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【発明の名称】 アルミニウム合金シリンダブロックの製造方法
【発明者】 【氏名】三阪 佳孝

【氏名】高岡 徳義

【氏名】山縣 裕

【氏名】栗田 洋敬

【要約】 【課題】アルミニウム合金製のシリンダブロックにおいて、別途シリンダライナを製作することなくシリンダボアをそのままシリンダとして使用し、効率的な熱処理工程により必要なシリンダ内面の硬度を確保する。

【解決手段】Si:15〜25%、Cu:2.0〜4.0%、Mg:0.2〜1.0%、Fe:0.2〜1.0%、残部Alからなる合金を鋳造してシリンダブロックとし、シリンダブロックのシリンダボア内にコイルを挿入して1回目の誘導加熱により490ないし540℃に加熱し、0ないし60秒保持した後急冷することにより溶体化処理を行ない、さらにシリンダボア内にコイルを挿入して2回目の誘導加熱により190ないし260℃に加熱し、0ないし3600秒保持する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金のシリンダブロックを製造する方法において、質量%で、Si:15〜25%、Cu:2.0〜4.0%、Mg:0.2〜1.0%、Fe:0.2〜1.0%、残部は不可避的不純物の他はAlからなる合金を鋳造してシリンダブロックとし、シリンダブロックのシリンダボア内にコイルを挿入して1回目の誘導加熱により490ないし540℃に加熱し、0ないし60秒保持した後急冷することにより溶体化処理を行ない、さらにシリンダボア内にコイルを挿入して2回目の誘導加熱により190ないし260℃に加熱し、0ないし3600秒保持することを特徴とするアルミニウム合金シリンダブロックの製造方法。
【請求項2】
合金はさらにP:0.01%以下を含有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金シリンダブロックの製造方法。
【請求項3】
合金はさらにNi:0.2〜2.0%を含有することを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム合金シリンダブロックの製造方法。
【請求項4】
誘導加熱のうち、少なくとも2回目の誘導加熱においてはコイルの位置を固定した状態で加熱することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアルミニウム合金シリンダブロックの製造方法。
【請求項5】
2回目の誘導加熱の後、シリンダブロックを保温装置に収容することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のアルミニウム合金シリンダブロックの製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム合金鋳物による自動車等のエンジンのシリンダブロックの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車やオートバイ等のエンジンのシリンダブロックとしてアルミニウム合金の鋳造品が近年使用されるようになってきている。このようなアルミニウム合金製のシリンダブロックにおいて、耐摩耗性が要求されるシリンダボアの部分については鋳鉄製や鋼製のシリンダライナを使用し、シリンダブロックの鋳造時に鋳ぐるむ方法が一般に使用されている。さらにはシリンダブロックをすべてアルミニウム合金とする方法として、ライナについても耐摩耗性を考慮したアルミニウム合金を使用する技術もある。
【0003】
特開2003−33859には上記のようなアルミニウム合金製のライナを使用する技術が記載されている。この技術においてはアルミナと時効硬化型アルミニウム合金との複合材のライナを製作し、たとえば510〜530℃に2時間加熱したのち水冷する溶体化処理を行ない、このライナをシリンダボアの個所に置いてアルミニウム合金を鋳造することにより鋳ぐるんでシリンダブロックを製造する。その後シリンダブロックに対してたとえば180〜230℃に4時間保持する人工時効処理することにより、シリンダブロック本体についてはT5処理、ライナについてはT6処理が行なわれることになり、シリンダブロックについて必要な強度を確保すると共に、ライナの硬度を著しく上昇させることができる。
【0004】
