トップ :: C 化学 冶金 :: C22 冶金;鉄または非鉄合金;合金の処理または非鉄金属の処理




【発明の名称】 高強度高弾性型ステンレス鋼及びステンレス鋼線
【発明者】 【氏名】石川 浩一

【氏名】清水 哲也

【氏名】谷本 好則

【氏名】秋月 孝之

【要約】 【課題】強度、弾性率、捻回特性、耐へたり性、及び耐食性に優れた高強度高弾性型ステンレス鋼及びこれを伸線加工することにより得られるステンレス鋼線を提供すること。

【構成】0.08mass%≦C≦0.35mass%、0.20mass%≦Si≦1.00mass%、0.50mass%≦Mn≦1.50mass%、7.0mass%≦Ni≦11.0mass%、12.0mass%≦Cr≦22.0mass%、0.002mass%≦N≦0.08mass%、2.0mass%≦V≦8.0mass%、を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、マトリックス中にVを含む第2相粒子が分散している高強度高弾性型ステンレス鋼、及び、これを用いたステンレス鋼線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.08mass%≦C≦0.35mass%、
0.20mass%≦Si≦1.00mass%、
0.50mass%≦Mn≦1.50mass%、
7.0mass%≦Ni≦11.0mass%、
12.0mass%≦Cr≦22.0mass%、
0.002mass%≦N≦0.08mass%、
2.0mass%≦V≦8.0mass%、
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
かつ、マトリックス中にVを含む第2相粒子が分散している
高強度高弾性型ステンレス鋼。
【請求項2】
V、C及びNの間に次の(1)式の関係がある請求項1に記載の高強度高弾性型ステンレス鋼。
8×(C+N)≦V≦20×(C+N) ・・・(1)
【請求項3】
2.4mass%≦V≦4.0mass%である請求項1又は2に記載の高強度高弾性型ステンレス鋼。
【請求項4】
0.1mass%≦Mo≦4.0mass%、
0.05mass%≦Cu≦0.50mass%、及び、
0.1mass%≦Co≦2.0mass%
のいずれか1以上をさらに含む請求項1から3までのいずれかに記載の高強度高弾性型ステンレス鋼。
【請求項5】
次の(2)式に示すPIが18以上である請求項4に記載の高強度高弾性型ステンレス鋼。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(2)
【請求項6】
前記第2相粒子の面積率は、0.05%以上10%以下の範囲内である請求項1から5までのいずれかに記載の高強度高弾性型ステンレス鋼。
【請求項7】
P≦0.05mass%、
S≦0.010mass%、及び
O≦0.030mass%
のいずれか1以上をさらに含む請求項1から6までのいずれかに記載の高強度高弾性型ステンレス鋼。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれかに記載の高強度高弾性型ステンレス鋼に対し、少なくとも伸線加工を施すことにより得られるステンレス鋼線。
【請求項9】
引張弾性率は180〜220GPaである請求項8に記載のステンレス鋼線。
【請求項10】
その引張強さが1600〜3300MPaである請求項8又は9に記載のステンレス鋼線。
【請求項11】
引張強さ(σ)と0.2%耐力(τ)との耐力比(τ×100/σ)が84〜98%である請求項8から10までのいずれかに記載のステンレス鋼線。
【請求項12】
縦・横の弾性係数の比(ポアソン比)が0.19〜0.30である請求項8から11までのいずれかに記載のステンレス鋼線。
【請求項13】
その表面にニッケルメッキが被覆されている請求項8から12までのいずれかに記載のステンレス鋼線。
【請求項14】
ばねに用いられる請求項8から13までのいずれかに記載のステンレス鋼線。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度高弾性型ステンレス鋼及びステンレス鋼線に関し、さらに詳しくは、高強度、高耐食性、高弾性率、及び高捻回特性を有し、ばねやワイヤーロープ、シャフトなどの硬質用線材に使用することが可能な高強度高弾性型ステンレス鋼、及び、これを伸線加工することにより得られるステンレス鋼線に関する。
【背景技術】
【0002】
ばね、ワイヤーロープ、ケーブルワイヤー、コンクリート補強鋼線などに用いられる線材には、繰り返し応力が作用するので、強度及び弾性限が高く、疲労やクリープに対する抵抗(耐へたり性)が大きいことが望まれる。また、使用環境によっては、耐食性も要求される。従来、この種の用途には、
(1) 共析組成付近(0.24〜0.86%C)の炭素鋼をパテンティング処理し、冷間伸線加工することにより得られる硬鋼線、
