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【発明の名称】 電着応力が大きな金属の電解採取方法
【発明者】 【氏名】安藤 孝治

【要約】 【課題】電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際に、電解時に電着金属が自然剥離することを防止しながら、かつカソード端部の電力集中により形成される異常電着物を製品から容易に分別することができる電解採取方法を提供する。

【解決手段】カソードと不溶性アノードを備えた電解槽を用いて、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際に、下記の(1)〜(3)の要件を満足するカソードを用いることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと不溶性アノードを備えた電解槽を用いて、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際に、下記の(1)〜(3)の要件を満足するカソードを用いることを特徴とする電解採取方法。
(1)カソード材質は、酸性水溶液中で耐食性に優れている。
(2)カソードの表面粗さは、5点標準粗さ(Rz)で表した値で10〜20μmになるように粗さ調整する。
(3)カソードの表面上に、絶縁部分を設けることにより、カソード面を中央部(A)と、カソードの側辺及び底辺から5〜10mmの幅を有する周辺部(B)とに分割する。
【請求項2】
前記周辺部(B)は、表面粗さを5点標準粗さ(Rz)で表した値で10μm未満になるように粗さ調整することを特徴とする請求項1に記載の電解採取方法。
【請求項3】
さらに、前記周辺部(B)のうち少なくとも側辺に設けた周辺部(B)は、絶縁部分を設けることにより、20〜50mmの長さで細分化することを特徴とする請求項2に記載の電解採取方法。
【請求項4】
さらに、前記カソードの上辺では液面部分から5〜20mmの幅の部分を絶縁し、その下部にあたる電着面上端部に電力集中による異常電着物を形成させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電解採取方法。
【請求項5】
前記電着面上端部を、部分的に、表面粗さを5点標準粗さ(Rz)で表した値で10μm未満になるように粗さ調整することを特徴とする請求項4に記載の電解採取方法。
【請求項6】
前記カソード材質は、チタン又はステンレススチールであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電解採取方法。
【請求項7】
前記電解槽は、隔膜によりカソードと不溶性アノードが仕切られた構造であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電解採取方法。
【請求項8】
上記電着金属は、ニッケル、コバルト又は鉄であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電解採取方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、電着応力が大きな金属の電解採取方法に関し、さらに詳しくは、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際に、電解時に、電着金属が自然剥離することを防止しながら、かつカソード端部の電力集中により形成される異常電着物を製品と容易に分別することができる電解採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を含む水溶液から高純度金属を回収する方法として、電解採取法が広く用いられている。このとき、電解槽内に、不溶性アノードと精製金属を電着させるカソードとを装入し、これに金属を含む水溶液からなる電解液を通液しながら、電極に通電することによって電解反応が行われる。この際に、カソードとして、チタンなど耐食性に優れた材質を用いると、カソードを繰り返して利用することができるので生産性の向上に寄与することが知られている。
【0003】
しかしながら、上記のような繰り返し利用することができるカソードを用いて、ニッケル、コバルト、鉄等、引っ張り又は圧縮の内部応力など電着応力の大きな金属を電解採取する方法では、電解液の液性、液温などの電解条件によっては電着応力が更に加速され、通電中に電着物が自然剥離する場合がある。このため、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際には、通電中に電着物が自然剥離して落下することを避けなければならない。
【0004】
この対策として、電着応力の大きな金属をカソードに密着させるために、カソードの表面を粗くして応力による電着物の反りや跳ね返りを防止することが広く行なわれている。例えば、ニッケルの電解精製で用いるカソード用のニッケル種板の製造方法において、ステンレススチール板、チタン板、鉛板等の母板と呼ばれるカソードを用いて、母板上にニッケル薄板を電着させる際に、剥離の防止のために、母板表面をブラスト処理により表面粗さ(Rz)を5〜40μmとする方法(例えば、特許文献1参照。)、或いは、剥ぎ取り性と密着性が悪化しない母板として、電着面の周辺部の表面粗さを15〜30μmとし、周辺部を除く電着面の表面粗さを10μ以下とし、かつ周辺部の面積の電着面積に対する割合が10〜30%であるもの(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法を通常の電解採取方法に応用した場合、通常の電解採取方法では、その生産性を上げるため、カソード上の電着物を種板の製造の場合よりもより厚くすることが望まれるので、その際に、電解時に電着金属が自然剥離したり、またカソードの表面粗さが必要以上に大きい場合には、かえって剥ぎ取り時の障害となったり、電着物にカソード材質が食い込んだり新たなコンタミの原因となるなどの問題があった。
