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【発明の名称】 表面処理性に優れたアルミニウム合金板の製造方法
【発明者】 【氏名】横田 耕太郎

【氏名】日比野 旭

【要約】 【課題】エッチング等の表面処理が施されて使用されるJIS 1000番系のAl合金板として、表面処理性が確実かつ安定して優れたものを製造する方法を提供する。

【構成】400〜610℃で熱間圧延を開始し、かつ熱間圧延各パスのうち、上り3パスの各パスについて、圧延開始温度Tを280〜480とするとともに、Ln(Z)値が、圧延開始温度T(℃)に応じて、 −0.0645×T+55.5≦Ln(Z)≦−0.0645×T+59.5 を満たすように圧延を行なって、270〜370℃で熱間圧延を終了させ、板面の表面から板厚の30%以上の深さの組織が、平均結晶粒径100μm以下の再結晶組織となっている熱間圧延上り板を得、その後冷間圧延を施す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS 1000番系のアルミニウム合金鋳塊について、400〜610℃の範囲内の温度に加熱して熱間圧延を開始し、かつその熱間圧延の各パスのうち、上り3パスについては、各パスにおける圧延開始温度Tを280〜480℃の範囲内とするとともに、各パスにおけるLn(Z)値(注:ZはZener−Hollomon Parameterを示す)が、それぞれのパスの圧延開始温度T(℃)に応じて、次式
−0.0645×T+55.5≦Ln(Z)≦−0.0645×T+59.5
を満たすように圧延を行なって、270〜370℃の範囲内の温度で熱間圧延を終了させ、板面の表面から少なくとも板厚の30%以上の深さの部分の組織が、平均結晶粒径100μm以下の再結晶組織となっている熱間圧延上り板を得、その後冷間圧延を施すことを特徴とする、表面処理性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、建材用内外装パネル、各種輸送機器のパネル、電気機器パネル、電気部品、光学機器、厨房機器、その他日用品など、表面品質が良好であることが要求される用途において、エッチングなどの化学的もしくは電気化学的表面処理を施して使用される表面処理用のアルミニウム合金板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建材用内外装パネルや各種機器のパネルなどにおいては、商品価値の点から、表面品質が優れていて外観上の欠陥が少ないことが強く要求される。一方この種の用途では、素材アルミニウム板の表面に化学的もしくは電気化学的エッチングを施したり、またエッチング後にさらに陽極酸化処理(アルマイト処理)を施したりするなど、表面処理を施して使用することが多く、したがって素材板に対しては、エッチング性などの表面処理性が優れていて、表面処理後の表面にムラやストリークス(スジ)などの外観欠陥が生じることがないことが望まれている。
【0003】
ところで各種アルミニウム合金のうちでも、純アルミニウム系(JIS 1000番系)のアルミニウム合金は、強度はさほど高くないものの、表面品質が良好で、表面処理性も比較的良好であることから、この種の用途に従来から広く使用されている。但し、この種のパネル等の用途でも、ある程度は強度を有していることが要求されるのが通常である。このように表面処理性が良好でまたある程度の強度が要求されるパネル等の用途の純アルミニウム系のアルミニウム合金板の製造方法としては、従来は、鋳塊を熱間圧延後、中間焼鈍を施して冷間圧延を行なうか、または熱間圧延後の冷間圧延の中途で中間焼鈍を行ない、最終の冷間圧延によって調質度H18もしくはH24程度の硬質板とすること多い。このようにして、硬質板に仕上げられた板の組織は、冷間圧延による組織が残った繊維状の加工組織となる。
【0004】
一方、最近では、省エネルギ、工程数節減によるコストダウンを図るため、前述のような熱間圧延と冷間圧延との間、あるいは冷間圧延の中途における再結晶のための中間焼鈍を行なわず、熱間圧延からその巻取、冷却の過程で熱延板を自己再結晶させ、その後は冷間圧延のみを施して硬質板に仕上げることが多くなっている。
