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【発明の名称】 染色性に優れたアクリル系合成繊維
【発明者】 【氏名】三好 正明

【氏名】西田 宗平

【要約】 【課題】パイル加工において、クリンプが伸び易く、加工性及び風合に優れたパイルを得るべく、低温で染色可能なアクリル系合成繊維を提供する。

【構成】スルホン酸基含有モノマーの含有量が少ないアクリロニトリル系重合体と、スルホン酸基含有モノマーの含有量が多い重合体を混合した重合体組成物を湿式紡糸することにより、60〜90℃の低温でも染色可能であり、染色時の熱によるクリンプセットが抑えられた繊維が得られ、この繊維を用いることで、パイル加工において、クリンプが伸び易く、加工性及び風合に優れたパイル布帛が得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル40〜95重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜3重量%、その他共重合可能なモノマー5〜60重量%を合計100重量%となるように含有する重合体(A)60〜99重量%と、アクリロニトリル5〜90重量%、(メタ)アクリル酸及びそれらの塩類、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニルから選ばれる1種以上のモノマー9〜94重量%、スルホン酸基含有モノマー1〜40重量%を合計100重量%となるように含有する重合体であって、該重合体中にスルホン酸基含有モノマーを前記重合体(A)よりも多量に含有する重合体(B)1〜40重量%を、前記重合体(A)と重合体(B)との合計が100重量%となるように混合した重合体組成物を湿式紡糸してなるアクリル系合成繊維。
【請求項2】
スルホン酸基含有モノマーを、前記重合体(A)中に0〜1.5重量%、前記重合体(B)中に3〜30重量%含有してなる請求項1記載のアクリル系合成繊維。
【請求項3】
重合体組成物中のスルホン酸基含有モノマーの総含有量が0.5〜3重量%である請求項1または2に記載のアクリル系合成繊維。
【請求項4】
80℃の染色相対飽和値が0.5以上であり、沸水に30分浸漬した時の収縮率が5%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系合成繊維。
【請求項5】
先染め繊維を白色抜染した後の白度がW値で70以上となる抜染性を有する請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系合成繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系合成繊維を、60〜90℃の温度で染色してなり、染色前後での、動的粘弾性測定のtanδが最大値を示す温度の変化が7℃以下である請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系合成繊維。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系合成繊維を、紡糸後、クリンプ付与し、これを所定長さに切断して短繊維を得、該短繊維を60〜90℃の温度で染色し、該染色後の繊維からパイル布帛を作成し、仕上げ加工してなるパイル布帛。
【請求項8】
還元可能なカチオン染料で染色された繊維からパイル布帛を作成した後、抜染してなる請求項7記載のパイル布帛。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、低温で染色可能なアクリル系合成繊維に関し、さらに詳しくは、低温で染色可能なことから、パイル布帛の製造に用いた際にクリンプが伸び易く加工性がよく、また風合に優れたパイル布帛を得ることができるアクリル系合成繊維及びこのアクリル系合成繊維から製造されるパイル布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル系合成繊維は、そのソフト感等の風合及び加工の容易さから、ハイパイル、ボアー、シール、フリース等のパイル分野に広く使用されている。このアクリル系合成繊維はパイルのデザイン等に応じて、様々な色に染色されて使用されることが多い。