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【発明の名称】 形状記憶部材の製造方法
【発明者】 【氏名】桜井 寛

【氏名】宮本 隆司

【氏名】柳田 貞雄

【要約】 【課題】形状記憶合金から成る部材における形状回復力をコストをかけることなく大きなものとすることができる形状記憶部材の製造方法と、このような方法により製造された形状記憶部材を提供する。

【解決手段】形状記憶合金から成る部材1に形状記憶熱処理を施すに際して、例えば赤外線波長レーザのデフォーカスビームのような集中熱源Bを走査させて加熱する。形状記憶合金がNi−Ti系合金の場合には、当該合金から成る部材1に2次加工を施して目的の形状とした後、あるいは770℃以上の温度で再結晶熱処理を施した後に、上記のような集中熱源Bを走査させて加熱する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金から成る部材に形状記憶熱処理を行うに際して、当該部材に集中熱源を走査させて加熱することを特徴とする形状記憶部材の製造方法。
【請求項2】
上記集中熱源として、赤外線波長のレーザのデフォーカスビームを用いることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶部材の製造方法。
【請求項3】
集中熱源による走査を少なくとも1回行ない、上記部材の温度をそのAf点以上に至らしめることを特徴とする請求項1又は2に記載の形状記憶部材の製造方法。
【請求項4】
形状記憶合金から成る部材をその平衡状態図における液相発現温度(℃)の1/2以下の温度に加熱することを特徴とする請求項2に記載の形状記憶部材の製造方法。
【請求項5】
形状記憶合金から成る部材に2次加工を施した後、又は2次加工後、さらに再結晶熱処理を施したあとに、請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の形状記憶熱処理を行うことを特徴とする形状記憶部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の方法によって製造されたことを特徴とする形状記憶部材。
【請求項7】
Ni−Ti系形状記憶合金から成る部材に形状記憶熱処理を行うに際して、当該部材に2次加工を施した後、又は770℃以上の温度で再結晶熱処理を施した後に、集中熱源を走査させて加熱することを特徴とする形状記憶部材の製造方法。
【請求項8】
上記集中熱源として、赤外線波長のレーザのデフォーカスビームを用いることを特徴とする請求項7に記載の形状記憶部材の製造方法。
【請求項9】
集中熱源による走査を少なくとも1回行ない、上記部材の温度を130℃以上に至らしめることを特徴とする請求項7又は8に記載の形状記憶部材の製造方法。
【請求項10】
上記部材を425℃以下の温度に加熱することを特徴とする請求項9に記載の形状記憶部材の製造方法。
【請求項11】
上記部材を200℃以上の温度に加熱することを特徴とする請求項9又は10に記載の形状記憶部材の製造方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1つの項に記載の方法によって製造されたことを特徴とする形状記憶部材。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶部材の製造方法に係わり、より詳細には、レーザビームのような集中熱源を用いた形状記憶合金の形状記憶熱処理と、このような熱処理を施して成る形状記憶部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
形状記憶合金は、Af点(形状回復温度)以上の温度に加熱することによって、加工前の形状に戻る形状記憶効果を有し、Af点を室温以下に設定することによって超弾性合金として機能するものであって、このような合金としては、Ni−Ti系(49〜51at%Ni)を始めとして、例えばCu−Al系、Cu−Zn系など種々のものが実用化されており、上記した超弾性を利用して、各種のばねやクリップ、眼鏡フレームなどに適用されると共に、形状記憶特性を利用して、感温型のファスナーやコネクター、温感スイッチなど、各種のサーマルアクチュエータに適用されている。
こうしたサーマルアクチュエータ用の形状記憶合金において、所定の温度で形状回復して、確実に所望の作動を行わせるためには、アクチュエータに組み込まれたバイアスばねなどの弾性力に打ち勝つだけの大きな回復力が要求されることになる。
【0003】
このような形状記憶合金を用いたアクチュエータに関しては、例えばシリカガラスから成る中実細線あるいは中空細線の外周に、形状記憶合金薄膜を蒸着あるいはスパッタリングによって作成し、研削、研磨あるいは溝切りによって分割した形状記憶合金成膜を作り、これらの形状記憶合金薄膜に配線して複数の駆動要素を作製する技術の提案がある(特許文献1参照)。
【0004】
また、板バネ、クリップファスナー、コネクター等に用いられる形状記憶合金部材に関しては、例えばNi−Ti系形状記憶合金板材に、完成品の形状記憶合金部材と同じ形状にまで成形する二次加工を施し、この二次加工以前または二次加工と同時に200〜400℃の温度で低温熱処理を行った後、例えばレーザ加熱、直接通電加熱及び赤外線加熱のいずれかの方法によって、部分的に400〜700℃の温度に急速加熱し、次いで急速冷却処理を施すことが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−234846号公報
