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【発明の名称】 高温制振マンガン基合金とその製造方法
【発明者】 【氏名】殷 福星

【氏名】岩崎 智

【氏名】佐久間 信夫

【氏名】檜原 高明

【氏名】坂口 琢哉

【要約】 【課題】マンガン基合金の相変態温度を100℃以上に上げる手法を開発し、100℃以上の高温環境下において制振機能が作動するマンガン基合金とその製造方法を提供することを課題とする。

【解決手段】銅15〜25重量%、マンガン60重量%以上を含有し、ニッケル、鉄、およびアルミニウムのうちの1種類以上を、ニッケル0〜7重量%、鉄0〜5重量%、アルミニウム0〜5重量%の範囲内で含有し、不可避的不純物が含有されてもよいマンガン基合金の製造方法において、原料金属を溶融混合し、冷却させて鋳造するに際し、冷却工程における1150℃から900℃までの冷却時の平均冷却速度を0.05〜0.5℃/秒の範囲内とし、350〜650℃の範囲内の温度で20〜50時間の範囲内の時間の時効処理を施す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅15〜25重量%、マンガン60重量%以上を含有し、ニッケル、鉄、およびアルミニウムのうちの1種類以上を、ニッケル0〜7重量%、鉄0〜5重量%、アルミニウム0〜5重量%の範囲内で含有し、不可避的不純物が含有されてもよいマンガン基合金の製造方法において、原料金属を溶融混合し、冷却させて鋳造するに際し、冷却工程における1150℃から900℃までの冷却時の平均冷却速度を0.05〜0.5℃/秒の範囲内とし、350〜650℃の範囲内の温度で20〜50時間の範囲内の時間の時効処理を施すことを特徴とするマンガン基合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって得られた、100℃の温度環境において、損失係数が0.03以上であることを特徴とするマンガン基合金。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、制振機能の作動温度の上限が100℃以上の高温制振マンガン基合金とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンガン基合金は、安定な制振機能と優れた力学的特性を有することから、実用化に最も近い制振合金として注目され、その実用化に向けての研究開発が盛んに進められている。例えば、マンガン基合金の添加金属元素の組成を最適化してその加工性を改善すること(特許文献1)と、合金強度を向上させるために硬質第二相粒子を添加すること(特許文献2)、成型加工性と熱処理前後の寸法精度を改善するための熱処理(特許文献3)、マンガン基双晶型制振合金を高温加熱し、その後定速徐冷する熱処理方法(特許文献4)などが提案されている。
【0003】
マンガン基合金の制振機能については、合金の双晶組織に由来すると考えられている。このことから、マンガン基合金の制振機能の作動温度範囲は、双晶組織が形成される温度範囲に一致すると考えられる。そして、双晶組織が形成される温度範囲の上限温度は、マンガン基合金の高温γ相から双晶を呈する低温γ相に相変態する臨界温度(相変態温度)であるので、マンガン基合金の制振機能の作動温度範囲の上限は、マンガン基合金の相変態温度に一致すると考えられる。現に、マンガン−銅合金では相変態温度以上の温度範囲では制振機能はほとんど作動せず、相変態温度より低い温度範囲で制振機能が安定に作動することがわかっている。従って、マンガン基合金の相変態温度を調整することにより、その制振機能の作動温度の上限値をコントロールすることができると考えられる。ただ、一般にマンガン基合金の相変態温度は、その合金組成(マンガンの含有量の増量など)や製造時の熱処理工程における条件によって調整されるが、マンガンの含有量を増量させると合金の鋳造性、加工性が悪化するので実用的ではない。そこで、一般には製造時の熱処理工程における条件によって相変態温度が調整される。すなわち、製造時の熱処理工程における条件によって、マンガン基合金の制振機能の作動温度範囲の上限値をコントロールすることができると考えられる。
【0004】
制振合金は、自動車、航空機などのエンジンや発電プラントなどの分野で大きなニーズがあると言われているが、これらの分野で利用されるためには、100℃以上の高温環境下において制振機能が作動しなければならない。しかしながら、従来の制振性のマンガン基合金として知られているソノストン合金(Mn-37Cu-4Al-3Fe-2Ni重量比)やインクラ
ミュート合金(Cu-45Mn-2Al重量比)などのマンガン基合金は、相変態温度が100℃よ
