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【発明の名称】 熱式ガス質量流量計
【発明者】 【氏名】逢阪 光晴

【氏名】大槻 利樹

【氏名】助川 義寛

【氏名】樫尾 香織

【氏名】星加 浩昭

【氏名】徳安 昇

【要約】 【課題】温度範囲の広い排気ガス中において常に正確なガス温度やガス質量流量を測定することができる熱式ガス質量流量計を提供する。

【解決手段】熱式ガス質量流量計は加熱したホットワイヤ5からの放熱量に基づいてガス流量を測定する。前記ホットワイヤ5を加熱するために印加させる電源1と、前記ホットワイヤ5への駆動電圧をON・OFFするMOS−FET3と、前記ホットワイヤ5に流れる電流を検知するための電流検出用抵抗6と、駆動電圧が印加されていないときに微小の定電流を流す定電流回路2と、制御装置9を備えている。前記制御装置9は、前記駆動電圧が印加されているときの温度と微小の定電流が流されているときの温度とからガス温度を算出するとともに、前記ホットワイヤ5の温度がガス温度より所定の温度差だけ高くなるように前記MOS−FET3をON・OFF制御してガス流量を計測する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱した発熱センサ素子からの放熱量に基づいてガス流量を測定する熱式ガス質量流量計であって、
前記発熱センサ素子を加熱するための駆動電圧を発熱センサ素子に印加させる手段と、前記発熱センサ素子への駆動電圧をON・OFFする電流制御手段と、前記発熱センサ素子に流れる電流を検知するための電流検出用抵抗と、前記発熱センサ素子に駆動電圧が印加されていないときに、前記発熱センサ素子に微小の定電流を流す定電流手段と、前記電流制御手段のON・OFFを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記駆動電圧が印加されて発熱センサ素子が加熱されているときの発熱センサ素子の温度と前記発熱センサ素子に微小の定電流が流されているときの発熱センサ素子の温度とからガス温度を算出するとともに、前記発熱センサ素子の温度が、算出したガス温度より所定の温度差だけ高くなるように前記電流制御手段をON・OFFして駆動電圧の印加時間を制御し、該印加時間に基づいてガス流量を計測することを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項2】
請求項1に記載の熱式ガス質量流量計において、前記制御装置は、前記発熱センサ素子の温度をガス温度より所定の温度差だけ高くするための駆動電圧の印加時間とガス流量との関係が示された流量変換テーブルを有することを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項3】
請求項2に記載の熱式ガス質量流量計において、前記制御装置は、
前記発熱センサ素子の温度をガス温度より高くする温度差が複数の設定温度に変更可能であり、前記駆動電圧の印加時間とガス流量との関係が示された前記流量変換テーブルを温度差毎に有することを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項4】
請求項3に記載の熱式ガス質量流量計において、前記流量変換テーブルは3次元テーブルであることを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱式ガス質量流量計において、前記定電流手段は、前記電流制御手段からの電流が該定電流手段に逆流するのを防止するダイオードを備えていることを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の熱式ガス質量流量計において、前記制御装置は、前記発熱センサ素子への駆動電圧の印加時間を、前記電流制御手段のONとOFFの時間比であるDuty比で制御し、前記流量変換テーブルは、前記Duty比とガス流量との関係が示されていることを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項7】
請求項6に記載の熱式ガス質量流量計において、前記制御装置は、前記発熱センサ素子の加熱温度を電流制御手段のDuty比によって決まるパルス幅変調(Pulse Width Modulation)で制御することを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項8】