【特許文献2】特開平09−291347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の形状記憶合金薄膜については、従来のコイルによる全方位屈曲型アクチュエータに較べて、小型、安価、大量に作製することができるにしても、蒸着やスパッタリングによって作製していることから、厚肉のアクチュエータ駆動素子を作成しようとするときには、作製に時間がかかり、コストが嵩むという課題がある。また、形状記憶熱処理については、通常は450℃以上の温度で熱処理する旨の記載があるに過ぎなく、具体的な処理方法に関する記載はない。
【0006】
一方、上記特許文献2に記載された技術は、板材に打ち抜きや切断などの二次加工を施した形状記憶合金部材における繰り返し特性や寿命が短いという問題に対処したものであって、アクチュエータとしての形状回復力の向上を課題とするものではなく、赤外線域のレーザを照射することによって、高い応力がかかる部位の繰り返し寿命を向上させることが記載されており、繰り返し使用する板バネ、クリップファスナー、コネクターなどに適用した場合の効果は大きいとしても、形状記憶合金が元の形状を回復する際に生じる形状回復力の向上に関しては開示がない。
【0007】
本発明は、従来の形状記憶合金における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、形状記憶合金から成る部材における形状回復力をコストをかけることなく大きなものとすることができる形状記憶部材の製造方法と、このような方法により製造された形状記憶部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、形状記憶合金から成る部材に形状記憶熱処理を施すに際して、レーザビームのような集中熱源を部材に照射しながら走査させるようにすることによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の形状記憶部材の製造方法においては、形状記憶合金から成る部材に形状記憶熱処理を施すに際して、集中熱源を走査させて加熱するようにしたことを特徴としている。
また、Ni−Ti系形状記憶合金から成る部材に形状記憶熱処理を行うに際しては、当該部材に2次加工を施した後、又は770℃以上の温度で再結晶熱処理を施した後に、集中熱源を走査させて加熱することを特徴とする。
【0010】
そして、本発明の形状記憶部材は、本発明の上記方法によって製造されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、形状記憶合金部材に形状記憶熱処理を施すに際して、例えばレーザビームのような集中熱源を走査させて加熱するようにしたことから、部材の全体を加熱する処理に較べて、短時間で省エネルギな熱処理とすることができ、しかも大きな形状回復力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の形状記憶合金部材と、その製造方法について、さらに詳細かつ具体的に説明する。
【0013】
本発明においては、上記したように、形状記憶合金に対する形状記憶熱処理に際して、集中熱源を走査することによって形状記憶合金から成る部材を加熱するようにしており、部材全体を昇温して形状記憶熱処理を行うよりも省エネルギな熱処理となると共に、従来の形状記憶合金に比べて大きな回復力が得られることになる。
【0014】
このような大きな形状回復力が得られることは、熱弾性型マルテンサイトによる形状記憶合金では、マルテンサイト変態と高温母相への逆変態が部材全体の温度上昇・降下によって生じ、これに伴う変態・逆変態が材料自体の熱膨張・収縮、あるいは変態に伴う結晶の密度変化によって複雑な拘束下で行われるのに対し、集中熱源を走査させることによって、熱源部分が移動する方向に選択的に逆変態と変態によって順に形状記憶処理が行われることになり、従来よりも低い温度でも部分的な変態点以上への昇温が行われることから、全体を熱処理して形状記憶処理を行うよりも、方向性を持った形状記憶効果に有利な合金組織を与えることができるものと考えられる。
【0015】
このとき、上記した集中熱源としては、短時間処理、省エネという観点から、赤外線波長のレーザのデフォーカスビームとすることが望ましい。
また、このような集中熱源による走査は、少なくとも1回行い、熱処理対象部材をAf点以上の温度に加熱するようにすることが好ましい。
【0016】
また、集中熱源照射による熱処理対象部材の加熱温度としては、当該形状記憶合金の平衡状態図における液相発現温度(℃)の1/2以下の温度に加熱することが望ましい。
【0017】
また、本発明の形状記憶部材の製造方法においては、上記のような形状記憶熱処理を形状記憶合金から成る部材に2次加工を施した後、あるいは上記2次加工の後、さらに再結晶熱処理を施したあとに、施すことが望ましい。
【0018】
本発明の形状記憶部材の製造方法において、形状記憶合金として、Ni−Ti系合金を用いる場合には、当該Ni−Ti系合金から成る部材に2次加工を施した後、あるいは770℃以上の温度で再結晶熱処理を施した後に上記のような集中熱源を走査させて加熱するようになすことができる。
また、このときの走査処理は、1回以上行うことによって、部材を130℃以上に加熱するようになすことが望ましい。
【0019】
さらに、部材の加熱温度としては、200℃以上、さらには425℃以下とすることがより望ましい。
なお、Ni−Ti系形状記憶合金の形状記憶熱処理における加熱温度が130℃未満では、当該部材を所望の形状に形状記憶させることができず、425℃を超えると、形状回復時の回復力が低下する傾向があり、アクチュエータとしての駆動力が得られなくなることがある。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
