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【発明の名称】 特殊形状電気ニッケルの電解採取用カソードの製造方法
【発明者】 【氏名】新宮 正寛

【氏名】三ツ井 宏之

【氏名】松木 茂喜

【要約】 【課題】メッキ用の特殊形状電気ニッケルの電解採取に用いるカソードについて、絶縁物でのマスキングにより形成する電着部が縮小ないし変形することを防止し、電着部の特殊形状を維持することができる方法を提供する。

【解決手段】マスキングのためカソード母板に塗布する絶縁物として一液性エポキシ樹脂を使用し、塗布時の動粘度を外気温にかかわらず10000〜30000cStに保持する。更に具体的には、一液性エポキシ樹脂の樹脂温度Yを、外気温Xに対しY=−0.82X+48.27の関係を満たすように予熱し、予熱直後〜1時間の間にカソード母板に塗布する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解採取によって特殊形状の電気ニッケルが得られるように表面を絶縁物でマスキングしたカソードの製造方法において、マスキングのためカソード母板に塗布する絶縁物として一液性エポキシ樹脂を使用し、該一液性エポキシ樹脂の塗布時の動粘度を外気温にかかわらず10000〜30000cStに保つことを特徴とする特殊形状電気ニッケルの電解採取用カソードの製造方法。
【請求項2】
前記一液性エポキシ樹脂を予熱する際に、外気温Xに対しY=−0.82X+48.27の関係を満たす樹脂温度Yに予熱し、予熱直後から1時間の間にカソード母板に塗布することを特徴とする、請求項1に記載の特殊形状電気ニッケルの電解採取用カソードの製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ用の特殊形状の電気ニッケルを電解採取する際に用いるカソードの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケルをはじめとする金属の電解精製では、カソードとして、電解採取する金属とは別種の金属からなり、且つ繰り返し使用できる材質の母板を使用し、所定時間の電解を行った後、電着物を母板より引き剥がして回収する方法が一般的に行われている。この時、カソードである母板上に絶縁物でマスキングを施しておくことにより、任意の特殊形状の電着物を得ることができる。
【0003】
例えば、メッキ用のアノードとして用いる電気ニッケルは、使用の際のアノードボックス内での充填性やハンドリング性などの観点から、角が立たない丸みのある小塊状の形状が好まれることが多い。そのため、このような小塊状の電気ニッケルを電解精製により製造する場合には、特開2002−302787号公報に記載されるように、表面に多数の円形の電着部(ニッケルが電着する部分)を有するようにマスキングしたカソードを用いて電解している。
【0004】
上記したように特殊形状の電着物が得られるように表面を絶縁物でマスキングする場合、絶縁物であるマスキング剤として一液性エポキシ樹脂を用い、電着部が所望の特殊形状、例えば真円となるようにスクリーンを用いて塗布する。その際、樹脂温度の変動などによって一液性エポキシ樹脂で形成した電着部の円形が歪み、電着部の面積が真円の10〜70%にまで縮小ないし変形してしまうことがある。そのため、電着した電気ニッケルの形状も歪んだ円形となり、外観が悪くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2002−302787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、メッキ用の特殊形状電気ニッケルの電解採取に用いるカソードを製造する際に、絶縁物でのマスキングにより形成する電着部が縮小ないし変形することを防止して、電着部の特殊形状を維持することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、電解採取によって特殊形状の電気ニッケルが得られるように表面を絶縁物でマスキングしたカソードの製造方法において、マスキングのためカソード母板に塗布する絶縁物として一液性エポキシ樹脂を使用し、該一液性エポキシ樹脂の塗布時の動粘度を外気温にかかわらず10000〜30000cStに保つことを特徴とする特殊形状電気ニッケルの電解採取用カソードの製造方法を提供する。
【0007】
