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【発明の名称】 湿式紡糸装置及び湿式紡糸方法
【発明者】 【氏名】池田 勝彦
【氏名】畑中 洋二
【氏名】稲田 浩成
【氏名】多田 旭成
【課題】凝固液流を制御することで紡浴槽内における凝固液の濃度・温度を均一化し良好な品質の繊維を製造可能とし、又凝固液の流れを均一にすることにより高速紡糸を可能とする湿式紡糸装置及び湿式紡糸方法を提供することにある。

【解決手段】凝固液噴出し口4a,4bは吐出される凝固液Cがノズル5の背面に衝突しないよう配設され、紡浴槽2内の一端部から他端部へと伸びる二つの整流板14a,14bは前記紡浴槽2内を内槽とその両側の外槽とに分け、その糸条走行部2b内に形成される部分に開口部25を有し、前記ノズル5の吐出面の中心と凝固糸条巻き回し面30とが前記紡浴槽2の液深の上下方向の中心位置になるよう配設され、前記ノズル5の上端から液面CUまでの距離L2と、前記ノズル5の下端から底面CBまでの距離L3とが夫々10mm以上40mm以下となるように構成されることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸原液を凝固させ凝固糸条にして紡糸する湿式紡糸装置において、
凝固液を貯留する紡浴槽の一端部に、紡糸原液を前記紡浴槽の他端部に向けて吐出するノズルと、前記ノズルの背面側から前記凝固液を吐出する凝固液噴出し口とが、前記凝固液噴出し口から吐出される前記凝固液が前記ノズルの背面に衝突しないよう配設されており、
前記紡浴槽の他端部に、凝固糸条を巻き回して該紡浴槽から引き上げるための引き上げロールが設けられ、
前記引き上げロールよりも後方側に、前記凝固液が流出させられる凝固液回収部が設けられ、
前記紡浴槽の内部が、ノズルから吐出される紡糸原液を凝固させ凝固糸条にする凝固浴部と、前記凝固糸条が走行させられる糸条走行部とに区画されるとともに、その一端部から他端部へと伸びる二つの整流板により、前記凝固糸条が走行する内槽と、その両側の外槽とに分けられ、
前記両整流板は、その前記凝固浴部に形成される部分の側面に開口部を有さず、その前記糸条走行部に形成される部分の側面に開口部を有し、
前記ノズルの吐出面の中心と前記引き上げロールの凝固糸条巻き回し面とが前記紡浴槽の液深の上下方向の中心位置になるよう配設され、
前記ノズルの上端から前記紡浴槽の液面までの距離と、前記ノズルの下端から前記紡浴槽の底面までの距離とが、夫々10mm以上40mm以下となるように構成されることを特徴とする湿式紡糸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の湿式紡糸装置を用いて合成繊維を紡糸する方法であって、
前記凝固液噴出し口から吐出される前記凝固液を、前記凝固糸条の走行方向と略平行に1m3/h〜3m3/hで吐出させ、前記凝固液回収部へ流出させ装置から排出させることを特徴とする湿式紡糸方法。


【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維を製造する湿式紡糸装置及び湿式紡糸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式紡糸装置は、有機系高分子重合体を溶媒に溶解して調製した紡糸原液をノズルから凝固液中に吐出して繊維状に固化させる装置である。この湿式紡糸装置により、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、その他アクリル系繊維などが製造される。
一般的にこの湿式紡糸装置は、凝固液が蓄えられる紡浴槽内の一端部にノズルが沈設され、該ノズルから吐出された紡糸原液が凝固液により凝固され凝固糸条とされ、他端部に沈設される引き上げロールを介して紡浴槽外に引き取られるよう構成されている。前記凝固液は、前記ノズルの背面側に配設された凝固液噴出し口から該紡浴槽内に吐出され、前記凝固糸条を凝固させつつ該凝固糸条の走行方向へと流されていき、他端部に配設された紡浴槽出口より凝固液回収部へと流出される。前記紡浴槽内で固化された繊維(凝固糸条)は、その後凝固液と分離して洗浄され、薬液処理、乾燥、熱処理等の後工程へと送られる。
前記凝固糸条を引き取り紡糸する速度は、一般に紡浴槽内に供給される凝固液の平均流速よりも速く設定され、そのため該凝固糸条の近傍にある凝固液は該凝固糸条に引き寄せられ随伴されて、紡糸速度に近い速さで引き取り方向へと流される(以下「随伴流」と表す)。そしてこれを補うために、前記凝固糸条から離れた紡浴槽内の底壁や側壁付近では凝固液が下流側から上流側へと逆流する現象が起こる。このように前記紡浴槽内では、随伴流と逆流との相反する方向の流れが同時に隣接して発生するために、両者が相互に干渉し合い凝固液は不規則に循環する流れとなり、局所的に渦や滞留が発生していた。そのため凝固不良により単糸切れした糸屑(ネスト)が紡浴槽内に浮遊し糸屑溜りが繊維に接触し製品の品質・性能の低下をもたらすという問題があった。又生産性を向上させるために紡糸速度を上げた場合にも、前記凝固液の乱流がより顕著に発生し、前記凝固糸条が槽の内で揺さぶられて繊度斑や単糸切れなどを引き起こし安定した生産を行う妨げとなっていた。
