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【発明の名称】 ショットピーニング処理面の非破壊検査方法及び装置
【発明者】 【氏名】小島 隆

【氏名】熊谷 正夫

【氏名】星川 潔

【氏名】石橋 正三

【要約】 【課題】被処理材の破壊を伴うことなく,かつ,比較的短時間で,かつ容易に,被処理材の深さ方向における分布状態を含むショットピーニング処理面の残留応力分布を測定することのできる検査方法及び装置を提供する。

【構成】前記検査対象のショットピーニング処理面上に,前記検査回路に設けられたコイルを配置すると共に,該検査回路に周波数を変化させながら交流信号を入力して,前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性を測定すると共に,これを検査対象データとして取得し,この検査対象データを,残留応力の発生状態が既知のサンプルにおいて取得した,インピーダンスの周波数特性と比較する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショットピーニングを施した鋼材を検査対象とした残留応力の検査方法において,
前記検査対象と同材質で,かつ,残留応力の発生状態が判明しているサンプルのショットピーニング処理面上に検査回路に設けられたコイルを配置すると共に,該検査回路に周波数を変化させながら交流信号を入力して,前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性を測定すると共に,これをサンプルデータとして取得し,
前記検査対象のショットピーニング処理面上に,前記検査回路に設けられたコイルを配置すると共に,該検査回路に周波数を変化させながら交流信号を入力して,前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性を測定すると共に,これを検査対象データとして取得し,
前記検査対象データと,前記サンプルデータとを比較して,前記サンプルにおいて判明している残留応力の発生状態に基づいて,前記検査対象における残留応力の発生状態を検査することを特徴とするショットピーニング処理面の非破壊検査方法。
【請求項2】
前記入力信号の周波数変化に対応して前記検査回路で生じる電圧と電流の位相角変化を前記インピーダンスの周波数応答特性として測定することを特徴とする請求項1記載のショットピーニング処理面の非破壊検査方法。
【請求項3】
前記検査対象と同材質で,かつ,ショットピーニング処理がされていない基準材の表面上に前記検査回路に設けられたコイルを配置すると共に,該検査回路に周波数を変化させながら交流信号を入力して,前記検査回路における電圧と電流の位相角変化を基準データとして取得し,
前記基準データと前記サンプルデータの差,及び前記基準データと検査対象データの差を以て前記サンプルデータと前記検査対象データとを比較することを特徴とする請求項2記載のショットピーニング処理面の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記位相角差が周波数の変化に対して変化のピークを示す値を極値として求め,前記極値及び/又は前記極値が発生する周波数を,前記検査対象データ及びサンプルデータの比較ポイントとすることを特徴とする請求項3記載のショットピーニング処理面の非破壊検査方法。
【請求項5】
前記検査対象データと前記サンプルデータとの比較に基づき,ショットピーニングによって検査対象の表面に生じる残留応力発生層の深さを検査又は測定することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のショットピーニング処理面の非破壊検査方法。
【請求項6】
前記検査対象データと前記サンプルデータとの比較に基づき,ショットピーニングによる残留応力の付与によって生じる残留応力発生層の透磁率及び/又は抵抗率を検査又は測定することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のショットピーニング処理面の非破壊検査方法。
【請求項7】
ショットピーニングを施した鋼材を検査対象とした残留応力の検査装置において,
検査対象上に配置されるコイルを備えた検査回路と,
前記検査回路に対して周波数を変化させながら交流信号を出力する検査信号発生手段と,
前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性を測定する測定手段と,
前記検査対象と同材質で,かつ,残留応力の発生状態が判明しているサンプル上に前記検査回路の前記コイルを配置して測定したインピーダンスの周波数応答特性をサンプルデータとして記憶する記憶手段と,
前記検査対象上に前記検査回路の前記コイルを配置して測定された前記検査回路のインピーダンスの周波数応答特性を検査対象データとし,該検査対象データを前記記憶手段に記憶された前記サンプルデータと比較する比較手段と,
前記比較手段による比較結果に基づき,前記検査対象における残留応力の発生状態を前記サンプルにおいて判明している残留応力の発生状態に基づいて判定する判定手段を備えることを特徴とするショットピーニング処理面の非破壊検査装置。
【請求項8】
前記測定手段が,前記検査対象データとして前記入力信号の周波数変化に対応して前記検査回路で生じる電圧と電流の位相角変化を測定すると共に,
前記記憶手段が前記サンプルデータとして,入力信号の周波数変化に対応した前記サンプルにおける前記検査回路で生じる電圧と電流の位相角変化を記憶することを特徴とする請求項7記載のショットピーニング処理面の非破壊検査装置。
【請求項9】
前記記憶手段が,前記検査対象と同材質で,かつ,ショットピーニング処理がされていない基準材において前記検査回路で発生した電圧と電流の位相角変化を基準データとして記憶すると共に,
前記比較手段が,前記基準データと前記サンプルデータの差と,前記基準データと前記検査対象データの差を比較することを特徴とする請求項8記載のショットピーニング処理面の非破壊検査装置。
【請求項10】
前記位相角差が周波数の変化に対して変化のピークを示す値を極値とし,前記比較手段が,前記極値及び/又は前記極値が発生する周波数を,前記検査対象データ及びサンプルデータの比較ポイントとすることを特徴とする請求項9記載のショットピーニング処理面の非破壊検査装置。
【請求項11】
前記記憶手段が前記サンプルデータとして,残留応力発生層の形成深さの変化と,この残留応力発生層の形成深さの変化に伴って変化する前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性との対応関係を記憶すると共に,
前記判定手段が,前記比較手段による比較結果に対応して,前記対応関係に基づいて検査対象の表面に生じた残留応力発生層の形成深さを判定することを特徴とする請求項7〜10いずれか1項記載のショットピーニング処理面の非破壊検査装置。
【請求項12】
前記記憶手段が前記サンプルデータとして,残留応力発生層の透磁率及び/又は抵抗率の変化と,この透磁率及び/又は抵抗率の変化に伴って変化する前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性との対応関係を記憶すると共に,
