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【発明の名称】 電気銅製造用カソード
【発明者】 【氏名】山口 洋平

【氏名】高津 明郎

【要約】 【課題】カソードを電解槽に吊り下げた際に良好な吊り下げ状態となり、吊り下げ状態の調整が必要な場合でも人手で容易に調整することが可能な電気銅製造用カソードを提供する。

【解決手段】電気銅製造用カソードは、電着面となる種板1と、断面矩形のカソードビーム3と、種板1とカソードビーム3を繋ぐ吊手2とからなる。湾曲した薄板状の吊手2の両端が種板1の両面上端縁部に固定され、湾曲した吊手2の内側にカソードビーム3が挿通されると共に、カソードを吊り下げた状態において、湾曲した吊手2はカソードビーム3の上側の2稜線3a、3bにのみ接触している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気銅製造において電着面となる種板と、断面矩形のカソードビームと、種板とカソードビームを繋ぐ吊手とからなる電気銅製造用カソードであって、湾曲した薄板状の吊手の両端が種板両面の上端縁部に固定され、該湾曲した吊手の内側にカソードビームが挿通されると共に、カソードを吊り下げた状態において、該湾曲した吊手がカソードビームの上側の2稜線にのみ接触していることを特徴とする電気銅製造用カソード。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の電解精製や電解採取に用いる電気銅製造用カソードに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、銅の電解精製や電解採取では、粗銅製のアノードと純銅製のカソードを電解槽中に交互に吊り下げ、電解液中で電解してカソードに純銅を電着させることにより、製品たる電気銅を製造している。また、アノード及びカソードを電解槽中に吊り下げる際には、カソードの吊り下げ位置を、電解槽中に予め等間隔に吊り下げられたアノードとアノードの中心部にくるように、垂直に吊り下げられるように調整する必要がある。
【0003】
電気銅製造に用いる一般的なカソードは、図1に示すように、種板電解工程にて製造された種板1を、少なくとも2つの吊手2で棒状のカソードビーム3に取り付けたものである。吊手2は種板1と同じく純銅製であり、そのリボン状の吊手2をカソードビーム3に沿って巻きつけ、吊手2の両端で種板1を挟み込んだ後、加締装置によって吊手2をU字状に変形させてカソードビーム3の側面に密着させながら、種板1に取り付けられる。尚、このカソード組立工程は、省力化及びコスト低減のために自動化されている。
【0004】
純銅製の種板は、種板電解工程においてチタン製またはステンレススチール製等の母板をカソードとして電解を行い、0.7〜1.0mm程度に薄く電着したところで電着物を母板から剥ぎ取ったものである。このようにして得られた種板の平面性が良好な場合には特段の問題はないが、曲がりや反りがある場合には、カソード組立工程の中でプレスやロール加工を施すことにより、平面性を向上させることが一般的に行われている。
【0005】
上記カソードの種板は垂直に吊り下げる必要があるが、種板がプレスやロール加工によっても曲がりや反りが取りきれないほど平面性が悪い場合には、組み立てたカソードを電解槽中に吊り下げたとき、カソードビームをアノードとアノードの中心部に配置しても、種板が隣り合ういずれか一方のアノード側に偏った位置に設置されてしまう。また、吊手の厚さのばらつきや、カソードビームへの吊手の巻きつけ不良等によっても、カソードの位置が偏ることがある。
【0006】
このように種板の吊り下げ状態(懸垂性)が不良なカソードをそのまま使用すると、電解が終了して得られる電気銅の歪みが大きくなるため、製品として好ましくない。また、種板の吊り下げ位置の偏りが大きい場合には、電解が進むにつれて電解液中でカソードとアノードが接触し、ショートと呼ばれる不具合が発生する危険がある。
【0007】
そのため、カソードを電解槽に吊り下げた際に、電解液中で種板が垂直な状態に吊り下げられていない場合には、吊手とカソードビームの接触状態を調整したり、または吊手の角度を変えたりすることによって、種板が垂直な状態になるように調整していた。しかし、この調整作業は作業者の手作業によるものであるため時間がかかり、省力化及びコスト低減の障壁となっていた。
【0008】