【0005】
ところで一般にアルミニウム合金板の製造過程では、熱間圧延時に不均一に粗大な再結晶粒が生じてしまうことが多く、その粗大な再結晶粒に起因して、素材板に表面処理を行なった後の表面に、ストリークスやムラ等の外観欠陥が生じてしまうことがあり、特に前述のように中間焼鈍を行なわずに硬質板に仕上げた場合には、そのおそれが高い。
【0006】
ここで、表面品質が優れていることが要求されるパネル等の用途の表面処理用アルミニウム合金板の製造方法としては、例えば特許文献1では、熱間圧延時の圧下量や圧延温度を最適化して粗大な再結晶の発生を防止し、製品板の粒径や同一結晶面を有する集合体のサイズを規制することによって、表面処理後の表面のストリークスやムラの発生を防止することが提案されている。
【0007】
また特許文献2においては、熱間圧延条件を規制し、製品板の結晶方位を均一分散させる指標として、素材板表面の結晶粒の明暗のコントラストを分散(平均化)させることにより、表面処理後の表面性状を改善することが提案され、さらに特許文献3においては、アルミニウム合金板における種々の結晶方位のうち、S方位結晶粒の方位密度を12以上、Cu方位結晶粒の方位密度を10以上に規制することによって、表面性状の改善を図ることが提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平11−335761号公報
【特許文献2】特開2000−119782号公報
【特許文献3】特開2000−96172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように建材内外装用パネルや電気機器パネルなどの用途においては、表面品質が優れていることが要求され、特にエッチング等の表面処理が施されるのが通常であることから、表面処理性が良好で、表面処理後の表面にムラやストリークス等の外観欠陥が生じないことが望まれるが、従来の方法では、未だ確実かつ安定してこのような要求を満たすことは困難であった。
【0010】
例えば特許文献1の提案では、熱間圧延条件の最適化によって、ある程度は表面処理後の外観を良好にすることは可能ではあるが、実際には全てのプロセスで確実かつ安定して表面処理性の良好な板が得られるとは限らず、特に熱間圧延後に(あるいはその後の中間焼鈍の中途において)中間焼鈍を行なわずに、最終冷間圧延板で硬質板に仕上げるプロセスでは、表面処理性が劣ってしまう場合があることが本発明者等の実験によって確認されている。
【0011】
また特許文献2、特許文献3に示されるように結晶方位を制御する方法では、確かにある程度は表面処理後のムラ、ストリークスに対する改善効果は認めれるが、この場合も既に述べてような中間焼鈍を省略して硬質板に仕上げるプロセスに適用した場合には、確実かつ安定して表面処理性を向上させることは困難であった。
【0012】
前述のように熱間圧延工程で自己再結晶させて、その後の中間焼鈍を省略した製造プロセスでは、中間焼鈍で再結晶させるプロセスと比較して、熱間圧延の各パスにおける温度や圧下量等の条件が、熱間圧延後の再結晶集合組織に大きな影響を与える。そしてこのような再結晶集合組織がその後の冷間圧延によって圧延集合組織に変化しても、当初の再結晶集合組織の影響が履歴として残り、表面処理性に大きな影響を与えてしまう。また一方、製品板に対する表面処理自体も、最近ではコスト低減のために工程や管理の省略が進んでおり、そのため表面処理後の表面性能も処理前の素板の影響を受けやすく、そこでエッチング等の表面処理の工程や条件が変わっても、安定してストリークスやムラが生じないことが望まれる。例えばエッチングにおいてコスト低減のために劣化液を使用してエッチング量が減少した場合でも、良好な表面品質が得られることが望まれる。
【0013】
しかしながら、従来の方法では、これらの点について充分な配慮がなされておらず、そのため常に確実かつ安定して表面処理性(特にエッチング性)に優れた表面処理用アルミニウム合金板が得られるとは限らないのが実情である。
