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【発明の名称】 カチオン可染ポリエステル杢調意匠糸
【発明者】 【氏名】川村 兼司

【要約】 【課題】自然な外観、改善された杢調を呈する布帛を得るのに適した、カチオン可染性による優れた染色鮮明性と繊維長方向に適度な繊度斑をもったポリエステル杢調意匠糸(斑糸)及びそれを含む混繊複合糸、織編物等を提供する。

【解決手段】特定のスルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜6.0モル%共重合した極限粘度0.6以上の改質ポリエステルかたなるカチオン可染ポリエステルフィラメントで、ウースター斑が2〜25%である繊維長さ方向に太細斑を有するカチオン可染ポリエステル杢調意匠糸。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)によって表されるスルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜6.0モル%共重合した極限粘度0.6以上の改質ポリエステルからなるカチオン可染ポリエステルフィラメント糸であって、各フィラメントのウースター斑が2〜25%である繊維長さ方向に太細斑を有する斑糸で構成されていることを特徴とするカチオン可染ポリエステル杢調意匠糸。
【化1】


【請求項2】
請求項1記載のカチオン可染ポリエステル杢調意匠糸と該ポリエステル杢調意匠糸との沸水収縮率差が2%以上のポリエステルフィラメント糸とを引き揃えて混繊したことを特徴とするカチオン可染ポリエステル混繊複合糸。
【請求項3】
請求項1に記載のカチオン可染ポリエステル杢調意匠糸又は請求項2に記載のポリエステル混繊複合糸の少なくとも一方を構成糸として含むことを特徴とする織編物。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン染料での染色による優れた染色鮮明性と、布帛形成時の自然な杢調外観を呈するように適度な繊度斑を付与してなるポリエステル杢調意匠糸及びそれを含む混繊複合糸並びにその織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の天然繊維に比べ、合成繊維、特にポリエステル繊維が根源的に持つ課題として、その工業的製法による品質の均一性による工業製品的外観がある。これを解決する方法として、ポリエステルフィラメントに繊度斑を意図的に付与した斑糸(シックアンドシン・ヤーン)を製造し、これを布帛形成に用いることによって製品に自然な外観を付与することが行われてきた(例えば、下記特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
また、一方でポリエステル繊維はその特徴とする白度、染色鮮明性により衣料用合成繊維としての要求が多く、今日でも大量に製造されている代表的合成繊維である。その拡大に伴い商品の差別化を図るために、染色時の染色性を改善する方法が数多く提案されており(例えば、下記特許文献3参照)、なかでも、汎用的に用いられている分散染料可染性ポリエステル繊維との異染性を求めた、カチオン染料による可染性(本発明では「カチオン可染」という)の付与はその代表例であり、カチオン可染ポリエステルからなる繊維が製造されている。特にカチオン染料による染色では、分散染料によるそれに比べ、染色後の鮮明性と発色性に優れることから鮮やかな外観を呈することができる。また、分散染料によって染色される汎用ポリエステル糸とカチオン可染ポリエステル糸とを用い、交編・交織による生機形成後に、分散染料とカチオン染料とを用い同浴で異色に染色する手法は、生産効率上、優れた加工手法として重要視されつつある。
【0004】
これら技術的背景において、自然な杢調外観とカチオン染色による鮮明性は、近年のファッション衣料分野の個性発現や、スポーツ衣料分野での明るいイメージを訴求するには両立すべき課題である。
【0005】
しかしながら、従来のカチオン可染ポリエステル糸の製造技術と良好なシックアンドシン構造をもつ杢調意匠糸(以下「斑糸」ということがある)の製造技術では、模擬的なカチオン杢調外観布帛を得ることは出来ても、十分な実用的レベルといえる意匠性に富んだ布帛を得ることは出来なお。この原因はカチオン可染性ポリエステル繊維の場合、繊維長方向に太さ斑を付与するのが極めて難しいからに他ならない。このため、実用上かつ商業上十分な性能を持ち合わせたカチオン可染ポリエステル斑糸が未だ存在せず、その実現が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特公平01−43045号公報
【特許文献2】特公平03−79450号公報
