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【発明の名称】 コンクリート建物の健全性判定方法
【発明者】 【氏名】金澤 健司

【要約】 【課題】コンクリート建物の健全時の固有振動数のデータが無くともその健全性を判定可能とする。また、将来のコンクリート建物の劣化を早期に予測可能とする。

【構成】風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測して(S1)、この常時微動の計測データから固有振動数の経時変化を求め(S5)、コンクリート建物の固有振動数の日変動の幅がコンクリート建物の内外温度差が増大するときに固有振動数の日変動の幅が小さくなる傾向にあるとき(S6−1)、コンクリート建物の固有振動数の日変動がコンクリート建物の外壁温度の変化と逆の関係の変動を起こすとき(S6−2)、コンクリート建物の内外温度差が大きな時刻における固有振動数が極小となる傾向にあるとき(S6−3)、あるいは外気温または日照量が極大となる時間帯に、固有振動数が極小となるとき(S6−4)のいずれかの指標に基づいて、コンクリート建物のコンクリート部分が非健全であるかを判定する(ステップ7,7−2)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測してこの常時微動の計測データから固有振動数の経時変化を求め、前記コンクリート建物の内外温度差が増大するときに前記固有振動数の日変動の幅が小さくなる傾向にあるときにはコンクリート建物に損傷有りと判定することを特徴とするコンクリート建物の健全性判定方法。
【請求項2】
風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測してこの常時微動の計測データから固有振動数の経時変化を求め、前記コンクリート建物の固有振動数の日変動が前記コンクリート建物の外壁温度の変化と逆の関係の変動を起こすときにはコンクリート建物に損傷有りと判定することを特徴とするコンクリート建物の健全性判定方法。
【請求項3】
風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測してこの常時微動の計測データから固有振動数の経時変化を求め、前記固有振動数と外気温または日照量の日変動を測定して、前記コンクリート建物の内外温度差が大きな時刻における前記固有振動数が極小となる傾向にあるときにはコンクリート建物に損傷有りと判定することを特徴とするコンクリート建物の健全性判定方法。
【請求項4】
風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測してこの常時微動の計測データから固有振動数の経時変化を求め、前記固有振動数と気温または日照量の日変動を測定して、外気温または日照量が極大となる時間帯に、前記固有振動数が極小となればコンクリート部分が非健全と判断するものであるコンクリート建物の健全性判定方法。
【請求項5】
前記コンクリート建物の各階毎にあるいは同じ階の異なる区画・部屋毎に建物内外温度差を順番に与えて前記常時微動を計測することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のコンクリート建物の健全性判定方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1つの方法において前記コンクリート建物の固有振動数と気温または日照量の日変動を連続的あるいは定期的に測定すると共に、前記コンクリート建物の固有振動数の日変動の幅の時系列的推移を求め、前記コンクリート建物の内外温度差に対する前記固有振動数の日変動の幅が減少傾向にあるときには、コンクリート建物の損傷もしくは将来的にコンクリート建物の損傷に至る可能性のある軽度な劣化のいずれかが進行しつつあることを診断するものであるコンクリート建物の健全性判定方法。
【請求項7】
前記コンクリート建物に与えられる表裏面間の温度差は、気温または日照などの自然現象により実現されるものである請求項1から6のいずれか1つに記載のコンクリート構造物の健全性判定方法。
【請求項8】
前記コンクリート建物に与えられるコンクリート建物の内外温度差は、人工熱源により強制的に加温あるいは冷却されることにより実現されるものである請求項1から6のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項9】
前記コンクリート建物に与えられるコンクリート建物の内外温度差は、コンクリート建物の内側を人工熱源により強制的に冷却しあるいは加温することにより、建物外部の気温または日照などの自然現象との間で実現されるものである請求項1から6のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項10】
前記人工熱源はコンクリート建物の室内の冷暖房装置である請求項8または9記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート建物の健全性判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の建物または鉄骨鉄筋コンクリート造の建物を構成している柱、梁、壁、床などのコンクリート構造部材の健全性を判定する方法がこれまで種々提案されている。コンクリート構造部材の健全性の判定方法としては、ひび割れの目視調査による方法が一般的であり、コンクリート構造部材の表面のひび割れの長さ、幅、発生パターンなどが判断情報とされる。
【0003】
そこで、鉄筋コンクリート構造物表面に生じているひび割れ状態を画像計測によって自動的に検出し、構造物の損傷度を診断する方法が提案されている(特許文献1)。また、ひずみを記憶できる線状のセンサもしくは歪みセンサを予めコンクリート構造部材に埋設しておき、センサのひずみを検出することによってコンクリート構造部材が経験したひずみを評価し、損傷度を診断する方法も提案されている(特許文献2、特許文献3)。また、光ファイバをセンサとして予めコンクリート構造部材に埋め込んでおき、その光ファイバからの出力を監視することでコンクリート構造部材の健全性を診断する方法が提案されている(特許文献4)。また、建物の常時微動を計測し、その計測記録に含まれる建物全体の振動成分のみを抽出することによって、建物の固有振動数や固有モードなどの振動特性を同定し、振動特性が建物の損傷前後で変化する現象を利用して、振動特性を長期的にモニタリングすることによって構造健全性を診断する方法も提案されている(特許文献5)。
【0004】
さらに、鉄筋コンクリート造の建物または構造部材の健全性を判定する方法としては、鉄筋量(鉄筋比)の適正量を確認することを目的として、電磁波やX線を用いてコンクリート内部を透視する方法も多用されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−35528号
【特許文献2】特開2005−337818号
【特許文献3】特開2005−337819号
【特許文献4】特開2005−257570号
【特許文献5】特開2003−322585号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ひび割れの目視調査による方法や特許文献1の診断方法では、コンクリート構造部材の表面が露出していなければ実施できない問題がある。即ち、コンクリート建物あるいは構造部材の場合、化粧材で覆う工法を採ることが多く、化粧材を剥がしてコンクリート構造部材の表面を露出させなければならずコストと時間を費やしてしまうことになる。
【0007】