前記判定手段が,前記比較手段による比較結果に対応して,前記対応関係に基づいて検査対象の表面に生じた残留応力発生層の透磁率及び/又は抵抗率を判定することを特徴とする請求項7〜11いずれか1項記載のショットピーニング処理面の非破壊検査装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は,ショットピーニング処理された鋼材における残留応力の発生状態を非破壊法によって検査する非破壊検査方法及び装置に関し,粒径が数十μm程度である微粒子のショットを使用したショットピーニング処理面の検査に特に適した非破壊検査方法及び非破壊検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ショットピーニングによって鋼材を被処理材として表面処理を行うと,この被処理材の表面はショットの衝突によって塑性変形を起こし,その結果として残留応力が発生する。
【0003】
この残留応力は,被処理材の強度,特に,曲げ強度,ねじり強度,曲げ疲労強度及びねじり疲労強度や,耐摩耗性を支配する要因となるものであり,ショットピーニングを行う目的の一つは,このような残留応力を発生させることによる表面改質にあることから,残留応力の発生状態の確認は重要な品質管理指標の一つである。
【0004】
このような残留応力の測定方法としては,ショットピーニング処理後の処理対象を逐次除去しながら,応力解放による寸法変化を精密に測定する破壊的方法と,X線解析を利用した非破壊的方法が一般に知られている。
【0005】
このうちの前述の破壊的方法は,被処理材の表面を化学研磨や電解研磨等によって除去することにより,加工層(残留応力発生層)の減少に伴って生じる被加工材の変形を測定することで残留応力の測定を行うものであるが,ショットピーニングによって発生する残留応力,特に微粒子ショットを使用したショットピーニングによって発生する残留応力は,被処理材の表面近傍の極めて浅い部分にのみ生じるものであるために,このような破壊的方法によっては測定ができない場合がある。
【0006】
一方,前述のX線解析を利用した非破壊的な検査方法を行う場合,被処理材の破壊を伴うことなく残留応力の測定を行うことができるが,X線の有効浸透深さは表面から僅か数μmの範囲であり,被処理材の最表面部分における残留応力の状態を確認することはできたとしても,深さ方向における残留応力の分布状態はこれを確認することができない。
【0007】
このような深さ方向の残留応力分布を測定しようとすれば,前述の破壊法によって化学研磨あるいは切削等により被加工材の断面積(厚み)を変化させてそれに伴う被加工材の変形をもとに材料力学的な仮定のもとで残留応力の算出を行うことに頼らざるを得ないが,前述したようにショットピーニング,特に微粒子を使用したショットピーニングによる残留応力の発生は表面から比較的浅い部分において生じるものであるために,このような破壊的方法では測定ができない場合もあり,また,前記方法で用いられている材料力学的な仮定は測定すべき被加工材の応力状態を忠実に再現できるものではなく,さらに被加工材の厚みと共に残留応力を変化させながら測定するという点で精度が低いものとなっている。
【0008】
このような測定結果の信頼性を向上させるために,X線解析を利用して被処理材の深さ方向における残留応力の分布を測定する方法として「ウインドウ法」と呼ばれる測定方法も提案されている。
【0009】
このウインドウ法では,検査対象の表面全体を研磨等するのではなく,「ウインドウ」と呼ばれる円形あるいは四角形の窓状の微小部分のみを化学研磨あるいは電解研磨等により除去しながらX線解析によって深さ方向の残留応力を測定するもので,この方法により測定する場合には,被処理材の残留応力分布を変化させることなく残留応力分布の測定を行うことができる。
【0010】
この発明の先行技術文献情報としては次のものがある。
【非特許文献1】ショットピーニング技術協会 編;日刊工業新聞社 発行「ショットピーニングの方法と効果 金属疲労・残留応力」(1997年12月24日発行)第48〜51頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した「ウインドウ法」によれば,X線の有効浸透深さにより制限されることなく,被処理材の深さ方向における残留応力分布を測定することができると共に,測定結果も正確で信頼性が向上する。
【0012】
しかし,このようなX線による残留応力分布の検査は,微小な開孔であるとはいえ被処理材の破壊を伴うものであるために,製品の全量に対して検査を行うことはできず,このような検査は必然的に抜き取り検査として行わざるを得ない。
【0013】
また,前述の方法により被処理材の深さ方向における残留応力の分布を測定するためには,ウインドウ部分を正確に所定深さ迄研磨すると共に,X線による検査を行い,この作業を複数回繰り返して行う必要があるために,この方法による検査には多大な労力と時間が費やされる。
【0014】
このような,従来における残留応力の検査方法が有する問題点から,ショットピーニング処理表面を備える被処理材の検査方法として,被処理材の破壊を伴わずに深さ方向における残留応力の発生状況を検査することができ,しかも,比較的簡単に短時間で完了することができる検査方法,及び検査装置の開発が望まれており,このような検査方法及び検査装置が実現すれば,製品の全量に対して検査を行うことも可能となる。
【0015】
しかし,現状においてこのような検査方法及び検査装置は存在しておらず,抜き取りにより検査を行うものであるために,この抜き取り検査において一定の不良率が生じた場合には,該ラインで加工等された製品の全てを廃棄する等して,品質管理を行っている。しかし,この方法による場合には正常に加工された製品等を含めて廃棄される等,歩留まりが悪く,一方,不良率が許容範囲内であったとしても製品中には加工不良の製品が含まれるおそれがある。
【0016】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,被処理材の破壊を伴うことなく,かつ,比較的短時間で,かつ容易に,被処理材の深さ方向における分布状態を含むショットピーニング処理面の残留応力分布を測定することのできる検査方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために,本発明のショットピーニング処理面の非破壊検査方法は,ショットピーニングを施した鋼材を検査対象とした残留応力の検査方法において,
前記検査対象と同材質で,かつ,残留応力の発生状態が判明しているサンプルのショットピーニング処理面上に検査回路に設けられたコイルを配置すると共に,該検査回路に周波数を変化させながら交流信号を入力して,前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性を測定すると共に,これをサンプルデータとして取得し,
前記検査対象のショットピーニング処理面上に,前記検査回路に設けられたコイルを配置すると共に,該検査回路に周波数を変化させながら交流信号を入力して,前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性を測定すると共に,これを検査対象データとして取得し,
前記検査対象データと,前記サンプルデータとを比較して,前記サンプルにおいて判明している残留応力の発生状態に基づいて,前記検査対象における残留応力の発生状態を検査することを特徴とする(請求項1)。
【0018】
上記検査方法において,前記入力信号の周波数変化に対応して前記検査回路で生じる電圧と電流の位相角θの変化を前記インピーダンスの周波数応答特性として測定するものとすることができる(請求項2)。
【0019】