また、上記本発明による特殊形状電気ニッケルの電解採取用カソードの製造方法においては、更に具体的には、前記一液性エポキシ樹脂を予熱する際に、外気温Xに対しY=−0.82X+48.27の関係を満たす樹脂温度Yに予熱し、予熱直後〜1時間の間にカソード母板に塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一液性エポキシ樹脂で形成するマスキングの電着部が縮小ないし変形することを防止でき、例えば電着部が円形の場合、その電着部の面積を元の真円に対して80%以上に保つことが可能となる。従って、本発明によるカソードを用いた電解採取によって、良好な外観を有するメッキ用の特殊形状電気ニッケルを安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
一般にメッキ用の特殊形状電気ニッケルの電解採取においては、電気ニッケルの形状として、アノードボックス内での充填性やハンドリング性などの観点から、角が立たない丸みのある小塊状の形状が好まれるため、母板表面に多数の円形の電着部を有するようにマスキングを施したカソードを使用する。このマスキングの方法として、チタン(Ti)など繰り返し使用できる材質の母板表面に、スクリーン印刷により電着部が真円となるように絶縁物を塗布した後、乾燥・硬化させることによりマスキングを行う。
【0010】
本発明においては、マスキングのための絶縁物として、一液性エポキシ樹脂を使用する。一液性エポキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、従来から特殊形状電気ニッケルの電解採取用カソードのマスキングに使用されていたものを使用することができる。例えば、(株)テスク製の一液性エポキシ樹脂(商品名B−1057)などを好適に使用することができる。
【0011】
しかし、一液性エポキシ樹脂は外気温によって粘度が変動しやすいため、適切な粘度範囲に管理して印刷塗布することが難しい。そのため、塗布直後に形成される電着部の形状が崩れたり、又は塗布直後から乾燥までの間に形状が変化したりして、乾燥・硬化後に良好な電着部の形状が得られなくなる場合があることから、真円など特殊形状のマスキングを施すことは極めて困難である。
【0012】
そこで、本発明者らは、一液性エポキシ樹脂の動粘度と、マスキングによって形成される円形の電着部形状について鋭意検討を重ねた結果、樹脂の動粘度が10000cSt未満では塗布した直後に樹脂の電着部への染み出しが起こり、良好な円形の電着部を保持できないことが分った。また、樹脂の動粘度が30000cStを超えると、塗布後から乾燥・硬化するまでの間に電着部の形状変化が起こり、良好な円形の電着部が得られないことが判明した。
【0013】
一方、一液性エポキシ樹脂の動粘度を10000〜30000cStの範囲に管理すれば、塗布時ないし塗布から乾燥・硬化の間に樹脂の染み出しや電着部の形状変化が発生せず、良好な円形の電着部を形成できることが分った。このような知見に基づいて、本発明では、カソード母板に塗布する際の一液性エポキシ樹脂について、外気温によって変動する動粘度を、樹脂温度の管理によって常に10000〜30000cStに保つものであり、これにより良好な形状の電着部を有するカソードを製造することができる。
【0014】
次に、一液性エポキシ樹脂の温度と動粘度の関係を調査した結果、図1に示すような樹脂温度と動粘度の関係を得た。この一液性エポキシ樹脂の温度と動粘度の関係から、動粘度を10000〜30000cStの範囲に保つためには、塗布時の樹脂温度を外気温にかかわらず約25〜35℃の範囲に保持すればよいことが分る。即ち、塗布時における一液性エポキシ樹脂の温度を約25〜35℃に管理すれば、その動粘度を10000〜30000cStの範囲に保持することができ、その結果マシキングにより良好な形状の電着部を形成することができるのである。
【0015】
尚、一液性エポキシ樹脂の塗布時の温度が35℃を超えると、動粘度が10000cStを下回ってしまうため、塗布直後に樹脂の電着部への染み出しが起こり、良好な円形の電着部を保持できなくなる。また、塗布時の樹脂温度が25℃未満では、動粘度が30000cStよりも高くなるため、塗布から乾燥・硬化までの間に電着部の形状変化が起こり、良好な円形の電着部を得ることができなくなる。
【0016】
上記したように、塗布時の一液性エポキシ樹脂の動粘度を10000〜30000cStの範囲に管理するためには、その塗布時の樹脂温度を外気温の変動にかかわりなく常に25〜35℃の範囲に管理することが必要である。塗布時の樹脂温度を管理する方法は一様ではなく、さまざまな方法が適用できることは言うまでもない。ここでは、塗布前の準備作業として樹脂を予熱する場合について、外気温の影響により樹脂温度が変化することを考慮に入れた樹脂温度の管理方法を説明する。