染色の方法としては、例えば紡糸原液に着色剤を添加する、いわゆる原液着色等の紡糸工程において着色する方法、紡糸後、所定の長さに切断した短繊維をオーバーマイヤー染色機等により染色する方法、パイルの原反を浸染あるいは捺染する方法などがある。これらの染色方法の中でも、短繊維を染色する方法が、少量で多彩なデザインに対応しやすいことから、よく利用されている。しかし、この染色方法は、少量で多彩なデザインに対応しやすい反面、クリンプを付与して切断した後の短繊維を染色するものであることから、染色時の加熱によりクリンプがセット(クリンプ形状が固定)され、パイル仕上げ工程でクリンプが伸びにくく、良好な風合のものが得られにくいという欠点があった。それを改良するべく、紡糸における延伸を紡糸浴及び水洗浴のみで行い、さらに20〜25%の弛緩熱処理を行う方法が提案されている(特許文献1参照。)。しかしこの方法は、高い緩和率を必要とするため、生産性が低下する等の欠点があった。また、スルホン酸基含有モノマーを多く含有する重合体を原料とし、通常、沸騰に近い温度で行う染色を低温で行い、クリンプがセットされるのを抑える方法が提案されている(特許文献2)。しかし、単にスルホン酸基含有モノマーの含有量を増やしただけでは低温での染色性の向上は期待できず、しかも低温での染色性を向上させるべくスルホン酸基含有モノマーの含有量をあまり多くすると繊維の製造コストが高くなるうえ、紡糸性が低下するという問題もあった。
【特許文献1】特開平11−315416号公報
【特許文献2】特開2003−64560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、低温で染色可能な染色性に優れたアクリル系合成繊維を提供し、さらにこの染色性に優れたアクリル系合成繊維を用いることにより、染色時のクリンプのセットを抑え、パイルを作成する際にクリンプが伸び易く加工性に優れ、また風合に優れたパイル布帛を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記のように、単独のアクリロニトリル系重合体でスルホン酸基含有モノマーの含有量を増やしていくと染色性は向上するものの、80℃未満での染色性は不十分であるだけでなく、紡糸性も低下する傾向にある。しかし、本発明者らは、鋭意研究の結果、アクリル系合成繊維に一般に使用されているスルホン酸基含有モノマーを含まないアクリロニトリル系重合体やスルホン酸基含有モノマーの含有率が比較的少ないアクリロニトリル系重合体と、それよりスルホン酸基含有モノマーを多く含有する重合体を混合した重合体組成物を湿式紡糸することにより、60〜90℃の低温でも染色可能であり、染色時の熱によるクリンプセットが抑えられた繊維が得られることを知見した。本発明によれば、スルホン酸基含有モノマー量の異なる2種類の重合体を混合することにより、繊維中のスルホン酸基含有モノマーの総含有量が少なくても、大幅に低温染色性が向上し、パイル製造時の加工性がよく、また、紡糸性も低下しない。また、繊維を構成する重合体の親水性は抜染性とも大きな相関があり、親水性を向上させることで抜染性も大きく向上することが分かった。スルホン酸基含有モノマーを多く含有する重合体は親水性が高く、これを混合した重合体組成物からなる繊維は抜染性が良好である。
【0005】
すなわち、アクリロニトリル40〜95重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜3重量%、その他共重合可能なモノマー5〜60重量%を合計100重量%となるように含有する重合体(A)60〜99重量%と、アクリロニトリル5〜90重量%、(メタ)アクリル酸及びそれらの塩類、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニルから選ばれる1種以上のモノマー9〜94重量%、スルホン酸基含有モノマー1〜40重量%を合計100重量%となるように含有する重合体であって、該重合体中にスルホン酸基含有モノマーを前記重合体(A)よりも多量に含有する重合体(B)1〜40重量%を、前記重合体(A)と重合体(B)との合計が100重量%となるように混合した重合体組成物を湿式紡糸することにより、本発明の目的である低温で染色可能なアクリル系合成繊維が得られる。
【0006】
スルホン酸基含有モノマーは、前記重合体(A)中に0〜1.5重量%、前記重合体(B)中に3〜30重量%含有することがより好ましい。さらには、重合体(A)及び(B)の混合物中におけるスルホン酸基含有モノマーの総含有量が0.5〜3重量%であることが好ましい。
