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【発明の名称】 溶接熱影響部靭性に優れた、引張り強さ760MPa以上の高強度溶接鋼管およびその製造方法
【発明者】 【氏名】嶋村 純二
【氏名】石川 信行
【氏名】岡津 光浩
【課題】HAZ靭性に優れた引張強度760MPa以上の高強度溶接鋼管およびその製造方法を提供する。

【構成】質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.5〜3.0%、Al:0.01〜0.08%、Nb:0.01〜0.08%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.001〜0.010%、O:0.003%以下、S:0.003%以下、更に、Cu、Ni、Cr、Mo、Vの一種または二種以上、必要に応じてCa、REM、Zr、Mg、Bの一種または二種以上、0.19≦PCM≦0.30を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる母材と溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域のミクロ組織が面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織で、250≦HV(98N)≦350である縦シーム溶接継手を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C: 0.03〜0.12%
Si: 0.01〜0.5%
Mn: 1.5〜3.0%
Al: 0.01〜0.08%
Nb: 0.01〜0.08%
Ti: 0.005〜0.025%
N: 0.001〜0.010%
O: 0.003%以下
S: 0.003%以下
更に、
Cu: 0.01〜1%
Ni: 0.01〜1%
Cr: 0.01〜1%
Mo: 0.01〜1%
V: 0.01〜0.1%
の一種または二種以上を含有し、
CM値が0.19≦PCM≦0.30を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる母材と溶接ボンド部から少なくとも溶接ボンド+1mmの領域のミクロ組織が面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと残部が上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織である縦シーム溶接継手を有することを特徴とする、溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管。
但し、PCM = C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×Bで各元素は含有量を示す。
【請求項2】
更に、質量%で、
Ca:0.0005〜0.01%
REM:0.0005〜0.02%
Zr:0.0005〜0.03%
Mg:0.0005〜0.01%
B:0.0001〜0.0010%
の一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管
【請求項3】
溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域の溶接熱影響部硬さが、250≦HV(98N)≦350を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管。
【請求項4】
請求項1または2記載の成分組成を有する鋼板を冷間加工で管状に成形した後、縦シーム溶接を溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域のミクロ組織が面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織となる溶接条件で行うことを特徴とする溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。
【請求項5】
縦シーム溶接後、拡管することを特徴とする請求項4記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガスや原油の輸送用として好適な、管厚が6mm以上で、引張り強さが760MPa以上の、溶接熱影響部(以下、HAZ)の低温靭性に優れた高強度溶接鋼管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガスや原油の輸送用として使用される溶接鋼管は,高圧化による輸送効率の向上や薄肉化による現地溶接施工能率の向上のため、年々高強度化され、既にX100グレードの鋼管が実用化されている。また、引張強度900MPaを超えるX120グレードに対する要求についても具体化されつつある。
【0003】
このような高強度溶接鋼管の溶接熱影響部靭性に関し,例えば特許文献1には、最終溶接後、溶接部の冷却速度が600℃から400℃まで少なくとも1℃/s以上で冷却することによって、HAZ粗粒域の上部ベイナイト組織中のMA量を低減し、HAZの高靭性化を図ることが記載されている。
【0004】
