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【発明の名称】 シートベルト用ポリエステル繊維
【発明者】 【氏名】佐藤 佳史

【氏名】稲垣 信久

【氏名】奥村 由治

【要約】 【課題】本発明は、高強度で、ニードル織機において高密度に織り込まれる前後の交絡変化が小さく、かつ原糸の強力保持率と工程通過性に優れ良好な交絡特性を有するシートベルト用ポリエステル繊維を提供する。

【解決手段】繊度1000〜2000dtex、単糸繊度5〜20dtexのポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維の引裂長をL1(cm)とし、2cN/dtexの張力をかけて緊張処理した後の引裂長をL2(cm)としたときに、以下の関係を満足することを特徴とするシートベルト用ポリエステル繊維である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度1000〜2000dtex、単糸繊度5〜20dtexのポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維の引裂長をL1(cm)とし、2cN/dtexの張力をかけて緊張処理した後の引裂長をL2(cm)としたときに、以下の関係を満足することを特徴とするシートベルト用ポリエステル繊維。
ΔL=|L1n−L2n|≦15(cm)
Δσ=|σ1−σ2|≦15
L1n:L1を50回測定したときの平均値(cm)
L2n:L2を50回測定したときの平均値(cm)
σ1 :L1のバラツキの標準偏差
σ2 :L2のバラツキの標準偏差
【請求項2】
前記シートベルト用ポリエステル繊維の強度が6〜12cN/dtex、伸度が10〜20%、乾収が5〜15%であることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト用ポリエステル繊維。
【請求項3】
前記シートベルト用ポリエステル繊維が撚られておらず、L1が5〜80cmであることを特徴とする請求項1または2に記載のシートベルト用ポリエステル繊維。
【請求項4】
ポリエステル繊維を延伸後弛緩して巻取る際、延伸ローラと弛緩ローラの間で交絡処理を施し繊維を収束させた後、巻き取りローラ直前で延伸糸に交絡処理を施し交絡を付与することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシートベルト用ポリエステル繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト用途に好適に使用されるポリエステル繊維に関するものであり、詳しくは高強度で、ニードル織機において高密度に織り込まれる前後の交絡変化が小さく、かつ原糸の強力保持率と工程通過性に優れ良好な交絡特性を有するシートベルト用ポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等における乗員拘束装置としてポリエステル繊維からなるシートベルトが広く用いられている。シートベルト用ポリエステル繊維には通常ポリエステル繊維が用いられ、一般的に経糸には繊度1100〜1670dtex、単糸繊度10〜18dtexのものが多く使用されている。シートベルトの経糸はベルトを製織する際にニードル織機によって高密度(約50mmの幅に1670dtex原糸で240〜300本)に織り込まれることから、製織の際に糸が収束していることが必要であり、このためにシートベルトの経糸には特許文献1に記載されているように製糸後の撚糸工程あるいは製糸工程における交絡処理によって撚りや交絡がかけられる。交絡は撚りに較べて低コストであり、ベルトの曲げ弾性率も向上するメリットがあることから広く適用されている。交絡の付与は通常延伸糸を巻き取る前に交絡ノズルで走行する糸条にエアーを吹き付けることで行われるが、交絡処理を行うに際して糸条の走行速度が遅く、処理時の糸条の張力が低く、糸の繊度が小さく、噴射するエアーの流量が大きいほど高交絡の糸が得られる。
【0003】
しかし、一般にシートベルト用原糸の経糸として使用される繊維は総繊度、単糸繊度とも大きく、この点において交絡のかかりにくい原糸であり、このような原糸に高交絡を得ようとして過度のエア噴射による交絡処理を施すと処理によって原糸がダメージを受け、原糸強力が低下したり、交絡点となった部分で過度に強固な絡み合いが生じて織物において好ましくない外観(ギラツキ)を与えることにつながる。
【0004】
