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【発明の名称】 損傷検出方法、損傷検出装置、損傷検出システム
【発明者】 【氏名】圓 幸史朗

【氏名】米山 健一郎

【氏名】中村 充

【氏名】池ヶ谷 靖

【氏名】柳瀬 高仁

【要約】 【課題】簡単な計算により建物の損傷の有無を判定することのでき、廉価で提供することのできる損傷検出装置を提供する。

【構成】損傷検出装置20は、構造物に取り付けられ、構造物に生ずる加速度に応じた測定信号を出力する加速度センサ30と、測定信号が所定の時間内に正から負又は負から正へ変化する回数であるゼロクロス回数をカウントするゼロクロスカウント部33と、カウントしたゼロクロス回数に基づき、構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部35と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の損傷の有無を検出する方法であって、
前記構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定し、
前記測定した物理量が、所定時間内に正から負又は負から正へ変化する回数であるゼロクロス回数をカウントし、
前記ゼロクロス回数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定することを特徴とする損傷検出方法。
【請求項2】
構造物の損傷の有無を検出する装置であって、
前記構造物に取り付けられ、前記構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた測定信号を出力する物理量センサと、
前記測定信号が所定の時間内に正から負又は負から正へ変化する回数であるゼロクロス回数をカウントするゼロクロスカウント部と、
前記カウントしたゼロクロス回数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を備えることを特徴とする損傷検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の損傷検出装置であって、
前記測定信号をA/D変換するA/D変換部を備え、
前記ゼロクロスカウント部は、
前記A/D変換された測定信号を表わすサンプル値列において、正の値と負の値とが隣り合う箇所の個数をカウントし、そのカウント数をゼロクロス回数とすることを特徴とする請求項2記載の損傷検出装置。
【請求項4】
請求項3記載の損傷検出装置であって、
前記A/D変換された測定信号を表わすサンプル値列において、正のサンプル値を正の第1の所定の値に、負のサンプル値を負の第2の所定の値とした正負情報信号を生成する正負情報取得部を備え、
前記ゼロクロスカウント部は、
前記正負情報信号を1サンプル分だけ後又は前にシフトしたシフト正負信号を生成し、
前記正負情報信号と、前記シフト正負信号とについて、同じサンプル位置の値同士を積算してなる積算信号を生成し、
前記積算信号の所定の時間内において、負の値であるデータ点数をカウントし、そのカウント数を前記ゼロクロス回数とすることを特徴とする損傷検出装置。
【請求項5】
請求項2に記載の損傷検出装置であって、
前記測定信号の所定時間内の絶対値を積分した振幅絶対値和を算出する絶対値和算出部を備え、
前記損傷判定部は、前記ゼロクロス回数と、前記振幅絶対値和とに基づき、損傷を検出することを特徴とする損傷検出装置。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の損傷検出装置であって、
前記A/D変換された測定信号の所定時間内の絶対値を加算した振幅絶対値和を算出する絶対値和算出部を備え、
前記損傷判定部は、前記ゼロクロス回数と、前記振幅絶対値和とに基づき、損傷を検出することを特徴とする損傷検出装置。
【請求項7】
構造物の損傷の有無を検出する装置であって、
前記構造物に取り付けられ、前記構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた測定信号を出力する物理量センサと、
前記測定信号をA/D変換するA/D変換部と、
前記A/D変換された測定信号の所定の時間内に絶対値が所定の値以下となるサンプル数をカウントし、低振幅サンプル数を出力する低振幅サンプルカウント部と、
前記算出した低振幅サンプル数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を備えることを特徴とする損傷検出装置。
【請求項8】
請求項7記載の損傷検出装置であって、