【特許文献3】特公昭58−38550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記背景技術に鑑みなされたもので、その第1の目的は、人工的な外観が改善された、優れた染色発色性と天然繊維様の自然な外観、杢調を呈するカチオン可染ポリエステル斑糸を提供することにあり、他の目的は、これを用いた混繊複合糸及びその織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記課題は以下の如きカチオン可染ポリエステル杢調意匠糸並びにカチオン可染ポリエステル混繊複合糸及びそれを含む織編物によって達成される。
【0009】
〔1〕下記一般式(I)によって表されるスルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜6.0モル%共重合した極限粘度0.6以上の改質ポリエステルからなるカチオン可染ポリエステルフィラメント糸であって、各フィラメントのウースター斑が2〜25%である繊維長さ方向に太細斑を有する斑糸で構成されていることを特徴とするカチオン可染ポリエステル杢調意匠糸。
【化1】


〔2〕上記〔1〕のカチオン可染ポリエステル杢調意匠糸とポリエステル杢調意匠糸との沸水収縮率差が2%以上のポリエステルフィラメントを引き揃えて混繊したことを特徴とするカチオン可染ポリエステル混繊複合糸。
〔3〕上記〔1〕のカチオン可染ポリエステル杢調意匠糸及び/又は上記〔2〕のポリエステル混繊複合糸を構成糸として含むことを特徴とする織編物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカチオン可染性を有するポリエステル斑糸によれば、優れた染色発色性と天然繊維様の自然な外観、杢調を呈する布帛を提供することができる。また、これと沸水収縮率差が2%以上のポリエステルフィラメント糸とを混繊した複合糸は、これを織編物として染色工程等で熱が加わると適度な膨らみのある風合いの良好な布帛となる。
従って、本発明によるカチオン可染ポリエステル斑糸及び/又はそれを含む混繊複合糸を構成糸として含む織物や編物は、特に意匠性が求められる衣料分野の素材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、カチオン可染性を有するポリエステル斑糸と、それを用いた混繊複合糸及び織編物に分けて、詳細に説明する。
【0012】
<カチオン可染ポリエステル斑糸>
本発明のカチオン可染性を有するポリエステル斑糸は、後述するスルホン酸4級ホスホニウム塩が0.1〜6.0モル%共重合されており、かつ極限粘度(25℃オルソクロロフェノール溶液で測定)が0.60以上、好ましくは0.64〜0.80の改質ポリエステルポリマーで構成されており、各フィラメントのウースタ度ー斑が2〜25%、好ましくは6〜13%、であるような繊維長さ方向に太細斑を有することを特徴としている。
【0013】
本発明におけるポリエステルは、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレート又はトリメチレンテレフタレートであるポリエステルを主たる対象とする。かかるポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲内であれば、他の成分、例えばフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバチン酸、ナフタレンジカルボン酸、ブチレングリコール等を共重合してもよい。また、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増泊剤、艶消剤、整色剤、消泡剤その他の添加剤を含んでもいてもかまわない。
【0014】
かかるポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、通常、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造される。
【0015】
本発明においては、斑糸形成ポリマーとして、上記ポリエステルにスルホン酸4級ホスホニウム塩を0.1〜6.0モル%共重合した極限粘度0.6以上の改質ポリエステルを使用することが重要である。ここで共重合成分となるスルホン酸4級ホスホニウム塩は、下記一般式(I)で表わされる化合物である。
【0016】
【化2】


上記一般式(I)中、Aは芳香族基又は脂肪族基を示し、なかでも芳香族基、特ににベンゼン環が好ましい。X1はエステル形成性官能基を示し、その具体例としてカルボキシル基又はその誘導体等をあげることができる。X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を示し、なかでもエステル形成性官能基であることが好ましい。そして、R1、R2、R3及びR4はそれぞれアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一又は異なる基を示す。nは正の整数であり、好ましくは1又は2である。
