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【発明の名称】 黄銅の強化レベルの設計方法及び黄銅適用部品
【発明者】 【氏名】山口 洋

【要約】 【課題】従来の一般黄銅(非強化黄銅)の代替素材として使用可能である高性能な強化黄銅を用いる際に、非強化黄銅レベルの成形加工性を維持したままに強化黄銅とする時の強化レベルを、より簡便に推測する方法の提供を目的とする。

【解決手段】上記目的を達成するため、黄銅の成形加工性を維持したまま結晶粒微細化により強化する場合の強化レベルの設計方法であって、強化黄銅の結晶組織は平均結晶粒径が2μm以下とし、且つ、非強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−I(MPa)によって規定される強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−F(MPa)の範囲に従って強化レベルを設計する黄銅の強化レベルの設計方法を採用した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄銅の成形加工性を維持したまま結晶粒微細化により強化する場合の強化レベルの設計方法であって、
強化黄銅の結晶組織は平均結晶粒径が2μm以下とし、
且つ、非強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−I(MPa)と強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−F(MPa)とが以下の数1に示す式(1)の関係とすることを特徴とした黄銅の強化レベルの設計方法。
【数1】


【請求項2】
前記非強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−Iは200MPa〜600MPaである請求項1に記載の黄銅の強化レベルの設計方法。
【請求項3】
前記黄銅の組成は、銅が62wt%〜71.5wt%、残部が亜鉛及び不可避不純物である請求項1又は請求項2に記載の黄銅の強化レベルの設計方法。
【請求項4】
黄銅適用部品に使用する非強化黄銅材を、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の黄銅の強化レベルの設計方法を用いて設計した薄肉化強化黄銅に代替し、
この薄肉化強化黄銅を用いて得られたことを特徴とした黄銅適用部品。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、黄銅において、結晶粒微細化により成形加工性を維持したまま結晶粒微細化により強化する場合の強化レベルの設計方法及び黄銅適用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
黄銅材は、強度が比較的高く、導電率も比較的良好であり、且つ安価であるため、従来より端子やコネクタなどの電子部材や機構部品に多用されている。このような部品材料に用いられる黄銅は、適用される部品に応じて、曲げ半径の異なる曲げ加工、張り出し加工、バーリング加工、端子圧着加工等のプレス加工が施され、それぞれの加工によって割れが生じない成形加工性が求められたり、部品の機能に応じた所定の性能を確保できる成形加工性が要求される。一方、より強度の高い黄銅材を得るために、黄銅の加工率を高くすると、従来の黄銅材は曲げ加工性が悪く、靱性に乏しくなるため、成形加工が困難になる。このため、部品材料に用いられる黄銅には、部品に成形加工する場合に付加される厳しいプレス加工に耐えうるようにするために、耐力が550MPa未満のものが多用されている。そして、このレベルを超えた高い強度を要する場合には、一般に、高価なりん青銅が選択的に使用されている。
【0003】
このような背景から、黄銅の強化法として、結晶粒を微細化することは広く知られている方法である。例えば、特許文献1には、結晶粒度を微細化することにより強度及び曲げ特性を向上できる黄銅が提案されている。また、本発明者は、結晶粒を1μm〜2μm程度に均一に微細化して強化する黄銅(以下、「強化黄銅」と記す。)に関する研究を行ってきた。この強化黄銅の詳細については後述するが、JIS C2600、C2680、C2720のような従来の一般黄銅に比べて、成形加工性は従来の一般黄銅レベルに維持したままに、強度を向上させたものである。強化黄銅は、今後広く利用されることが予想される。
【0004】
【特許文献1】特開2004−292875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
強化黄銅は、成形加工性は従来の一般黄銅(以下、「非強化黄銅」と記す。)と同等としながら強度を向上させようとすると、強化黄銅を使用する場合に応じて成形加工性、強度等を定めなければならない。係る場合、材料の用途に応じて個別に、各強化レベルに調整した強化黄銅を用意し、その強化黄銅を各々成形加工したものを評価して、適性を備える強化黄銅材を試行錯誤で選定するしか方法がなかった。そこで、設計開発の労力を削減すべく、代替対象の非強化黄銅レベルの成形加工性を維持したままに強化黄銅とする時の強化レベルを、より簡便に推測する方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を行った結果、従来の一般黄銅の代替素材として使用可能である高性能な強化黄銅を用いる際に、以下の強化レベルの設計方法及び黄銅適用部品を用いることにより上記課題を達成するに到った。
【0007】
〈黄銅の強化レベルの設計方法〉
本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法は、黄銅の成形加工性を維持したまま結晶粒微細化により強化する場合の強化レベルの設計方法であって、強化黄銅の結晶組織は平均結晶粒径が2μm以下とし、且つ、非強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−I(MPa)と強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−F(MPa)とが以下の数2に示す式(1)の関係とすることを特徴とする。
【0008】
【数2】