【0017】
一般に、準備作業で樹脂を一定の温度に予熱する場合、その後所定の時間内に塗布するが、塗布時の樹脂温度は外気温の影響により変化してしまう。そこで、一液性エポキシ樹脂の予熱による樹脂温度と外気温について、最も一般的な予熱直後から1時間の間に塗布する場合に、塗布時の樹脂温度が最適温度である25〜35℃の範囲内になる関係を調査した結果、図2に示す関係が得られた。例えば、外気温が10℃の場合、図2のグラフから、予熱により樹脂温度を40℃に管理して、通常のごとく1時間以内に塗布すればよいことが分る。
【0018】
この図2の結果から、一液性エポキシ樹脂を予熱後に塗布する方法としては、樹脂温度Yを外気温Xに対してY=−0.82X+48.27の関係を満たすように予熱し、予熱直後〜1時間の間にカソード母板に塗布する。この方法によれば、塗布時に樹脂温度は25〜35℃の範囲内の温度になり、同時に樹脂の動粘度も10000〜30000cStの範囲内になる。その結果、チタンなどのカソード母板に形状崩れのない電着部を有するマスキングが形成され、特殊形状電気ニッケルの電解採取に用いる良好なカソードを製造することができる。
【0019】
特殊形状電気ニッケルの電解採取用のカソードにおいて、良好な電着部の形状とは、例えば電着部の形状が円形の場合、印刷用スクリーンに設定された円形部分の面積に対して、カソードに形成された電着部の面積が80%以上保持されていることを指す。電着部の面積がスクリーンに設定された円形部分の面積の80%未満になると、良好な外観を有するメッキ用特殊形状の電気ニッケルが製造できなくなり、また、電流密度が上昇することにより操業時に水素ガスが発生するなどの問題が生じるためである。
【実施例】
【0020】
SUS製のカソード母板表面に、スクリーン印刷により一液性エポキシ樹脂((株)テスク、商品名B−1057)を塗布し、乾燥・硬化させて、多数の円形の電着部を有するマスキングを形成した。その際、外気温10℃において、予め一液性エポキシ樹脂を40℃及び25℃にそれぞれ予熱し、45分経過後に塗布した。尚、スクリーンに設定された円形部分は、直径15mmの真円である。
【0021】
得られたカソードのマスキング面の写真を図3に示す。図3の(A)は樹脂温度を40℃に予熱した場合、及び(B)は樹脂温度を25℃に予熱した場合である。45℃に予熱した(A)では真円に近いきれいな電着部が得られたのに対し、25℃に予熱した(B)では円形が歪み、きれいな電着部が得られなかった。この結果は、予熱した樹脂を外気温10℃の条件の下で塗布する際に、樹脂の動粘度を(A)では10000〜30000cStの範囲内に保持できたのに対し、(B)では保持できなかったことによる。
【0022】
また、得られたカソードのマスキング面について、それぞれ円形の電着部の直径を測定して最大値、最小値、平均値を求めた。更に、これらから電着部の面積の平均値と、スクリーンに設定された円形部分の真円に対する電着部の面積比を求めた。これらの結果を下記表1に示す。下記表1から分るように、樹脂温度を40℃に予熱した(A)では真円に対する面積比が92%であったのに対し、25℃に予熱した(B)では78%であった。
【0023】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一液性エポキシ樹脂の樹脂温度と動粘度の関係を示すグラフである。
【図2】一液性エポキシ樹脂の予熱による樹脂温度Yと外気温Xについて、塗布時の樹脂温度が25〜35℃の範囲内となる関係を示すグラフである。
【図3】実施例で得られたカソードのマスキング面の写真であり、外気温10℃に対し(A)は40℃に予熱した場合、(B)は25℃に予熱した場合を示す。
【出願人】 【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
【出願日】 平成18年10月24日(2006.10.24)
【代理人】 【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒


【公開番号】 特開2008−106292(P2008−106292A)
【公開日】 平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願番号】 特願2006−288300(P2006−288300)