また、特許文献2から4の技術はいずれも評価できるひずみはセンサが埋設された位置に限られてしまう。即ち、構造部材の損傷箇所とセンサを埋め込む位置が一致する必要があり、センサの埋め込み位置を事前に予想する必要がある上に、損傷発生箇所が事前の予想と外れるとセンサが機能しない問題がある。また、コンクリート構造部材に予めセンサを埋設させることにより成立する手法であるため、評価できるコンクリート構造部材はセンサが埋設された新設のものに限られ、既設のコンクリート構造部材には適用することができない。既設のコンクリート構造部材に適用する場合には、センサを埋設するために部分的に破壊するなど、損傷なく実施することはできない問題がある。
【0008】
しかも、実際のコンクリート建物では、全ての構造部材が均等に壊れるということはなく、損傷が入らない構造部材がほとんどであり、一部の部材に損傷が入るという壊れ方になる。しかしその場合にも、一部の構造部材で起こる損傷はコンクリート建物全体の固有振動数に影響を与える。したがって、建物全体として評価する場合には、損傷構造部材と健全構造部材とが混在し、さらに損傷構造部材も損傷度が構造部材によって違う、など不確定な要素が多いため、コンクリート構造部材毎の健全性を評価するだけではコンクリート建物全体の健全性を評価することはできない。
【0009】
また、特許文献5記載の診断方法は、損傷前後の振動特性の変化に基づいて建物の構造健全性を評価するため、損傷前の振動特性として建物の新築時の固有振動数のデータが必要であり、新築時(健全時)のデータが存在しない既設の建物には適用できない問題がある。しかも、新設時のコンクリート建物の固有振動数のデータが入手できたとしても、それが真に健全なコンクリート建物であるという保証はない。
【0010】
さらに、電磁波やX線を用いて非破壊で鉄筋を調査する方法においても、鉄筋の存在や配置を知ることはできても、鉄筋の付着などの構造力学的な性能を評価できないため、鉄筋の構造力学的な性能に左右されるコンクリート建物の健全性の評価あるいは健全性の低下などを評価することは困難である。
【0011】
そこで、本発明は、コンクリート建物の健全時の固有振動数のデータが無くともその健全性を判定することができるコンクリート建物の健全性判定方法を提供することも目的とする。さらに、本発明は、将来のコンクリート建物の劣化を早期に予測可能とするコンクリート建物の健全性評価方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明者等がコンクリート構造部材に不均一な温度分布となるような温度変化を与えたときの固有振動数の変化とコンクリート構造部材の健全性との関連について種々実験・研究を実施した結果、コンクリート部分が健全であるときに加温すると固有振動数が上がるか一定に推移し、損傷があるときに加温すると固有振動数が下がることを知見するに至った。
【0013】
コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与えると、コンクリート構造部材では圧縮応力と引っ張り応力が同時に発生するような温度応力が発生する。この温度応力によりコンクリート構造部材の主要な材料であるコンクリートのヤング係数が変化する。他方、コンクリート構造部材のもう一つの主要な材料である鉄筋のヤング係数は、コンクリートが損傷しない程度の温度変化であればほとんど変化しない。そして、ヤング係数はコンクリート構造部材の固有振動数を決める定数のひとつであるため、ヤング係数が変化すればコンクリート構造部材の固有振動数も変化する。
【0014】
温度応力分布は、鉄筋とコンクリートを含めた全てのコンクリート構造部材のものであり、鉄筋とコンクリートを合算したものである。つまり、全ての構造部材断面に発生した温度応力は、鉄筋とコンクリート部分で分配することになる。このことから、温度応力がコンクリート部分に大きく作用するほど、コンクリートの弾性係数(ヤング率)が大きくなり、コンクリート構造部材が堅くなり、固有振動数が増加する、というメカニズムが成り立っているものと考えられる。反対に、コンクリートに作用する応力が小さいと、部材の固有振動数の増加量は小さくなる。したがって、コンクリート建物のコンクリート部分にひび割れや剥落などが発生すれば、コンクリート部分で負担する温度応力が減少することにより、固有振動数が変化(低下する現象)を起こす。
【0015】
つまり、本発明者等の実験から得られた知見によれば、コンクリート構造部材のコンクリートの構造上の損傷と、コンクリート構造部材の温度変化が与えられた後の固有振動数の変動パターンとの間には、以下の(a)〜(c)の特徴がある。
(a)コンクリート部分が健全である場合には、加温後の固有振動数が増加する。
(b)コンクリート部分が健全である場合に限れば、加温後の固有振動数の増加率は鉄筋比が小さいほど大きくなる。
(c)コンクリート部分が健全でない場合には、加温後の固有振動数は減少する。
【0016】
ここで、固有振動数の変動要因としては、以下の(H1)〜(H3)の3つが考えられる。
(H1)不均一に加温して温度応力が生じることによる固有振動数の増加
(H2)『加温による材料軟化』による固有振動数の微減
(H3)加温でコンクリートのひび割れが開くことによる固有振動数の減少
このうち、(H1)と(H3)に比べて、(H2)は無視できるほど小さく、さらに、(H3)は(H1)よりも変化量として大きい。そこで、不均一な温度上昇の因子を入れて(H1)の効果を入れることで、コンクリート建物の損傷が固有振動数の日変動の幅即ち減少傾向に大きく影響を与え、コンクリート建物の健全性を評価・判定することを可能とする。
【0017】
そこで、部材断面内で不均一な温度分布となるように温度変化をコンクリート構造部材に与えたときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化を測定すれば、「固有振動数が少し上がる」若しくは「一定に推移する」、「たくさん(過度に)上がる」、「下がる」といった定性的な現象からコンクリートの損傷状態を推定することができ、
【0018】
つまり、外気温や日照によりコンクリート建物の外壁面と内壁面との間に温度差が生じると、健全な鉄筋コンクリート建物の場合には内外温度差の上昇と共に固有振動数が上昇するが、これとは対照的に、コンクリート部分に損傷がある場合には内外温度差の上昇と共に固有振動数が低下するという現象、換言すれば、コンクリート建物が健全なときには、内外温度差が極大となるときに固有振動数も極大となって、コンクリート建物の損傷時には、内外温度差が極大となるときに固有振動数が極小となる現象を招いている。
【0019】
そこで、コンクリート建物の常時微動から固有振動数の変動を求めると共に気温または日照量の日変動を測定して、コンクリート建物の内外温度差が大きな時刻における固有振動数が極小となる傾向にあるとき、あるいは固有振動数と気温または日照量の日変動を測定して、気温または日照量が極大となる時間帯に、固有振動数が極小となれば、コンクリート建物に損傷有りと判定することができる。
【0020】
本発明者は、上述のコンクリート部分に損傷がある場合には固有振動数が低下するという現象を建物全体に応用することでコンクリート建物全体の健全性を評価できることを知見したものである。つまり、建物全体の剛性は、個々の部材の剛性から決まるので、全ての部材が健全であるとき、温度が極大となるときには全ての部材の剛性も極大となり、その結果(総和)として建物全体の剛性も極大となる。これとは逆の極端な例として、全ての部材が損傷しているときには、温度が極大となるときに全ての部材の剛性が極小となり、その結果(総和)として建物全体の剛性も極小となる。
【0021】
実際の建物では、全ての部材が均等に壊れるということはなく、損傷が入らない部材がほとんどであり、一部の部材に損傷が入るという壊れ方を起こす。しかしその場合も、図8(C)、(D)の鉄筋コンクリート部材の試験結果を見ると、健全時の固有振動数の増加量よりも、損傷時の減少量の方がはるかに大きく、損傷した部材の方が健全な部材よりも建物全体の固有振動数への影響が大きくなることは容易に理解できる。この損傷部材の影響度の大きさを考慮すると、損傷部材の数が少ない場合にも、建物全体の固有振動数が損傷部材の影響を受けて変動すると考えられる。