【0014】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、JIS 1000番系のアルミニウム合金を素材とし、熱間圧延で自己再結晶させることによってその後の中間焼鈍を省略し、最終的に冷間圧延によって硬質板に仕上げる表面処理用アルミニウム合金板の製造において、常に確実かつ安定して表面処理性、特に化学的もしくは電気化学的エッチングによるエッチング性が優れており、表面処理後の外観にムラやストリーク(スジ)等の欠陥の少ない表面処理板を安定して得ることができるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述のような課題を解決するべく、本発明者等が種々実験・検討を重ねた結果、熱間圧延における最終パスからその数パス前までの各パスにおける歪の蓄積を適切に制御することによって、熱間圧延後の再結晶を安定して制御できることを見出し、特に熱間圧延における最終パスからその2パス前までの各パス(仕上げ3パス)において、熱間歪の蓄積の指標となるZ値(Zener−Hollomon Parameter)を、各パスの圧延開始温度との関係のもとに適切に規制することが、最終的に表面処理性に優れたアルミニウム合金板を確実かつ安定して得るために有効であることを新規に知見し、この発明をなすに至ったのである。
【0016】
具体的には、請求項1の表面処理用アルミニウム合金板の製造方法は、JIS 1000番系のアルミニウム合金鋳塊について、400〜610℃の範囲内の温度に加熱して熱間圧延を開始し、かつその熱間圧延の各パスのうち、上り3パスについては、各パスにおける圧延開始温度Tを280〜480℃の範囲内とするとともに、各パスにおけるLn(Z)値(注:ZはZener−Hollomon Parameterを示す)が、それぞれのパスの圧延開始温度T(℃)に応じて、次式
−0.0645×T+55.5≦Ln(Z)≦−0.0645×T+59.5
を満たすように圧延を行なって、270〜370℃の範囲内の温度で熱間圧延を終了させ、板面の表面から少なくとも板厚の30%以上の深さの部分の組織が、平均結晶粒径100μm以下の再結晶組織となっている熱間圧延上り板を得、その後冷間圧延を施すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明の表面処理用アルミニウム合金板の製造方法によれば、JIS 1000番系のアルミニウム合金を素材として、熱間圧延において自己焼鈍により再結晶させることにより、その後の中間焼鈍を省略し、最終的に冷間圧延により硬質板に仕上げるにあたり、熱間圧延における最終パスからその2パス前までの3パス(上がり3パス)における熱間歪の蓄積を、各パスでの熱間圧延開始温度との関係の下で適切に規制することによって、熱間圧延後の結晶サイズ、結晶方位密度分布を狭い範囲内に安定的に制御することができ、その結果、最終冷間圧延によって硬質板に仕上げられた製品板に対して、化学的もしくは電気化学的エッチング等の表面処理を施すにあたっても、安定して良好な表面処理性を得て、エッチング等の表面処理後の表面外観としてムラやストリーク(スジ)などの外観欠陥のない表面品質の良好な板を、確実かつ安定して得ることができる。したがって例えば建材パネル等の外観の色調が均一であることが要求される用途においても、色調のムラのないパネル等を提供することができ、また装飾用としても優れた製品を提供できるなど、種々の要求に応えることができ、また表面処理の工程や条件が変わっても安定して良好な表面品質を有する製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の方法においては、素材となるアルミニウム合金として、いわゆる純アルミニウム系であるJIS 1000番系のアルミニウム合金を用いる。JIS 1000番系のアルミニウム合金は、表面処理性が優れていて、エッチング等の表面処理後の表面外観が優れているため、この発明ではJIS 1000番系合金を用いることした。ここで、この発明の方法で熱間圧延条件として規定しているLn(Z)値は、変形応力に依存するが、JIS 1000番系以外の合金で積極添加されているMg、Mn、Si、Cu等の合金元素は、単独で1%程度でも添加されれば、晶出物あるいは析出物を生成して、変形応力に影響を及ぼし、ひいてはLn(Z)値に影響を与えてその制御を困難にしてしまうが、JIS 1000番系で規定している程度の含有量であれば、晶出物や生成物の生成も少なく、そのためLn(Z)値を容易かつ適切に制御して、所期の目的を達成することができ、したがってこの点からもJIS 1000番系の合金を用いることが適切である。
