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ゴデットロールの表面研磨方法 - 特開2008−88615 | j-tokkyo
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【発明の名称】 ゴデットロールの表面研磨方法
【発明者】 【氏名】大森 博史

【要約】 【課題】製糸に長時間に亘って供しても、接糸部のコーティング皮膜の表面状態を十分に保ち得る耐久性を備え、しかも、製糸ローラ上を走行する糸条に毛羽が発生することを抑制することができる製糸ローラの表面処理方法を提供する。

【解決手段】製糸ローラの接糸面にセラミックコーティング処理を実施した後、前記接糸面に対してバーチカル機械研磨加工を施し、その後、ラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工を施して、前記接糸面の表面粗さに関して最大高さ(R)で表して、0.5〜10.0μmとなるように仕上げることを特徴とする製糸ローラの表面処理方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製糸ローラの接糸面にセラミックコーティング処理を実施した後、前記接糸面に対してバーチカル機械研磨加工を施し、その後、ラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工を施して、前記接糸面の表面粗さに関して最大高さ(R)で表して、0.5〜10.0μmとなるように仕上げることを特徴とする製糸ローラの表面処理方法。
【請求項2】
無水クロム酸水溶液に少なくともSiOからなる微粒子を加えて調整したスラリーを前記接糸面に塗布した後、これを500〜600℃に加熱して複合セラミックスからなる多孔質皮膜を形成する第1処理に引き続いて、無水クロム酸水溶液を含浸又はスプレーした後に500〜600℃に加熱する第2処理を繰返し行うことによって酸化クロムを析出させ。前記接糸面にセラミックコーティング皮膜を形成させる請求項1に記載の製糸ローラの表面処理方法。
【請求項3】
第3処理として、前記第2処理の途中と最後において前記接糸面に対してラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工を施す請求項1又は請求項2に記載の製糸ローラの表面処理方法。
【請求項4】
前記製糸ローラが産業用ポリエステル繊維を直接紡糸延伸する製造装置の延伸ゴデットローラである請求項1〜3の何れかに記載の製糸ローラの表面処理方法。
【請求項5】
前記セラミックコーティング皮膜の膜厚が30〜80μmである請求項1〜4の何れかに記載の製糸ローラの表面処理方法。
【請求項6】
前記接糸面がビッカース硬度(H)が1100〜1600である請求項1〜5の何れかに記載の製糸ローラの表面処理方法。
【請求項7】
前記接糸面における表面粗さ(JIS B 0601-1994)に関し、その算術平均粗さ(Ra)が0.5〜1.5μmであって、かつTp(C)(C:切断レベル%)が70%<Tp(50%)<95%である請求項1〜6の何れかに記載の製糸ローラの表面処理方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は産業用ポリエステル繊維を直接紡糸延伸する製造装置のゴデットロール表面処理技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用ポリエステル繊維を直接紡糸延伸する製造装置のゴデットロールの表面処理としては、硬質クロムメッキや各種セラミックの溶射皮膜が使用されてきた。しかしながら硬質クロムメッキを施したゴデットロールは、その表面硬度が不足しているために、産業用ポリエステル繊維を製造する際には耐摩耗性が低く耐久性の点で問題があった。
【0003】
一方、各種セラミック皮膜の溶射法の場合、均一な厚さで精度良く平滑に製膜することは非常に困難であるため、溶射製膜の後、研削加工を施工する。しかしながら研削加工を施すとセラミック溶射膜の表面は、微細で鋭利な突起が無数に分布するものとなってしまう。通常、この研削加工の後に所定の表面粗さとなるように研磨加工を行うが、この微細で鋭利な突起を完全には除去できず、走行する糸にダメージを与えて、単糸切れを起こし毛羽の原因となるため問題であった。
【0004】