【0009】
更に、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法では、前記非強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−Iは200MPa〜600MPaであることが好適である。
【0010】
そして、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法では、前記黄銅の組成は、銅が62wt%〜71.5wt%、残部が亜鉛及び不可避不純物であることが好ましい。
【0011】
〈黄銅適用部品〉
本発明に係る黄銅適用部品は、黄銅適用部品に使用する非強化黄銅材を、上記黄銅の強化レベルの設計方法を用いて設計した薄肉化強化黄銅に代替し、この薄肉化強化黄銅を用いて得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
結晶粒微細化により成形加工性を維持したままに強度を向上させた強化黄銅を材料として用いる場合に、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法を用いれば、非強化黄銅を用いた既存部品の耐力から計算式を用いて計算することによって、適用しうる強化黄銅の強化レベルを決められる。この結果、試行錯誤で行っていた従来の設計開発と比べ、その労力が大幅に軽減される。また、本発明に係る黄銅適用部品は、成形加工性及び強度を確保し、且つ、薄肉化を図る薄肉化強化黄銅の材料設計コストを抑えた黄銅適用部品とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法及び黄銅適用部品の最良の実施の形態に関して説明する。本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法は、強化黄銅の強化レベルの設計に好適な方法であるので、最初に強化黄銅について説明する。
【0014】
〈強化黄銅〉
強化黄銅は、銅、亜鉛及び不可避不純物からなり、平均結晶粒径が2μm以下に微細化することにより強度を向上させたものである。また、強化黄銅は、0.2%耐力σ0.2−Fが300MPa〜700MPaであり、強化後も従来の黄銅材レベルの成形加工性を備えている点に特徴がある。なお、成形加工性は、各種の曲げ、バーリング加工、張り出し加工、絞り加工、圧着加工等のプレス成形に対する適性である。実際の部品での検証が望ましいが、簡便法として実際の加工に似た、90度曲げ性、180度曲げ性、エリクセン試験等を選ぶことで代替して評価されることも多い。
【0015】
ここで、黄銅の平均結晶粒径が2μmを上回ると、強度と成形加工性の相関関係が変わってしまい、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法を適用しても効果的な精度が得られず、材料設計の効率化の効果が期待できない。また、平均結晶粒径を1.0μmより細かくすると、結晶粒微細化による特性の改善が次第に飽和状態に近付く。そして、結晶粒を微細化する現在の技術水準において可能な黄銅の平均結晶粒径は、0.5μm程度と考えられ、工業化がなんとか可能なレベルとしては0.8μm程度である。この点を考慮して平均結晶粒径の下限値について検討すると、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法を適用して効果が得られる黄銅の平均結晶粒径は少なくとも0.5μm以上であると考えられる。
【0016】
また、非強化黄銅の成形加工性を維持しながら強化するには、銅62wt%〜71.5wt%、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる組成の黄銅であり、平均結晶粒径を1μm〜2μm程度に均一に微細化し、これに必要に応じて冷間加工を施し、強化する強化黄銅が、特に好ましい。このような強化黄銅は、JIS C2600、C2680、C2720の1/2H材、H材、EH材のような従来の一般黄銅(非強化黄銅)に比べて、曲げ加工性は従来の一般黄銅レベルに維持したままに強度を向上させたものである。この強化黄銅の詳細については後述する。なお、この強化黄銅と、従来の一般黄銅材とを区別するため、強化黄銅のような結晶粒微細化による強化処理を施していない従来の黄銅材を、「非強化黄銅」と記す。
【0017】
