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【発明の名称】 低弾性チタン合金板の製造方法及びチタン合金板
【発明者】 【氏名】源島 文彦

【氏名】山口 拓郎

【氏名】花田 修治

【氏名】松本 洋明

【要約】 【課題】強度を保持しつつ弾性率のみを低減した低弾性チタン合金板の製造方法及びチタン合金板を提供する。

【解決手段】マルテンサイト組織を有する低弾性チタン合金板を、β変態温度以上での溶体化処理工程と、溶体化処理工程に続く第1冷間圧延工程と、第1冷間圧延に対してクロス方式とした第2冷間圧延工程と、を行tって製造する。第1冷間圧延工程と第2冷間圧延工程の圧下率(%)をそれぞれRD1、RD2としたときに、RD2/RD1が1.1以上2.5以下であり、且つRD1×RD2>400を満たす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルテンサイト組織を有する低弾性チタン合金板を製造するに当たり、
β変態温度以上での溶体化処理工程、
前記溶体化処理工程に続く第1冷間圧延工程、
前記第1冷間圧延に対してクロス方式とした第2冷間圧延工程、
を行うことを特徴とする低弾性チタン合金板の製造方法。
【請求項2】
第1冷間圧延工程と第2冷間圧延工程の圧下率(%)をそれぞれRD1、RD2としたときに、
RD2/RD1が1.1以上2.5以下であり、且つ以下の不等式、
RD1×RD2>400
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の低弾性チタン合金板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の低弾性チタン合金板の製造方法により得られたチタン合金板であって、
バナジウムを6〜18%含むことを特徴とするチタン合金板。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、低弾性チタン合金板の製造方法及びチタン合金板に係り、更に詳細には、高強度低弾性率で高弾性変形能な低弾性チタン合金板の製造方法及びチタン合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は比強度や耐食性に優れるため、航空、軍事、宇宙、深海探査、化学プラントなどの分野で多用されている。この汎用チタン合金はその組織上、α型、α+β型、β型に分類される。中でも、α+β型チタン合金のTi‐6%Al‐4%Vは強度が高いこと等の理由で多用されてきた。
【0003】
また、従来のβ型合金としては、例えば、Ti‐15V‐3Cr‐3Sn‐3Al、Ti‐22V‐4Alなどがあり、しなやかである特徴から、眼鏡フレームやゴルフクラブに用いられている。更に、上記汎用β型合金の他にヤング率が80GPaを下回る種類のβ型チタン基合金が提案されており、例えば、生体適合品(例えば、人工骨等)、装身具(例えば、眼鏡のフレーム等)、スポーツ用品(例えば、ゴルフクラブ等)、スプリングなどへの適用が期待されている(例えば特許文献1〜4参照。)。
【特許文献1】特開2005‐113227号公報
【特許文献2】特開2002‐180168号公報
【特許文献3】特開2004‐353039号公報
【特許文献4】特許第3375083号公報
【0004】
一方、上記α型、α+β型、β型チタン合金以外のチタン合金として、マルテンサイト組織を有するチタン合金が挙げられる。このチタン合金は、V,Mo,Nb等のβ安定化元素の料を適度に制御し、β相安定温度域で溶体化処理した際に、α’やα”のマルテンサイト組織が現れることが特徴である。
具体的な合金としては、Ti‐V‐Al、Ti‐V‐Al‐Fe、Ti‐Nb‐Sn、Ti‐Nb‐Al、Ti‐Mo‐Sn等が知られている。これらのチタン合金は、マルテンサイト組織であるため形状記憶効果を示す。また、弾性率も純チタンに比べ低くなる。
従って、形状記憶合金としての応用だけでなく、低弾性が望まれる生体適合品、装身具、スポーツ用品、スプリングなどへの適用が期待されている。例えば、人体への適合性が良いTi‐Nb‐SnやTi‐Mo‐Sn合金は医療用途への応用が期待されている(例えば特許文献5,6参照。)。
また、Ti‐V系合金は、NbやMoに対しVが低融点であるため、溶製が容易であり、Ti‐15V‐3Cr‐3Sn‐3Alのような汎用合金と同様に低コストで製造できることから、医療用途以外の種類の用途への適用が期待されている。
【特許文献5】特許第3521253号
【特許文献6】特公昭59‐35978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらマルテンサイト組織を有するチタン合金は、板材として製造する場合は、一般に熱間、冷間での圧延により板状に加工されるが、その際に板面内でマルテンサイト組織が配向し、結果として弾性率に板面内異方性(異方性)が生じやすい特長があった。