そこで、研削加工を要しない高硬度を有し、かつ母材と剥離し難い皮膜の形成方法が必要となったのであるが、このような技術として、特開昭59−9171号公報,特開昭61−52374号公報,特開昭63−126682号公報,特開昭63−317680号公報などにおいて、ステンレス鋼製基材に、CrOを化学変化させて微細なCrからなる硬質皮膜を形成する技術が提案されている。
【0005】
なるほど、このような従来技術によってローラ上に形成された皮膜は研削加工することなく、皮膜形成後にラッピング研磨加工するだけで表面粗さを所望の値に調整することができ、さらに、高硬度を有する皮膜を形成することもができる。しかしながら、それでも長期間に亘って製糸に供すると、磨耗などの影響が現れて、製糸ローラ上に形成した複合セラミックス皮膜を更新する必要が生じる。また、これと共に走行糸条に許容できない頻度の毛羽が発生することが判明した。
【0006】
【特許文献1】特開昭59−9171号公報
【特許文献2】特開昭61−52374号公報
【特許文献3】特開昭63−126682号公報
【特許文献4】特開昭63−317680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に述べた従来技術が有する問題にかんがみ、本発明が解決しようとする課題は、産業用ポリエステル繊維を直接紡糸延伸装置などにおいて使用される製糸ローラにおいて、製糸に長時間に亘って供しても、接糸部のコーティング皮膜の表面状態を十分に保ち得る耐久性を備え、しかも、製糸ローラ上を走行する糸条に毛羽が発生することを抑制することができる製糸ローラの表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに、前記課題を解決するための下記(1)〜(7)に記載の発明が提供される。
(1) 製糸ローラの接糸面にセラミックコーティング処理を実施した後、前記接糸面に対してバーチカル機械研磨加工を施し、その後、ラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工を施して、前記接糸面の表面粗さに関して最大高さ(R)で表して、0.5〜10.0μmとなるように仕上げることを特徴とする製糸ローラの表面処理方法。
(2) 無水クロム酸水溶液に少なくともSiOからなる微粒子を加えて調整したスラリーを前記接糸面に塗布した後、これを500〜600℃に加熱して複合セラミックスからなる多孔質皮膜を形成する第1処理に引き続いて、無水クロム酸水溶液を含浸又はスプレーした後に500〜600℃に加熱する第2処理を繰返し行うことによって酸化クロムを析出させ。前記接糸面にセラミックコーティング皮膜を形成させる(1)に記載の製糸ローラの表面処理方法。
(3) 第3処理として、前記第2処理の途中と最後において前記接糸面に対してラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工を施す(1)又は(2)に記載の製糸ローラの表面処理方法。
(4) 前記製糸ローラが産業用ポリエステル繊維を直接紡糸延伸する製造装置の延伸ゴデットローラである(1)〜(3)の何れかに記載の製糸ローラの表面処理方法。
(5) 前記セラミックコーティング皮膜の膜厚が30〜80μmである(1)〜(4)の何れかに記載の製糸ローラの表面処理方法。
(6) 前記接糸面がビッカース硬度(H)が1100〜1600である(1)〜(5)の何れかに記載の製糸ローラの表面処理方法。
(7) 前記接糸面における表面粗さ(JIS B 0601-1994)に関し、その算術平均粗さ(Ra)が0.5〜1.5μmであって、かつTp(C)(C:切断レベル%)が70%<Tp(50%)<95%である(1)〜(6)の何れかに記載の製糸ローラの表面処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製糸ローラの表面に生成したセラミックコーティング皮膜は、十分に緻密であってコーティング皮膜にはほとんど気孔が存在しないため、化学薬品などを使用してローラ表面を洗浄しても、洗浄液が気孔の内部にまで到達して、形成したセラミックコーティング皮膜を剥離させるような事態が生じにくい。また、形成された皮膜は緻密であって、硬度も高いため、耐摩耗性に優れており、長期間にわたる製糸に十分に供することができる。
【0010】