交絡性の評価方法としては複数の手段が提案、実用化されているが、同じ原糸であっても評価方法によって得られる交絡性の数値(通常1m当たりの収束部の数で表される)が大きく異なる点に留意が必要である。例えばLawson Hemphill社のEIBでは走行する原糸の片側から光を照射し、原糸の陰影を測定することで交絡の節部と開繊部を認識し交絡数を算出する。Reutlinger社のInterlace Counter Model RICIIでは光を用いる代わりにプルーブで糸を軽くはさみ、糸の厚さから交絡の節部と開繊部を認識する。節部/開繊部の検出手段の差はあるものの、これらの測定装置では基本的に交絡を物理的に破壊することなしに収束/開繊の形状から交絡の数を読みとる方式という点では同じである。これらの方法では交絡の数を知ることはできてもそれぞれの収束部がどの程度の強さで交絡されているか、すなわち交絡の「強さ」を知ることは基本的にできない。原糸の交絡性を知る他の方法として原糸の引裂長がある。これは、原糸の任意の箇所においてフィラメントを概ね半数ずつになるように原糸を長手方向に割り、左右の指で半分ずつに分けられたフィラメントを引き裂きながら広げていったときに一定の力でそれ以上引き裂けなくなったときの引裂長(絡み合った交絡点間の距離に等しい)の平均値から交絡性を評価するものである。この方法では糸に軽い収束を与えている程度の軽度の交絡は破壊しながら評価を行うために、引裂長で評価される原糸1m当たりの交絡点の数はEIB等により陰影法で求められる交絡点数の1/2〜1/20と相当に小さくなる。引裂長の測定は人間の手で行うことが多いことから、測定者によって測定値が異なる懸念があるが、絡み合いにより繊維が引き裂けなくなる際には引き裂く力に対する抵抗が急激に大きくなるので測定者によって結果に重大な差異を生じることはない。また、他の方法として垂直方法に張った原糸に荷重の付いたフックを掛け、フックが止まるまでに移動した距離から交絡数を求めるJIS法(いわゆるフックドロップ法)があり、本方法は原糸繊度(tex)に0.22を乗じたごく軽い荷重(mN)を使用することから陰影法と引き裂き法の中間的な評価方法であると言うことができる。
【0005】
従来の単糸繊度の大きいシートベルト用原糸に交絡を付与することは、例えば特許文献1において記載されており、からみ合い個所が5〜15cmの長さの間隔で配されると記載されている。しかしその測定方法や交絡付与に使用するノズルなど具体的なからみ合いの付与方法については記載されておらず、特許文献1に記載の方法で繊維を作ってもシートベルト用ウェビング製造工程において付与される張力によって、収束性が不足して製織時に毛羽欠点を誘発することが多かった。
【0006】
また、特許文献2では本発明で対象とするシートベルトに較べて総繊度、単糸繊度とも小さい繊維を使用するエアバッグを対象にした原糸についてではあるが、製織に好ましい交絡の数と交絡強度の関係について記載されている。しかし、特許文献2で交絡強度とされているのはReutlinger社のInterlace Counter Model RICIIで測定される収束部と開繊部の信号の差から算出される指標であり、外力をかけて交絡が破壊される強度を測定したものではない。すなわち、交絡部の外観から収束部と開繊部の厚さの差が明確なものを高い交絡強度と呼んでいるに過ぎず、例えば部分的に撚りがかかり糸が収束した部分があれば、収束部が簡単にほどけてしまうような状態であっても、高い交絡強度を有していることになってしまっており、評価が不十分であった。また特許文献2に記載の発明は総繊度、単糸繊度とも小さい繊維を対象としており、かかる交絡付与方法によっては特に交絡付与が難しいシートベルト用原糸に対し十分な交絡性能を付与することは到底不可能であった。
【0007】
また特許文献3では、ポリエステル系重合体を溶融紡糸し、糸条が冷却固化した後、油剤を付与せしめ、しかる後、少なくとも2つの引取ロール群を介して巻取るに際し、最初の引取ロール群と次の引取ロール群の間において、少なくとも2個以上のインタレースノズルで交絡処理を施し、5000m/分以上の紡糸速度で巻取ることを特徴とするポリエステル繊維の製法が開示されている。しかし特許文献3に記載の方法では、ロール間に設置された2個以上のインタレースノズルで交絡処理を施すため、個々のインタレースノズルがお互いに干渉し、高い交絡強度を有する交絡を付与することは困難であった。つまり、交絡が掛かる際に生じる糸条の回旋が、ロール間に設置された2個のインタレースノズルで発生してしまうと、それぞれの糸条への回旋を互いに打ち消し合うことになり、結果として糸条の収束性が低下してしまうものであった。そのため十分な交絡性能を付与することは困難であった。
【0008】
シートベルトの経糸に使用する原糸を生産する者らは上述した過度の交絡による不具合と、交絡抜けによる不具合の両方の不具合を避けるべく、中間的な処理条件を採用せざるを得ないのであるが、従来一般的に使用されている交絡付与ノズルを用いて交絡処理を行う場合、交絡抜けを完全に回避しようとして加工条件を厳しくすると強度低下あるいはギラツキが発生し、強度低下あるいはギラツキを完全に回避しようとして加工条件を甘くするとシートベルト用ウェビング製造工程において付与される張力によって交絡抜けが発生するのが現実であり、強度低下やギラツキが全くなく、交絡抜けもないシートベルト用原糸は得られていないのが現状であった。