前記A/D変換された測定信号の絶対値を加算し、振幅絶対値和を算出する絶対値和算出部を備え、
前記損傷判定部は、前記低振幅サンプル数と、前記振幅絶対値和とに基づき、損傷を検出することを特徴とする損傷検出装置。
【請求項9】
構造物に取り付けられた複数の損傷検出装置と、前記損傷検出装置と通信可能に接続された監視サーバとにより、前記構造物の損傷状況を検出する損傷検出システムであって、
前記損傷検出装置は、
前記構造物に取り付けられ、前記構造物に生じる振動に応じて発生する物理量に応じた測定信号を出力する物理量センサと、前記測定信号が所定の時間内に正から負又は負から正へ変化する回数であるゼロクロス回数をカウントするゼロクロスカウント部と、前記カウントしたゼロクロス回数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を備え、
前記監視サーバは、
各損傷検出装置の損傷判定部における判定結果に基づき、前記構造物の損傷状況を判定する手段を備えることを特徴とする損傷検出システム。
【請求項10】
構造物に取り付けられた複数の損傷検出装置と、前記損傷検出装置とネットワーク経由で接続された監視サーバとにより、前記構造物の損傷状況を検出する損傷検出システムであって、
前記損傷検出装置は、
前記構造物に取り付けられ、前記構造物に生じる振動に応じて発生する物理量に応じた測定信号を出力する物理量センサと、前記測定信号をA/D変換するA/D変換部と、前記A/D変換された測定信号の所定の時間内に絶対値が所定の値以下となるサンプル数をカウントし、低振幅サンプル数を出力する低振幅サンプルカウント部と、前記算出した低振幅サンプル数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を備え、
前記監視サーバは、
各損傷検出装置の損傷判定部における判定結果に基づき、前記構造物の損傷状況を判定する手段を備えることを特徴とする損傷検出システム。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に地震波などによる損傷が発生したか否かを検出するための損傷検出装置に関する。また、複数の損傷検出装置の判定結果に基づき構造物の損傷状況を検出する損傷検出システムにも関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大地震等が起きた際に、建物の構造体に発生した損傷を検出するため、建物の構造体の各部に加速度センサを取り付け、この加速度センサにより測定された加速度に基づき建物の構造体の損傷の有無を判定する方法が知られている。この方法では、健全時と地震後における加速度をFFT解析することにより建物の固有周期を算出し、健全時と地震後の固有周期が異なるか否かに基づき損傷の有無を判定する。
【0003】
また、例えば、特許文献1には、構造物の所定の位置に加速度センサを設置し、地震の前後においてセンサにより取得された振動を用いて演算処理を行い、構造物の各部の剛性を推定し、地震の前後における剛性を比較することにより、損傷の有無及び損傷箇所を特定する装置が記載されている。
【特許文献1】特開2004−264235号報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法において固有周期を算出するために用いられるFFT解析などの演算は計算回数が多いため、高性能の演算処理装置が必要となる。また、特許文献1記載の装置では、剛性を算出するために、マトリクス演算などの高度な計算が必要となるため、同様に高性能の演算処理装置を用いなければならず、コスト高になるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、簡単な計算により建物の損傷の有無を判定することができ、廉価で提供することのできる損傷検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の損傷検出方法は、構造物の損傷の有無を検出する方法であって、前記構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定し、前記測定した物理量が、所定時間内に正から負又は負から正へ変化する回数であるゼロクロス回数をカウントし、前記ゼロクロス回数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の損傷検出装置は、構造物の損傷の有無を検出する装置であって、前記構造物に取り付けられ、前記構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた測定信号を出力する物理量センサと、前記測定信号が所定の時間内に正から負又は負から正へ変化する回数であるゼロクロス回数をカウントするゼロクロスカウント部と、前記カウントしたゼロクロス回数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記の損傷検出装置において、前記測定信号をA/D変換するA/D変換部を備え、前記ゼロクロスカウント部は、前記A/D変換された測定信号を表わすサンプル値列において、正の値と負の値とが隣り合う箇所の個数をカウントし、そのカウント数をゼロクロス回数とするカウント部と、を備えてもよい。