また、特許文献1で問題としているSCCGHAZやICCGHAZ部の再熱HAZ部分は,極微小領域であり、且つ欠陥の存在が考えにくい肉厚中心付近である。よって、この部分の低靭性が溶接鋼管の使用上、特に問題とならない場合も多いと考えられる。
【0005】
特許文献2には、HAZのミクロ組織を下部ベイナイトとして、靭性を向上させるため、シーム部の仮付けを除去した後外面側の溶接を行うことにより、溶接入熱を小入熱とした溶接鋼管の製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開2004−99930号公報
【特許文献2】特許第3702216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1が対象とする溶接鋼管は、PCMが低い成分を母材とするもので、引張り強さが760MPaを超える、PCMが高い成分を母材とする鋼管についての製造指針は得られない。
【0007】
また、特許文献2記載の方法は、HAZのミクロ組織を完全に下部ベイナイト組織とするため、PCMの範囲を非常に狭い範囲に限定することが必要で、製造安定性が懸念される。
【0008】
そこで、本発明は上述した問題点を解決すべく、縦シーム溶接部のHAZ靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、引張り強さが760MPa以上で、かつHAZ靭性に優れた高強度溶接鋼管を開発するため、鋭意研究を行い、以下の知見を得た。
1.HAZにおいて靭性が最も低下する部位は、HAZ粗粒域(Coarse−grain HAZ、以後CGHAZ)で、溶接ボンド部から少なくとも溶接ボンド+1mmの領域である。
2.CGHAZのミクロ組織は、母材のPCM値と、溶接後の冷却において、γ‐α相変態する800℃から500℃の温度域の冷却速度の組合わせによって、硬質のMAを大量に含む上部ベイナイト組織や、強度の高いマルテンサイト組織を一定分率以下に抑制した、下部ベイナイト組織を主体とすると最も靭性が向上する。
本発明は上記知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.質量%で、
C: 0.03〜0.12%
Si: 0.01〜0.5%
Mn: 1.5〜3.0%
Al: 0.01〜0.08%
Nb: 0.01〜0.08%
Ti: 0.005〜0.025%
N: 0.001〜0.010%
O: 0.003%以下
S: 0.003%以下
更に、
Cu: 0.01〜1%
Ni: 0.01〜1%
Cr: 0.01〜1%
Mo: 0.01〜1%
V: 0.01〜0.1%
の一種または二種以上を含有し、
CM値が0.19≦PCM≦0.30を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる母材と溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域のミクロ組織が面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織である縦シーム溶接継手を有することを特徴とする、溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管。
但し、PCM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×Bで各元素は含有量を示す。
2.更に、質量%で、
Ca:0.0005〜0.01%
REM:0.0005〜0.02%
Zr:0.0005〜0.03%
Mg:0.0005〜0.01%
B:0.0001〜0.0010%
の一種または二種以上を含有することを特徴とする1記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管。
3.溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域の溶接熱影響部硬さが、250≦HV(98N)≦350を満たすことを特徴とする1または2記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管。
4.1または2に記載の成分組成を有する鋼板を、冷間加工で管状に成形した後、縦シーム溶接を溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域のミクロ組織が面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織となる溶接条件で行うことを特徴とする溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。
5.縦シーム溶接後、拡管することを特徴とする4記載の溶接熱影響部靭性に優れた引張り強さが760MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、縦シーム溶接部のHAZ靭性に優れた,引張強度760MPa以上の高強度溶接鋼管およびその製造方法が得られ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、母材の成分組成、縦シーム溶接部の溶接ボンドから溶接ボンド+1mmまでの領域のミクロ組織および当該組織を得るために必要な溶接条件を規定する。
