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【発明の名称】 樹脂被覆用アルミニウム材及びこれを用いた樹脂被覆アルミニウム材、ならびに、これらの製造方法
【発明者】 【氏名】松原佳弘

【氏名】河野陽介

【氏名】本川幸翁

【氏名】渡辺睦子

【要約】 【課題】有害なクロムを使用せず、リン酸クロメート処理による場合と同等以上の樹脂被覆密着性を有する樹脂被覆用アルミニウム材及び樹脂被覆アルミニウム材、ならびに、これらの製造方法を提供する。

【構成】アルミニウム基材と、このアルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜であって、(a)2個以上のヒドロキシル基;(b)2個以上のカルボキシル基;又は(c)1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基;から成る群(a)〜(c)から選択される1つ以上の官能基を有する有機化合物の成分を含有する陽極酸化皮膜と、を備え、陽極酸化皮膜が、3〜200nmの厚さと、15%以下の空孔率と、3%未満の含水率を有する樹脂被覆用アルミニウム材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、
当該アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜であって、(a)2個以上のヒドロキシル基;(b)2個以上のカルボキシル基;または(c)1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基;から成る群(a)〜(c)から選択される1つ以上の官能基を有する有機化合物の成分を含有する陽極酸化皮膜、とを備え、
前記陽極酸化皮膜が、3〜200nmの厚さと、15%以下の空孔率と、3%未満の含水率とを有することを特徴とする樹脂被覆用アルミニウム材。
【請求項2】
前記有機化合物がタンニンを含む、請求項1に記載の樹脂被覆用アルミニウム材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂被覆用アルミニウム材の陽極酸化皮膜上に、塗料又は樹脂フィルムから形成される樹脂被覆膜を設けたことを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材。
【請求項4】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材を陽極とし、酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩から成る群から選択される1種又は2種以上の主剤、ならびに、(a)2個以上のヒドロキシル基;(b)2個以上のカルボキシル基;または(c)1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基;から成る群(a)〜(c)から選択される1つ以上の官能基を有する有機化合物の副剤を含有する電解質溶液を用いて電解することによって、前記アルミニウム基材の表面に陽極酸化皮膜を形成する工程と、
前記陽極酸化皮膜の表面に乾燥処理を施すことによって、当該陽極酸化皮膜の含水率を3%未満とする乾燥工程と、を含むことを特徴とする樹脂被覆用アルミニウム材の製造方法。
【請求項5】
前記電解質溶液において、主剤の電解質濃度が0.5〜20重量%であり、当該主剤の電解質濃度に対する副剤の電解質濃度の比率が1/5〜4/5である、請求項4に記載の樹脂被覆用アルミニウム材の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の樹脂被覆用アルミニウム材の製造方法おける乾燥工程の後に、前記陽極酸化皮膜上に、塗料又は樹脂フィルムから形成される樹脂被覆膜を被覆する工程を更に含むことを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、食品を収容するアルミニウム缶、特に清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料等を収容するための2ピース缶の缶胴材及び缶蓋材として好適な樹脂被覆用アルミニウム材及び樹脂被覆アルミニウム材、ならびに、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、食品容器や、家具、建材用の樹脂被覆材料としてアルミニウム材又はアルミニウム合金材が広く採用されるようになってきた。これは、アルミニウムが他の金属材料に比べてリサイクル性が高く、更に加工性、美観性に優れるためである。
【0003】