また、上記の損傷検出装置において、前記A/D変換された測定信号を表わすサンプル値列において、正のサンプル値を正の第1の所定の値に、負のサンプル値を負の第2の所定の値とした正負情報信号を生成する正負情報取得部を備え、前記ゼロクロスカウント部は、前記正負情報信号を1サンプル分だけ後又は前にシフトしたシフト正負信号を生成し、前記正負情報信号と、前記シフト正負信号とについて、同じサンプル位置の値同士を積算してなる積算信号を生成し、前記積算信号の所定の区間において、負の値であるデータ点数をカウントし、そのカウント数を前記ゼロクロス回数としてもよい。
また、前記測定信号の所定時間内の絶対値を積分した振幅絶対値和を算出する絶対値和算出部を備え、前記損傷判定部は、前記ゼロクロス回数と、前記振幅絶対値和とに基づき、損傷を検出してもよい。
【0009】
上記の損傷検出装置において、前記A/D変換された測定信号の所定時間内の絶対値を加算した振幅絶対値和を算出する絶対値和算出部を備え、前記損傷判定部は、前記ゼロクロス回数と、前記振幅絶対値和とに基づき、損傷を検出してもよい。
【0010】
また、本発明の損傷検出装置は、前記構造物に取り付けられ、前記構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた測定信号を出力する物理量センサと、前記測定信号をA/D変換するA/D変換部と、前記A/D変換された測定信号の所定の時間内に絶対値が所定の値以下となるサンプル数をカウントし、低振幅サンプル数を出力する低振幅サンプルカウント部と、前記算出した低振幅サンプル数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記の損傷検出装置において、前記A/D変換された測定信号の絶対値を加算し、振幅絶対値和を算出する絶対値和算出部を備え、前記損傷判定部は、前記低振幅サンプル数と、前記振幅絶対値和とに基づき、損傷を検出してもよい。
【0012】
上記の損傷検出装置によれば、ゼロクロス回数に基づき構造物の損傷の有無を判定するため、複雑な計算を行う必要がない。このため、演算装置に高度な演算能力が必要とされず、低価格なCPUを用いることができる。これにより、装置の価格を低減することができる。
【0013】
なお、本発明は、構造物に取り付けられた複数の損傷検出装置と、前記損傷検出装置と通信可能に接続された監視サーバとにより、前記構造物の損傷状況を検出する損傷検出システムであって、前記損傷検出装置は、前記構造物に取り付けられ、前記構造物に生じる振動に応じて発生する物理量に応じた測定信号を出力する物理量センサと、前記測定信号が所定の時間内に正から負又は負から正へ変化する回数であるゼロクロス回数をカウントするゼロクロスカウント部と、前記カウントしたゼロクロス回数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を備え、前記監視サーバは、各損傷検出装置の損傷判定部における判定結果に基づき、前記構造物の損傷状況を判定する手段を備えることを特徴とする損傷検出システムを含むものとする。
また、本発明は、構造物に取り付けられた複数の損傷検出装置と、前記損傷検出装置とネットワーク経由で接続された監視サーバとにより、前記構造物の損傷状況を検出する損傷検出システムであって、前記損傷検出装置は、前記構造物に取り付けられ、前記構造物に生じる振動に応じて発生する物理量に応じた測定信号を出力する物理量センサと、前記測定信号をA/D変換するA/D変換部と、前記A/D変換された測定信号の所定の時間内に絶対値が所定の値以下となるサンプル数をカウントし、低振幅サンプル数を出力する低振幅サンプルカウント部と、前記算出した低振幅サンプル数に基づき、前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を備え、前記監視サーバは、各損傷検出装置の損傷判定部における判定結果に基づき、前記構造物の損傷状況を判定する手段を備えることを特徴とする損傷検出システムを含むものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加速度などの物理量に基づき算出したゼロクロス回数に基づき損傷の有無を判定するため、複雑な演算処理が不要である。このため、演算処理装置に低価格なものを用いることができ、損傷検出装置を廉価で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
