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【発明の名称】 車両用スターリングエンジン
【発明者】 【氏名】阿部 誠

【氏名】山本 康

【要約】 【課題】車両に搭載したスターリングエンジンにおいて、車両走行時に作動流体の十分な冷却を図るとともに、制動時の車両の運動エネルギを温度差エネルギに変換して蓄積し、燃料経済性を向上させる。

【解決手段】車両を駆動するスターリングエンジンは2個のピストンを備えており、運転状態変更装置として、ピストン1及びピストン2の相対的な位相を変更する位相差変更機構6が設置される。また、エンジンの加熱部12には蓄熱器5が配置され、冷却部22には冷却媒体の循環回路が形成されている。車両の制動時には、位相差変更機構6によりスターリングエンジンの運転状態を切換えてヒートポンプとして作動させ、制動時の車両の運動エネルギを温度差エネルギとして蓄熱器5と冷却媒体とに蓄積する。回生された温度差エネルギは、その後の走行時に利用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、これを駆動するスターリングエンジンであって、
前記スターリングエンジンは、作動流体を加熱する加熱部と作動流体を冷却する冷却部とを備え、さらに、
前記スターリングエンジンは運転状態変更装置を備え、前記加熱部には蓄熱器が配置されるとともに前記冷却部には冷却媒体の循環回路が形成され、
前記循環回路は、冷却媒体を循環するポンプ及び冷却媒体の熱を大気に放熱する放熱器を備えており、
前記車両の通常運転時には、前記運転状態変更装置が前記スターリングエンジンをエンジン運転とするとともに、前記ポンプが駆動されて冷却媒体が循環され、
前記車両の制動時には、前記運転状態変更装置が前記スターリングエンジンをヒートポンプ運転に切換え、かつ、前記ポンプが停止され冷却媒体の循環が阻止されて、前記冷却部側の作動流体及び冷却媒体の温度を低温とし、前記加熱部側の作動流体及び前記蓄熱器の温度を高温とするよう構成されたことを特徴とするスターリングエンジン。
【請求項2】
前記循環回路にはバルブが設置されており、前記車両の制動時には、前記ポンプが停止されるとともに前記バルブが閉鎖され、冷却媒体の循環が阻止される請求項1に記載のスターリングエンジン。
【請求項3】
前記スターリングエンジンは、前記加熱部が設置されたシリンダ及び前記冷却部が設置されたシリンダを有し、それぞれのシリンダ内にはピストンが配置され、かつ、互いに連通されて作動流体が封入されており、前記冷却部が設置されたシリンダには、前記循環回路の冷却媒体が供給される液冷ジャケットが形成されている請求項1又は請求項2に記載のスターリングエンジン。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、気体状態で封入された作動流体の加熱、冷却による状態変化を利用して、熱源の有する熱エネルギを機械的な回転エネルギに変換する熱機関、いわゆるスターリングエンジンに関し、特に、車両に搭載されたスターリングエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スターリングエンジンは、作動室内に封入された作動流体を周期的に加熱及び冷却することにより状態変化を生じさせ、これを利用して高熱源から回転エネルギを取り出すようにした理論的な熱効率が高い外燃機関であって、その熱効率は、高熱源と低熱源の温度差が大きいほど増大する。外燃機関であるスターリングエンジンでは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのような内燃機関とは異なり、連続燃焼によって生じた熱を作動流体に熱伝達させこれを加熱する。したがって、燃料の燃焼状態の制御が容易で、NOx、CO等、燃焼による排気有害成分の生成量が少ないという利点がある。また、燃焼による熱に限らず、内燃機関の排熱など各種の熱源を用いることが可能であり、省エネルギ、環境対策の面でも優れた特性を有するエンジンである。
【0003】