さらに,前記検査対象と同材質で,かつ,ショットピーニング処理がされていない基準材の表面上に前記検査回路に設けられたコイルを配置すると共に,該検査回路に周波数を変化させながら交流信号を入力して,前記検査回路における電圧と電流の位相角θnon-shotの変化を基準データとして取得し,
前記基準データと前記サンプルデータの差(Δθ),及び前記基準データと検査対象データの差(Δθ)を以て前記サンプルデータと前記検査対象データとを比較するように構成しても良い(請求項3)。
【0020】
さらに,前記位相角差(Δθ)が周波数の変化に対して変化のピークを示す値(ΔθP)を極値として求め,前記極値(ΔθP)及び/又は前記極値(ΔθP)が発生する周波数(fP)を,前記検査対象データ及びサンプルデータの比較ポイントとしても良い(請求項4)。
【0021】
なお,前記検査対象データと前記サンプルデータとの比較に基づき,ショットピーニングによって検査対象の表面に生じる残留応力発生層の深さbを検査又は測定しても良く(請求項5),さらに,残留応力発生層の透磁率μ1及び/又は抵抗率ρ1を検査又は測定するものとしても良い(請求項6)。
【0022】
また,本発明のショットピーニング処理面の非破壊検査装置は,ショットピーニングを施した鋼材を検査対象とした残留応力の検査装置において,
検査対象上に配置されるコイルを備えた検査回路と,
前記検査回路に対して周波数を変化させながら交流信号を出力する検査信号発生手段と,
前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性を測定する測定手段と,
前記検査対象と同材質で,かつ,残留応力の発生状態が判明しているサンプル上に前記検査回路の前記コイルを配置して測定したインピーダンスの周波数応答特性をサンプルデータとして記憶する記憶手段と,
前記検査対象上に前記検査回路の前記コイルを配置して測定された前記検査回路のインピーダンスの周波数応答特性を検査対象データとし,該検査対象データを前記記憶手段に記憶された前記サンプルデータと比較する比較手段と,
前記比較手段による比較結果に基づき,前記検査対象における残留応力の発生状態を前記サンプルにおいて判明している残留応力の発生状態に基づいて判定する判定手段を備えることを特徴とする(請求項7)。
【0023】
前記構成の検査装置において,前記測定手段が,前記検査対象データとして前記入力信号の周波数fの変化に対応して前記検査回路で生じる電圧と電流の位相角θの変化を測定すると共に,
前記記憶手段が前記サンプルデータとして,入力信号の周波数fの変化に対応した前記サンプルにおける前記検査回路で生じる電圧と電流の位相角θの変化を記憶するものとしても構成することができる(請求項8)。
【0024】
さらに,前記記憶手段が,前記検査対象と同材質で,かつ,ショットピーニング処理がされていない基準材において前記検査回路で発生した電圧と電流の位相角θnon-shotの変化を基準データとして記憶すると共に,
前記比較手段が,前記基準データと前記サンプルデータの差と,前記基準データと前記検査対象データの差を比較するものとして構成することもできる(請求項9)。
【0025】
また,前記位相角差Δθが周波数fの変化に対して変化のピークを示す値を極値Δθpとし,前記比較手段が,前記極値ΔθP及び/又は前記極値ΔθPが発生する周波数fPを,前記検査対象データ及びサンプルデータの比較ポイントとするように構成しても良い(請求項10)。
【0026】
さらに,前記記憶手段が前記サンプルデータとして,残留応力発生層の形成深さbの変化と,この残留応力発生層の形成深さbの変化に伴って変化する前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性との対応関係を記憶すると共に,
前記判定手段が,前記比較手段による比較結果に対応して,前記対応関係に基づいて検査対象の表面に生じた残留応力発生層の形成深さbを判定するように構成しても良く(請求項11),
前記記憶手段に前記サンプルデータとして,残留応力発生層の透磁率μ1及び/又は抵抗率ρ1の変化と,この透磁率μ1及び/又は抵抗率ρ1の変化に伴って変化する前記検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性との対応関係を記憶すると共に,
前記判定手段が,前記比較手段による比較結果に対応して,前記対応関係に基づいて検査対象の表面に生じた残留応力発生層の透磁率μ1及び/又は抵抗率ρ1を判定するようにすることもできる(請求項12)。
【発明の効果】
【0027】
以上説明した本発明の構成により,本発明のショットピーニング処理面の非破壊検査方法及び装置によれば,被処理材の破壊を伴うことなく,かつ,比較的短時間で,かつ容易に,被処理材の深さ方向における分布状態を含むショットピーニング処理面の残留応力分布を検査することのできる検査方法及び装置を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に,本発明の実施形態につき以下説明する。
【0029】
〔前提となる原理〕
1.本発明の概要
本発明の非破壊検査方法において検査の対象とするショットピーニング処理面,特に,ショットとして粒径が数十μm程度の微粒子を用いたショットピーニング処理では,被処理材の表面より数十μm程度の比較的浅い部分に残留応力が生じることから,ショットピーニング処理面における残留応力の分布状態の検査では,表面からの深さ数μm〜100μmの範囲における残留応力の発生状態を測定することができれば目的を達成できる。
【0030】
一方,本発明の発明者は実験の結果,強磁性体である鋼材を検査対象とする場合,検査対象の残留応力発生面に対し磁界の発生方向が直交方向となるように配置されたコイル(該コイルを備えた検査回路)に,周波数を変化させながら交流信号を入力すると,このコイル(検査回路)におけるインピーダンスの周波数応答特性が,検査対象の表面から深さ数μm〜100μm程度の表面付近における残留応力の発生状態の相違に応じて特徴的な変化が生じることを見出した。
【0031】
特に,検査回路における電圧と電流の位相角θの変化Δθ(ショットピーニング処理後に測定した位相角θshotと,ショットピーニング処理前に測定した位相角θnon-shotの差)の周波数応答特性が顕著に変化することが確認された。
【0032】
本発明は,このようなショットピーニング処理された鋼材と,前記コイルを備えた検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性との対応関係に着目し,前記対応関係をショットピーニングにより表面処理された,鋼材である被処理材における残留応力の発生状態の検査に利用できる点に着目したことに端を発するものである。
【0033】
2.残留応力とインピーダンスの周波数特性との対応関係
鋼材における残留応力の発生状態と前記コイルを備えた検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性との間の関係は,以下の通りである。
【0034】
2−1.計算よる対応関係の導引
(1)算出条件
被処理材上に配置したコイルのインダクタンスの解析モデルを図1に示す。
【0035】
図1に示すように,ショットピーニング処理前の被処理材の電磁気特性が均一であるとし,被処理材の透磁率をμ2,導電率をσ2とおく。
【0036】
そして,この被処理材がショットピーニングを受けたとき,表面から深さbの範囲に残留応力が発生した層(残留応力発生層)が生じていると仮定し,この残留応力発生層において被処理材の電磁気特性が均一に透磁率μ1,導電率σ1に変化したものと単純化して考える。
【0037】
検査に使用するコイルは,半径をa,長さを