従来技術の欄で説明したように、建物の構造体が地震等により損傷を受けると、損傷を受けた部分の剛性が低下するため、固有周期が長周期化する。このため、建物の構造体の各部に加速度センサを取り付け、加速度センサで測定された加速度の固有周期を監視することにより建物の構造体の損傷を検出することが考えられる。しかし、固有周期を算出するためには、FFT解析などの複雑な計算が必要となるため、高性能な演算処理装置が必要となり、コストがかかるという問題がある。
【0016】
これに対して、発明者らは、図1に示すように加速度、速度、変位などの振動に応じて変化する物理量(以下、振動物理量という)の時間波形が所定時間内に正から負又は負から正へゼロを横切る回数(以下、ゼロクロス回数という)、及びA/D変換された振動物理量の一定時間内の絶対値の和と、建物の構造体の損傷との間に以下に説明するような関係があることを見出した。
【0017】
建物の構造体に損傷が生じると、その部位の剛性が低下するため、固有周期が変化する。固有周期が変化すると、振動物理量の時間波形も固有周期の変化の影響が強く表れた形状となり、ゼロクロス回数が減少する。このため、ゼロクロス回数を監視することにより、建物の構造体の損傷の有無を検出することができる。
【0018】
また、建物の構造体に損傷が発生していない場合(健全状態)では、地震波の振幅が大きくなると、それに比例して構造体に生ずる振動物理量の振幅も増加する。しかし、建物の構造体に損傷が生じると剛性が低下するため、その部位における振動物理量の振幅の増加の傾向が変化する。このため、健全時に対する地震後の振動物理量の振幅の比を算出し、この比が他と異なる場合には、該当する部位に損傷が発生したと判定できる。
【0019】
本実施形態の構造体の損傷検出装置は、上記の知見に基づくものであり、ゼロクロス回数を監視することにより、建物の損傷の有無を検出する。また、RC構造物の場合、構造体に損傷が発生していなくても、入力される地震波の振幅が大きくなると固有周期が変化する特性を有することがある。このような構造物では、ゼロクロス回数が変化しても、それが上記の特性によるものであるのか、建物の損傷したことによるものであるのかを判別するのは難しい。そこで、本実施形態の損傷検出装置では、ゼロクロス回数に加えて、振幅に比例する振動物理量の絶対値の総和を監視することとした。これにより、ゼロクロス回数と、振動物理量の絶対値の総和とに基づき、建物の損傷を検出するため、入力される地震波の振幅が大きくなると固有周期が変化する特性を有する構造体でも損傷の有無を検出することができる。ゼロクロス回数及び振動物理量の絶対値の総和は、固有周期を算出するのに比べて、非常に簡単な計算により得られる。
なお、以下の説明では、振動物理量として加速度を用いた場合について説明するが、これに限らず、速度や変位などを用いてもよい。
【0020】
発明者らは、加速度のゼロクロス回数及び加速度の絶対値の総和(以下、加速度振幅絶対値和という)により、建物の構造体の損傷を検出できることを確かめるため、建物の構造体をモデル化した数値解析モデルを用いて数値シミュレーションを行った。ここで、先ずこの数値シミュレーションについて説明する。
【0021】
図2(A)は、数値解析の対象である連層耐震壁を示す図であり、同図(B)は(A)に示す連層耐震壁をモデル化した解析モデルを示す図であり、同図(C)は解析モデルにおいて設定した剛性の特性を示すグラフである。同図に示すように、本解析では、2連層RC耐震壁を対象として、トリリニア型の曲げ非線形特性を有する基礎固定2質点系モデルとした。この解析モデルに、図3に示すような、スペクトル特性や経時特性の異なる6種類の地震波AからGを、最大加速度が100、200、400、600、800Galになるように基準化して加振した。
【0022】
図4(A)は、解析モデルの1Fにおけるせん断に対する塑性率を示すグラフであり、(B)は、解析モデルの1Fにおける曲げに対する塑性率を示すグラフである。同図に示すように、解析モデルはいずれの地震波に対しても、地震波の加速度が大きくなるにつれて次第に塑性率が増加する傾向を有するが、地震波Dに対しては、最大加速度を200Galから400Galに増加させると急激に塑性率が増加しており、損傷が進行している。また、地震波Fに対しては最後まであまり損傷が進行していない。また、その他の地震波に対しては、入力最大加速度が400Galに達するまでは、損傷が小さいが、600Galを超えると急激に損傷が進行していることがわかる。
