トップ :: C 化学 冶金 :: C22 冶金;鉄または非鉄合金;合金の処理または非鉄金属の処理

【発明の名称】 熱交換器用押出合金の製造方法および熱交換器用扁平多穴管
【発明者】 【氏名】麻野 雅三

【氏名】兵庫 靖憲

【氏名】高橋 宗尚

【要約】 【課題】十分な強度を有し、高速押出により多穴管を製造した場合に表面にピックアップの発生しない、高速押出により薄肉化および小断面積化された多穴管を製造可能な熱交換器用押出合金の製造方法を提供する。

【解決手段】質量%でCu:0.05〜0.40%、Mn:0.05〜0.30%、Ti:0.05〜0.25%を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を均質化処理する工程を備え、前記均質化処理において、前記アルミニウム合金を560℃〜620℃の範囲の温度で1時間〜18時間保持する第1熱処理と、前記第1熱処理後に、前記アルミニウム合金を450℃〜520℃の範囲の温度で2時間超〜18時間保持する第2熱処理とを行なう押出性に優れた熱交換器用押出合金の製造方法とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でCu:0.05〜0.40%、Mn:0.05〜0.30%、Ti:0.05〜0.25%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を均質化処理する工程を備え、
前記均質化処理において、前記アルミニウム合金を560℃〜620℃の範囲の温度で1時間〜18時間保持することを特徴とする、押出性に優れた熱交換器用押出合金の製造方法。
【請求項2】
前記均質化処理の後更に、前記アルミニウム合金を450℃〜520℃の範囲の温度で2時間超〜18時間保持する第2熱処理を行なうことを特徴とする、請求項1に記載の押出性に優れた熱交換器用押出合金の製造方法。
【請求項3】
請求項1および請求項2に記載の熱交換器用押出合金の製造方法により製造された熱交換器用押出材からなることを特徴とする熱交換器用扁平多穴管。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、カーエアコンなどの自動車用熱交換器に好適に用いることができる押出性に優れた熱交換器用押出合金の製造方法およびその製造方法によって製造された熱交換器用押出材を用いた熱交換器用扁平多穴管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カーエアコンのコンデンサやエバポレータなどの自動車用熱交換器として、複数のヘッダパイプと、これらのヘッダパイプ間に架設された複数の多穴管と、各多穴管に接合されたフィンとを備えたものが知られている。また、このような自動車用熱交換器を構成する多穴管としては、純アルミニウムやアルミニウム合金を押出加工してなるものが用いられている。
【0003】
また、このような多穴管では、組立性、ろう付け性、熱交換器の強度・耐食性などについて所定の条件を満たすことが要求されている。さらに、このような多穴管は、一般に、幅5〜50mm、高さ1〜5mmの断面形状とされており、所定の寸法精度や表面粗さなどの条件を満たすことが要求されている。
このような条件を満たす多穴管を実現できる材料としては、押出性の良好な純アルミニウムや、少量のCuが含有された耐食性の良好なアルミニウム合金などが挙げられ、広く使用されている。
【0004】
また、最近、製品コストを低減させるために、多穴管の薄肉化および小断面積化、高速押出化の要求がより一層高まってきている。しかし、従来の技術では、高速押出により薄肉化および小断面積化された多穴管を製造する場合、強度の高い合金を設定すると所定の断面形状を有する多穴管が得られない場合があり問題となっていた。
【0005】
この問題を解決するために、MnとSiとを含む押出性に優れた熱交換器用高強度アルミニウム押出合金が提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−335764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を採用した場合であっても、高速押出により薄肉化および小断面積化された多穴管を製造するためには、より一層、強度を向上させることが要求されていた。また、特許文献1に記載の技術では、高速押出により多穴管を製造した場合に、ピックアップと呼ばれるむしれ状の欠陥が表面に発生しやすく、多穴管表面の特性外観を損なうことが問題となっていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、十分な強度、耐食性および耐久性を有し、高速押出により多穴管を製造した場合でも表面にピックアップの発生しない、薄肉化および小断面積化された多穴管を製造可能な熱交換器用押出合金の製造方法を提供することを課題としている。