請求項1に記載の熱式ガス質量流量計において、前記制御装置は、A/Dコンバータを有し、前記発熱センサ素子の両端の電圧が差動増幅器を介して前記A/Dコンバータに入力され、該差動増幅器のオフセット電圧が変更可能であることを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の熱式ガス質量流量計において、前記制御装置、前記電流制御手段、前記定電流手段及び前記電流検出用抵抗は1チップLSIで構成されていることを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の熱式ガス質量流量計において、前記温度検出手段は、前記電流制御手段がOFFになる直前の前記発熱センサ素子の温度を検出することを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の熱式ガス質量流量計において、前記電流検出用抵抗は抵抗値精度が高く、温度係数が小さい固定抵抗であることを特徴とする熱式ガス質量流量計。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、気体の質量流量を測定するガス流量計、とりわけ、エンジンの吸入空気及び排気ガス等の流量計測に適した熱式ガス質量流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、排気ガスの規制が各国において厳密になってきている。ディーゼルエンジンにおいては、NOx低減を図るためにエンジン本体から排気される排気ガスの一部を吸気に環流させて再循環させる排気ガス再循環(EGR)が使用されてきている(特許文献1)。そして、排気ガスの環流量を制御するEGR制御の具体例として、特許文献2に示されるものがある。この特許文献2に示されるものでは、吸気管に設けられたガス流量計によって吸気管に流入する新気空気量を計測し、また、排気ガスを吸気管に環流させる還流管路に設けたガス流量計によってEGRガス量を計測し、それぞれのガス流量計によって計測した新気空気量とEGRガス量とから、EGR率(=EGRガス量/(新気空気量+EGRガス量))を求め、このEGR率に基づいてEGR制御を行っている。エンジンでの燃焼の安定度や、排気有害物質であるNOx、煤とのバランスをとるためには、高精度なEGR制御を行う必要がある。高精度なEGR制御を行うためには、ガス流量計によって新気空気量およびEGRガス量を正確に測定してEGR率を高精度に求めなければならない。
【0003】
従来、エンジンへの吸気量を測定するためのガス流量計としては、図7に示すような熱式ガス質量流量計が広く用いられている(特許文献3)。この熱式ガス質量流量計は、ホットワイヤ5と流体感温素子22がボディ26内部に設置され、ホットワイヤ5、流体感温素子22及び抵抗24、27でブリッジ回路25が構成されている。また、オペアンプ23等で構成されたフィードバック回路は、ホットワイヤ5の温度(Th)が流体感温素子22の抵抗値変化によって求めたガス温度(Te)より一定温度差(固定ΔTh方式)だけ高く保たれるようにホットワイヤ5に流れる加熱電流をパワートランジスタ21を介してアナログでフィードバック制御している。そして、ガスの流速が速い場合にはホットワイヤ5から奪われる熱量が多いため加熱電流が多く流されることになり、これに対して流速の遅い場合にはホットワイヤ5から奪われる熱量が少ないため加熱電流も少なく流されることになるから、この加熱電流を計測することにより空気の質量流量を計測できる。
【0004】
従来の熱式ガス質量流量計は、ホットワイヤ5と流体感温素子22が吸気ガスまたは排気ガスの流れに設置されており、ホットワイヤ5と流体感温素子22が常に吸気ガスや排気ガスの流れにさらされている。
【0005】
吸入空気を測定する場合には、エアクリーナ通過後の空気を測定するためホットワイヤ5や流体感温素子22への付着物はほとんど無いが、排気ガスを測定する場合には、排気ガスに含まれる煤やオイル等の付着が問題となる。これらがホットワイヤ5や流体感温素子22に付着すると、排気ガス等の流れがホットワイヤ5や流体感温素子22に直接触れなくなる。そのため、排気ガス等の温度が流体感温素子22に伝わりにくくなるし、また、ホットワイヤ5からの放熱が少なくなってガスの質量流量の測定に誤差が生じてしまう。
【0006】