,巻き数をnとおく。
【0038】
また,試料に垂直でコイルの中心軸に一致するようにz軸を設けてその原点を被処理材表面にとり,コイル下端の座標をz1,コイル上端の座標をz2とする。
【0039】
(2)インピーダンスZ及び位相角θの計算方法
図1に示す解析モデルにおいて,インピーダンスZ及び位相角θを求めるための計算式は,以下のようにして導き出したものである。
【0040】
まず,以下の計算において基礎となるマックスウェル(Maxwell)の方程式を示せば次式の通りである。
【0041】
【数1】


【数2】


【0042】
コイルに通電する正弦波交流の周波数が数十MHz以下であれば,変位電流は無視できるので,(1)式は次式となる。
【数3】


【0043】
これは導体試料外部の支配方程式となる。また,(2)式,(3)式およびオームの法則より,次式が導かれる。
【数4】


【0044】
ここで,ωは正弦波交流の角周波数,jは虚数単位である。この式が導体試料内部の支配方程式となる。
【0045】
ここで円筒座標(r,φ,z)を導入して


なるベクトルポテンシャル


を定義する。


は系が回転対称であるためφ方向の成分


だけを持つ。そこで,


の添え字を省略して


と表記することにすれば,(3)式より導体試料外部の支配方程式は次式で与えられる。
【数5】


【0046】
また,(4)式より導体試料内部の支配方程式は次式で与えられる。
【数6】


【0047】
上記(5)式および(6)式を図2の境界条件を満足するように解いて


を求めれば,それよりコイルのインダクタンスが求められる。このような解析は,尾上が既に解いている(尾上守夫:導体に近接した有限長ソレノイドコイルの解析,電気学会誌,vol.88,pp.1894-1902,(1968))。この解を用いればコイルのインダクタンスLは次式で与えられる。
【0048】
【数7】