このようなスターリングエンジンの特性を活かし、これを車両に搭載し、スターリングエンジンにより車両を駆動する技術、あるいは車両を駆動する内燃機関の排熱を熱源としてスターリングエンジンを作動させ、排熱を動力として回収する技術の開発も実施されている。近年の車両用エンジンでは、排気ガス有害成分の排出量の低減が厳しく要請されるとともに、省エネルギや石油代替燃料の使用などが求められており、スターリングエンジンは、そうした要請に応える可能性を備えた有力なエンジンの一つである。
【0004】
ところで、スターリングエンジンは、高熱源の熱から動力を発生させて低熱源に排熱を放熱するエンジンサイクルを実行するものであるが、逆に、外部動力によってスターリングエンジンを駆動してヒートポンプサイクルを実行させ、低熱源から熱を汲み上げ低熱源を冷却することが可能である。特開平8−219569号公報には、スターリングエンジンを構成する複数の機器と内燃機関とを組み合わせ、この機器の一方ではエンジンサイクルを行わせて内燃機関の排熱から動力を発生させるようにすると同時に、他方の機器では、内燃機関の動力と排熱から発生した動力により、冷凍機又はヒートポンプのサイクルを実行させるように構成された「スターリングサイクル機器」が開示されている。
【0005】
スターリングエンジンには様々な形式があり、一般的には、作動流体を加熱空間と冷却空間との間を周期的に移動させるディスプレーサを配置するものが多いけれども、上記公報に示されるスターリングサイクル機器においては、圧縮側ピストンと膨張側ピストンの2ピストンを備えた形式のスターリングエンジンが用いられる。エンジンサイクル及びヒートポンプサイクルを実施する機器では、両ピストンの位相が可変となるよう各々のピストンは遊星歯車機構によって連結されている。各ピストンの位相は、冷凍機としての負荷や内燃機関の排熱の温度条件等に応じて、それぞれのサイクルが効率的に行われる位相となるように遊星歯車機構を調整して制御される。
【特許文献1】特開平8−219569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両に作用する負荷は、車速や路面状況等、車両の走行状態に応じて大きく変動する。そのため、車両を駆動するスターリングエンジンは、熱効率の高いものであると同時に、負荷の変動に応答性良く追随できるものであることが望ましい。車両の負荷に対応させるようスターリングエンジンの出力を制御するには、加熱部に供給する燃料量を制御する方法や作動流体の平均圧力を調整する方法があるが、燃料量を制御する方法は応答性の面で劣り、平均圧力を制御する方法は、作動流体の貯蔵タンクを要するのでエンジンの重量の増加及び大型化を招く。
【0007】
また、車両を駆動するエンジンでは、車両の制動時においては、車輪から逆にエンジンを駆動し、車両の運動エネルギを消費することによって車両に制動力を加えること、つまりエンジンブレーキを作用させることが望ましい。特に、車両が坂道を下るときには、エンジンブレーキを作用させてフットブレーキ等の制動力を助勢し、フットブレーキ等に掛かる負担を軽減する必要がある。エンジンブレーキは、車両の運動エネルギをエンジンにより消費するものであるから、運動エネルギを別の形のエネルギに変換するようエンジンを作動させると、エンジンブレーキを回生ブレーキとすることも可能である。
本発明は、車両に搭載したスターリングエンジンにおいて、車両の通常走行時には熱効率の高い状態でエンジンを作動させ、制動時には、車両の運動エネルギを効率的に吸収してこれを蓄積し再加速時の利用を図るとともに、エンジンブレーキの制動効果を増大させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題に鑑み、本発明は、スターリングエンジンの作動流体を冷却する冷却部に冷却媒体を循環させて十分な冷却を図り、車両の制動時には、スターリングエンジンの運転状態を切換えてヒートポンプとして作動させることにより、冷却媒体を低温化して車両の運動エネルギをいわば「温度差エネルギ」に変換し、蓄積するものである。すなわち、本発明は、