そこで、この問題に対処するためにホットワイヤ5に関しては、特許文献4、特許文献5に示されるように、ホットワイヤ5の加熱温度を高くすることで、ホットワイヤ5に付着するオイル等を揮発させ、汚損物を付着させなくする方法が考えられている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−125382号公報
【特許文献2】特表2003−516496号公報
【特許文献3】特開2004−205528号公報
【特許文献4】特開昭59−206714号公報
【特許文献5】特開2006−170804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の熱式ガス質量流量計は、ホットワイヤ5とガス温度を計測する流体感温素子22とが吸気ガスまたは排気ガスの流れに設置されて常に吸気ガスや排気ガスの流れにさらされており、ホットワイヤ5と流体感温素子22に排気ガス等に含まれる煤やオイル等が付着することになる。ホットワイヤ5に付着した煤やオイル等はホットワイヤ5の加熱温度を高くすることで、ホットワイヤ5に付着するオイル等を揮発させ、汚損物を付着させなくすることができるが、ガス温度を計測する流体感温素子22は高温にすることができず、煤やオイル等が付着することになり、正確なガス流量を測定できなくなる。
【0009】
また、流体感温素子22より一定温度差(固定ΔTh方式)だけ温度が高くされるホットワイヤ5は、高温のガスの流量を測定する場合には、更に高温になり、ホットワイヤ5をコーティングしているガラスの融点を超えてガラスが融解することがある。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、煤、オイルを含む温度範囲の広い(−40〜600℃)排気ガス中において常に正確なガス質量流量を測定することができる熱式ガス質量流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明に係る熱式ガス質量流量計は、加熱した発熱センサ素子からの放熱量に基づいてガス流量を測定するものであり、前記発熱センサ素子を加熱するための駆動電圧を発熱センサ素子に印加させる手段と、前記発熱センサ素子への駆動電圧をON・OFFする電流制御手段と、前記発熱センサ素子に流れる電流を検知するための電流検出用抵抗と、前記発熱センサ素子に駆動電圧が印加されていないときに、前記発熱センサ素子に微小の定電流を流す定電流手段と、前記電流制御手段のON・OFFを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記駆動電圧が印加されて発熱センサ素子が加熱されているときの発熱センサ素子の温度と前記発熱センサ素子に微小の定電流が流されているときの発熱センサ素子の温度とからガス温度を算出するとともに、前記発熱センサ素子の温度が、算出したガス温度より所定の温度差だけ高くなるように前記電流制御手段をON・OFFして駆動電圧の印加時間を制御し、該印加時間に基づいてガス流量を計測することを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る熱式ガス質量流量計は、制御装置が、前記発熱センサ素子の温度をガス温度より所定の温度差だけ高くするための駆動電圧の印加時間とガス流量との関係が示された流量変換テーブルを有することを特徴としている。
【0013】
本発明では、駆動電圧を発熱センサ素子に印加して発熱センサ素子を加熱させたときの発熱センサ素子の温度と発熱センサ素子に微小の定電流を流したときの発熱センサ素子の温度とによってガス温度を算出し、従来の熱式ガス質量流量計で必要としていた流体感温素子を不要とすることができ、流体感温素子に煤等が付着することによるガス流量の誤差をなくすことができ、そして、ガス温度より所定の温度差だけ高くなるように発熱センサ素子に印加する駆動電圧の印加時間に基づいて常に正確なガス流量を測定することができる。
【0014】
本発明に係る熱式ガス質量流量計は、制御装置が、発熱センサ素子の温度をガス温度より高くする温度差が複数の設定温度に変更可能であり、駆動電圧の印加時間とガス流量との関係が示された流量変換テーブルを温度差毎に有することを特徴とし、また、流量変換テーブルが3次元テーブルであることを特徴としている。
【0015】