【0006】
さらに、電解では、一般的にカソードの端部ほど電流が集中しやすい傾向をもち、この部分では、それだけ電流密度も高くなっていることから、不純物元素が共析したり、或いは針状、太り等の不均一な電着物を生じやすいという傾向がある。このような電着が生じると、製品となる電着金属の品質又は取り扱い上の安全性を低下させ、さらに通電中にショートを生じる場合には、電力のロス及び設備の破損などさまざまな問題を引き起こすことになる。
このため、カソードの端部の異常電着物に対しては、製品品質の向上のため、電解終了後、電着金属をカソードから剥ぎ取った後に、その端部を切断除去することが行われている。しかしながら、切断の手間及び切断に使用する工具からのコンタミから、異常電着物の切断による除去は、品質と生産性向上の観点から制約となっていた。したがって、電解採取法において、これを回避することも重要な課題であった。
【0007】
以上の状況から、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際に、電解時に、電着金属が自然剥離して落下することを防止しながら、カソード端部に形成される異常電着物を製品から容易に分別することができる電解採取方法が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開平5−106077号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開平6−336688号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際に、電解時に電着金属が自然剥離することを防止しながら、かつカソード端部の電力集中により形成される異常電着物を製品と容易に分別することができる電解採取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する方法について、鋭意研究を重ねた結果、特定の要件を満足するカソードを用いたところ、電解時に電着金属が自然剥離して落下することを防止し、かつカソード端部の電力集中により形成される異常電着物を主としてカソード中央部の電着金属からなる製品と容易に分別することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、カソードと不溶性アノードを備えた電解槽を用いて、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際に、下記の(1)〜(3)の要件を満足するカソードを用いることを特徴とする電解採取方法が提供される。
(1)カソード材質は、酸性水溶液中で耐食性に優れている。
(2)カソードの表面粗さは、5点標準粗さ(Rz)で表した値で10〜20μmになるように粗さ調整する。
(3)カソードの表面上に、絶縁部分を設けることにより、カソード面を中央部(A)と、カソードの側辺及び底辺から5〜10mmの幅を有する周辺部(B)とに分割する。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記周辺部(B)は、表面粗さを5点標準粗さ(Rz)で表した値で10μm未満になるように粗さ調整することを特徴とする電解採取方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、さらに、前記周辺部(B)のうち少なくとも側辺に設けた周辺部(B)は、絶縁部分を設けることにより、20〜50mmの長さで細分化することを特徴とする電解採取方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3いずれかの発明において、さらに、前記カソードの上辺では液面部分から5〜20mmの幅の部分を絶縁し、その下部にあたる電着面上端部に電力集中による異常電着物を形成させることを特徴とする電解採取方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、前記電着面上端部を、部分的に、表面粗さを5点標準粗さ(Rz)で表した値で10μm未満になるように粗さ調整することを特徴とする電解採取方法提供される。
