トップ :: C 化学 冶金 :: C22 冶金;鉄または非鉄合金;合金の処理または非鉄金属の処理

【発明の名称】 成形加工用アルミニウム合金板の製造方法
【発明者】 【氏名】小松原 俊雄

【氏名】井上 博史

【氏名】田中 宏樹

【要約】 【課題】強度と成形性、特に深絞り性が優れた成形加工用Al合金板を製造する方法を提供する。

【構成】Al−Mg系もしくはAl−Mg−Si系のAl合金に圧延加工を施した後、150〜450℃で15%以上50%未満の圧下率で温間異周速圧延を施し、その後に軟質化熱処理を施し、平均r値が0.9以上、X線回折による{111}面の方位密度が1以上のAl合金板を得る。また圧延加工として、250〜450℃の温度で温間圧延を施す。さらに温間異周速圧延における上下のロール周速度比を1:1.2以上、好ましくは1:1.5以上とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Mg系もしくはAl−Mg−Si系からなるアルミニウム合金を素材とし、所定の板厚まで圧延加工を施しβファイバー集合組織を発達させた後、150〜450℃の範囲内の温度でかつ15%以上50%未満の圧下率で温間異周速圧延を施すことにより、主方位として{111}方位を含むTD回転したβファイバー集合組織を有する圧延板とした後、軟質化熱処理し、軟質化熱処理後の材料のX線回折による{111}面の方位密度が1以上で、平均ランクフォード値が0.9以上のアルミニウム合金板を得ることを特徴とする、成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法において;
温間異周速圧延前の前記圧延加工として、250〜450℃の範囲内の温度で温間圧延を施すことを特徴とする、成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法において;
前記温間異周速圧延における上下のロール回転周速比を1:1.2以上とすることを特徴とする、成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法において;
前記温間異周速圧延における上下のロール回転周速比を1:1.5以上とすることを特徴とする、成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のボディシート、その他各種車両用部品や、電子・電気機器のシャーシやパネルなどの各種電子・電気機器部品等に使用される成形加工用のアルミニウム合金板の製造方法に関し、特に強度および成形性に優れたAl−Mg系合金もしくはAl−Mg−Si系合金からなる成形加工用アルミニウム合金板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディシートには、従来は冷延鋼板を使用することが多かったが、最近では地球温暖化抑制やエネルギコスト低減などのために、自動車を軽量化して燃費を向上させる要望が強まっており、そこで従来の冷延鋼板に代えて、冷延鋼板とほぼ同等の強度で比重が約1/3であるアルミニウム合金板を自動車のボディシートに使用する傾向が増大しつつある。また自動車以外の電子・電気機器等のパネル、シャーシの如き成形加工部品についても、最近ではアルミニウム合金板を用いることが多くなっている。
【0003】
ところでこのような成形加工用素材としてのアルミニウム合金板としては、従来はAl−Mg−Si系のAA6016合金、AA6022合金、AA6111合金などの6000番系合金や、Al−Mg系のJIS 5052合金やJIS 5182合金等の5000番系合金が広く使用されている。このような成形加工用アルミニウム合金板の製造方法としては、従来一般にはDC鋳造法によって鋳造して均質化処理を施し、続いて熱間圧延してからさらに冷間圧延を行ない、その後軟質加熱処理もしくは溶体化処理を行なう方法が適用されている。しかしながら従来の一般的な方法により製造された成形加工用アルミニウム合金板は、強度は冷延鋼板とほぼ同等ではあるものの、成形加工性、とりわけ深絞り性が冷延鋼板と比較して劣っているのが実情である。
【0004】
ところで、冷延鋼板においては、成形加工性、とりわけ深絞り性の指標としてランクフォード値(r値)が従来から広く使用されている。そしてランクフォード値、特に平均ランクフォード値(平均r値)が高いほど深絞り性が優れている。ここで平均r値とは、圧延方向に対して0°、45°、90°の各方向で測定したr値(r、r45、r90)の平均値であり、平均r値=(r+2×r45+r90)/4で表わされる値である。
【0005】
一方、一般に成形加工用素材では、深絞り性が集合組織によって大きな影響を受けることが良く知られている。そして体心立方格子構造を有する冷延鋼板では、圧延集合組織の板面に平行な主方位面が{111}面となり、その{111}面の方位集積密度を高めることによって、平均r値が上がり、深絞り性が向上することが知られている。そして冷延鋼板では、冷間圧延・再結晶熱処理によって得られる結晶方位が前述のように{111}面であることから、{111}面の方位集積密度を高めて深絞り性を向上させることが容易であり、そのための方法も既に充分に確立している。
【0006】
これに対して面心立方格子構造を有するアルミニウム合金の場合は、従来の一般的な方法により加工熱処理を行なえば、成形性向上に有効な{111}面が形成されないばかりでなく、むしろ成形性を阻害するキューブ(Cube)方位である{100}<001>方位が主方位となってしまって、平均r値を充分に上げることができず、成形性、特に深絞り性を向上させることが困難であった。そこでアルミニウム合金板の成形性改善のために、キューブ方位密度を減少させる方策について種々検討がなされているが、未だ充分な成果は得られていないのが実情である。
【0007】