樹脂被覆アルミニウム材の下地表面処理としては、従来からリン酸クロメート処理もしくはクロム酸クロメート処理が使用されてきた。このクロメート系表面処理剤により形成されるクロメート化成皮膜は、皮膜単独の耐食性に優れており、また各種樹脂被覆を施した後の密着性や耐食性にも優れる特徴を有している。しかしながら、近年では環境保護の観点からクロメート処理の際のクロム含有排水が環境汚染につながること、また、排水処理にもコストを要する欠点があること、更には、食品関係の用途には六価クロムが人体に有害であること等から、近年においてはクロメート系処理剤の使用を廃止する必要が生じてきた。
【0004】
一方、アルミニウム材又はアルミニウム合金材に対するノンクロム系の表面処理方法としては、Zr系の化成処理方法が挙げられる。このZr系の化成皮膜は、表面処理後に成形加工を施す場合に、化成皮膜自体に割れが生じたり、塗装した塗膜が剥離したりする等の問題点がある。また、Zr系の化成皮膜は、現行のリン酸クロメート皮膜よりも耐食性に劣り、特にスコア部は化成皮膜に傷が付き易いため腐食が進行し易いという問題点もある。
【0005】
また、アルマイト皮膜のような陽極酸化皮膜は、加工により容易に割れが発生すると共に耐食性も低く、樹脂被覆膜との密着性にも劣る。特許文献1、2には、ナトリウム、カリウム、アンモニウム又は有機窒素系化合物、更には水溶性樹脂を含有するアルカリ性ないしは酸性の電解質溶液でアルミニウム基材を陽極酸化処理することにより、基材表面に樹脂を含有するアルマイト皮膜を形成する方法が記載されている。樹脂を含有するアルマイト皮膜は、樹脂を含有しない従来のアルマイト皮膜に比べて良好な耐食性が得られるものの、樹脂被覆膜との十分な密着性が得られない。従って、このようなアルマイト皮膜を有するアルミニウム基材は、ごく限られた用途のみにしか使用できないといった問題点があった。
【特許文献1】:特公昭51−46742号公報
【特許文献2】:特開平08−027595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、有害なクロムを使用しないと共に低コストであり、リン酸クロメート処理による場合と同等以上の樹脂被覆密着性を有する樹脂被覆用アルミニウム材及び樹脂被覆アルミニウム材、ならびに、これらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を検討した結果、密着性及び耐食性の低下は、塗装した塗料やラミネートした樹脂フィルムなどの被覆膜から僅かに浸透する水分によって、下地層としての陽極酸化皮膜表面のヒドロキシル基を起点として水和反応が生じることに起因することを見出した。そして、かかる知見に基づいて鋭意検討した結果、アルミニウム材又はアルミニウム合金材を、酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩から成る群から選択される1種又は2種以上の主剤、ならびに、(a)2個以上のヒドロキシル基;(b)2個以上のカルボキシル基;または(c)1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基;から成る群(a)〜(c)から選択される1つ以上の官能基を有する有機化合物の副剤を含有する電解質溶液により電解して、アルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面に上記有機化合物の成分を含有する陽極酸化皮膜を形成するようにした。これにより、この陽極酸化皮膜の内部ないしは表層のヒドロキシル基と有機化合物の成分の官能基であるヒドロキシル基又はカルボキシル基との化学的な結合に基づき、陽極酸化皮膜表面のヒドロキシル基を起点とする水和反応が抑制できること、ならびに、有機化合物の成分の官能基であるヒドロキシル基又はカルボキシル基が、樹脂被覆膜との結合を強めることを見出した。
【0008】
本発明は請求項1において、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材と、当該アルミニウム基材の表面に形成された陽極酸化皮膜であって、(a)2個以上のヒドロキシル基;(b)2個以上のカルボキシル基;または(c)1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基;から成る群(a)〜(c)から選択される1つ以上の官能基を有する有機化合物の成分を含有する陽極酸化皮膜、とを備え、前記陽極酸化皮膜が、3〜200nmの厚さと、15%以下の空孔率と、3%未満の含水率を有する樹脂被覆用アルミニウム材とした。
【0009】
本発明は請求項2において、前記有機化合物がタンニンを含むものとした。更に本発明は請求項3において、請求項1又は2に記載の陽極酸化皮膜上に、塗料又は樹脂フィルムから形成される樹脂被覆膜を設けた樹脂被覆アルミニウム材とした。
