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【発明の名称】 銅材の製造方法及び銅材
【発明者】 【氏名】黒田 洋光

【氏名】青山 正義

【氏名】沖川 寛

【要約】 【課題】安価で、軟化温度の低く、かつ導電率の高い無酸素銅材の製造方法及び銅材を提供するものである。

【解決手段】本発明に係る銅材の製造方法は、無酸素銅の荒引き材に減面率が25%以上の冷間減面加工を施し、その後、その減面材に、80〜650℃の温度で50分以上の熱処理を施すものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無酸素銅材を製造する方法において、無酸素銅の荒引き材に減面率が25%以上の冷間減面加工を施し、その後、その減面材に、80〜650℃の温度で50分以上の熱処理を施すことを特徴とする銅材の製造方法。
【請求項2】
上方引上連続鋳造装置を用いて無酸素銅材を製造する方法において、無酸素銅の荒引き材を連続的に製造した後、その荒引き材に減面率が25%以上の冷間減面加工を施し、その後、その減面材に、80〜650℃の温度で50分以上の熱処理を施すことを特徴とする銅材の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の製造方法を用いて製造された銅材であって、半軟化温度が180℃以下であることを特徴とする銅材。
【請求項4】
請求項2記載の製造方法を用いて製造された銅材であって、半軟化温度が180℃以下であることを特徴とする銅材。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、銅材の製造方法に係り、特に、無酸素銅材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、銅線を含む各種線材の多くは、連続鋳造圧延法により形成される。先ず、シャフト炉で溶解させた溶湯がSCR方式、又はコンチロッド(登録商標)方式の連続鋳造手段に供給され、鋳造バーが得られる。次に、その鋳造バーは連続鋳造手段に連結された熱間圧延手段に供給され、所定の外径に圧延される。その後、圧延材が冷却され、荒引き線が得られる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
連続鋳造圧延法は、溶解工程、鋳造工程、及び熱間圧延工程の各ラインが連続しており、荒引き線の製造法としては効率的で、生産性に優れた方法である。得られた荒引き線は、その後、冷間伸線工程、焼きなまし工程に供され、最終製品(例えば銅線)が得られる。この銅線の構成材の一つにタフピッチ銅がある。タフピッチ銅は、スクラップ銅と電気銅を混ぜたものを利用することができるため、原料コストが安価である。また、タフピッチ銅は、無酸素銅と比べて酸素含有量が多いため、必然的に、無酸素銅と比べて酸化した不純物の含有量が多くなるという特徴がある。また、無酸素銅の製法として、溶銅湯面に配した鋳型内で溶銅を凝固させて上方に連続的に引上げる上方引上連続鋳造法(アップキャスト法)などがある。この無酸素銅は、近年モータ用のマグネットワイヤにも使用されるようになってきた。
【0004】
【特許文献1】特開平6−240426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、銅線製造の焼きなまし工程において、連続焼きなましを行う(冷間伸線工程と焼きなまし工程を連続的に行う)ことで、工業生産性を向上させることができる。しかし、この場合、被焼きなまし材の軟化温度が高いと、焼きなまし工程に時間がかかると共に、焼きなまし工程の生産速度に冷間伸線工程の生産速度を合わせる必要があり、銅線の生産性が阻害される。また、被焼きなまし材の軟化温度が高いと、焼きなましに要する熱エネルギーが増大し、製品コストの上昇を招いてしまう。よって、被焼きなまし材の軟化
温度の低下が図られている。
【0006】
銅材の軟化温度を低下させるには、銅母材中に含まれる不純物元素を除去し、Cu純度を高めることが必要とされる。不純物元素を除去する方法としては、例えば、溶湯原料の選定(高純度のものを使用)、溶湯の酸化精錬、還元精錬などがある。しかしながら、この不純物元素を除去する方法は、コストが非常にかさむ方法である。このため、溶湯原料にタフピッチ銅を用いた場合、この方法は経済的に極めて不利であり、工業的に適した方法とは言えなかった。さらに、近年では、マグネットワイヤの接続溶接時にガスのボイドが生じ難い無酸素銅の要求があり、この点ではタフピッチ銅は適さない。