【0019】
次にこの発明の製造方法について説明する。
【0020】
先ず前述のようにJIS 1000番系の合金について、DC鋳造法などの常法に従って鋳造し、鋳塊(スラブ)を得る。鋳塊に対しては、必要に応じて均質化処理を行なってから熱間圧延を行なう。均質化処理を行なう場合の均質化処理条件は特に限定しないが、通常は500〜600℃で1〜10時間程度とする。また均質化処理を行なう場合、均質化処理後に一旦室温まで冷却してから熱間圧延開始温度まで再加熱して熱間圧延を行なっても、あるいは均質化処理後、熱間圧延温度まで冷却して直ちに熱間圧延を行なっても良い。
【0021】
熱間圧延の条件は、この発明の方法では極めて重要であり、これを適切かつ厳密に制御することによって、エッチング性等の表面処理性が優れた製品板を安定して得ることが可能となる。
【0022】
この熱間圧延においては、後に改めて説明するように、少なくとも一回は再結晶させて、熱間圧延終了後に少なくとも表層部が微細な再結晶組織となっているように制御することが必要であり、主としてこれらの観点から熱間圧延開始温度を400〜610℃の範囲内に定め、また熱間圧延終了温度を270〜370℃の範囲内に定めている。
【0023】
すなわち、先ず熱間圧延開始温度が400℃未満では、熱間圧延中に再結晶が生じにくくなって、製品板の表面処理後の表面にストリークスが発生しやすくなり、また熱間圧延を270℃以上の高温度域で終了させることが困難となる。一方熱間圧延開始温度が610℃を越えれば、熱間圧延中途で鋳塊の前後端のワニ口部切断等で圧延が中断された場合等において、再結晶粒の粗大化(板厚方向で粒径100μmを越える粗大化)を招くおそれが強くなる。ここで、熱間圧延における比較的初期の粗圧延等において生じた再結晶粒は、母結晶粒としてその後の熱間圧延過程で生成される組織の元となり、このような母結晶粒の大きさも熱間圧延終了時の再結晶組織の粒径に影響を与えるから、熱間圧延の比較的初期の粗圧延等における再結晶粒の粗大化も抑制しておく必要がある。そこでこの発明では熱間圧延の開始温度は400〜610℃の範囲内とした。
【0024】
一方、この発明の方法においては、熱間圧延終了時(熱間圧延を終了させてコイル状に巻上げ、室温まで冷却させた時点)において、板の表面から板厚方向へ少なくとも30%の位置までの部分の組織が、平均粒径100μm以下の再結晶粒からなる再結晶組織となっていることが必要である。熱間圧延終了温度(最終パス上がり温度)が270℃未満の場合は、この発明で規定するLn(Z)の条件では歪の蓄積が不足し、板表面から30%以上の部分まで安定して再結晶させることが困難となる。熱間圧延終了温度を270℃以上に規制すれば、板面から30%以上の部分まで安定して再結晶させることが可能となるが、熱間圧延終了温度が370℃を越えれば、コイルに巻取ってからも再結晶が成長して再結晶粒が100μmを越えてしまうおそれがある。そこで熱間圧延終了温度は270〜370℃の範囲内とした。
【0025】
なおここで熱間圧延終了後(コイル巻取−冷却後)の熱間圧延板の組織として、その板面から板厚方向に少なくとも30%以上の部分の再結晶粒径が100μmを越えていれば、製品板の肌荒れの原因となり、良好な表面品質が得られなくなる。また、熱間圧延板の板面から30%以上の部分が完全な再結晶組織となっていない場合(その30%の範囲内の部分の少なくとも一部が未再結晶組織である場合)には、この発明の最終目的である表面処理性の確実かつ安定した向上を図れなくなる。
【0026】