「車両に搭載され、これを駆動するスターリングエンジンであって、
前記スターリングエンジンは、作動流体を加熱する加熱部と作動流体を冷却する冷却部とを備え、さらに、
前記スターリングエンジンは運転状態変更装置を備え、前記加熱部には蓄熱器が配置されるとともに前記冷却部には冷却媒体の循環回路が形成され、
前記循環回路は、冷却媒体を循環するポンプ及び冷却媒体の熱を大気に放熱する放熱器を備えており、
前記車両の通常運転時には、前記運転状態変更装置が前記スターリングエンジンをエンジン運転とするとともに、前記ポンプが駆動されて冷却媒体が循環され、
前記車両の制動時には、前記運転状態変更装置が前記スターリングエンジンをヒートポンプ運転に切換え、かつ、前記ポンプが停止され冷却媒体の循環が阻止されて、前記冷却部側の作動流体及び冷却媒体の温度を低温とし、前記加熱部側の作動流体及び前記蓄熱器の温度を高温とするよう構成された」
ことを特徴とするスターリングエンジンとなっている。
【0009】
請求項2に記載のとおり、前記循環回路にバルブを設置し、前記車両の制動時には、前記ポンプが停止されるとともに前記バルブが閉鎖されるようにすることができる。
【0010】
請求項3に記載のとおり、前記スターリングエンジンには、前記加熱部が設置されたシリンダ及び前記冷却部が設置されたシリンダを設け、それぞれのシリンダ内にはピストンを配置し、かつ、互いに連通して内部に作動流体を封入した形式のものとし、前記冷却部が設置されたシリンダには、前記循環回路の冷却媒体が供給される液冷ジャケットを形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
車両を駆動する本発明のスターリングエンジンは、車両の通常走行時にはエンジンサイクルが実行され、高熱源である加熱部からの熱が作動流体に伝達され、低熱源となる冷却部から放熱が行われる。冷却部には冷却媒体の循環回路が形成されており、作動流体の熱は、液体状態にある冷却媒体に伝達されるが、この熱伝達は液体への熱伝達であるから熱伝達係数が大きく、作動流体は十分に冷却される。この結果、加熱された作動流体と冷却された作動流体との温度差が増大し、スターリングエンジンは高効率状態で作動する。エンジンサイクルが実行されるときは、冷却媒体が放熱器へ循環されるため、冷却媒体に伝達された作動流体の熱は最終的には放熱器から大気中に放出される。
【0012】
車両の制動時には、運転状態変更装置によってヒートポンプ運転に切換えられる。つまり、通常走行時に加熱部からの熱によって動力を発生していたスターリングエンジンは、制動時には車両の動力伝達系を経てヒートポンプとして駆動されることとなる。制動時には、短時間の中に車両の運動エネルギを消費して車速が低下するから、スターリングエンジンをヒートポンプ運転とした際の駆動動力は非常に大きく、冷却部の作動流体の温度が急速に低下するとともに、加熱部の作動流体の温度は急速に上昇する。
【0013】
本発明のスターリングエンジンの加熱部には蓄熱器が配置されており、制動時のヒートポンプ運転に伴い、蓄熱器の温度が上昇するとともに、冷却部では冷却媒体が冷却されることとなる。ここで、冷却部においては冷却媒体を循環するポンプが停止されて冷却媒体の循環が阻止されるため、冷却媒体は、放熱器において大気中の熱を受けることによりその温度が上昇することはない。つまり、冷却媒体の温度は、車両の制動時には大気温以下に低下して、冷却部にはいわゆる「冷熱」が蓄えられた状態となる。このように、本発明においては、車両の運動エネルギは、加熱部の蓄熱器と冷却部の冷却媒体とに温度差エネルギとして蓄積する形で回生される。
【0014】
車両の制動後の再加速時には、加熱部の蓄熱器と冷却媒体に蓄えられた温度差エネルギを利用して、スターリングエンジンをエンジンとして作動させ車両を駆動する。このときには、通常時よりも加熱部の温度が上昇し、かつ、冷却部の温度は低下しており、スターリングエンジンは高熱源と低熱源の温度差が増大した状態で作動するから、その出力が増加し車両はスムースに加速される。また、加熱部に供給する燃料量を大幅に低減できるので燃料経済性が向上することとなる。