【0012】
[成分組成]%は質量%とする。
C:0.03〜0.12%
Cは低温変態組織においては過飽和固溶することで強度上昇に寄与する。この効果を得るためには0.03%以上の添加が必要であるが、0.12%を超えて添加すると、鋼管の円周溶接部の硬度上昇が著しくなり、溶接低温割れが発生しやすくなるため、上限を0.12%とする。
【0013】
Si:0.01〜0.5%
Siは脱酸材として作用し、さらに固溶強化により鋼材の強度を増加させる元素であるが、0.01%未満ではその効果がなく、0.5%を超えて添加すると靱性が著しく低下するため上限を0.5%とする。
【0014】
Mn:1.5〜3.0%
Mnは焼入性向上元素として作用する。1.5%以上の添加によりその効果が得られるが、連続鋳造プロセスでは中心偏析部での濃度上昇が著しく、3.0%を超える添加を行うと、中心偏析部での遅れ破壊の原因となるため、上限を3.0%とする。
【0015】
Al:0.01〜0.08%
Alは脱酸元素として作用する。0.01%以上の添加で十分な脱酸効果が得られるが、0.08%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し、靱性劣化の原因となるため、上限を0.08%とする。
【0016】
Nb:0.01〜0.08%
Nbは熱間圧延時のオーステナイト未再結晶領域を拡大する効果があり、950℃以下を未再結晶領域とするため、0.01%以上添加する。一方、0.08%を超えて添加すると、HAZの靱性を著しく損ねることから上限を0.08%とする。
【0017】
Ti:0.005〜0.025%
Tiは窒化物を形成し、鋼中の固溶N量低減に有効で,析出したTiNはピンニング効果でオーステナイト粒の粗大化を抑制して、母材、HAZの靱性向上に寄与する。当該ピンニング効果を得るためには0.005%以上の添加が必要であるが、0.025%を超えて添加すると炭化物を形成するようになり、その析出硬化で靱性が著しく劣化するため、上限を0.025%とする。
【0018】
N:0.001〜0.01%
Nは通常鋼中の不可避不純物として存在するが、Ti添加により、TiNを形成する。TiNによるピンニング効果で、オーステナイト粒の粗大化を抑制するために0.001%以上鋼中に存在することが必要であるが、0.01%を超える場合、溶接部、特に溶接ボンド近傍で1450℃以上に加熱された領域でTiNが分解し、固溶Nの悪影響が著しいため、上限を0.01%とする。
【0019】
Cu、Ni、Cr、Mo、Vの一種または二種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、Vはいずれも焼入性向上元素として作用するため、高強度化を目的に、これらの元素の一種,または二種以上を添加する。
【0020】
Cu:0.01〜1%
Cuは、0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。しかし、1%以上の添加を行うと、靱性劣化が生じるため、上限を1%とする。
【0021】
Ni:0.01〜1%
Niは、0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。特に、多量に添加しても靱性劣化を生じないため、強靱化に有効であるが、高価な元素であり、かつ1%を超えて添加しても強度上昇が飽和するため、上限を1%とする。
【0022】
Cr:0.01〜1%
Crもまた0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。一方、1%を超えて添加すると、靱性が劣化するため、上限を1%とする。
Mo:0.01〜1%
Moもまた0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。一方、1%を超えて添加すると、靱性が劣化するため、上限を1%とする。
V:0.01〜0.1%
Vは炭窒化物を形成することで析出強化し、特に溶接熱影響部の軟化防止に寄与する。0.01%以上の添加によりこの効果が得られるが、0.1%を超えて添加すると、析出強化が著しく靱性が低下するため、上限を0.1%とする。
【0023】
O:0.003%以下、S:0.003%以下
本発明でO、Sは不可避的不純物であり含有量の上限を規定する。Oは、粗大で靱性に悪影響を及ぼす介在物生成を抑制するため、0.003%以下とする。Sは、含有量が多いとMnSの生成量が著しく増加し、母材の靭性が劣化するため、0.003%以下とする。
【0024】
CM:0.19〜0.30
CMはC+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×Bで表す溶接割れ感受性指数で、各元素は含有量とし、含有しない元素は0とする。
【0025】
本発明では、継手強度≧760MPaを達成するためPCM:0.19以上とする。図1は内外面1層サブマージアーク溶接を行った溶接鋼管の外面下1mmの位置における硬さ分布を示し、1サイクルの熱影響下において、鋼のオーステナイト化温度(Ac点)直上の温度に加熱された領域近傍がHAZ最軟化部となる。
【0026】
FEM計算による解析結果から、HAZ部の強度が最軟化部強度で一定であると仮定して、継手強度≧760MPaを達成するためには、HAZ最軟化部の硬さを210(Hv(98N))以上とすればよいことが判った。