【0007】
一方、銅材の軟化温度を低下させる他の方法として、銅母材中に含まれる不純物元素の内、ある元素の濃度をより低くすればよいことが知られている。ここで言うある元素の1つとして、Cuに固溶した状態で存在するSやPbなどがある。このCu中に固溶したSやPbの濃度を低減させるべく、銅の溶湯に真空脱ガス処理を施したり、鋳造後の銅バーに特定温度で熱処理を施すなどの方策が試みられている。しかし、従来のこれらの方策では、SやPbの濃度を十分に低減させることができないため、銅材の軟化温度を十分に低下させることができなかった。さらに、近年HEV車の普及により、モータの高効率化の点から、マグネットワイヤの導体には高い導電率が求められている。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、安価で、軟化温度の低く、かつ導電率の高い無酸素銅材の製造方法及び銅材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく本発明に係る銅材の製造方法は、無酸素銅材を製造する方法において、無酸素銅の荒引き材に減面率が25%以上の冷間減面加工を施し、その後、その減面材に、80〜650℃の温度で50分以上の熱処理を施すものである。また、本発明に係る銅材の製造方法は、上方引上連続鋳造装置を用いて無酸素銅材を製造する方法において、無酸素銅の荒引き材を連続的に製造した後、その荒引き材に減面率が25%以上の冷間減面加工を施し、その後、その減面材に、80〜650℃の温度で50分以上の熱処理を施すものである。
【0010】
一方、本発明に係る銅材は、前述した各銅材の製造方法を用いて製造された銅材であって、半軟化温度が180℃以下のものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安価で、軟化温度の低く、かつ導電率の高い無酸素銅材を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適一実施の形態を説明する。
【0013】
本発明の好適一実施の形態に係る銅材の製造方法は、荒引き材、特に無酸素銅からなる荒引き材を用いて銅材を製造するものである。
【0014】
具体的には、先ず、上方引上連続鋳造装置を用いて無酸素銅の荒引き材(例えば、荒引き線)を連続的に製造する。次に、荒引き材に減面率が25%以上の冷間減面加工を施した後、その減面材に、80〜650℃の温度で50分以上の熱処理を施す。その後、減面材に熱処理を施してなる被熱処理材に、適宜、冷間減面加工を施して最終線径とし、半軟化温度が180℃以下の銅材(例えば、銅線)が得られる。この銅材に焼きなまし処理を施したものが、最終製品の1つとなる。その後、適宜、焼きなました銅材に冷間加工を施すようにしても良い。
【0015】
ここで言う減面率(%)は、以下に示す(1)式で表される。また、ここで言う半軟化温度とは、60分間加熱した後の銅材の引張強度が加熱前の銅材の引張強度の半分になる時の温度のことである。
減面率=[1−(減面加工後の線材断面積/減面加工前の線材断面積)]×100…(1)
【0016】
また、ここで言う無酸素銅とは、10ppm以下の酸素含有量で、かつ不可避的不純物を含む純銅のことを意味する。
【0017】
冷間減面加工時の減面率を25%以上、好ましくは28〜99.9%と規定したのは、減面率が25%未満だと、加工時に荒引き線に十分な歪みを発生させることができず、荒引き線内部の転位を十分に増大、成長させることができないためである。その結果、銅材に固溶しているSやPbなどを十分に析出させることができなくなり、延いては、銅材の軟化温度を十分に低下させる(例えば、180℃以下に低下させる)ことができなくなる。
【0018】
また、熱処理温度を80〜650℃、好ましくは80〜620℃、より好ましくは90〜610℃と規定したのは、銅材に固溶しているSやPbなどを析出させるための反応は拡散反応であり、拡散反応を十分に生じさせるには、十分な反応温度(加熱温度)を必要とするためである。熱処理温度が80℃未満だと、拡散反応を十分に生じさせられないためである。一方、熱処理温度が650℃を超えると、Cuに対するSやPbの固溶限が高まることで、銅材に固溶するSやPbの濃度が逆に増えてしまい、その結果、銅材の軟化温度がさらに上昇するためである。