【0022】
他方、コンクリート建物における固有振動数の測定は困難である。打撃によりコンクリート建物自体を損傷させては元も子もなく、損傷の虞のない程度の打撃では建物の揺れが小さすぎて振動波形を記録するのも困難である。また、建物全体を対象としたときは、建物全体に温度差を与えるのも困難である。
【0023】
そこで、本発明者等は、常時微動を使うことによりコンクリート建物全体の温度変化に伴う固有振動数の日変動を求め、さらに気温や日照を利用することでコンクリート建物全体に建物内外の温度差を与えるようにすることにより、上述の現象を実現することを可能とした。
【0024】
即ち、請求項1記載の発明にかかるコンクリート建物の健全性判定方法は、上述の知見に基づくものであって、風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測してこのこの常時微動の計測データから固有振動数の経時変化を求め、コンクリート建物の内外温度差が増大するときにコンクリート建物の固有振動数の日変動の幅が小さくなる傾向にあるときにはコンクリート建物に損傷有りと判定するものである。
【0025】
また、請求項2記載の発明にかかるコンクリート建物の健全性判定方法は、風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測してこの常時微動の計測データから固有振動数の経時変化を求め、コンクリート建物の固有振動数の日変動がコンクリート建物の外壁温度の変化と逆の関係の変動を起こすときにはコンクリート建物に損傷有りと判定するものである。
【0026】
また、請求項3記載の発明にかかるコンクリート建物の健全性判定方法は、風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測してこの常時微動の計測データから固有振動数の経時変化を求め、固有振動数と気温または日照量の日変動を測定して、コンクリート建物の内外温度差が大きな時刻における固有振動数が極小となる傾向にあるときにはコンクリート建物に損傷有りと判定するものである。
【0027】
また、請求項4記載の発明にかかるコンクリート建物の健全性判定方法は、風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測してこの常時微動の計測データから固有振動数の経時変化を求め、固有振動数と気温または日照量の日変動を測定して、気温または日照量が極大となる時間帯に、固有振動数が極小となればコンクリート部分が非健全と判断するものである。
【0028】
また、請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1つに記載のコンクリート建物の健全性判定方法において、コンクリート建物の各階毎にあるいは同じ階の異なる区画・部屋毎に建物内外温度差を順番に与えて常時微動を計測することを特徴とするものである。
【0029】
また、請求項6記載の発明にかかるコンクリート建物の健全性判定方法は、コンクリート建物の固有振動数と気温または日照量の日変動を連続的あるいは定期的に測定して、コンクリート建物の固有振動数の日変動の幅の時系列的推移を求め、コンクリート建物の内外温度差に対する固有振動数の日変動の幅が減少傾向にあるときには、コンクリート建物の損傷もしくは将来的にコンクリート建物の損傷に至る可能性のある軽度な劣化のいずれかが進行しつつあることを診断するものである。
【0030】
ここで、本発明にかかるコンクリート建物の健全性判定方法において、コンクリート建物に与えられるコンクリート建物の内外温度差は、気温または日照などの自然現象により実現されるものであっても良いし、人工熱源により強制的に加温あるいは冷却されることにより実現されるようにしても良い。さらには、コンクリート建物の内側を人工熱源により強制的に冷却しあるいは加温することにより、建物外部の気温または日照などの自然現象との間でコンクリート建物の内外温度差が実現されるようにしても良い。また、人工熱源としては、コンクリート建物の室内の冷暖房装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のコンクリート建物の健全性判定方法によれば、最も健全であったと仮定できる新築時のコンクリート建物の固有振動数のデータが無くとも、即ち建設時から相当年数経ているコンクリート建物であっても、その健全性を判定することができる。しかも、表面に現れない構造内部の欠陥を含めてコンクリート建物全体の健全性を判定することができる。また、各階毎にあるいは同じ階の異なる区画・部屋毎に建物の温度差を与えることにより、各階毎の健全性の判定あるいは同じ階の異なる区画・部屋毎の健全性の判定を行うこともできる。
【0032】
また、本発明のコンクリート建物の健全性判定方法によれば、コンクリート建物の損傷しそうな箇所を予測してその部分にひずみを検出するためのセンサなどを埋設しておかなくても、つまり、評価対象となるコンクリート構造部材(例えば、柱)のどこに損傷が発生するのか未知であったとしても、建物の損傷の発生の有無を検出することができる。しかも、コンクリート構造部材の損傷にとどまらず、建物全体の損傷の有無を検出することができる。
【0033】
さらに、本発明のコンクリート建物の健全性判定方法によれば、コンクリート建物の常時微動と外気温や日照などの1日を周期として変動する熱源とを利用すると共に、常時微動から求まるコンクリート建物の固有振動数の日変動と建物内外温度差とから、コンクリート建物全体の健全性を簡単に評価できると共に装置規模や仕掛けが簡略なもので足りる。
【0034】
さらに、本発明は、健全性評価を連続的あるいは定期的に実施して、外気温または日照量の日変動あるいはコンクリート建物の内外温度差の日変動に伴う固有振動数の日変動のの時系列的推移の傾向からコンクリート損傷の進行状況を診断するようにしているので、現段階で健全であると評価されるコンクリート建物の劣化の進行状況と将来のコンクリート損傷を致命的な損傷に至る前に早期に予測することができる。したがって、例えば、最低限の日変動幅を予め求めておけば、定期に健全性判定を実施している時に、次の定期点検時には最低限度を超える可能性が高く、何らかの措置を講じるべきである、といった判断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0036】
図1〜図4に本発明のコンクリート建物の健全性判定方法の実施形態の一例を示す。本実施形態のコンクリート建物の健全性判定方法は、風力や交通振動等により励起されるコンクリート建物の常時微動を計測してこの常時微動の計測データからコンクリート建物の固有振動数の経時変化(日変動)を求めると共にコンクリート建物に与えられる温度変化を測定し、この固有振動数の経時変化とコンクリート建物に与えられる温度変化との関係からコンクリート建物の健全性を評価しようとするものである。つまり、コンクリート建物の内外温度差が増大するときに固有振動数の日変動の幅が小さくなる傾向にあること、またはコンクリート建物の固有振動数の日変動がコンクリート建物の外壁温度の変化と逆の関係の変動を起こすこと、またはコンクリート建物の内外温度差が大きな時刻における固有振動数が極小となる傾向にあること、あるいは気温または日照量が極大となる時間帯に固有振動数が極小となることなどを指標としてコンクリート部分が非健全と判断するものである。
【0037】