【0023】
図5は、各地震波に対する解析モデルの2Fにおける加速度に基づき算出したゼロクロス回数の推移を示すグラフであり、図6は、100Gal入力時の応答を基準としたゼロクロス回数の低下率であり、図7は、加速度振幅絶対値和の推移を示すグラフであり、図8は、縦軸にゼロクロス回数を、横軸に加速度振幅絶対値和をとり、解析結果をプロットしたグラフである。
【0024】
図5及び図6に示すように、全ての地震波に対して加速度が増加するにつれてゼロクロス回数が少なくなる傾向がある。しかし、地震波Dに対しては、加速度を200Galから400Galに増加させた際に、急激にゼロクロス回数が減少するが、400Gal以上では、加速度が増加してもあまりゼロクロス回数が変化していない。これは、地震波Dが作用した場合に、早期に損傷による非線形化が進行しているためである。このように建物構造体の損傷の進行にともなって、ゼロクロス回数が減少するため、ゼロクロス回数を監視することにより、損傷の有無を判定できることがわかる。
【0025】
また、図7に示すように、全ての地震波に対して、加速度が増加するほど加速度振幅絶対値和は増加する傾向があるが、地震波Dに対しては、振幅の小さい地震波に対しても加速度振幅絶対値和が大きく、400Galを超えても大きく増加することがない。これは、地震波Dにより加振した場合には、解析モデルに早期に損傷が発生したためである。建物の構造体の種類によっては、構造体に損傷がなくても、固有周期が変化するものがあるが、ゼロクロス回数に加えて加速度振幅絶対値和を監視することにより、このような建物であっても損傷の有無を判定できることがわかる。
【0026】
また、図8に示すように、ゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和との間には、加速度振幅絶対値和が増加するにつれてゼロクロス回数が減少する傾向があることがわかる。さらに、地震波Dは、図8に円で囲む部分において、加速度振幅絶対値和及びゼロクロス回数がほとんど変化していない。これは、損傷の進行により加速度の増加が頭打ちとなり、また、固有周期の伸びも抑制されるためであると考えられる。
【0027】
上述したように、本解析により、建物の構造体に損傷がない場合は、ゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和との間には、図9に実線で示すように加速度振幅絶対値和が増加するにつれてゼロクロス回数が減少する傾向を示すが、建物の構造体に損傷が発生すると、ゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和の関係が異なる傾向を示す(すなわち図中の彩色部からはずれる)ことがわかる。
【0028】
また、本解析では、加速度センサにより測定された加速度に基づき、加速度の絶対値が一定以下となるサンプルデータ数(以下、低振幅サンプル数という)を算出した。図10は、各地震波に対する解析モデルの2Fにおける加速度に基づき算出した低振幅サンプル数を示すグラフである。図10に示すように、全ての地震波に対して、加速度が増加するほど低振幅サンプル数は低下する傾向があるが、地震波Dに対しては、早期から低振幅サンプル数が少なく、加速度が増加しても低振幅サンプル数はほとんど変化しない。これは、地震波Dが作用した場合に、早期に損傷が発生しているためである。このようにゼロクロス回数の代わりに低振幅サンプル数を用いても、損傷の有無を判定できることがわかる。
【0029】
上記の解析の結果を踏まえて、本実施形態の損傷検出システムは以下のような構成をとることとした。
図11(A)は、本実施形態の損傷検出システム10の構成を示す図であり、(B)は、損傷検出装置20の構成を示す図である。同図(A)に示すように、本実施形態の損傷検出システム10は、建物などの構造体11の各部に取り付けられた複数の損傷検出装置20と、各損傷検出装置20とネットワーク21を介して送受信可能に接続された監視サーバ22とを備える。
【0030】
また、同図(B)に示すように、損傷検出装置20は、加速度センサ30と、A/D変換部31と、正負情報取得部32と、ゼロクロスカウント部33と、絶対値加算部34と、損傷判定部35と、送受信部36とを備える。また、損傷検出装置20は、各種演算処理を行うCPUを備えており、以下の演算処理は、このCPUにより実行される。