【0007】
本発明に係るアクリル系合成繊維は、80℃の染色相対飽和値は0.5以上、沸水に30分浸漬した時の収縮率は5%以下となる。また、本発明に係るアクリル系合成繊維は、先染め繊維を白色抜染した後の白度がW値で70以上となる抜染性を有する。さらに、本発明に係るアクリル系合成繊維は、60〜90℃の温度で染色した際の、染色前後での、動的粘弾性測定のtanδが最大値を示す温度の変化が7℃以下となる。
【0008】
重合体(A)と(B)の混合物からなる重合体組成物を含む紡糸原液を紡糸する方法としては、通常のアクリル系合成繊維の湿式紡糸と同様な方法により、ノズルより紡出後、数段の浴槽を通し、順次延伸、水洗、乾燥、熱処理を行えばよい。また、クリンプの付与は、スタフィングボックス、ギアクリンパー等、既知の方法により行うことが出来る。クリンプ付与後は、所定長さに切断し、短繊維とする。
【0009】
染色については、使用する染料や染色時間等は任意であるが、染色温度は、クリンプのセットを抑えるため、90℃以下で行うのが好ましい。好ましくは60〜90℃である。
【0010】
染色後、スライバー作成し、編み機にてパイルを編み上げる。編み上がったパイルを、バックコーテイング工程でパイル裏面に糊付けを行い、その後、ポリシャーにより、クリンプを伸ばし、パイルを仕上げる。
【0011】
さらに、本発明に係るアクリル系合成繊維は、抜染性にも優れている。抜染用途に用いる際には、染色は各種還元性抜染剤により還元されるカチオン染料によることが好ましく、一般的には染料構造中にアゾ基(−N=N−)を発色団として1個以上有するカチオン染料が用いられる。
【発明の効果】
【0012】
一般のボイル染色している繊維は、染色時にクリンプがセットされてクリンプが伸びにくく、ポリシャーをかける回数が多く必要である。これに対し、本発明に係るアクリル系合成繊維は、例えば60〜90℃の低温でも染色可能なため、染色時のクリンプセットが抑えられ、パイルを作成する際に、クリンプが伸びやすく、ポリシャーの回数が少なくてすみ、加工性に優れる。また、クリンプの伸びが良好なため、良好な風合のパイルが得られる。さらに、低温でも染色可能なことから、染色に要するエネルギー(熱量)を低減できる。
【0013】
また、本発明に係るアクリル系合成繊維は、抜染に必要な蒸熱処理時間が短く、本発明のアクリル系合成繊維を用いると、抜染時の蒸熱処理の時間が10〜15分以内で十分であり、パイル製造時の加工性に優れる。さらに、抜染後の白度が優れていると共に、ソフトな風合を保持している。このため、抜染加工を施した多様なデザインとソフトな風合とを兼ね備えたパイル布帛が出来、衣料、ぬいぐるみ、インテリア用途等、幅広く展開することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における重合体(A)は、アクリロニトリル40〜95重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜3重量%、好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1.5重量%以下、及びその他共重合可能なモノマー5〜60重量%からなるアクリル系重合体である。スルホン酸基含有モノマーとしては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イソプレンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。また、その他共重合可能なモノマーとしては、(メタ)アクリル酸等の酸類及びそれらの塩類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0015】
本発明における重合体(B)は、アクリロニトリル5〜90重量%、スルホン酸基含有モノマー1〜40重量%、好ましくは3〜30重量%、(メタ)アクリル酸及びそれらの塩類、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニルから選ばれる1種以上のモノマー9〜94重量部からなる。スルホン酸基含有モノマーとしては、前記重合体(A)の場合と同様のものが挙げられる。また、(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0016】