【0017】
かかるスルホン酸4級ホスホニウム塩は、一般に、対応するスルホン酸とホスフィン類との反応又は対応するスルホン酸金属塩とホスホニウムハライド類との反応により容易に合成できる。
【0018】
上記スルホン酸4級ホスホニウム塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3−カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、4−ヒドロキシエトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、α−テトラブチルホスホニウムスルホコハク酸等をあげることができる。上記スルホン酸ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0019】
上記スルホン酸4級ホスホニウム塩をポリエステルに共重合するには、既に述べたポリエステルの合成が完了する以前の任意の段階で、好ましくは第1段の反応が終了する以前の任意の段階で添加すればよい。
【0020】
スルホン酸4級ホスホニウム塩をポリエステルに共重合させる割合は、ポリエステルを構成する二官能性カルボン酸成分(スルホン酸塩を除く)に対して0.1〜〜10モル%の範囲が適当であり、特に0.5〜10モル%の範囲が好ましい。共重合割合が0.1モル%より少いと、得られる共重合ポリエステルのカチオン染料に対する染色性が不充分になる傾向があり、10モル%より多くなるとカチオン染料による染色性はもはや著しい向上を示さず、かえってポリエステル繊維の物性が低下するため、本発明の目的を達成し難くなる。
【0021】
本発明では、上記改質ポリエステルを製造する際に、上記一般式(I)で表わされるスルホン酸4級ホスホニウム塩と共に少量の下記一般式(II)で表わされるスルホン酸3級ホスホニウム塩を併用すると、その重合過程における分解反応が抑制され、得られる改質ポリエステル及びそれよりなる繊維の色調が極めて良好になるので、好ましい。
【0022】
【化3】


上記一般式(II)式中、Bは上記一般式(I)におけるAと同様に、芳香族基又は脂肪族基を示し、なかでも芳香族基が好ましい。X3は上記一般式(I)におけるX1と同様に、エステル形成性官能基を示し、その具体例としてカルボキシル基又はその誘導体等をあげることができる。X4は上記一般式(I)におけるX2と同様に、X3と同一もしくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を示し、なかでもエステル形成性官能基であることが好ましい。また、R5、R6及びR7は、上記一般式(I)におけるR1、R2及びR3と同様に、それぞれアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一又は異なる基を示す。そして、nは正の整数である。
【0023】
かかるスルホン酸3級ホスホニウム塩は、例えば対応するスルホン酸金属塩と3級ホスホニウムハライド類との反応により容易に合成できる。
上記スルホン酸3級ホスホニウム塩の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリエチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリプロピルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリフェニルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリベンジルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリヘキシルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリオクチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸トリシクロヘキシルホスホニウム塩等をあげることができる。
【0024】
かかるスルホン酸3級ホスホニウム塩の使用量は、あまりに少ないと改質ポリエステルが黄褐色に着色することを防止する効果が不十分になり、あまりに多くても、着色防止効果は飽和し、かえって物性特に耐熱性を悪化させることがあるので、上記スルホン酸4級ホスホニウム塩に対して0.5〜10モル%の範囲が適当であり、特に1〜4モル%の範囲が好ましい。このスルホン酸3級ホスホニウム塩の添加時期はスルホン酸4級ホスホニウム塩と同様に、ポリエステルの合成が完了する以前の任意の段階で添加すればよく、スルホン酸4級ホスホニウム塩と同時に添加しても、別々に添加してもよい。また、上記スルホン酸4級ホスホニウム塩の製造段階において、スルホン酸3級ホスホニウム塩が副生して、生成スルホン酸4級ホスホニウム塩の中に一部残存することがある。この場合精製条件を制御して残存するスルホン酸3級ホスホニウム塩の量を上記範囲にすれば、別に使用しなくてもよい。