ここで,
【数8】


【0049】
試料表面に置いたコイルに電流を流して測定されるインピーダンスZには,コイルのインダクタンスLに加えてコイル素線の抵抗成分R0およびコイルと検査装置を結ぶケーブルの容量成分Cの影響が含まれる。これを図2に示す等価回路にモデル化して計算するとインピーダンスZは次式で与えられる。
【0050】
【数9】


【0051】
インピーダンスの絶対値と位相をそれぞれ|Z|及びθとおけば,|Z|及びθはそれぞれ次式で与えられる。
【0052】
【数10】


【0053】
【数11】


【0054】
以上のようにして求めた(9)式および(10)式を用いれば,被処理材表面の電磁気特性の特徴と,この被処理材表面に配置したコイルを備えた検査回路で測定されるインピーダンスの周波数応答特性の関係を特定できる。
【0055】
(3)前記計算式に基づき求められた対応関係
以上で説明した解析モデル及び計算式を用いることで,被処理材の表面に形成された残留応力発生層とインピーダンスの周波数応答特性との間に以下の対応関係が存在することが確認できる。
【0056】
(3−1)算出における前提
なお,計算による対応関係を導き出すにあたり,ショットピーニング前後におけるインピーダンスの絶対値の変化Δ|Z|と,位相角の変化Δθを次式のように定義した。
【0057】
Δ|Z|=|Z|shot-|Z|non-shot ・・・・・・(11)
Δθ= θshot - θnon-shot ……(12)
【0058】
ここで,|Z|non-shot,θnon-shot はショットピーニング処理前の被処理材について測定された検査回路におけるインピーダンスの絶対値及び位相角を表す。
【0059】
ショットピーニング処理前において,被処理材には塑性変形した残留応力発生層は存在しておらず,被処理材の表面付近における透磁率(μ1)と,内部における透磁率(μ2)は等しく(μ12),また,被処理材の表面付近における導電率(σ1)と内部における導電率(σ2)は等しい状態にある(σ12)。
【0060】
一方,|Z|shot,θshotはショットピーニング処理後の被処理材について測定された検査回路におけるインピーダンスの絶対値及び位相角を表す。
【0061】
ショットピーニングにより,被処理材の表面は塑性変形を生じ,被処理材の表面付近における透磁率(μ1)と内部における透磁率(μ2)間に相違が生じ(μ1≠μ2),また,被処理材の表面付近における導電率(σ1)と,内部における導電率(σ2)間に相違が生じ(σ1≠σ2),このような残留応力発生層が表面から深さb(b≠0)で形成されているものとして計算する。
【0062】
(3−2)求められた対応関係
(3−2−1)対応関係一般
(a) 一般鋼材におけるΔ|Z|及びΔθの周波数応答特性
多くの鋼材では,塑性変形すると透磁率が大きく減少し,導電率が僅かに減少することが判っている。
【0063】
そこで,図6はこの点を前提としてショットピーニング後に深さ20μmの残留応力発生層が形成され,この残留応力発生層において透磁率が200×μ0から100×μ0に減少し,導電率が4.0×106(1/Ωm)から3.08×106(1/Ωm)に減少したものと仮定して,周波数fとΔ|Z|およびΔθの関係を計算により求めた結果である。
【0064】
同図に示したように,Δ|Z|は高周波数の領域で急激に減少する。また,Δθは減少した後に増加に転じており,Δθの減少のピークである極小値(極値)を持つことが判る。
【0065】
(b) オーステナイト鋼におけるΔ|Z|及びΔθの周波数応答特性
ステンレス鋼や焼入れ後に残留オーステナイトを含む鋼材では,塑性変形するとオーステナイトがマルテンサイトに変態するためその透磁率が増加する。
【0066】
図7は,この点を前提としてショットピーニング後に深さ20μmの残留応力発生層で透磁率が200×μ0から400×μ0に増大し,導電率が4.0×106(1/Ωm)から3.08×106(1/Ωm)に減少したものと仮定して,周波数fとΔ|Z|およびΔθの関係を計算により求めた結果である。
【0067】
同図に示したように,先の一般鋼材における結果とは逆に,Δ|Z|は高周波数の領域で急激に増加し,Δθは増加した後に減少に転じており,増加のピークである極大値(極値)を持つことが判る。
【0068】
特にfとΔθの関係(以下,f−Δθ線図と称す)は試料表面の電磁気特性の特徴に対応して著しく変化する。
【0069】
(3−2−2)残留応力の発生深さとΔθの周波数応答特性
図8は,残留応力発生層の透磁率が200×μ0から100×μ0に減少し,導電率が4.0×106(1/Ωm)から3.08×106(1/Ωm)に減少したものと仮定して,残留応力発生層の深さbが変化したときのf−Δθ線図を計算した結果である。
【0070】
残留応力発生層の深さが1〜100μm の範囲において,残留応力発生層の深さが増加すると,これに対応してf−Δθ線図が極小値を示す周波数fPが低周波数側にシフトする。
【0071】
また,残留応力発生層の深さが1〜20μm の範囲において,残留応力発生層の深さが増加すると,極小値の絶対値|ΔθP|も増加する。
【0072】
同様の計算を残留応力発生層の透磁率が
(1) 100×μ0から50×μ0に減少する場合,および,
(2) 400×μ0から200×μ0に減少する場合
の2つのパターンについて計算した結果を図9および図10に示す。
【0073】