【0015】
車両が下り勾配の路面を走行するときにも、スターリングエンジンは、運転状態変更装置によってヒートポンプ運転に切換えられる。ヒートポンプとしてスターリングエンジンを駆動するために要する動力は、単にエンジンブレーキとして作用させるときに吸収する動力よりもはるかに大きく、したがって、車両には強力な制動力が働く。つまり、スターリングエンジンを、いわゆる減速装置(リターダ)として作動させることが可能であり、下り勾配の路面を走行する際のフットブレーキ等の負担が軽減される。この効果は、車両重量の大きいトラック等の大型車両では特に有効なものとなり、ブレーキ装置の過熱によるフェード現象等を防止することができる。ヒートポンプ運転中の回生エネルギが温度差エネルギに変換されて蓄熱器に蓄えられ、その後の走行時に利用されることは、前述の制動時の作動と同様である。
【0016】
請求項2の発明のように、循環回路にバルブを設置し、車両の制動時には、ポンプを停止するとともにそのバルブを閉鎖するように構成すると、車両の制動時における冷却媒体の循環を確実に防止できる。例えば、冷却媒体の温度差に起因して自然対流が生じるような場合でも、バルブの閉鎖によりその発生を阻止できる。
【0017】
スターリングエンジンには、ディスプレーサを備えたものやこれを持たないものなど種々の形式のエンジン機構がある。請求項3の発明のように、本発明のスターリングエンジンの形式として、加熱部が設置されたシリンダ及び冷却部が設置されたシリンダを設け、両シリンダにピストンを配置し、かつ、互いに連通して内部に作動流体を封入した形式の機構を採用すると、運転状態変更装置の構成が簡易なものとなる。すなわち、2個のピストンの相対的な位相を変更することによって出力を調整し、さらに、スターリングエンジンの運転状態を、エンジンの作動からヒートポンプの作動に切換えることが可能である。そして、冷却部が設置されたシリンダに、循環回路の冷却媒体が供給される液冷ジャケットを形成することにより作動流体と冷却媒体との熱伝達が改善され、エンジンサイクルとしてスターリングエンジンを作動させる際、冷却部の作動流体の温度を十分に低下させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明のスターリングエンジンについて説明する。図1は、本発明のスターリングエンジンの1実施例を示す概略図であり、図2には図1のスターリングエンジンの運転状態変更装置である位相差変更機構を示す。また、図3には図1のスターリングエンジンの運転状態を変更するための制御系統図を示し、図4にはスターリングエンジンの出力と位相との関係を表すグラフを示す。
【0019】
図1の実施例のスターリングエンジンは、並列に配置された2個のシリンダ・ピストン機構を備えたエンジン形式のもので、ピストン1が膨張側ピストン、ピストン2が圧縮側ピストンとなっている。ピストン1の上部のシリンダ空間は加熱空間11であり、ピストン2の上部のシリンダ空間は冷却空間21であって、加熱空間11と冷却空間21とは連通路3を介して連通されている。両方の空間11、21はスターリングエンジンの作動室を構成し、この中には、水素、ヘリウム等の比熱の小さい気体からなる作動流体が封入される。連通路3には、両方の空間11、12の間を移動する作動流体の熱を蓄熱しサイクル効率を上昇させる再生器を設置してもよい。
【0020】
ピストン1は、クランク軸13のクランクピンにコンロッドによって連結され、ピストン2は、同様にしてクランク軸23に連結される。クランク軸23は、車両の動力伝達装置を経て車両の駆動輪に接続されており、通常の車両走行時においては、スターリングエンジンの出力によって車両の駆動が行われる。クランク軸13にはフライホイール4が固着されている。
【0021】
加熱空間11の上部には、加熱空間11内の作動流体を加熱する加熱部12が配置されており、ここでは、図示しない燃料供給装置から供給された燃料の燃焼が行われ、加熱空間11内の作動流体が加熱される。冷却空間21の上部には、全体を符号22で示す冷却部が配置され、冷却空間21内の作動流体を冷却する。