【0016】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5いずれかの発明において、前記カソード材質は、チタン又はステンレススチールであることを特徴とする電解採取方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6いずれかの発明において、前記電解槽は、隔膜によりカソードと不溶性アノードが仕切られた構造であることを特徴とする電解採取方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7いずれかの発明において、上記電着金属は、ニッケル、コバルト又は鉄であることを特徴とする電解採取方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電着応力が大きな金属の電解採取方法は、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際に、電解時に電着金属が自然剥離することを防止し、かつカソード端部の電力集中により形成される異常電着物を主としてカソード中央部の電着金属からなる製品から容易に分別することができるので、その工業的価値は極めて大きい。これによって、電解操作での作業効率と安全性、並びに製品の品質が向上するとともに、カソードの繰り返し使用を効率的に行うことができるので、生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の電着応力が大きな金属の電解採取方法を詳細に説明する。
本発明の電着応力が大きな金属の電解採取方法は、カソードと不溶性アノードを備えた電解槽を用いて、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属をカソード上に電着させて電解採取する際に、下記の(1)〜(3)の要件を満足するカソードを用いることを特徴とする。
(1)カソード材質は、酸性水溶液中で耐食性に優れている。
(2)カソードの表面粗さは、5点標準粗さ(Rz)で表した値で10〜20μmになるように粗さ調整する。
(3)カソードの表面上に、絶縁部分を設けることにより、カソード面を中央部(A)と、カソードの側辺及び底辺から5〜10mmの幅を有する周辺部(B)とに分割する。
【0021】
本発明において、上記(1)〜(3)の要件を満足するカソード用いて電解を行なうことが重要である。これによって、電解時に電着金属が自然剥離することを防止すること、及びカソード端部の電力集中により形成される異常電着物を主としてカソード中央部の電着金属からなる製品から容易に分別することが達成される。
【0022】
(1)の要件
上記(1)の要件は、カソード材質は、酸性水溶液中で耐食性に優れていることである。
上記(1)の要件を満足することにより、電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液から該金属を電解採取する際に、長期に渡って繰り返し利用することができるカソードを得ることができる。これに対して、酸性水溶液中で耐食性に劣る材質では、電解毎にカソード表面の粗さが変動するため、表面粗さの調整を頻繁に行なう必要があり、作業効率が悪化する。
【0023】
上記カソード材質としては、酸性水溶液中で耐食性に優れているものが用いられるが、耐久性、ハンドリング性等から、チタン又はステンレススチールが好ましい。その形状としては、通常は板状のものが用いられる。
【0024】
(2)の要件
上記(2)の要件は、カソードの表面粗さは、5点標準粗さ(Rz)で表した値で10〜20μmになるように粗さ調整することである。
上記(2)の要件を満足することにより、電解時にカソードと電着金属の密着性を保持することができるので、製品として満足の得られる1mm以上、好ましくは2mm以上の電着厚さを持つ電着金属が得られる。ここで、表面粗さが5点標準粗さ(Rz)で表した値で10μm未満では、電解時に自然剥離が生じて1mm以上の厚さの電着金属が得られない。一方、表面粗さが5点標準粗さ(Rz)で表した値で20μmを超えると、より厚い電着物を得ることができるが、カソードの全面に渡り電着金属との密着性が強固になりすぎるので、電解後のカソードからの分別作業において、剥ぎ取りが困難となり作業性が悪化する。
【0025】
これらの点に関して、カソードの表面粗さと電解時に自然剥離が生じる電着厚さの関係について、ニッケル電解と鉄電解の場合を例として具体的に説明する。
(イ)ニッケル電解
図1は、カソードの表面粗さと電着金属の自然剥離が生じる電着厚さの関係を表す。この関係は、以下の条件のニッケル電解で得られたものである。
カソードとして、厚さ3mmのチタン板を用いた。この表面粗さは、5点標準粗さ(Rz)で表した値で3μmの材料を用い、サンドブラスト処理により変更した。なお、電解反応に寄与する電極面積としては、縦350mm、及び横350mmとした。
このカソードに、クロスビームを取り付け、同サイズの不溶性アノードと共に塩化ビニール製の電解槽に装入した。
電解液としては、ニッケル濃度が250g/Lとなるように塩化ニッケルを溶解して調製した。
液温を55℃に維持しながら、電流密度400A/mで通電し、通電を継続しながら一定時間ごとにカソードを引き揚げて電着状態を観察し、電着物がカソードから自然剥離した時点で、その電着厚さをマイクロメータで測定し、剥離時の電着厚さを求めた。
図1より、カソードの表面粗さが5点標準粗さ(Rz)で表した値で10μm以上、好ましくは12μm以上であるとき、実用的な1mm以上、好ましくは2mm以上の電着厚さが得られることが分かる。
【0026】
(ロ)鉄電解
ニッケル電解と同様の設備を用い、同一の条件で通電した。
電解液は、塩化第1鉄を鉄濃度が100g/Lとなるように溶解し、これに食塩を200g/Lの濃度となるように添加し、塩酸を用いてpHが0.5〜1の範囲となるように調整した。その結果、表面粗さと自然剥離が生じる電着厚さの関係としては、ニッケル電解の場合とほぼ同一の関係が得られた。