(2) 0.60〜0.95%Cを含む炭素鋼をパテンティング処理し、冷間で伸線加工することにより得られるピアノ線、
(3) 硬鋼線やピアノ線の耐食性を向上させるために、これらの表面に亜鉛メッキを施した亜鉛メッキ鋼線、
(4) オーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS301、302、304、304N1、316など)を溶体化処理後、冷間で伸線加工することにより得られるステンレス鋼線、
(5) 析出硬化型ステンレス鋼(例えば、SUS631J1など)を溶体化処理後、冷間で伸線加工し、さらに析出硬化処理することにより得られるステンレス鋼線、
などが用いられている。
これらの中でも、ステンレス鋼線は、優れた強度と加工性に加えて、優れた耐食性を備えているので、硬鋼線やピアノ線の代替材料として様々な用途に使用されている。
【0003】
ステンレス鋼の伸線加工は、通常、70%以上の伸線加工率で行われる。オーステナイト系ステンレス鋼は、冷間加工によって加工誘起マルテンサイトが生成するので、加工硬化率が高い。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼を溶体化処理後に高い加工率で伸線加工を行うと、高強度のステンレス鋼線が得られる。
また、ある種の析出硬化型ステンレス鋼は、溶体化処理後に急冷すると、準オーステナイト組織となり、成形加工が可能となる。そのため、この種の析出硬化型ステンレス鋼を溶体化処理後に高い加工率で伸線加工を行うと、高強度が得られる。また、これを所定の製品形状に加工した後、さらに400〜500℃程度の低温で熱処理を行うと、金属組織内に微細な金属化合物粒子が析出し、靱性が向上する。靱性の向上は、ばねなどの用途に要求される疲労特性の向上に寄与する。
【0004】
しかしながら、ステンレス鋼線の用途の拡大に伴い、ステンレス鋼線には、さらなる特性の向上が求められるようになっている。そのため、ステンレス鋼線の組成や製造方法に関し、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、重量%で、C:0.08%以下、Si:3.0%以下、Mn:4.0%以下、Ni:4.0〜10.0%、Cr:13.0〜20.0%、N:0.06〜0.30%、O:0.007%以下を含み、さらに、時効硬化元素として所定量のMo、Cu、Ti、Nb及び/又はVを含み、かつ、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Cu及びN量が所定の関係を満たし、残部がFe及び不可避的不純物からなるばね特性及び加工部の疲労特性に優れたステンレス鋼が開示されている。同文献には、調質圧延前焼鈍で結晶粒径を10μm以下にすると、調質圧延後の曲げ成形加工によって肌荒れやミクロクラックが発生しない点、及び、成分を最適化することによって、時効処理後に高強度及び高いばね限界値が得られる点が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、重量%でC:0.10〜0.25%、Si:0.3〜2.0%、Mn:0.5〜2.0%、Ni:5.0〜8.0%、Cr:15.0〜20.0%、Mo:0.1〜1.0%、N:0.005〜0.1%、及びTi、Zr、V、Nb、W、Ta、Hf、Co、Alの1種又は2種以上を総計で0.001〜1.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなる薄板ばね用オーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。同文献には、Ti、Zr、V等を添加すると、強度が向上し、結晶粒が微細化する点、及び、これによって疲労強度が向上する点が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−279802号公報
【特許文献2】特開昭63−96250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
事務機器や電気通信機器などに用いられるばね材料には、主として耐食性の観点から冷間加工されたオーステナイト系ステンレス鋼線が使用されている。事務機器等には、年々、小型軽量化や高機能化が求められており、これに対応して、これらに用いられるばね材料にも軽薄短小化が求められている。線径が同一である線材を用いて軽薄短小型のばねを作製する場合、通常、ばねの成形寸法を小径にしたり、その巻数を少なくすることが行われる。そのため、軽薄短小型のばねにおいて一定の特性を得るためには、線材には、耐食性、強度、捻回特性、耐へたり性等に加えて、大きなばね発生力を有すること(すなわち、高弾性率)が求められる。
【0008】
上述した特許文献1、2に開示されているばね用ステンレス鋼は、いずれも伸線加工後の時効処理によりばね特性を向上させるものであり、そのためにステンレス鋼の基本組成に加えて、Ti、Nb、Vなどの添加元素を加えることを特徴とする。
