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【発明の名称】 カチオン電着塗装方法および電着塗膜の膨潤または再溶解の防止方法
【発明者】 【氏名】藤原 日出男

【要約】 【課題】カチオン電着塗装において被塗物の水洗時に生じる再溶解と呼ばれる現象を簡単かつ容易に防止することを目的とする。

【構成】被塗物をカチオン電着塗料中に浸漬し電圧を印加することにより得られる電着塗装された被塗物を水洗する際に、水洗時に水温または雰囲気温度を30〜40℃に保持することを特徴とする電着塗膜の膨潤または再溶解の防止方法およびそれを用いるカチオン電着塗装方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物をカチオン電着塗料中に浸漬し電圧を印加する電着塗装工程、および電着塗装工程により得られた塗装された被塗物を水洗する水洗工程からなるカチオン電着塗装方法において、該水洗工程が水温または雰囲気温度30〜40℃で行われることを特徴とするカチオン電着塗装方法。
【請求項2】
前記水洗工程が、カチオン電着塗料の限外濾液で水洗する第1次水洗工程と、イオン交換水、純水または工業用水などの水洗水を用いて仕上げ洗浄を行う第2次水洗工程とから成り、全水洗工程の初期の段階で水温または雰囲気温度30〜40℃にする請求項1記載のカチオン電着塗装方法。
【請求項3】
被塗物をカチオン電着塗料中に浸漬し電圧を印加することにより得られる電着塗装された被塗物を水洗する際に、水洗時に水温または雰囲気温度を30〜40℃に保持することを特徴とする電着塗膜の膨潤または再溶解の防止方法。
【請求項4】
前記水洗工程が、カチオン電着塗料の限外濾液で水洗する第1次水洗工程と、イオン交換水、純水または工業用水などの水洗水を用いて仕上げ洗浄を行う第2次水洗工程とから成り、全水洗工程の初期の段階で水温または雰囲気温度30〜40℃にする請求項3記載の防止方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン電着塗装方法における水洗工程の改善、特にカチオン電着塗装により得られるカチオン電着塗膜の水洗工程における再溶解を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装においては、被塗物がカチオン電着塗料浴中に浸漬され、その被塗物を陰極として電流を印加すると、塗料固形分だけが被塗物表面に析出する技術である。このとき、被塗物には析出した塗料固形分だけでなく、塗料液そのものが付着する。これをそのまま焼付・硬化すると、正常な塗膜面が得られないので、電着塗装後には何回かの水洗工程を設けて、付着した未析出の塗料液を洗い落とす必要がある。
【0003】
カチオン電着塗装における水洗工程は、図1に示すように、電着浴10で電着塗装された被塗物が、第1水洗工程Aと第2水洗工程Bを経て水洗される。第1水洗工程では、電着塗料の限外濾液で被塗物をいくつかの水洗ブース(図1では、3つの水洗ブース)にわけて水洗する。第2水洗工程Bでは、第1水洗工程で限外濾液を用いて水洗された被塗物を、更に純水や工業用水、若しくは水道水などで、やはりいくつかの水洗ブース(図1では、3つの水洗ブース)にわけて水洗する。
【0004】
第1水洗工程で使用する電着塗料の限外濾液は、カチオン電着塗料中の酸や溶剤を含んでいる。また、第2水洗工程で使用する水洗水にも、pHの上昇による塗料固形分の凝集を抑制するため、酸液を補給してpHを低く保つことが通常行われ場合もある。
【0005】
ところが、これらの水洗水に含まれる酸や溶剤は、電着された塗膜の膨潤を引き起こし、ひいては電着塗膜を溶解する現象が生じる。この現象は「再溶解」と呼ばれている。再溶解が起きると、修正不可能な塗装不良が多数発生し、膨大な損害が発生することになる。この再溶解が簡単かつ容易に防止できることは、カチオン電着塗装において画期的な改良になるが、現在までのところ簡単に防止する方法は知られていない。
【0006】
特開2002−58906号公報(特許文献1)には、消泡効果の高いポリエーテル系消泡剤を提供する技術であるが、消泡剤を限外濾液に添加することで10℃程度の低い温度範囲でも電着塗膜の水洗が可能となることを記載している。特に、この特許文献1の従来の技術の欄には、限外濾液は通常27〜30℃の液温となっていることが記載されている。しかし、特許文献1の技術は、消泡剤の消泡性が低い温度でも可能であることを述べているだけであって、水洗温度のコントロールにまで及んでいない。
【0007】
特開2004−143487号公報(特許文献2)には、カチオン電着塗装後、水洗した後、100〜120℃の温度で乾燥することにより、エッジカバー性やポーラス部カバー性を改善することが記載されている。この技術は、水洗後に乾燥する温度を特定したもので、水洗温度については何の記載も存在しない。
【特許文献1】特開2002−58906号公報