また、重合体(A)と重合体(B)との混合物中のスルホン酸基含有モノマーの総含有量は、0.5〜3重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜2.5重量%である。スルホン酸基含有モノマーの総含有量が少ないと低温染色性が低下する。またスルホン酸基含有モノマーの総含有量が多くなると繊維の製造コストが高くなるうえに、紡糸性が低下する傾向がある。
【0017】
本発明における重合体(A)、(B)は、重合開始剤として既知の化合物、例えば、パーオキシド系化合物、アゾ径化合物、または各種のレドックス系化合物を用い、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等一般的なビニル重合方法により得ることができる。
【0018】
本発明に係るアクリル系合成繊維は、重合体(A)60〜99重量%と、重合体(B)1〜40重量%とを、合計が100重量%となるように混合し、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等の有機溶剤、ロダン塩、硝酸、塩化亜鉛等の無機溶剤に溶解させて、紡糸原液とする。この紡糸原液を用いて、通常のアクリル系合成繊維の湿式紡糸と同様な方法により、ノズルより紡出後、数段の浴槽を通し、順次延伸、水洗、乾燥、熱処理を行い、アクリル系合成繊維を得る。
【0019】
次いで、こうして得られた合成繊維に、クリンプを付与する。クリンプ付与は、例えばスタフィングボックスやギアクリンパー等を用いた方法等の公知の方法で行う。クリンプを付与する際の温度は、70〜99℃、好ましくは70〜95℃とする。また、クリンプ山数が5〜14個/インチになるようにスタッフィングボックス圧を0.1〜0.4MPaに調整することが好ましい。クリンプ山数が多すぎると、良好な風合のパイルを得る点では不利である。一方、クリンプ山数が5個/インチ未満では、スライバー強度が弱くなり、スライバー作成、スライバーニッティングなどの加工性の点からは不利である。
【0020】
クリンプ付与後は、所定の長さに切断して短繊維とする。通常、短繊維の繊維長は20〜170mmである。
【0021】
ついで、短繊維は、染色工程に付される。本発明に係るアクリル系合成繊維は、一般に使用されるカチオン染料により染色が可能であり、重合体(A)のみからなるアクリル系合成繊維に比べて、低温での染料吸尽性能に優れている。使用する染料や染色時間等は任意であるが、染色温度については、クリンプのセットを抑えるため、90℃以下で行うのが好ましい。染色温度は、好ましくは60〜90℃であり、更に好ましくは60〜80℃である。
【0022】
染色した短繊維は、ローラーカード等に通してスライバー作成し、編み機によりパイルを編み上げる。編み上げたパイルをバックコーテイング工程に通し、糊付けを行う。その後、通常のパイル仕上げと同様に、高温から3段階程度の温度のポリシャーをかけ、シャーリング機によるカットを行い、パイルを仕上げる。その後、ポリシャーかけにより仕上げる。通常のアクリル系繊維の場合、仕上げに6〜10程度のポリッシャーかけが必要であるが、本発明の低温染色した繊維は4〜6回のポリシャーかけにより仕上げることが出来る。
【0023】
さらに、デザイン性向上等を目的としてパイルの毛先の抜染を行う際には、還元可能なカチオン染料を用いて染色し、上記と同様の手順でパイル布帛を作成後、ジンクホルムアルデヒドスルホキシレート等の亜鉛系抜染剤あるいは塩化第一錫等の錫系抜染剤等を含む一般に使用される抜染糊を使用して抜染する。抜染糊をパイル表面に印捺後、90℃以上の飽和水蒸気あるいは加熱水蒸気雰囲気中で10〜40分の蒸熱処理を行い、抜染を行う。さらに、水洗洗浄、乾燥、仕上げを経て、最終パイルが出来上がる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例の記載に先立って、評価法について説明する。なお、以下の記載で「部」は重量基準である。
【0025】
(染色相対飽和値)
染色相対飽和値は、繊維の染料吸尽性能の指標であり、繊維を60℃、70℃、80℃、90℃、100℃で60分間、濃度が5%omfのマラカイトグリーンを用いて染色し飽和染着量を求め、飽和染着量より相対飽和値を求めた。飽和染着量、相対飽和値は下記の式より求めた。