上記のように全体をアルミニウム合金製としたシリンダブロックにおいても耐摩耗性が要求されるシリンダボアの部分についてはシリンダライナとして別途製造しておいて、シリンダブロック本体の鋳造時に鋳ぐるむのが普通である。またアルミニウム合金を硬化させるための熱処理としては溶体化処理をしたのち人工時効処理するT6処理が最も効果が確実であるが、シリンダブロック全体を加熱炉に入れて溶体化温度や時効温度に加熱するのは手間がかかる工程となっている。前記の特開2003−33859の技術は、高温の加熱を要する溶体化処理についてはシリンダライナだけシリンダブロックとは別個に行なうことにより、この問題を解決しようとするものである。
【特許文献1】特開2003−33859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特開2003−33859の技術はシリンダライナとして耐摩耗性を確保するためにアルミナを含有させているが、このような硬質なセラミックスの粒子を含有させると、摩擦の相手であるピストンリングを磨耗させる、いわゆる攻撃性の問題を生ずるおそれがある。またシリンダライナを別途製作して鋳ぐるむために作業工程が複雑になる。本発明は上記のような従来技術に鑑み、別途シリンダライナを製作することなくシリンダブロックのシリンダボアをそのままシリンダとして使用し、効率的な熱処理工程により必要なシリンダ内面の硬度を確保する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記課題を解決するものであって、アルミニウム合金のシリンダブロックを製造する方法において、質量%で、Si:15〜25%、Cu:2.0〜4.0%、Mg:0.2〜1.0%、Fe:0.2〜1.0%、必要に応じてさらにP:0.01%以下、Ni:0.2〜2.0%の一方または両方を含有し、残部は不可避的不純物の他はAlからなる合金を鋳造してシリンダブロックとし、シリンダブロックのシリンダボア内にコイルを挿入して1回目の誘導加熱により490ないし540℃に加熱し、0ないし60秒保持した後急冷することにより溶体化処理を行ない、さらにシリンダボア内にコイルを挿入して2回目の誘導加熱により190ないし260℃に加熱し、0ないし3600秒保持することを特徴とするアルミニウム合金シリンダブロックの製造方法である。
ここにおいて、誘導加熱のうち、少なくとも2回目の誘導加熱においてはコイルの位置を固定した状態で加熱すること、また2回目の誘導加熱の後、シリンダブロックを保温装置に収容することも特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シリンダブロックをアルミニウム合金で製造するに当たりSi量を特に高くするなど耐摩耗性を高める組成としたので、ライナを別途用意することなく良好な耐摩耗性が得られる。また材料の強度向上と寸法安定化をのための溶体化処理および時効処理を高周波誘導加熱で行なうので、従来の炉加熱に比べて小さな設備で短時間に処理でき、生産コストの低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明によるシリンダブロックはアルミニウム合金を鋳造し、その後熱処理することによって製造される。アルミニウム合金材としては溶湯の流動性が良く充填性が良好なAl−Si系で、耐摩耗性を良好にするためSi含有量を共晶点を超えて特に高くする。さらにAl相の強度を確保するためにCuおよびMgを添加する。鋳造方法としては作業能率が良好なダイカスト法が一般に使用されるが、減圧雰囲気中で行なう真空ダイカストやキャビティやスリ−ブ内に酸素を満たして行なう酸素置換式無孔性ダイカストなどが好ましい。また低圧鋳造法や溶湯鍛造法なども使用できる。以下に本発明に使用するアルミニウム合金の各成分について説明する。
【0009】
Siは耐摩耗性を向上させると共に合金の熱膨張係数を小さくして高温下における寸法増加を抑制する。また溶湯の流動性や鋳型充填性を向上させて鋳造欠陥の発生を防止する。さらにMgを添加することにより析出硬化に有効なMg2Siを生成する。Al−Si 系の共晶点は12.6質量%(以下、%という)であるが、本発明においてはSi量をこれよりできるだけ多くすることにより初晶のSiを多量に晶出させ、硬質の粒子を母相に分散させることにより耐摩耗性を向上させる。Si量が15%未満では初晶のSi粒子の量が不足し、耐摩耗性が不充分である。一方Si量が25%を超えると製品の材質が脆くなる。したがってSi量は15〜25%とする。
【0010】
CuはAl相を固溶強化すると共に高温強度の向上に有効である。またCu2Al相の 析出による硬化が生ずると共に、さらにMgが共存することによってさらに硬化の作用が著しいCu2AlMg相も析出する。Cu量が2.0%未満では高温強度が不足すると共 に時効硬化も不充分となる。一方4.0%を超えても効果が飽和すると共にポロシティなどの鋳造欠陥が発生し易くなる。したがってCu量は2.0〜4.0%とする。