【0027】
そこで、種々のPCMの実験鋼塊から採取した再現熱サイクル試験片に、サブマージアーク溶接の一層溶接でHAZ最軟化部を生じる、Ac点直上を最高加熱温度とする熱サイクルを模した再現熱サイクルを付与して硬さ試験を行った。尚、加熱温度を900℃、800℃〜500℃間の冷却速度を5℃/sとした。
【0028】
図2に試験結果を示す。PCM:0.19以上で、継手強度≧760MPaを達成するために必要なHAZ最軟化部の硬さである210(Hv(98N))が得られる。
【0029】
一方,PCMの上限は円周溶接性確保の観点から0.30とする。再現熱サイクル試験を採取した実験鋼塊を用いてy形溶接割れ試験(試験雰囲気:30℃ー80%)を行い、100℃予熱で低温割れが防止されるPCMの上限として0.30を得た。
【0030】
以上が本発明に係る鋼の基本成分組成であるが、溶接部の靭性を更に向上させる場合、Ca、REM、Zr、Mgの一種または二種以上を添加する。
Ca、REM、Zr、Mg
Ca、REM、Zr、Mgは鋼中で酸硫化物あるいは炭窒化物を形成し、主に溶接熱影響部におけるオーステナイト粒粗大化をピンニング効果で抑制し、靱性を向上させる目的で添加する。
【0031】
Ca:0.0005〜0.01%
製鋼プロセスにおいて、Ca添加量が0.0005%未満の場合、脱酸反応支配でCaSの確保が難しく靱性改善効果が得られないので、Caの下限を0.0005%とする。
【0032】
一方、Ca添加量が0.01%を超えた場合、粗大CaOが生成しやすくなり、母材を含めて靱性が低下するうえに、取鍋のノズル閉塞の原因となり、生産性を阻害するため、上限は0.01%とし、添加する場合は、0.0005〜0.01%とする。
【0033】
REM:0.0005〜0.02%
REMは鋼中で酸硫化物を形成し、0.0005%以上添加することで溶接熱影響部の粗大化を防止するピンニング効果をもたらす。しかし、高価な元素であり、かつ0.02%を超えて添加しても効果が飽和するため、上限を0.02%とし、添加する場合は、0.0005〜0.02%とする。
【0034】
Zr:0.0005〜0.03%
Zrは鋼中で炭窒化物を形成し、とくに溶接熱影響部においてオーステナイト粒の粗大化を抑制するピンニング効果をもたらす。十分なピンニング効果を得るためには、0.0005%以上の添加が必要であるが、0.03%を超えて添加すると、鋼中の清浄度が著しく低下し、靱性が低下するようになるため、上限を0.03%とし、添加する場合は、0.0005〜0.03%とする。
【0035】
Mg:0.0005〜0.01%
Mgは製鋼過程で鋼中に微細な酸化物として生成し、特に、溶接熱影響部においてオーステナイト粒の粗大化を抑制するピンニング効果をもたらす。十分なピンニング効果を得るためには、0.0005%以上の添加が必要であるが、0.01%を超えて添加すると、鋼中の清浄度が低下し、靱性が低下するようになるため、上限を0.01%とし、添加する場合は、0.0005〜0.01%とする。
【0036】
B:0.0001〜0.0010%
Bは溶接熱影響部においてオーステナイト粒界に偏析し、焼入れ性を高める効果があり、より低い成分での下部ベイナイトあるいはマルテンサイトの生成を容易にする。この効果は0.0010%以下の添加で顕著であり、0.0010%を超えて添加すると、靭性が低下するようになるため、上限を0.0010%とし、添加する場合は、0.0001〜0.0010%とする。
【0037】
本発明では、上述した成分組成を有する鋼を、常法により熱間圧延、加速冷却後、焼き戻しを行って所定の板厚の鋼板とする。
【0038】
[ミクロ組織]
本発明では、縦シーム溶接部の溶接ボンドから溶接ボンド+1mmまでの領域のミクロ組織を、面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織とする。尚、ミクロ組織は表面下2mmにおいて規定する。
【0039】
上記ミクロ組織の場合、溶接ボンド部から溶接ボンド+1mmの領域は、250≦HV(98N)≦350の硬さとなり、優れた溶接部靭性が得られる。
【0040】
図3は、溶接ボンド部の再現熱サイクルシャルピー試験結果に及ぼす硬さの影響を示し、250≦HV(98N)≦350で、優れた低温靭性が得られている。硬さ試験は、再現熱サイクルシャルピー試験と同じ再現熱サイクルを付与した試験片で行った。尚、ミクロ組織に関する規定は、CGHAZを対象とするもので、溶接ボンド+1mmを超えた領域がCGHAZの場合は適用する。
【0041】
[縦シーム溶接条件]
本発明に係る鋼管の縦シーム溶接は、溶接ボンドから溶接ボンド+1mmまでの領域のミクロ組織が、面積率で少なくとも50%以上の下部ベイナイトと、上部ベイナイトあるいはマルテンサイトあるいはそれらの混合組織となるように、溶接条件を選定する。具体的溶接条件は予め試験材を用いて選定すれば良く、本発明では特に規定しない。
【0042】
本発明に係る鋼で、溶接法をサブマージアーク溶接とし、溶接条件を溶接部の800−500℃間の冷却速度で代表する場合、溶接条件を(1)式を満足するように選定すると上述したミクロ組織が得られる。
0.228≦PCM+0.0174×ln(v(800−500℃間))≦0.350・・・(1)
