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【発明の名称】 摺動材料およびその製造方法
【発明者】 【氏名】中村 新蔵
【氏名】佐藤 直樹
【氏名】白戸 俊男
【課題】油圧機械や建設機械のように過酷な条件で使用する場合であっても、焼付を起こしたり、摺動材料と鋼板とが剥離したりすることのない信頼性のある摺動材料を開発する。

【構成】Cu-Sn合金のマトリックス中にBiを偏在させることで、有効な油溜まりを形成させる。そのような摺動材料の製造に際しては、Cu-Sn合金粉末と、Bi粉末を不均一に混合してから鋼板上に散布し、それを焼結する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、該鋼板上に設けられた焼結層とから成り、該焼結層が、Sn8〜12質量%、残部CuからなるCu-Sn合金のマトリックス中に、Cu, Sn, Biの合計量に対しBi5〜15質量%の割合でBiが分散して成る焼結層であり、該焼結層におけるBiの偏在度が1/9〜3/9であることを特徴とする摺動材料。
【請求項2】
前記Cu-Sn合金のSn含有量が9〜11質量%である請求項1記載の摺動材料。
【請求項3】
前記焼結層のBi含有量が7〜9質量%である請求項1または2記載の摺動材料。
【請求項4】
(i)Sn8〜12質量%、残部Cuからなる合金粉とBi粉を混合して、該合金粉とBi粉との合計量に対してBi5〜15質量%であって、Bi粒子が偏在する不均一混合粉にする混合工程;
(ii)前記不均一混合粉を鋼板上に層状に散布する散布工程;
(iii)散布された不均一混合粉と鋼板を加熱することにより不均一混合粉と鋼板、および不均一混合粉の粒子同士を焼結し、鋼板上にBi偏在の多孔質焼結層が形成された複層材を得る一次焼結工程;
(iv)前記複層材を押圧して前記多孔質焼結層を緻密化する一次押圧工程;
(v)一次押圧工程で加工硬化した鋼板の硬度を下げるとともに緻密化した焼結層にささらに焼結を行うため加熱する二次焼結工程;および
(vi)二次焼結工程後、得られた複層材をさらに押圧する二次押圧工程;
からなることを特徴とする請求項1記載の摺動材料の製造方法。
【請求項5】
前記一次焼結工程と二次焼結工程における加熱温度が750〜850℃であることを特徴とする請求項4記載の摺動材料の製造方法。
【請求項6】
前記一次焼結工程と二次焼結工程における加熱を還元雰囲気中において行うことを特徴とする請求項4または5記載の摺動材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、産業機械、建設機械等の摺動部品に適した摺動材料、特に鉛を含まない摺動材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、産業機械、建設機械には、多数の回転部があり、その回転部には必ず摺動部品が設置されている。例えば、自動車では回転シャフトを支持する軸受、油圧機械のギヤーポンプでは歯車の側面を押さえるサイドプレート、そしてピストンポンプではシリンダー、斜板、シュー、等の摺動部品がそれぞれ設置されている。
【0003】
ところで摺動部品が設置された機械が故障して修理に多大な費用がかかったり、古くなって使い勝手が悪くなったりした場合は廃棄されるが、省資源の関係から機械を構成する材料の多くは回収して再使用されている。しかしながら機械に設置された摺動部品は回収されることなく埋め立て処分されていた。なぜならば摺動部品の多くは鋼板と摺動合金を容易に分離できないからである。つまり摺動部品では、摺動合金単体では機械的強度が充分でないばかりでなく、高価となるため、摺動合金と鋼板とを接合して使用している。従って、摺動合金と鋼板とが金属的な接合、即ち、摺動合金の金属と鋼板の金属中にそれぞれの金属原子が侵入した状態で接合されているため、摺動合金と鋼板を分離して回収することができない。その結果、摺動部品を溶解して鉄材として回収しようとしても、鉄中に摺動合金成分、例えばCu、Pb、Snが大量に含有されてしまい鉄材として使用できなくなる。このように摺動部品は再使用ができないことから、多くは産業廃棄物として埋め立て処分されていた。
【0004】