【特許文献2】特開2004−143487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カチオン電着塗装において被塗物の水洗時に生じる再溶解と呼ばれる現象を簡単かつ容易に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、カチオン電着塗装方法において、被塗物の水洗工程の初期段階で水洗温度または雰囲気温度を30〜40℃にコントロールすることにより、再溶解現象を防止できることを発見し、本発明を成すに到った。
【0010】
即ち、本発明は、被塗物をカチオン電着塗料中に浸漬し電圧を印加する電着塗装工程、および電着塗装工程により得られた塗装された被塗物を水洗する水洗工程からなるカチオン電着塗装方法において、該水洗工程が水温または雰囲気温度30〜40℃で行われることを特徴とするカチオン電着塗装方法を提供する。
【0011】
また、本発明は被塗物をカチオン電着塗料中に浸漬し電圧を印加することにより得られる電着塗装された被塗物を水洗する際に、水洗時に水温または雰囲気温度を30〜40℃に保持することを特徴とする電着塗膜の膨潤または再溶解の防止方法を提供する。
【0012】
前記水洗工程は、好ましくは、カチオン電着塗料の限外濾液で水洗する第1次水洗工程と、イオン交換水、純水または工業用水などの水洗水を用いて仕上げ洗浄を行う第2次水洗工程とから成り、全水洗工程の初期の段階で水温または雰囲気温度30〜40℃にすることがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカチオン電着塗装方法では、電着塗装後の水洗工程の少なくとも初期段階で水洗温度または雰囲気温度を30〜40℃に保つことにより、容易かつ簡単に膨潤または再溶解現象を防止することができ、それらが原因で起こる塗膜欠陥(例えば、ハジキ)を防止することができる。特定の理論に限定されるわけでは無いが、電着塗膜の温度を30〜40℃にすることにより、電着塗膜は析出時点では粒子状に被塗物表面に沈着しているだけであるが、その未硬化の電着塗膜に熱が与えられることにより融着し、緻密化するものと考えられている。もちろん、融着あるいは緻密化しているとはいえ、その程度は非常に軽いものであると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、電着塗装後の水洗工程の少なくとも初期段階で、水洗水の水温または雰囲気温度を30〜40℃にコントロールされる。水洗工程は、通常の場合、電着塗料の限外濾液を用いて水洗する第1水洗工程と、イオン交換水や純水、若しくは工業用水などの水を用いて水洗する第2水洗工程に分けることができる。本発明では、それらの水洗工程の少なくとも初期段階で水温または雰囲気温度を30〜40℃に保つことが有効である。少なくとも初期段階とは、全水洗工程で30〜40℃にコントロールしてもよく、また第1水洗工程の最初の段階のみ温度コントロールしてもよい。水温または雰囲気温度を保つ方法としては、具体的には、(1)水洗水自体を所定温度に保つ方法、(2)雰囲気、即ちそれぞれの塗装ブース全体を所定温度に保つ方法、また、(3)被塗物自体を温風などにより所定温度に保つ方法などいくつか考えられる。これらの方法を組み合わせた方法でもよい。
【0015】
図1を参照して本発明を説明する。図1は、電着塗装方法、特に電着浴とその後の水洗工程を模式的に示す図である。
【0016】
図1中では、自動車の車体の形状をした被塗物が電着浴10から第1次水洗工程Aを経て第2次水洗工程Bに移動し、その後別の工程に流れていく。第1次水洗工程Aでは、電着浴10の塗料を限外濾過器11を経て回収した限外濾液12に貯蔵した液体成分(水を主成分とする)をポンプ(図示せず)より送って水洗水として用いる。第2次水洗工程Bでは、イオン交換水、純水または工業用水などを水源14から導入して水洗水として用いる。電着浴10で電着塗装が行われた被塗物は、第1次水洗工程Aの中の第1水洗ブース1に移動し、その後第2水洗ブース2を経て、第3水洗ブース3に移動する。各ブースでは、図1に示されるように、水洗水がスプレー吹きつけにより、水洗されてもよいが、この方法のみに限定されない。第4水洗ブース4に示されているような水洗浴中に浸漬する方法でもよく、またその他の方法、例えば水流の中を被塗物が通る方法などでもよい。第1次水洗工程Aでは、水洗水(限外濾液)は被塗物の流れと逆に、第3水洗ブース3から第2水洗ブース2を経て第1水洗ブース1で利用され、最後に塗料分を多く含んだ水洗水は、電着浴10に戻されて再利用される。
【0017】