このような不都合を解消するため、例えば特開平6−220682号公報(特許文献1)には、種板を吊手でカソードビームに固定して、良好な吊り下げ状態を得るための方法が開示されている。即ち、吊手を吊手ガイドの隙間部分にカソードビームで押し込むと同時にカソードビームに巻きつけ、巻きつけた吊手の両端で種板を挟み込んだ後、種板を挟み込んだ部分とカソードビームとの間の吊手を両側から加締装置で押圧し、吊手を塑性変形させてカソードビームに密着させる。そして、装置に内蔵されたパンチで半円弧状の穴あけを行うと共に、形成された半円弧状の凸状片を反対側に折り返して固定する。
【0009】
この方法によれば、種板の平面性が良好である場合には、吊手の厚さのばらつきや巻きつけ位置のずれに関わらず、カソードを吊り下げた時に、カソードビームの鉛直方向中心線上の位置に種板が固定されるようにカソードを組み立てることができ、作業者による調整作業が不要となる利点がある。しかしながら、この方法では、種板の平面性が悪いなどの場合には、種板がカソードビームの鉛直方向中心線上に固定されないことがあった。
【特許文献1】特開平6−220682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した特開平6−220682号公報に記載の方法により組み立てられたカソードは、吊手が加締加工によりカソードビームの側面にほぼ密着して、カソードビームの上側及び下側の3〜4稜線に接した状態で固定されているため、吊手とカソードビームの固定状態を容易に変えることは困難であった。それ以前のカソードも、前述のごとく吊手とカソードビームの固定状態を変えることは可能であったが、吊手がカソードビームの上側及び下側の3〜4稜線に接した状態で固定されていることに変わりはなかった。
【0011】
そのため、いずれの従来のカソードも、カソード製造時に充分な加工精度が保てない場合、例えば吊手を両側から押圧する際に均等に加圧することができない場合には、図2に示すように、種板1がカソードビーム3の鉛直方向中心線からずれて固定されてしまう。しかも、吊手2とビカソードーム3の密着度が高く、自由度が不充分であるため、このようなカソードを電解槽中で吊り下げると、種板1が隣接するアノード側に偏って設置されることとなる。また、種板1の平面性が悪い場合にも、同様に種板1がカソードビームの鉛直方向中心線からずれて固定されてしまう。
【0012】
その結果、その状態のまま電解を行うと、得られる電気銅の歪みが大きくなって不良品となったり、電解液中でカソードとアノードが接触してショートしたりする危険があった。また、種板がカソードビームの鉛直方向中心線からずれた状態を直す場合にも、吊手とカソードビームが固定されているため作業に要する時間が増大し、電気銅製造のための通電時間が減少して、電気銅生産量が低下するという問題点があった。
【0013】
本発明は、このような従来の状況に鑑み、カソードを電解槽に吊り下げた際に良好な吊り下げ状態となり、調整が必要な場合でも人手で容易に調整することが可能な電気銅製造用カソードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明が提供する電気銅製造用カソードは、電気銅製造において電着面となる種板と、断面矩形のカソードビームと、種板とカソードビームを繋ぐ吊手とからなる電気銅製造用カソードであって、湾曲した薄板状の吊手の両端が種板両面の上端縁部に固定され、該湾曲した吊手の内側にカソードビームが挿通されると共に、カソードを吊り下げた状態において、該湾曲した吊手がカソードビームの上側の2稜線にのみ接触していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吊手とカソードビームとが密着固定されておらず、特にカソードビームの側面から下方にかけて十分な隙間が存在しているため、種板の自由度が高く、カソードを電解槽に吊り下げた際に、種板が自重でカソードビームの鉛直方向中心線付近に位置するようになる。また、調整が必要な場合でも、吊手とカソードビームとが密着固定されていないため、人手で容易に調整することができ、電解操業の効率向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の電気銅製造用カソードは、例えば図3に一具体例を示すように、吊手2とカソードビーム3とが密着固定されておらず、湾曲した吊手2の内側でカソードビーム3が自由に移動することができる。従って、カソードを吊り下げたとき、吊手2がカソードビーム3の上側の2稜線3a、3bにのみ接触した状態となり、カソードビーム3の側面から下方にかけて吊手2との間に十分な隙間が存在する。
【0017】
そのため、種板1の平面性が悪い場合や、カソード製造時に種板1と吊手2を精度良く固定できなかった場合でも、吊手2とカソードビーム3が密着せず自由度が充分にあるため、カソードを電解槽中に吊り下げる際に、種板1は自重によってカソードビーム3の鉛直方向中心線に沿って吊り下げられ易くなる。また、カソードを電解槽中に吊り下げたとき、カソードあるいは種板1の位置を調整したい場合にも、吊手2とカソードビーム3の密着度が低いため、人手によって簡単に調整することが可能である。