また、製糸ローラの接糸面に形成したコーティング皮膜は、真円度が高く製作されたローラシェルの母材上に形成され、しかも、コーティング皮膜が形成された後に、「バーチカル機械研磨加工」を行う。そうすると、この「バーチカル機械研磨加工」は、基本的には回転する砥石によって研磨処理を行う方法であるため、ローラシェル上に形成された膜厚を均一化するという作用効果を奏する。また、「バーチカル機械研磨加工」を行うと、強い研磨作用によって、ローラシェル上に形成されたセラミック皮膜を均一に研磨することができるため、コーティング皮膜に微小な「うねり(起伏)」が生じていても、これを研削して除去することができる。
【0011】
そうすると、微小な「うねり(起伏)」が原因で生じると考えられる接糸面での糸条のスティック・スリップが抑制され、走行糸条が接糸面にしっかりとグリップされる。なお、本発明では、「バーチカル機械研磨加工」を施工した後、「ラッピング研磨加工」及び/又は「バフ研磨加工」によって、コーティング皮膜上に生じた鋭利な先端を有する微小突起の先端を丸くする。したがって、鋭利な先端を有する微小突起もなくなるため、このようなコーティング皮膜上を糸条が走行しても、ダメージを受けることない。したがって、毛羽(単糸切れ)の発生も大幅に提言できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る表面処理を施した製糸ローラを模式的に例示した正断面図であって、この製糸ローラにおいて、図中に参照記号1で示した部分は円筒形状を有するローラシェル部、2は該ローラシェル部表面の接糸面に形成された複合セラミックス皮膜(以下、「コーティング皮膜」ともいう)をそれぞれ示す。なお、当然のことながら、前記ローラシェル1の真円度の精度については、通常の延伸ローラに使用されるごとく、振動の発生などが起こらないようにきわめて精度よく仕上げられていることはいうまでもない。
【0013】
図2は本発明を用いる産業用ポリエステル繊維の直接紡糸延伸装置の概略を模式的に示した図であって、図1に例示した製糸ローラを用い、産業用ポリエステル繊維を直接紡糸延伸するための工程を模式的に例示した概略工程図である。
【0014】
この図2に例示した工程において、例えば、固有粘度が0.97のポリエステル繊維を公知の溶融紡糸法によって溶融紡糸口金パック3から紡出してガラス転移温度以下に冷却して一旦固化する。そして、公知の油剤付与装置(図示せず)によって、糸条の全体重量中に占める付着油剤の重量が、0.35重量%となるように油剤の付与条件を調整して紡糸油剤を付与しつつ、引取ローラ4によって、糸条速度1000m/分で糸条として口金パック3から紡出された糸条を連続して引取る。
【0015】
引き続いて、引取った糸条を一旦巻き取ることなく、予熱ローラ5で糸条を予熱し、この余熱ローラ5と第1延伸ローラ6との間で3.0〜4.0倍に第1段目の加熱延伸を行い、更に第2延伸ローラ7との間で全延伸倍率が5.0〜7.0倍になるように2段目の加熱延伸を行い、最終ローラである弛緩ローラ8との間で9〜11%の弛緩熱処理を行った後、1670dtex/250filamentsのポリエステル・マルチフィラメント糸条を巻取機9によって4000m/分の巻取速度で巻き取る。
【0016】
以上に述べた図2の製糸工程において、本発明の製糸ローラは、引取ローラ4、予熱ローラ5、第1延伸ローラ6、第2延伸ローラ7、あるいは弛緩ローラ8の何れにも使用できるが、特に、第2延伸ローラ7で糸条は加熱されたローラ群によって熱延伸されるため、これらローラには糸条から受ける大きな張力が作用する。したがって、第1延伸ローラ6及び第2延伸ローラ7(中でも特に、第2延伸ローラ7)に対して耐摩耗性が強く求められる。
【0017】
このため、本発明においては、製糸ローラの表面に後述するようなコーティング処理により、耐摩耗性に優れたコーティング皮膜2をローラシェル1の上に形成する。ただし、前述したように、このようにして形成したコーティング皮膜2は、製糸に長時間に亘って供しても耐摩耗性に優れていることが要求されることは勿論であるが、その上を走行する糸条がダメージを受けて毛羽(単糸切れ)の発生などが生じないことも要求される。そのため、本発明においては、ローラシェル1の表面に形成するコーティング皮膜2の表面を特定の方法で研磨することを一大特徴とする。そこで、この点について詳細に説明する。
【0018】