【0011】
MgはAl相を固溶強化すると共に靱性を向上させ、またMg2Siを析出させること により硬化させる。Mgが0.2%未満ではその効果が不充分であり、1.0%を超えると溶湯の流動性が悪化して鋳造欠陥が発生し易くなる。したがってMg量は0.2〜1.0%とする。
【0012】
FeはAl3FeやAlFeSiなどの金属間化合物として晶出し、高温強度を向上さ せる。またダイカスト鋳造などにおける鉄の鋳型に対する鋳物の溶着を低減する効果もある。Feが0.2%未満ではその効果が不充分であり、1.0%を超えると晶出する金属間化合物が粗大になって靱性を害する。したがってFe量は0.2〜1.0%とする。
【0013】
上記成分の残部はAlおよび不可避的不純物であるが、必要に応じてPを0.01%以下添加してもよい。Pは微量の添加で初晶Siの粗大化を防止し、微細なSi粒子を母相中に多数分散させることにより靱性を向上させることができる。しかしP量が0.01%を超えると鋳造組織が不均一となる。また必要に応じてNiを0.2〜2.0%添加してもよい。NiはAl3NiやAlCuNiを形成することにより高温強度を増大させる。 Ni量が0.2%未満ではその効果が少なく、2.0%を超えると靱性が低下する。
【0014】
本発明は上記のような成分の鋳物に対して所定の熱処理を行なうことにより、溶質元素の析出を制御し、材料の強度向上と寸法安定化を実現する。熱処理はまず溶体化処理を行なうが加熱方法として短時間で所定温度に昇温できる高周波誘導加熱を適用する。溶体化処理の加熱は従来は炉加熱で、溶体化処理温度での保持時間は3時間以上にするのが一般的であるが、本発明においては昇温後の温度保持時間を短くすることにより炉加熱よりもはるかに高能率の作業ができる。
【0015】
溶体化処理は鋳造時に析出した溶質元素を短時間で充分に母材に固溶させるためにできるだけ高温で処理することが好ましいが、温度が高すぎると共晶が融解して材料表面に膨れ等の欠陥が発生する。本発明においては溶体化処理の温度は490ないし540℃とし、この温度に0ないし60秒保持した後急冷する。上記溶体化処理温度は炉加熱の場合に適用されるべき温度、たとえば480℃より高いものであって、これにより上記のような短時間の加熱であっても、その後に時効処理をしたときの硬さを炉加熱により溶体化した場合と同等にすることができる。溶体化処理の温度が490℃未満では時効後に充分な硬さが得られず、540℃を超えると融解により膨れ等の欠陥が発生するおそれがある。
【0016】
溶体化処理温度での保持時間は0ないし60秒が適当であって、保持時間が0、すなわち所定温度に昇温後直ちに焼入れすることもできる。一方、60秒より長くしても溶体化処理後に時効処理をしたときの硬さが格別向上せずエネルギーの無駄である。好ましくは保持時間は30秒以下が適当である。上記のように溶体化処理温度にした後、水または温水により焼入れして過飽和固溶体を形成するが、本発明で規定するCuの含有量のうちCuが多い範囲の材料の場合は、焼割れの防止のため温水焼入れが好ましい。なお高周波誘導加熱によって溶体化処理温度に達して上記保持時間(0秒を含む)が経過したら、加熱電源を切った状態である時間放置してから焼入れしても良い。この放置する時間は先に述べた炉加熱による溶体化処理温度より低温まで冷却しない範囲にする必要がある。
【0017】
誘導加熱はシリンダの内面と所定の間隔を有するような径に成形された高周波誘導加熱コイルをシリンダブロックのボア内に挿入し、通電することにより行なう。高周波誘導加熱コイルの長さをシリンダのボア部の長さより短くして移動焼入れする方法も適用できるが、できるだけ能率よく加熱するためには高周波誘導加熱コイルをシリンダのボア部の長さとほぼ同じ長さにし、コイルを固定してシリンダボアの全長を同時に加熱した後、スプレーなどで冷却する一発焼入れが好ましい。
【0018】
上記のようにシリンダのボア部の長さに対応した長さの高周波誘導加熱コイルを使用する場合、部分的に加熱を強化することもできる。たとえばシリンダボアのある長さ位置のある方向、たとえば0度の方向の個所が形態上熱の吸収が大きく昇温が遅い場合には、この部分だけコイルのピッチを小さくして強く加熱されるようにし、0度の方向のコイルの残りの長さ部分は均一のピッチにすると共に、180度の方向はコイル全長に亘って均一のピッチにするといったこともできる。またシリンダ内面の昇温が遅い個所に対向するコイルの部分に珪素鋼板などの磁性材料を設けて、この個所が強く加熱されるようにすることもできる。