そのため、板面内での弾性率の方向による違いが製品の性能を左右する場合には、性能が悪化したり、ばらついたりする原因となっていた。例えば、圧延により製造された板から部品を打ち抜く際に、特定の向きで統一しないと、その後のプレス成型工程で部品を製造する際にスプリングバックが安定せず、部品の寸法制度が悪化するという問題があった。
また、製品により性能が大きく変わってしまう問題もあった。具体例を挙げれば、ゴルフクラブのフェースに用いる場合、弾性率の異方性が大きいと飛距離悪化や、打球の方向を損ねる原因になっていた。
更に、自動車等の回転体部品に上記チタン合金の板材を加工して用いた場合、回転する位置による弾性率の差が振動や騒音の原因となったり、応力集中により部品の疲労特性が低下するという欠点があった。
【0006】
一方、本発明者らは、かかる課題を達成すべくマルテンサイト組織を有するチタン合金板の工法について種々検討を重ねた結果、次のような知見を得るに至った。
即ち、ベータトランザス温度以上での溶体化処理を行うことで、α’やα”相のマルテンサイト組織とし、その後冷間圧延加工すると、マルテンサイト組織が加工集合組織を形成する。この加工集合組織により弾性率に異方性が生ずる。
しかし、先の冷間圧延方向に対しクロス方向に第二の冷間圧延加工を施すと、集合組織が変化し、結果として弾性率の異方性が大きく減少することを明らかにした。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題及び新たな知見に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、強度を保持しつつ弾性率のみを低減した低弾性チタン合金板の製造方法及びチタン合金板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、β変態温度以上での溶体化処理後にクロス圧延を行うことにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のチタン合金板の製造方法は、マルテンサイト組織を有する低弾性チタン合金板を製造するに当たり、
β変態温度以上での溶体化処理工程、
前記溶体化処理工程に続く第1冷間圧延工程、
前記第1冷間圧延に対してクロス方式とした第2冷間圧延工程、
を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のチタン合金板の製造方法の好適形態は、第1冷間圧延工程と第2冷間圧延工程の圧下率(%)をそれぞれRD1、RD2としたときに、
RD2/RD1が1.1以上2.5以下であり、且つ以下の不等式、
RD1×RD2>400
を満たすことを特徴とする。
【0011】
更に、本発明のチタン合金板は、上記製造方法により得られたチタン合金板であって、
バナジウムを6〜18%含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、β変態温度以上での溶体化処理後にクロス圧延を行うこととしたため、従来品に比べてヤング率を低減させた低弾性チタン合金板の製造方法及びチタン合金板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の低弾性チタン合金板の製造方法について、更に詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0014】
上述の如く、本発明は、マルテンサイト組織を有する低弾性チタン合金板を製造するに当たり、以下の1〜3工程
1.β変態温度以上での溶体化処理工程、
2.前記溶体化処理工程に続く第1冷間圧延工程、
3.前記第1冷間圧延に対してクロス方式とした第2冷間圧延工程、
を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明の製造方法では、上記工程を行うことにより、製造されたチタン合金板は、弾性率が等方的になるだけでなく、冷間圧延による加工硬化により強度も同時に向上する。言い換えれば、本発明者らは、チタン合金板の引張強度や伸びなどの強度特性も板面内で異方性が小さい場合に向上することを見出した。
また、本発明の製造方法により得られたチタン合金板の弾性率や強度の値は、合金の成分や加工条件により異なるが、具体的には、弾性率としては80GPaを下回る低い値と、強度として引張強度が1GPaを越えるような高い値とが同時に満たされる素材も得られる。
従って、かかるチタン合金板は、板面内での弾性率の方向による違いが少ないため、例えば、部品を打ち抜く際に、板面内でどの向きに打ち抜いても製品の性能に支障をきたさない。また、プレス成型工程で部品を製造する際にスプリングバックが一定であるため、部品の寸法制度が良く歩留まりが向上する。更に、かかるチタン合金板を、例えば、ゴルフクラブのフェースに用いた場合は、打球の方向や飛距離が安定する。自動車等の回転体部品に該チタン合金板を加工して用いた場合は、回転する位置による弾性率の差が少ないため振動や騒音が発生せず、弾性率の異方性に起因する応力集中も発生しないため、部品の疲労特性も向上する。
【0016】