従来のCuを主成分とした銅系摺動合金の多くは、Cu合金にPbが添加された鉛青銅(LBC3:Cu-10Sn-10Pb)であった。鉛青銅は、CuとSn合金のマトリックス中に鉛が分散して含有されているものであり、硬いCu-Sn合金のマトリックスが磨耗することなく相手側部品である被摺動体を保持し、鉛が被摺動体の表面に薄く延び広がって潤滑油の作用をすることにより良好な摺動性を呈している。この鉛青銅は、安価で、しかも適度な摺動特性を有することから、古くから各種の摺動部品に使用されてきたものである。しかしながら、鉛青銅使用の摺動部品が埋め立て処分され、この摺動部品に酸性雨が接触すると、鉛青銅中の鉛成分が溶出して地下水を汚染するようになる。このように鉛を含んだ地下水を人間や家畜が長年月にわたって飲用すると、鉛が体内に蓄積されて、ついには鉛中毒をおこすとされている。そのため、現在は地球規模で鉛の使用が規制されるようになってきており、摺動部品を使用する業界においても鉛を含まない摺動合金が強く要求されている。
【0005】
鉛を含まない銅系摺動合金としては、Cuを主成分としてCu基にSnとBiを添加したCu-Sn-Bi合金の銅系摺動合金が提案されている。この銅系摺動合金は、Biが従来の鉛青銅のPbと同様の作用、即ち、Biが非摺動体の表面を薄く覆って潤滑油の作用をし、良好な摺動特性を呈するようになっている。
【0006】
Cu、Sn、Biからなる摺動合金の公知文献としての特開平9-249924号(特許文献1)は、Cuマトリックス中にAg、Sn、Sb、In、Mn、Fe、Bi、Zn、Ni、Crのいずれかを固溶させたものである。特開平10-330868号(特許文献2)は、Cu基にBiを5〜50重量%含有したものである。特開2003-194061号(特許文献3)は、Cu基にSn1〜11質量%、Bi25質量%以下を含有したものである。
【0007】
上記特許文献1ではCuのマトリックス中にBiが固溶しており、特許文献2ではCuまたはCu基の結晶粒界にBi相が析出しており、特許文献3ではCu、Sn、Biが合金化されたものを粉末にして鋼板上に焼結したものであって、BiはCu-Snに溶け込んでいる。つまり上記特許文献は、Biがマトリックス全体に均一に分散されていたり、均一に溶け込んでいたりするものであった。
【0008】
特開2005―163074号(特許文献4)も同様にBiが均一に分散して含有されているCi-Sn-Bi系摺動材料を開示している。
【特許文献1】特開平9-249924号
【特許文献2】特開平10-330868号
【特許文献3】特開2003-194061号
【特許文献4】特開2005-163074号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで高荷重や高速で使われる建設機械や油圧ポンプでは、摺動部品の摺動面に潤滑油を供給して使用するが、従来のCu-Sn-Bi合金を鋼板に接合した銅系摺動材料(以下、摺動材料という)で作られた摺動部品は、潤滑油を使用した場合に潤滑油の効果を充分に発揮できなかった。
【0010】
そのような用途に用いる摺動部品における潤滑油は、常時摺動面に定量存在していることが必要であり、そのため摺動部品では摺動面に潤滑油を溜めておく油溝を形成してある。この油溝は、長い線状や半球状の凹みであり、摺動部品への油溝の形成は摺動材料の摺動面に切削加工やプレス加工で行っていた。
【0011】
しかしながら摺動面にそのような油溝を形成すると、油溝の部分の摺動合金の厚さが薄くなるため、その部分の接合強度が弱くなり、摺動部品として過酷な使用条件下では、摺動合金が剥離することがあった。また油溝をプレス加工で形成すると、油溝の形成部分が加工硬化してしまい、その後の加工、例えば軸受では板状の摺動材料を円筒状に曲げ加工するときに、正確な真円度が得られないことがあった。
【0012】
本発明は、潤滑油の効果が充分に発揮できるばかりでなく、潤滑油を使用しない所謂「ドライ状態」でも優れた摺動特性を発揮することができる摺動材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明者らは、摺動合金中にBiが存在していると、Biが非摺動体に付着して固体潤滑剤としての作用を呈し、また摺動合金の表面にあるBiが摺動部品の使用中に被摺動体に付着して、摺動材料から抜けた部分が微小な凹みとなることに着目した。
【0014】
本発明者らは、そのような微小な凹みが多く集まると、そこに潤滑油を溜めることができ、切削加工やプレス加工で問題となる油溝を設けなくても済むことを見出して本発明を完成させた。
【0015】