飽和染着量=((Ao−A)/Ao)×5)
A:染色後の染浴の吸光度(618nm)
Ao:染色前の染浴の吸光度(618nm)
相対飽和値=飽和染着量×400/463
【0026】
(沸水収縮率)
沸水収縮率は、沸水処理前の長さをL0、沸水処理(98℃で30分間)後の長さをL1とし、下記式より求めた。
沸水収縮率(%)=((L0−L1)/L0)×100
【0027】
(抜染性評価)
(1)先染め方法 染色機(オーバーマイヤー)に繊維をセットし、ウルトラリン酸(ウルトラMT−110:御弊島化学製)にてpH約3.5に調整した染色浴を仕立て、染色機を稼動させつつ50℃に昇温した。さらに下記染料処方にて計量した染料を70℃温水で溶解して投入した。次いで90℃まで1分間に1℃の速度で昇温し、90℃にて60分間保ち、染色を行った。その後、5℃/分の速度で50℃まで冷却し、通常の水洗、乾燥を経て染色された繊維を得た。
Cathilon Discharge Yellow NLH:0.49%omf
Cathilon Red CD−FGLH:0.19%omf
Cathilon Blue GRLH(200%):0.11%omf
(いずれも保土谷化学社製)
【0028】
(2)白色抜染処方と抜染性評価
(2−1)短繊維の白色抜染処方と抜染速度、白度評価
抜染剤として塩化第一錫(キシダ化学製)10部、水90部を混合して抜染剤溶液を調製した。この抜染剤溶液200mlをポット染色機にセットして昇温し、沸騰後、先染めした短繊維2gを投入し、抜染を行った。短繊維の抜染速度を評価するため、短繊維を投入後、5、10、15、20、25、30、40分間経過したものをそれぞれ得て、各々水洗−乾燥を行った。この繊維を十分に開繊して2g量り取り、直径30mmの試料台にいれて標準光源Cのもとで色差計タイプΣ90(日本電色工業製)を使用して抜染処理後の白度を測定した。なお本実施例、比較例では、40分経過後のハンター白度W値が70以上を合格とし、W値が70以上になった短繊維投入後の経過時間を抜染時間とし、その時間が短いほど抜染性に優れると評価した。
【0029】
(2−2)パイル原反の白色抜染処方と抜染性評価
抜染剤として塩化第一錫(キシダ化学製)10部、糊剤としてローカストビーン系糊Meypro Gum NP−25(30%濃度:Meyhall社製)40部、酒石酸0.1部、水49.9部を用い、抜染用捺染糊の粘度がB型粘度計で8000〜10000cpになるように調整した。この抜染用捺染糊をローラー捺染機を用いて200〜300g/m2の印捺量でハイパイル原反のパイル面に印捺し、約98℃の蒸し機内で蒸熱処理を15分間実施した後、水洗−乾燥を行った。次いで、ハイパイル原反のパイル乱れ及び風合いを改善するために、ポリッシング−シャーリング処理を行い、ハイパイル生地を最終製品の形態に整えた。このようにして得られた抜染品を、汚染用カラースケール(5級が最も良く、1級が最も悪い)を用いて評価した。
【0030】
(動的粘弾性tanδ測定)
測定には、染色前の短繊維及び染色後の短繊維を用いた。
セイコー電子工業(株)製TMA/SS150Cを用い、JIS−K7198を参考に試料長10mm、トータルデニール33dtex、昇温速度3℃/min、測定温度範囲30℃〜200℃、空気中、周波数0.05Hz、初荷重30mg/dtexで15mg/dtexの荷重を与え正弦波モードにより引っ張り振動をさせながら測定を行った。
【0031】
(パイルの加工性及び風合評価)
得られたアクリル系合成繊維を、オーバーマイヤー染色機を用い、Cathilon Discharge Yellow NLH:0.49%omf、Cathilon Red CD−FGLH:0.19%omf、Cathilon Blue GRLH(200%):0.11%omfの染料を用いて60〜100℃で60分間染色を行い、乾燥後、ローラーカードを通しスライバーを作成した。次いでハイパイル編織機でスライバーニッテイングを行い、その後、120℃でプレポリッシング処理とプレシャーリングを行い、パイル長を13mmに揃えた後、パイル裏面にアクリル酸エステル系接着剤でバックコーテイングを行った。その後、ポリシャーを5回の場合は、155℃、150℃、135℃、120℃、100℃のポリッシング、ポリシャーを6回の場合は、155℃、150℃、135℃、120℃、110℃、100℃のポリッシング、ポリシャーを8回の場合は、155℃、155℃、145℃、135℃、130℃、120℃、110℃、100℃のポリッシングを行い、ブラッシング、シャーリングと組み合わせ、パイルのクリンプを伸ばし、15mmのパイル長を有するパイルを作成した。