【特許文献1】特開平03−40829号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表2003−521589号明細書(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭60−110916号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、高強度で、ニードル織機において高密度に織り込まれる前後の交絡変化が小さく、かつ原糸の強力保持率と工程通過性に優れ良好な交絡特性を有するシートベルト用ポリエステル繊維の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題の解決に当たり、交絡性の各種指標とそれが製織工程の通過性、原糸強力保持率に与える影響について鋭意検討を行った結果、引裂法による交絡値がある特定の関係を満たす場合にのみ原糸の強力保持率とシートベルトとしての製織時における工程通過性を両立する原糸となり得ることを見出した。
【0011】
本発明によれば、繊度1000〜2000dtex、単糸繊度5〜20dtexのポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維の引裂長をL1(cm)とし、2cN/dtexの張力をかけて緊張処理した後の引裂長をL2(cm)としたときに、以下の関係を満足することを特徴とするシートベルト用ポリエステル繊維が提供される。
ΔL=|L1n−L2n|≦15(cm)
Δσ=|σ1−σ2|≦15
【0012】
なお、本発明のシートベルト用ポリエステル繊維においては、
前記シートベルト用ポリエステル繊維の強度が6〜12cN/dtex、伸度が10〜20%、乾収が5〜15%であること、
前記シートベルト用ポリエステル繊維が撚られておらず、L1が5〜80cmであること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0013】
弛緩工程においてポリエステル繊維を収束させた後、巻き取り工程において、交絡を付与することが、シートベルト用ポリエステル繊維の好ましい製造方法として挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば高強度で、ニードル織機において高密度に織り込まれる前後の交絡変化が小さく、かつ原糸の強力保持率と工程通過性に優れ良好な交絡特性を有するシートベルト用ポリエステル繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0016】
本発明でいうシートベルト用ポリエステル繊維とは、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等からなる芳香族ポリエステルが好ましく、さらに、これらのポリエステルには、本発明の目的、効果を損なわない範囲であれば、第三成分が共重合されたものであっても良く、共重合成分の例としては、イソフタル酸やナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸やセバジン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ジエチレングリコールや、1,4−ブタンジオール等のジオール化合物、5−スルホイソフタル酸金属塩などを挙げることができるがこれらに限られることはない。しかし、繊維としての初期モジュラス、ターミナルモジュラスに優れる観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0017】
本発明におけるシートベルトポリエステル繊維の繊度は1000〜2000dtexであり、1100〜1900dtexであることが好ましい。繊度が、1000dtex未満の場合には、ウェビングとしたときに乗員の保護に必要な強力を得ることができず、逆に2000dtexを越える場合には、ウェビングの厚みが過度となり、リトラクターへの収納性が劣る可能性がある。
【0018】
本発明におけるシートベルト用ポリエステル繊維の単糸繊度は5〜20dtexであり7〜18dtexであることが好ましい。単糸繊度が5dtex未満の場合、製糸性の悪化およびウェビング剛性が得られず、一方、20dtexを越える場合は、単糸の剛性が大きくなりすぎて、製織時の打ち込み性が悪化するばかりか、ウェビングの耳部端面に突出した単糸がシートベルト着用時に乗員の肌に直接触れて不快感を与えてしまうため、いずれの場合も好ましくない。