【0019】
焼入れを行なったシリンダブロックは次いで時効処理を行なう。時効処理はT6処理として加熱することにより行ない、Cu2Al相、Mg2Si相、Cu2AlMg相などを析 出させて硬度を上昇させる。また時効処理により永久伸びが発生し、シリンダブロックを使用中にエンジンの温度によって寸法変動が生ずるのを軽減することができる。
【0020】
時効処理は190ないし260℃に加熱し、0ないし3600秒保持するが、先に述べた溶体化処理のための1回目の誘導加熱と同様に、2回目の誘導加熱により行なう。炉加熱ではたとえば200℃に加熱する場合、この温度に達するまでに1時間程度かかるため時効温度における保持時間を充分長くとり、数時間以上掛けて時効硬化が進行するような温度条件にしないと昇温途中で過時効になって硬度が低下するといった問題が生ずる。したがって炉加熱で時効処理をする場合特に長時間を要することになる。
【0021】
一方、本発明のように誘導加熱により時効処理をすれば、短時間で時効温度に達するので昇温途中で過時効になるおそれが無く、時効温度での保持時間を容易に制御でき短時間で処理できる。このため時効処理の時間を短かくするのに対応して、温度を炉加熱で時効処理する場合よりも高くする。時効処理の温度が190℃未満では所定硬度に達するまでに長時間を要し、本発明に規定する処理温度での保持時間では硬度が不充分になる。一方260℃を超えると短時間に過時効になり硬度が低下するため、処理時間の制御が困難になる。したがって時効処理温度は190ないし260℃とする。
【0022】
また時効処理温度での保持時間が3600秒を超えると作業時間が長くなり過ぎる。したがって時効処理温度での保持時間は0ないし3600秒とし、この時間範囲において時効処理温度が高いときには短時間、低いときには長時間として過時効にならないようにする。なお保持時間は作業能率などの事情が許すならば上記範囲において長時間の条件で行なう方が高い硬度が安定して得られ好ましい。
【0023】
誘導加熱は溶体化処理におけると同様に高周波誘導加熱コイルをシリンダブロックのボア内に挿入し、通電することにより行なう。先に溶体化処理に関しても述べたように、高周波誘導加熱コイルの長さをシリンダのボア部の長さより短くしてコイルを移動しつつ行なう移動加熱する方法も適用できるが、シリンダのボア部の長さとほぼ同じ長さのコイルを固定してシリンダボア部の全長を同時に加熱する、いわば一発加熱が好ましい。特に時効処理の場合には溶体化処理よりも保持時間を長くとることが望まれるので、溶体化処理は移動加熱(移動焼入れ)の場合でも時効処理の方は一発加熱が好ましい。先に述べたようにシリンダブロックの形態上熱の吸収が大きく昇温が遅い個所に対して、コイルの形態を変えたり磁性材料を設けることにより他の個所より強く加熱する方法も一発加熱の場合には行なえる。
【0024】
2回目の誘導加熱の保持温度で経過した後の冷却は、時効処理の経過に応じて水冷や放冷など種々の方法で行なえる。また高周波誘導加熱装置とは別に設置された保温装置に、時効処理温度で保持した後のシリンダブロックを移送して時効処理時間を実質的に延長させることもできる。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
成分がSi:20.3%、Cu:2.5%、Mg:0.52%、Fe:0.47%、残部Alからなる合金をシリンダブロックの形状に鋳造した。このシリンダブロックのボアの個所から複数の熱処理用試験片を切出し、そのそれぞれについて条件を変えて熱処理を行なった。
【0026】
溶体化処理の条件による影響を調べるために温度と時間を変えて溶体化処理を行ない、その後一定の条件で時効処理したのち硬度を調べた。時効処理の条件は誘導加熱により60秒で200℃に加熱して3600秒保持したのち空冷するものである。図1は溶体化温度での保持時間は一定で溶体化温度を変化させた場合の時効処理後の硬さを示すグラフであるが、溶体化処理直後の硬さも併せて示している。グラフの各データは6回測定の平均値とばらつきの範囲を示している。溶体化処理は高周波誘導加熱を60秒行なうことにより所定の溶体化温度にしてその温度に15秒間保持し、その後水冷することにより行なった。図1によると溶体化温度は本発明の範囲内でも比較的高い方が時効処理後の硬度が高いことが判る。また図2は溶体化温度は523℃で一定にして保持時間を0秒から120秒まで変化させたときの硬度を示すグラフである。溶体化温度がこのように比較的高い条件では保持時間は長くしても時効処理後の硬度が特に向上することはないことが判る。