【0022】
本発明の実施例である図1のスターリングエンジンでは、金属あるいはセラミックス等の、一定の熱容量を備えた塊状の物体からなる蓄熱器5が加熱部12内に設置される。冷却部22は、水等の冷却媒体を用いて作動流体を冷却するものであって、冷却媒体を循環するポンプ22A及び冷却媒体の熱を大気に放熱する放熱器22Bを備えた循環回路となっている。なお、冷却媒体としては水以外の液体を使用することが可能であり、例えば、温度低下による凍結を防止するためエチレングリコール等からなる不凍液を混合して用いることもできる。
この実施例では、冷却空間21内の作動流体を冷却するため、容積の大きい液冷タンク部22Cが設けられるとともに、冷却空間21のシリンダには液冷ジャケット22Dが形成してあり、冷却媒体は、ポンプ22Aにより液冷タンク部22Cと液冷ジャケット22Dとに圧送され、作動流体を冷却した後放熱器22Bに循環する。循環回路の途中にはバルブ22Eが配置されている。
【0023】
また、ピストン1が連結されたクランク軸13とピストン2が連結されたクランク軸23とは、運転状態変更装置である位相差変更機構6を介して連結されており、ピストン1とピストン2との相互の位相差が変更可能となっている。位相差変更機構6は、図2に示すように、傘歯車を用いた遊星歯車装置と類似する歯車伝動機構として構成される。位相差変更機構6の枠体61には貫通孔が形成され、この中に、環状のリング体62が回動可能に嵌め込まれている。リング体62は、径方向で内部に延びる2本の支持軸を備え、この支持軸には傘歯車63A、63Bがそれぞれ回転可能に取り付けてある。そして、ピストン1のクランク軸13には傘歯車14が一体的に固着され、かつ、ピストン2のクランク軸23には傘歯車24が一体的に固着されており、傘歯車14、24は、支持軸の傘歯車63A、63Bと噛み合っている。4個の傘歯車は全て同一形状で同一の歯数を有している。
【0024】
ピストン1が往復動しクランク軸13が矢印1Aの方向に回転すると、リング体62の位置が固定されているときは、傘歯車14によって支持軸の傘歯車63A、63Bが支持軸の周りを回転して、これに噛み合う傘歯車24を、傘歯車14とは反対方向に回転させる。そのため、ピストン2のクランク軸23は、クランク軸13の回転方向とは逆方向となる矢印2Aの方向に、クランク軸13と同一速度で回転する。このとき、リング体62の位置を矢印Cの方向に移動させると、その移動量に応じて支持軸の傘歯車63A、63Bが僅かに回転し、クランク軸13に対するクランク軸23の位相を変更することができる。つまり、リング体62の位置をアクチュエータ等を用いて調整することによって、同一周期で往復動するピストン1及びピストン2の位相差を調整することが可能となる。位相差の調整は、車両の運転者が操作するアクセルペダル及びブレーキペダルの操作状態を検出し、図3に示す制御系統図に従って実行される。
【0025】
次いで、本発明のスターリングエンジンの作動について、図3及び図4も参照しながら説明する。
車両の通常走行時においては、スターリングエンジンは車両を駆動するエンジンとして作動する。ピストン1及びピストン2の間の位相差は、位相差変更機構6によってエンジンとしての作動に最適の略90°に設定される。すなわち、エンジンサイクルの作動状態では、冷却空間21の容積が加熱空間11の容積変化よりも90°遅れた位相で変化するように設定される。加熱空間11と冷却空間21で構成される作動室内の作動流体は、作動室の容積変化に応じて両方の空間を移動しながら状態変化を繰り返すスターリングサイクルを行う。これにより、加熱部12からの熱が動力に変換され、クランク軸23から車両の駆動輪が回転駆動されることとなる。エンジンとして作動させるときは、図4に示すとおり、位相差を90°よりも小さくすると、スターリングエンジンの出力が減少する。したがって、位相差変更機構6により、スターリングエンジンの出力を制御することが可能であって、位相を調整する制御は、加熱部12に供給する燃料量を調整するものと比べ、応答性の優れた制御が実現できる。
