方向になるか判断する.
4)S5で主歪方向が誤差の範囲で特定の方向を継続している時間の長さを決める.
5)S6,S6’で予め準備した主歪方向が特定方向を継続する時間と地震マグニチュードの関係式,または,対応テーブルを読み出して,予測される地震マグニチュードの下限の値,または,地震マグニチュードを決める.
6)S7,S7’で地震マグニチュードに関わる情報を出力する.
7)その後,S1に戻って,次の地震マグニチュードの予測に備える.
上記の処理を継続しつつ,S5で主歪方向が特定の方向を継続しなくなった時点で継続時間を確定し,最終的な地震マグニチュードを決め,S7,S7’で,その情報を出力する.
【産業上の利用可能性】
【0044】
震源域で破壊が進行し断層運動が継続している時間は,その運動を反映した地震波が周辺に放出される.震源から離れた場所では,速度が速いP波と呼ばれる地震波が先に到着する.その震源方向からのP波の作用で建造物が変形するが,建造物はP波の進行方向,言い換えれば震源方向に揺れる.このため,地震時に得られる建造物の変形量より歪を求め,歪解析をすれば,主歪の方向は,一般には震源方向を向く.ただし,建造物の形状や立地条件により,建造物の最大の揺れがP波の進行方向になるとは限らない.また,変形量を測定する場所により,歪解析で得られた主歪方向が震源方向になるとは限らない.しかし,方向そのものには関係なく,この主歪方向が特定方向を維持する継続時間が求まれば良く,その継続時間が長くなれば,地震マグニチュードは大きくなるため,地震マグニチューの下限の判断は時々刻々とできる.
【0045】
上記の主歪方向は,地震による建造物の揺れが小さなP波の初動部分で算出することができ,地震災害の主原因となるS波の最大の揺れが到着する前に,地震マグニチュードが推定できる.地震マグニチュードが分かれば,到来するS波の振幅の大きさを推定することができる.したがって,主歪方向が特定方向を維持する時間の長さの情報は,来るべき地震のS波の最大の揺れの大きさを知る目安になるため,地震防災に取り極めて有益である.この情報は,個別のビル単位の小規模な防災システムから,複数の建物を含む工場単位,大きくは,新幹線のスピードダウンや,原子力発電所の緊急停止用の情報として利用できる.
【0046】
また,ソーラーバッテリー等を電源とする小規模な測定システムにし,鉄道や道路の沿線に設置すれば,その地点で,地震の揺れの大きさを事前に予測できる.この情報に基づいて,崖崩れ等の危険が高い場所へ列車や車が近づかないようにでき,地震時の災害を事前に防止できる.露出している岩盤内に歪計を取り付ければ,より精度よく地震マグニチュードを決められる.
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】 伸縮計の原理を示す図(日本の測地学外観より).
【図2】 変位センサーを用いる歪計の原理図.(横から見た図)
【図3】 平面上で3方向の変形量が測定できるように配置した歪計の模式図.(上方より見た図).
【図4】 図3の歪計に,更に,垂直方向の変形量が測定できるように配置した歪計の模式図.
【図5】 地球環境調査計測辞典から引用したマイケルソン干渉計の模式図.
【図6】 地球環境調査計測辞典から引用したフードバック型地震計の模式図.
【図7】 歪ゲージを用いる歪計の模式図.
【図8】 地球環境調査計測辞典から引用した坂田式三成分歪計の模式図.
【図9】 地球環境調査計測辞典から引用した,容量変化型変換器の模式図.
【図10】 地球環境調査計測辞典から引用した,複合型地殻活動観測装置の模式図.
【図11】 地球環境調査計測辞典から引用した,石井式ボアホール三成分歪計の変位拡大装置の模式図.
【図12】 地震時の建造物変形量から地震マグニチュードを決める演算処理を示すフローチャート.
【符号の説明】
【0048】
1,2,10,11,12,13,20 … 台
3 … 基礎部分
4,14,15,16,21 … 弾性体
5,17,18,19,22 … 変位センサー
6 … 圧力
24 … 歪ゲージ
【出願人】 【識別番号】592252027
【氏名又は名称】山内 常生
【出願日】 平成18年6月23日(2006.6.23)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−3071(P2008−3071A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−200006(P2006−200006)