本発明では、発熱センサ素子の温度をガス温度より高くする温度差を複数の設定温度に変更可能であるため、ガス温度が低い場合には温度差を大きくして発熱センサ素子を高温に加熱させることができるので、発熱センサ素子に煤等が付着するのを防止することができるし、また、ガス温度が高温の場合には温度差を小さくして発熱センサ素子を加熱させたときの発熱センサ素子の温度を低くすることができるので、発熱センサ素子をコーティングしているガラス等の融解を防止できる。また、流量変換テーブルを3次元テーブルにしたものではCPUにおける流量算出処理時間を短くすることができる。
【0016】
また、本発明に係る熱式ガス質量流量計は、定電流手段が、前記電流制御手段からの電流が該定電流手段に逆流するのを防止するダイオードを備えていることを特徴としており、駆動電圧を発熱センサ素子に印加させる手段からの電流が定電流手段に逆流するのを防止できるので、定電流手段の電気的な破壊を防止できる。
【0017】
また、本発明に係る熱式ガス質量流量計は、制御装置が、発熱センサ素子への駆動電圧の印加時間を、電流制御手段のONとOFFの時間比であるDuty比で制御し、前記流量変換テーブルは、前記Duty比とガス流量との関係が示されていることを特徴としており、また、制御装置が、発熱センサ素子の加熱温度を電流制御手段のDuty比によって決まるパルス幅変調(Pulse Width Modulation)で制御することを特徴としている。
【0018】
本発明では、発熱センサ素子への駆動電圧の印加時間を、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)で制御しており、発熱センサ素子をほとんど電力損失なく駆動電圧で加熱することができ、また、車載のバッテリ電圧で熱式ガス質量流量計を動作することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る熱式ガス質量流量計は、制御装置が、A/Dコンバータを有し、発熱センサ素子の両端の電圧が差動増幅器を介して前記A/Dコンバータに入力され、該差動増幅器のオフセット電圧が変更可能であることを特徴している。本発明では、発熱センサ素子の両端の電圧が差動増幅器を介してA/Dコンバータに入力され、差動増幅器のオフセット電圧が変更可能であるため、差動増幅器のオフセット電圧を変更することによりA/Dコンバータに入力する電圧の幅を変更することができ、発熱センサ素子に高い駆動電圧を印加しても、その駆動電圧をA/Dコンバータに入力して検出することができる。また、オフセット電圧を変更するオフセット出力回路としてD/Aコンバータを使用すると、ホットワイヤの基準抵抗値のばらつきにより変わるオフッセット電圧値を任意に複数設定及び切替えすることができ、量産時には有用である。
【0020】
さらに、本発明に係る熱式ガス質量流量計は、前記制御装置、前記電流制御手段、前記定電流手段及び前記電流検出用抵抗は1チップLSIで構成されていることを特徴としており、本発明では、熱式ガス質量流量計を小型で安価に製造することができる。
【0021】
さらに、本発明に係る熱式ガス質量流量計は、温度検出手段が、電流制御手段がOFFになる直前の発熱センサ素子の温度を検出することを特徴としており、本発明では、ホットワイヤを加熱しているときの最も高い温度である、ガス温度より所定の温度差だけ高い温度を正確に検出できる。
【0022】
さらに、本発明に係る熱式ガス質量流量計は、電流検出用抵抗が、抵抗値精度が高く、温度係数が小さい固定抵抗であることを特徴としており、本発明では、ホットワイヤに流れる電流をガス温度が変更しても常に正確に検出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、駆動電圧を発熱センサ素子に印加して発熱センサ素子を加熱させたときの発熱センサ素子の温度と発熱センサ素子に微小の定電流を流したときの発熱センサ素子の温度とによってガス温度を算出し、従来の熱式ガス質量流量計で必要としていた流体感温素子を不要とすることができるので、流体感温素子に煤等が付着することによるガス流量の測定誤差をなくし、ガス温度より所定の温度差だけ高くなるように発熱センサ素子に印加する駆動電圧の印加時間に基づいて正確なガス流量を常に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る熱式ガス質量流量計について図面を用いて説明する。