第1次水洗工程Aを経た被塗物は、第2次水洗工程Bで限外濾液ではなく、イオン交換水、純水または工業用水などによる水洗を受ける。第2次水洗工程B中では、被塗物は第4水洗ブース4から第5水洗ブース5を経て最後の純水水洗ブース6に移動する。水洗水は、逆に純水水洗ブース6から第4水洗ブース4に移動する。図1の例では、第4水洗ブース4は水洗浴に被塗物を浸漬する方式になっているが、この方式に限定されない。また、他の水洗ブース5および6もスプレー式になっているが、その方法に限定されず、どのような水洗方式をとってもよい。図1の例では、また、水源14から純水水洗ブース6に水を供給する配管20と、第4水洗ブース4に水を供給する配管21が記載されているが、この方式に限定されず、どのような方式で水洗水を供給してもよい。さらに、第4水洗ブース4で使用された水洗水は配管22を通って排水13されているが、この方式に限定されず、場合によっては濾過などを経て水洗水として再利用することも可能である。また、排水13では、直接廃棄されるわけではなく、種々の環境基準に適合するように排水の処理が当然行われる。
【0018】
上記図1の例では、少なくとも第1水洗ブースで、水温若しくは雰囲気を30〜40℃にコントロールする必要がある。もちろん、第1水洗ブース以外のブースでも温度をコントロールしてもよいが、第1水洗ブースでは温度コントロールした方がよい。
【0019】
コントロール温度は、30〜40℃である。30℃より低い温度であると、電着塗膜の融着や緻密化がおこらず、本発明の効果が得られない。また、40℃を超えた場合は、乾きなどの他の不良が発生するおそれがある。ただ、温度のコントロールは、それほど厳密なものではなく、気温等の不確定要素で変動することはあるが、だいだい平均的に30〜40℃の範囲内にあればよいと理解すべきである。
【0020】
カチオン電着塗料組成物
本発明の塗装方法で用いるカチオン電着塗料組成物は、アミノ基含有エポキシ樹脂、および硬化剤を含有するバインダー成分と、必要に応じて顔料を含有するものである。バインダー成分には必要に応じてアミノ基含有アクリル樹脂を含有してもよい。
【0021】
アミノ基含有エポキシ樹脂
バインダー成分を構成する、アミノ基含有エポキシ樹脂としては、電着塗料の分野では周知のアミン変性エポキシ樹脂を用いうる。一般に、これらはエポキシ樹脂のエポキシ基を1級アミン、2級アミンまたは3級アミン酸塩との反応によって開環して製造される。
【0022】
このアミノ基含有エポキシ樹脂は、中和剤を含む水性媒体中に分散される必要がある。アミン変性エポキシ樹脂を調製するために用いるエポキシ樹脂の分子量およびエポキシ樹脂に導入するアミノ基の量等は、電着塗料用バインダーとして、良好な分散性を有するように適宜調節することができる。
【0023】
アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するために用いる典型的なエポキシ樹脂は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物である、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0024】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0025】
【化1】


【0026】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0027】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0028】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0029】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0030】
上記エポキシ樹脂は、アミンと反応させる前に、2官能のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等を使用して鎖延長してよい。または、アミンと反応させる前に、一部のエポキシ基に2−エチルヘキサン酸、2−エチルへキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルのようなモノカルボン酸またはモノヒドロキシ化合物を付加して、分子量またはアミン当量を調節し、熱フロー性を改善してもよい。
【0031】
ここでエポキシ樹脂と反応させるアミンは、例えばブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酸塩などの1級、2級または3級アミン酸塩である。アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンのようなケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミンもしばしば使用される。アミンは、エポキシ基に対してほぼ当量で反応させることが好ましい。
【0032】