上記問題の解決策として、例えば特許文献1に記載された湿式紡糸装置が知られている。これは紡浴槽内の凝固液の乱流を抑制するために、凝固糸条と紡浴槽の長手方向の壁面との間に凝固液仕切り側板(整流板)を設置し凝固液流を制御するように構成されている。そして上記随伴流と逆流とが該凝固液仕切り側板により内槽とその両側の外槽とに夫々流れを分けられ、随伴流は内槽を下流側へ流され、逆流は外槽を上流側へ流されて前記ノズル近傍へと復流され新たに供給される凝固液と混合されるようになっている。
【特許文献1】特開平9−67714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ノズルから紡糸原液が吐出された直後の凝固過程は、この湿式紡糸装置によって得られる繊維の品質・性能に非常に大きく影響することが知られている。そのため前記ノズル近傍で凝固液の乱流が起きたり、該凝固液の濃度・温度に斑があると単糸切れや異常繊維を生じさせる原因となる。
しかしながら上記湿式紡糸装置では、凝固糸条から搾出された濃度・温度の異なる逆流液をノズル近傍に復流させ、供給される新鮮な凝固液と混合させて再び供給するようになっているため、得られる繊維の品質に斑(特に断面形状斑)を生じさせてしまう虞がある。又生産性を向上させるために紡糸速度を上げて上記随伴流量が増大した場合には、上記復流液量もそれに連れて増大し、ノズル近傍の流速が早くなりさらに大きな乱流を引き起こす虞がある。
【0004】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、紡浴槽内での凝固液流を制御することで該紡浴槽内における凝固液の濃度・温度を均一化し、前記凝固液の乱流によって生じる単糸切れや滞留によって発生し浮遊する糸屑(ネスト)の生成を防止し、良好な品質の繊維を製造可能とし、更に凝固液の流れを均一にすることにより高速紡糸(高速引取り)を可能とする湿式紡糸装置及び湿式紡糸方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。すなわち本発明は、紡糸原液を凝固させ凝固糸条にして紡糸する湿式紡糸装置において、凝固液を貯留する紡浴槽の一端部に、紡糸原液を前記紡浴槽の他端部に向けて吐出するノズルと、前記ノズルの背面側から前記凝固液を吐出する凝固液噴出し口とが、前記凝固液噴出し口から吐出される前記凝固液が前記ノズルの背面に衝突しないよう配設されており、前記紡浴槽の他端部に、凝固糸条を巻き回して該紡浴槽から引き上げるための引き上げロールが設けられ、前記引き上げロールよりも後方側に、前記凝固液が流出させられる凝固液回収部が設けられ、前記紡浴槽の内部が、ノズルから送り出される紡糸原液を凝固させ凝固糸条にする凝固浴部と、前記凝固糸条が走行させられる糸条走行部とに区画されるとともに、その一端部から他端部へと伸びる二つの整流板により、前記凝固糸条が走行する内槽と、その両側の外槽とに分けられ、前記両整流板は、その前記凝固浴部に形成される部分の側面に開口部を有さず、その前記糸条走行部に形成される部分の側面に開口部を有し、前記ノズルの吐出面の中心と前記引き上げロールの凝固糸条巻き回し面とが前記紡浴槽の液深の上下方向の中心位置になるよう配設され、前記ノズルの上端から前記紡浴槽の液面までの距離と、前記ノズルの下端から前記紡浴槽の底面までの距離とが、夫々10mm以上40mm以下となるように構成されることを特徴とする。
【0006】
この発明に係る湿式紡糸装置によれば、前記凝固液噴出し口は前記ノズルの背面側へ配設され、該凝固液噴出し口から吐出される凝固液が該ノズルの背面に衝突しないよう配設されているので、該ノズルから送り出される前記凝固糸条と前記凝固液との液抵抗を極力小さくすることが出来、又凝固液流の乱れによる前記凝固糸条の走行揺れを防止する。又前記両整流板は、その前記凝固浴部に形成される部分の側面に開口部を有さず、その前記糸条走行部に形成される部分の側面に開口部を有しているので、前記凝固糸条から搾出された凝固液及び該凝固糸条の走行によって生じる凝固液の随伴流は、前記糸条走行部に設けられる前記両整流板に備える複数の前記開口部を介して内槽からその両側の外槽へと流され、内槽・外槽夫々から下流側の前記凝固液回収部へと流出される。すなわち凝固に使用された前記凝固液は、前記ノズルの近傍に復流として戻されることなく上流側から下流側へと一定方向に流されて装置から排出されるようになっている。又前記ノズルの吐出面の中心と前記引き上げロールの凝固糸条巻き回し面とが前記紡浴槽の液深の上下方向の中心位置になるよう配設されているので、前記ノズルの先端面に掛かる前記凝固糸条の引き取り張力は該凝固糸条の中心部から外周部まで略同一の張力とする事が出来る。又前記ノズルの上端から前記紡浴槽の液面までの距離と、前記ノズルの下端から前記紡浴槽の底面までの距離とが夫々10mm以上40mm以下となるように構成されるので、前記ノズル先端面へ供給する凝固液の供給不足を起こしたりノズル近傍に凝固液の乱流や滞留を発生したりすることを極力防止することが出来る。
【0007】