【0010】
本発明は請求項4において、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材を陽極とし、酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩から成る群から選択される1種又は2種以上の主剤、ならびに、(a)2個以上のヒドロキシル基;(b)2個以上のカルボキシル基;または(c)1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基;から成る群(a)〜(c)から選択される1つ以上の官能基を有する有機化合物の副剤を含有する電解質溶液を用いて電解することによって、前記アルミニウム基材の表面に陽極酸化皮膜を形成する工程と、
前記陽極酸化皮膜の表面に乾燥処理を施すことによって、当該陽極酸化皮膜の含水率を3%未満とする乾燥工程と、を備える樹脂被覆用アルミニウム材の製造方法とした。
【0011】
本発明は請求項5において、前記電解質溶液における主剤の電解質濃度を0.5〜20重量%とし、主剤の電解質濃度に対する副剤の電解質濃度の比率を1/5〜4/5とした。
【0012】
更に本発明は請求項6において、請求項4又は5における乾燥工程の後に、前記陽極酸化皮膜上に、塗料又は樹脂フィルムから形成される樹脂被覆膜を被覆する工程を更に含む樹脂被覆アルミニウム材の製造方法とした。
【発明の効果】
【0013】
従来において、タンニン水溶液によりアルミニウム系材料を表面処理する技術や、タンニン含有水溶液をアルミニウム系材料に塗布する例はあった。しかしながら、これらの技術に比較して、本発明のアルミニウム材は、タンニンに代表される特定構造を有する有機化合物を電解液の副剤として用いて陽極酸化皮膜を形成し、更に該陽極酸化皮膜の膜厚、空孔率及び含水率を規定したものであるから、従来得られなかった極めて良好な樹脂被覆密着性や耐食性を得ることができるものである。
【0014】
本発明によれば、電解質溶液の副剤としての上記有機化合物の成分を陽極酸化皮膜に含有させ、形成される陽極酸化皮膜の膜厚を3〜200nmとし、空孔率を15%以下とし、更に乾燥処理によって含水率を3%未満とした。その結果、上記有機化合物の成分の官能基であるヒドロキシル基及びカルボキシル基が、陽極酸化皮膜の内部ないしは表面のヒドロキシル基と反応して縮合皮膜層を形成して水和の進行を抑制する作用が発揮されるため、極めて良好な樹脂被覆密着性や耐食性を有する樹脂被覆アルミニウム材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明に係る樹脂被覆用アルミニウム材及び樹脂被覆アルミニウム材、ならびに、それらの製造方法を詳細に説明する。
【0016】
A.樹脂被覆用アルミニウム材
A−1.アルミニウム基材
本発明の樹脂被覆用アルミニウム材の素材となるアルミニウム材又はアルミニウム合金材(以下、「アルミニウム基材」と記す)は特に限定されるものではなく、目的や用途に応じて適宜選択することができる。例えば、飲料缶に用いる場合、缶胴材向けにはAl−Mn系のJIS3000系合金が、缶蓋材向けにはAl−Mg系のJIS5000系合金が用いられる。
【0017】
A−2.前処理
アルミニウム基材には、最初に前処理を施すのが好ましい。前処理方法は特に限定されるものではなく、アルミニウム基材の表面に付着した油脂分を除去し、かつ、表面の不均質な酸化皮膜を除去できるものであれば良い。例えば、水酸化ナトリウム水溶液でアルカリエッチングをした後に、硝酸や硫酸の水溶液でデスマット処理を行なう方法や、弱アルカリ性の脱脂液による脱脂処理を施した後に、酸洗浄を行なう方法等が適宜選択して用いられる。
【0018】
A−3.陽極酸化処理
次いで、上記前処理が施されたアルミニウム基材を電解質溶液中で電解する陽極酸化処理を施すことにより、アルミニウム基材の表面に陽極酸化皮膜を形成する。電解質溶液には、生成する陽極酸化皮膜を溶解し難く、かつ、陽極酸化皮膜を生成するものが用いられる。電解質には、酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩から成る群から選択される1種又は2種以上の主剤、ならびに、(a)2個以上のヒドロキシル基;(b)2個以上のカルボキシル基;または(c)1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基;から成る群(a)〜(c)から選択される1つ以上の官能基を有する有機化合物の副剤が含まれる。電解質溶液の溶媒には、水、アルコール等が用いられるが、水が好適に用いられる。
【0019】