さらに、本発明は、上記の製造方法によって製造された熱交換器用押出材からなる高強度でピックアップのない熱交換器用扁平多穴管を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の押出性に優れた熱交換器用押出合金の製造方法は、質量%でCu:0.05〜0.40%、Mn:0.05〜0.30%、Ti:0.05〜0.25%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を均質化処理する工程を備え、
前記均質化処理において、前記アルミニウム合金を560℃〜620℃の範囲の温度で1時間〜18時間保持することを特徴とする。
上記の押出性に優れた熱交換器用押出合金の製造方法においては、前記均質化処理の後更に、前記アルミニウム合金を450℃〜520℃の範囲の温度で2時間超〜18時間保持する第2熱処理を行なうことができる。
この場合、さらに好ましい特性が得られる。
【0009】
また、本発明の熱交換器用扁平多穴管は、上記の熱交換器用押出合金の製造方法により製造された熱交換器用押出材からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の押出性に優れた熱交換器用押出合金の製造方法によれば、十分な強度を有し、高速押出により多穴管を製造した場合に表面にピックアップの発生しない、薄肉化および小断面積化された多穴管を製造可能なものが提供できる。
また、本発明の熱交換器用扁平多穴管は、本発明の製造方法によって製造された熱交換器用押出材からなるものであるので、高強度でピックアップのないものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る熱交換器用押出合金の製造方法および熱交換器用扁平多穴管について例を挙げて詳細に説明する。
本発明の押出性に優れた熱交換器用押出合金の製造方法は、質量%でCu:0.05〜0.40%、Mn:0.05〜0.30%、Ti:0.05〜0.25%を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を均質化処理する工程を備え、前記均質化処理において、後述する第1熱処理と、必要に応じて追加する第2熱処理とを行なう方法である。
【0012】
[アルミニウム合金の成分組成]
以下に記載する各元素の含有量は、特に規定しない限り質量%である。
「Cu」0.05〜0.40%
本発明を構成するアルミニウム合金において、Cuは、熱交換器用押出合金の強度および耐久性を向上させる作用がある。
Cuの含有量が0.05%未満であると、熱交換器用押出合金の強度、耐食性および耐久性が不十分となるため好ましくない。また、Cuの含有量が0.40%を越えると、押出時の変形抵抗が上昇して高速押出が困難となる恐れが生じるため好ましくない。また、Cuの含有量が0.40%を越えると、高速押出時にピックアップが生じやすくなる。
【0013】
「Mn」0.05〜0.30%
本発明を構成するアルミニウム合金において、Mnは、熱交換器用押出合金の強度および耐久性を向上させる作用がある。
Mnの含有量が0.05%未満であると、熱交換器用押出合金の強度および耐久性が不十分となるため好ましくない。また、Mnの含有量が0.30%を越えると、押出時の変形抵抗が上昇して高速押出が困難となる恐れが生じるため好ましくない。また、Mnの含有量が0.30%を越えると、高速押出時にピックアップが生じやすくなる。
【0014】
「Ti」0.05〜0.25%
本発明を構成するアルミニウム合金において、Tiは、熱交換器用押出合金の強度および耐久性を向上させるとともに、押出装置のダイスと熱交換器用押出合金との接触部分の高速押出時における潤滑性を向上させてピックアップの発生を抑制する作用がある。
Tiの含有量が0.05%未満であると、熱交換器用押出合金の強度および耐久性が不十分となるため好ましくない。また、Tiの含有量が0.05%未満であると、高速押出時における潤滑性が不十分となり、高速押出時におけるピックアップの発生を十分に抑制できない恐れが生じる。また、Tiの含有量が0.25%を越えると、押出時の変形抵抗が上昇して高速押出が困難となる恐れが生じるため好ましくない。さらに、Tiの含有量が0.25%を越えると、粗大なTi化合物が発生しやすく、素材の品質を損なうことになるため好ましくない。
【0015】
本実施形態においては、アルミニウム合金を均質化処理する工程において、第1熱処理と第2熱処理とを行なう。
「第1熱処理」