本発明の湿式紡糸装置を用いて合成繊維を紡糸する方法において、前記凝固液噴出し口から吐出される前記凝固液を、前記凝固糸条の走行方向と略平行に1m3/h〜3m3/hで吐出させるようにしてもよい。これにより、該凝固液の流れが前記ノズル近傍へ逆流したり乱流を起こしたりするのを極力防止することが出来る。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る湿式紡糸装置及び湿式紡糸方法によれば、紡浴槽内での凝固液流が制御され該紡浴槽内における前記凝固液の濃度・温度が均一化され、前記ノズル先端面へ供給する凝固液の供給不足を防止し、該凝固液の乱流によって生じる単糸切れや滞留によって発生する糸屑(ネスト)の生成が防止されるので、良好な品質の繊維が製造可能である。又前記凝固液の流れが均一にされるため、高速紡糸においても品質の良い繊維を安定して製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の湿式紡糸装置の概略構成を示す側面図である。図2は、本発明の一実施形態の湿式紡糸装置の概略構成を示す平面図である。図1に示すようにこの湿式紡糸装置1は、凝固液Cを貯留可能に構成される紡浴槽2と、該紡浴槽2の長手方向の下流側(図1における右側)に配設され流出された前記凝固液Cを回収する凝固液回収部3とを備えている。前記紡浴槽2は、該紡浴槽2内を仕切らずに槽を形成する凝固浴部2aと糸条走行部2bとに区画されて構成されている。前記凝固浴部2aは前記紡浴槽2の上流側に配設され前記糸条走行部2bは前記紡浴槽2の下流側に配設されて、前記凝固液Cを貯留及び流通可能に構成されている。
前記凝固浴部2aは、該凝固浴部2a内の一端部に配設され前記凝固液Cを吐出する二つの凝固液噴出し口4a,4bと該凝固浴部2a内に沈設され紡糸原液を他端部へ向けて吐出させる円柱形状のノズル5とを備えている。又前記糸条走行部2bには、該糸条走行部2b内の他端部に沈設されるローラー形状の引き上げロール10が備えられている。又前記凝固液Cの液面CUと底面CBとは、略平行になるよう槽が形成されている。
【0010】
図2に示すように、前記凝固液噴出し口4a,4bは、前記ノズル5の背面側へ配設されており、両凝固液噴出し口4a,4bの前記ノズル5側の壁面には多数の微細吐出孔(不図示)が夫々備えられ、該微細吐出孔より前記凝固液Cを下流側へ向けて吐出可能に構成されている。又前記凝固液噴出し口4a,4bは、両凝固液噴出し口4a,4b間を前記ノズル5の平面視外径幅と略同一寸法の幅M1だけ隔てて配設されている。そして凝固液噴出し口4aは前記紡浴槽2の槽壁面の長手方向の面を形成する紡浴槽側板21に接して設けられ、凝固液噴出し口4bも前記紡浴槽2の槽壁面の長手方向の面を形成するもう一つの紡浴槽側板22に接して設けられている。そして両凝固液噴出し口4a,4bの間には、前記の幅M1の寸法を有する補助板12が設けられている。前記補助板12は、凝固液Cの吐出孔を有さず凝固液Cを貯留可能に前記紡浴槽2の短手方向の槽壁面の一部を形成し、その両端を前記凝固液噴出し口4a,4bに支持されて形成されている。
【0011】
前記ノズル5の背面側の面を形成するノズル裏面51には、原液供給管11が接続されている。前記ノズル裏面51は、前記ノズル5と前記原液供給管11とを接続し、それらの内部に紡糸原液を流通可能に構成される。前記ノズル5の吐出面(下流側の面)には、紡出口金52が備えられている。該紡出口金52は、前記紡浴槽2内で凝固されて繊維となる前記紡糸原液を槽内へと吐出するための多数の微細送出孔(不図示)をその面に備えている。前記紡糸原液は槽内へ吐出された直後に前記凝固液Cにより凝固されて凝固糸条13となり下流側へ向かって送り出される。図1に示すように、前記ノズル5の中心軸C1は前記ノズル5の吐出面の中心を通り前記紡浴槽2の液深の上下方向の中心位置を通って前記液面CU・底面CBと略平行に該紡浴槽2の長手方向に伸びている。前記凝固糸条13は前記紡出口金52から送出されて装置の長手方向の上流側から下流側へと前記中心軸C1上に沿うように走行される。そして前記中心軸C1を通る前記引き上げロール10の凝固糸条巻き回し面30を経由して巻き回されながら矢印Fの向きに方向を変え、装置の外部に配設される引取り装置(不図示)によって引き取られるよう構成されている。
又前記ノズル5の上端から前記紡浴槽2の液面CUまでの距離L2と、前記ノズル5の下端から前記紡浴槽2の底面CBまでの距離L3とは、夫々10mm以上40mm以下となるように構成されている。
又前記凝固液噴出し口4a,4bから夫々吐出される前記凝固液Cの吐出方向は、上記凝固糸条13の走行方向と略平行になるよう構成されている。
【0012】
図2に示すように、前記紡浴槽2は、その槽内の一端部から他端部までに亘り形成される二つの整流板14a,14bを備えている。前記紡浴槽2は、前記整流板14a,14bの間隔により形成され前記凝固糸条13を走行させる内槽23と該内槽23の両側の部分に形成される二つの外槽24とに分けられて構成されている。又整流板14aはその一端部が前記紡浴槽側板21と前記凝固液噴出し口4aとの当接部付近に接して形成されており、他端部が前記糸条走行部2bの他端部の槽壁面を形成する紡浴槽出口15へ当接されて形成されている。又整流板14bも同様にその一端部が前記紡浴槽側板22と前記凝固液噴出し口4bとの当接部付近に接して形成され、他端部が前記紡浴槽出口15に当接されて形成されている。