なお、上記クロス方向とは、第一の圧延に対して角度を変えて第二の冷間圧延を施すことを意味していて、角度については特に限定しないが、第一の圧延方向に対して略90度の方向であることが望ましいが、例えば45度とする等しても本発明の効果が発揮できれば特に問題ない。
また、本発明では、1.溶体化処理工程→2.第1冷間圧延工程→3.クロス方式の第2冷間圧延工程を行うが、上記溶体化処理工程の前の工程については、特に限定されるものではない。即ち、溶体化処理工程においてマルテンサイト組織が再結晶するため、本製造方法においてマルテンサイト組織を制御する上では、その前段階の組織に大きく影響されないためである。従って、上記溶体化処理工程の前工程として、熱間圧延等の一般的なチタン合金の製造方法を採用しても何ら問題ない。
更に、これら3つの工程の間には、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の工程を挟んでも問題ない。例えば、溶体化処理工程の後に酸洗工程を入れても良いし、第2冷間圧延工程の後に表面性状を整えるための研磨工程を入れても良いし、第2冷間圧延工程の後にマルテンサイト組織を壊さない範囲で短時間の焼鈍工程を含んでも良い。
【0017】
更に、本発明の製造方法においては、第1冷間圧延工程と第2冷間圧延工程の圧下率(%)をそれぞれRD1、RD2としたとき、
RD2/RD1が1.1以上2.5以下であり、且つ以下の不等式、
RD1×RD2>400
を満たすようにすることが好ましい。
これにより、マルテンサイト組織が適度に配向し、弾性率の異方性が好適に低減されうる。
【0018】
なお、RD2/RD1が1.1未満のときは、あるいは、2.5超のときは、加工集合組織が、板面内で弾性率の異方性を促進するように発達することがあるため、十分な異方性を得られないことがある。また、RD1×RD2が400を下回るときは、圧下率が足りないためマルテンサイト組織に十分な歪がかからず、加工集合組織が形成されにくい。
ここで、上記圧下率は、圧延前の板厚と圧延後の板厚の関係で決定される値であり、第1冷間圧延と第2冷間圧延のそれぞれの圧延パス数については特に限定されないが、多くのパス数で圧下していく方法(1回のパスで表面付近しか歪みが入らないので、結晶が回転しにくい。)よりは、少ないパス数で素材内部まで結晶の回転が進行するような条件の方が望ましい。
【0019】
上述の製造方法で得られるチタン合金板は、マルテンサイト組織を有するチタン合金から構成され、バナジウム(V)を6〜18%含むものである。
成分元素としてVを6%以上含め、溶体化処理によって常温でマルテンサイト相単相とすることで、常温での変形、即ち冷間加工が容易になる。一方、Vが18%を超えて含まれると、β相が安定化し溶体化処理後にマルテンサイト組織としにくくなる上、密度が大きくなり、チタン合金本来の特徴である軽量化が図れない。
上記チタン合金板では、その他にもβ安定化元素として、モリブデン(Mo),ニオブ(Nb),タンタル(Ta)等を含有していても良いし、更にはアルミニウム(Al)、スズ(Sn)等を加工性向上のために添加しても良い。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1〜12)
純度99.9%のTi,V,Al,Snの純金属を用い、アルゴン雰囲気中でアーク溶解によって、表1に示す2種類の組成のチタン合金(Ti‐7.68V‐4Sn、Ti‐11.76V‐2Al)に作製し、約90gのインゴットを得た。
【0022】
このインゴットを真空中で1150℃×24時間の均質化処理を施した後、800℃で熱間圧延し、所定の板厚の板を得た。更にベータトランザス温度以上の950℃で1時間の溶体化処理を行い氷水中に焼き入れた。溶体化処理後の合金の組織を光学顕微鏡で観察した結果を図1、図2の写真に示す。これら写真からわかるように、針状のマルテンサイト組織となっていることが確認できた。
【0023】
以上のようにして溶体化処理を終えた試料について、表面の酸化スケールを研削除去した後、表1に示す圧下率で第1冷間圧延を行い、更に第1冷間圧延に対してクロス方向に第2冷間圧延を行い、本例のチタン合金板を得た。
ここで、第2冷間圧延は第1冷間圧延に対して90度方向に実施した。第2冷間圧延後の試料の板厚はすべて1mmとした(第2冷間圧延後に1mm厚となるように、第1冷間圧延前の試料の厚みを調整した。)。
【0024】
(比較例1,2)
1方向のみの冷間圧延とし、第1冷間圧延を行わなかった以外は、実施例1と同様の工程を繰り返して、本例のチタン合金板を得た。
【0025】
<評価方法>
上記各例のチタン合金板について、以下の評価を行った。
【0026】
1.ヤング率
JIS Z 2280に準じて、共振法によりRD2方向を基準として、0度方向と90度方向のヤング率を室温で測定した。この結果を表1に示す。
【0027】
2.引張試験
実施例7、8、比較例2に示すチタン合金板について、JIS Z 2241試験に準じて、引張試験により引張強度を測定した。この結果を表2に示す。
【0028】
【表1】