本発明者は、コーティング皮膜2の表面状態を先ず均一に加工するための方法を検討した。その結果、バーチカル研磨機によって機械研磨加工することによってコーティング皮膜2の膜厚と表面状態を均一にすることが肝要であることを見出した。そして、その後に、ラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工を施せば、コーティング皮膜21の膜厚と表面状態が走行する糸条にダメージを与えることがなく、しかも、コーティング皮膜2の耐摩耗性も維持できることを見出した。
【0019】
機械的研磨方法としては、様々な方法があるが、本発明においては、ダイヤモンド砥粒などの遊離砥粒を含む研磨液をラップ定盤と、ゆっくりと回転する製糸ローラとの間に分散させ、製糸ローラの表面を滑らかに、かつ高精度に研磨仕上げする「ラッピング研磨加工」及び/又は周知の「バフ研磨加工」と、基本的に回転する砥石に被加工材を接触させて研磨する「バーチカル機械研磨加工」を併用する。
【0020】
ただし、バーチカル機械研磨では、ダイヤモンド砥粒などからなる砥石が回転する方向に沿って、研磨面が形成される。そこで、このバーチカル研磨機による研磨においては、所定の一方向に研磨を施した後に、所定角度異なる方向に研磨を施すことが好ましい。このバーチカル機械研磨のような強い研磨加工を施すことで、表面処理時に生じた微小な「うねり」を強制的に研磨して除去することで、ローラシェル1のコーティング皮膜2の外形部の真円度を上げることができ、しかも、コーティング皮膜2の厚みも均一化することができる。
【0021】
具体的には、研磨に供する製糸ローラを回転台に固定してゆっくり回転させ、バーチカル研磨機の砥石に接触させて、ローラシェル1の真円度を確保しながら、コーティング皮膜2の厚さを均一にするための機械研磨を施す。ただし、バーチカル機械研磨では、ダイヤモンド砥粒などからなる砥石が回転する方向に沿って、研磨面が形成されるので、この所定の一方向に研磨を施し、更に、これに対して所定の角度だけ異ならせた方向に複数回の研磨を施すことが好ましい。
【0022】
このようにして、ローラシェル1にコーティング皮膜を施した後に、バーチカル機械研磨を施すと、表面処理時に生じた「うねり」のような小さな起伏が除去され、コーティング皮膜2の膜厚も均一化される。したがって、ローラシェル1の上を走行する糸条は、表面処理時に生じたわずかな「うねり(起伏)」によってスティック・スリップすることなく、確実にグリップされることとなって、糸条が受けるダメージが抑制されるものと考えられる。
【0023】
しかしながら、「うねり(起伏)」を除去しても、その接糸面に鋭利な微小突起が生じていれば、この鋭利な微小突起によって、製糸ローラの接糸面を走行する糸条はダメージを受けて、毛羽などが発生する原因となる。そこで、最終的に、浮遊砥粒によるラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工を行う。そして、鋭利な微小突起の鋭利な部分を研磨してカットし、糸条にダメージを与えない丸い先端を有する突起へと変換する。なお、ラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工のみでは、鋭利な微小突起の先端を丸く研磨する効果はあっても、製糸ローラの全体を見渡した時に生じている微小な「うねり(起伏)」を除去することができないことは言うまでもない。
【0024】
なお、ラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工による表面仕上げでは、特にダイヤモンドペースト入り不織布を用いる研磨方法が好ましい。ここで、ダイヤモンドペーストの研磨方法としては、製糸ローラを回転台に固定し、その製糸ローラ表面に粒度を選定したダイヤモンドペーストを塗布し、その上にベルトを掛けて製糸ローラとベルトを若干スリップさせながら、製糸ローラをゆっくり回転させて、ダイヤモンドペーストを研磨材として、鋭利な微小突起の先端を研磨し、丸いドーム状態に変化させる。このとき、ベルトは、ローラの表面に平行に、かつ均一に接触させて張力(接触圧)が均一になるように調整しながら研磨する。
【0025】
このような糸条のダメージを抑制するための製糸ローラの表面状態の調整については、前記特開2005−68618号公報あるいは特開2002−212852号公報などにも言及がある通り、その表面粗さを所定の状態に維持することによって、走行糸条の損傷を抑制できることが知られている。したがって、本発明に係わる製糸ローラの接糸面に対しても、当然のことながら、このような表面処理を行って表面粗さを調整する。