第1熱処理においては、上記のアルミニウム合金を560℃〜620℃の範囲の温度、より好ましくは590℃超〜620℃の範囲の温度で1時間〜18時間、より好ましくは3時間〜10時間保持する。
第1熱処理を行なうことで、Cu、Mnなどの高速押出時にピックアップを発生させる元素を固溶させて、ピックアップの発生を抑制するとともに、アルミニウム合金内のミクロな歪みを除去して押出性を向上させることができる。
【0016】
第1熱処理の処理温度が上記範囲よりも低い場合や処理時間が上記範囲よりも短い場合には、Cu、Mnなどの高速押出時にピックアップを発生させる元素の固溶が不十分となり、高速押出時におけるピックアップの発生を十分に抑制できなかったり、アルミニウム合金内のミクロな歪みを十分に除去できなかったりする恐れが生じる。また、第1熱処理の処理温度が上記範囲よりも高い場合や処理時間が上記範囲よりも長い場合には、アルミニウム合金の一部が溶解する恐れがあるし、第1熱処理を行なうことによる費用が大きくなり、経済的に不利となる。
【0017】
「第2熱処理」
第2熱処理は、第1熱処理後のアルミニウム合金を450℃〜520℃の範囲の温度、より好ましくは480℃〜510℃の範囲の温度で2時間超〜18時間、より好ましくは3時間〜10時間保持する。
第2熱処理を行なうことで、第1熱処理によって一旦固溶したCu、Mnを、Tiと結びついた析出物としてアルミニウム合金中に分布させて、Al−Ti化合物と相まって、押出装置のダイスと熱交換器用押出合金との接触部分の高速押出時における潤滑性を向上させ、ピックアップの発生を抑制することができる。
【0018】
第2熱処理の処理温度が上記範囲よりも低い場合や処理時間が上記範囲よりも短い場合には、Cu、MnをTiと結びついた析出物としてアルミニウム合金中に十分に分布させることができず、高速押出時におけるピックアップの発生を十分に抑制できなくなる恐れが生じる。また、第2熱処理の処理温度が上記範囲よりも高い場合や処理時間が上記範囲よりも長い場合には、Cu、MnとTiとが結びついた析出物の析出が過度に進行し、その析出物に由来するピックアップが生じやすくなる。
【0019】
なお、上記均質化処理における加熱方法や加熱炉の構造等については特に限定されない。また、均質化処理する工程の後のアルミニウム合金を押出すことにより熱交換器用押出合金が得られる。ここでの押出において、押出形状は特に限定されるものではなく、熱交換器の形状等に応じて押出形状が選定される。また、押出方法(方式)については特に限定されるものではなく、押出形状等に合わせて適宜常法の方法を採用することができる。
【0020】
このような熱交換器用押出合金は、熱交換器用の材料として使用されるものであり、例えば、熱媒体を流通させる熱交換器用扁平多穴管などとして用いられる。また、熱交換器の使用場所は、特に限定されるものではないが、自動車用の熱交換器に好適である。また、自動車用の熱交換器として、具体的にはコンデンサ、エバポレータ、インタクーラ等の用途に好適に使用できる。
また、このような熱交換器用扁平多穴管は、熱交換器用の部品として使用するに際し、他部材(例えばフィンやヘッダパイプ)と組み付けて、通常はろう付けにより接合される。なお、本発明においては、ろう付けの際の雰囲気や加熱温度、時間などの条件について、特に限定されるものではなく、ろう付け方法も特に限定されない。
【0021】
このような熱交換器用扁平多穴管は、高速押出により製造がなされた場合であっても、表面にピックアップのない良好なものとなる。また、このような熱交換器用扁平多穴管は、高い強度を有しており、かつ高速押出により薄肉化および小断面積化された多穴管の製造がなされた場合であっても、押出形状の寸法精度が十分に高い良好なものとなる。
【0022】
なお、上述した実施形態では、アルミニウム合金を均質化処理する工程において、第1熱処理と第2熱処理とを行なったが、第1熱処理のみを行なってもよい。この場合においても、十分な強度を有し、高速押出により多穴管を製造した場合に表面にピックアップの発生しない、薄肉化および小断面積化された多穴管を製造できる。
また、上述した実施形態のように、アルミニウム合金を均質化処理する工程において、第1熱処理と第2熱処理とを行った場合、高速押出時におけるピックアップの発生をより効果的に抑制でき、好ましい。
【0023】
「実験例1〜実験例28」
以下、実験例について説明する。
表1または表2に示す成分を含有するアルミニウム合金を鋳造してなるビレットを製作し、このビレットに、表1または表2に示す第1熱処理および第2熱処理とからなる均質化処理を行なった。そして均質化処理後のビレットを以下に示す条件で押出すことにより、図1に示す複数の媒体通路用穴2を有する断面形状の熱交換器用押出合金1(熱交換器用扁平多穴管)を得た。
【0024】
【表1】