【0019】
本発明におけるシートベルト用ポリエステル繊維は、該ポリエステル繊維の引裂長をL1(cm)とし、ニードル織機で高速製織、例えば1900rpmで製織したときに、経糸および緯糸にかかる張力にほぼ相当する2cN/dtexの張力をかけて緊張処理した後の引裂長をL2(cm)として、L1を50回測定したときの平均値をL1n(cm)、L2を50回測定したときの平均値をL2n(cm)とし、L1のバラツキの標準偏差をσ1、L2のバラツキの標準偏差をσ2としたときに、ΔL=|L1n−L2n|≦15(cm)、Δσ=|σ1−σ2|≦15の関係を満足することにより、原糸の強力保持率と工程通過性に優れ良好な交絡特性を有するシートベルト用ポリエステル繊維を得ることができるのである。
【0020】
本発明で特筆すべき技術的特徴は、本発明におけるシートベルト用ポリエステル繊維が、弛緩工程において、低交絡かつ高収束性を付与した後、巻き取り工程直前において交絡を付与することで、単糸切れや毛羽を発生させることなく、初めて上述した良好な交絡特性を発現することにある。弛緩工程において、交絡ノズルから噴出する高圧空気の圧力を、糸条に交絡が掛からず、収束性が向上する程度与えることで、単糸切れや毛羽の発生を抑制することができ、かつ、良好な交絡特性が付与された本発明のシートベルト用ポリエステル繊維を得ることが可能となる。すなわち交絡処理装置のエアー圧力を0.2〜0.5MPaとする。弛緩工程において、交絡ノズルから噴出する高圧空気の圧力を、巻き取り工程における交絡ノズルから噴出する高圧空気の圧力すなわち0.6〜0.9MPaと同等に設定すると、交絡が掛かり過ぎて、原糸の収束性は著しく向上するものの、巻き取り工程で交絡を付与するときに、原糸の自由度が低下するため、シートベルト用ポリエステル繊維のような太繊度フィラメントに高交絡を付与することは困難になり、好ましくない。
【0021】
本発明におけるシートベルト用ポリエステル繊維の強度が6〜12cN/dtex、伸度が10〜20%、乾収が5〜15%であることが好ましく、強度が8〜12cN/dtex、伸度が10〜17%、乾収が7〜12%であることがより好ましい。強度が6〜12cN/dtex、伸度が10〜20%の範囲内であることにより、ウェビングとしての引張強度、エネルギー吸収量などの要求性能が十分なものとなる。また、乾収が5〜15%であることにより、製織時のヒートセット工程でのウェビングの熱寸法安定性が良くなり、適切なウェビングの品位を得ることができる。つまり、上記物性を有するシートベルト用ポリエステル繊維として好適である。
【0022】
次に、本発明におけるシートベルト用ポリエステル繊維は撚られていないことが好ましく、L1の範囲としては5〜80cmであることが好ましく、より好ましくは5〜60cm、さらに好ましくは5〜40cmである。一般に、製織工程における工程通過安定性を向上させるために、製糸工程において延伸ツイスティングなどの方法を採用し、原糸に撚りをかけるが、この方法では確かに工程通過安定性は向上するものの、コストの増大をもたらすばかりか、ウェビングの曲げ剛性を低くするという問題があるため好ましくない。しかし、本発明のシートベルト用ポリエステル繊維においては、ニードル織機において高密度に織り込まれる前後の交絡変化が小さいため、撚りをかける必要がなく、そのためコストも低減され、かつ高いウェビングの曲げ剛性を得られる。さらに、L1が5〜80cmの範囲であるとウェビング製織時に無撚りのポリエステル繊維を用いるような不利な条件であっても緯糸の打ち込み性が低下することがないため好ましい。
【0023】
また、本発明のシートベルト用ポリエステル繊維は、有機または無機顔料を含有しても良く、特に黒色顔料が好ましい。シートベルト用ポリエステル繊維を原着化することで染色の必要が無く、低コストで染色廃液が発生しない等の利点が得られ、環境に与える負荷の小さいシートベルト用ポリエステル繊維を得ることが可能となる。好ましい顔料としては、亜鉛華、酸化チタン、ベンガラ、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンーコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−鉄系ブラック、群青、炭酸カルシウム、マンガンバイオレット、カーボンブラック、アルミニウム粉、ブロンズ粉、チタン被覆雲母、酸化鉄ブラック、スピネルブラック、マンガンプロック、コバルトブラック等の無機顔料、および銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、臭素化銅フタロシアニングリーン、ジアンスラキノンレッド、ベリレンスカーレット、ベリレンレッド、ベリレンマルーン、ジオキサンバイオレット、イソインドリノンイエロー、金属錯塩アゾメチン等の有機顔料である。これらの中でも黒色顔料であるカーボンブラック、酸化鉄ブラック、スピネルブラック、マンガンプロック、コバルトブラックが好ましく、特にカーボンブラックが好ましい。