【0032】
パイルの風合評価は、5名の判定者により、以下の基準で評価し、最も多数を得た評価をそのパイルの評価結果とした。
◎:パイルのクリンプがゆるやかに伸び、毛さばきに優れ、ソフトで獣毛ライクな風合を有する。
○:パイルのクリンプの伸びが概ね良好で、ソフトな風合を有する。
△:パイルのクリンプの伸びがやや不十分で、ややガサツク風合である。
×:パイルのクリンプの伸びが不十分で、ガサツク風合である
【0033】
(実施例1)
内容積20Lの耐圧重合反応装置にイオン交換水200部、ラウリル硫酸ナトリウム0.9部、亜硫酸0.43部、亜硫酸水素ナトリウム0.22部、硫酸鉄0.001部、アクリロニトリル(AN)4.9部、塩化ビニル(VC)51.5部を投入し、窒素置換した。重合反応装置内温度を50℃に調整し、開始剤として過硫酸アンモニウム0.035部を投入し、重合を開始した。途中、アクリロニトリル43.1部、スチレンスルホン酸ナトリウム(3S)0.5部、過硫酸アンモニウム0.23部を追加しながら、重合時間5時間10分で重合した。その後、未反応の塩化ビニルを回収し、ラテックスを重合機より払い出し、塩析、熱処理、ろ過、水洗、脱水、乾燥し、本発明の重合体(A)に該当する重合体1を得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル50重量%、スチレンスルホン酸ナトリウム0.5重量%、塩化ビニル49.5重量%であった。
【0034】
次に、内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン187部、水47部、アクリロニトリル45部、アクリル酸メチル45部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(以下SAMと記す。)10部を投入し、窒素置換した。重合反応装置内温度を65℃に調整し、開始剤として2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(AIVN)を0.5部投入し重合を開始した。途中、AIVNを1.0部追加しながら2時間重合し、その後、70℃に昇温し2時間重合させ、重合体濃度30%の本発明の重合体(B)に該当する重合体2の溶液を得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル45重量%、アクリル酸メチル45重量%、SAM10重量%であった。
【0035】
重合体1が30重量%になるようにアセトンを加えて溶解した重合体1の溶液に、重合体2の溶液を、重合体の重量比が重合体1:重合体2=92:8の比率になるように混合して紡糸原液とした。得られた紡糸原液を、孔径0.1mm、ホール数10,000のノズルを通して、アセトン/水=30/70、25℃の凝固浴に紡出し、85℃の熱水中にて3倍に延伸し、さらに乾燥後、130℃にて2倍延伸し、さらに150℃にて緩和熱処理を行い、3.3dtexの繊維を得た。続いて得られた繊維にクリンプを付与した後、繊維長を38mmに切断して短繊維を得た。
【0036】
得られた短繊維について、染色相対飽和値を評価した。この染色相対飽和値の評価結果をもとに、60℃で60分間染色を行い、染色前後における動的粘弾性tanδを測定した。また、抜染用先染めを行った後、短繊維の抜染を行い、抜染時間及び抜染後のW値を評価した。さらに、染色した繊維を、(パイルの加工法及び風合評価)に記載した手順によりポリシャーを5回かけ、パイルを作成し、評価を行った。
【0037】
(実施例2)
実施例1における重合体1を得た方法と同様の方法により、アクリロニトリル52重量%、スチレンスルホン酸ナトリウム1重量%、塩化ビニル47重量%の重合体3を得た。さらに、実施例1における重合体2を得た方法と同様の方法によりアクリロニトリル45重量%、アクリル酸メチル35重量%、SAM20重量%の重合体4を得た。重合体3:重合体4の重量比が95:5の比率になるように混合したものを紡糸原液とし、実施例1と同様の方法で短繊維を得、実施例1と同様の方法で染色性、動的粘弾性tanδ、抜染性を評価し、さらに70℃で60分間染色した繊維を用いて(パイル加工法及び風合評価)手順によりポリシャーを5回かけ、パイルを作成し、評価を行った。