【0018】
尚、本発明におけるカソードでは、吊手とカソードビームの接点がカソードビームの上側の2稜線のみであるため、従来のカソードのように上側と下側の3〜4稜線で接する場合に比べて接触抵抗が増加する。しかし、この接触抵抗の増加の影響はわずかであって、本発明の効果である電解操業の効率向上の方が充分に上回っており、予想された悪影響を打ち消し得ることを確認できた。
【実施例】
【0019】
本発明のカソードを、図4に示す製造装置を用いて製造した。即ち、リボン状の吊手2を吊手ガイド4の隙間部入口に配置し、吊手ガイド4の隙間部にカソードビーム3で押し込むようにして、吊手2をカソードビーム3の周囲に巻きつけた。次に、カソードビーム3の後方から種板1を吊手2の内側に挿入し、吊手2の両端部を加締装置5で押圧し、挟み込まれた種板1を加締めた。そして、加締装置5に内蔵されたパンチで吊手2と種板1に半円弧状の穴あけを行うと共に、形成された半円弧状の凸状片を反対側に折り返して固定した。
【0020】
図4に示す製造装置では、吊手ガイド4の隙間部の断面形状が矩形ではなく、入口方向に開いた台形の断面形状になっている。このため、この吊手ガイド4の隙間部に吊手2がカソードビーム3により押し込まれて変形する際に、隙間部の出口付近だけで吊手2に力が加えられ、入口側にかけて力が加えられることがなく、入口方向に向けて広がった隙間部に沿って吊手2が逃げられるようになっている。その結果、吊手2には従来に比べて強い変形が起こらないため、加締作業により吊手2は湾曲し、図3に示すようなカソード形状とすることができる。
【0021】
このようにして製造した本発明のカソードと従来のカソードについて懸垂性を評価した。即ち、電解操業を行いながら、従来方法で製造したカソードの懸垂性と、途中から使用した本発明によるカソードの懸垂性を評価し、その結果を図5に示した。図5から、本発明の吊手部を改良したカソードを使用することによって、カソードの懸垂性が従来よりも約1mm向上していることが分る。
【0022】
尚、カソードの懸垂性の評価は、種板の上下方向に上部、中部、下部、及びそれぞれの左右方向に左部、中部、右部の合わせて9箇所の測定点を決め、種板がカソードビームの鉛直方向中心線上からずれた距離を測定して、9箇所の測定点のうち最大値と最小値との差(mm)を懸垂性とした。
【0023】
また、上記の電解操業に合わせて、各操業を開始した電解槽通電開始時刻を調査したところ、本発明のカソードを用いて電解操業を実施した以降は、それ以前の従来のカソードを用いた操業に比べて、電解槽通電開始時刻が平均して約20分早くなり、電解操業の効率を向上させることができた。
【0024】
尚、電解操業においては、カソードを垂直に懸垂する作業だけなく、アノードやカソードの装入枚数などによっても、電解槽の通電開始時刻に影響がある。しかし、上記電解槽通電開始時刻は吊手部改良の前後それぞれ40日程度の操業日数での平均値であり、本発明のカソードを用いた以外に条件の変更はないため、通電開始時刻が約20分早くなったことは、本発明のカソードを用いたことによりカソードの調整作業が簡単になり、調整作業に要する時間が短縮された結果と推測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一般的なカソードの模式図であり、(a)は正面図及び(b)は側面図である。
【図2】従来のカソードの悪い吊り下げ状態を示す概略の断面図である。
【図3】本発明のカソードの要部を示す概略の断面図である。
【図4】本発明のカソードの製造装置を示す概略の断面図である。
【図5】本発明による吊手改良前後でのカソードの懸垂性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1 種板
2 吊手
3 カソードビーム
4 吊手ガイド
5 加締装置
【出願人】 【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
【出願日】 平成19年1月26日(2007.1.26)
【代理人】 【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒


【公開番号】 特開2008−179868(P2008−179868A)
【公開日】 平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願番号】 特願2007−15778(P2007−15778)