【0031】
加速度センサ30は、地震などにより建物の構造体11の水平方向に直交するx、y2軸の方向における加速度に夫々応じた測定信号を出力する。この測定信号はA/D変換部31に入力される。A/D変換部31は、予め、設定されたサンプリング周波数に基づき、測定信号をA/D変換する。A/D変換された測定信号は、正負情報取得部32及び絶対値加算部34に入力される。
【0032】
図12は、ゼロクロス回数を計算する方法を説明するための図である。本実施形態の損傷検出装置20では、計算を効率的に行うため以下に説明するようにしてゼロクロス回数をカウントする。
正負情報取得部32は、図12(A)に示すように、入力されたA/D変換された測定信号の一定時間内に含まれる各サンプル値、値が正である場合には+1に、値が負である場合には−1に置換することにより、正負情報信号を生成する。
【0033】
次に、ゼロクロスカウント部33は、正負情報信号の連続する2つのサンプル値のうち、一方が正、他方が負となる部分の数(すなわち、ゼロクロス回数)を以下のようにしてカウントする。
まず、ゼロクロスカウント部33は、図12(B)に示すように、入力された正負情報信号を1サンプル分後方にずらし、1サンプル目を正負情報信号の1サンプル目と等しい値としたシフト正負信号を生成する。なお、1サンプル分前方にずらしてシフト正負信号を生成し、最終サンプル値を正負情報信号の最終サンプル値と等しい値として、シフト正負信号を生成することとしてもよい。
【0034】
次に、ゼロクロスカウント部33は、図12(C)に示すように、正負情報信号と、作成したシフト正負信号の対応するサンプルの値同士を積算して各サンプルの値とした積算信号を生成する。図12に示すように、積算信号のゼロクロス点に相当するサンプルの値が−1となり、それ以外のサンプルの値は+1となる。
【0035】
次に、この積算信号について値が−1となるサンプル値の数をカウントする。なお、この工程は、例えば、積算信号について各サンプル値に−1を加え、全てのサンプルについての総和を算出し、この総和を−2で割ることにより計算により算出することも可能である。このように本実施形態の損傷検出装置20によれば、簡単な計算でゼロクロス回数を算出することができる。ただし、ゼロクロスカウント部33におけるゼロクロス回数をカウントする方法は、上記の方法に限らない。
【0036】
図11に戻り、絶対値加算部34は、A/D変換された測定信号の各サンプル値の絶対値を加算し、加速度振幅絶対値和を算出する。絶対値加算部34において算出された加速度振幅絶対値和は、損傷判定部35に入力される。
【0037】
損傷判定部35には、予め、ゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和との関係に基づき損傷の有無を判定するための判定基準が記録されている。本実施形態では、図13に示すように、ゼロクロス回数が一定以下となる場合、及びゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和との関係が健全時の傾向から一定以上乖離している場合(図中斜線部)には損傷ありと判定し、それ以外の場合には損傷なしと判定するものとしている。ただし、ゼロクロス回数と加速度振幅値和との関係が健全時の傾向から一定以上かい離している場合であっても、加速度振幅絶対値和が小さい(すなわち、入力加速度が小さい)場合には、損傷が発生する可能性が非常に低いとして、損揚なしと判定する。また、ゼロクロス回数と加速度振幅値との関係が健全時の傾向から一定以上かい離している場合であっても、ゼロクロス回数が大きい(すなわち、入力加速度が大きくなってもゼロクロス回数が減少していない)場合には、固有周期が変化していないとして、損傷なしと判定する。
損傷判定部35は、この判定基準に基づき損傷の有無を判定する。損傷判定部35における判定結果は、ネットワーク21経由で送受信部36より監視サーバ22へ送信される。
【0038】
監視サーバ22は、各損傷検出装置20より受信した判定結果に基づき、構造体の損傷状況を集計し、必要に応じて画面出力あるいは印刷出力する。また、一定割合以上の損傷検出装置から損傷ありと判定された場合には、警報を発令する。これにより、構造体の損傷を早期に検出することができる。
【0039】
本実施形態の損傷検出システム10によれば、ゼロクロス回数及び加速度振幅絶対値和に基づき損傷の有無を監視しており、複雑な計算を必要としない。このため、演算処理装置として低価格なCPUを用いることができるため、廉価で装置を提供することができる。また、このように損傷検出装置20のコストが抑えられることにより、建物の構造体に設置する損傷検出装置20の数を増やすことができる。これにより、一部の損傷検出装置20が故障した場合にも、故障の影響を最小限に抑えることができる。