【0027】
時効処理の条件による影響を調べるため、一定の条件で溶体化処理したのち時効処理の温度と時間を変えて硬度を調べた。溶体化処理は高周波誘導加熱を60秒行なうことにより525℃にしてその温度に15秒間保持し、その後水冷することにより行なった。図3と図4は時効処理での保持時間は一定で温度を変化させた場合の硬度を示すグラフである。時効処理は高周波誘導加熱を60秒行なうことにより所定の時効温度にし、図3の場合は直ちに空冷、図4の場合はその温度に1800秒間保持してその後空冷した。硬度HRBの平均値が70以上で最低値が65以上を良好な範囲の目安とすると、保持時間なしの図3では260℃の場合に良好な範囲に入っている。一方、保持時間1800秒の図4では200℃の場合に良好な範囲に入っており、これより高温になると過時効になることがわかる。なお図4においてBの記号をつけた260℃における硬度上昇は、200℃前後での時効硬化におけるものとは別の析出相によるものと考えられる。
【0028】
また図5は時効温度は200℃で一定にして保持時間を0から3600秒まで変化させたときの硬度を示すグラフである。図4と図5においてAの記号を付けたデータは同じものであるが、時効温度が200℃では保持時間が900秒でも硬度HRBの平均値が70以上で最低値が65以上の良好な範囲に入っている。しかし保持時間が長い方が硬度が高くなり、2700秒以上の保持時間では硬度HRBの平均値が75以上で最低値が70以上の高い硬度が得られる。なお図3ないし図5における各データはビッカース硬さ(HV0.5)による15回の測定値をロックウェル硬さ(HRB)に換算し、平均値とばらつきの範囲を示している。
【0029】
(実施例2)
表1の組成の各種アルミニウム合金溶湯を溶製した。各アルミニウム合金溶湯を750℃から30mm径、150mm長さの丸棒に鋳造した。得られた鋳塊に対して高周波誘導加熱を60秒行なうことにより525℃にしてその温度に15秒間保持し、その後60℃の温水に焼入れすることにより溶体化処理を施した。さらに誘導加熱により60秒で200℃に加熱して1800秒保持したのち空冷することにより時効処理を行なった。
【0030】
【表1】


【0031】
時効処理された試験片の表面近傍から引張試験片を切出し、180℃で引張試験を行なった。また潤滑剤を使用しての常温での摩耗試験を、相手材を鋳鉄として加重50kgf/mm2、摺動速度0.3mm/秒の条件で、摺動距離を3kmとして行なった。これら の結果も表1に併せて示す。
【0032】
番号1から4までの本発明の合金成分の試料はいずれも良好な高温引張試験結果と摩耗試験結果を示している。これに対し番号5の試料はSiが低いので摩耗試験結果が不満足であった。また番号6の試料はSiが高いので引張試験の伸びが小さく靱性が劣る結果になった。
【0033】
番号7の試料はCuが低いので引張試験の強度が低かった。また番号8の試料はCuが高いので鋳造時にポロシティが発生したので、その後の試験を中止した。番号9の試料はMgが低いので引張試験の強度が低かった。また番号10の試料はMgが高いので鋳造時に湯境の欠陥が発生し、その後の試験を中止した。
【0034】
番号11の試料はFeが低いので引張試験の強度が低かった。また番号12の試料はFeが高いので引張試験の伸びが小さく靱性が劣る結果になった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】溶体化処理温度と溶体化処理後の硬度および時効処理後の硬度との関係を示すグラフ
【図2】溶体化処理温度での保持時間と時効処理後の硬度との関係を示すグラフ
【図3】時効処理温度と時効処理後の硬度との関係を示すグラフ(保持時間なし)
【図4】時効処理温度と時効処理後の硬度との関係を示すグラフ(保持時間1800秒)
【図5】時効処理温度での保持時間と時効処理後の硬度との関係を示すグラフ
【出願人】 【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
【出願日】 平成18年11月24日(2006.11.24)
【代理人】 【識別番号】100094972
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康弘


【公開番号】 特開2008−127665(P2008−127665A)
【公開日】 平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願番号】 特願2006−316554(P2006−316554)