ここで、コンクリート建物の固有振動数は、振動センサなどで検出されるコンクリート建物の常時微動から求める。建物は地震や強風を受けない通常の状態であっても交通振動や風力、波浪、地球深部の振動等さらには内部で動く人間の動き等を振動源として人体には感じられないほど非常に小さな振幅で常に振動していることが判っている。本明細書ではこのような微小な振動のことを「常時微動」と呼ぶ。この常時微動からコンクリート建物の固有振動数を求める手法としては、例えば本発明者が特開2003−322585号において示している手法によって行う。なお、コンクリート建物の常時微動を計測する加速度センサ31は、図1に示すように、建物上の任意の位置例えば本実施形態の場合には建物の中程の階と最上階とに複数設置し、それらの記録に基づいて一定間隔毎例えば15分毎の固有振動数の経時データを計算するようにしている。また、コンクリート建物30の温度変化を測定する温度センサ32は、建物の任意の位置例えば最下階の柱の室内側の壁面及び室外側の壁面のそれぞれに設置して、建物内外の温度の経時データを得るようにしている。
【0038】
そして、図2に示すように、建物の常時微動記録を建物上の任意の位置に設置した複数の加速度センサ(振動センサ等)で計測し(ステップ1)、その計測記録から例えばARMAMAモデル(Autoregressive Moving-Average and Moving-Average model)によるスペクトル解析法を用いることにより(ステップ2)、基準信号と複数個の参照信号の間のクロススペクトルならびに基準信号に関するパワースペクトル(単点の計測データの特性を表す周波数軸の関数)を算定する(ステップ3)。次に、それらスペクトルの計算結果から振動特性の同定法を用い(ステップ4)、固有振動数を求める(ステップ5)。固有振動数を図示していない記録手段に記録し、建物全体の健全性の良否の判定に備える。そして、「コンクリート建物の内外温度差が増大するときに固有振動数の日変動の幅が小さくなる傾向にあるか否か」(ステップ6−1)、「コンクリート建物の固有振動数の日変動がコンクリート建物の外壁温度の変化と逆の関係の変動を起こすか否か」(ステップ6−2)、「コンクリート建物の内外温度差が大きな時刻における固有振動数が極小となる傾向にあるか否か」(ステップ6−3)あるいは「外気温または日照量が極大となる時間帯に、固有振動数が極小となるか否か」(ステップ6−4)のいずれかの指標に基づいて、コンクリート建物に損傷が有るか否か、換言すればコンクリート建物のコンクリート部分が非健全であるかを判定する(ステップ7−1,7−2)。
【0039】
コンクリート建物30は、日照を受けて外壁面部分の温度が上昇すると、その部分が熱膨張して伸びようとする。その一方で、コンクリート建物の内壁面は外壁面の熱が伝達され難いため、あるいは仮に熱が伝達されてもコンクリート建物30の外壁面よりも温度の上昇幅が小さいため、コンクリート建物の内壁面は熱膨張しないか、あるいはほとんど熱膨張しない。このようなコンクリート建物30の外壁面部分と内壁面部分との間の熱膨張の違いにより、コンクリート建物30には図7に示すように圧縮応力と引っ張り応力が発生する。これらの応力の発生によってコンクリート建物30のコンクリート部分のヤング係数が変化する。ヤング係数はコンクリート建物30の固有振動数を決める定数の一つであるため、ヤング係数が変化すればコンクリート建物30の固有振動数も変化する。
【0040】
ここで、振動センサ31により計測された建物30の常時微動記録からは、ARMAMAモデルを用いて常時微動記録の中の任意のひとつの基準信号と残りの参照信号とのクロススペクトルが求められ、これら基準信号および参照信号の相関成分と無相関部分とが分離されて建物全体の振動成分のみが抽出される。つまり、建物30上の複数位置に振動センサ31を配置することにより計測された常時微動記録の中で、任意のひとつの記録が基準信号、残りの記録が参照信号とされる。そして、同じ建物30中の異なる個所における時刻歴波形(横軸は時間t、縦軸は振動)を掛け合わせることによって両波形のうちの共通する成分のみが波形として示されたクロススペクトルが得られるので、基準信号と参照信号の間のクロススペクトルをARMAMAモデルを用いた方法を用いて推定することにより、2つの信号に共通に含まれる振動成分の中で基準信号を原因、参照信号を結果とする因果律を満たすものが抽出される。このため、観測波形に特有の振動成分が含まれる場合にもこれらを除去して複数の観測波形に共通する成分のみを抽出できる。この抽出された振動成分より、基礎部分を含めた建物の振動特性が同定される。したがって、この建物に与えられる温度変化に伴う建物の固有振動数の日変動の挙動から、コンクリート部分のひび割れなどに起因するヤング係数の変化、ひいては建物30の固有振動数の低下を検出してコンクリート建物30の健全性即ちコンクリート部分の構造上の損傷を判定することができる。
【0041】
さらに、本発明は、健全時のデータを確保しておく必要がないことに特徴を有しているものの、日常的にあるいは定期的にデータを蓄積することにより、コンクリート建物の固有振動数の日変動の経時的推移から、現在の建物の劣化の状況並びにコンクリートの損傷もしくは将来的に建物の損傷に至る可能性のある鉄筋の構造性能の軽度な劣化のいずれかが進行しつつあることを診断する将来の損傷あるいはに至る時期の予測を致命的な損傷が発生する以前に早期に行うことができる。
【0042】
即ち、コンクリート構造部材のコンクリート並びに鉄筋の構造性能の状況は、建物の内外温度差あるいは外壁温度などと固有振動数の日変動量との関係として定量的に把握できることから、常時微動並びに建物の内外温度差の測定を定期的にあるいは連続的に実施して固有振動数の日変動の経年的変化を分析することで、将来におけるコンクリート建物の劣化を致命的な損傷が発生する以前に早期に予測することができる。
【0043】
例えば、本発明の試験を定期点検として新築直後から何度か実施した結果、図5に示すように固有振動数の日変動率が経年的に低下しているデータが得られたときには、コンクリート部材のひび割れなどが進行していると診断できる。即ち、経年的に固有振動数の日変動率が減少しているデータが得られたときには、現段階ではコンクリートに損傷はないが、構造上の軽微な劣化が進行しており、いずれはコンクリートに損傷が発生する恐れがあると判断できる。そして、コンクリート建物に致命的な損傷が発生したときの内外温度差に対する固有振動数の日変動の変化量の値を予め設定しておけば、現段階でコンクリートの構造性能に損傷が見られないと評価されるコンクリート建物においても、将来の劣化の進行を致命的な損傷が発生する前に予測することができる。その反面、固有振動数の日変動率の時系列的推移が一定に推移する場合には、コンクリートと鉄筋に構造上の損傷ないし劣化が存在しておらず、かつ進展していないと診断できる。
【0044】
以上のようにして、コンクリート建物の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して固有振動数の日変動率のデータを蓄積すれば、現段階におけるコンクリート建物の健全性の判定と、日変動率の時系列的推移が一定に推移するかあるいは減少傾向にあるかによって、現段階でコンクリートの構造性能に損傷が見られないと評価されるコンクリート建物の劣化の将来における進行を致命的な損傷が発生する前に予測することができる。
【0045】
ここで、ARMAMAモデルよるスペクトル解析法(第一の方法)について以下に説明する。建物の健全性診断法における解法モデルとしては、一般的にARMAモデル(Autoregressive Moving-Average model)が用いられている。このARMAモデルは、例えば数式1に示すように、右辺第1項であるAR(Autoregressive)項と第2項であるMA(Moving-Average)項の和として表現されるモデルで、各項の係数(この場合、a1(k)、b1(k))に重み付けをして振動特性を表すスペクトルを得ようとするもので、このARMAモデルによればホワイトノイズをMA項中でe(t-k)として表すことにより過去の値を参照することが可能となっている。これにより、クロススペクトルの形状を推定してこの推定結果から振動特性を同定するような診断法が行われている。
【数1】