【0026】
一般に、熱可塑性合成繊維の延伸では、周速差が付与された延伸ローラ間で糸条を引き延ばすことにより行われるが、延伸ローラの糸条の入側では糸条とローラ表面との間でスリップが発生しており、大きな張力がローラ表面に加わっている。そこで、延伸ローラの接糸面の表面粗さ(本発明においては、「最大高さ:R」を使用する)を0.5〜10.0μmの範囲に調整して、接糸面と走行糸条との間の摩擦係数を好ましい範囲に調整しておくことが必要である。
【0027】
本発明において製糸ローラの接糸面における最大高さ(R)を0.5μm未満に仕上げた場合には、ローラ接糸面はほとんど表面凹凸がない平滑状態となっている。このため、製糸ローラ表面に巻き付けられて走行する糸条とローラ接糸面との間で接触面積が増加し、摩擦抵抗が高くなり過ぎて、糸条がスリップすると糸条と接糸面との間の摩擦抵抗が余りにも高いために、走行糸条が擦過されてダメージを受け毛羽や糸切れが発生しやすくなる。また、逆に最大高さ(R)が10.0μmを超えると、表面凹凸の差が大きくなるため、走行糸条とローラ接糸面との間の接触面積が大きくなって、逆に糸条がスリップを起こし易くなり、擦過損傷が増加して毛羽や糸切れが発生しやすくなる。更に、本発明の製糸ローラの接糸面は、算術平均粗さ(Ra)が0.5〜1.5μmに表面仕上げされていることが好ましく、より好ましくは、0.8〜1.3μmの範囲に入るように仕上げられていることが好ましい。
【0028】
なお、表面粗さに関連し、本発明において使用する「負荷長さ率(t)」とは、JIS B 0601に規定されるように、基準長さの粗さ曲線を山頂線に平行な切断レベルで切断したときに得られる切断長さの和(負荷長さ)の基準長さに対する比を百分率で表したものである。なお、負荷長さ率(t)の測定は、上記JISに準拠して行い、基準長さは0.25mm、評価長さは1.25mmで行った。なお、前記切断レベル(%)は、カットオフ処理していく時の深さを表わし、切断レベル0%は、カットオフ前の状態であって、山形状の山頂を示し、また切断レベル100%は最も深い谷底深さを示している。
【0029】
本発明の製糸ローラに形成する溶射被膜の表面状態を表わすために用いる「負荷長さ率(%)」は、前述のように各切断レベルにカットしたとき、面内の基準長さ内に現れる切断長さの和(累積負荷長さ)の基準長さに対する比の百分率で求められた値である。したがって、この値は、製糸ローラの接糸面形状を表す指数として採用することができる。つまり、この「負荷長さ率(%)」の値が小さいほど製糸ローラの接糸面がギザギザの山形状に尖っていることを意味し、また、この値が大きいほど製糸ローラの接糸面が丸みを帯びた形状を示していることを意味する。
【0030】
本発明に係わる製糸ローラの少なくとも接糸面に形成する溶射被膜については、負荷長さ率(%):Tp(C)(C:切断レベル%)の値としては、65%<Tp(50%)<95%であることが必要である。つまり、この範囲の値を採用すれば、鋭利なギザギザの山形状ではなく、山頂が丸みを帯びた形状となっているので、走行糸条が製糸ローラの接糸面と摩擦接触しても損傷を受けない、つまり、毛羽(単糸切れ)などを惹起させる可能性が低くなることを意味している。
【0031】
次に、本発明に使用する製糸ローラのローラシェル1の母材としては、鋼材が用いられ、その中でもクロームモリブデン鋼が好ましく用いられる。また、コーティング皮膜2の厚さは30〜80μmとすることが、耐摩耗性を確保した上で、その耐衝撃性の面においても優れることから望ましい。その際、耐摩耗性という点を考慮すると、接糸面に施工するコーティング皮膜の硬度として、ビッカース硬度(H)で、好ましくは、1000〜1800Hv、特に好ましくは、1100〜1600Hvとする。
【0032】
何故ならば、ビッカース硬度が1000Hv未満であれば、硬度が不足して磨耗が促進されるからである。なお、ビッカース硬度が1800Hvを超えるようなセラミックコーティングでも良いが、このようなケースでは、コーティング皮膜が硬くなり過ぎて脆くなり、耐衝撃性において劣る。このため、糸賭け具などがコーティング皮膜2に当たっただけで、その衝撃によってコーティング皮膜2が容易に剥離したりするため好ましくない。
【0033】