【0025】
本発明では、改質ポリエステルを製造するに当って、第4級オニウム塩を添加するのが好ましい。かかる第4級オニウム塩としては第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩等があり、具体的には第4級アンモニウム塩としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、沃化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトライソプロピルアンモニウム、塩化テトライソプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラフェニルアンモニウム、塩化テトラフェニルアンモニウム等が例示される。また、第4級ホスホニウム塩としては、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等が例示される。
【0026】
上記第4級オニウム塩の使用量、上記スルホン酸ホスホニウム塩の合計に対して0.1〜20モル%の範囲が好ましく、なかでも1〜10モル%の範囲が特に好ましい。
かかる第4級オニウム塩の添加時期は上記ポリエステルの合成が完了するまでの任意の段階でよく、例えばポリエステルの原料中に添加しても、第1段階の反応中に添加しても、第1段階の反応終了後から第2段階の反応開始までの間に添加しても、第2段階の反応中に添加してもよい。
【0027】
第4級オニウム塩と上記スルホン酸ホスホニウム塩との添加順序は任意でよく、両者を予め混合した後に添加することもできる。また、スルホン酸ホスホニウム塩の製造に際して、第4級ホスホニウムハライド等の第4級ホスホニウム塩とスルホン酸金属塩との反応による合成方法を採用することがあり、その場合は原料の第4級ホスホニウム塩が反応生成物であるスルホン酸ホスホニウム塩の中に残存することがある。かかる場合には別に第4級ホスホニウム塩を添加することを要さず、この残存第4級ホスホニウム塩を利用することもできる。
【0028】
上記一般式(I)で表される、ポリエステルポリマーは、スルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜6.0モル%、好ましくは0.5〜3.0モル%共重合されており、極限粘度(25℃オルソクロロフェノール溶液で測定)は0.60以上、好ましくは0.64〜0.80であることが望まれる。
【0029】
特に極限粘度は、製糸後の斑加工性に強く影響し、0.60未満では、十分なウースター斑を得ることができない。衣料用として十分な意匠性を発現するレベルのウースター斑を得るには、製糸原料のポリマー段階で極限粘度が0.64以上であることが好ましい。極限粘度が0.64以上であれば、製糸、製織後の加工工程において、染色により優れた濃淡差を発現し、斑感に優れた布帛を得ることが出来る。
【0030】
本発明のカチオン可染性を有するポリエステル斑糸のウースターテスターでの斑(ウースター斑)は2〜25%、好ましくは6〜13%の範囲にあることが必要である。ウースター斑が2%未満では布帛形成後の杢感が不十分で、斑感が布帛のところどころで異なった色調斑を呈し、著しく布帛品位を低下させる。逆に、ウースター斑が25%を超えると、該カチオン可染ポリエステル糸そのものの沸水収縮率が大きくなってしまい、布帛形成やその後の加工工程において巾入りが大きいことによる収縮斑を布帛表面に発現し易く、取扱いが難しくなる。
【0031】
本発明のカチオン可染ポリエステル斑糸を製造する方法は任意であり、従来公知の斑糸の製糸方法を適宜採用すればよい。例えば、上記の如きカチオン可染性の改質ポリエステルからなる未延伸糸を、その自然延伸倍率以下の延伸倍率で延伸する方法、延伸倍率を強制的に変化させる方法、延伸中に不均一な熱処理を行う方法、延伸時に圧縮空気等を吹付ける方法等を例示することができる。また、延伸前の未延伸(部分配向)糸を適正な条件で経時させることにより、繊維長方向の太さ斑を効果的に発生させることもできる。
【0032】
なお、本発明のカチオン可染性を有するポリエステル斑糸の単糸繊度は1.0〜9.0dtexの範囲が適当であり、合計の総繊度については製糸、加工工程において不具合を示さない限り特に限定されない。また、その単糸断面形状は円形に限らず、楕円形、扁平形、三葉形(トライローバル)、多葉形(マルチローバル)でもよく、また、中空部を有する中空糸であってもよい。
【0033】
<混繊複合糸>