通常、アミノ基含有エポキシ樹脂はバインダー成分中7〜30重量%、好ましくは13〜20重量%の量で存在する。アミノ基含有エポキシ樹脂の含有量が30重量%を上回ると得られる塗膜の耐候性が低下し、7重量%を下回ると防食性が低下する。
【0033】
アミノ基含有アクリル樹脂
バインダー成分に必要に応じて配当してもよいアミノ基含有アクリル樹脂は、(i)アミノ基含有アクリルモノマー、(ii)水酸基含有アクリルモノマー、および(iii)その他のエチレン性不飽和モノマーの共重合によって得ることができる。さらにアミノ基含有アクリルモノマーの代わりにエポキシ基含有アクリルモノマーを水酸基含有アクリルモノマーおよびその他のエチレン性不飽和モノマーと共重合し、得られた共重合体のエポキシ基をアミンで開環することにより得ることもできる。
【0034】
アミノ基含有アクリル樹脂は10〜150meq/gのアミン価を有することが好ましい。また、50〜120mgKOH/gの水酸基価を有することが好ましい。アミン価および水酸基価がこのような範囲となるようにモノマー組成を構成することは当業者に周知である。
【0035】
アミノ基含有アクリル樹脂はバインダー成分中48〜62重量%、好ましくは48〜55重量%である。アミノ基含有アクリル樹脂の含有量が48重量%を下回ると得られる塗膜の耐候性が低下し、62重量%を上回ると防食性が低下する。
【0036】
硬化剤
本発明で使用する硬化剤は、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネートが好ましく、ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0037】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0038】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーも硬化剤として使用してよい。
【0039】
ポリイソシアネートは、脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートであることが好ましい。形成される塗膜が耐候性に優れるからである。
【0040】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0041】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0042】
ブロック剤としては、低温硬化(160℃以下)を望む場合には、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムおよびβ−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤、及びホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系ブロック剤を使用するのが良い。
【0043】
硬化剤はバインダー成分中22〜25重量%である。硬化剤の含有量が22重量%を下回ると得られる塗膜の防食性が低下し、25重量%を上回ると耐候性が低下する。
【0044】
ここで、上記バインダー成分である、上記アミノ含有エポキシ樹脂、アミノ基含有アクリル樹脂(必要に応じて配合される)および硬化剤の3種の合計が100重量%とする。
【0045】
顔料
本発明で用いられる電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0046】
顔料は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の1〜35質量%、好ましくは10〜30質量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0047】
顔料分散ペースト(一般に「F1」とも称される。)
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0048】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂ワニスとしては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂ワニスは5〜40質量部、顔料は10〜30質量部の固形分比で用いる。
【0049】
上記顔料分散用樹脂ワニスおよび顔料を、樹脂固形分100質量部に対し10〜1000質量部混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得る。
【0050】
上記カチオン電着塗料組成物は、上記成分のほか、中和剤、水性媒体を含有する。
【0051】
上記中和剤としては、塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、ヒドロキシ酢酸、スルファミン酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。中和剤の量は、少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量であればよい。