ここで、本発明の製糸ローラにおいては、先ず、鋼製母材からなるローラシェル1の外周処理面(接糸面)に対して、脱脂などの清浄化処理ならびに必要に応じてブラスト(アルミナのような硬質セラミックス粒子の吹き付け)などの粗面化処理を施す。そして、第1処理として、少なくとも、酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)あるいは酸化クロム(Cr)等からなる微粉末セラミックスを無水クロム酸水溶液(無水クロム酸の結晶を水に溶解したもの)の中に均一分散させてセラミックス・スラリーを得る。ついで、得られたセラミックス・スラリーを前記鋼製母材に塗布し水分を揮発させた後、400〜600°Cの温度で0.5〜2.0時間に亘って焼成して、無機非金属質からなるコーティング皮膜を形成させる。
【0034】
なお、このようなコーティング皮膜(複合セラミックス皮膜)は、無水クロム酸水溶液中に混合するセラミックス粉末の種類あるいは割合などによって異なるが、本発明においては、例えば、Cr−SiO,Al−SiO,Cr−Al−SiOなどの複合セラミックス皮膜を例示することができる。
【0035】
中でも、SiOの単独粉末あるいはSiOとAlの混合粉末を混合して使用することが好ましく、この場合、SiO:50〜100重量%、Al:50〜0重量%とすることが好ましい。また、このようなセラミックス粉末の平均粒径は、5μm以下とすることが好ましい。しかしながら、平均粒子径を余りにも小さくすることはコストの増加を招くうえに、得られる効果がそれに相当する程度に得られないため、特に好ましくは、0.5〜2.0μmである。
【0036】
なお、本発明で言う「平均粒径」は、島津製作所製CP−50型Centrifugal Particle Size Analyzerを用いて測定する。そして、この測定器によって得られる遠心沈降曲線をもとに算出した各粒径の粒子とその存在量とのcumulative曲線から、50mass percentに相当する粒径を読み取った値である(「粒度測定技術」日刊工業新聞社発行、1975年、頁242〜247参照)。
【0037】
しかしながら、この処理工程によって形成される焼成後の前記複合セラミックス皮膜は、微細な気孔やクラックが生成して多孔質となっているので、この気孔やクラックから気体や液体が容易に鋼製母材にまで進入することができる。このために、例えば糸条に付着した油剤などが前記気孔やクラックから進入して母材に到達できる上に、更に、糸条の延伸張力が加わったり、あるいは加熱によって熱膨張したりするなどの諸要因が加わったりして皮膜が剥離し易い状況にある。
【0038】
そこで、本発明の製糸ローラの表面処理方法では、第2処理として、特開昭63−126682号公報などに開示されているように、母材表面に形成した前記セラミックス皮膜に形成された微細気孔やクラック中もしくはさらにその表面に、クロム酸溶液または可溶性クロム化合物溶液を含浸あるいはスプレーする。なお、前記クロム酸溶液または可溶性クロム化合物溶液としては、例えば無水クロム酸、重クロム酸アンモニウム、硫酸クロム、塩化クロム、硝酸クロム、酢酸クロム、クロム酸マグネシウム、クロム酸ナトリウム等の溶液を例示することができる。
【0039】
そして、前記可溶性クロム化合物溶液が酸化クロム微粒子となり得る温度、例えば300〜450℃に加熱し、微粒子状の酸化クロムを生じさせ、前記セラミックス皮膜中の微細な気孔やクラック中に微粒子状の酸化クロムを析出させる。そうすると、微細な気孔やクラック中に析出して充填された酸化クロムによって微細な気孔やクラックを塞ぐことができる。
【0040】
すなわち、このような第2処理を行うと、溶液中に含まれる水などの溶剤は揮散すると共に、加熱残渣としてクロム酸化物の微粒子を含む非晶質層が1〜3μm程度生成し、皮膜中の気孔やクラックのような空隙内に析出して空隙を塞ぐのである。このとき、同時に第1処理によって形成された複合セラミックス皮膜同士及び該皮膜とローラ母材の間の結合力も強める作用効果を奏する。
【0041】
なお、前記のクロム酸溶液または可溶性クロム化合物溶液中には、必要に応じて、燐酸塩化合物、硼酸塩化合物、珪酸塩化合物などからなる結合助剤を含めることができる。これらの結合助剤、例えば,硼酸塩化合物、珪酸塩化合物、燐酸塩化合物などは焼成後に非晶質物質となるが、この非晶質物質は、前述の空隙中に析出するCr微細粒子間の結合を強める役割を果たすことは言うまでもない。この場合、これら結合助剤は焼成後にいずれも少なくとも一部が非晶質のガラス状を呈し、前記皮膜中の気孔やクラックなどの空隙中にも析出して侵入し、これらの空隙中に充填された状態となってこれらを封止する。