ところで面心立方金属の圧延集合組織の一つであるBs方位、S方位、Cu方位(総称してβファイバー)は、平均r値を高める方位であることが知られているが、圧延ままでは平均r値は高いものの、延性が乏しく、プレス成形加工で割れが生じてしまって成形品を得ることが困難となる。一方、圧延後に軟質化処理もしくは溶体化処理を施せば、再結晶により成形性を阻害するキューブ方位の再結晶粒が生じ、そのため成形性は劣ってしまう。そこで例えば遷移元素の添加による合金成分組成の調整や圧延条件の適正化によって、軟質化熱処理や溶体化処理での再結晶を抑制する試みもなされているが、この場合は平均r値は高くなっても、r値の面内異方性が大きくなり、プレス成形加工には不適当となってしまう。
【0008】
また一方、非特許文献1においては、βファイバー圧延集合組織を有する熱間圧延材から、切断面が{111}面となるように切出して軟質化熱処理を施せば、深絞り性が向上することが報告されている。
【0009】
さらに、平均r値を高めるための提案として、特許文献1においては、上下のロールの周速を異ならしめる異周速圧延を、また特許文献2においては温間異周速圧延を適用することによって材料に剪断変形を与えて集合組織自体を大きく変える方位が提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−305503号公報
【特許文献2】特開2005−139494号公報
【非特許文献1】H.Inoue, T.Takasugi: Proceedings of IBEC 2003、(2003)、471
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のようにAl−Mg系合金やAl−Mg−Si系合金で代表される成形加工用アルミニウム合金板について、高強度を維持しつつ、その成形性、特に深絞り性を充分に改善するための方策は、未だ充分に確立しているとは言えなかった。
【0012】
ここで、前記非特許文献1に示されているのは、飽くまで実験室的な研究報告であり、工業的な量産工程によって成形加工用アルミニウム合金を製造するにあたって、如何なる条件を適用すれば深絞り性を充分に改善できるかの点までは開示されていない。
【0013】
また前記特許文献1、2で示されている異周速圧延を適用する方法では、平均r値の向上にはある程度の効果が期待されるものの、実際の工業的な量産的規模での製造方法として充分に確立しているとは言えなかったのが実情である。
【0014】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、自動車のボディシートをはじめとする各種車両部品、あるいは各種電子・電気機器部品等に使用される成形加工用アルミニウム合金の製造方法として、高強度を有すると同時に成形加工性、特に深絞り性に優れたアルミニウム合金板を、工業的に量産的規模での製造によって得られるようにした方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では平均r値を高めるために寄与するβファイバー方位群の集積が{111}極点図上で中心にくるように、すなわち{111}面が板面に平行になるように、βファイバー方位群を圧延直角方向TDの廻りに回転させることが、深絞り性の向上とr値の面内異方性の低減を図るために有効であることを見出した。具体的には、熱間圧延もしくは温間圧延または冷間圧延を施すことによって発達したβファイバー圧延集合組織を有する圧延材に対し、温間異周速圧延を適用して材料にTD廻りの結晶回転を誘発させることにより、図1に示すように{111}面が板面に平行な集合組織を得ることができる。そしてこのような深絞り性に好適な集合組織を、軟質化熱処理後または溶体化処理後も保持させるために、圧延条件および熱処理条件の適正化を行なうこととした。
【0016】
具体的には、請求項1の発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法は、Al−Mg系もしくはAl−Mg−Si系からなるアルミニウム合金を素材とし、所定の板厚まで圧延加工を施しβファイバー集合組織を発達させた後、150〜450℃の範囲内の温度でかつ15%以上50%未満の圧下率で温間異周速圧延を施すことにより、主方位として{111}方位を含むTD回転したβファイバー集合組織を有する圧延板とした後、軟質化熱処理し、軟質化熱処理後の材料のX線回折による{111}面の方位密度が1以上で、平均ランクフォード値が0.9以上のアルミニウム合金板を得ることを特徴とするものである。
【0017】
また請求項2の発明は、請求項1に記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法において、温間異周速圧延前の前記圧延加工として、250〜450℃の範囲内の温度で温間圧延を施すことを特徴とするものである。
【0018】
さらに請求項3の発明は、請求項1もしくは請求項2に記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法において、前記温間異周速圧延における上下のロール回転周速比を1:1.2以上とすることを特徴とするものである。
【0019】
そしてまた請求項4の発明は、請求項3に記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法において、前記温間異周速圧延における上下のロール回転周速比を1:1.5以上とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法によれば、Al−Mg系もしくはAl−Mg−Si系アルミニウム合金からなる成形加工用素材として、自動車ボディ等に要求される高強度を有すると同時に、成形性、とりわけ深絞り性が従来よりも著しく優れたものを得ることができる。
【0021】