【0024】
また、本発明におけるシートベルト用ポリエステル繊維は、本発明の目的、効果を損なわない範囲であれば、ダル化剤等の粒子や酸化防止剤等の安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐電防止剤、充填剤、架橋剤等の添加剤を含有していても良い。
【0025】
以下に本発明のシートベルト用ポリエステル繊維の製造方法を図1を参照して具体的に説明する。
【0026】
ポリエステル繊維は窒素雰囲気中でホッパー(1)に充填されたポリエステルチップをエクストルーダー(2)にて溶融混練して紡糸パック(3)に導入し、口金(4)より吐出する方法で得ることができる。前述した顔料を添加する際は、あらかじめ顔料を高濃度に含有したポリエステルマスターチップを作成して、溶融前にチップをブレンドする方法が採用できる。このとき、ポリマの熱による劣化を防ぐために、紡糸機内における滞留時間は短いほど好ましく、通常10分以内とすれば良い。また、紡糸時に2軸エクストルーダー型押し出し機やスタティックミキサー等を用いることが、顔料を微分散させるためには好ましい。紡糸温度は通常260〜300℃であれば良い。
【0027】
次に、口金直下には加熱筒および/または断熱筒(5)を配し、吐出糸条はこの加熱筒および/または断熱筒(5)内を通過させることが好ましい。この加熱筒は、一般に5〜100cmの長さで、150〜350℃で温度制御された加熱筒であれば良いが、その長さおよび温度条件は、得られる糸条の繊度やフィラメント数により最適化されれば良い。この加熱筒および/または断熱筒(5)の使用により、溶融ポリマの固化を遅らせ、繊維の高強度化を実現させることができる。
【0028】
加熱筒および/または断熱筒(5)を通過した糸条は、次いで冷却装置(6)中で10〜100℃、好ましくは15〜75℃の風を吹きつけて冷却固化することが好ましい。冷却風が10℃未満の場合には通常装置とは別に大型の冷却装置が必要となるため好ましくない。また、冷却風が100℃を超える場合には紡糸時の単繊維揺れが大きくなるため、単繊維同士の衝突等が発生し製糸性良く繊維を製造することが困難となる。冷却装置は横吹き出しタイプでも良いし、環状型吹き出しタイプを用いても良い。また、モノフィラメントの様に高い冷却効果が求められる際には、水冷等の冷却方法を採用することができる。
【0029】
冷却固化された未延伸糸条は、次いで給油装置(7)で油剤が付与される。油剤は、水系であっても非水系であっても良いが、平滑剤を主成分とし、界面活性剤、制電剤、極圧剤成分等を含み、ポリエステル樹脂に活性な成分を除いた油剤組成とすることが好ましい。
【0030】
油剤を付与された未延伸糸条は、第一引取りローラ(1FR)(8)に捲回して引き取る。1FRの表面速度、即ち引取り速度は300m/分以上が好ましく、さらに好ましくは500m/分以上である。300m/分未満の引取り速度でもポリエステル繊維は得られるが、生産効率が低いため採用し難い。引取り速度に特に上限は無いものの、工業的に安定して生産する場合には引取り速度は5000m/分以下が好ましく、より好ましくは3000m/分以下である。延伸は通常の熱延伸が採用されれば良く、その延伸倍率は、未延伸糸の複屈折、延伸温度、および多段延伸する際の延伸比率配分等によって変化させ得るが、2.5〜7.0倍が好ましく、3.5〜6.0倍であることがより好ましい。
【0031】
上記引取り速度で引き取られた未延伸糸条は一旦巻き取った後、若しくは一旦巻き取ることなく連続して延伸する。1FRと同様に、2ケのローラを1ユニットとするネルソン型ローラを、第二引取ローラ(2FR)(9)、第一延伸ローラ(1DR)(10)、第二延伸ローラ(2DR)(11)および弛緩ローラ(RR)(13)と並べて配置し、順次糸条を捲回して延伸熱処理を行う。通常、1FRと2FR間では糸条を収束させるためにストレッチを行う。好ましいストレッチ率は0.5〜7%、さらに好ましくは1〜5%の範囲である。1FRは50〜80℃、好ましくは、60〜70℃に加熱して、引き取り糸条を予熱して次の延伸工程に送る。
【0032】
1段目の延伸は2FRと1DR間で行い、2FRの温度は80〜120℃、好ましくは90〜110℃とし、1DRの温度を90〜140℃、好ましくは100〜130℃とし、1段目の延伸倍率を総合延伸倍率の30〜90%、好ましくは50〜90%の範囲に設定する。
【0033】
2段目の延伸は1DRと2DR間で行うが、2DRは160〜240℃、好ましくは180〜220℃である。2段延伸を終えた糸条はRRとの間で0〜7%、好ましくは0〜5%、さらに好ましくは0.5〜3%の弛緩処理を行い、熱延伸によって生じた歪みを取るだけで無く、延伸によって達成された高配向構造を固定したり、非晶領域の配向を緩和させ熱収縮率を下げたりすることができる。RRは非加熱ローラまたは、160℃以下に加熱したローラを用いる。