【0027】
上記カソードの表面粗さの調整方法としては、特に限定されるものではないが、一般的にはサンドブラスト処理等が用いられる。例えば、通常入手されるチタン板は、表面粗さが5点標準粗さ(Rz)で表した値で2〜3μm以下であるので、粗さ調整が必要とされる。
【0028】
(3)の要件
上記(3)の要件は、カソードの表面上に、絶縁部分を設けることにより、カソード面を中央部(A)と、カソードの側辺及び底辺から5〜10mmの幅を有する周辺部(B)とに分割することである。
上記(3)の要件を満足することにより、中央部(A)では、均一電着物が電析され、一方周辺部(B)では、電力集中による異常電着物が電析される。すなわち、絶縁部分により中央部(A)と分割された周辺部(B)が、電力集中による異常電着物の電着を受け持つことになる。これにより、電解後に、カソードから周辺部(B)の異常電着物と中央部(A)の電着金属とを別途回収することにより、異常電着物を製品から容易に分別することができる。なお、異常電着物は、酸性水溶液中に溶解後、再電解に供したり、或いはアノードから発生する塩素ガスを吸収しカソード上の電着の再溶解を防止することに利用することができる。
【0029】
前記絶縁部分としては、カソードの表面上に、絶縁性のマスキングテープを貼るか、又は絶縁性の塗料で線引きする等により容易に行なわれる。ここで、絶縁部分の幅は、特に限定されるものではなく、周辺部(B)の異常電着が中央部(A)に及ばないように適宜選択される。
【0030】
前記周辺部(B)の幅としては、カソードの側辺及び底辺から5〜10mmである。すなわち、幅が5mm未満では、周辺部(B)の異常電着が中央部(A)に及ぶ。一方、幅が10mmmを超えると、中央部(A)の面積が狭くなるので、製品率が低下し、生産性が悪化する。
【0031】
ここで、前記周辺部(B)としては、特に限定されるものではないが、表面粗さを5点標準粗さ(Rz)で表した値で10μm未満になるように粗さ調整することが好ましい。なお、通常入手されるチタン板は、表面粗さが5点標準粗さ(Rz)で表した値で2〜3μmである。これにより、周辺部(B)での異常電着物の成長を抑えることができる。すなわち、(2)の要件により、5点標準粗さ(Rz)で表した値で10〜20μmの表面粗さを有する中央部(A)に対し、周辺部(B)では、電着金属とカソードとの密着性がむしろ低下する状態とするものである。したがって、周辺部(B)では、電解中に電着金属が容易に剥げ落ちるため、針状電着物の成長が抑えられる。なお、電解中に槽底に落下堆積した針状電着物は、別途設けられた掻きだし装置等により回収される。また、周辺部(B)での異常電着物は少なく薄いので、カソードからの剥ぎ取りは容易である。したがって、異常電着物を主としてカソード中央部の電着金属からなる製品から容易に分別することができる。
【0032】
さらに、必要に応じて、前記周辺部(B)のうち少なくとも側辺に設けた周辺部(B)は、絶縁部分を設けることにより、20〜50mmの長さで細分化することができる。これにより、周辺部(B)では、電着物が細分化されるので、カソードから剥げ落ちた電着物が落下時に引っかかるなどの問題を解消することができる。
【0033】
さらに、必要に応じて、前記カソードの上辺では液面部分から5〜20mmの幅の部分を絶縁し、その下部にあたる電着面上端部に電力集中による異常電着物を形成させることができる。すなわち、絶縁部分の幅が5mm未満では、操業中の液面位置の変動に対応することができない。一方、幅を取りすぎても過剰な電着が成長しすぎるので20mm程度以下に留めることが望ましい。これによって、前記絶縁部分の下部にあたる電着面上端部に、逆に粒状の過剰な電着太りがつくられる。ここで、この部分を、電着金属をカソードから剥ぎ取る際の手がかりとしてテコに利用することで、カソードから中央部(A)の電着金属を剥ぎ取る際に、剥ぎ取り性を向上させることができる。この過剰な電着太りは、電着面上端部の全面につける必要はなく、部分的にあればよい。その際には、前記電着面上端部を、部分的に、表面粗さを5点標準粗さ(Rz)で表した値で10μm未満になるように粗さ調整することが行なわれる。これによって、表面粗さが細かい部分では、異常電着が生じない。
【0034】
上記方法に用いる電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液としては、特に限定されるものではなく、酸性水溶液としては、塩酸、硫酸又は硝酸からなる水溶液が、また、金属としては、ニッケル、コバルト又は鉄が好ましく用いられる。
【0035】
上記方法に用いる電解槽としては、特に限定されるものではなく、例えば、カソードと不溶性アノードを備え、かつ隔膜によりカソードと不溶性アノードが仕切られた構造であるものが好ましく用いられる。
【0036】
上記不溶性アノードとしては、特に限定されるものではなく、市販されている黒鉛、白金被覆チタン、酸化ルテニウム被覆チタン、イリジウム酸化物系被覆チタン等が用いられる。また、板状、穿孔板状、棒状、簾状、エキスパンドメタル状等の形状ものが用いられる。
【0037】