本発明のカチオン可染性を有するポリエステル斑糸はそれだけで使用することもできるが、それとは沸水収縮率が異なるポリエステルフィラメント糸、特に高収縮ポリエステルフィラメント糸と引き揃えて混繊した複合糸として使用するのが好ましい。本発明のカチオン可染性を有するポリエステル斑糸と該斑糸と沸水収縮率が異なる高収縮ポリエステルフィラメント糸と引き揃えて混繊複合糸を製造する場合、本発明のカチオン可染ポリエステル斑糸と相手方のポリエステルフィラメント糸との沸水収縮率差は2%以上、好ましくは5%以上であることが好ましい。沸水収縮率差が2%未満では、混繊複合糸を構成する相手方の繊維との収縮差が不十分となり、得られる布帛の膨らみ感が不十分となって目的とする良好な風合が得られない。沸水収縮率差が2%以上であれば布帛に膨らみ感を実現することができ、さらに5%以上であれは衣料用途として優れた膨らみ感を付与することができ、かつ風合いも良好な布帛を作製することが可能となる。
【0034】
相手方の高収縮ポリエステルフィラメント糸の単糸繊度は0.5〜3.5dtexの範囲が適当である。また、その単糸断面形状は円形に限らず、楕円形、扁平形、三葉形(トライローバル)、多葉形(マルチローバル)でもよく、また、中空部を有する中空糸であってもよい。
【0035】
本発明の異収縮混繊複合糸は、熱処理により低収縮繊維が糸表面に張出すことになるので、その単糸繊度は小さいほど、膨らみ感やソフトな表面タッチの風合が良好となり好ましい。従って、低収縮繊維としてカチオン可染ポリエステル斑糸を使用する場合、その単糸繊度は0.1〜2dtexとするのが特に好適である。
上記のカチオン可染ポリエステル斑糸と該斑糸と沸水収縮率が2%以上異なる高収縮ポリエステルフィラメント糸との複合比は、重量比にして、15/85〜85/15の範囲が好ましい。
【0036】
カチオン可染ポリエステル斑糸と組み合わせる他の糸は、通常のポリエチレンテレフタレートからなる高収縮フィラメント糸でよく、かかる組み合わせの場合は、染色時に分散染料とカチオン染料とを用い同浴で異色に染色することで構成単糸が2種の色に染め分けられ、かつカチオン可染ポリエステル斑糸のシックアンドシン効果と相まって、特に意匠性に優れた複合糸又は織編物となる。
【0037】
上述した低収縮繊維と高収縮繊維とを混繊する方法も特に限定されず、従来公知の方法が任意に採用できる。例えば、引き揃えられた糸を空気交絡処理装置に通し、両方の繊維をよく混繊交絡させて複合糸とすればよい。混繊交絡加工時のオーバーフィード率は0.1〜2%が好ましい。
【0038】
また、本発明によるカチオン可染ポリエステル斑糸及び/又はそれを含む混繊複合糸を構成糸として含む織物や編物は、それ自体公知の方法で製織・製編し、必要に応じて、さらに精錬・染色することにより生産することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各例中における部及び%は特に断らない限り、それぞれ重量部及び重量%を意味する。また、各例中に示す各評価項目は下記の方法で測定した。
【0040】
<沸水収縮率>
JIS L1013「化学繊維フィラメント試験方法」収縮率測の熱水収縮率A法に従って測定した。
<ウースター斑>
繊維長方向における繊維径の変化を、イヴネステスターを用い、ノーマルテストにより測定した。
<杢外観>
染色布帛の杢外観について、5名のパネラーによる官能検査により、優、可、不可の3段階評価を行った。
【0041】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸マンガン4水塩0.03部(テレフタル酸ジメチルに対して0.024モル%)、整色剤として酢酸コバルト4水塩0.009部(テレフタル酸ジメチルに対して0.007モル%)、テレフタル酸ジメチルに対して1.0モル%の量の3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラ−n−ブチルホスホニウム塩及びテレフタル酸ジメチルに対して0.050モル%の量のテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドをエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下3時間かけて140℃から220℃まで昇温して生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応させた。続いて得られた生成物に安定剤として正リン酸の56%水溶液0.03部(テレフタル酸ジメチルに対して0.003モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールの昇温追出しを開始した。10分後重縮合触媒として三酸化アンチモン0.04部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加した。内温が240℃に達した時点でエチレングリコールの追出しを終了し、反応生成物を重合缶に移した。
【0042】