さらにこの発明の方法においては、熱間圧延の開始温度、終了温度を前述のように規制するばかりでなく、熱間圧延の上がり3パスの各パスにおける歪速度と温度の関係を適切に規制することが重要である。この点について以下に説明する。
【0027】
熱間圧延は、一般に前段としての板圧延(プレート圧延)による粗圧延と、後段としてのコイル圧延による仕上げ圧延とによって行なうのが通常である。一方熱間圧延の終了板厚は、製品の要求性能や用途によって異なるが、通常は2〜10mm程度の板厚に仕上げられることが多い。ここで、1パスで圧延可能な最大の圧下率は、板厚によっても異なるが、コーティング等の問題により85%程度が限界とされている。そこで熱間圧延の仕上げ圧延は、通常は3パス以上の複数のパスで行なう。なおここで、1回のパスとは、多段式連続圧延機により複数段のパスで仕上圧延する場合の各段のパスをも指称することとする。
【0028】
上述のような仕上圧延における各パスの圧延での歪速度と温度との関係に着目して本発明者が詳細な実験・検討を重ねた結果、少なくとも最終パスを含む上がり3パスの圧延を、熱間歪蓄積の指標となるZener−Hollomon Parameter(Z値)と、各パスでの圧延開始温度との間の関係が特定の範囲内となるように制御することが、熱間圧延上がりの組織制御に重要であることを認めて見出したのである。すなわちこの発明の方法では、熱間圧延工程の上がり3パスの各パスにおける歪蓄積と回復・再結晶を適切に制御するため、上がり3パスの各パスにおける圧延開始温度Tを280〜480℃の範囲内として、Zn値の自然対数値Ln(Z)と圧延開始温度T(℃)との間に、次の(1)式
−0.0645×T+55.5≦Ln(Z)≦−0.0645×T+59.5
・・・(1)
が満たされるように圧延を行なうこととした。このようなLn(Z)値と熱間圧延開始温度T(℃)との関係を、図1に示す。図1において斜線部分が(1)式の条件を満たす範囲である。
【0029】
ここで、熱間圧延を最終的に270℃以上で終了させるためには、上がり3パスの各パスにおける圧延開始温度Tを280℃以上とすることが必要である。一方上がり3パスの各パスにおける圧延開始温度Tが480℃を越える場合、上記(1)式を満たすと同時に熱間圧延終了温度を370℃以下とすることが困難となってしまう。そこで上がり3パスにおける各パスでの圧延開始温度は280〜480℃の範囲内とした。
【0030】
一方、上がり3パスのいずれか1以上のパスにおいて前記(1)式の左辺が満たされない場合、すなわちLn(Z)値が−0.0645×T+55.5未満の場合には、1パスごとに回復が生じてしまい、一旦は再結晶した粒がそのまま成長してしまって、100μmを越える粗大な再結晶粒が生成されてしまうのみならず、1パスごとの回復の程度も不安定となるため、結晶方位の分布や密度が安定せず、その結果製品板に対してエッチングを施した際のエッチングムラ発生の原因となる。
【0031】
一方、上がり3パスのいずれか1以上のパスにおいて前記(1)式の右辺が満たされない場合、すなわちLn(Z)の値が−0.0645×T+59.5を越える場合には、1パスごとの歪の蓄積は充分となるが、最終パス(パス数をNとすれば、第N番目のパス;以下単に“Nパス”と記す)より1パス前のパス(以下“N−1パス”と記す)および最終パスより2パス前のパス(以下“N−2パス”と記す)の各パスにおいて、表面に不均一な再結晶が生じる。このとき再結晶した部分と未再結晶であった部分とでは、Nパス目で再度再結晶する際に、結晶粒の大きさが異なってしまうため、最終的に製品板にエッチングを施した際に梨地のようなムラが生じたり、またエッチング条件によっては、圧延方向で似通った結晶方位が揃ってしまうことに起因してスジ状の模様が発生して、外観品質を損なう。したがって熱間圧延の上がり3パスの各パスにおいては、Ln(Z)値と圧延開始温度T(℃)との間の関係が前記(1)式を満たすことが必要である。
【0032】
なおここでZ値は、例えば文献(アルミニウム材料の基礎と工業技術(昭和60年5月1日、社団法人軽金属協会発行)の第88頁〜第89頁に示されているように、熱間歪蓄積の指標となるZener−Hollomon Parameter(単位:/秒)を意味し、歪速度をE、活性化エネルギをQ、気体定数をR、温度をTとすれば、次の(2)式