【0038】
(実施例3)
内容積20Lの耐圧重合反応装置にイオン交換水200部、ラウリル硫酸ナトリウム1.1部、亜硫酸0.13部、硫酸水素ナトリウム0.17部、硫酸鉄0.002部、アクリロニトリル10.7部、塩化ビニリデン4.4部を投入し、窒素置換した。重合反応装置内温を55℃に調整し、開始剤として過硫酸アンモニウム0.012部を投入し、重合を開始した。途中、アクリロニトリル45.7部、塩化ビニリデン37.7部、スチレンスルホン酸ナトリウム1.5部、過硫酸アンモニウム0.135部を追加しながら、重合時間6時間10分で重合した。その後、ラテックスを重合反応装置より払い出し、塩析、熱処理、ろ過、水洗、脱水、乾燥し、本発明の重合体(A)に該当する重合体5を得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル52重量%、スチレンスルホン酸ナトリウム1.5重量%、塩化ビニリデン46.5重量%であった。さらに、実施例1における重合体2を得た方法と同様の方法によりアクリロニトリル50重量%、アクリル酸メチル45重量%、SAM5重量%の重合体6を得た。重合体5:重合体6の重量比が85:15の比率になるように混合した物を紡糸原液とし、実施例1と同様の方法で短繊維を得た。
【0039】
得られた短繊維について、実施例1と同様の方法で染色性、動的粘弾性tanδ、抜染性を評価し、さらに80℃で60分間染色した繊維を用いて(パイル加工法及び風合評価)手順によりポリシャーを5回かけ、パイル作成し、評価を行った。
【0040】
(実施例4)
実施例1における重合体1を得た方法と同様の方法により、アクリロニトリル49重量%、スチレンスルホン酸ナトリウム0.5重量%、塩化ビニル50.5重量%の重合体7を得た。さらに、実施例1における重合体2を得た方法と同様の方法によりアクリロニトリル30重量%、アクリル酸メチル40重量%、SAM30重量%の重合体8を得た。重合体7:重合体8の重量比が98.5:1.5の比率になるように混合したものを紡糸原液とし、実施例1と同様の方法で短繊維を得た。
【0041】
得られた短繊維について、実施例1と同様の方法で染色性、動的粘弾性tanδ、抜染性を評価し、さらに90℃で60分間染色した繊維を用いて(パイル加工法及び風合評価)手順によりポリシャーを5回かけ、パイル作成し、評価を行った。
【0042】
(実施例5)
内容積20Lの耐圧重合反応装置にジメチルホルムアミド(DMF)233部、アクリロニトリル90部、アクリル酸メチル9.5部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム0.5部を投入し、窒素置換した。重合機内温を65℃に調整し、開始剤として2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(AIVN)を0.5部投入し重合を開始した。途中、AIVNを1.0部追加しながら2時間重合し、その後70℃に昇温して10時間重合させ、本発明の重合体(A)に該当する重合体9を得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル90重量%、メタリルスルホン酸ナトリウム0.5重量%、アクリル酸メチル9.5重量%であった。さらに、実施例1における重合体2を得た方法と同様の方法によりアクリロニトリル50重量%、アクリル酸メチル40重量%、SAM10重量%の重合体10を得た。重合体9:重合体10の重量比が92:8の比率になるように混合した物を紡糸原液とし、孔径0.1mm、ホール数10,000のノズルを通して、DMF/水=60/40、15℃の凝固浴に紡出し、85℃の熱水中にて7倍に延伸し、さらに乾燥後、さらに165℃にて緩和熱処理を行い、3.3dtexの繊維を得た。さらに実施例1と同様の方法でクリンプ付与、切断を行い短繊維を得た。
【0043】
得られた短繊維について、実施例1と同様の方法で染色性、動的粘弾性tanδ、抜染性を評価し、さらに80℃で60分間染色した繊維を用いて(パイル加工法及び風合評価)手順によりポリシャーを5回かけ、パイル作成し、評価を行った。
【0044】
(実施例6)
