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【発明の名称】 マグネシウムの陽極酸化処理方法とその製品
【発明者】 【氏名】矢吹 彰広

【氏名】酒井 真理子

【要約】 【課題】マグネシウム材料表面に、優れた耐食性を示し、美観性に優れる白色系のバリヤー皮膜を形成する陽極酸化方法であって、その処理プロセスにおいて環境に有害な物質を含まない方法を提供すること。

【構成】水及び有機溶媒10〜40wt重量%からなる電解液中に、ケイ酸ナトリウム0.15〜0.5mol/L添加し、25A毎平方メートル以上の電流密度で陽極酸化処理する事により、形成皮膜にシリコンを含有する、マグネシウム材料とその製品の表面処理方法。本発明の方法の使用により形成される皮膜色は白色であり、腐食抵抗は従来の方法と比較して数倍高い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と有機溶媒を混合した溶媒にケイ素化合物を添加し、当該溶液全体を塩基性に調整して組成した電解液であって、前記有機溶媒の濃度が10重量%〜40重量%の範囲にある電解液を使用して、マグネシウムまたはマグネシウム合金の表面を陽極酸化処理することを特徴とする、マグネシウムまたはマグネシウム合金の陽極酸化皮膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載したマグネシウムまたはマグネシウム合金の陽極酸化皮膜を形成する方法において、請求項1に記載の電解液に含まれるケイ素化合物はケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)であることを特徴とする、請求項1に記載のマグネシウムまたはその合金の陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載したマグネシウムまたはマグネシウム合金の陽極酸化皮膜を形成する方法において、請求項1又は請求項2に記載する電解液に含まれるケイ素化合物の濃度が0.15〜0.50mol/Lであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金の陽極酸化皮膜形成方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載したマグネシウムまたはマグネシウム合金の陽極酸化皮膜を形成する方法において、陽極酸化処理中の電解電流密度は25A毎平方メートル以上であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3に記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金の陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4に記載したマグネシウムまたはマグネシウム合金の陽極酸化皮膜を形成する方法を使用して形成した表面皮膜を有する、マグネシウム製品またはマグネシウム合金製品。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムとその合金の表面に陽極酸化皮膜を形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムは、実用金属中最も軽量(比重1.75)で、研磨によって美しい金属光沢が得られるため、電子機器や自動車部品等に使用され、軽金属の中では、アルミニウム(比重2.70)に次ぐ市場を誇っている。電子機器業界では、その軽量性と優れた金属物性、製造時の精密加工性等から、ノート型パソコンケースなどプラスチックに替わって使用される例が増加している。自動車及びその部品業界では、特にアメリカの企業で使用量が多い。日本の業界でも、自動車の燃費向上に関わる軽量化ニーズから、近年急激に使用量が拡大しており、軽量性を生かしたステアリングホイールコア、軽量性と制振性(高減衰能)を生かしたシリンダーヘッドカバー、軽量性と精密加工性を生かしたステアリングロックハウジング等多くのマグネシウム部品が実用に供されている。しかし機械加工後そのままでは、耐食性に劣るため使用部位に制約があった。特に腐食環境部位への使用では、耐食性を付与する表面処理が欠かせない。
【0003】