本発明の摺動材料はCu-Sn合金のマトリックス中にBiを偏在させたものであるが、特にSnとBiの添加量を適当な範囲で選択すると、摺動合金と鋼板との接合強度が強くなり、また摺動特性が古くから使われてきた摺動合金LBC3よりも優れているものが得られる。
【0016】
本発明は、鋼板と、該鋼板上に設けられた焼結層とから成り、該焼結層が、Sn8〜12質量%、残部CuからなるCu-Sn合金のマトリックス中にCu、Sn、Biの合計量に対しBi5〜15質量%の割合でBiが分散して成る焼結層であり、前記Cu-Sn合金のマトリックス中へのBiの偏在度が1/9〜3/9であることを特徴とする摺動材料である。
【0017】
そのようなBiの偏在は、Biが固溶しているCu−Sn−Bi合金ではその実現が困難であるが、Cu-Sn合金粉末にBi粉末を不均一に混合して焼結することで得られることが判明した。
【0018】
したがって、本発明は、別の面からは、下記工程(i ) 〜(vi)からなる摺動材料の製造方法である。
(i)Sn8〜12質量%、残部Cuからなる合金粉とBi粉を混合して、合金粉とBi粉との合計量に対して、Bi5〜15質量%であって、Bi粒子が偏在する不均一混合粉にする混合工程;
(ii)前記不均一混合粉を鋼板上に所定の厚さに散布する散布工程;
(iii)散布された不均一混合粉と鋼板を加熱することにより不均一混合粉と鋼板、および不均一混合粉の粒子同士を焼結して鋼板上にBi偏在の多孔質焼結層が形成された複層材を得る一次焼結工程;
【0019】
(iv)前記複層材を押圧して前記多孔質合金層を緻密化する一次押圧工程;
(v)一次押圧工程で加工硬化した鋼板の硬度を下げるとともに緻密化した焼結層にさらに焼結を行うため加熱する二次焼結工程;および
(vi) 二次焼結工程後、得られた複層材をさらに押圧する二次押圧工程;
からなることを特徴とする焼結層におけるBiの偏在度が1/9〜3/9である摺動材料の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、摺動面を構成するCu-Sn焼結合金にBiが偏在して含有されているため、Biが非摺動体に付着してBiが除去されたときに、Biが集中していた区画域、つまりBi高濃度領域では大量の凹みができる。それらが局所的に集中すると、微小凹みが均一に分散している場合と比較して、全体として油保持容量が高くなり、そのような凹みが効果的な油溜まりとなる。つまり、本発明によれば、ある区画域では微小な油溜まりが集中して存在し、或る区画域では油溜まりが少ないことになるが、摺動部品の摺動面全体からみると、油保持容量の高められた油溜まりの集中した領域が適当に分散して存在するようになる。従って、潤滑油を使用する摺動部品では、摺動部品と非摺動体間に潤滑油が全体として常に適量存在して良好な摺動特性を発揮する。
【0021】
また本発明の摺動材料では、Cu-Sn合金の焼結マトリクス中にBiが偏在しているため、そのような摺動材料から構成した摺動部品には潤滑油を溜める油溝が予めプレス加工や切削加工を施すことなく摺動部材の使用中に容易に形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明では、BiをCu-Sn合金のマトリックス中に偏在させてある。この理由は、Biをマトリックス中に均一に分散させると、Biは非常に小さい粒であるため、摺動部品の使用中にBiが相手方に付着して摺動面から抜け出た跡は非常に小さな凹みとなるが、この小さな凹みでは潤滑油を充分に溜めることはできない。しかしながら小さな凹みでも、部分的に多数集まっていると、潤滑油は溜まるようになる。そこで本発明では、Cu-Sn合金のマトリックス中にBiを偏在させて、摺動部品使用中に抜け出たBiの跡を部分的に集中させ、ここに適量の潤滑油が溜められるようにしたものである。
【0023】
本発明の摺動材料において、Biは前述のように非摺動体に付着して抜け出た跡に油溜まりを形成するものであるが、Biの配合量が5質量%よりも少ないとマトリックス中に偏在するBiの量が少なくなり、Biが抜け出た跡に適量の油を溜めることができない。しかるにBiの配合量が15質量%を超えて添加されると、Biが抜けて形成される油溜まりが多くなりすぎて過剰の潤滑油が摺動面に存在し、周囲に飛び散って不要な箇所に潤滑油を付着させたり、汚したりするようになる。
【0024】
またBiは固体潤滑剤としての効果をも有しており、これが5質量%より少ないと摺動特性向上の効果が現れない。本発明においてBiの好ましい含有量は7〜9質量%である。