【0046】
このARMAモデルによりコンクリート建物の振動特性を得ようとする場合、1階部分の応答を数式1のようなモデルで表し、屋上部分の応答を数式2のようなモデルで表し、これら各モデルにホワイトノイズをインプットとして入力し、各アウトプット(x1(t)、xR(t))を求めることによって振動特性を同定することが可能である。この場合、数式1と数式2とにおけるインプット(この場合はe(t-k)が該当)は互いに等しいものと仮定されて入力されるので振動特性が抽出しやすいという利点がある。
【数2】


【0047】
ところが、実際の建物の揺れは仮定通りの単純なものとはならず、また振動には建物全体に共通する振動成分だけでなく、床および梁等の構造部材の振動成分や建物内部に設置された稼動機械による振動成分等の局所的な振動成分が含まれる場合が一般的である。このため振動特性を同定する場合、常時微動による影響を考慮し、コンクリート建物の局所振動に関するノイズ成分を取り除かないと精度が劣化する。しかしながら、数式1あるいは数式2として示した従来のARMAモデルによるとこのような局所的振動を本来の振動成分から分離できないという問題がある。
【0048】
すなわち、従来のARMAモデルでは、いずれの式においてもインプットを等しいと仮定して入力していることから、ある特定の場所に全く異なる振動源があるような場合(例えばコンクリート建物において屋上に室外機が設置されているような場合)、これに起因する振動(常時微動)を計測データから分離することができない。このため、1階部分と屋上部分とで共通することのない無相関成分(つまり局所的なノイズ成分)を除去することができない。
【0049】
そこで、ARMAモデルにMA項すなわち移動平均項を付加することにより、局所的信号成分が加味された振動特性を得られるようにすることを考えた。これを上述した数式1、数式2に対応するモデルとして表せば、下記の数式3、数式4のようになる。
【数3】


【数4】


このARMAMAモデルを用いた場合、各式(数式3と数式4)に共通する信号(この場合、ホワイトノイズe(t-k)が該当)が入力されることに加え、新しく追加されたMA項にはそれぞれ別の信号(この場合、eR(t-k)とe1(t-k))が入力されることにより局所的信号成分が加味された振動特性が得られる。そして、得られた振動特性からクロススペクトル(複数の計測データの相関性に関する周波数軸の関数)を得ることにより建物の局所振動に関するノイズ成分が抽出されること、つまり、ARMAモデルとは異なり複数の時系列波形の相関成分と無相関成分を分離し、これにより観測波形に特有の振動成分が含まれる場合にもこれらを除去して複数の観測波形に共通する成分が抽出される。
【0050】
つまり、ARMAMAモデルは、建物上で計測された常時微動記録の中で、2つの時系列信号をx(t)、y(t)として、数式5、数式6として表される。
【数5】


【数6】


ここで、e(t)、ex(t)およびey(t)は互いに無相関な定常ホワイトノイズ、Ax(z-1)、Ay(z-1)、Cx(z-1)およびCy(z-1)はAR(Autoregressive)演算子、Bx(z-1)、By(z-1)、Dx(z-1)およびDy(z-1)はMA(Moving-Average)演算子、z-1は遅延演算子である。AR演算子とMA演算子はz-1に関する多項式であり、例えばAx(z-1)、Ay(z-1)、Cx(z-1)およびCy(z-1)については数式7、数式8で表される。
【数7】