実施例5における重合体9を得た方法と同様の方法により、アクリロニトリル90重量%、メタリルスルホン酸ナトリウム0.5重量%、酢酸ビニル9.5重量%の重合体11を得た。さらに、実施例1における重合体2を得た方法と同様の方法によりアクリロニトリル50重量%、アクリル酸メチル40重量%、SAM10重量%の重合体10を得た。重合体11:重合体10の重量比が92:8の比率になるように混合した物を紡糸原液とし、実施例5と同様の方法で短繊維を得た。
【0045】
得られた短繊維について、実施例1と同様の方法で染色性、動的粘弾性tanδ、抜染性を評価し、さらに80℃で60分間染色した繊維を用いて(パイル加工法及び風合評価)手順によりポリシャーを5回かけ、パイル作成し、評価を行った。
【0046】
(実施例7)
実施例2と同様に短繊維を得、70℃で60分間染色した繊維を用いて(パイル加工法及び風合評価)手順によりポリシャーを6回かけ、パイル作成し、評価を行った。
【0047】
(比較例1)
実施例4における重合体7(アクリロニトリル49重量%、スチレンスルホン酸ナトリウム0.5重量%、塩化ビニル50.5重量%)単独を紡糸原液とし、実施例1と同様の方法で短繊維を得、実施例1と同様の方法で染色性、動的粘弾性tanδ、抜染性を評価し、さらに100℃で60分間染色した繊維を用いてパイル加工性、風合の評価を行った。
【0048】
(比較例2)
実施例3における重合体5(アクリロニトリル52重量%、スチレンスルホン酸ナトリウム1.5重量%、塩化ビニリデン46.5重量%)単独を紡糸原液とし、実施例1と同様の方法で短繊維を得、実施例1と同様の方法で染色性、動的粘弾性tanδ、抜染性を評価し、さらに100℃で60分間染色した繊維を用いてパイル加工性、風合の評価を行った。
【0049】
(比較例3)
実施例5における重合体9(アクリロニトリル90重量%、メタリルスルホン酸ナトリウム0.5重量%、アクリル酸メチル9.5重量%)単独を紡糸原液とし、実施例5と同様の方法で短繊維を得、実施例1と同様の方法で染色性、動的粘弾性tanδ、抜染性を評価し、さらに100℃で60分間染色した繊維を用いてパイル加工性、風合の評価を行った。
【0050】
(比較例4)
比較例1と同様に短繊維を得、同様の方法で染色性、動的粘弾性tanδ、抜染性を評価し、さらに100℃で60分間染色した繊維を用いて(パイル加工法及び風合評価)手順によりポリシャーを8回かけ、パイル作成し、評価を行った。
【0051】
以上の実施例1〜7及び比較例1〜4の重合体組成を表1に、また評価結果を表2に示す。
【0052】
【表1】


【0053】
【表2】


【0054】
表1、表2から明らかなように、比較例のようにスルホン酸基含有モノマーを含むだけでは、染色相対飽和値が低く、低温での染色性は向上しない。従って、染色は100℃程度の高い温度で行う必要があり、染色時のクリンプセットを抑えることができない。このため、ポリッシャー回数も多くなり、また風合いのよいパイル布帛を得ることは困難である。これに対し、実施例のアクリル系合成繊維は、スルホン酸基含有モノマーの含有量が少ないアクリル系重合体に、スルホン酸基含有モノマーの含有量が多い重合体を混合した重合体組成物を原料とすることで、重合体中のスルホン酸基含有モノマーの総含有量が少なくても染色相対飽和値が高い。したがって、90℃以下の低温での染色が可能で、染色のためのエネルギー(熱量)を低減できるうえ、染色時のクリンプセットが抑えられる。このため、ポリッシャーの回数が少なくても風合いの優れたパイル布帛を得ることができ、またポリッシャー回数を増やせば、さらに風合いのよいパイル布帛を得ることができる。また、本発明のアクリル系合成繊維は、抜染性にも優れる。

【出願人】 【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
【出願日】 平成18年7月6日(2006.7.6)
【代理人】 【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生

【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫

【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由


【公開番号】 特開2008−13877(P2008−13877A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−186182(P2006−186182)