【0034】
2DRとRRの間には交絡処理装置(12)を設置する。交絡処理装置のエアー圧力は、0.2〜0.5MPa、好ましくは0.3〜0.4MPaの範囲に設定する。
【0035】
さらに、この弛緩処理された糸条は、交絡処理装置(14)を通過した後、巻き取り機(15)によって巻き取られる。このとき、交絡処理装置のエアー圧力は、0.6〜0.9MPa、好ましくは0.7〜0.8MPaの範囲に設定する。
【0036】
かくして、本発明の高強度で、ニードル織機において高密度に織り込まれる前後の交絡変化が小さく、かつ原糸の強力保持率と工程通過性に優れ良好な交絡特性を有するシートベルト用ポリエステル繊維を得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明する。明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0038】
(1)繊度
JIS L1013 8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重として5mN/tex×表示テックス数、所定糸長としては90mで測定した。
【0039】
(2)単糸繊度
(1)で測定した繊度を、ポリエステル繊維を構成する単繊維数で割り返した値を採用した。
【0040】
(3)強度・伸度
試料をオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0041】
(4)乾熱収縮率
JIS L1013(1999)8.18.2a)A法に従って、所定荷重(29)として5mN/tex×表示テックス数、所定荷重(30)として所定荷重(29)の40倍の荷重、適温(31)として150℃で測定した。
【0042】
(5)固有粘度
オルソクロロフェノール100mlに対し試料8gを溶解した溶液の相対粘度ηをオストワルド式粘度計を用いて測定し(25℃)、以下の近似式によって算出した。
固有粘度=0.0242η+0.2634
【0043】
(6)引裂長
糸条の中央を指で引き裂き、その長さを50回測定し、その平均値をL1nとした。また、2対の速度の異なるロール間で、糸条に2cN/dtexの張力をかけて100m/分の速度で走行させた後一旦巻き取り、この糸条について上述した引裂長を50回測定し、その平均値をL2nとした。
【0044】
(7)製織時の工程通過安定性
製織時に経糸および緯糸の収束性に係る欠点が原因で停台した頻度によって、評価した。
【0045】
[実施例1]
固相重合によって得られた固有粘度1.38のポリエチレンテレフタレートポリマを、290℃の1軸エクストルーダー式押出機に連続的に供給し連続的に溶融した。
【0046】
溶融ポリマを290℃の配管を通じて8段のスタティックミキサーで混練し、ギヤポンプにて総繊度が1670dtexとなるように計量した後、290℃の紡糸パックに導き、パック内では20ミクロンカットのフィルターを通過させ、孔径0.5mm、孔長1.1mmの丸型単孔が140個開けられた口金より押し出し紡出した。
【0047】
紡出糸条を口金下に設けた長さ50cm、雰囲気温度300℃の加熱筒を通過させた後、ユニフロー型チムニーを用いて50℃の冷風を40m/分の速度で吹き付け固化させた後、油剤ロールにて油剤(三洋化成社製:サンオイルF)を付与した。油剤を付与した糸条を475m/分の表面速度を有する1FR(70℃)で巻き取った後、連続して延伸工程に供した。
【0048】
1FRを通過した糸条を、速度500m/分の2FR(100℃)、速度1800m/分の1DR(110℃)、速度2900m/分の2DR(210℃)、速度2850m/分のRR(非加熱)に連続して供すことにより延伸を行った。交絡処理装置は2DRとRRの間(東レ社製AL−11)および、RRと巻取ローラの間(ヘバーライン社製PolyJet−TG)に設置し、それぞれ0.3MPaおよび0.7MPaの高圧空気を噴射して、シートベルト用ポリエステル繊維を得た。得られたシートベルト用ポリエステル繊維の特性を表1に示した。
【0049】
得られたシートベルト用ポリエステル繊維を300本経糸とし、緯糸としては、強度6.5cN/dtex、伸度20%のポリエチレンテレフタレート繊維(700dtex/72フィラメント)を2本引き揃え、ニードル織機(ミューラー社製NC型)にて回転数1900rpmで製織して、製織時の工程通過安定性について評価した。評価結果を表1に示す。
【0050】
[実施例2]