Z=E・exp(Q/RT) ・・・(2)
で求められる値である。
【0033】
なおこの発明においてZ値の計算にあたっては、活性化エネルギQの値として37,300cal/molの値を用い、気体定数Rとして1.987cal/mol・Kの値を用いた。
【0034】
以上のように、熱間圧延の開始温度、終了温度を規制するだけではなく、特に熱間圧延上がりの3パスの条件を制御することによって、最終的な製品板の組織制御を行なっており、このような熱間圧延の制御による効果を維持するため、この発明の方法では、熱間圧延後は冷間圧延のみにより製品板とすることとしている。すなわち、熱間圧延後や冷間圧延の中途で、再結晶のための中間焼鈍を改めて行なわないこととしている。なお、冷間圧延の条件は特に限定しないが、通常は最終的にH18〜H24程度の硬質板とするため、20〜97%程度の圧延率で最終冷間圧延を行なえば良い。
【実施例】
【0035】
表1に示すAおよびBの合金を常法に従って溶製し、DC鋳造法により厚み550mmのスラブに鋳造した。
【0036】
得られたスラブに対して560℃の温度で2時間保持の均質化処理を行なった後、室温まで放冷した。その後圧延面を片面当たり10mmずつ面削した後、460℃まで加熱して2時間加熱した後に熱間圧延を開始した。熱間圧延は1パスあたり10〜900m/minの圧延速度となるような条件で終了板厚2〜5mmまで実施した。熱間圧延後は中間焼鈍を施すことなく板厚0.4mmまで冷間圧延を行ない、硬質材の製品板として仕上げ、外観を評価した。なおここで熱間圧延終了板厚が異なるのは、製品板厚が同じでも要求される機械的性質が異なるために冷間圧延率で調整を行なったためである。
【0037】
この発明の方法において製品板の表面処理後の外観品質は、熱間圧延終了前の上がり3パスを如何なる条件にて行なうかで決定される。そこでこの実施例では、上がり3パスの各パスの開始時の材料温度および熱間圧延終了時の材料温度(上がり温度)、および各パス開始板厚での歪速度E、およびLn(Z)値を調べた。その結果を表2、表3に示す。
【0038】
また製造番号1〜5の場合について、上がり3パスの各パスにおけるLn(Z)値と圧延開始温度T(℃)を、図1に倣って図2に示し、また製造番号6〜10の場合について同様に図3に示した。
【0039】
以上の過程において、熱間圧延上がり板の表面について、平均結晶粒径の測定を行なった。ここで、実際に表面処理して使用される場合に外観に影響を及ぼすのは板のごく表面である。そこで研磨をなるべく少なくするため、バフで5μm程度(圧延目が消える程度)に研磨した後、電解研磨で仕上げ、研磨後にバーカー氏液による陽極酸化処理を施し、その後に偏光顕微鏡により表面を観察して、結晶粒を測定した。測定は写真上で切断法により圧延方向と垂直な方向に引いた線を横切る粒界の数を数えて平均粒径を求め、表4中に示した。
【0040】
また、熱間圧延上がり板について、Cu方位とS方位の結晶方位分布密度の測定を板の表面で行なった。方位密度の分布の測定は、リガク(株)のX線回折装置を用い、{200}、{220}、{111}の不完全極点図を作成し、これらを元にODF(三次元結晶方位解析)を行なって調べた。なおこれらの解析においては、アルミニウム粉末から作られたランダム方位を持つ試料を測定して得られたデータを{200}、{220}、{111}の不完全極点図解析の際に使う規格化ファイルとし、これによりランダム方位を持つ試料に対する倍数としてCuおよびS方位密度、すなわち{112}<111>および{123}<634>方位の密度を求め、その結果を表4中に示した。
【0041】
また、最終的に得られた冷間圧延板について、その表面処理性を調べた。ここで表面処理性は、冷間圧延板の表面を、エッチング液として純水(500ml)+塩酸(500ml)+硝酸(500ml)+フッ酸(5ml)の混合液を用いてマクロエッチングし、スジやムラの有無を目視により評価した。評価手法としては、目視でムラおよびスジの発生がともにない場合を合格(○印)、ムラがあった場合を不合格(△印)とし、またスジが生じた場合も不合格(×印)と評価し、その結果を表3中に示した。