図1は本発明に係る熱式ガス質量流量計の一実施形態の概略構成図を示している。1は電源であり、車載のバッテリが用いられている。電源1は発熱センサ素子であるホットワイヤ5に駆動電圧を印加して加熱させるとともに、定電流回路2を介してホットワイヤ5に電流を供給する。ホットワイヤ5に印加される駆動電圧は、電流制御手段であるMOS形電界効果形トランジスタ(MOS−FET)3によってON・OFFされ、ホットワイヤ5に供給される電流のONとOFFの時間比(以下、Duty比)が制御されて、ホットワイヤ5の温度が流量を測定しようとするガス温度Tgより所定の温度差ΔThだけ高くなるように制御されている。
【0025】
定電流回路2は、電源1からの電流をホットワイヤ5が加熱されない程度の微小の定電流にし、電圧逆流防止用ダイオード4を介してホットワイヤ5に供給する定電流手段を構成している。電圧逆流防止用ダイオード4は、MOS−FET3がONのときに電源1からの駆動電圧が定電流回路2に逆流しないためのものであり、これにより定電流回路2に逆流電流が流れるのを防止して定電流回路2の電気的破壊を防ぐことができる。
【0026】
6は電流を検出するための電流検出用抵抗であり、ホットワイヤ5の下流側の電圧V2により電流検出用抵抗6を流れている電流を算出することができる。電流検出用抵抗6は、抵抗値精度が高く、温度変化によっても抵抗値の変化の少ない温度係数が小さい固定抵抗が用いられている。
【0027】
差動増幅器7は、A/Dコンバータ18に入力される電圧を補正するためのものである。例えば、差動増幅器7へのオフッセット電圧値が500mVのときのA/Dコンバータ18の取込み電圧が取込み可能上限値が5Vであり、取込み電圧V1が高くてA/Dコンバータ18に取り込めない場合には、オフセット入力を1VにしてA/Dコンバータ18に取り込み可能な電圧に補正することができる。したがって、ホットワイヤ5に高い駆動電圧を印加しても、差動増幅器7へのオフッセット電圧値を調整することにより、駆動電圧をA/Dコンバータ18に取り込むことができるので、ホットワイヤ5の温度をより幅広くすることができ、ガス流量をより正確に、より微細に検出することができる。また、オフセット出力回路としてD/Aコンバータを使用することにより、ホットワイヤ5の基準抵抗値ばらつきにより変わるオフッセット電圧値を任意に複数設定し、オフッセット電圧値を切替えすることができ、量産時には有用である。差動増幅器8は、A/Dコンバータ19に入力される電圧を補正するためのものである。
【0028】
9は、MOS−FET3のON・OFFを制御するとともに、ガス流量を算出する制御装置(CPU)であり、非加熱時ホットワイヤ温度検出手段11、加熱時ホットワイヤ温度検出手段12、ガス温度演算手段13、印加時間制御手段14及びガス流量算出手段15を有している。
【0029】
非加熱時ホットワイヤ温度検出手段11は、ホットワイヤ5に駆動電圧を印加しておらず、定電流回路2から微小の定電流がホットワイヤ5に流されているときのホットワイヤ5の温度を検出するものである。定電流回路2から流される定電流とホットワイヤ5によって降下する電圧とからホットワイヤ5の抵抗値を算出することができ、この抵抗値によってホットワイヤ5の温度を検知することができる。非加熱時ホットワイヤ温度検出手段11には、ホットワイヤ5の上流側の電圧V1とホットワイヤ5の温度との関係が示された非加熱時温度変換テーブルを備えている。非加熱時ホットワイヤ温度検出手段11は、この非加熱時温度変換テーブルを用いてホットワイヤ5の上流側の電圧V1に基づいてホットワイヤ5の温度を検出し、ガス温度演算手段13、印加時間制御手段14に出力する。
【0030】
加熱時ホットワイヤ温度検出手段12は、駆動電圧をホットワイヤ5に印加してホットワイヤ5を加熱しているときのホットワイヤ5の温度を検出するものであり、ホットワイヤ5の上流側の電圧V1とホットワイヤ5の下流側の電圧V2とホットワイヤ5の温度との関係が示された加熱時温度変換テーブルを備えている。ホットワイヤ温度検出手段12は、この加熱時温度変換テーブルを用いてホットワイヤ5の上流側の電圧V1とホットワイヤ5の下流側の電圧V2とに基づいてホットワイヤ5の温度を検出し、ガス温度演算手段13、印加時間制御手段14に出力する。
【0031】
ガス温度演算手段13は、加熱時ホットワイヤ温度検出手段12からのホットワイヤ温度と非加熱時ホットワイヤ温度検出手段11からのホットワイヤ温度とから、すなわち、加熱したホットワイヤ5の温度から非加熱時のホットワイヤ5の温度への温度変化に基づいてガス温度を演算する。