(1)形状記憶熱処理
(実施例1〜4)
図1に示すように、Ni−Ti系形状記憶合金(Ni49.5%のNi−Ti合金)から成る板厚0.5mmの板状部材1を真空炉中で800℃×1時間の再結晶熱処理を施した後、所望の記憶形状に拘束する治具(図示せず)に固定し、伝送用の光ファイバー2を介して、図外のレーザ発振機に接続されたレーザ照射ヘッド3から、YAGレーザを部材1の表面上で焦点をぼかしたデフォーカスビームBとして照射し、それぞれの温度に加熱することによって、形状記憶熱処理を行った。
このとき、加熱部分の酸化を防止するため、ガスノズル4からアシストガスとしてアルゴンガスを供給することによって、アルゴン雰囲気中で加熱を行うようにした。
【0022】
なお、レーザ出力は20KWとし、デフォーカスしたレーザビームBの径を5mmとすると共に、走査速度を0.025m/秒〜0.0833m/秒の範囲で変えることによって、形状記憶熱処理温度を変化させた。
【0023】
また、部材1の温度上昇を観測するためには熱電対を使用したが、レーザビームBの照射部分では、レーザビームBが熱電対5を直接加熱してしまい、正確な温度計測ができないため、図2に示すように、部材1の裏面に熱電対5を設置して温度計測を行うことにした。
なお、予備実験として、レーザビームBから外れた照射面側とその裏面、前後部分などに熱電対を設けて各部位の温度計測を行った結果、部材1の厚さが薄いため、試料温度の板厚方向の温度勾配は、ほとんど無視できる程、小さいことが確認された。
【0024】
(比較例1〜2)
上記実施例と同じNi−Ti系形状記憶合金から成る板厚0.5mmの板状部材に同様の再結晶化熱処理を施した後、同様の拘束治具に固定し、真空炉中で400℃及び800℃でそれぞれ 時間の形状記憶熱処理を施し、これら比較例の形状記憶部材とした。
【0025】
上記実施例及び比較例によって形状記憶熱処理を行った部材に対して、室温において、インストロン型引張り試験機により5%の伸びひずみを与えたのち、当該引張り試験機から一旦外し、図3に示すように、温度測定用の熱電対5を取り付けると共に、通電による加熱手段10に接続した状態で、再び引張り試験機にチャックした。
そして、通電加熱によって部材温度を200℃まで昇温させることによって、形状記憶合金が形状記憶時の形状に回復するときに発生する力をロードセルで測定し、測定した荷重を5%引張りひずみを導入する前の部材断面積で除した応力を形状記憶による回復力として評価した。
【0026】
レーザ走査による形状記憶熱処理温度と上記定義に基づく回復力の関係を真空炉加熱による比較例の結果と併せて図4に示す。
【0027】
この結果、真空炉中400℃で形状記憶熱処理を行った部材と、同じく真空炉中800℃で形状記憶熱処理を行った部材の形状回復力がそれぞれ約300MPaであるのに対して、デフォーカスビームにより、130℃、230℃、425℃、550℃の各最高到達温度で熱処理した部材の回復応力を比較すると、デフォーカスビーム加熱による形状記憶熱処理を施した部材の形状回復力の方が大きな値を示しており、その大きさは炉中熱処理の場合に比べて1.49倍から1.9倍になっている。
このような大きな回復力は薄膜以外では得られた例が無く、例えば、230℃といった低温でも十分大きな形状回復力を得られることが判明した。
【0028】
すなわち、Ni‐Ti系形状記憶合金の形状記憶熱処理温度は、通常400℃近傍で行われるが、デフォーカスビーム走査による最高到達温度が130℃のときの回復力が440MPaであり、同じく最高到達温度が230℃及び425℃のときの回復力がそれぞれ570MPa及び560MPaであった。
一方、デフォーカスビーム走査による最高到達温度が555℃の場合の回復力は370MPaとなり、通常の形状記憶合金の回復力に比べて20%程度の増加にとどまる結果となった。
【0029】
以上示したように、形状記憶部材の製造方法における形状記憶熱処理を集中熱源の走査によって部材を加熱するようにし、例えば形状記憶熱処理の集中熱源を赤外線波長のレーザのデフォーカスビームを用いることとし、この集中熱源を用いて形状記憶合金のAf点以上、平衡状態図における液相発現温度の1/2以下、例えばNi‐Ti系形状記憶合金の場合には、130℃以上425℃以下の範囲の温度で走査熱処理を行うことによって、従来にない大きな回復力を得ることができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の形状記憶部材の製造方法におけるレーザビーム照射による形状記憶熱処理要領を示す斜視図である。
【図2】レーザビーム走査による部材の最高到達温度の測定要領を示す斜視図である。
【図3】形状記憶部材の形状回復時に発生する回復力の測定要領を示す概略図である。
【図4】本発明による形状記憶部材の形状回復力を比較例の回復力と較べて示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1 部材(形状記憶合金)
B レーザビーム
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【出願日】 平成18年12月25日(2006.12.25)
【代理人】 【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲


【公開番号】 特開2008−156706(P2008−156706A)
【公開日】 平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願番号】 特願2006−347234(P2006−347234)