【0013】
前記整流板14a,14bの前記凝固浴部2a内に形成される部分は、その該整流板14a,14bの間隔により形成される内槽23の幅を該凝固浴部2a内の一端部から他端部へと向かって滑らかに徐々にその形状を窄ませるように、又前記凝固糸条13に極力近接されて配設されている。ここで前記整流板14a,14bの側面の形状は、前記凝固液Cを滑らかに前記ノズル5近傍へと供給可能であれば特にその形状を限定されるものではないが、例えば流線型を有した曲面形状とすることが好ましい。又前記整流板14a,14bの前記糸条走行部2b内に形成される部分も、前記凝固糸条13に極力近接され該凝固糸条13と略平行に該糸条走行部2b内の一端部から他端部へと配設されている。そして前記凝固浴部2a内の他端部に形成される内槽の幅と前記糸条走行部2bの一端部に形成される内槽の幅とが同一とされて接続され、その接続部の形状は滑らかに形成されている。
図1に示すように前記整流板14a,14bは、その高さ方向を前記紡浴槽2の底面CBから液面CUの上部に亘り形成されている。又前記整流板14a,14bは、その前記凝固浴部2a内に形成される部分の側面に開口部を有さず、その前記糸条走行部2b内に形成される部分の側面に複数の開口部25を有している。又前記開口部25も、前記底面CB付近から前記液面CUの上部に亘り開口されて形成されている。前記開口部25は、図に示す縦型矩形孔(スリット)の他横型矩形孔としても良く、又図5の一例に示すように多孔パンチング孔でも良く、又楕円孔や多角形孔等でも良く、その開口形状を限定されるものではない。ただし開口面積を極端に増やした場合は整流作用本来の目的を失してしまうため適宜開けられることとし、前記糸条走行部2b内に配される前記整流板14a,14bの部分の側面に略均等に複数分布されて形成されることが好ましい。
【0014】
図3は図2におけるX−X線断面図を示し、図4は図2におけるY−Y線断面図を示す。前記X−X線断面図は、図2における前記紡出口金52の面(ノズル5吐出面)における装置の断面を示している。又前記Y−Y線断面図は、図2における糸条走行部2bの任意の面における装置の断面を示している。又図3における前記内槽23の幅を幅M2とし、図4における前記内槽23の幅を幅M3とする。ここで前記幅M3は、前記幅M2に対して30%〜80%の範囲となるように形成されるのが好ましい。
【0015】
図6は、前記糸条走行部2bの他端部に設けられる紡浴槽出口15の出口孔形状を示す図である。前記紡浴槽出口15に複数備えられる出口孔30は、該紡浴槽出口15の全体から凝固液Cを略均等に排出可能な横型矩形孔に形成されている。ただし該出口孔30の形状は、前記凝固液Cを前記紡浴槽出口15の全体から略均等に排出可能な形状であればその形状を限定されるものではなく、図に示す以外に多孔パンチング孔、楕円孔、多角形孔等でも良い。ただし開口面積を極端に増やした場合は凝固液Cを均等排出させるという本来の目的を失してしまうため、適宜開けられることとし前記紡浴槽出口15に略均等に複数分布されて形成されることが好ましい。
【0016】
図2に示すように前記凝固糸条13を前記紡浴槽2の長手方向に浸漬させる浸漬長L1(凝固浴部長+糸条走行部長)は、引き取られる該凝固糸条13が十分に凝固可能であれば特に限定されるものではないが、300mmから1100mmの間に設定されるのが好ましい。又前記凝固浴部2aと前記糸条走行部2bの長手方向の各長さは、装置の生産速度(凝固糸条引取り速度)、ノズルサイズ、トウ(凝固糸条)サイズ、随伴流量、逆流液量、凝固条件等によって夫々最適な比率により設定する事が出来るが、該凝固浴部2aと該糸条走行部2bとの長さの比率を1対1〜1対5の間で設定することが好ましい。
【0017】
次に、以上のように構成された湿式紡糸装置1を用いて合成繊維を紡糸する方法について説明する。図1において、紡糸原液が原液供給管11に原液供給装置(不図示)により供給されると、該紡糸原液は該原液供給管11から前記ノズル裏面51を介し前記ノズル5へと送られる。該紡糸原液は該ノズル5の吐出面である前記紡糸口金52より前記凝固液C内へと送り出され凝固されて前記凝固糸条13となる。
該凝固糸条13は前記糸条走行部2b内の長手方向の他端部に沈設される引き上げロール10を介し装置外部の引取り装置(不図示)に引き取られながら、前記紡浴槽2内を上流側から下流側へ向かって走行する。該凝固糸条13の走行方向は、装置の底面CB・液面CUと略平行に配される前記ノズル5の中心軸C1上に沿うように設定されており、該凝固糸条13は前記引き上げロール10の凝固糸条巻き回し面30に巻き回された後に矢印Fの方向に向きを変更されて装置から排出され、その後の洗浄・延伸工程へと送られるようになっている。
ここで前記ノズル5の吐出面の中心と前記凝固糸条巻き回し面30の位置とが前記紡浴槽2の液深の上下方向の中心位置になるよう配設されているので、前記ノズル5の先端面に掛かる前記凝固糸条13の引き取り張力は該凝固糸条13の中心部から外周部まで略同一の張力とする事が出来、局所的に生じる過剰な引き取り張力に起因する単糸切れを極力低減する事が可能となる。又前記凝固糸条13の凝固化が均一に行われる。