同図で示すとおり,図9(透磁率が100×μ0から50×μ0に減少する場合)では残留応力発生層の深さが1〜150μmの範囲において,図10(透磁率が400×μ0から200×μ0に減少する場合)では残留応力発生層の深さが1〜70μmの範囲において,極小値を示す周波数fPが残留応力発生層深さの増加に対応して明らかに低周波数側にシフトしている。
【0074】
また,図9(透磁率が100×μ0から50×μ0に減少する場合)では残留応力発生層の深さが1〜40μmの範囲において,図10(透磁率が400×μ0から200×μ0に減少する場合)では残留応力発生層の深さが1〜10μm の範囲において,極小値の絶対値|ΔθP|が残留応力発生層の深さの増加に対応して増加している。
【0075】
(3−2−3)透磁率の変化とΔθの周波数応答特性
図11は透磁率の変化がf−Δθ線図に及ぼす影響を計算した結果である。
【0076】
残留応力発生層の深さが20μm,抵抗率が4.0×106(1/Ωm)から3.08×106(1/Ωm)に減少する場合において,導電率の変化が
(1) 200×μ0から50×μ0に減少する場合,
(2) 200×μ0から100×μ0に減少する場合,および
(3) 200×μ0から150×μ0に減少する場合,
の3パターンを比較している。
【0077】
透磁率の減少量が大きくなると明らかにΔθの極小値ΔθPは小さくなる。また,透磁率の変化量の大小によりΔθの極小値ΔθPが著しく変化する一方,極小値ΔθPを示す周波数fPの変化は僅かである。
【0078】
(3−2−4) 抵抗率の変化とΔθの周波数応答特性
図12は抵抗率(導電率の逆数)の変化がf−Δθ線図に及ぼす影響を計算した結果である。
【0079】
残留応力発生層の深さが20μm,透磁率が200×μ0から50×μ0に減少する場合において,透磁率の変化が
(1) ρ2(=25×10-8Ωm)から1.1×ρ2 に増加する場合,
(2) ρ2(=25×10-8Ωm)から1.3×ρ2 に増加する場合,および
(3) ρ2(=25×10-8Ωm)から1.5×ρ2 に増加する場合,
の3パターンについて比較した。
【0080】
抵抗率の増加量が大きくなるとΔθの極小値ΔθPは大きくなる。また,透磁率の変化量の大小によりΔθの極小値が著しく変化する一方,極小値を示す周波数の変化は僅かである。
【0081】
2−2.実測による対応関係の確認
以上のようにして計算によって求めた対応関係の存在は,以下に示す実験結果によっても実証される。
【0082】
(1)SKD61鋼を試料とした実測
実施例1として,微粒子ショットピーニング処理したSKD61鋼について,残留応力の発生状態とΔθ及びfPの対応関係を確認した結果を以下に示す。
【0083】
SKD61鋼(硬さ:HRC48)にショットの噴射速度を4段階に変えた微粒子ショットピーニングを施し,残留応力の発生状態が異なる4種類の試料(サンプル)を作成した。
【0084】
準備したサンプルの表面からの深さと残留応力分布をX線で調べた結果を図13に示す。
【0085】
噴射条件の相違による残留応力の発生状態について比較すると,噴射条件1が最も噴射速度が速く,大きな残留応力が最も深くまで生じている。
【0086】
噴射条件1に次いで噴射速度が速いのが噴射条件2であり,その次が噴射条件3,最も噴射速度が低いのが噴射条件4であり,図13からは,噴射速度の減少に応じて残留応力は小さくなると共に,残留応力の発生深さが浅くなっていることが判る。
【0087】
X線で残留応力測定をする前に,前記噴射条件1〜4の各試料に対し,本発明の方法を適用して得たf−Δθ線図を図14〜図17に示す。
【0088】
f−Δθ線図の形は噴射条件により明らかに異なっている。この結果から明らかなように,残留応力発生層が深くなるとΔθの極値ΔθPが出現する周波数fPは低周波数側にシフトしている。また,残留応力の大きさと深さに対応して極小値の絶対値|ΔθP|も変化していることから,前述の計算により求めた対応関係が実測によっても実証された。
【0089】
従って,非破壊検査したい試料についてf−Δθ線図を測定し,それを図14〜図17の結果と比較することによって,その残留応力の発生状態を判定できる。
【0090】
なお,その場合,極値を示す周波数fPや極小値の絶対値|ΔθP|を利用すると便利である。
【0091】
また,例えば残留応力の生じた残留応力発生層の深さの代表値として残留応力が最大値の50%となる深さをとり,これとfPとの関係を図13〜図17から求めれば図18が得られる。これは,残留応力の生じた深さを非破壊検査するための良い校正曲線となる。
【0092】
(2)SCr420鋼を試料とした実測例
実施例2として浸炭焼入れしたSCr420鋼に微粒子ショットピーニング処理したものを試料として,残留応力の発生状態とΔθ及びfPの対応関係について実測した結果を示す。
【0093】
図19は,SCr420鋼を微粒子ショットピーニング処理した前後の残留オーステナイト量の深さ分布をX線で測定した結果である。浸炭焼入れしたSCr420鋼は残留オーステナイトを含んでおり,これを微粒子ショットピーニング処理すると残留オーステナイトがマルテンサイトに変態し,その含有量が減る。
【0094】
図20は,X線測定の前に本発明の方法を適用して得たf−Δθ線図である。残留オーステナイトがマルテンサイトに変態すると透磁率が増大するので,これに対応してf−Δθ線図は極大値を持っていることが確認でき,前述の計算結果より求めたと同様の関係が存在することが実証された。