【0032】
ここで、ガス温度の求め方について詳述する。
ホットワイヤの温度変化は次の式(1)によって表わされる。
【0033】
【数1】


【0034】
ここで、m:ホットワイヤ質量、 C:ホットワイヤ比熱
S:ホットワイヤ表面積、h:熱伝達率
:ホットワイヤ温度、T:ガス温度
そして、式(1)をTgについて解くと、式(2)になる。
【0035】
【数2】


この式(2)を離散近似で表すと式(3)になる。
【0036】
【数3】


【0037】
ここで、
T(V1):ホットワイヤを加熱していないときの電圧V1から求まるホットワイヤ温度
T(V2):ホットワイヤを加熱しているときの電圧V1と電圧V2とから求まるホットワイヤ温度
Δt:T(V2)とT(V1)の時間間隔
【0038】
また熱伝達率hはガス流量Qの関数として以下の式(4)のように表せる。
【0039】
【数4】


【0040】
ここで、λ:ガスの熱伝導率、μ:ガスの粘性係数、Q:ガス流量
Re:レイノルズ数、Nu:ヌッセルト数、d:ホットワイヤの直径、
【0041】
そして、式(3)と式(4)により時間の異なる2つのホットワイヤ温度T(V2)、T(V1)、2つのホットワイヤ温度の時間間隔Δtとその時のガス流量Qが解ればガス温度Tgを求めることができる。
【0042】
印加時間制御手段14は、ホットワイヤ5の温度がガス温度Tgより所定の温度差ΔThだけ高い温度となるようにホットワイヤ5へ印加する駆動電圧の印加時間を制御している。印加時間制御手段14には、ガス温度Tgよりホットワイヤ5の温度を高くする温度差ΔThが複数設定されている。例えば、ガス温度Tgより100℃高くする温度差ΔTh、ガス温度Tgより300℃高くする温度差ΔTh、ガス温度Tgより500℃高くする温度差ΔThが設定されている。そして、印加時間制御手段14は、複数の設定された温度差から温度差ΔThが選択されて設定された場合には、ホットワイヤ5の温度Thがガス温度Tgより温度差ΔThだけ高くするために必要な印加時間を、ONとOFFの時間比であるDuty比で演算しPWM信号10としてMOS−FET3等に出力する。また、印加時間制御手段14にはガス温度演算手段13と加熱時ホットワイヤ温度検出手段12からのホットワイヤ5の温度とが入力されており、PI制御によってフィードバック制御されている。
【0043】
本実施形態では、ガス温度Tgよりホットワイヤ5の温度Thを高くする温度差ΔThが複数設定されており、例えば、ガス温度が常温(20℃)である場合には、500℃の温度差ΔThを選択することにより、ホットワイヤ5を高温(400℃以上)に加熱することができるので、付着するオイル等を揮発させ、汚損物を付着させなくできる。また、ガス温度が600℃である場合には、100℃の温度差ΔThを選択することにより、ホットワイヤ5の温度が980℃以上となることがないので、ホットワイヤ5をコーティングしているガラス等が融解してしまうことがない。
【0044】
ガス流量算出手段15は、ホットワイヤ5に駆動電圧を印加する印加時間に基づいてガス流量を算出するものであり、ガス流量算出手段15には、Duty比とガス流量との関係が示されたDuty−流量変換テーブルが備えられている。図4に示すように、ガス温度より高くする温度差ΔThによりDuty比とガス流量との関係は異なるので、設定された温度差ΔTh毎のDuty比−流量変換テーブルが備えられている。ガス流量算出手段15は、設定した温度差ΔThによってDuty−流量変換テーブルを選択し、選択したDuty比−流量変換テーブルを用いてDuty比に基づいてガス流量を算出する。
Duty−流量変換テーブルは、図5に示す3次元テーブルを用いることにより1つのDuty−流量変換テーブルでDutyとΔThからガス流量を算出することができ、CPU9の付加を軽減できる。
【0045】
一般に気体は温度により粘性度が変わり高温になると粘性度が高まりその流量は低下する。ガス流量算出手段15で算出したガス流量を、物性補正テーブル16で、ガス温度Tgに基づいて補正して最終ガス流量17を出力する。
【0046】