なおこの発明による成形加工用アルミニウム合金板は、自動車ボディ等の各種車両の部品に最適であるとともに、各種電気機器のシャーシやパネル、その他各種の成形加工用部品の用途に使用できることはもちろんである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明の製造方法で適用されるアルミニウム合金は、要はAl−Mg系合金(いわゆる5000番系合金)もしくはAl−Mg−Si系合金(いわゆる6000番系合金)であれば良く、その具体的成分組成は問わないが、Al−Mg系合金としては、例えばMg2.0〜6.5%(mass%、以下同じ)を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなる合金、あるいは上記のMgのほかさらにCu0.05〜1.8%を含有する合金を好適に用いることができ、また上記のMg、もしくはMgおよびCuのほか、さらにMn0.03〜0.8%、Cr0.03〜0.3%、Zr0.03〜0.3%およびV0.03〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有するものを用いることもできる。一方、Al−Mg−Si系合金としては、例えばMg0.3〜2.0%およびSi0.3〜2.5%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなる合金を好適に用いることができ、また上記のMgおよびSiのほか、さらにCu0.05〜1.5%、Mn0.01〜0.8%、Cr0.01〜0.3%、Zr0.01〜0.3%、およびV0.01〜0.2%のうちの1種または2種以上を含有するものを用いることができる。
【0023】
この発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法においては、基本的には、上述のようなAl−Mg系合金もしくはAl−Mg−Si系合金を用い、圧延加工により得られた圧延集合組織を温間異周速圧延によりさらに好ましい集合組織へと変化させ、軟質化熱処理後の{111}面の方位密度を増加させることによって材料のプレス成形性を改善することができる。
【0024】
以下にさらにこの発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法について詳細に説明する。
【0025】
先ずAl−Mg系合金もしくはAl−Mg−Si系合金からなるアルミニウム合金の溶湯を常法に従って溶製し、DC鋳造法(半連続鋳造法)など通常の鋳造法により鋳造する。得られた鋳塊に対しては均質化処理を行う。この均質化処理は、鋳塊組織を均一化し、最終板の成形性を向上させるとともに、溶体化処理時における再結晶粒の安定化を図るために有効である。均質化処理の条件は特に限定しないが、処理温度が450℃未満では充分な効果が得られず、一方570℃を越えれば共晶融解のおそれがあり、また処理時間が0.5時間未満では充分な効果が得られず、24時間を越えれば効果が飽和して経済性を損なうだけであり、したがって450〜570℃において0.5〜24時間の条件とすることが望ましい。
【0026】
均質化処理後には、圧延加工を施して所定の板厚とする。この圧延加工により、材料に加工組織βファイバーを発達させることができるが、充分に加工組織を発達させるためには、合計90%以上の圧延率で圧延することが望ましい。この段階での圧延加工の種類は特に問わず、熱間圧延、冷間圧延、温間圧延のいずれか1種を適用するか、または2種以上を組合せて適用することができる。すなわち、一般的なアルミニウム板の製造方法では、均質化処理後は先ず熱間圧延を施すのが通常であるが、この発明の方法の場合も、前述の圧延加工として、熱間圧延を適用することができ、またその場合、さらに加工集合組織を発達させるために、熱間圧延後に冷間圧延を行っても良い。また、これらの熱間圧延や冷間圧延とともに、あるいは単独で250℃〜450℃の温度で温間圧延を行っても良い。
【0027】
この発明の製造方法の場合、均質化処理後に行なう圧延加工としては、特に温間圧延が有効である。すなわち温間圧延は、集合組織に熱的な安定性を充分に付与できる利点がある。ここで、温間圧延温度が250℃未満では、集合組織の熱的安定性が劣り、一方450℃を越えれば、圧延中に再結晶を生じてしまうため、安定した加工集合組織を得ることが困難となる。したがって温間圧延を施す場合は、250℃〜450℃の範囲内の温度で行なうことが望ましい。なお前述のように温間圧延前に熱間圧延を施しても、また温間圧延後に冷間圧延を施しても良いことはもちろんである。
【0028】
上述のような圧延加工(熱間、温間、冷間の1種以上)を施した後には、その圧延加工によって得られた圧延集合組織をさらに好ましい集合組織へと変化させるために、温間異周速圧延を施す。ここで異周速圧延とは、圧延するアルミニウム合金板に対して上側のロールの周速と下側のロールの周速とを異ならしめて圧延する方法であり、例えば上下のロールをそれぞれ個別のモーターで速度を変える方法や、一つのモーターからの動力を比率の異なったギアを介して上下ロールの回転数を変える方法や、上下ロールの径を変えることで周速を変える方法など種々あるが、この発明の製造方法では、異周速圧延のための具体的な圧延機の機構は任意である。
【0029】
ここで、異周速圧延は、150〜450℃の範囲内の温度、すなわちいわゆる温間で行なう必要があり、またその異周速圧延による圧下率は15%以上、50%未満とする必要がある。異周速圧延における圧延温度が150℃未満では、TD軸廻りの回転が材料内部まで充分に与えられず、一方450℃を越えれば、圧延中に再結晶が生じてβファイバー圧延集合組織が消滅してしまう。また温間異周速圧延の圧下率が15%以下では、集合組織変化が不充分で、圧延加工後に主方位として{111}方位を含むTD回転したβファイバーの方位密度が高くならず、一方50%以上では剪断集合組織の発達により、TD廻りに回転したβファイバー圧延集合組織が相対的に減少してしまう。したがって温間異周速圧延の圧延温度、圧下率を前述のように定めた。なお温間異周速圧延においては、上下のロールの回転の周速比、すなわち異周速比が高いほど効率よくTD軸廻りの回転を付与できる。ロール周速比が1:1.2未満では充分なTD軸周りの回転を与えることが困難となるから、ロール周速比は1:1.2以上とすることが望ましく、特に1:1.5以上の周速比がより望ましい。なおまた、上下のロールのうちいずれのロールを高速とするかは任意である。