【0095】
なお,前述のように残留オーステナイトがマルテンサイトに変態すると透磁率が増大すること,及びこの透磁率の変化はf−Δθ線図の変化として現れることから,f−Δθ線図から,試料表面における残留オーステナイト含有量の変化を非破壊検査することも可能である。
【0096】
〔非破壊検査方法〕
以上,図6〜図20を参照して説明したように,検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性,一例としてこの周波数応答特性を表すf−Δθ線図には,ショットピーニングによって生じた残留応力の影響によって変化した被処理材表面の電磁気特性の特徴が明確に現れると共に,残留応力の発生状態に対応して特徴的な変化を示すことが確認された。
【0097】
特に,Δθの極値ΔθPと,この極値ΔθPが表れる周波数fPは,残留応力発生層の深さ,残留応力発生層の透磁率,抵抗率(導電率)等の電磁気的特性に対応して特徴的な変化を示すことが確認された。
【0098】
本発明の非破壊検査方法は,このような対応関係に着目し,予め残留応力の分布が判明している試料(サンプル)上に配置されたコイル(該コイルを備えた検査回路)におけるインピーダンスの周波数応答特性を,例えばf−Δθ線図として取得しておくと共に,検査対象とする試料上に配置された同様のコイル(該コイルを備えた検査回路)におけるインピーダンスの周波数応答特性を同様の方法(例えばf−Δθ線図)として得,両者におけるインピーダンスの周波数応答特性をf−Δθ線図によって比較することで,検査対象における残留応力発生状態を,検査対象の破壊を伴わずに検査するものである。
【0099】
このような本発明の方法による検査は,例えばサンプルと検査対象のf−Δ線図が許容誤差の範囲内で一致するか否かという検査として構成しても良く,例えばショットピーニング処理ラインを経たショットピーニング後の製品を検査対象とし,検査した製品の残留応力がサンプルとの比較において許容誤差の範囲にあるか否か(加工不良であるか否か)を検査するために用いることができる。
【0100】
また,残留応力の発生状態が異なる複数のサンプルを予め取得しておくと共に,残留応力の発生状態の変化,例えば残留応力の発生深さ,残留応力発生層の透磁率,抵抗率(又は導電率)の変化とf−Δθ線図の変化との対応関係を求めておくことにより,残留応力の発生状態が未知の検査対象について,残留応力発生層の深さ,残留応力発生層の透磁率,抵抗率(導電率)の検査乃至は測定を行うように構成しても良い。
【0101】
また,各サンプルにおける残留応力値(例えば表面における残留応力値)を測定し,前述の各f−Δθ曲線との対応関係を取得しておくことにより,残留応力値の測定に用いることもでき,さらに,検査対象がオーステナイト系の鋼材である場合には,オーステナイト量の変化とf−Δθ線図との変化の対応関係を記憶しておき,残留オーステナイト量の検査乃至は測定に使用するものとしても良い。
【0102】
サンプルのf−Δθ線図と検査対象のf−Δθ線図との比較において,前述のようにΔθが極値を示すΔθP及びその絶対値|ΔθP|,並びに前記極値が発生する周波数fPが残留応力の発生状態の変化に対して顕著な変化を示すことから,本発明の方法においてサンプルデータと検査対象データとの比較では,ΔθP,|ΔθP|,及びfPのいずれか1又は複数を組合せてこれを比較の際のポイントとすることもできる。
【0103】
〔非破壊検査装置〕
以上説明した非破壊検査方法を実施するための本発明の非破壊検査装置を一例として図3に示す。
【0104】
図3に示すように,本発明の非破壊検査装置は,検査回路とこの検査回路に接続された検査装置本体を備えている。
【0105】
検査回路には,検査対象であるショットピーニング後の被処理材上に配置されるコイルが設けられており,検査対象のショットピーニング処理面に対して磁界発生方向が直交方向となるように前記処理面に対して所定間隔でコイルを配置した状態で,前記コイル,より詳細には前記コイルを備えた検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性を測定することにより,検査対象に生じた残留応力の検査が行われる。
【0106】
図示の実施形態にあっては,前記検査回路はコイルと,このコイルと検査装置本体間を接続するケーブルのみによって構成されているが,本発明の目的に反しない限り検査回路中には他の要素を含めても良い。
【0107】
この検査回路に接続された検査装置本体は,図4に示すように前述の検査回路に対して交流の検査信号を出力する,発振回路等によって構成された検査信号発生手段,前述したサンプルデータを記憶するための記憶手段,検査回路におけるインピーダンスの周波数応答特性を測定するための測定手段,及び検査結果を視覚的及び/又は聴覚的に表示するCRT,液晶画面,スピーカー等の表示手段を備えると共に,これらの各手段の動作を統括的に制御する中央処理装置を備えている。
【0108】
また,この中央処理装置に対する各種指令等を入力するためのキーボード,タッチパネル等の入力手段が設けられている。
【0109】
前中央処理装置は,予め設定されたプログラム等によって規定された動作に従って前述の各手段の動作を制御するもので,この中央処理装置におけるプログラムの実行により,前記各手段の動作を制御するために必要な各種制御が実行される。