【0025】
【表2】


【0026】
なお、表1または表2において、押出速度とは、実験例19における押出速度を1とした場合の比(倍)を意味する。また、表1および表2において、ピックアップ評価が○であるとは熱交換器用押出合金にピックアップが発生しなかったことを意味し、ピックアップ評価が×であるとは熱交換器用押出合金にピックアップが発生したことを意味し、ピックアップ評価が△であるとは僅かにピックアップが存在する状態を意味する。
【0027】
このようにして得られた実験例1〜実験例28の熱交換器用扁平多穴管を、所定の条件で外部形状を整える圧延加工を行なってから、ろう付け加熱した後、その扁平多穴管を長手方向に引張試験機にて引っ張る方法により扁平多穴管の強度を測定した。
その結果を表1または表2に示す。
【0028】
表1および表2より、本発明の実施例である実験例1〜実験例11では、いずれも73(MPa)以上の十分な強度が得られ、押出速度比が1.6〜2と高速押出であっても、ピックアップの評価が○または△となり、ピックアップの発生を抑制できることが確認できた。
これに対し、本発明の比較例である実験例12、実験例21では、ピックアップの評価が○または△であったが、ろう付け後強度が65(MPa)以下であり、強度が不十分であった。また、本発明の比較例である実験例13〜実験例20、実験例22、実験例23では、押出速度が低速の場合には表面にピックアップが発生しないが、高速押出では表面にピックアップが発生した。
【0029】
より詳細には、含有成分が本発明の範囲外である実験例12〜実験例16では、十分な強度が得られないか、高速で押出すとピックアップが発生した。
さらに、第1熱処理および第2熱処理の処理温度や処理時間が共通であって、含有成分が本発明の範囲外である実験例20〜実験例23から、Cuの含有量が本発明の範囲未満である(実験例21)と強度が不十分となることがわかった。また、Mnの含有量が本発明の範囲を超える(実験例22)とピックアップが生じやすくなることがわかった。また、Tiの含有量が本発明の範囲外である(実験例20、実験例23)とピックアップが生じやすくなることがわかった。
【0030】
また、第1熱処理および第2熱処理の処理温度が本発明範囲外である実験例17〜23では、十分な強度が得られないか、高速で押出するとピックアップが発生した。
また、第1熱処理の処理温度が本発明範囲外の高温である実験例24では、均質化処理時に部分的な溶融が発生して、押出できなかった。
また、実験例25では、第1熱処理のみならば、高速で押出してもピックアップの発生は無いものの、第2熱処理の処理温度が不適正であり、第1熱処理の効率を少し損なう結果となっている。
また、第1熱処理の時間が本発明の範囲外である、短時間の熱処理時間を適用すると、高速押出時にピックアップが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は本発明の熱交換器用扁平多穴管の一例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1…熱交換器用押出合金(熱交換器用扁平多穴管)、2…媒体通路用穴
【出願人】 【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
【出願日】 平成18年9月29日(2006.9.29)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和


【公開番号】 特開2008−88468(P2008−88468A)
【公開日】 平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願番号】 特願2006−267994(P2006−267994)