上記主剤の電解質溶液中における電解質濃度は、0.5〜20重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。主剤の電解質濃度が0.5重量%より低濃度では、適切な伝導率が得られず生成する酸化皮膜に斑が生じ易くなる。一方、主剤の電解質濃度が20重量%を越えると主剤が溶媒に溶解し難くなり沈殿が生じる場合がある。
また、主剤の電解質濃度に対する副剤の電解質濃度の比率は、1/5〜4/5であり、好ましくは1.25/5〜3.5/5である。この比率が1/5未満では、陽極酸化皮膜に含有される副剤が少量過ぎてその添加効果が十分に得られず、比率が4/5以上では副剤添加による効果が飽和するため不経済となる。
【0020】
上記副剤としての有機化合物において、有機官能基として2個以上のヒドロキシル基を有する有機化合物としては、タンニン化合物に代表されるタンニン酸や、グリセリン、エリトリトール、ペンチトール、ヘキシトールに代表されるアルジトール類や、カテコール、オルシン、ピロガロール、イノシトール等が挙げられる。
【0021】
また、有機官能基として2個以上のカルボキシル基を有する有機化合物としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、グルタコン酸、アジピン酸、フタル酸、アコニット酸等が挙げられる。
【0022】
更に、有機官能基として1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基とを有する有機化合物としては、グリセリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、アラボン酸、クエン酸、サリチル酸、ヒドロキシ桂皮酸、没食子酸、エラグ酸、マンデル酸、トロパ酸、アトロパ酸、フェルラ酸、シキミ酸等が上げられ、さらにマンノン酸、グルコン酸、ガラクトン酸に代表されるアルドン酸類や、マンナル酸、グルカル酸、ガラクタル酸に代表されるアルダル酸類も挙げられる。
【0023】
また、有機官能基として、ヒドロキシル基を2個以上有するもの、カルボキシル基を2個以上有するもの、又は、1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基とを有するものであって、更にアミノ基を有する有機化合物としては、アミノヒドロキシ桂皮酸やセリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸等に代表されるアミノ酸が挙げられる。
【0024】
上記有機化合物は、構造上の官能基として(a)2個以上のヒドロキシル基;(b)2個以上のカルボキシル基;または(c)1個以上のヒドロキシル基と1個以上のカルボキシル基;から成る群(a)〜(c)から選択される1つ以上の官能基を有し、電解においてその成分が陽極酸化皮膜に含有されることにより、構成要素に応じて加熱による官能基同士の脱水縮合反応での化学結合をも付与した強固な複合皮膜を形成することができる。すなわち、有機化合物は電解質溶液中でカチオンとアニオンに電離し、電解によってそのアニオン成分が陽極酸化皮膜中に取込まれることになる。取込まれたアニオン成分(ヒドロキシル基又はカルボキシル基など)は、陽極酸化皮膜の内部ないしは表層に存在するヒドロキシル基と化学的に結合する。このような結合によって、陽極酸化皮膜表面のヒドロキシル基を起点とする水和反応が抑制でき、更に、有機化合物のアニオン成分が、樹脂被覆膜と強固に結合する。
なお、有機化合物を含有する塗料をアルミニウム基材の酸化皮膜に塗布して形成される塗膜では、カチオン成分とアニオン成分とから成る非イオン形態の有機化合物全体として塗膜中に存在する。これに対して電解による方法では、酸化皮膜中に有機化合物のアニオン成分のみが取込まれて含有されることになる。
【0025】
電解質の主剤である酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、アジピン酸塩は、電解工程において電解溶液中の伝導性を担う作用を主に果たす。そして、主剤もまた電解質溶液中でカチオンとアニオンに電離し、電解によってアニオン成分が陽極酸化皮膜中に取込まれる。陽極酸化皮膜内に取込まれた主剤のアニオン成分もまた、上記有機化合物のアニオン成分程ではないが、陽極酸化皮膜の内部ないしは表面での水和の進行を抑制する作用を若干は発揮する。
【0026】
上記有機化合物としては、タンニンが特に好ましい。タンニンはタンニン酸ともいい、広く植物界に分布する多数のフェノール性ヒドロキシル基を有する複雑な構造の芳香族化合物の総称である。タンニンとしては、加水分解性タンニンでも縮合型タンニンでもよい
。タンニンとしては、ハマメリタンニン、カキタンニン、チヤタンニン、五倍子タンニン(タンニン酸)、没食子タンニン、ミロバラタンニン、ジビジビタンニン、アルガロビラタンニン、バロニアタンニン、カテキンタンニン等が含まれる。また上記タンニンは、植物中に存在するタンニンを加水分解等により分解したタンニン分解物であってもよい。図1にタンニン酸の例を示す。