又前記ノズル5の上端から前記紡浴槽2の液面CUまでの距離L2と、前記ノズル5の下端から前記紡浴槽2の底面CBまでの距離L3とが夫々10mm以上40mm以下となるように構成されているので、前記ノズル5の吐出面へ供給する凝固液Cの供給不足を防止し、前記ノズル5近傍に凝固液Cの乱流や滞留を発生したりすることを防止することが出来る。仮に前記距離L2及び距離L3を10mmより小さい値とした場合は、前記ノズル5の吐出面に供給される凝固液Cの供給不足により前記凝固糸条13へ均一な凝固を行うことが難しく、特に前記ノズル5の上部付近の液面CUにおいては上記供給不足による渦巻きも発生して乱流が起きる。又前記距離L2及び距離L3を40mmより大きい値とした場合も、前記凝固糸条13から離れた位置で前記凝固液Cの滞留が発生するようになり、特に前記ノズル5の上部付近の液面CUにおいて単糸切れした糸屑(ネスト)が浮遊するようになる。そしてその後の洗浄・延伸工程でのトラブルの原因にもなる。
【0018】
前記凝固液Cは、前記凝固液噴出し口4a,4bのノズル5側の面に備えられる多数の微細吐出孔(不図示)から下流側へ向かって前記凝固糸条13の走行方向と略平行になるように吐出される。図2において符号無しの矢印は該凝固液Cの対流方向を示す。前記凝固液噴出し口4a,4bから吐出される前記凝固液Cは前記凝固糸条13が引取り装置(不図示)により引き取られて走行する際に発生する随伴流に伴い前記紡浴槽2内の上流側から下流側へ向かって流されていく。前記凝固液Cが前記凝固液噴出し口4a,4bから吐出される方向は前記凝固糸条13の進行方向と略平行とされているので前記凝固糸条13と該凝固液Cとの液抵抗を極力小さくすることが出来、凝固液流の乱れによる凝固糸条13の走行揺れを防止して繊維の均一な凝固化を可能としている。
又前記凝固液噴出し口4a,4bは、該凝固液噴出し口4a,4bから吐出される前記凝固液Cが前記ノズル裏面51に衝突しないように夫々間隔を開けて配設されており、前記紡出口金52から送出された直後の凝固糸条13周囲において凝固液流が極力乱されないように構成されている。又前記凝固液Cの吐出量は、紡糸原液送出量、ノズル孔数、ノズル径、引取り速度に合わせ設定変更されることが必要であるが、1錘(1槽)あたり1m3/h〜3m3/hの範囲とされる事が好ましい。仮に前記凝固液Cの吐出量が1m3/hより少ない場合には、該凝固液Cの供給量不足を補充するため凝固液流がノズル5近傍に逆流し紡浴槽2内の凝固液流全体の乱流や浴液抵抗の増大を引き起こす原因となる。又仮に吐出量が3m3/hより多い場合には、走行する前記凝固糸条13と随伴する凝固液Cの流速とのバランスが崩れ凝固液流の乱流が発生し該凝固糸条13の接着や単糸切れを生じさせる原因となる。
【0019】
前記凝固液噴出し口4a,4bから吐出された前記凝固液Cは、前記凝固浴部2a内に配設される前記両整流板14a,14bの間隔により形成される内槽23の幅が該凝固浴部2a内の一端部から他端部へと向かって滑らかに徐々にその形状を窄ませるよう変化するのに伴い前記ノズル5近傍に滑らかに極力乱流を起こすことなく供給されるようになっている。又前記ノズル5近傍に供給された前記凝固液Cは、前記凝固糸条13に略均一に吸入された後、該凝固糸条13が引き上げロール10へ向かって走行されていくに従って徐々に浴槽内へと搾出される。そして該凝固糸条13から搾出された前記凝固液C及び前記凝固糸条13の走行によって生じる前記凝固液Cの随伴流は、前記糸条走行部2b内に設けられる前記整流板14a,14bの部分の側面に備えられる複数の前記開口部25を介して内槽23からその両側の外槽24へと流されていく。そして前記凝固液Cは、前記内槽23及びその両側の外槽24の夫々より前記紡浴槽出口15に配される複数の前記出口孔30を介して該紡浴槽出口15全体から略均等になるよう前記凝固液回収部3へと流出される。
すなわち前記凝固液噴出し口4a,4bから吐出された前記凝固液Cは、凝固に使用された後従来の装置のように前記ノズル5の近傍に復流として戻されることなく、前記出口孔30を介して前記凝固液回収部3へと流出されるまでの間前記紡浴槽2内を上流側から下流側へと一定方向に前記凝固糸条13が走行する方向と略平行に流された後、前記紡浴槽出口15全体から略均等に流出されるようになっている。
尚図示しないが装置から排出された前記凝固液Cは、回収タンクにより回収され紡糸条件に適した凝固濃度となるようDI水を添加・調整されて、再びポンプにより前記凝固液噴出し口4a,4bへと供給されるよう循環されて構成されている。
【0020】