【0019】
また、熱処理時間を50分以上、好ましくは50〜120分、より好ましくは50〜100分と規定したのは、拡散反応を十分に生じさせるには、十分な反応時間(加熱時間)を必要とするためである。熱処理時間が50分未満だと、銅材に固溶しているSやPbなどを析出させるための反応時間を十分に確保できない。
【0020】
ここで、本実施の形態に係る銅材の軟化温度が大幅に低下する理由は、次のように考えられる。
【0021】
通常の無酸素銅には10ppm前後のSが固溶しており、このSが銅材の軟化温度を上昇させる大きな因子といわれている。そこで、本実施の形態に係る製造方法では、無酸素銅の荒引き材に減面率25%以上の冷間減面加工を施している。この冷間減面加工により荒引き材に歪みが発生し、この歪みが荒引き材内部の転位を増大、成長させる。
【0022】
上方引上連続鋳造法による荒引き材は、SやPbなどの不純物元素が過飽和に固溶された状態にある。ところが、その荒引き材に前述した冷間減面加工を施した後、熱処理を施すと、冷間減面加工時に増大、成長した転位によって、Cu原子及びS原子が容易に拡散、移動できるようになる。その結果、銅材に過飽和に固溶された不純物元素がCuと化合し、析出物(例えば、CuS)として析出し易くなる。特に、銅の軟化温度を上昇させるSは、Cuに対する固溶限が小さいため、冷間減面加工及び熱処理によって容易に析出する。その結果、銅材に固溶するSやPbの濃度が低減され、延いては、銅材の軟化温度が大幅に低下すると考えられる。
【0023】
本実施の形態に係る製造方法に用いる荒引き材及び最終的に得られる銅材の形態は、減面加工によって形成可能なものであれば特に限定するものではなく、例えば、線状、板状、又は条状などのいずれであってもよい。
【0024】
次に、本実施の形態に係る銅線の作用を説明する。
【0025】
通常、荒引き材に冷間減面加工を施し、伸延、伸線させてなる銅線は、加工硬化によって高硬度な線材(例えば、硬銅線)となっている。このため、通常の硬銅線に焼きなましを行う際、特にアニーラー焼きなましを行う際は、高温、長時間の熱処理が必要となる。
【0026】
しかしながら、本実施の形態に係る製造方法により得られた銅材は、従来の方法で製造した無酸素銅材(以下、従来の銅材という)と比較して軟化温度が低く、半軟化温度が180℃以下である。このため、本実施の形態に係る銅材は、より低い温度で十分な焼きなましを行うことができる。よって、アニーラー焼きなましを行う際、本実施の形態に係る銅材は、従来の銅材と比較して、より低い温度で、かつ、短時間で焼きなましを行うことが可能となる。その結果、銅材の生産性が向上すると共に、銅材製造に要するエネルギーの削減も可能となる。
【0027】
また、荒引き材の製造ラインと、冷間伸線工程及び熱処理工程の各ラインは、連続的に設ける又は別々に設けるのいずれであってもよい。荒引き材の製造ラインと、冷間伸線工程及び熱処理工程の各ラインを連続的に設けた場合、銅溶湯から、直接、本実施の形態に係る銅材を得ることができる。また、荒引き材の製造ラインと、冷間伸線工程及び熱処理工程の各ラインを別々に設けた場合、様々なサイズ、形態の荒引き材への対応が可能となり、その結果、様々なサイズ、形態の銅材を任意に得ることができる。
【0028】
以上より、本実施の形態に係る銅線は、接続溶接性に優れる無酸素銅で構成されており、かつ、その軟化温度が従来の銅材よりも大幅に低いことから、最終製品の製造コストが安価となり、その工業的価値が非常に高い銅線である。
【0029】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0030】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
アップキャスト方式の上方引上連続鋳造装置を用い、無酸素銅からなる直径φ8mmの荒引き線を製造した。この荒引き線に所定の減面率の冷間減面加工を施した後、所定の温度、時間の熱処理を施した。その後、被熱処理材にさらに冷間減面加工を施し、直径φ2.6mmの銅線を作製した(試料1〜試料13)。
【0032】
試料1〜3については、減面率をそれぞれ0%とし、加熱処理なしのものを(比較例1)、加熱温度600℃、加熱時間30分のものを(比較例2)、加熱温度800℃、加熱時間60分のものを(比較例3)とした。つまり、試料1は荒引き線のままである。
【0033】