最も有力な表面処理の一つに陽極酸化があり、従来からDOW17法、HAE法が実用に供されてきた。しかしこれら従来の方法では、電解液に有害物質を含んでいるうえに、耐食性と美観にも難があった。DOW17法では、電解液に有害なクロム、フッ素、リン化合物を含んでおり、皮膜が緑色となる。またHAE法も、電解液に有害なフッ素、リン化合物を含有し、皮膜の色は褐色である。すなわち、従来の前記2方法は電解液に有害物質を含み環境上の問題を有するのみでなく、皮膜の色彩も美観上必ずしも望ましいものではない。
【0004】
上記のDOW17法、HAE法の問題点を改善する技術が最近多数開発されている。例えば特許文献1は、陽極酸化処理用の電解液としてエチレングリコール等の有機溶媒、水及び第三アミンの混合液を使用し、さらに必要に応じてアルミン酸化物を添加することにより、有害物質を含む電解液の使用を避けながら、マグネシウム材表面に耐食性を有する透明な皮膜を形成する技術を開示している。さらに、特許文献2は有害な物質を含有しないマグネシウム合金の陽極酸化処理用電解液として、ケイ酸化合物、アルミニウム化合物、表面調整剤、塩基及び水を含有する方法について開示している。
【0005】
前記の特許文献1及び同2に開示された技術では陽極酸化処理用電解液から有害物質を排除し、電解液廃棄による環境への悪影響を防止する目標を達成している。しかしながら、前記したように自動車等において機体を軽量化して燃料消費を改善する目的でマグネシウム又はマグネシウム合金の使用が拡大している状況においては、マグネシウム製部品は厳しい環境条件のもと使用されることから、より高い耐食性を要求されるようになっており、従来の陽極酸化処理で得られる皮膜の耐食性を大幅に超える表面処理技術の開発が求められている。
【0006】
また特許文献1に開示された発明による陽極酸化法においては、処理皮膜が透明であって、マグネシウム又はマグネシウム合金表面の研磨色が表れる点が装飾性の面から重視されている。しかし、機械部品などの軽量化を主要目的とする場合については皮膜の透明性によって装飾的効果を高めることは必ずしも重要ではなく、むしろ皮膜と上塗り塗装膜との密着性の高さがより重視される。また上塗り塗装色と皮膜の色の干渉を生じないように皮膜自体の色はなるべく無色透明か白色に近いことも重要である。
【特許文献1】特開2003−301297号公報
【特許文献2】特開2003−166098号公報
【特許文献3】米国特許第2,723,952
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マグネシウム又はマグネシウム合金の表面に陽極酸化処理により保護皮膜を形成する方法であって、環境に有害な物質を排除した電解液を使用しながら、従来の方法と比較して大幅に耐食性と塗装性を改善した皮膜が形成できる陽極酸化処理技術の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、水と有機溶媒を混合した溶媒にケイ素化合物を添加し、さらに必要に応じて塩基性化合物を添加し前記溶液全体を塩基性に保つよう組成したものを、陽極酸化処理の電解液として使用することにより、前記の課題が達成できることを実験により確認した。すなわち、前記組成の電解液に含有される有機溶媒あるいはケイ素化合物の濃度を適切に設定してマグネシウム又はマグネシウム合金の陽極酸化処理を行うことにより得られた皮膜は、耐食性が従来一般的に使用されてきたHAE法により得られた皮膜と比較して5倍以上の耐食性を有し、またDOW17法やHAE法による皮膜色が緑色または褐色であるのに対して、本発明による場合は白色の皮膜が形成されることを確認した。なお本発明に使用する前記電解液を組成する物質はDOW17法やHAE法に使用される物質と比較して環境への影響が極めて小さいことは言うまでもない。
【0009】
本発明は水と有機溶媒を混合した溶媒にケイ素化合物を溶解させて組成した電解液を使用して陽極酸化処理を行うことにより前記した従来の方法に比較して耐食性を大幅に向上し、かつ白色に近い皮膜を形成したものである。特許文献1は電解液にケイ素化合物を含有しない一方第三アミンを加える点において、また特許文献2はケイ素化合物に加えてアルミニウム化合物を添加する点において、水と有機溶媒にケイ素化合物のみを添加する(但し、電解液全体の塩基性保持に必要な化合物の添加は特許文献1、同2および本件発明について共通である)本発明と相違する。
【0010】