又前記整流板14a,14bの前記糸条走行部2bの部分に形成される複数の前記開口部25は、底面CB付近から液面CUの上部に亘りその開口孔が形成されている。通常、紡浴槽2内に発生する凝固液Cの逆流や滞留は、主に凝固糸条13が走行される箇所から離れた随伴流が届かない箇所で発生する。仮に前記整流板14a,14bが液面CUに開口部25を有しない場合には、前記凝固糸条13から離れた位置にある液面付近の凝固液Cが該凝固糸条13の走行方向と逆流する現象が生じるため、上記開口形状によりこれを防止可能とされている。又前記糸条走行部2bに配設される前記整流板14a,14bの部分はその側面を前記凝固糸条13に極力近接されるよう構成されているため、平面視前記凝固糸条13が走行する前記内槽23の幅方向についても上記の逆流現象を極力防止可能に構成されている。又同様に、前記凝固糸条13と前記底面CB間及び該凝固糸条13と前記液面CU間の距離も可能な限り近接させて構成されることが逆流防止のためにより好ましい。
【0021】
又前記糸条走行部2bに形成される前記内槽の幅M3は、前記紡出口金52の面(ノズル5吐出面)に形成される前記内槽の幅M2の30%〜80%の範囲とされることが好ましい。仮に前記幅M3を前記幅M2の30%未満とすると、走行する前記凝固糸条13が前記整流板14a,14bに接触する虞があり、安定した生産が不可能となる。又逆に前記幅M3を前記幅M2の80%より大きくした場合には、前記凝固糸条13と前記整流板14a,14bとに生じる隙間が大きくなり、隙間に沿って凝固液Cが逆流するため良好な繊維の生産を行うことが不可能となる。又前記両整流板14a,14bの間隔はその生産品種、生産量、トウボリュウム等によって上記範囲の間において必要に応じ変更されることが好ましい。
又万一前記凝固糸条13が前記整流板14a,14bに接触した場合に起こる単糸切れを防止するため、該整流板14a,14bの該凝固糸条13側の面は極力平滑に形成され突起等を存在させないことが好ましい。又前記整流板14a,14bの側面にハードクロムメッキを施したステンレス板を用いたり、フッ素樹脂などの摩擦係数の小さい材料をコーティングしたりすることがより望ましい。
【0022】
以上説明した通り、本実施形態による湿式紡糸装置及び湿式紡糸方法によれば、前記凝固液Cは前記凝固液噴出し口4a,4bから夫々前記凝固糸条13の走行方向と略平行になる様に吐出され、前記凝固液噴出し口4a,4bは吐出された凝固液流が前記ノズル裏面51に衝突しないよう補助板12の幅M1だけ隔てて配設されている。これにより前記凝固糸条13と凝固液Cとの液抵抗を極力小さくすることが出来、凝固液流の乱れによる凝固糸条13の走行揺れを防止することが出来る。すなわち紡糸される繊維の品質・性能に非常に大きく影響するといわれる紡糸原液から吐出された直後の凝固過程において、該凝固液Cに極力乱流を起こしにくいようになっているため、繊維の接着や単糸切れ、繊度斑や異常繊維の発生を極力防止することが可能である。
又前記ノズル5の吐出面の中心と前記引き上げロール10の凝固糸条巻き回し面30の位置とが前記紡浴槽2の液深の上下方向の中心位置になるよう配設されているので、前記ノズル5の吐出面に掛かる前記凝固糸条13の引き取り張力は該凝固糸条13の中心部から外周部まで略同一の張力とする事が出来、局所的に生じる過剰な引き取り張力に起因する単糸切れを低減する事が可能となり、又前記凝固糸条13の凝固化が均一に行われる。
又前記ノズル5の上端から前記紡浴槽2の液面CUまでの距離L2と、前記ノズル5の下端から前記紡浴槽2の底面CBまでの距離L3とが夫々10mm以上40mm以下となるように構成されているので、前記ノズル5の吐出面へ供給する凝固液Cの供給不足を起こしたり前記ノズル5近傍に凝固液Cの乱流や滞留を発生したりすることを極力防止することが出来る。よって前記紡浴槽2内における凝固液Cの濃度・温度斑を防止し、前記凝固液Cが滞留して単糸切れした糸屑(ネスト)が浮遊し、繊維に付着して繊維不良を発生させるのを防止し、良好で安定した繊維の製造を行うことが可能である。
又前記凝固液Cの吐出量は、1錘(1槽)あたり1m3/h〜3m3/hの範囲に設定されているため、該凝固液Cの流れが前記ノズル5近傍へ逆流したり乱流を起こしたりすることを極力防止することが出来る。
【0023】
又前記凝固液噴出し口4a,4bから吐出された前記凝固液Cは、前記凝固浴部2a内に配設される両整流板14a,14bの間隔により形成される内槽23の幅が該凝固浴部2a内の一端部から他端部へと向かって滑らかに徐々にその形状を窄ませるよう変化するのに伴って、前記ノズル5近傍に滑らかに極力乱流を起こすことなく供給されるようになっている。よって新鮮な凝固液Cが前記ノズル5近傍に滑らかに供給されるため、凝固液置換効率を向上させることが可能となり良好な繊維の製造が可能となる。
又前記凝固糸条13から搾出された前記凝固液C及び該凝固糸条13の走行によって生じる前記凝固液Cの随伴流は、前記糸条走行部2b内に設けられる前記整流板14a,14bの部分の複数の前記開口部25を介して内槽23からその両側の外槽24へと流され、前記内槽23と外槽24との夫々から前記紡浴槽出口15の複数の前記出口孔30を介して該紡浴槽出口15の全体から略均等に前記凝固液回収部3へと流出される。従来の一般的な装置のように前記紡浴槽出口15の上部より凝固液Cを溢れさせて流出させる構成と比較し、本発明の構成によれば前記出口孔30を介して紡浴槽出口15の全体から前記凝固液Cを略均等に流出させられるようになっているため、前記紡浴槽2内の他端部付近における乱流の発生も防止出来、より安定した一定方向の対流とすることが可能である。