りも低いため、このような高温環境下では制振機能は作動しない。また、従来のマンガン基合金の製造技術においては、相変態温度を上げるために高温環境下で長時間エージングする時効処理が行われていたが、例えば特許文献1に記載のマンガン基合金(Mn-20Cu-5Ni-2Fe原子比)を400℃の環境下で200時間の時効処理を行っても相変態温度は10
0℃を超えないことがわかっている。このように従来のマンガン基合金の製造技術では、相変態温度を100℃以上に上げることができず、100℃以上の高温環境下において制振機能が作動するマンガン基合金を製造することができなかった。
【特許文献1】特許第2849698号公報
【特許文献2】特許第3345640号公報
【特許文献3】特開2003−226951号公報
【特許文献4】特開2005−23362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の通りの背景から従来の問題点を理解し、マンガン基合金の相変態温度を100℃以上に上げることができ、100℃以上の高温環境下において制振機能を発現するマンガン基合金とその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、マンガン基合金の合金組織を制御することにより、マンガン基合金の相変態温度を向上させることができる点に着目し、鋭意検討を重ねた。その結果、マンガン基合金の内部に、高マンガン組成部を分布させることにより、マンガン基合金の相変態温度を100℃以上に上げることができることを突き止めた。従来、マンガンの含有量を増加させると相変態温度が上昇することは知られていたが、合金のマンガン含有量が増えると鋳造性や加工性が低下するので、実用性のない合金組成となっていた。しかしながら、合金全体のマンガン含有量を増やすことなく、局所的にマンガンの含有量の多い部分を生成させることにより、合金の鋳造性と加工性を維持しつつ合金の相変態温度を上げることができることを、本発明者らは見出したのである。マンガン基合金の相変態温度以下の温度では、双晶組織が維持されて制振機能が作動するので、マンガン基合金の相変態温度を100℃以上に上げることにより、制振機能の作動温度の上限値が100℃以上のマンガン基合金が得られるのである。
【0007】
本発明は、以上のとおりの知見を踏まえて完成されたものであって、以下のことを特徴としている。
【0008】
第1:銅15〜25重量%、マンガン60重量%以上を含有し、ニッケル、鉄、およびアルミニウムのうちの1種類以上を、ニッケル0〜7重量%、鉄0〜5重量%、アルミニウム0〜5重量%の範囲内で含有し、不可避的不純物が含有されてもよいマンガン基合金の製造方法において、原料金属を溶融混合し、冷却させて鋳造するに際し、冷却工程における1150℃から900℃までの冷却時の平均冷却速度を0.05〜0.5℃/秒の範囲内とし、350〜650℃の範囲内の温度で20〜50時間の範囲内の時間の時効処理を施すことを特徴とするマンガン基合金の製造方法。
【0009】
第2:上記の第1の発明の製造方法によって製造された、100℃の温度環境での損失係数が0.03以上であるマンガン基合金。
【発明の効果】
【0010】
上記第1の発明によれば、マンガン基合金が銅15〜25重量%、マンガン60重量%以上を含有し、ニッケル、鉄、およびアルミニウムのうちの1種類以上を、ニッケル0〜7重量%、鉄0〜5重量%、アルミニウム0〜5重量%の範囲内で含有するため、マンガン基合金の加工性が向上し、制振機能が安定に作動する。また、上記の組成のマンガン基合金の製造方法において、原料金属を溶融混合し、冷却させて鋳造するに際し、冷却工程における1150℃から900℃までの冷却時の平均冷却速度を0.05〜0.5℃/秒の範囲内とすることにより、100℃以上の高温環境下においても制振機能が安定に作動する。
【0011】
上記第2の発明によれば、第1の発明のマンガン基合金の100℃の温度環境における損失係数が0.03以上であることにより、100℃以上の高温環境下における制振機能がさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のマンガン基合金はマンガンを60重量%以上含有する。マンガンの含有量が60重量%未満の場合は、高マンガン組成部を分布させることができないので、相変態温度を100℃以上に上げることは困難である。マンガンの含有量を60重量%以上とすることにより、高マンガン組成部を合金内部に分布させることができ、制振機能の作動温度の上限値(損失係数−温度グラフにおいて、損失係数が0.03の時の温度。以下、制振作