試料4,5については、減面率をそれぞれ20%とし、加熱温度100℃、加熱時間90分のものを(比較例4)、加熱温度400℃、加熱時間60分のものを(比較例5)とした。冷間減面加工後の線材の直径はφ7.15mmとなった。
【0034】
試料6〜9については、減面率をそれぞれ30%とし、加熱温度100℃、加熱時間60分のものを(実施例1)、加熱温度400℃、加熱時間60分のものを(実施例2)、加熱温度600℃、加熱時間90分のものを(実施例3)、加熱温度800℃、加熱時間30分のものを(比較例6)とした。冷間減面加工後の線材の直径はφ6.70mmとなった。
【0035】
試料10〜13については、減面率をそれぞれ50%とし、加熱温度100℃、加熱時間60分のものを(実施例4)、加熱温度400℃、加熱時間60分のものを(実施例5)、加熱温度600℃、加熱時間90分のものを(実施例6)、加熱温度800℃、加熱時間10分のものを(比較例7)とした。冷間減面加工後の線材の直径はφ5.65mmとなった。
【0036】
試料14は、連続鋳造圧延方式(SCR方式)を用いてタフピッチ銅からなる荒引線φ8mmを製造した。荒引き線の構成材は、無酸素銅溶湯に硫黄親和性金属であるTiを0.003重量%添加したものである。この荒引き線に実施例1と同様の冷間伸線加工および熱処理を施し、直径φ2.6mmの銅線を製作したものである(従来例1)。
【0037】
実施例1〜6及び比較例1〜7の各銅線を用いて軟化試験を行い、軟化特性の評価を行った。その結果を表1に示す。ここで、軟化特性の評価は、半軟化温度を用いて行った。また、各銅線については、完全焼きなまし処理(銅線の強度がそれ以上に低下しないところまで軟化させる処理)を行い、導電率の測定も実施した。
【0038】
【表1】


【0039】
表1に示すように、実施例1〜6の各銅線は、いずれも冷間減面加工の減面率が25%以上(30%、50%)、熱処理温度が80〜650℃(100℃、400℃、600℃)、熱処理時間が50分以上(60分、90分)であり、本発明に係る銅線の製造方法を満足していた。実施例1〜6の各銅線の半軟化温度はいずれも180℃以下(148〜180℃)であり、荒引き線(試料1;240℃)と比較すると60℃以上(約60〜92℃)も半軟化温度が低下していた。
【0040】
これに対して、比較例2,4,5の各銅線は、それぞれ熱処理温度及び熱処理時間が600℃×30分、100℃×90分、400℃×60分であり、この点で本発明に係る銅線の製造方法を満足していた。しかしながら、いずれも冷間減面加工の減面率が25%未満(0%、20%、20%)であるため、半軟化温度が180℃超(192℃、205℃、196℃)であった。
【0041】
比較例3の銅線は、冷間減面加工の減面率が25%未満(0%)であり、かつ、熱処理温度が650℃超(800℃)と高すぎるため、半軟化温度が荒引き線よりも高くなった(248℃)。また、比較例6,7の各銅線は、それぞれ冷間減面加工の減面率が30%、50%であり、この点では本発明に係る銅線の製造方法を満足していた。しかしながら、熱処理温度が650℃超(800℃)と高すぎるため、半軟化温度が荒引き線よりも高くなった(245℃、246℃)。
【0042】
各銅線の完全焼きなまし処理後の導電率は、半軟化温度の低い本実施例1〜6は101.5%IACS以上であったが、半軟化温度の高い比較例1〜7は、101.5%IACS未満であった。また、試料である銅線と銅線の先端同士を突合わせしTIG溶接したところ、従来例の銅線の場合には銅中にボイドが形成されたが、本発明の実施例1〜6及び比較例1〜7には、ボイドが認められなかった。
【0043】
以上より、荒引き線に対する冷間減面加工の減面率、その後に行う熱処理の温度及び時間をそれぞれ所定の範囲に制御することで、銅線の軟化温度を大幅に低下させることができ、かつ導電率も高くできることが確認された。さらに、溶接時に導体中のボイドは発生せず、接続信頼性が大幅に向上した。
【出願人】 【識別番号】000005120
【氏名又は名称】日立電線株式会社
【出願日】 平成19年4月5日(2007.4.5)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−255418(P2008−255418A)
【公開日】 平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願番号】 特願2007−98964(P2007−98964)