【0110】
前記中央処理装置によって実現される各手段を示した機能ブロック図を図5に示す。
【0111】
図5において,検査信号制御手段は,発振回路等である前述の検査信号発生手段に対する入力信号を変化させて,検査信号発生手段が検査回路に出力する検査信号の周波数を制御する。
【0112】
また,算定手段は,前述の測定手段によって測定された検査回路の例えばインピーダンスに基づいて,例えば前述のΔθを算出すると共に,算出されたΔθの極値ΔθP及び必要に応じてその絶対値|ΔθP|を求め,かつ,この極値ΔθPを生じた検査信号の周波数fPを特定する。
【0113】
比較手段は,前記算定手段による算出結果,例えば検査対象におけるΔθP,|ΔθP|,fP等を,前述の記憶手段に予め記憶されたサンプルデータを比較する。
【0114】
この比較手段による比較結果に基づき,判定手段は,サンプルデータと検査対象データとの一致・不一致,又はサンプルデータとして記憶手段にΔθP,|ΔθP|,fPの変化と,残留応力発生層の深さ,残留応力層の透磁率や抵抗率(導電率)等の対応関係が記憶されている場合には,この応関係に従い,残留応力発生層の深さ,透磁率,抵抗率(導電率)を判定する。
【0115】
判定手段による判定結果は,前述の表示手段に出力され,視覚的,聴覚的に表示される。例えば判定手段による判定が,サンプルデータと検査対象データとが許容誤差の範囲内にあるか否かを判定し,例えば検査対象の加工不良等を判定するものである場合には,これをスピーカーによる警告音の発生,又は警告灯の点灯等によって表示するものとしても良く,また,残留応力発生層の深さ,透磁率,抵抗率(導電率)等についても判定する場合には,CRTや液晶画面等に数値等として表示するものとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】コイルのインダクタンス解析モデルの説明図。
【図2】検査回路の等価回路。
【図3】本発明の非破壊検査装置の概略図。
【図4】検査装置本体の機能ブロック図。
【図5】中央処理装置によって実現される各手段を示した機能ブロック図。
【図6】ショットピーニング後の一般鋼材を測定対象としたΔ|Z|及びΔθの周波数応答特性の計算結果を示したグラフ。
【図7】ショットピーニング後のオーステナイト鋼材を測定対象としたΔ|Z|及びΔθの周波数応答特性の計算結果を示したグラフ。
【図8】残留応力発生層の深さを変化させた場合におけるf−Δθ曲線の計算結果を示したグラフ(μ1=100×μ0:μ2=200×μ0)。
【図9】残留応力発生層の深さを変化させた場合におけるf−Δθ曲線の計算結果を示したグラフ(μ1=50×μ0:μ2=100×μ0)。
【図10】残留応力発生層の深さを変化させた場合におけるf−Δθ曲線の計算結果を示したグラフ(μ1=200×μ0:μ2=400×μ0)。
【図11】透磁率を変化させた場合におけるf−Δθ曲線の計算結果を示したグラフ。
【図12】抵抗率を変化させた場合におけるf−Δθ曲線の計算結果を示したグラフ。
【図13】異なるショットピーニング条件で処理されたSKD61鋼の残留応力−深さ特性(X線による測定結果)を示すグラフ。
【図14】噴射条件1で加工されたSKD61鋼におけるf−Δθ線図。
【図15】噴射条件2で加工されたSKD61鋼におけるf−Δθ線図。
【図16】噴射条件3で加工されたSKD61鋼におけるf−Δθ線図。
【図17】噴射条件4で加工されたSKD61鋼におけるf−Δθ線図。
【図18】噴射条件1〜4で加工されたSKD61鋼における残留応力50%深さ−ピーク周波数fP特性を示すグラフ。
【図19】未処理及びショットピーニング処理後のSCr420鋼における表面からの深さの変化に対する残留オーステナイト体積率の変化を示すグラフ。
【図20】ショットピーニング処理後のSCr420鋼におけるf−θ特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0117】


t:時間
j:虚数単位
f:正弦波交流の角周波数
ω:正弦波交流の角周波数
μ0:空気の透磁率
μ1:試料の残留応力発生層の透磁率
μ2:試料の透磁率
σ1:試料の残留応力発生層の導電率
σ2:試料の導電率
ρ1:試料の残留応力発生層の抵抗率(=1/σ1
ρ2:試料の抵抗率(=1/σ2
b:試料の残留応力発生層の深さ
L:試料表面に置いたコイルのインダクタンス
a:コイルの半径


n:コイルの巻き数
z1:コイル下端の座標
z2:コイル上端の座標
h:コイルと試料表面の隙間(=z1
I:コイルの電流
J1:第一種ベッセル関数
R0:コイル素線の抵抗成分
C:ケーブルの容量成分
Re( ):複素数の実数部
Im( ):複素数の虚数部
【出願人】 【識別番号】000154129
【氏名又は名称】株式会社不二製作所
【識別番号】592139304
【氏名又は名称】小島 隆
【出願日】 平成18年6月22日(2006.6.22)
【代理人】 【識別番号】100081695
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 正明


【公開番号】 特開2008−2973(P2008−2973A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−173061(P2006−173061)