【0027】
上記タンニンとしては、市販のもの、例えば、大日本製薬社製のタンニン酸エキスA、Bタンニン酸、Nタンニン酸、精製タンニン酸等を使用することができる。上記タンニンは単独で用いてもよく、2種以上を混合し併用しても構わない。
【0028】
またタンニンは、数平均分子量が200以上であることが好ましい。タンニンとしてタンニン分解生成物を使用する場合、分解が進行し過ぎて分子量が200未満の低分子量化合物である場合には、タンニンとしての性質を有さないため、樹脂被覆膜形成後の皮膜の密着性が向上しない場合がある。
【0029】
電解における電解質溶液の温度は、20〜80℃、好ましくは40〜60℃である。20℃未満では電解質の溶解性が低いと十分に溶解しない場合がある。一方、80℃を超えると加熱に要するエネルギーコストが増大する。また、電解質溶液のpHは、3〜12の範囲が好ましい。pHが3未満では陽極酸化皮膜が多孔質化する傾向にあり、微孔化できない。一方、pHが12を超えると、生成した陽極酸化皮膜が電解質溶液に溶解したり、陽極酸化皮膜の生成率が低下して所定の膜厚さが得られなくなる。
【0030】
電解質溶液中において、アルミニウム基材は連続又は断続の状態の陽極を形成するように電源に接続される。陰極には不溶性の導電材料である炭素電極等が用いられる。電解のための印加電圧は、目標とする陽極酸化皮膜の厚さに応じて調整され、通常、3〜200Vの範囲である。電解する際の電流には直流電流が用いられ、電流密度は0.3〜20A/dmである。電流密度が0.3A/dm未満では、陽極酸化皮膜の形成に長時間を要し、一方、20A/dmを超えると皮膜厚さの斑などが生じて欠陥となる。電解時間は、所望の陽極酸化皮膜厚さと電解条件により適宜選択されるが、通常、数秒〜30分程度である。
【0031】
また、陽極酸化皮膜の厚さは、3〜200nmとする必要がある。厚さが3nm未満では、陽極酸化皮膜による耐食性向上の効果が得られない。一方、陽極酸化皮膜の厚さが厚い程、アルミニウム基材を保護する腐食防止効果の向上が期待できるが、厚さが200nmを超えたのでは、加工時に陽極酸化皮膜層にクラックが入り密着性や耐食性の低下を招く。なお、陽極酸化皮膜の厚さは電解電圧に比例し、皮膜厚さの単位をnmとし、電解電圧の単位をV(ボルト)とした場合に、皮膜厚さ=1.4×電解電圧で得られることが実験的に分かっている。
【0032】
上記電解条件により形成される陽極酸化皮膜の空孔率は、15%以下とする必要がある。空孔率の下限は0.2%とするのが好ましい。このような空孔率を有する酸化皮膜は、アルミニウムの素地に垂直な細孔が集合体として存在せず実質的に無孔質であるといえる。空孔率が15%を超えると細孔が多く存在するようになって無孔質ではなくなり、孔内に腐食生成物が侵入し易くなり十分な耐食性が得られなくなる。陽極酸化皮膜の空孔率は、陽極酸化皮膜表面を30万倍のFESEM(冷陰極電界放出型走査電子顕微鏡)で約0.2μmの視野を観察し、表面に存在する孔の総面積を陽極酸化皮膜の全面積で除して算出した。
【0033】
電解終了後において、陽極酸化皮膜の表面を、室温(約20℃)〜250℃、好ましくは120〜200℃で乾燥処理することにより、陽極酸化皮膜の含水率を3%未満にする必要がある。含水率の下限は0.5%とするのが好ましい。このような乾燥処理を施すことにより、副剤の官能基として含まれるヒドロキシル基及びカルボキシル基が、陽極酸化皮膜の内部ないしは表面のヒドロキシル基と反応して縮合皮膜層を形成して水和の進行を抑制するため、極めて良好な樹脂被覆膜の密着性や耐食性を備える樹脂被覆アルミニウム材を得ることができる。室温以下の乾燥では乾燥処理が不十分となり、陽極酸化皮膜中の水分が除去されきれず、また、副剤の官能基として含まれるヒドロキシル基及びカルボキシル基と陽極酸化皮膜のヒドロキシル基による縮合が完結しないため、樹脂被覆膜の十分な密着性が得られない。一方、乾燥温度が250℃を超えると、陽極酸化皮膜にクラックが発生し易くなり、アルミニウム基材の強度も大幅に低下してしまう。
【0034】
なお、陽極酸化皮膜中の含水率とは、皮膜内部に存在する水分だけでなく表面に付着している水分も含めた皮膜全体に存在する水分を基にして得られる。陽極酸化皮膜の含水率は、熱重量測定法(TG)によって測定される。熱重量測定法により陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材の試料を1℃/分の昇温速度で室温〜300℃まで加熱する際において、80〜200℃までに測定される重量変化(減少)から含水率が決定される。
【0035】
B.樹脂被覆アルミニウム材