本発明におけるCu-Sn合金のSnの含有量は8〜12質量%であるが、Snが8質量%よりも少ないと混合粉末を焼結したときに粉末同士、および粉末と鋼板との接合強度が充分とはならず、しかるにSnの含有量が12質量%を超えるとマトリックスが硬くなりすぎて非摺動体を傷つけるようになってしまう。Snの好ましい含有量は9〜11質量%である。
【0025】
本発明において、「Biの偏在度」は「BiがCu-Sn合金のマトリックス中に偏在している程度」である。本発明では、直径90mmの円板状試験片に焼結層からなる摺動合金層を設け、その表面の顕微鏡視野の摺動面の任意の領域から任意の3 mm×27 mmの領域を選び、この領域を1mm×9mm=面積9mm2に区画した合計9区画域のそれぞれにおいてBi含有量を求め、それらの区画のうちでの平均Bi含有量が3質量%以下の区画域をBi偏在区画と呼び、そのようなBi偏在区画の全区画に対する割合をBiの偏在度」という。本発明にあっては、Bi偏在区画は、少なくとも1区画、多くても3区画あり、これは「Biの偏在度」で云えば、1/9〜3/9である。
【0026】
このように本明細書では、このBi偏在区画のBi含有量をBiの偏在濃度といい、そして、Bi偏在区画の全体の区画に対する割合をBi偏在度といい、本発明では、Bi偏在度を1/9ないし3/9,に規定する。
【0027】
Biの偏在濃度を3質量%以下と規定するのは、それよりもBi濃度が高いと、その他の領域においてBiの点在濃度の高い領域が少なくなり、それだけ摺動面に適切な量の潤滑油を確保できないからである。
【0028】
また、同様に、Bi偏在度が1/9よりも少ないと、つまりBi偏在区画がなくなると、摺動面に適切な量の潤滑油を確保できず、一方、それが3/9よりも多くなると、つまりBi偏在区画の数が3を超えると、摺動面に存在する潤滑油の量が多くなりすぎる。
【0029】
このようなBi偏在度は、各種方法で調整でき、それから適宜選べばよい。例えば、後述するようにSn-Cu合金粉末とBi粉を混合して混合粉末とするときの混合時間を変更することで調整できる。別の方法としては、粉末粒度を変えることで、見掛け比重の違いを利用して偏在度を調整してもよい。一般に、混合時間が長ければそれだけ混合物は均一となり、また、同じ混合時間では見掛け比重の差が小さくなればそれだけ混合物は均一になる。
【0030】
図1は、本発明にかかるCu-Sn合金の焼結マトリックス中でのBiの偏在の様子を模式的に説明するものである。図中、白抜き点がBi粒子を示す。摺動材料の摺動面の任意の領域を1mm×9mmの9mmの合計9の領域に区画したときに、各区画域にはCu-Sn合金のマトリックス(M)中に各区画における平均含有量でBiが最少1質量%、最大20質量%のBiが含有されている。つまり、摺動面の或る区画域(1)では、平均含有量で、Biが3質量%、或る区画域(2)ではBiが10質量%、或る区画域(3)ではBiが2質量%、或る区画域(4)ではBiが9質量%、或る区画域(5)ではBiが7質量%、或る区画域(6)ではBiが15質量%、或る区画域(7)ではBiが6質量%、或る区画域(8)ではBiが5質量%、そして或る区画域(9)ではBiが8質量%存在しているように、9mmに分割された9つの区画域ではBiの存在がバラバラに偏在しているものである。
【0031】
この場合にBi含有量3質量%以下の領域、つまりBi偏在区画は2つであるから、Bi偏在度は2/9となる。
本発明にあっては、摺動面の任意の領域について上述の方法により1領域でもBiの偏在度が1/9〜3/9となる領域があれば、本発明の範囲内である。
【0032】
各区画におけるBi濃度の決定は、顕微鏡視野においてBi粒子の面積割合から計算で求めた。必要により、各区画の焼結合金の化学分析によりBi濃度を求めてもよい。
本発明の摺動材料では、Cu-Sn合金に対してBiの添加量が5〜15質量%の場合、Bi偏在度は、下限は1/9以上であり、上限は1/3以下となる。Bi偏在区画の数が1よりも少ないと、Biの量も全体に均一に分散することになって油溜まりの形成が少なく、Bi偏在区画の数が3よりも多くなると油溜まりが多くなりすぎる。
【0033】
本発明の摺動材料の製造方法において、Cu-Sn合金粉中にBi粉が偏在するように混合し、それを鋼板上に散布して焼結するが、このときCuとSnの結合はBiがCuやSnと結合するよりも強いため、焼結温度で溶融したBiはCu-Sn合金とは結合せず、Cu-Snのマトリックス中に単独で存在するようになる。