但し、PCMは被溶接材の成分組成について求めたもの、vは溶接部の800〜500℃間の冷却速度(℃/s)で(2)式で求める。
(800−500℃間)(℃/s)=300/t(800−500℃間)(s)・・・(2)
(800−500℃間)(s)は溶接部(溶接ボンド部から溶接ボンド+1mm)における800〜500℃までの冷却速度で数1で求めることが可能である。
【0043】
【数1】


【0044】
但し、数1において、Q(J/cm)=10000Q、h:板厚(mm)、θ:初期温度(℃)、Qは溶接入熱(kJ/mm)を示す。
【0045】
溶接入熱Q(kJ/mm)はΣ(I×V)×60/v/1000とする。ここで、I:i番目の電極の電流(A)、V:i番目の電極の電圧(V)、v:溶接速度(mm/min)とする。
【0046】
(1)式において、パラメータ:PCM+0.0174×ln(v(800−500℃間))が0.228未満の場合、多量のMAを含む上部ベイナイト組織の分率が50%を超え、HAZ靭性が劣化する。
【0047】
一方、0.350を超えた場合、マルテンサイト組織の分率が50%を超え、HAZ靭性が劣化する。図4に(1)式を満足する範囲を図示する。
本発明に係る鋼管は、要求される真円度に応じて、縦シーム溶接後、拡管して製造する。
【実施例】
【0048】
表1に示す化学組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造によって220mm厚の鋳片とした後、表2に示す熱間圧延、加速冷却、再加熱条件で鋼板A〜Hを作製した。なお,再加熱は焼戻し処理が目的で、加速冷却設備と同一ライン上に設置した誘導加熱型の加熱装置を用いて行った。
【0049】
更に、これらの鋼板をUプレス、Oプレスによって成形した後、内面および外面よりサブマージアーク溶接した。その後、拡管して外径400〜1626mmの鋼管にした。
【0050】
【表1】


【0051】
【表2】


【0052】
得られた鋼管の継手強度を評価するため,API−5Lに準拠した全厚引張試験片を採取し、引張試験を実施した。
【0053】
更に、鋼管の溶接継手部の板厚中央位置からJIS Z2202(1980)のVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を実施した。なお、ノッチはCGHAZにおいて板厚中央部における母材と溶接金属が1:1の割合で存在する位置とした(図5)。CGHAZの硬度、CGHAZの靱性(以下HAZ靭性)の試験結果をまとめて表3に示す。
【0054】
鋼管の継手強度が760MPa以上、溶接ボンド部の試験温度−30℃でのシャルピー吸収エネルギ−100J以上を本発明範囲内とする。
【0055】
【表3】


【0056】
化学組成から計算されるPCMとHAZ部冷却速度の組合わせが本発明の範囲内である、発明例No.1〜18は所望のミクロ組織を有し、高HAZ靭性を示した。
【0057】
一方,HAZ部冷却速度が低く、PCMとHAZ部冷却速度の組合わせが本発明の下限を下回った比較例No.19〜23は,上部ベイナイト組織の分率が高くなったために,CGHAZ硬さが低下するとともに、HAZ靭性が低下した。
【0058】
また,HAZ部冷却速度が高く、PCMとHAZ部冷却速度の組合わせが本発明の上限を上回った比較例No.24は,マルテンサイト組織の分率が高くなったために,CGHAZ硬さが上昇するとともに、HAZ靭性が低下した。
【0059】
また,PCMが本発明の下限を下回った比較例No.25は,母材強度が760MPaを下回り,加えて,PCMとHAZ部冷却速度の組合わせが本発明の下限を下回ったため,CGHAZ組織が上部ベイナイト組織となり,CGHAZ硬さが低下するとともに,HAZ靭性が低下した。
【0060】
また,PCM値が本発明の上限を上回った比較例No.26は,母材靭性が劣化し,加えて,PCM値とHAZ部冷却速度の組合わせが本発明の上限を上回ったため,CGHAZ組織がマルテンサイト組織となり,CGHAZ硬さが上昇するとともに,HAZ靭性が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】溶接継手部の硬度分布(外側表面下1mm)の一例を示す図。
【図2】溶接熱影響部の最軟化硬さに及ぼすPCMの影響を示す図。
【図3】再現熱サイクルによる溶接ボンド部の低温靭性と硬さの関係を示す図。
【図4】CGHAZにおいて下部ベイナイト組織分率を50%以上とするための、PCMとHAZ冷却速度の範囲を示す図。
【図5】溶接継手シャルピー試験におけるノッチ位置を説明する図。

特許の図
【出願人】 【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
【出願日】 平成18年8月30日(2006.8.30)
【代理人】 【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎

【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
【公開番号】 特開2008−56961(P2008−56961A)
【公開日】 平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願番号】 特願2006−233188(P2006−233188)