次いで、昇温しながら内温が260℃に達するまで常圧反応させた後、1時間かけて760mmHgから1mmHgまで減圧し、同時に1時間30分かけて内温を280℃まで昇温した。1mmHg以下の減圧下、重合温度280℃でさらに2時間重合した時点で窒素ガスにより真空を破って重合反応を終了し、窒素ガス加圧下に280℃のポリマー吐出を行った。
得られたポリマーの軟化点(SP)は253.5℃、ジエチレングリコール含有量(DEG含量)は1.68、吐出10分後の極限粘度([η]10)は0.672、吐出60分後([η]60)は0.648であった。
【0043】
このポリマーを常法に従ってチップ化し、乾燥後、孔径0.25mmの円形吐出孔を36個穿設した紡糸口金を使用して、最高300℃で溶融し、引取り速度2200m/minで紡糸して、126dtex/36filの半延伸糸を得た。該未延伸糸を表1に示す延伸倍率で加熱半延伸し、熱セットして固定化して目的とするカチオン可染性を有するポリエステル斑糸を得た。
得られたカチオン可染ポリエステル斑糸は、全繊度84dtex、強度2.8cN/dtex、伸度55%であった。また紡糸・延伸工程での工程調子は優れており、該ポリエステル斑糸は毛羽もなく品位も良好であった。このポリエステル斑糸の物性は表1に示すとおりであった。
【0044】
このカチオン可染ポリエステル斑糸よりなる布帛(平織物)をカチオン染料:Catilon CD-FRLH/Catilon Blue CD-FBLH=1/1(保土谷化学(株)製)を2%owf含む染浴(助剤として芒硝3g/L、酢酸0.3g/Lを含む)により120℃にて60分間染色した。染色後の布帛の評価結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2〜3及び比較例1]
実施例1と同様の製法で、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラ−n−ブチルホスホニウム塩の添加量のみ、表1に示す通りに変更して、同様にポリエステル斑糸の製造を実施した。得られたポリエステル斑糸の物性及び布帛での評価結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2〜3]
実施例2と同様の製法で、重合缶内で昇温しながら内温が260℃に達するまで常圧反応させた後、1時間かけて760mmHgから1mmHgまで減圧し、同時に1時間30分かけて内温を280℃まで昇温した。1mmHg以下の減圧下、重合温度280℃で、重合途中段階で重合終了し、実施例2に比べ低い極限粘度を示すポリマーを得た。その後の製法については実施例1に同一とした。その結果を表1に示す。
【0047】
[比較例4〜5]
実施例1の方法で、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラ−n−ブチルホスホニウム塩及びテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドの代わりに、ジメチル−5−スルホイソフタル酸ナトリウムと安息香酸を用い、同様に重合反応を行った。得られたポリマーを実施例1と同様の方法で製糸し、布帛評価した結果を表1に示す。これらの実験結果から、ポリエステルに共重合させるカチオン可染剤がナトリウム塩では十分なシックアンドシン構造が実現できないことが確認された。
【0048】
【表1】


【0049】
[実施例4]
実施例1のカチオン可染ポリエステル斑糸(繊度:84dtex/36fil,沸水収縮率:13.5%)と通常の高収縮ポリエチレンテレフタレートマルチフラメント糸(繊度:84dtex/24fil、沸水収縮率:29.6%)とを引き揃え、空気交絡処理装置を用いて混繊交絡させて複合糸を製造した。その複合糸を用いて平織物を作成した。この織物を実施例1と同じカチオン染料と分散染料:Kayalon-P/Navy Blue R-SF(日本化薬製)、の両方を含む染浴で120℃にて60分間染色した。その結果、膨らみのある杢調で意匠性の優れた染色布帛が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のカチオン可染性を有するポリエステル斑糸によれば、適度な膨らみ感を有しながら、杢調で意匠性の優れた織編物(繊維製品)を安定して提供することができるので、これらの分野で特に有用である。
【出願人】 【識別番号】302011711
【氏名又は名称】帝人ファイバー株式会社
【出願日】 平成19年3月22日(2007.3.22)
【代理人】 【識別番号】100099678
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 秀子


【公開番号】 特開2008−231625(P2008−231625A)
【公開日】 平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願番号】 特願2007−74765(P2007−74765)