次に、強化黄銅の製造形態について説明する。強化黄銅は、限定された組成の溶湯を所定条件で製造後、加工熱処理(熱間圧延加工、冷間圧延加工、中間焼鈍や低温焼鈍など)を加えて得られる。特に、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工の前の平均結晶粒径、最終再結晶焼鈍前の冷間加工率についても制御する。そして、最終再結晶焼鈍の条件(温度、時間)を調節して細かく均質な再結晶粒を得る。その後、必要により、設計された強度が出るように条件を設定して圧延する。強度レベルと圧延率については、結晶粒径1μm〜2μmの再結晶材の加工硬化曲線を作り、この加工硬化曲線から割り出すのが一般的な方法である。この後、更に低温焼鈍する場合もある。加工熱処理の間又は後に、任意に、脱脂、酸洗、矯正、切断、リフロー錫めっき等のめっき工程を付加できることは、一般の伸銅品と同じである。
【0018】
〈強化レベルの設計方法〉
本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法は、非強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−Iから、強化黄銅に望まれる0.2%耐力σ0.2−Fを算出し、その結果を強化黄銅の強化レベルとする点に特徴がある。
【0019】
以下、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法に用いる関係式の導出根拠について述べる。本発明者は、非強化黄銅と強化黄銅との強度レベルが異なるものをそれぞれ用意し、それらのサンプルについて、成形加工法評価の基礎試験法として知られているエリクセン試験、180度曲げ試験、90度曲げ試験を実施し、試験結果を分析した結果、非強化黄銅と強化黄銅との間に普遍的な関係を見出した。
【0020】
まず、非強化黄銅及び強化黄銅は、いずれも組成的にはJIS規格のC2680又はC2600から製造されたものであり、いずれも厚みが0.3〜0.8mmであり、非強化黄銅は結晶粒径が6μm〜20μmであり、強化黄銅は結晶粒径が1μm〜2μmの範囲に揃ったものを用いた。そして、強度レベルがそれぞれ異なる非強化黄銅及び強化黄銅を複数用いて、エリクセン試験、180度曲げ試験及び90度曲げ試験を行った。
【0021】
ここで、エリクセン試験と曲げ試験の実施条件について説明する。エリクセン試験は絞り加工性の評価方法であり、A法を用いて試験した。即ち、直径20mmの鋼球を押し込み、亀裂を生じるポンチ侵入深さを目視により求めた。
【0022】
次に、曲げ試験の実施条件は、圧延方向に平行(Good Way)及び垂直(Bad Way)に材料取りをして、180度曲げ試験及び90度曲げ試験を行った。そして、曲げ外側面をルーペで観察してわれの生じない最小曲げ半径(MBR)を求め、それを板厚tで割った値(MBR/t)を算出した。このMBR/tの値が0.3以下であれば、金属条に対してどのような加工法を採用しても、曲げ加工によってはほとんど欠陥を生ぜず問題ないとされている。これに対し、MBR/tが1以下であれば、材料設計上許容される場合が多く、MBR/tが3を超えると曲げ加工がしにくくなり用途が大幅に制限される、という見方が一般的である。
【0023】
なお、素材の強度の評価方法としては、引張強さ又は0.2%耐力が一般的に採用されているが、今回の比較評価には、部品設計時の基準データとして多用されている0.2%耐力の方がより適切であると考え、0.2%耐力をもって強度の指標とした。
【0024】
試験結果をまとめるに当たり、まず、耐力とエリクセン値、耐力と180度曲げでのMBR/t、耐力と90度曲げでのMBR/tの相関図3種を強化黄銅と非強化黄銅とを併せて描いた。なお、材料取りにより異なるデータについては、その曲げデータの悪い方をプロットした。この相関図の概要は実施例に示す数値をプロットすることによっても分かる。そして、各々の相関図においてそれぞれ次の操作を行った。即ち、横軸上の様々な耐力値について縦軸方向に横軸から線分を立ち上げ、非強化黄銅材の特性線との交点を求め、ここから横軸方向に線分を伸ばして強化黄銅材の特性線との交点を求め、強化黄銅の耐力とした。そして、図1に示す様に、非強化黄銅の耐力を横軸に、強化黄銅の耐力を縦軸とし、エリクセン試験、90度曲げ試験、180度曲げ試験で得られた個々の特性値に対応する、非強化黄銅と強化黄銅の耐力をプロットした。即ち、図1は上記3種の試験法でそれぞれ求めた加工性について等価な、非強化黄銅材と強化黄銅材との耐力の関係を示すものである。
【0025】
図1において、非強化黄銅と強化黄銅との間に、等しいエリクセン値を示すそれぞれの耐力値に一定の相関関係が見られた。同様の結果が、180度曲げ試験及び90度曲げ試験の試験結果でも見られた。そして、それらの相関関係は、試験方法が全く異なるにも拘わらず極めて似通っていた。そこで、グラフ上のそれらの相関関係に共通の近似線を描き、それから、数3に示す式(2)を導出した。式(2)は成形加工全般に関し、非強化黄銅と強化黄銅との間に普遍的に適用できる一般法則であると見なせる。そして、この一般法則(式)を用いて黄銅の強化レベルを簡便に設計する以下の方法に想到した。
【0026】
【数3】