すなわち前記凝固液Cは前記紡浴槽2内を前記凝固糸条13が走行する方向と略平行に上流側から下流側へと一定方向に流されて、前記ノズル5の近傍に復流として戻されることなく装置から排出されるようになっているため紡浴槽2内に逆流・滞留などの乱流を起こすことなく、前記凝固液Cの濃度・温度斑に起因する前記凝固糸条13の接着や単糸切れや異常繊維の発生を防止し、良好な品質の繊維を安定して製造することが可能である。
【0024】
又前記糸条走行部2bに形成される前記内槽の幅M3は、前記紡出口金52の面(ノズル5吐出面)に形成される前記内槽の幅M2の30%〜80%の範囲とされているため、走行する前記凝固糸条13が前記整流板14a,14bに近接され過ぎて接触し単糸切れを起こしたり、又前記凝固糸条13と前記整流板14a,14bとに生じる隙間に前記凝固液Cが逆流したりすることなく、良好な繊維の生産を安定して行うことが出来る。
【0025】
又この湿式紡糸装置1は、その生産性を向上させるために紡糸速度を上げて上記随伴流量が増大した場合にも、前記凝固液Cの流れを上記構成により上流側から下流側へと一定方向へ均一に制御することが出来るため、高速紡糸(高速引取り)においても前記凝固液Cに乱流を起こしにくく、乱流によって生じる単糸切れや滞留により発生し浮遊する糸屑(ネスト)の生成を防止し、良好な品質の繊維を安定して製造することが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例における評価方法は以下の通りである。
【0027】
アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリルアミド/メタクリル酸単位=96/3/1(質量%比)からなるアクリロニトリル系重合体を得た。このアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し21質量%の紡糸原液を調製した。
【0028】
前記紡糸原液を孔数24,000、孔径60μmの紡糸口金52を通して、濃度60質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固液C中へ吐出し、図1、図2の諸元として表1に示す値の湿式紡糸装置1にて湿式紡糸し、吐出され凝固された凝固糸条13を紡糸原液の吐出線速度の0.45倍の引き取り速度で引き取った。
ついでこの繊維に対して水洗と同時に3倍の延伸を行い、1.5質量%に調製したアミノシリコン系油剤の第一油浴槽に導き第一油剤を付与した後、この繊維を熱ロールを用いて乾燥し熱ロール間による乾熱二次延伸を2.0倍行った。その後タッチロールにて繊維の水分率を調整し、単繊維繊度1.2dtexの炭素繊維前駆体繊維をワインダーで捲き採った。
【0029】
(凝固液流動状況)
紡浴槽2内にDI水をスポイトで滴下し、その流動状況を目視にて確認した。
(滞留部有無)
滞留状況を目視にて確認した。
【0030】
(濃度・温度の測定方法)
紡出口金52の面の3箇所(図3におけるa,b,c)、凝固浴部2aの一端部の液面CU付近(図1におけるd)、糸条走行部2bの他端部の液面CU付近(図1におけるe)の各箇所において凝固液Cをスポイトで5ml採取し、屈折計(京都電子工業株式会社製RA−520)を用いて濃度を測定した。また温度についても同様の箇所を水銀温度計で測定した。
【0031】
(繊維断面形状)
内径1mmの塩化ビニル樹脂製のチューブ内に測定用のアクリロニトリル系重合体の繊維を通した後、これをナイフで輪切りにして試料を準備した。ついで、該試料をアクリロニトリル系重合体の繊維断面が上を向くようにしてSEM試料台に接着し、さらにAuを約10nmの厚さにスパッタリングしてから、PHILIPS社製XL20走査型電子顕微鏡により、加速電圧7.00kV、作動距離31mmの条件で繊維断面を観察し、単繊維の繊維断面の長径および短径を測定し、長径/短径の比率を求めた。また変動率(CV値)は長径/短径の測定をn=400で測定し、変動率CVを算出した。
【0032】
(接着糸本数)
単糸間接着の判定は、巻き取った前駆体繊維を約5mmにカットし100mLの水中に分散させ、100rpmで1分間攪拌後、黒色濾紙にて濾過し、単糸繊維の接着個数を測定した。
【0033】
(引取り破断倍率)
凝固糸条の引き取り速度を、紡糸原液の吐出線速度の0.45倍とする条件を標準引き取り速度とする。そして紡糸原液の吐出線速度を変えることなく凝固糸条の引き取り速度を上げていき、ノズルの吐出面において凝固糸条が破断したときの凝固糸条の引き取り速度を破断引き取り速度とする。
引取り破断倍率=破断引き取り速度/標準引き取り速度
【0034】
[実施例1]
図2における浸漬長(凝固浴部長+糸条走行部長)L1:1100mm、整流板14a,14bに複数備えられる開口部25の開口形状:多孔パンチング孔(図5に示す)、整流板14a,14bの糸条走行部2b内の部分に形成される内槽23の幅W(M3):50mm、凝固液C循環量:2m/h、図1におけるノズル5上端〜液面CUまでの距離L2:20mm、ノズル5下端〜底面CBまでの距離L3:20mmを各諸元とし、評価を行った。
[実施例2]