【0042】
【表1】


【0043】
【表2】


【0044】
【表3】


【0045】
【表4】


【0046】
製造番号1〜5は、いずれもこの発明で規定する範囲内の条件で圧延したものであり、これらの場合はいずれもエッチング後の表面にスジやムラがないことが判明した。そしてこれらのうち、製造番号1の場合は、平均結晶粒径は80μmとやや大きめだが、S方位、Cu方位が充分に成長していることから、バランス良くエッチングされた。また製造番号2〜4の場合は、S方位が発達しており、良いエッチング特性を示した。さらに製造番号5の場合は、S方位、Cu方位の発達はやや低いものの結晶粒径を細かくすることができ、それにより安定したエッチング特性を示した。
【0047】
一方、製造番号6〜10の例は、いずれかの条件がこの発明で規定する範囲を外れたものでありこれらの場合にはエッチング後の表面にムラもしくはスジが発生してしまった。すなわち、先ず製造番号6の比較例では、S方位およびCu方位がそれなりに発達していたが、Z値の高い領域からN−2パス目の圧延が開始されたことと、その際の温度が422℃以上と高かったことにより、N−1パス目の開始時に一度部分再結晶した模様で、その影響と思われるスジ状のムラが観察された。
【0048】
また製造番号7の例は、Z値の低い領域で圧延してなるべく細かい結晶粒となることを狙ったが、Z値が低過ぎたため、368℃と高い温度で熱間圧延を終了したにもかかわらず、エッチング後に強いスジがあらわれてしまった。なおこの製造番号7の例について、熱間圧延板の断面のミクロ組織を観察したところ、図4に示すように再結晶したのはごくわずかな表面だけであって、大部分は未再結晶の組織となっていることが判明した。さらに製造番号8の例は、製造番号7の例の失敗に基づき、なるべくZ値が高くなる条件で圧延を行なった。この例では、結晶方位密度はS方位が18、Cu方位が12とかなり発達しており、比較的均一にエッチングされそうに思われたが、結晶粒が平均で105μmと粗大なため、最終板でも結晶粒が粗大となり、結晶粒ごとのエッチング速度のわずかな差が凹凸としてあらわれ、エッチング後の表面のムラがひどくなってしまった。そしてまた製造番号9の例も、微細粒を狙ってなるべく低いZ値の領域で圧延を実施したが、熱間圧延板の断面ミクロ組織は、図5に示すように全厚未再結晶となり、エッチング後の表面にスジが発生した。さらに製造番号10の例は、バランス良く圧延できたが、熱間圧延終了温度(上がり温度)が265℃と低く、そのため図6に示すように、熱間圧延板の断面のミクロ組織で部分的にのみ再結晶するような組織となってしまい、エッチング後の表面にスジが生じてしまった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の方法で規定する上がり3パスの各パスにおけるLn(Z)値と圧延開始温度T(℃)との関係を示す図表である。
【図2】実施例の製造番号1〜5(いずれも本発明例)における上がり3パスの各パスにおけるLn(Z)値と圧延開始温度T(℃)との関係を示す図表である。
【図3】実施例の製造番号6〜10(いずれも比較例)における上がり3パスの各パスにおけるLn(Z)値と圧延開始温度T(℃)との関係を示す図表である。
【図4】実施例の製造番号7(比較例)における熱間圧延上がり板の断面組織写真(倍率50倍)である。
【図5】実施例の製造番号9(比較例)における熱間圧延上がり板の断面組織写真(倍率50倍)である。
【図6】実施例の製造番号10(比較例)における熱間圧延上がり板の断面組織写真(倍率50倍)である。
【出願人】 【識別番号】000107538
【氏名又は名称】古河スカイ株式会社
【出願日】 平成18年7月5日(2006.7.5)
【代理人】 【識別番号】100083275
【弁理士】
【氏名又は名称】豊田 武久


【公開番号】 特開2008−13804(P2008−13804A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−185169(P2006−185169)