図2は図1の熱式ガス質量流量計における制御装置(CPU)9での処理手順例を示しており、これにより熱式ガス質量流量計による流量測定について説明する。電源1を入れると、ステップ1では、ホットワイヤ5をガス温度Tgより高くする所定の温度差ΔTh(初期値は温度差ΔThを300℃としている。)を設定する。ステップ2では、ホットワイヤ5の温度Thをガス温度Tgより300℃だけ高い温度(Tg+300℃)にするためのDuty比を演算し、PWM信号10としてMOS−FET3に出力し、MOS−FET3がDuty比よって決まる時間だけONされてホットワイヤ5に駆動電圧が印加される。ステップ3では、MOS−FET3がONされ、駆動電圧をホットワイヤ5に印加してホットワイヤ5を加熱しているときにおける、ホットワイヤ5の上流側の電圧V1とホットワイヤ5の下流側の電圧V2とを測定する。このとき、ホットワイヤ5の上流側の電圧V1を図3に示されるようにPWM信号10がOFFされる直前のタイミングで測定する。また、MOS−FET3がOFFされ、定電流回路2から微少の定電流がホットワイヤ5に流されているときには、ホットワイヤ5の上流側の電圧V1を測定する。このとき、ホットワイヤ5の上流側の電圧V1は、図3に示されるようにPWM信号10がOFFされてΔt時間経過したタイミングで測定する。
【0047】
ステップ4では、加熱時ホットワイヤ温度検出手段12を用い、ステップ3で測定したホットワイヤ5の上流側の電圧V1と下流側の電圧V2とに基づいて加熱時のホットワイヤ5の温度Thを検出し、また、非加熱時ホットワイヤ温度検出手段11を用い、ステップ3で測定したホットワイヤ5の上流側の電圧V1に基づいて非加熱時のホットワイヤ5の温度Thを検出する。ステップ5で、ステップ4で検出した加熱時のホットワイヤ5の温度Thと非加熱時のホットワイヤ5の温度Thと1周期前のガス流量Qからガス温度Tgを演算する。
【0048】
ステップ6では、設定した所定温度差ΔTh(300℃)によってDuty−流量変換テーブルを選択し、選択したDuty比−流量変換テーブルを用いてDuty比に基づいてガス流量を算出する。ステップ7では、ステップ6で算出したガス流量を物性補正テーブル16で温度補正して最終的なガス流量を算出する。
【0049】
また、図6に示すようにホットワイヤ5以外の回路を全て1チップLSI20で構成すると、熱式ガス質量流量計を小型で安価に製造することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、各構成要素は上記構成に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る熱式ガス質量流量計の一実施形態を示す概略構成図。
【図2】本発明に係る熱式ガス質量流量計における制御装置(CPU)での処理手順例を示す図。
【図3】ホットワイヤ温度算出に必要な電圧値を測定するタイミングを示す図。
【図4】本発明に係る熱式ガス質量流量計において、ホットワイヤの温度とガス温度との温度差ΔTh毎にDuty比とガス流量との関係が異なることを示す図。
【図5】本発明に係る熱式ガス質量流量計において、ホットワイヤの温度とガス温度との温度差ΔTh、Duty比、ガス流量との関係を3次元で示した流量テーブルを示す図。
【図6】本発明に係る熱式ガス質量流量計における制御装置の他の実施形態を示し、制御装置を1チップLSIで構成したブロック図。
【図7】従来の熱式ガス質量流量計の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0052】
1…電源
2…定電流回路
3…MOS−FET
4…逆流防止用ダイオード
5…ホットワイヤ
6…電流検出用抵抗
7…差動増幅器
8…差動増幅器
9…制御装置(CPU)
10…PWM信号
11…非加熱時ホットワイヤ温度検出手段
12…加熱時ホットワイヤ温度検出手段
13…ガス温度演算手段
14…印加時間制御手段
15…ガス流量算出手段
16…物性補正テーブル
17…最終流量出力
18…A/Dコンバータ
19…A/Dコンバータ
20…1チップLSI
【出願人】 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【出願日】 平成19年2月5日(2007.2.5)
【代理人】 【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔


【公開番号】 特開2008−190999(P2008−190999A)
【公開日】 平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願番号】 特願2007−25621(P2007−25621)