上記隔膜としては、特に限定されるものではなく、濾布、イオン交換膜等が用いられるが、フィルタープレス等に用いられる安価な濾布が好ましい。前記濾布としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル樹脂、モダアクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ弗化ビニリデン等の材質からなるものが用いられ、この中でも、特に目が細かく、通水度が低くなるように織られた濾布が好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析及び表面粗さの評価方法は、以下の通りである。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)表面粗さの測定:触針式表面粗さ計((株)ミツトヨ製、SURFTEST 211型)を用いて、5点標準粗さ(Rz)を求めた。
【0039】
(実施例1)
カソードと不溶性アノードを備えた塩化ビニール製の電解槽を用いて、ニッケル濃度が250g/Lとなるように塩化ニッケルを溶解して調製した電解液を通液して、カソード上に電着させたニッケルを電解採取した。
カソードとして、次のようにして調製したカソード(a)を用いた。
[カソード(a)の調製]
厚さ3mmのチタン板を用いた。カソードの表面粗さは、5点標準粗さ(Rz)で表した値で3μmの材料を用い、カソードの片面が、その側辺及び底辺から5mmの幅の部分を除いて、5点標準粗さ(Rz)で表した値で15μmの表面粗さになるように、サンドブラスト処理により粗さ調製を行なった。その後、カソードの側辺及び底辺から5mmの幅の内側に、絶縁性のマスキングテープを貼って、カソード表面を中央部(A)と周辺部(B)に分割した。なお、電解反応に寄与する電極面積としては、縦350mm、及び横350mmとした。
このカソードに、クロスビームを取り付け、同サイズの不溶性アノードと共に電解槽に装入した。また、アノードとカソードの距離は60mmとし、その間を濾布で仕切った。
【0040】
電解は、電解液の液温を55℃に調整して通液しながら、電流密度400A/mに制御しながら48時間通電して行なった。その後、カソードを引き揚げて、電着状態を観察した。結果を図2に示す。図2は、通電後のカソードの電着状態を表す写真である。図2より、カソードの側辺及び底辺から5mmの部分に対応する周辺部(B)では、電着物の厚さが薄く、かつ過剰な電着太りが見られないこと、及び底辺部には電解中に自然剥離して落下した部分があることが分かる。また、前記周辺部(B)以外の内側に当たる中央部(A)では異常電着物は発生していない。
【0041】
(実施例2)
カソードとして、さらに前記カソード(a)の調製に加えて、カソードの上辺から5mmの幅の部分をマスキングテープで絶縁したものを用いたこと以外は実施例1と同様に行ない、その後、カソードを引き揚げて、電着状態を観察した。その結果、カソードの電着部の上端部分に電流が集中し、それ以外の部分よりも多く電析した電着太りができた。この太りの部分とカソードとの間にスクレーパーを差し込むことにより、電着物の破れはなく容易に剥ぎ取ることができた。
【0042】
(比較例1)
カソード(a)の調製において、カソード表面を中央部(A)と周辺部(B)に分割を行なわず、カソードの全面を5点標準粗さ(Rz)で表した値で15μmの表面粗さになるように粗さ調製を行なったこと以外は実施例1と同様に行ない、その後、カソードを引き揚げて、電着状態を観察した。結果を図3に示す。図3は、通電後のカソードの電着状態を表す写真である。図3より、カソード上の電着面の外周には粒状の異常電着物が形成されたことが分かる。
【0043】
以上より、実施例1又は2では、材質がチタンで、表面粗さが5点標準粗さ(Rz)で表した値で15μmで、及びカソード表面を中央部(A)と周辺部(B)に分割したカソードを用いて本発明の方法に従って行われたので、電解時に電着金属が自然剥離することを防止し、かつ異常電着物を中央部の電着金属からなる製品から容易に分別することができることが分かる。これに対して、比較例1では、カソードがこれらの条件に合わないので、電解時に異常電着物が成長するので満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上より明らかなように、本発明の電着応力が大きな金属の電解採取方法は、特にニッケル、コバルト又は鉄のように電着応力が大きな金属を含む酸性水溶液からこれら金属をカソードに電着させて電解採取する際に、電解時に電着金属が自然剥離することを防止しながら、かつカソード端部の電力集中により形成される異常電着物を製品から容易に分別することができる電解採取方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】カソードの表面粗さと電着金属の自然剥離が生じる電着厚さの関係を表す図である。
【図2】実施例1で得られた通電後のカソードの電着状態を表す写真である。
【図3】比較例1で得られた通電後のカソードの電着状態を表す写真である。
【出願人】 【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
【出願日】 平成19年6月15日(2007.6.15)
【代理人】 【識別番号】100106596
【弁理士】
【氏名又は名称】河備 健二


【公開番号】 特開2008−308742(P2008−308742A)
【公開日】 平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願番号】 特願2007−158722(P2007−158722)