【0042】
ここで、前記第2処理の好ましい例を説明するならば、前記第1処理で形成されたコーティング皮膜(例えば、SiO−Cr、SiO−Cr−Alなどからなる組成を有する複合セラミックス皮膜)中に生じた気孔やクラックを有する製糸ローラを無水クロム酸水溶液(CrO)中に30分間浸漬した後、550℃で焼成する処理を例示することができる。なお、この工程において、前記無水クロム酸水溶液(CrO)は、400℃以上の焼成で、Crとなることは言うまでもない。このとき、無水クロム酸水溶液(Cr)から析出した酸化クロム(Cr)微粒子が前記気孔やクラックを充填して前記気孔やクラックからなる空隙に充填され空隙を消滅させる。
【0043】
通常、以上に述べた第2処理は、10〜20回繰返して行う。何故ならば、このような第2処理を繰返しても析出した酸化クロム(Cr)の空隙への充填と表面部への緻密な皮膜の形成は徐々にしか行われないからである。すなわち、第2処理による皮膜の成長はわずかであるために、必要とされる厚さを有する緻密な皮膜層を形成するために多くの繰返し操作が必要となるのである。
【0044】
以上に述べたことからも明らかなように、第2処理によって形成させる緻密皮膜層は、第1処理でベース層として形成された複合セラミックスからなるコーティング皮膜の仕上げ状態に大きく左右される。そこで、本発明では、この複数回(好ましくは、10〜20回)行われる第2処理工程の少なくとも中間工程において、第3処理として、製糸ローラの接糸面を最大高さ(R)で表して、1.0〜10.0μmとなるように、ラッピング加工及び/又はバフ加工による研磨加工処理を施すことが好ましい。何故ならば、このようにすると、前記第2処理で形成される非常に硬い緻密な上部皮膜層の仕上げ状態を所望の状態にすることができるからである。
【0045】
つまり、本発明では、第2処理工程の途中でラッピング研磨加工及び/又はバフ研磨加工を施すことによって、複合セラミックス皮膜の途中に表面研磨加工が施された境界面を形成させる。したがって、このようにして、研磨仕上げ加工が施された綺麗な境界面の上に緻密化皮膜層を再形成させる。そうすると、第2処理が完了した後に最終的に形成された緻密化皮膜層の表面を研磨仕上げすることで、削り取り量をそれほど多くしなくても走行糸条に損傷を与えることがない、表面状態に仕上げることができる。
【0046】
そして、これによって、製糸ローラの鋼製母材上に研削加工を施すことなく、加熱されたマルチフィラメント糸条がその上を高張力下で走行しても毛羽の発生がなく、しかも、耐摩耗性に優れ、かつ緻密で高い硬度を有する均一な複合セラミックス皮膜を製糸ローラ上に形成することができる。しかも、前記第1処理時に形成される複合セラミック皮膜層の表面状態は最適な状態に仕上げられている。
【0047】
このために、第2処理で形成する緻密な硬質皮膜は、第1処理で形成される前記複合セラミックス皮膜の表面状態に左右されることなく、第2処理終了後に研磨加工を施すだけで、毛羽が発生することがない表面状態に容易に調整できる。なお、この製糸ローラ上を糸条が走行する接糸面の表面粗さに関しては、最大高さ(R)で表して、0.5〜5.0μmとなるように、調整仕上げすることが好ましい。なお、最終的に、製糸ローラの接糸面の最大粗さとしてどのような値を採用するかについては、製糸ローラ上を走行する糸条の種類、性状、製糸条件などの要因によって異なるため、最終的には実験によって毛羽の発生をできるだけ抑制できるように、その都度最適な摩擦係数となるように決定されるべき設計事項である。
【実施例】
【0048】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、実施例に記載した特性は、次の方法にしたがって測定した。
(1)ビッカース硬度(H):テストピースを作成し、JIS Z2244に準拠して荷重300gを測定対象に負荷して測定した。
(2)表面粗さ(R):施工したローラ表面をJIS B0601に準拠して触針走査式試験方法にて測定した。
(3)初期毛羽カウント値:ローラ使用開始直後に、走行している糸条を、非接触型光学方式の毛羽測定装置(Enka tecnica社製、型式:Fraytec V)を使用して、糸条の長さ1.0×10m当りに発生した毛羽数をカウントした。