【0030】
温間異周速圧延後には、軟質化熱処理を施してプレス成形に適した強度、延性に調整する。この軟質化熱処理としては、Al−Mg系合金の場合は250〜400℃で0.5〜10時間の箱型焼鈍、または350〜580℃で2分未満の連続焼鈍を行なうのが一般的である。Al−Mg系合金に対して箱型焼鈍を適用して軟質化熱処理を行なう場合、250℃未満では軟質化が不充分でプレス成形に適した延性が得られず、一方400℃を越えれば再結晶粒の粗大化が生じるとともに表面酸化膜が厚くなり、プレス後の外観に悪影響を及ぼす。またAl−Mg系合金に対して連続焼鈍により軟質化熱処理を行なう場合、350℃未満では軟質化が不充分でプレス成形に適した延性が得られず、一方580℃を越えれば再結晶粒の粗大化が生じるとともに表面酸化膜が厚くなり、プレス後の外観に悪影響を及ぼす。
【0031】
またAl−Mg−Si系合金に対する軟質化熱処理は、溶体化処理を兼ねて、450〜580℃で2分未満の連続焼鈍を行なうのが一般的である。この場合450℃未満では、溶体化不足のためプレス成形品の強度が低くなり、一方580℃を越えれば再結晶粒の粗大化が生じるとともに、表面酸化膜が厚くなってプレス後の外観に悪影響を及ぼす。なお場合によっては、450〜580℃での軟質化熱処理の前に、温間異周速圧延で発達させた集合組織を回復・再結晶により安定化させるため、熱的に安定なサブグレイン組織または微細再結晶粒組織を予め形成させ、上記軟質化熱処理後も好適な再結晶集合組織として保持させることを目的として、230〜300℃の低温における0.5〜50時間の前焼鈍を行なっても良い。
【0032】
このようにして軟質化熱処理を施すことにより、平均r値が0.9以上で、しかもX線回折による{111}面の方位密度が1以上の材料が得られる。ここで、平均r値が0.9未満では、材料のプレス成形性、とりわけ深絞り性が劣る。また方位密度については、{111}面は既に述べたように深絞り性に有利な面であり、{111}面の方位密度が1未満では良好なプレス成形性を得られない。
【0033】
なお、ここでX線回折による方位密度は以下のように定義する。すなわち{111}、{200}、{220}面の正極点図から3次元結晶方位分布関数(ODF)を計算し、Bunge法におけるφ=45°断面のΦ=55°、φ=0°〜90°での最大方位密度を{111}面の方位密度とする。
【実施例】
【0034】
表1の合金符号A〜Fに示す成分組成の各合金を常法にしたがって溶解し、実験室規模のDC鋳造により厚さ80mm、幅200mm、長さ1500mmの鋳塊に鋳造した。
【0035】
得られた鋳塊を厚さ75mmに面削し、500℃で2時間均質化処理した後、表2の製造プロセス符号1〜11に示すプロセスにしたがい、熱間圧延のみ(プロセス1)、熱間圧延と冷間圧延の組合せ(プロセス2、7〜10)、熱間圧延と温間圧延の組合せ(プロセス3)、熱間圧延と温間圧延、冷間圧延の組合せ(プロセス4)、温間圧延と冷間圧延の組合せ(プロセス5)、温間圧延のみ(プロセス6)で所定の中間板厚まで圧延加工した後、1mmの板厚まで温間異周速圧延を施した。温間異周速圧延前の中間板厚においてはいずれの板もβファイバー集合組織が強く発達していた。なおプロセス11は、従来法として熱間圧延後に冷間圧延のみを行なった。ここで温間異周速圧延としては、上下ロールをそれぞれ独立したモーターで駆動させた温間異周速圧延機を用い、低速側のロール速度を10m/分一定として、高速側ロール速度を予め設定した異周速比にしたがって変化させた。
【0036】
なおここで、表2において製造プロセス番号1〜6は、いずれも熱間圧延・温間圧延・冷間圧延の1種または2種の組合せによる圧延後に、適切な温間異周速圧延を施した本発明例であり、製造プロセス番号7〜10は、いずれもこの発明で規定する温間異周速圧延条件範囲を外れた温間異周速圧延を行なった比較例、製造プロセス番号11は、温間異周速圧延を行なわず、熱間圧延と冷間圧延のみを行なった従来例である。特に、製造プロセス番号7、9、11で温間異周速圧延を行なったものは、どの組成の合金でも主方位として{111}方位を含むTD回転したβファイバー集合組織を有していなかった。
【0037】
その後、軟質化熱処理としての最終熱処理を、Al−Mg系合金(合金符号A、B、C)については連続焼鈍方式に相当するソルトバスを用いた530℃、30秒保持、または350℃、2h保持の条件で行ない、Al−Mg−Si系合金(合金符号D、E、F)については、溶体化処理を兼ねて連続焼鈍方式に相当するソルトバスを用いた530℃、30秒保持の後に強制空冷する条件で行なった。
【0038】
以上のようにして得られた最終熱処理後の板について、圧延方向に対して0゜、45゜、90゜方向に引張試験片を採取して、機械的性質(TS、YSおよびEL)と、r値を測定し、さらに前述の式から平均r値を求めた。また張出成形性の指標としてエリクセン値を測定するとともに、深絞り成形性の指標としてLDR(限界絞り比)を測定した。一方、X線回折により純アルミニウム粉末に対する圧延板の極点図を測定し、3次元結晶方位分布関数(ODF)解析を行った。Bunge法におけるφ=45°断面のF=55°、Φ=0°〜90°での最大方位密度を{111}面の方位密度とした。これらの結果を表3〜表5に示す。
【0039】
【表1】