【0040】
なお、上記の実施形態では、損傷検出装置20は、ゼロクロスカウント部33においてカウントされたゼロクロス回数に基づき損傷の有無を判定するものとしたが、これに限らず、低振幅サンプル数をカウントする低振幅カウント部を設け、低振幅サンプル数及び加速度振幅絶対値和に基づき損傷の有無を判定する構成としてもよい。
また、本実施形態では、損傷検出装置20は、ゼロクロス回数及び加速度振幅絶対値和に基づき損傷の有無を判定したが、これに限らず、ゼロクロス回数のみを用いて損傷の有無を判定してもよい。
【0041】
また、上記の実施形態では、各損傷検出装置20に設けられた損傷判定部35において、ゼロクロス回数と、加速度振幅絶対値和とに基づき損傷の有無を判定する構成としたが、これに限らず、損傷判定部35を監視サーバ22に設け、各損傷検出装置20は算出したゼロクロス回数及び加速度振幅絶対値和を監視サーバ22に送信し、監視サーバ22において各損傷検出装置より受信したゼロクロス回数及び加速度振幅絶対値和に基づき構造物の損傷の有無を判定する構成としてもよい。
【0042】
また、上記の実施形態では、A/D変換された測定信号を用いて、ゼロクロス点数及び加速度振幅絶対値和を算出する構成としたが、これに限らず、A/D変換せずに、ゼロクロス点数及び加速度振幅絶対値和を算出してもよい。このような場合には、測定信号の絶対値を積分することにより加速度振幅絶対値和を算出すればよい。
【0043】
なお、上記の実施形態では、損傷検出端末と監視サーバとの間をネットワークで接続する構成としたが、これに限らず、USB等のインターフェースを介して接続する構成としてもよい。
また、本実施形態では、振動物理量として加速度を用いた場合について説明したが、これに限らず速度や変位を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】ゼロクロス回数を説明するための図である。
【図2】(A)は、数値解析の対象である連層耐震壁を示す図であり、同図(B)は(A)に示す連層耐震壁をモデル化した解析モデルを示す図であり、同図(C)は解析モデルにおいて設定した剛性の特性を示すグラフである。
【図3】解析モデルに加えた6種類の地震波を示す図である。
【図4】(A)は、解析モデルの1Fにおけるせん断に対する塑性率を示すグラフであり、(B)は、解析モデルの1Fにおける曲げに対する塑性率を示すグラフである。
【図5】各地震波に対する解析モデルの2Fにおける加速度に基づき算出したゼロクロス回数の推移を示すグラフである。
【図6】各地震波に対する解析モデルの2Fにおける加速度に基づき算出した100Ga入力時の応答を基準としたゼロクロス回数の低下率を示すグラフである。
【図7】各地震波に対する解析モデルの2Fにおける加速度に基づき算出した加速度振幅絶対値和の推移を示すグラフである。
【図8】縦軸にゼロクロス回数を、横軸に加速度振幅絶対値和をとり、試験結果をプロットしたグラフである。
【図9】加速度振幅絶対値和が増加するにつれてゼロクロス回数が減少する傾向を示すグラフである。
【図10】各地震波に対する解析モデルの2Fにおける加速度に基づき算出した低振幅サンプル数を示すグラフである。
【図11】(A)は、本実施形態の損傷検出システムの構成を示す図であり、(B)は、損傷検出装置の構成を示す図である。
【図12】ゼロクロスの回数を計算する方法を説明するための図である。
【図13】損傷判定部における判定基準を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
10 損傷検出システム 11 建物の構造体
20 損傷検出装置 21 ネットワーク
22 監視サーバ 30 加速度センサ
31 A/D変換部 32 正負情報取得部
33 ゼロクロスカウント部 34 絶対値加算部
35 損傷判定部 36 送受信部
【出願人】 【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
【識別番号】394026714
【氏名又は名称】株式会社ジャスト
【出願日】 平成18年6月23日(2006.6.23)
【代理人】 【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人


【公開番号】 特開2008−2986(P2008−2986A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−173709(P2006−173709)