(4)コーティング皮膜の膜厚分布:12ケ月に亘って製糸に供した後のローラに対して、糸条を接触走行させなかったローラシェル部分(すなわち、糸条か走行することによって磨耗が起こらなかった部分)を輪切りして切断し、切断部を拡大した写真から円周上の任意の12点をピックアップして、コーティング皮膜の厚み分布を算出し、その最大厚みと最小厚みから求めた。
【0049】
[実施例1]
図2の製糸工程例において、第2延伸ローラ7に対して、本発明に係る処理を施した製糸ローラを使用した。このとき,本発明の製糸ローラは、図1に示す断面図のように、クロムモリブデン鋼(SCM440C)からなるローラシェル1の外周面に対して、脱脂処理などの清浄化処理を施した後、酸化アルミニウム粉末をブラストして表面を粗面化した接糸面に、平均粒径が10μmの酸化珪素粉末を50重量%の無水クロム酸水溶液中に重量比で50:50で混合して調整したセラミックス・スラリーを塗布した。その後、水分を揮発させて550℃で焼成し、多孔質の複合セラミックス皮膜を形成させた(以上が第1処理である)。
【0050】
次いで、第2処理として前記第1処理によって形成した多孔質皮膜に対して、50重量%の無水クロム酸水溶液を含浸し、550℃で焼成して化学的緻密皮膜を形成させる第2処理を実施した。この第2処理に係わる化学的緻密化処理の途中(8回繰返し時)と終了後(15回繰返し時)とで、それぞれラッピング研磨加工を施した。ただし、最終のラッピング研磨加工を施す際には、バーチカル機械研磨加工を施工した後にラッピング研磨加工を施し、複合セラミックス皮膜の接糸面の最大高さ(R)が1.0μmとなるように研磨仕上げした。また、その時の表面硬さ(H)も測定した。その結果を表1に示す。
なお、この実施例において第1処理と第2処理とで形成する複合セラミックス皮膜は、トーカロ社が提供するCDC−ZACコーティング(商品名)によって形成した。
【0051】
[比較例1]
実施例1において、ローラシェル上に最終的に形成したコーティング皮膜に対して、バーチカル機械研磨加工を施工しなかった以外の条件は、すべて同じ条件で仕上げたローラを使用した。このとき得られた結果を表1に示す。
【0052】
【表1】


【0053】
表1から明らかなように、本発明の表面方法(実施例1)によって作製された製糸ローラは,12ヶ月間(この期間で試験を打ち切った)に亘って連続的に製糸に供したにもかかわらず、毛羽の発生件数は3個/10mであった。このことは、実施例1では、バーチカル機械研磨加工を施工しているため、コーティング皮膜の膜厚分布が均一になっている。したがって、ローラシェルの外形の真円度が比較例1より高く、微小な「うねり(起伏)」が少なくなって、これによって、走行する糸条に発生する微妙なスティック・スリップなどが抑制されたためと考えられる。これに対して、比較例1では、バーチカル機械研磨加工が施工されていないために、コーティング皮膜の膜厚分布が大きくなって、これによる走行糸条のスティック・スリップなどの要因が発生したため、使用期間が12ヶ月経った時点で、毛羽の発生が5個/10mであり、実施例1より多くの毛羽が発生していた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のセラミックコーティングを施した製糸ローラを模式的に示した断面図である。
【図2】本発明を用いる産業用ポリエステル繊維の直接紡糸延伸装置を模式的に示した概略工程図である。
【符号の説明】
【0055】
1:ローラシェル
2:コーティング皮膜
3:溶融紡糸口金パック装置
4:引取りローラ
5:予熱ローラ
6:第1延伸ローラ
7:第2延伸ローラ
8:弛緩ローラ
9:巻取装置
【出願人】 【識別番号】302011711
【氏名又は名称】帝人ファイバー株式会社
【出願日】 平成18年10月5日(2006.10.5)
【代理人】 【識別番号】100099678
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 秀子


【公開番号】 特開2008−88615(P2008−88615A)
【公開日】 平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願番号】 特願2006−273783(P2006−273783)