【0027】
本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法は、黄銅の成形加工性を維持したまま結晶粒微細化により強化する場合の強化レベルの設計方法であって、強化黄銅の結晶組織は平均結晶粒径が2μm以下とし、且つ、非強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−I(MPa)と強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−F(MPa)とが以下の数4に示す式(1)の関係とする方法である。
【0028】
【数4】


【0029】
式(1)に示す強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−Fを[0.7×σ0.2−I+260]を超えて強化すると、強化黄銅の成形加工性が非強化黄銅のそれより劣化し、非強化黄銅の代替という目的を果たさないこととなる。従って、強化黄銅の強化レベルの上限は式(1)のようになる。上記数4に示す式(1)において、強化黄銅の0.2%耐力σ.2−Fの下限値を[0.7×σ0.2−I+210]としたのは、この値が下限値より小さければ、強化黄銅を採用して強度向上を図る意味が薄れるからである、ちなみに、耐力において20MPaの差は測定誤差範囲であり、50MPaの差異では実用的にほぼ同じ耐力レベルと見なせる狭い範囲である。そして、強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−Fを、式(1)の範囲から選択することにより、成形加工性を維持したままに、強化させることができる。
【0030】
黄銅の場合、黄銅自体の加工率を高めて強化すると、これらの成形加工性を維持することができずに劣化する傾向があり、非強化黄銅では、強度と成形加工性とのバランスが難しかった。そこで、数4に示す式(1)の関係によって、非強化黄銅の0.2%耐力σ.2−Iから得られる範囲に強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−Fを設定すると、結晶粒微細化により強化された強化黄銅の成形加工性は、非強化黄銅の成形加工性と同等の性能を有するものとなるのである。即ち、強化黄銅は、非強化黄銅の成形加工性を維持したままに強化できるものであり、非強化黄銅の耐力により規定される式(1)の関係を満たす範囲に強化黄銅の強化レベルを設定すれば、非強化黄銅の成形加工性を維持したまま、強度に優れた強化黄銅とすることが可能となり、強化黄銅の強化レベルを試行錯誤なしに簡便な方法で設計することができる。
【0031】
〈黄銅適用部品〉
黄銅適用部品とは、部品材料である黄銅を、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法を用いた薄肉化強化黄銅に代替し、この薄肉化強化黄銅を用いて得られた部品であり、例えば、コネクタ等の電気・電子部品や機構部品が挙げられる。
【0032】
薄肉化強化黄銅とは、式(1)に適合するように調整した強化黄銅である。具体的には、冷間加工率と耐力の相関関係(加工硬化曲線;実施例の値をグラフにプロットすれば概要は分かる)から狙いの強度レベルを得るための加工率を高める。所望の板厚をこの加工率で割った板厚が微細再結晶粒を得る焼鈍板厚である。そして、この焼鈍までの製造法は例えば、特許文献1で示されるような公知の方法を用いることができる。このように調整した薄肉化強化黄銅を、非強化黄銅を使用していた部品に適用すれば、成形加工性の低下なしに、材料強度の上昇の効果(信頼性の向上もしくは薄肉化)を得ることができる。どのような効果を享受するかについては、設計方針に拠るものであり、薄肉化の程度についても別途検討することになる。
【0033】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0034】
実施例1は、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法を用いて、非強化黄銅材A、B、Cの成形加工性を同等レベルに維持したままに、強化しうる強化黄銅材の強化レベルを設計する例を示す。まず、非強化黄銅材A、B、Cは表1に見るように、0.2%耐力σ0.2−Iがそれぞれ、324MPa、487MPa、600MPaである。この非強化黄銅材A、B、Cの0.2%耐力σ0.2−Iと式(1)とから得られる強化黄銅の0.2%耐力は、それぞれ非強化黄銅材Aがσ0.2−F=437MPa〜487MPa、強化黄銅材Bがσ0.2−F=551MPa〜601MPa、強化黄銅材Cがσ0.2−F=630MPa〜680MPaの範囲となる。そこで、0.2%耐力σ0.2−Fが上記範囲となる強化黄銅材A−1、B−2、B−3、C−4を製造した。微細結晶粒再結晶材(強化黄銅)は平均結晶粒径は1.3μm〜1.5μm、耐力362±20MPaであり、このものを表2に示す加工条件で強度レベルを調整した。そして、非強化黄銅及び強化黄銅の成形加工性を、180度曲げと、90度曲げと、エリクセン値とで比較した。それぞれの値を表3に示す。その結果、強化黄銅材A−1、B−2、B−3、C−4は、180度曲げ、90度曲げ、エリクセン値のいずれについても、対応する非強化黄銅材と同等もしくは良好な値を示した。
【0035】
【表1】