固相重合によって得られた固有粘度1.38のポリエチレンテレフタレートポリマと、全体量を100重量%としてカーボンブラック顔料(大日本インキ工業株式会社製チャネルブラック粒径分布3〜20mm)を20重量%含有する固有粘度1.1のポリエチレンテレフタレートマスターポリマとを、計量器で連続的に計量しながら、40:1の比率で290℃の2軸エクストルーダー式押出機に連続的に供給し連続的に溶融したこと以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
2DRとRRの間に設置した交絡処理装置の高圧空気の圧力を0.2MPa、および、RRと巻取ローラの間に設置した交絡処理装置の高圧空気の圧力を0.6MPaと設定したこと以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0052】
[実施例4]
RRと巻取ローラの間に設置した交絡処理装置の高圧空気の圧力を0.2MPaと設定したこと、および、RRと巻取ローラの間にPS−1600パラレルジェット(ヘバーライン社製)を交絡処理装置として使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
2DRとRRの間に設置した交絡処理装置の高圧空気の圧力を0.1MPaと設定したこと以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。
【0054】
[比較例2]
2DRとRRの間に設置した交絡処理装置の高圧空気の圧力を0.1MPaと設定したこと、および、RRと巻取ローラの間にPS−1600パラレルジェットを交絡処理装置として使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。
【0055】
[比較例3]
2DRとRRの間に設置した交絡処理装置を使用しないこと、および、RRと巻取ローラの間にPS−1600パラレルジェットを交絡処理装置として使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。
【0056】
[比較例4]
2DRとRRの間に設置した交絡処理装置の高圧空気の圧力を0.7MPa、および、RRと巻取ローラの間に設置した交絡処理装置の高圧空気の圧力を0.7MPaと設定したこと以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。
【0057】
[比較例5]
2FRと1DRの間に交絡処理装置を2個設置したこと、および、それぞれの交絡処理装置の高圧空気の圧力を0.3MPaと設定したこと以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。
【0058】
【表1】


【0059】
【表2】


【0060】
表1の結果から明らかなように、本発明の条件を満足する実施例1〜4のシートベルト用ポリエステル繊維は、高強度で、ニードル織機において高密度に織り込まれる前後の交絡変化が小さく、かつ原糸の強力保持率と工程通過性に優れ良好な交絡特性を有するシートベルト用ポリエステル繊維である。
【0061】
しかしながら、表2の比較例1〜5に示すような、本発明のΔL=|L1n−L2n|≦15(cm)Δσ=|σ1−σ2|≦15の規定値を満たさない場合には、工程通過性が著しく悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のシートベルト用ポリエステル繊維は、高強度で、ニードル織機において高密度に織り込まれる前後の交絡変化が小さく、かつ原糸の強力保持率と工程通過性に優れ良好な交絡特性を有していることから、シートベルトとして有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のシートベルト用ポリエステル繊維の製造工程フロー図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ホッパー
2 エクストルーダー
3 紡糸パック
4 口金
5 加熱筒および/または断熱筒
6 冷却装置
7 給油装置
8 第一引取りローラ(1FR)
9 第二引取りローラ(2FR)
10 第一延伸ローラ(1DR)
11 第二延伸ローラ(2DR)
12 交絡処理装置
13 弛緩ローラ(RR)
14 交絡処理装置
15 巻き取り機
【出願人】 【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
【出願日】 平成19年9月28日(2007.9.28)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−106418(P2008−106418A)
【公開日】 平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願番号】 特願2007−253571(P2007−253571)