【0052】
上記水性媒体としては、水並びに種々の有機溶剤であってよい。本発明での使用に適した溶剤の例としては、炭化水素類(例えば、キシレンまたはトルエン)、アルコール類(例えば、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール)、エーテル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2−エチルエチレングリコールモノヘキシルエーテル)、ケトン類(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン)、エステル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)、並びにそれらの混合物が挙げられる。これらの溶剤の使用量はカチオン電着塗料組成物全体に対して約0.01〜25重量%、好ましくは0.05〜15重量%である。
【0053】
本発明において、バインダー成分として、アミノ基含有エポキシ樹脂、アミノ基含有アクリル樹脂および硬化剤を使用する。これらのバインダー成分のブレンド方法はいく通りかが存在する。通常は、最終的に使用する硬化剤の量を2つに分け、その一方とアミノ基含有エポキシ樹脂とを混合してエマルションを調製し、これとは別に、他方の硬化剤とアミノ基含有アクリル樹脂とを混合してエマルションを調製し、これら2つのエマルションを用いてメインエマルション(F2)を調製し、カチオン電着塗料組成物を調製する。本明細書中では、このバインダー成分を分散したメインエマルションを単に「メインエマルション」という。このメインエマルションは一般に「F2」とも称される。
【0054】
メインエマルション(F2)は、例えば固形分25〜35重量%、好ましくは固形分30重量%である。このメインエマルジョンの固形分はバインダー成分を主として含む。このバインダー成分がアミノ基含有エポキシ樹脂、アミノ基含有アクリル樹脂および硬化剤からなる場合は、アミノ基含有エポキシ樹脂7〜30重量%、アミノ基含有アクリル樹脂48〜62重量%、および硬化剤22〜25重量%であって、前記3種の合計が100重量%である。
【0055】
一般に電着塗料組成物は、最初バインダー成分を中和剤を含む水性媒体中に分散してメインエマルションをつくり、これへ顔料分散ペースト(F1)を添加し、混合して調製される。
【0056】
上記電着塗料組成物は、触媒として、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイドのようなスズ化合物の触媒や、通常のウレタン開裂触媒を含んでもよい。その量は硬化剤の0.1〜10重量%が通常である。この触媒は、通常顔料分散ペースト(F1)に含まれることが好ましい。
【0057】
電着塗料組成物は、水混和性有機溶剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び顔料などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。消泡剤も、もちろん添加剤に含まれる。
【0058】
電着塗料組成物を用いて電着塗装を行う場合の被塗物は、予め、浸漬、スプレー方法等によりリン酸亜鉛処理等の表面処理の施された導体であることが好ましいが、この表面処理が施されていないものであっても良い。また、導体とは、電着塗装を行うに当り、陰極になり得るものであれば特に制限はなく、金属基材が好ましい。
【0059】
電着が実施される条件は一般的に他の型の電着塗装に用いられるものと同様である。印加電圧は大きく変化してもよく、1ボルト〜数百ボルトの範囲であってよい。電流密度は通常約10アンペア/m〜160アンペア/mであり、電着中に減少する傾向にある。
【0060】
本発明の電着塗装方法によって電着した後、被膜を昇温下に通常の方法、例えば焼付炉中、焼成オーブン中あるいは赤外ヒートランプで焼付ける。焼付け温度は変化してもよいが、通常約140℃〜180℃である。本発明の電着塗装システムによって塗装された塗装物は、最終水洗の後、乾燥、焼付けされることによって、硬化電着塗膜が形成され、これにより塗装工程が完了する。
【実施例】
【0061】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「%」及び「部」は特に断らない限り重量基準である。但しPVC「%」は体積率である。
【0062】
製造例1
顔料分散ペースト(F1)の調製