【数8】


ここで、ax(j)、ay(j)、cx(j)およびcy(j)はAR係数、nおよびmはAR次数である。ax(j)、ay(j)およびcx(j)は、次式の拡張Yule-Walker方程式を満たす。
【数9】


【数10】


【数11】


ここで、Rxy(τ)はx(t)とy(t)の相互相関関数、Rxx(τ)はx(t)の自己相関関数であり、Rxy(τ)とRxx(τ)の推定値が与えられれば、数式9、数式10および数式11よりax(j)、ay(j)およびcx(j)を決定できる。
【0051】
数式5と数式6で示されるx(t)とy(t)に関するクロススペクトルSxy(z-1)は、次の数式12で表される。
【数12】


一方で、x(t)のみに関するパワースペクトルSxx(z-1)は、次の数式13で表される。
【数13】


数式12の右辺ならびに数式13の右辺第1項は、時系列信号x(t)とy(t)に共通する振動成分を示し、数式13の右辺第2項は時系列信号x(t)にのみ含まれる局所的な振動成分を示す。したがって、数式12の右辺ならびに数式13の右辺第1項を用いることにより、局所的な振動成分を除去して建物全体に共通する振動成分のみを抽出できる。
【0052】
数式12の右辺ならびに式13の右辺第1項の分母に着目してAx(z)=0、Ay(z-1)=0を満たす解をそれぞれz=-zxj、z=zyj(j=1〜n)とすると、数式12と数式13は次式で表示できる。
【数14】


【数15】


ここで、zxjおよびzyjはSxx(z-1)の極と呼ばれる複素数であり、それらに対応するβxyjおよびγxyj、βxxjおよびγxxjは留数である。標準z変換に基づき、数式14においてz=exp(iωΔ) (i;虚数単位、Δ;時間刻み)とすれば、円振動数ωの関数としてクロススペクトルが得られる。
【0053】
次に、建物上の複数の観測時系列からその振動モードを同定する場合には、まず、数式14においてx(t)を基準信号としてひとつの観測時系列に固定し、y(t)を参照信号として複数個の観測時系列を順に選択することにより複数個のクロススペクトルを推定する。数式14において、( )内の第1項は参照信号y(t)を原因、基準信号x(t)を結果とする因果律を満たすものであり、第2項は基準信号x(t)を原因、参照信号y(t)を結果とする因果律を満たすものである。したがって、基準信号x(t)を固定して複数のクロススペクトルを算定している場合には、数式14の( )内の第2項を用いて基礎部分を含む建物の振動特性を計算できる。すなわち、基礎部分を含む建物のj次固有振動数fjとj次固有モード(j次固有ベクトル)φjは次式により計算できる。
【数16】