【0026】
スターリングサイクルを実行する車両の通常走行時では、冷却部22においては、ポンプ22Aが駆動されてバルブ22Eが開放される。ポンプ22Aにより冷却媒体が液冷タンク部22Cと液冷ジャケット22Dとに圧送され、液体状態にある冷却媒体が、主に冷却空間21内に存在する膨張後の作動流体を冷却する。この冷却は液体への熱伝達により行われ、また、液冷ジャケット22Dは冷却空間21の近傍にこれを取り巻くように形成されているので、作動流体が十分に冷却される結果、加熱された作動流体と冷却された作動流体との温度差が増大し、スターリングエンジンは高効率状態で作動する。
【0027】
車両の制動時には、フットブレーキのブレーキペダルの操作に伴い、ブレーキ系統の油圧が上昇する。油圧の上昇を感知して、位相差変更機構6がピストン1とピストン2の位相を切換え、冷却空間21の容積が加熱空間11の容積変化よりも90°進んだ位相で変化するように設定する。この切換えにより、作動流体の状態変化は、いわゆる逆スターリングサイクルとなって、スターリングエンジンはヒートポンプとして作動する。制動時には車両の運動エネルギを短時間の中に消費するから、駆動輪からスターリングエンジンに大きな動力が供給され、冷却空間21が低温となると同時に加熱空間11が高温となる。
【0028】
そして、車両の制動時には、冷却部22においてはポンプ22Aが停止されるとともにバルブ22Eが閉鎖されて冷却媒体の循環が阻止され、冷却媒体は液冷タンク部22Cと液冷ジャケット22Dとに滞留する。冷却空間21が低温となると冷却媒体の温度が低下し、冷却媒体の循環の阻止により放熱器22Bから大気中の熱が入り込むことが防止されているので、冷却媒体の温度は大気温以下に降下して「冷熱」が蓄積される。この実施例では、液冷タンク部22Cの容積が大きく設定されており、大量の「冷熱」の蓄積が可能である。一方、加熱空間11が高温となると蓄熱器5も高温となり、ここに熱エネルギが蓄積される。こうして、車両の制動時には車両の運動エネルギが温度差エネルギに変換され、蓄熱器5と冷却媒体と蓄えられる。
【0029】
車両の制動時に蓄えられた温度差エネルギは、車両の再加速時に利用される。つまり、再加速時には位相差変更機構6が切換えられ、ピストン1とピストン2の位相はエンジンサイクルを実行する位相状態となるが、このときに、蓄熱器5と冷却媒体に蓄えられた温度差エネルギでスターリングエンジンが稼動する。蓄熱器5と冷却媒体との温度差は通常の走行時よりも増大しているので、スターリングエンジンは、車両の加速に見合う大きな出力を発生することができる。また、蓄積された温度差エネルギを使用するため、加熱部に供給する燃料量を大幅に低減できる
【0030】
車両が下り勾配の路面を走行するときにも、運転者のブレーキペダルの操作に伴い、位相差変更機構6によりスターリングエンジンをヒートポンプ運転に切換える。ヒートポンプとしてスターリングエンジンを駆動するための動力は、エンジンブレーキとして作用させるときに吸収する動力よりもはるかに大きいので、車両には強力な制動力が働き、フットブレーキ等の負担を軽減することができる。下り勾配の路面の走行中に温度差エネルギとして回生されたエネルギは、制動後の場合と同様、その後の車両走行に利用される。
【0031】
図3に、このような制御を実施するときの制御系統を示す。位相差変更機構を制御する電子制御装置(ECU)には、車両のアクセルペダルの位置信号と、ブレーキ装置の圧力信号とが入力される。アクセルペダルが踏み込まれていれば、ECUは、スターリングエンジンがエンジンとして作動するように位相差変更機構のリング体の位置を調整し、両ピストンの位相をエンジン作動に最適なものとする。アクセルペダルの位置に応じて出力を変更するよう位相差変更機構を制御することもできる。また、ブレーキペダルが踏み込まれたときは、これをブレーキ系統の圧力センサで検出し、ECUは、スターリングエンジンがヒートポンプとして作動するように位相差変更機構の位置を切換える。
【0032】