【0040】
【表2】


【0041】
【表3】


【0042】
【表4】


【0043】
【表5】


【0044】
表3〜表5により明らかなように、この発明で規定する温度範囲、圧下率、異周速比を満たす条件で温間異周速圧延を行った本発明例では、いずれも{111}面の方位密度は1を越え、成形性、とりわけ深絞り性に有利な再結晶集合組織を有しており、また平均r値も0.9以上となっており、エリクセン値、LDRで評価される成形性が優れていることが明らかである。
【0045】
これに対し、この発明で規定する温度範囲、圧延率、異周速比を満たす条件での温間異周速圧延を行なわなかった各比較例および従来例の場合は、{111}面の方位密度は1に満たず、深絞り性に不利な再結晶集合組織が形成されており、しかも平均r値も0.9未満であり、エリクセン値、LDRで評価された成形性の改善は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の方法による温間異周速圧延後の材料の集合組織の一例を示す極点図で、TD軸廻りに約20°回転したβファイバー集合組織の{111}極点図である。
【出願人】 【識別番号】000107538
【氏名又は名称】古河スカイ株式会社
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
【識別番号】000002277
【氏名又は名称】住友軽金属工業株式会社
【出願日】 平成18年9月8日(2006.9.8)
【代理人】 【識別番号】100083275
【弁理士】
【氏名又は名称】豊田 武久


【公開番号】 特開2008−63623(P2008−63623A)
【公開日】 平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願番号】 特願2006−243572(P2006−243572)