実施例1の整流板14a,14bに複数備えられる開口部25の開口形状:縦型矩形孔(スリット)とした以外は、実施例1と同様にして評価を行った。
[実施例3]
実施例1の整流板14a,14bの糸条走行部2b内の部分に形成される内槽23の幅W(M3):100mmとした以外は、実施例1と同様にして評価を行った。
[実施例4]
実施例1の浸漬長(凝固浴部長+糸条走行部長)L1:550mmとした以外は、実施例1と同様にして評価を行った。
[比較例1]
従来例として、整流板14a,14bを備えず、ノズル5上端〜液面CUまでの距離L2:80mm、ノズル5下端〜底面CBまでの距離L3:150mmとし、ノズル5の背面側に備えられる凝固液噴出し口から凝固液Cをノズル裏面51へ衝突させるように吐出した以外は、実施例1と同様にして評価を行った。
【0035】
【表1】


【0036】
【表2】


【0037】
表2に示す通り実施例1〜4において凝固液Cは、その流動状況を図2の矢印に示すように紡浴槽2内を上流側から下流側へと向かって凝固糸条13の進行方向へと流されていき、前記進行方向と逆流したり滞留したりすることなく、糸条走行部2b内の整流板14a,14bの部分の複数の開口部25を介して内槽23からその両側の外槽24へとスムースに略均等に流され、紡浴槽2の他端部に備えられる紡浴槽出口15から凝固液回収部3へと略均等に流出されることがわかった。すなわち前記凝固液Cの流れは、紡浴槽2の上流側から下流側へと向かって全体に亘り均一に整流された対流となることを確認出来た。又紡浴槽2内に貯留される前記凝固液Cは、装置の外部から供給される凝固液Cの濃度・温度の設定に対しても紡浴槽2内のa〜eの各箇所における濃度・温度の測定値に大きな差を生じさせず、又その結果得られる製品繊維の断面形状斑(CV値)は数値が低くなり、接着糸本数も減少することがわかった。そして引き取り破断倍率も向上し、更なる生産性向上が可能であることがわかった。
又紡出口金52の吐出面(ノズル5吐出面)より破断し単糸切れした糸屑(ネスト)も、上記のように整流された凝固液流によって一定方向へと流され、紡浴槽出口15から凝固液回収部3へと流出されることが確認された。その結果前記紡浴槽2内に糸屑(ネスト)が浮遊したりすることによる繊維への接着等が無くなり、紡糸の品質の安定性が大きく向上されることがわかった。
【0038】
一方従来の紡浴槽で紡糸した比較例1においては、図7の矢印に示すように凝固液は走行する凝固糸条から離れた位置で該凝固糸条の走行方向と逆向きの対流(逆流)を起こしたり滞留を起こしたりして、全体的な凝固液の乱流が発生させられた。その結果、わずか数時間の紡糸評価にも関わらず紡浴槽の滞留部に糸屑(ネスト)が浮遊し、また凝固液抵抗の影響を受け引き取り破断倍率も前記実施例1〜4と比較し低い値となった。
又紡出口金の吐出面(ノズル吐出面)付近の濃度・温度も供給される凝固液濃度・温度に対し高く、紡浴槽内の濃度・温度斑も大きくなり、結果得られる繊維の断面形状斑(CV値)も高くなり接着糸本数も数多く確認された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態の湿式紡糸装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態の湿式紡糸装置の概略構成を示す平面図である。
【図3】図2に示すX−X線断面図である。
【図4】図2に示すY−Y線断面図である。
【図5】整流板の開口部形状の一例を示す図である。
【図6】紡浴槽出口の出口孔形状を示す図である。
【図7】従来の湿式紡糸装置(比較例1)の凝固液の対流を示す平面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 本発明の一実施形態における湿式紡糸装置
2 紡浴槽
2a 凝固浴部
2b 糸条走行部
3 凝固液回収部
4a,4b 凝固液噴出し口
5 ノズル
10 引き上げロール
13 凝固糸条
14a,14b 整流板
23 内槽
24 外槽
25 開口部
30 凝固糸条巻き回し面
51 ノズル裏面
52 紡出口金
C 凝固液
C1 中心軸
CB 底面
CU 液面
L2 ノズル上端から液面までの距離
L3 ノズル下端から底面までの距離

特許の図
【出願人】 【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
【出願日】 平成19年2月22日(2007.2.22)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男

【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義

【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉

【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
【公開番号】 特開2008−202189(P2008−202189A)
【公開日】 平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願番号】 特願2007−42389(P2007−42389)