本発明に係る樹脂被覆アルミニウム材は、上記陽極酸化皮膜が形成された樹脂被覆用アルミニウム材の表面に樹脂被覆膜を形成することによって製造される。樹脂被覆膜は、塗料又は樹脂フィルムを用いて形成される。
【0036】
B−1.樹脂被覆膜
塗料としては、分子内に極性官能基を有する樹脂を用いることが好ましい。この極性官能基を有する樹脂を用いた塗料は、陽極酸化皮膜のヒドロキシル基や陽極酸化皮膜の内部ないしは表面に存在する有機化合物の成分に含まれるヒドロキシル基もしくはカルボキシル基と水素結合するため、樹脂被覆膜が優れた密着性を発揮する。このような塗料としては、熱可塑性アクリル樹脂系塗料、熱硬化性アクリル樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、ポリウレタン樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、ポリアミド樹脂系塗料などが用いられる。
【0037】
また、塗料の塗布方法としては、ロールコーター法、電着塗装法、吹き付け塗装法等を利用することができる。更に、必要に応じて、下塗り、中塗り、上塗り等により多層塗装を施すこともできる。塗布した樹脂塗料は、通常、150〜300℃で10〜60秒間焼付けることによって樹脂被覆膜が形成される。
【0038】
樹脂フィルムを形成するには、熱可塑性樹脂フィルムが好適に用いられる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、アルミニウム基材に対して熱接着性を示す樹脂フィルムであれば、いずれのフィルムを用いてもよい。樹脂被覆アルミニウム材に要求される各種特性に応じて、種々の特性を有する熱可塑性樹脂フィルムを選択することができる。このような熱可塑性樹脂フィルムの例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ナイロン6、ナイロン11、ポリカーボネート、ポリアリレート等を挙げることができる。
【0039】
熱可塑性樹脂フィルムを形成するには、アルミニウム基材を高周波誘導加熱、直火加熱等によって加熱し、これに熱可塑性樹脂フィルムを押圧する方法や、樹脂フィルムを押出コートによってアルミニウム基材表面に熱接着する方法等が用いられる。これらの方法は公知のものであり、目的、用途等に合わせて適宜選択することができる。なお、アルミニウム基材表面には有機化合物の成分を含有する陽極酸化皮膜が形成されており、この陽極酸化皮膜が熱可塑性樹脂フィルムと強固な密着をなすため、従来までのような、熱可塑性フィルム表面又はアルミニウム化成処理表面に接着プライマーを設ける必要がない。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は以下に記載の例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1〜8及び比較例1〜4
アルミニウム基材として、0.3mmまで圧延したJIS3004合金板を用いた。このアルミニウム基材に、以下のような前処理を施した。まず、10重量%苛性水溶液で60℃にて10秒間のエッチングを施した後、10秒間水洗した。更に、10重量%硝酸水溶液で50℃にて10秒間洗浄した後、10秒間水洗した。次いで、電解質として所定の主剤成分と副剤成分とを所定濃度比となるように混合したものを水に溶解して電解質水溶液を調製した。上記前処理を施したアルミニウム基材を陽極とし、炭素電極を陰極とし、上記電解質水溶液を用いて50℃で電解を行い、アルミニウム基材の表面に陽極酸化皮膜を形成した。電解終了後、陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材を水洗し、150℃で20秒間乾燥処理を施し、樹脂被覆用アルミニウム材の試料を得た。なお、実施例7では、乾燥処理を25℃で自然乾燥した。
【0042】
電解質に用いた主剤と副剤の電解質水溶液における濃度、主剤成分に対する副剤成分の濃度比率、電解密度、電解時間を表1に示す。
【0043】
【表1】


【0044】
上記により得られた樹脂被覆用アルミニウム材の陽極酸化皮膜の膜厚、含水率、空孔率を下記のようにして測定した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】


【0046】
陽極酸化皮膜の膜厚測定
陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材の試料を厚さ方向に沿って切断し、その断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した。
【0047】
陽極酸化皮膜の含水率測定
陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材の試料を室温〜300℃まで1℃/分の昇温速度で加熱し、80〜200℃までの重量減少を熱重量測定法(TG)によって測定した。含水率(%)は、次式によって算出した。(80℃での試料重量−200℃での試料重量)/(80℃での試料重量)×100
【0048】
陽極酸化皮膜の空孔率測定
陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材試料の陽極酸化皮膜表面における約0.2μmの視野を、30万倍のFESEM(冷陰極電界放出型走査電子顕微鏡)で観察して、酸化皮膜表面に存在する孔の総面積を当該視野の面積で除して算出した。
【0049】
上記により得られた樹脂被覆用アルミニウム材の陽極酸化皮膜上に、エポキシ系塗料を塗装することによって、又は、PETフィルムによるラミネート処理によって樹脂被覆膜を被覆した。エポキシ系塗料による樹脂被覆膜の形成は、乾燥後の被覆膜量が7.2g/mとなるようにバーコーターにて塗料を塗布し、260℃にて25秒の焼付処理を施して行なった。PETフィルムによるによる樹脂被覆膜の形成は、15μmのポリエチレンテレフタレート系フィルムを貼り合わせつつ200℃の加熱ローラーに通過させた後、更に270℃で30秒の熱処理を施すことにより樹脂被覆膜を形成した。
【0050】
上記により得られた樹脂被覆アルミニウム材のフェザリング性と耐酸密着性を、以下のようにして評価した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】


【0052】
フェザリング試験
上述のようにして作成した樹脂被覆アルミニウム材を用いて缶蓋を成形し、125℃にて30分のレトルト処理を施した。その後、タブを引っ張った後の開口部における塗膜残存幅を測定した。ここで、残存幅が0.4mm未満であれば◎、残存幅が0.4mm以上0.7mm未満であれば○、残存幅が0.7mm以上であれば×とした。○と△を合格とし、×を不合格とした。
【0053】
耐酸密着試験
カッターを用いて樹脂被覆膜面にアルミニウム基材まで到達する傷を入れ、0.5重量%食塩及び1重量%クエン酸の混合水溶液に70℃にて72時間浸漬後、樹脂被覆膜に生じた傷部の腐食幅を測定し、その幅で評価を行った。そして、腐食幅が0.3mm未満であれば◎、腐食幅が0.3mm以上0.5mm未満であれば○、腐食幅が0.5mm以上であれば×とした。○と△を合格とし、×を不合格とした。
【0054】
実施例1〜8では、適切な電解液組成を有する電解質溶液を用いて、膜厚10〜200nm、空孔率1〜15%の陽極酸化皮膜が得られ、次いで、適切な条件による乾燥処理を施すことにより含水率3%未満の陽極酸化皮膜が得られた。このようにして得られた樹脂被覆用アルミニウム材を用いて、その上にエポキシ系塗料及びPETフィルムのラミネートによる樹脂被覆膜を形成した樹脂被覆アルミニウム材では、樹脂被覆膜の良好な密着性を得ることができた。
【0055】
比較例1では陽極酸化皮膜の膜厚が厚過ぎたため、エポキシ系樹脂被覆膜のフェザリング性と、PETフィルムの樹脂被覆膜のフェザリング性と耐酸密着性が不合格であった。比較例2では陽極酸化皮膜の含水率が多き過ぎたため、エポキシ系樹脂被覆膜及びPETフィルムの樹脂被覆膜の耐酸密着性が不合格であった。比較例3では陽極酸化皮膜の含水率が多き過ぎたため、エポキシ系樹脂被覆膜のフェザリング性と耐酸密着性、ならびに、PETフィルムの樹脂被覆膜の耐酸密着性が不合格であった。比較例4では陽極酸化皮膜の空孔率が多き過ぎたため、エポキシ系樹脂被覆膜のフェザリング性と耐酸密着性、ならびに、PETフィルムの樹脂被覆膜の耐酸密着性が不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上詳細に説明したように、本発明に係る樹脂被覆用アルミニウム材及び樹脂被覆アルミニウム材は、有害なクロムを使用せずにリン酸クロメート処理による場合と同等以上の樹脂被覆密着性を有する。また、本発明に係る樹脂被覆用アルミニウム材及び樹脂被覆アルミニウム材の製造方法は、これらアルミニウム材を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】有機化合物として用いられるタンニン酸の構造式を示す図である。
【出願人】 【識別番号】000107538
【氏名又は名称】古河スカイ株式会社
【出願日】 平成18年7月5日(2006.7.5)
【代理人】 【識別番号】100076222
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 邦彦


【公開番号】 特開2008−13805(P2008−13805A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−185351(P2006−185351)