【0036】
【表2】


【0037】
【表3】


【実施例2】
【0038】
実施例2は、丸形端子(黄銅適用部品)に強化黄銅を用いる場合に、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法を用いて強化レベルを設計する例を示す。まず、厚み、強度の異なる強化黄銅あるいは非強化黄銅を材料に用いた丸形端子を作成し、図2に示す様に、この丸形端子に公称2スクエアの電線を圧着加工し、各々引張試験による圧着部の電線保持力等、各種評価を行った。丸形端子の材料の条件を表4に示す。即ち、サンプル1の丸形端子は非強化黄銅材からなり、サンプル2及びサンプル3の丸形端子は薄肉化強化黄銅からなり、サンプル3はサンプル2より薄肉化した例である。また、サンプル2及びサンプル3は、サンプル1に示す非強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−Iと式(1)とにより得られる強化黄銅の0.2%耐力σ0.2−Fの範囲内にある。
【0039】
そして、表4に示す通り、サンプル1〜サンプル3の電線保持力は330N〜340Nの範囲であり、ほぼ同等レベルであると言える。また、クリンプハイトを変化させて求めた適正クリンプハイトについては、サンプル1とサンプル2とは同じである。即ち、材料厚みが同じ場合に適正クリンプハイトが同じで電線保持力も同じレベルであるということは、非強化黄銅材と比べて薄肉化強化黄銅の強度レベルが高くなっても、成形加工性が同じであるため、成形加工が正常に行われ、性能が確保されることを示している。そして、サンプル3については、適正クリンプハイトがサンプル1より0.15mm小さくなっているが、クリンプハイトが異なるのは、厚みの違いで圧着部の形状が変化するためである。そして、電線保持力が同じレベルであると言うことは、非強化黄銅から厚みと強度レベルが異なっても、成形加工が正常に行われ、性能が確保されることを示している。なお、サンプル2及びサンプル3の圧着部の断面を観察したが、割れや座屈は生じていなかった。
【0040】
以上により、非強化黄銅材を用いた丸形端子(サンプル1)と同等の成形加工性を備え、且つ、サンプル1以上の強度を備えた丸形端子(サンプル2)が得られた。サンプル2は薄肉化されていないが、材料強度が上がった分、耐疲労破壊性や折れ曲り強度の向上が見込まれ、信頼性が向上している。また、非強化黄銅材を用いた丸形端子(サンプル1)より厚みを薄くし、且つ、強度を向上させた薄肉化強化黄銅からなる丸形端子(サンプル3)においては、称呼通りに、薄肉化を性能の劣化無しに実現できている。
【0041】
【表4】


【産業上の利用可能性】
【0042】
今後、幅広く用いられることが予想される強化黄銅に関して、本発明に係る黄銅の強化レベルの設計方法によって、強化黄銅の強化レベルを簡便な方法によって設計できるので、材料としての強化黄銅の利用を促進するものと考える。そして、本発明に係る強化黄銅適用部品は、上記強化レベルの設計方法によって設計された薄肉化強化黄銅を材料として用いるので、設計効率を高め、薄肉化しながらも適正な性能を持つ部品又は信頼性を向上させた部品をもたらし、その強化レベルを容易に設計でき、強化黄銅を用いた部品の普及に貢献するものと考える。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】非強化黄銅と強化黄銅とにおける、耐力と成形加工性に関するグラフである。
【図2】丸形端子に電線を圧着加工した状態を示す画像である。
【出願人】 【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
【出願日】 平成18年9月22日(2006.9.22)
【代理人】 【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博


【公開番号】 特開2008−75158(P2008−75158A)
【公開日】 平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願番号】 特願2006−258032(P2006−258032)