動上限温度という。)を100℃以上にすることができる。なお、マンガンの含有量は、制振合金全体の原子比として75%以下であることが、制振合金の鋳造性、加工性の点から好ましい。
【0013】
マンガン基合金はマンガンの他に、銅を15〜25重量%含有し、用途など必要に応じてさらにニッケル、鉄、およびアルミニウムのうちの1種類以上を、ニッケル0〜7重量%、鉄0〜5重量%、アルミニウム0〜5重量%の範囲内で含有する。本発明においては、この範囲において、ニッケル、鉄およびアルミニウムのうちの1種以上を必らず含むものであってもよいし、これらを全く含まない(各々0重量%)ものであってもよい。本発明においては、このような組成において、制振機能の他に制振合金に要求される加工性、力学的特性が向上する。特に、ニッケル、鉄が含有されることにより、制振合金の加工性、制振機能の安定性が改善される。
【0014】
本発明のマンガン基合金は、所定の添加量の原料元素を溶融混合し、冷却して鋳造することにより製造される。溶融混合後の冷却工程において、1150℃から900℃までの冷却時における平均冷却速度を0.05〜0.5℃/秒の範囲内とする。平均冷却速度を
0.5℃/秒以下とすることにより、マンガン基合金の内部に高マンガン組成部が形成されて、マンガン基合金の相変態温度が上がる。一方、平均冷却速度を0.05℃/秒以上
とすることにより、マンガン基合金の生産サイクルタイムが短縮され、効率的な製造が可能になる。鋳造後のマンガン基合金に対して、350〜650℃の範囲内の温度で20〜50時間の範囲内の時間の時効処理を施す。この時効処理を行うことにより、確実に制振作動上限温度を100℃以上にすることができる。
【0015】
マンガン基合金の相変態温度を100℃以上とすることにより、100℃の温度環境におけるマンガン基合金の損失係数は0.03以上となることが好ましい。ここで「損失係数」とは、マンガン基合金の貯蔵剪断弾性率(G’)と損失剪断弾性率(G”)の比、G”/G’のことであり、通常tanδで表され、材料が変形する際に材料がどのくらいエネ
ルギーを吸収するかを示す。
【0016】
また、冷却工程に関しては、この後800℃から室温までの冷却を、45℃/時間より遅い冷却速度もしくは20時間以上の時間で行うことが、制振作動上限温度を確実に100℃以上にするために好ましい。
【0017】
次に、本発明の実施例を説明する。もちろん、本発明がこれらの例示に限定されることはない。
【実施例】
【0018】
それぞれ電解純金属であるマンガン、銅、ニッケル、鉄を、重量比がMn70.53−Cu22.35−Ni5.16−Fe1.96になるように全体量12kgを秤量し、マグ
ネシア坩堝に入れ、アルゴンガス雰囲気中で、高周波誘導加熱により溶融混合を行った。溶融混合時の溶融温度は1250℃〜1300℃の範囲内に制御した。溶湯が十分に混合された後、溶湯を加熱セラミック鋳型に流し込んで鋳造した。鋳型の内部は略直方体とし、内部寸法は縦216mm、横156mm、厚さ26mmとした。なお、鋳型には予め、溶湯の温度を測定するためにステンレス鋼シース型熱電対を3箇所((1)鋳型表層、(2)鋳型内部の合金インゴットの2側面(縦辺と横辺からなる2つの側面)の中心位置を連結した中心線上の、側面から合金インゴットの厚さの1/4だけ深部の位置、(3)鋳型内部の合金インゴットの2側面(縦辺と横辺からなる2つの側面)の中心位置を連結した中心線上の、側面から合金インゴットの厚さの1/2だけ深部の位置)に設置した。冷却速度のデータは、(2)の位置、すなわち鋳型内部の合金インゴットの2側面(縦辺と横辺からなる2つの側面)の中心位置を連結した中心線上の、側面から合金インゴットの厚さの1/4だけ深部の位置における温度測定値を用いて算出した。冷却工程における温度履歴を図1に示した。冷却工程における1150℃から900℃までの冷却時の平均冷却速度は、0.1℃/秒であった。これにより、マンガン基合金(試料1−0)を得た。
【0019】
マンガン基合金の製造において、鋳型を水冷金属鋳型としたことの他は、試料1−0と同様の製造を行った。冷却工程における1150℃から900℃までの冷却時の平均冷却速度は、20℃/秒であった(図1)。これにより、マンガン基合金(試料2−0)を得た。
【0020】
上記のマンガン基合金(試料1−0および2−0)の表面を電解研磨により研磨し、その研磨面を光学顕微鏡により観察することにより、鋳造されたマンガン基合金の合金組織を評価した。観察像を図2に示す。この組織の局所的マンガン組成を電子線プローブマイクロアナライザーで分析し、マンガンの組成分布を調べ、その分布の不均一性(組成分布度)を算出した。ここで「組成分布度」は、マンガン基合金中の局所的元素組成を、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で、合金の多数箇所にわたり測定を行い、測定値から算出されるマンガンの重量百分率を横軸に、その重量百分率に対応する測定点数の全測定点数に対する割合を縦軸にプロットした時(図3)の、そのピーク曲線の半値幅として算出した。試料1−0、試料2−0について算出したところ、それぞれ9.65%