【0034】
本発明の摺動材料の製造方法では、Sn8〜12質量%、残部Cuからなる合金粉とBi粉を混合して、前記合金粉とBi粉との合計量にき対して、Bi5〜15質量%であって、Biが偏った不均一混合粉にする。
【0035】
本発明の摺動材料の製造方法の好適態様では、Cu-Sn合金粉とBi粉をBi粉が偏在するように混合して、得られる混合粉を鋼板に層状に散布する。Cu-Sn合金粉中でBi粉が偏在するように混合するには、粉末混合時間を調整する。例えばCu-Sn合金粉とBi粉をY字混合機で混合する場合、混合時間が5分以内であればBiは適当に偏在するが、5分を超えると偏在が少なくなり、10分以上になるとCu-Sn合金粉とBi粉は均一に混ざり合ってしまう。
【0036】
本発明の摺動材料の製造方法での焼結温度は、Cu-Sn合金は完全に溶融しないが、Cu-Sn合金粉同士、Cu-Sn合金粉と鋼板の金属原子が相互拡散する温度である。本発明の摺動材料の焼結に適した温度は750〜850℃、好ましくは780〜820℃である。焼結温度が750℃よりも低いと合金粉末や鋼板の金属間の拡散が充分に行われず、しかるに850℃を超えるとCu-Sn合金粉が溶融してしまい、焼結ができなくなってしまう。焼結時、合金粉末や鋼板の酸化物を還元除去して充分な金属接合を行わしめるため、焼結は還元雰囲気中で行う。還元雰囲気としては水素と窒素の混合ガスが適している。
【0037】
本発明の摺動材料の製造方法では、焼結後に一次押圧を行うが、これはCu-Sn合金粉の焼結で多孔質となった部分を押しつぶして緻密化することにより、焼結層の機械的強度を向上させることにある。
【0038】
一次押圧を行うと鋼板は加工硬化し、その後の加工に支障をきたすため二次焼結して鋼板の硬度を下げる。またこの二次焼結は鋼板上の焼結層の機械的強度をさらに向上させるものでもある。つまり多孔質焼結層は押しつぶしただけでは、接触しているだけであり充分な機械的強度が得られない。そこで押しつぶした部分を金属的に接合して機械的強度を上げるため、加熱してさらに焼結を行うことで、先に押しつぶした部分を金属的に接合する。この二次焼結における加熱も還元雰囲気中で行い、二次焼結温度は一次焼結温度同様、750〜850℃、好ましくは780〜820℃である。
【0039】
摺動部品の摺動面は適当な硬さを有していないと、高荷重がかかったときに変形してPV値が充分とはならない。そこで二次焼結工程で軟化した合金層の硬度を高めるため二次押圧を行う。摺動材料としてはHv70以上の硬度が必要であり、二次焼結後にこの硬度を得るためには、圧下率は約1%以上で押圧を行う。押圧に使用する加工装置としては、プレスやローラー等がある。
【0040】
ここに、「PV値」とは、潤滑油を使用しない焼き付け試験において、試験片温度が200℃に達したときの面圧と摺動速度の積を云い、単位は(Kg/cm2)・(m/sec)である。
このようにして得られた摺動材料は、目的の摺動部品にするため仕上げ加工を行う。仕上げ加工は、摺動部品が円筒状の軸受であれば鋼板上の合金層を所定の厚さにしてから丸め加工を行う。また板状のサイドプレートやスワッシュプレートであれば合金層を所定の厚さに切削し、さらにその表面を研磨するという精密加工を行う。
【0041】
古来からあるLBC3の摺動材料は、過酷な条件下での産業機械の摺動部に問題なく使われていた。従って、本発明の摺動材料も、摺動特性がLBC3と同等以上であることを目的としたものである。LBC3のPV値は、45Kg/cm2 ・ m/secである。これに対して本発明の摺動材料のPV値は、約55〜75Kg/cm2・m/secの最大値を有している。また接合強度とは、摺動合金と鋼板との接合強度であり、10Kg/mm2以上であれば、建設機械の摺動部に用いても充分に使用可能である。このときの接合強度は合金焼結層と鋼板との接合強度であり、焼結層の1mm×9mmの区画をたがねを使って剥離したときの剪断強度を剪断面積で除した値であり、本明細書では単に剪断強度とも言う。
【0042】
以下、本発明を実施例によってさらに説明する。
実施例1〜4
本発明摺動材料の製造方法を図面に基づいて説明する。図3〜図7は本発明の摺動材料の製造方法における各工程を説明するものである。
【0043】
本例におけるに製造工程は以下のとおりである。