本発明者の行った実験結果によれば、本件発明の陽極酸化処理に使用する電解液に含有されるケイ素化合物および有機溶媒の濃度は形成した皮膜の性状に大きい影響を与えることが確認された。ケイ素化合物については0.15から0.5mol/L(1リッター当りモル濃度)の範囲で処理した場合に、形成した皮膜は高い腐食抵抗値を示した。特にケイ素化合物濃度0.3mol/Lとその近傍の濃度において最も高い腐食抵抗値を示した。有機溶媒については10重量%から40重量%濃度の範囲で処理した場合に、形成した皮膜が高い腐食抵抗値を示した。特に有機溶媒濃度20重量%とその近傍の濃度において最も高い腐食抵抗値を示した。電解液中のケイ素化合物の濃度又は有機溶媒濃度を前記の範囲で変化させて処理した結果、マグネシウムの表面に形成された皮膜の腐食抵抗値はHAE法を使用して形成した皮膜のそれと比較して3倍から9倍になることが確認された。
【0011】
陽極酸化処理中の電解電流密度は処理の結果形成した皮膜の腐食抵抗に影響し、50A毎平方メートル以上の電流密度において形成した皮膜は高い腐食抵抗値を示すことが確認された。
【0012】
本発明の陽極酸化処理の結果形成されるマグネシウム表面の皮膜の色は電解液中の有機溶媒濃度に影響され、10重量%から30重量%では前記皮膜は白色を呈し、40重量%から60重量%の範囲では灰色を呈する皮膜を形成することを確認した。なお、前記皮膜の色に関しては有機溶剤の濃度の変化が主要な関係因子であり、ケイ素化合物濃度と電解電流密度は上述の濃度又は電流密度の範囲においてはほとんど影響しない。
【0013】
本発明の陽極酸化処理により形成された皮膜の表面性状は平滑であるが、上塗り塗料との密着性を確保する面粗さを有している特長があり、安定した、剥がれにくい上塗り塗装を施すことができる。
【0014】
本発明者の実験においては、電解液を組成する物質としては水以外に有機溶媒としてエチレングリコールを、ケイ素化合物としてケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)を、また電解液を塩基性に保つ目的で水酸化カリウムを使用した。エチレングリコールの濃度の影響を確認する目的で、ケイ酸ナトリウムを0.25mol/L、水酸化カリウムを3mol/Lに保ち、エチレングリコールの電解液重量に対する重量濃度を0%から70%の範囲で変えた電解液を組成した。水酸化カリウムの添加は電解液をアルカリ性に保ち、マグネシウムを微少溶解するためであり、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)の添加はケイ素を含有させるために必要である。
【0015】
上述の電解液を電解槽に入れ、試験片及び対極を浸漬させ、これらにガルバノスタットを使って電流を流し、酸化皮膜を形成させた。試験片にはマグネシウム(99.95%)を用いた。液温を20℃に保持し、電解電流密度を25〜150A毎平方メートルの範囲で変化させ、10分間定電流電解を行い、陽極酸化皮膜を形成させ、その時の電圧と電流の経時変化を測定した。
【0016】
有機溶媒の濃度を前記の範囲で変えてそれぞれの有機溶媒濃度毎に陽極酸化処理を行った試験片について、耐食性の計測と皮膜表面性状の目視観察を行った。耐食性評価は処理した試験片の腐食抵抗を交流インピーダンス測定により行なった。すなわちインピーダンスと位相差を測定し、低周波領域及び高周波領域で測定されたインピーダンスの差を、腐食抵抗すなわち耐食性を表す指標とした。耐食性評価は0.5%塩水(NaCl)溶液を用いた。図1は前記実験において有機溶媒濃度を変化させた場合の試験片に形成された皮膜の耐食性を、縦軸に腐食抵抗値(kΩ・cm2)、横軸を有機溶媒濃度の変化として示す。図1における電解電流密度は100A毎平方メートルとし、10分間電解し形成させた皮膜の腐食抵抗を示す。図1中に従来法であるHAE法による皮膜の耐食性(腐食抵抗)を比較のため点線で示す。有機溶媒濃度10〜40重量%で形成した皮膜は、HAE法よりも格段に優れた耐食性を示している。なお、図1に示すHAE法によるマグネシウム表面処理皮膜の耐食性評価結果は、本発明者が前記0015に記載したと同様のマグネシウム材について、同方法を記載した米国特許第2,723,952(特許文献3)に従って表面処理し、さらに前述の塩水条件で腐食抵抗を測定して得たものである。以下図2及び図3に示めすHAE法による腐食抵抗データについても同様である。
【0017】
これらの試験後の表面を観察したところ、有機溶媒20重量%の場合は、均一で良好な白い皮膜が形成されていた。一方有機溶媒70重量%の場合は、端部に欠陥があるものの光沢を有したやはり白色系の皮膜が形成された。なお有機溶剤濃度範囲10〜30重量%でも、20重量%同様に白い良好な皮膜が形成されたが、同40〜60%では灰色の皮膜が形成された。
【0018】