【0029】
【表2】


【0030】
表1より、本発明の一例である実施例1〜12のチタン合金板は、ヤング率の異方性が15GPa以下であり、一方向圧延の結果である比較例1、2のチタン合金板と比べ、十分に異方性を低減することができた。
【0031】
図3に表1の結果を、横軸にRD2/RD1で、縦軸に弾性率の方向による大きさの違い具合でとって整理したグラフを示したが、RD2/RD1が1.1以上2.5以下の範囲で特に弾性率の異方性が小さいことが確かめられた。
【0032】
また、表2より、実施例6や実施例7のチタン合金板は、比較例2のチタン合金板の一方向圧延の引張試験結果に比べ、引張強度の角度による差が半分以下になっていることも分かった。
【0033】
更に、表1,2より、実施例6のチタン合金板は、板面内で弾性率、強度の異方性が小さい上、強度が1100MPa以上、弾性率は約70GPaであり、高強度と低弾性を併せ持つ面内異方性が小さいチタン合金板であることが確かめられた。これは現在最も多用されているTi‐6Al‐4V合金と比較すると、同程度の強度でありながら弾性率が40GPa程度も低くできたことになる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上に説明した本発明のチタン合金板は、種々の製品に幅広く利用でき、高強度低弾性を付与し、生産性の向上と低コスト化を図ることができる。
代表的には、自動車、産業機械、バイク、自転車、精密機器、家電品、航空宇宙機器、船舶、装身具、スポーツ・レジャ用品、生体関連品、医療器材、玩具等に利用できる。
【0035】
また、防振特性が要求される製品に利用できる。即ち、本発明のチタン合金板は、従来のチタン合金に対してヤング率が低い上、マルテンサイト相又はマルテンサイト変態を利用できるが、当該マルテンサイト相はTi‐NiやMn‐Cuに代表される双晶型の制振合金と同じく双晶変形するので、これら双晶型の制振合金と同様に振動吸収特性が優れる製品が得られる。
【0036】
具体的には、本発明のチタン合金板は、例えば、自動車の車室内こもり音の発生を防止する防振緩衝材として、また、カーオーディオのマウントなどに利用することでビビリ音の解消などに好適に使用することができる。
【0037】
更に、スポーツ・レジャ用品の一種であるゴルフクラブや、バットなど、特にフェース部分にも好適に利用でき、この場合は、その低ヤング率と高強度による薄肉化とによりゴルフボールや、野球ボールの飛距離を相当伸ばし得る。
【0038】
更にまた、本発明のチタン合金板は、例えば、自動車の各種メタルシール、シャシー、ボルト、ゼンマイ、動力伝動ベルト(CVTのフープ等)、ギア、歯車、タイヤの内張り、タイヤの補強材、燃料タンク等の各種容器類等の各種分野の各種製品に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】Ti‐7.68V‐4Sn合金の溶体化処理後の光学顕微鏡写真である。
【図2】Ti‐11.76V‐2Al合金の溶体化処理後の光学顕微鏡写真である。
【図3】弾性率の異方性に対する、RD1とRD2の比の影響を現すグラフである。
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【出願日】 平成19年3月23日(2007.3.23)
【代理人】 【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲


【公開番号】 特開2008−231553(P2008−231553A)
【公開日】 平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願番号】 特願2007−76530(P2007−76530)