(i)混合工程:Y字混合機1でCu-Sn合金粉末2とBi粉末3を5分間混合して混合粉末4にする。この混合粉をランダムに採取して成分分析を行ったところ、Biは均一に存在していなかった。つまりY字混合機での5分間の混合では、Cu-Sn合金粉とBi粉とは均一に混合されず、Bi粉が偏った状態で混合される。(図2)
(ii)散布工程:鋼板5上に混合粉末4を多めに載置し、スキージ6で掻いて余分の混合粉を除去することにより厚さ2mmに散布する。(図3)
(iii)一次焼結工程:混合粉末4が散布された鋼板5をアンモニア分解ガスを用いた焼結炉7で760℃で焼結を行い、Cu-Sn粉末同士、Cu-Sn粉末と鋼板とを金属的に接合して鋼板5上に多孔質合金層8が形成された複層材9にする。このときBiはCu-Sn粉末とは合金化せず、Cu-Sn合金のマトリックス中に偏在している。(図4)
【0044】
(iv)一次押圧工程:前記複層材9を600トンプレス10により押圧し、多孔質合金層の緻密化を図る。(図5)
(v)二次焼結工程:合金層が緻密化された複層材9を焼結炉11で760℃で加熱し、押しつぶされた多孔質合金層の空隙を接合するとともに加工硬化した鋼板の硬度を下げるための二次焼結を行う。(図6)
(vi)二次押圧工程:二次焼結した複層材9を600トンプレス12により再び押圧して、合金層の硬度をHv70以上にする。(図7)
上記実施例の製造方法で得られた摺動材料の合金層を光学顕微鏡で組織を観察したところ、図1のようにマトリックス中にBiが偏在していた。
【0045】
上記工程を経て得られた摺動材料の合金層を旋盤で所定の厚さまで切削後、合金層の表面を精密旋盤で研磨し、平滑に仕上げて油圧機械用の斜板とした。
実施例と比較例の結果を表1にまとめて示す。表中の合金組成はCu-Sn合金組成とこれに対する外数としてのBi含有量を示す。
【0046】
【表1】


【0047】
表1からも明らかなように、全ての実施例の摺動材料は摺動特性が比較例よりも優れている。
【0048】
実施例5
次に、実施例1を繰り返し、下記組成例について、混合時間を調整する(5分間と20分間)ことでBi偏在の生じた試料(Bi偏析度11%)とBi偏在の見られない試料をそれぞれ得、また比較例の試料について、下記条件で油中スラスト試験を行った。
【0049】
結果を表2にまとめて示す。
Cu-Sn合金粉末(Cu-10Sn合金粉末):92質量%
Bi粉末 :8質量%
鋼板:直径90mm×厚さ6mmの円板、材質S45C
スラスト試験条件:
面圧: 0.7 N/mm2
周速: 11.5 m/sec
相手材: SCM435、外径48mm×内径40mmの円筒リング
作動軸: 鉱物油 VG 46
【0050】
【表2】


【0051】
このように、Bi偏在度が本発明の範囲内にある場合には、十分な油が保持されることから、Bi偏在のない比較例および従来例と比較して比摩耗量はほぼ1/3にまで低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の摺動材料は、特に建設機械の軸受、油圧機械の斜板、サイドプレート、シュー等の過酷な条件で使用する摺動部品に適している。しかしながら本発明の摺動材料は、上記摺動部品に限らず、事務機、家電製品、精密機械等の摺動部品にも使用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明摺動材料のCu-Sn合金のマトリックス中におけるBiの偏在状態の説明図である。
【図2】本発明摺動材料の製造方法における不均一混合粉の混合工程の説明図である。
【図3】本発明摺動材料の製造法における不均一混合粉の散布工程の説明図である。
【図4】本発明摺動材料の製造方法における一次焼結工程の説明図である。
【図5】本発明摺動材料の製造方法における一次押圧工程の説明図である。
【図6】本発明摺動材料の製造方法における二次焼結工程の説明図である。
【図7】本発明摺動材料の製造方法における二次押圧工程の説明図である。

特許の図
【出願人】 【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
【出願日】 平成19年7月6日(2007.7.6)
【代理人】 【識別番号】100081352
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 章一
【公開番号】 特開2008−50688(P2008−50688A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2007−178352(P2007−178352)