【数17】


また、πは円周率、γxkjは参照信号を計測点kとしたときのクロススペクトルによるγxyjの値であり、Tは転置記号を示す。j次固有振動数fjとj次固有モードφjとを示す数式16および数式17は、基準信号x(t)を原因、参照信号y(t)を結果とする因果律から導かれているため、建物に作用する外力とは無関係に成り立つ。よって、建物の常時微動記録のように複数の外力により建物の振動が励起されている場合であっても、固有振動数や固有モード等の振動特性を精度良く計算できる。
【0054】
したがって、建物上の複数位置に配置された振動センサによって計測された常時微動記録の中の任意のひとつの記録を基準信号、残りの記録を参照信号として、同じ建物中の異なる個所における時刻歴波形(横軸は時間t、縦軸は振動)を掛け合わせることによって両波形のうちの共通する成分のみが波形として示されたクロススペクトルを得、このクロススペクトルをARMAMAモデルを用いた方法を用いて推定することにより、2つの信号に共通に含まれる振動成分の中で基準信号を原因、参照信号を結果とする因果律を満たすものを抽出することができる。このため、観測波形に特有の振動成分が含まれる場合にもこれらを除去して複数の観測波形に共通する成分のみを抽出できる。この抽出された振動成分より、基礎部分を含めた建物の振動特性が同定される。
【0055】
また、コンクリート建物を対象とした温度変化の付与は、比較的小規模なコンクリート構造部材とは異なって困難である。そこで、本発明者等は外気温や日照などの1日を周期として変動する自然の熱源を利用して建物全体の固有振動数を求め、その固有振動数の経時変化のパターンに基づいて建物全体の損傷の有無を診断する方法を考えた。即ち、コンクリート建物への温度変化の与え方は、少なくとも外壁面と内壁面との間で温度差が(コンクリート構造部材の断面内の温度分布が不均一になるように)与えられるものであれば良く、熱源の種類や加温手法ないし冷却手法に特に限定されるものではないが建物全体に温度差を与えるため、気温または日照などの自然現象の利用が好ましい。勿論、人工熱源により強制的に加温ないし冷却されることを排除するものではなく、人工熱源だけで温度変化を与えることを実現しても良いし、自然現象との併用で実現するようにしても良い。
【0056】
例えば、人工熱源により強制的に加温あるいは冷却を行って建物の内外で温度差を与える場合には、人工熱源で外壁面を加温あるいは冷却するようにしても良いが、好ましくは内壁面を人工熱源で加温あるいは冷却することであり、より好ましくは外壁面を日照あるいは外気温で上昇させる、あるいは夜間のように外気温の低下により外壁面温度を低下させる一方、建物内部では人工熱源により強制的に冷却しあるいは加温することにより制御された温度分布を与えることで不均一な温度変化を実現することである。さらに、人工熱源としては、コンクリート構造部材に直接貼り付けられたヒータや、冷暖房装置であることが好ましい。ラバーヒーター5の代わりに例えばパネルヒーターまたはハロゲンヒーター、ストーブ等の放射熱を熱源とする暖房装置あるいはボイラーや煙突からの熱をコンクリート構造部材1の表面に近接させて加温するようにしても良い。コンクリート構造部材の一面のみをヒータなどの人工的熱源あるいは自然熱源で加温する場合が最も温度差が大きく不均一になるので好ましい。
【0057】
ここで、鉄筋が入っていないコンクリートは、表面温度差が20℃を超えると、ひび割れが入る可能性があるといわれていることから、コンクリート構造部材に与えられる温度変化によって生じる最大温度差例えば表裏面間の温度差は少なくとも20℃以下であることが望ましい。他方、温度差が5℃程度では固有振動数の変化が小さく不適当であると思われる。そこで、コンクリート構造部材1の部材断面内に不均一な温度分布が生じるような温度変化によって生ずる表面温度差は、10℃〜15℃、好ましくは10℃程度である。通常、実際に使用されている建物の内外壁面間での温度差は通常10℃程度にあるので、好ましい温度差であるといえる。
【実施例1】
【0058】
コンクリート建物を構成する構造部材の表裏面間に温度差を与える温度変化が与えられたときの固有振動数の経時変化を求める実験を行った。試験用コンクリート構造部材20として、鉄筋の入っていない無筋コンクリートと、健全な鉄筋コンクリート並びに鉄筋は入っているが、故意に損傷が与えられている損傷コンクリートとの3種類のコンクリート柱(以下、試験柱と呼ぶ)を用意した。ちなみに、損傷試験柱は、鉄筋試験柱の側方から手押しの油圧ジャッキで最大耐力に達するまで載荷して損傷を与えた。また、試験柱20のサイズは、10×10×56cmの柱状物である。そして、この3種類の同じサイズの試験柱に対して図6に示す健全性判定装置4を用いて固有振動数の経時変化をモニタリングする実験を行った。なお、この実験で使用される鉄筋コンクリート柱は四隅に直径1cmの鉄筋がかぶり厚(柱の外表面から至近の鉄筋の表面までの距離)10mmで入れられたものであり、鉄筋比は3.2%である。3本の試験柱はいずれも同じ条件下で同じような状態で床3に立てられており、且つ、各柱に対して健全性判定装置4が同じようにセットされる。
【0059】
ここで、健全性判定装置4は、試験柱20の表面を加温するラバーヒーター5と、試験柱20を打撃して試験柱20に自由振動を生じさせる自由振動発生装置9と、試験柱20の自由振動を検出する振動センサ10と、この振動センサ10で得られた振動波形から固有振動数を算出するとともにその算出結果を時系列に沿って記録する振動分析装置11とを備えている。なお、図中の符号6は一対の支柱、7は回動軸、8は自由落下により回転して試験柱を打撃するハンマーである。
【0060】
自由振動発生装置9のハンマー8は2分間隔でモーター(図示省略)の駆動力によって作動し、試験柱20に損傷を与えることのない軽い力で打撃を与える。振動センサ10はハンマー8による打撃が行われる毎に試験柱20で生じる自由振動を検出し、その検出結果を示す信号を振動分析装置11に出力する。2分間隔で打撃することで、固有振動数の経時変化のパターン(プロフィール)を得るようにしている。振動分析装置11は、予め定められた制御プログラムに基づいて作動する例えばCPUからなる制御部11aと、データを記憶するためのメモリ11bとを備えている。制御部11aは振動センサ10から入力された検出結果即ち自由振動波形を加速度の時系列データとしてメモリ11bに記録する。制御部11aは自由振動波形から繰り返し周期を読み取り、その周期の逆数を算出し、その算出結果を固有振動数としてメモリ11bに時系列に沿って記録するとともに、振動分析装置11に接続されている表示装置12に固有振動数の経時変化の態様を表示する。なお、表示装置12の画面を通して固有振動数の経時変化をモニタリングできるようにした。さらに、試験柱20のラバーヒーター5の設置面に温度計21、試験柱の裏面に温度計22を設置し、加えて試験柱20のラバーヒーター5の設置面寄りの内部に温度計23、試験柱20の裏面寄りの内部に温度計24を埋め込んだ。
【0061】
実験は室内温度25℃で一定とし、ラバーヒーター5による2時間の加温を1回の場合と、6時間サイクルで4回繰り返す場合とを実施した。ここで、ラバーヒーター5の熱量は、加温開始から2時間後に内外温度差(試験柱の表面温度と裏面温度との差)つまり温度計21で測られる温度と温度計22で測られる温度との差が10℃になるように調整した。具体的には、加温開始から2時間後にヒータで加温された表面温度が45℃、加温されていない裏面温度が35℃に達するように調整した。
【0062】
実験結果を図8に示す。図8(a)は温度計21〜24で測られる温度の経時変化を示すグラフである。図8(a)において、最も上に位置するグラフが温度計21で測られた温度の経時変化を示すものであり、その1つ下に位置するグラフが温度計23で測られた温度の経時変化を示すものであり、さらにその1つ下に位置するグラフが温度計24で測られた温度の経時変化を示すものであり、最も下に位置するグラフが温度計22で測られた温度の経時変化を示すものである。各グラフの横軸の材齢は各試験柱を打設してからの日数で示されている。
【0063】
図8(b)〜図8(d)に示すそれぞれのグラフから、コンクリート部分が健全であるときに加温すると固有振動数が上がるかほぼ一定に推移し、損傷があるときに加温すると固有振動数が下がることが示唆された。これにより、固有振動数が増加しているか、減少しているかで、健全な鉄筋コンクリート柱とコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱とを識別することができる。
【0064】
因みに本実験では、ラバーヒーター5による加温を6時間サイクルで4回繰り返して実施したが、加温を実施する都度同様の固有振動数の経時変化のパターンを得ることができた。したがって、固有振動数の経時変化のパターンには再現性があることが確認できた。
【実施例2】
【0065】
上述の実施例1で明らかにされた温度変化と固有振動数との関係、即ちコンクリート構造部材が健全な状態で表裏面の温度差が極大となるときには固有振動数も極大となり、損傷している状態では表裏面の温度差が極大となるときには固有振動数が極小となるという現象を、建物全体に応用することでコンクリート建物全体の健全性を評価できることを実際のコンクリート建物で確認した。つまり、本発明のコンクリート建物の健全性の判定方法の有用性を検証するために本発明者は、図1に示すように鉄骨鉄筋コンクリート造10階の建物30において、風力や交通振動等により励起される建物の常時微動を計測し、その計測記録に含まれる建物30全体の振動成分のみを抽出することによって建物30の固有振動数を得て、その固有振動数の経時変化をモニタリングする実験を行った。
【0066】
実験は、千葉県我孫子市我孫子1646番地所在の財団法人電力中央研究所地球工学研究所本館棟(鉄骨鉄筋コンクリート造10階、築35年)を対象に、2004年6月27日〜同年7月24日の夏期のほぼ1ヶ月間にわたって行った。なお、建物を損傷させることはできないので、損傷のない建物に対して上述の現象が成立することを確認することで、本発明を確認することとした。
【0067】
図1に示すように、建物30の屋上と中間部分にはそれぞれ加速度センサ31を設置し、それらの記録に基づいて15分毎の固有振動数の経時データを計算した。また、建物の最下階の柱の室内側の壁面及び室外側の壁面のそれぞれに温度計32を設置して、建物内外の温度の経時データも得た。実験は、外気温や日照などの1日を周期として変動する自然の熱源を利用して建物に対して温度変化を与えながら建物全体の固有振動数を求め、その固有振動数の経時変化のパターンに基づいて建物全体の損傷の有無を診断することとした。
【0068】
常時微動の計測データからの固有振動数の同定法には、前述のARMAMAモデルによる振動モード同定法を用いた。このARMAMAモデルによる振動モード同定法は、加速度センサ31により計測された建物の常時微動記録の中の任意のひとつの基準信号と残りの参照信号とのクロススペクトルを求め、基準信号及び参照信号の相関成分と無相関部分とを分離して建物全体の振動成分のみを抽出して建物の固有振動数を同定するものである。ここでは、建物上の複数位置に加速度センサを配置することにより計測された常時微動記録の中で、任意のひとつの記録が基準信号、残りの記録が参照信号とされる。そして、同じ建物30中の異なる箇所における時刻歴波形(横軸は時間、縦軸は振動)を掛け合わせることによって両波形のうちの共通する成分のみが波形として示されたクロススペクトルが得られるので、基準信号と参照信号の間のクロススペクトルをARMAMAモデルを用いた方法で推定することにより、2つの信号に共通に含まれる振動成分の中で基準信号を原因、参照信号を結果とする因果律を満たすものが抽出される。このため、観測波形に特有の振動成分が含まれる場合にもこれらを除去して複数の観測波形に共通する成分のみを抽出できる。この抽出された振動成分より、基礎部分を含めた建物30の振動特性が同定される。
【0069】
この結果を図3並びに図4に示す。図3は固有振動数の経時変化を示すグラフであり、縦軸は固有振動数、横軸は日付を示している。図4は建物30の内壁面の温度(細線で示す)及び外壁面の温度(太線で示す)の経時変化を示すグラフであり、縦軸は温度、横軸は日付を示している。図3と図4とを比較すると、建物の固有振動数の経時変化には1日を周期とする日変動が認められ、建物の内外温度差と連動していることが分かる。また、建物の内外温度差が大きくなる時刻に固有振動数が極大となる傾向が認められるので、ここで対象としている建物については構造的に健全であると言える。
【0070】
また、このグラフからは、外壁面温度が極大となるとき、固有振動数も極大となる、という関係が明瞭に読み取れる。これは、健全時の結果である図8の(b),(c)に対応するといえる。もしも、温度が極大となるとき、固有振動数が極小になる、という傾向が出たならば、即座にこの建物は危険であると判断することができる。このように、極端な場合ではあるが、建物が非常に危険であることを、健全時の情報なしで判断できるものである。健全時の情報は、固有振動数の絶対値を評価指標として健全時との比較が必要な従来の技術では不可欠な情報であるが、既存の建物からは得られないものであると共に新築の建物であっても健全であるという絶対的な保証がない以上、事実上健全であるという絶対的なデータは得られないものである。
【0071】
今後、固有振動数の日変動の幅が小さくなるか、あるいは建物の内外温度差が大きな時刻に固有振動数が極小となる傾向が現れた場合には建物に損傷が発生していると判定することができる。
【0072】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、コンクリート建物に対して与えられる温度変化は、外気温の変化や日照の有無などを利用する実施形態について主に説明したが、この加熱方法による場合だけでなく、さらにはこれら自然の熱源と人工熱源とを組み合わせることも可能である。例えば建物内部での冷暖房装置などの人工熱源の利用により、建物の内部を強制的に温めたり、冷やしたりして、建物の内外の温度差を人工的に作り出すようにしても良い。太陽光による放射加温と日陰などでの放射冷却との組み合わせによって温度変化を与えるようにしても良い。この場合、各階毎にあるいは同じ階の異なる区画・部屋毎に建物の温度差を与えることにより、各階毎の健全性の判定あるいは同じ階の異なる区画・部屋毎の健全性の判定を行うこともできる。例えば、下の階から順番に冷房を作動させて建物内部の温度を下げて大きな建物内外温度差を順番に与えてゆくと、特定の階を冷房したときに固有振動数が下がる変化が顕れれば、その階に損傷があると判断できる。また、冬期のように外気温が下がっている状態では、逆に上の階から順番に暖房をいれて建物内部の温度を上げて大きな建物内外温度差を順番に与えてゆくと、特定の階を暖房したときに固有振動数が下がる変化が顕れれば、その階に損傷があると判断できる。勿論、同じ階の異なる部屋や区画の間においても、順番に冷却あるいは暖房をすることで温度差を与えてゆけば、部屋単位あるいは区画単位で損傷を評価できる。この場合、外気温が安定した状態で実施することが好ましいが、特にそのような条件に限定されるものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明にかかるコンクリート建物の健全性判定方法を実施する診断対象となる建物のモデル図である。
【図2】本発明にかかるコンクリート建物の健全性判定方法のフローチャートである。
【図3】建物の固有振動数の経時変化を示すグラフである。
【図4】建物の外面と内面のそれぞれの温度の経時変化を示すグラフである。
【図5】コンクリート建物の経年劣化を示す固有振動数の日変動率の経時変化の例を示すグラフである。
【図6】コンクリート構造部材に温度変化が与えられたときの固有振動数の変化を実験する測定装置の一例を示す原理図である。
【図7】コンクリート構造部材の加温後における応力分布を示す説明図である。
【図8】実施例1の実験において得られたデータの経時変化を示すグラフで、(a)は試験柱の温度の経時変化を示すグラフ、(b)は無筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフ、(c)は健全な鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフ、(d)はコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
30 コンクリート建物
31 振動センサー
32 温度センサー
【出願人】 【識別番号】000173809
【氏名又は名称】財団法人電力中央研究所
【出願日】 平成18年6月30日(2006.6.30)
【代理人】 【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美


【公開番号】 特開2008−8810(P2008−8810A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−180696(P2006−180696)