ところで、スターリングエンジンをヒートポンプ運転に切換えるには、エンジン自体を逆転させる方法もある。つまり、スターリングエンジンの出力軸に逆転可能な伝動装置を運転状態変更装置として配置し、スターリングエンジンをヒートポンプ運転に切換えるときは、スターリングエンジンを逆転させるように構成してもよく、この方法は種々の形式のスターリングエンジンに適用できる。このときの運転状態変更装置としては、出力軸の回転数を入力軸の回転数に対して連続的に変更可能であり、逆転させることも可能な伝動装置(このような伝動装置は、例えば特開2001−124166号公報に開示されている)が好ましい。
【0033】
図5は、エンジンを逆回転させてヒートポンプ運転を行わせる、本発明のスターリングエンジンの別実施例を示すものである。この実施例におけるスターリングエンジンの基本的な機器の構成は、図1に示す実施例のものと同一であって、対応するものには同一の符号が付してある。ただし、ピストン1とピストン2とは一体のクランク軸に連結され、その位相は、エンジンとしての作動に最適な位相に固定される。運転状態変更装置としては、出力軸回転数が入力軸回転数に対して連続的に変更可能であり、逆転させることも可能な伝動装置7がクランク軸の出力部分に置かれている。制動時等にヒートポンプ運転を行わせる場合は、スターリングエンジンを逆転させると、図1の実施例のものと同様な作動を実現することができる。
【0034】
以上詳述したように、本発明は、車両に搭載したスターリングエンジンにおいて、車両の制動時等にはスターリングエンジンの運転状態を切換えてヒートポンプとして作動させ、車両の運動エネルギを温度差エネルギに変換して、蓄熱器及び冷却媒体に蓄積するものである。上記の実施例では、膨張ピストンと圧縮ピストンの2ピストンを備えたスターリングエンジンについて述べているが、本発明は、例えば、一方のピストンをディスプレーサとし他方のピストンを出力を取り出すパワーピストンとした形式のスターリングエンジンなど、多種の形式のエンジンに適用できることは明らかである。また、傘歯車を用いる位相差変更機構に代え他の機構の位相変更手段を使用する等、実施例に対し種々の変更が可能であることも言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のスターリングエンジンの1実施例を示す概略図である。
【図2】図1のスターリングエンジンの位相差変更機構を示す図である。
【図3】図1のスターリングエンジンの制御系統図である。
【図4】図1のスターリングエンジンの出力と位相との関係を表すグラフである。
【図5】本発明のスターリングエンジンの別実施例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ピストン(膨張側ピストン)
11 加熱空間
12 加熱部
13 クランク軸
2 ピストン(圧縮側ピストン)
21 冷却空間
22 冷却部
22A ポンプ
22B 放熱器
22C 液冷タンク部
22D 液冷ジャケット
22E バルブ
23 クランク軸
3 連通路
5 蓄熱器
6 位相差変更機構
62 リング体
63A、63B 傘歯車
7 逆転可能伝動装置
【出願人】 【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
【出願日】 平成18年9月19日(2006.9.19)
【代理人】 【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純

【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆

【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子


【公開番号】 特開2008−75463(P2008−75463A)
【公開日】 平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願番号】 特願2006−252683(P2006−252683)