次いで、前記0014に記載したものと同一の物質を使用し、水酸化カリウム濃度は3mol/L、有機溶媒を20重量%と一定値に保ち、ケイ酸ナトリウムの濃度を0から0.5mol/Lの範囲で変化させて、上記0015および0016に記載した陽極酸化処理と、処理後の試験片に対して腐食抵抗計測と外観観察を行った。図2は前記実験においてケイ酸ナトリウムの濃度を変化させた場合の試験片に形成された皮膜の耐食性に関する試験結果を縦軸に腐食抵抗値(kΩ・cm2)、横軸をケイ酸ナトリウムの濃度の変化として示す。図2における電解電流密度は50A毎平方メートルとし、10分間電解し形成させた皮膜の腐食抵抗を示す。図2に比較のため、従来法であるHAE法の結果を点線で示す。ケイ酸ナトリウムの濃度0.1〜0.5mol/Lで形成した皮膜は、HAE法よりも格段に優れた耐食性を示している。
【0019】
図3は、陽極酸化処理中の電解電流密度の変化と、形成した皮膜の耐食性(腐食抵抗)の関係を示す実験結果である。図3において、電解液の組成は有機溶媒20重量%、ケイ酸ナトリウム0.25mol/Lおよび水酸化ナトリウム3mol/Lに保持し、電流密度のみを25から150A毎平方メートルの範囲で変化させた場合である。図3から本発明の方法において電解電流密度を25A毎平方メートル以上にした場合には、腐食抵抗はHAE法による場合の数倍になり、耐食性の高さが確認できた。
【0020】
上記の実験では、有機溶媒としてエチレングリコールを使用したが、ケイ素化合物を溶解できるものであればエチレングリコールに限定されず他の有機溶媒、例えばメタノール、エタノールなども使用可能である。またケイ素化合物としてはケイ酸ナトリウムに限定されず、他のケイ素化合物、例えばケイ酸リチウムなどの使用が可能である。さらに、電解液を塩基性に保つため使用する化合物としては水酸化カリウムに限定されない。
【発明の効果】
【0021】
本発明の陽極酸化処理は、従来法であるHAE法などと比較して、耐食性において格段に優れるばかりでなく、白色系の酸化皮膜が得られ、上塗り塗装を施す場合にも塗料との密着性が高く安定で丈夫な塗膜を形成でき、また上塗り塗料の色彩と干渉しない美観性にも優れる塗装が可能である利点がある。
【0022】
その結果、これまで道路の塩害腐食環境から、量産が困難とされた自動車の下部・足回り部品にも、マグネシウム材料の適用が可能となった。さらに軽量化と共に美観性が重要な要素である電子部品等についても、適用拡大の可能性が大きい。
【0023】
電解液の含有化合物をより少ない種類に限定した(ケイ素化合物は必須であるがアルミニウム化合物を必要としない)本発明の方法は電解液のリサイクルの観点からより望ましく、上述のように優れた性状の皮膜が得られるのみならず廃液の再利用を容易にする効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0024】
実用金属の中で、マグネシウム材料(比重1.75)は、アルミニウム(比重2.70)や鉄(比重7.86)に比べて軽量且つリサイクルも容易であることから自動車をはじめIT業界等で最も注目されている。しかしながら耐食性に難があることから、ニーズが有りながらその適用には限界があった。これまでの耐食性向上技術である陽極酸化表面処理法は、難度の高いニーズに対しては機能的に制約があり、またプロセス中に有害な電解液を用いることから、適用拡大が妨げられてきた。本件開発によるものは、これらの阻害要因を克服したもので、自動車、IT業界のみならず多くの産業界で、この環境にやさしいマグネシウム材料とその表面処理法が使用される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の効果確認実験の結果を示すグラフであって有機溶媒濃度と腐食抵抗の関係を示す。
【図2】本発明の効果確認実験の結果を示すグラフであってケイ素化合物濃度と腐食抵抗の関係を示す。
【図3】本発明の効果確認実験の結果を示すグラフであって電解電流密度と腐食抵抗の関係を示す。
【出願人】 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
【出願日】 平成18年7月5日(2006.7.5)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−13803(P2008−13803A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−185159(P2006−185159)