、3.57%であった。制振作動上限温度を100℃以上にするためには、組成分布度は5%以上であることが好ましい
鋳造されたマンガン基合金のインゴットから、縦60mm、横10mm、高さ1mmの短冊状試験
片を制振機能評価用テストピースとして機械加工により切出した。DMA(固体粘弾性測定装置)を用いて、3点曲げ振動モードにおいて1.2×10−4の振動歪み振幅で強制
振動を与えた。応力振幅とゆがみ振幅の比からヤング率E(図4)が求められ、応力振幅と歪み振幅の位相差から損失係数に相当するtanδ(図5)が制振機能として求められた
。測定条件は、−100℃から200℃までの温度範囲で5℃/分のペースで昇温し、振動周波数を0.1、1.0、10Hzの三条件で測定した。
【0021】
試料2−0の、平均冷却速度が高い合金サンプルは、室温以下の低温環境下において高い制振特性を示す一方、ヤング率は試料1−0の低い平均冷却速度の合金サンプルより約30GPa低いことがわかった。これは急冷凝固により結晶の成長に顕著な異方性が生じたためと考えられる。
【0022】
また、上記のマンガン基合金(試料1−0)について、鋳造後に時効処理を400℃で2時間行い、マンガン基合金の試料1−1を得た。
【0023】
同様にして、鋳造後に時効処理を400℃で、5時間行った試料1−2、10時間行った試料1−3、20時間行った試料1−4、50時間行った試料1−5を得た。
【0024】
さらにまた、上記のマンガン基合金(試料2−0)について、鋳造後に時効処理を400℃で2時間行い、マンガン基合金の試料2−1を得た。同様にして、5時間行った試料2−2、10時間行った試料2−3、20時間行った、試料2−4、50時間行った試料2−5を得た。
【0025】
以上の試料1−0〜5並びに試料2−0〜5の各々のマンガン基合金の温度に対するTanδ(損失係数)を評価した。試料1−0〜5についてのデータを図6に示す。この結果から、時効処理の時間が、高温環境下における損失係数に影響することが明らかとなり、20〜50時間の時効処理を行うことにより、100℃(373K)以上の環境下で損失係数が0.03以上となるので十分な制振機能が作動することが確認された。
【0026】
一方、試料2−0〜5のマンガン基合金の温度に対する損失係数のデータを図7に示す。この結果から、鋳造の冷却工程の1150℃から900℃までの平均冷却速度が20℃/秒と速い場合には、時効処理を行っても、100℃(373K)以上の環境下で損失係数が0.03に到達しないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】試料1−0および試料2−0の合金製造時の温度履歴を表示した図である。
【図2】試料1−0および試料2−0にて製造したマンガン基合金の表面を電解研磨により研磨し、その研磨表面を光学顕微鏡で観察した観察像である。
【図3】試料1−0および試料2−0にて製造されたマンガン基合金中の局所的元素組成を、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で、合金の多数箇所にわたり測定を行い、測定値から算出されるマンガンの重量百分率を横軸に、その重量百分率に対応する測定点数の全測定点数に対する割合を縦軸にプロットした図である。
【図4】試料1−0および試料2−0にて製造されたマンガン基合金の、温度とヤング率の関係を表したグラフである。
【図5】試料1−0および試料2−0にて製造されたマンガン基合金の、温度と損失係数の関係を表したグラフである。
【図6】試料1−0〜5にて製造されたマンガン基合金の、温度と損失係数の関係を表したグラフである。
【図7】試料2−0および8〜12にて製造されたマンガン基合金の、温度と損失係数の関係を表したグラフである。
【出願人】 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【出願日】 平成18年11月10日(2006.11.10)
【代理人】 【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫


【公開番号】 特開2008−121056(P2008−121056A)
【公開日】 平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願番号】 特願2006−305096(P2006−305096)