撹拌機、冷却機、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコを用意した。このフラスコにイソホロンジイソシアネート222.0部を加え、メチルイソブチルケトン39.1部で希釈した後にジブチルスズジラウレート0.2部を加えた。50℃に昇温後、2−エチルヘキサノール131.5部を窒素をバブリングしながら撹拌しているところに滴下ロートから2時間かけて滴下した。適宜冷却することにより、この間の反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネートを得た(固形分90%)。
【0063】
撹拌機、窒素注入管、冷却管を備えた反応容器にエポン828(シェル化学社製エポキシ樹脂、エポキシ当量190)351.6部およびビスフェノールA99.2部を仕込み、窒素雰囲気下130℃まで加熱し、ベンジルジメチルアミン1.41部を添加し、170℃で約1時間反応させることにより、エポキシ当量450のビスフェノールA型エポキシ樹脂を得た。
【0064】
次いで、反応溶液を140℃まで冷却した後、上で調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネート218.3部(固形分量196.5部)を加え、140℃に1時間保った。ここにジプロピレングリコールモノブチルエーテル172.3部を加えて希釈し、反応溶液を100℃に冷却し、SHP−100(1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、三洋化成社製)408.0部(固形分量136.0部)、ジメチロールプロピオン酸134.0部および脱イオン水144.0部を加え、70〜75℃で酸価3.0以下になるまで反応させた。
【0065】
3級スルホニウム化率70.6%の3級オニウム基含有エポキシ樹脂を得た。これをジプロピレングリコールモノブチルエーテル324.8部およびイオン交換水1204.8部で希釈し、エポキシ系3級オニウム塩型顔料分散用樹脂分散物を得た(樹脂固形分30%)。
【0066】
得られたエポキシ系3級オニウム塩型顔料分散用樹脂分散物(固形分30%)83部、カーボンブラック(三菱化成社製「M−2600」、平均粒径13nm)17部を混合し、サンドグラインドミルで粒度10μm以下まで粉砕して顔料分散ペースト(F1)(固形分34%)を調製した。
【0067】
製造例2
アミノ基含有エポキシ樹脂の調製
撹拌装置、窒素導入管、冷却管および温度計を備えた反応容器にエポキシ当量が950のエポトートYD−014(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、東都化成社製)950部を入れ、メチルイソブチルケトン237.5部と共に100℃に加熱し完全に溶解させた。次いで、N−メチルエタノールアミン60部、ジエチレントリアミンのメチルイソブチルケチミン73%メチルイソブチルケトン溶液73部を添加した。
【0068】
この混合物を120℃で1時間保温し、アミノ基含有エポキシ樹脂の溶液を得た。
【0069】
製造例3
脂肪族ブロックポリイソシアネートの調製
撹拌装置、温度計、冷却管及び窒素導入管を備えた反応容器にイソホロンジイソシアネート222部を入れ、メチルイソブチルケトン56部を加えて希釈した後ジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、50℃に昇温し、メチルエチルケトオキシム174部を樹脂温度が70℃を超えないように加えた。赤外線吸収スペクトルによりイソシアネート基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保持し、その後、n−ブタノール43部を加えて希釈して脂肪族ブロックポリイソシアネートの溶液を得た。
【0070】
製造例4
アミノ基含有エポキシ樹脂と脂肪族ブロックポリイソシアネートとを含むエマルションの調製
製造例2で得たアミノ基含有エポキシ樹脂の溶液120.4部、及び製造例3で得た脂肪族ブロックポリイソシアネートの溶液56.2部を加えて混合した後、窒素雰囲気下60℃で30分間保持し、その得られた混合物を、酢酸2.0部とイオン交換水215.6部とから得られた液に、十分撹拌しながら徐々に加え、アミノ基含有エポキシ樹脂と脂肪族ブロックポリイソシアネートとを含むエマルションを得た。エマルションの固形分は36%であった。
【0071】
製造例5
アミノ基含有アクリル樹脂、脂肪族ブロックポリイソシアネートおよびアクリル樹脂を含むエマルションの調製
環流冷却器、撹拌機、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた5つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン56.3部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。これへ、グリシジルメタクリレート16.0部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.2部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート14.8部、n−ブチルメタクリレート58.1部、t−ブチルメタクリレート6.9部、およびt−ブチルパーオクトエート4.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下した。滴下終了後115℃に約1時間保持した後、t−ブチルパーオクトエート0.5部を滴下し、115℃で約30分保持し、固形分65%のアクリル樹脂の溶液を得た。数平均分子量は6000であった。
【0072】
冷却後これへN−メチルエタノールアミン8.5部を加え、窒素雰囲気下120℃で2時間反応させ、樹脂SP10.3および固形分約67%のアミノ基含有アクリル樹脂の溶液を得た。
【0073】
この溶液に製造例3で得た脂肪族ブロックポリイソシアネート78.2部を混合し、窒素雰囲気下で70℃で30分保持し、その混合物を、酢酸2.6部とイオン交換水301.2部とから得られた液に十分撹拌しながら徐々に加え、アミノ基含有アクリル樹脂を含むエマルションを得た。エマルションの固形分は30%であった。
【0074】
製造例6
アミノ基含有エポキシ樹脂、アミノ基含有アクリル樹脂および脂肪族ブロックポリイソシアネートを含むメインエマルション(F2)の調製
製造例4で得られた、アミノ基含有エポキシ樹脂と脂肪族ポリイソシアネートとを含むエマルション606部および製造例5で得られた、アミノ基含有アクリル樹脂と脂肪族ブロックポリイソシアネートとを含むエマルション727部を混合し、表題のメインエマルション(F2)を得た。このF2の固形分は30%であった。
【0075】
実施例
製造例1で得られた顔料分散ペースト(F1)152部と、製造例6で得られたアミノ基含有エポキシ樹脂、アミノ基含有アクリル樹脂および脂肪族ブロックポリイソシアネートを含むメインエマルション(F2)1333部とを混合し、得られた混合物にイオン交換水を加えて固形分を20%とし、カチオン電着塗料組成物を得た。この電着塗料を用いて、3枚の試験板(70mmX150mm)を、温度28℃、塗装電圧150Vで電着塗装した。
【0076】
電着塗装された試験板3枚を、カチオン電着塗料の限外濾過液中にそれぞれ所定温度(28℃、31℃および34℃)で浸漬し、5分後と10分後の塗膜残存率と20°グロスを測定し、結果を表1に記載する。塗膜残存率と20°グロスは次のように測定した。
【0077】
塗膜残存率
実施例で作成した塗料を限外濾過器にかけて得られた濾液中に、電着塗装された試験板を半分だけ浸漬して、表1に記載の時間浸漬後、取り出して、塗膜の膜厚を測定し、その膜厚と初期の膜厚から塗膜残存率を求めた。
【0078】
20°グロス
鏡面光沢度計(コニカミノルタ株社製)により20°の反射角における反射光と入射光の割合より求めた。
【0079】
【表1】


【0080】
塗膜残存率は、その数値が高いほど膨潤や再溶解が起こらないことを示している。20°グロスは、値が高いほど平滑であることを示す。表1をみると、限外濾過液の温度が、28℃では、塗膜残存率および20°グロス共に余り高くないのに対して、限外濾液の温度が31℃になると、両方の値が許容しうる範囲に入ってきている。限外濾液の温度が34℃では、塗膜残存率は100%を超えて、ほぼそのまま残存することが解る。また、20°グロスも良好な値を示す。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】電着塗装方法、特に電着浴とその後の水洗工程を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0082】
A…第1次水洗工程A
B…第2次水洗工程B
1…第1水洗ブース、
2…第2水洗ブース
3…第3水洗ブース、
4…第4水洗ブース、
5…第5水洗ブース、
6…純水水洗ブース、
10…電着浴、
11…限外濾過装置、
12…限外濾液、
13…廃水、
14…水源、
20、21,22…配管。
【出願人】 【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
【出願日】 平成18年6月29日(2006.6.29)
【代理人】 【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆

【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄

【識別番号】100126789
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 裕子


【公開番号】 特開2008−7821(P2008−7821A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−179723(P2006−179723)