しかしながら、これらの添加量は、いずれも少量(0.1〜1.0重量%)であり、機械的特性の大幅な向上は期待できない。また、時効処理によって高強度と耐疲労特性はある程度向上するとされているが、弾性率の向上は不十分と考えられる。そのため、これらの線材を、例えば巻数が5以下の小径ばね、ウェーブスプリング等に適用しても、十分なばね特性は期待できない。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高強度及び高弾性率を有し、軽薄短小型のばねにも使用可能な高強度高弾性型ステンレス鋼及びこれを伸線加工することにより得られるステンレス鋼線を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、高強度及び高弾性率に加えて、捻回特性、耐へたり性、及び耐食性に優れた高強度高弾性型ステンレス鋼及びこれを伸線加工することにより得られるステンレス鋼線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、
0.08mass%≦C≦0.35mass%、
0.20mass%≦Si≦1.00mass%、
0.50mass%≦Mn≦1.50mass%、
7.0mass%≦Ni≦11.0mass%、
12.0mass%≦Cr≦22.0mass%、
0.002mass%≦N≦0.08mass%、
2.0mass%≦V≦8.0mass%、
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
かつ、マトリックス中にVを含む第2相粒子が分散していることを要旨とする。
この場合、V、C及びNの間に次の(1)式の関係があることが好ましい。
8×(C+N)≦V≦20×(C+N) ・・・(1)
また、本発明に係るステンレス鋼線は、本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼に対し、少なくとも伸線加工を施すことにより得られるものからなる。
【発明の効果】
【0011】
所定量のC及びNを含むステンレス鋼に対し、さらに、2mass%以上のVを添加すると、溶体化処理状態において、マトリックス中にVを含む第2相粒子が微細に分散した組織が得られる。第2相粒子は、マトリックスに比べて弾性率が高いので、これをマトリックス中に分散させることによって、高弾性率が得られる。また、第2相粒子を分散させることによって捻回特性も向上する。特に、(1)式を満たすようにV、C及びNの含有量を最適化すると、更に高弾性率及び高捻回特性が得られる。このようなステンレス鋼を所定の条件下で伸線加工すると、高弾性率及び高捻回特性に加えて、強度、耐へたり性及び耐食性に優れたステンレス鋼線が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、以下のような元素を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0013】
(1) 0.08mass%≦C≦0.35mass%。
Cは、オーステナイト形成元素として不可欠であり、加工硬化率を向上させる。また、後述する第2相粒子を生成させ、弾性率及び捻回特性を向上させる。C添加量が少なすぎると、第2相粒子を分散させることにより得られる効果が不十分となり、十分なマトリックス強度も得られがたい。従って、C含有量は、0.08mass%以上が好ましく、さらに好ましくは0.10mass%以上である。
一方、Cの過剰添加は、第2相粒子を粗大化させ、加工性及び製品特性が損なわれる。従って、C含有量は、0.35mass%以下が好ましく、さらに好ましくは0.30mass%以下である。
【0014】
(2) 0.20mass%≦Si≦1.00mass%。
Siは、鋼の脱酸剤として少なくとも0.20mass%添加される。しかし、Siを過剰に添加すると、溶体化処理後の硬さが高くなり、冷間加工性が損なわれ、熱間加工性も劣化させる。従って、Si含有量は、1.00mass%以下が好ましい。冷間加工性を重視する場合には、Si含有量は、さらに好ましくは0.85mass%以下である。
【0015】
(3) 0.50mass%≦Mn≦1.50mass%。
Mnは、鋼の脱酸剤として作用する。また、1/2Ni当量を持つので、オーステナイトの安定化に有効である。このような効果を得るためには、Mn含有量は、0.50mass%以上が好ましい。
一方、Mnの過剰添加は、加工性及び靱性を低下させる。従って、Mn含有量は、1.50mass%以下が好ましい。
【0016】
(4) 7.0mass%≦Ni≦11.0mass%。
Niは、オーステナイト系ステンレス鋼の基本元素であり、耐食性及び靱性を高める効果がある。そのためには、Ni含有量は、7.0mass%以上が好ましく、さらに好ましくは7.5mass%以上である。
一方、Niの過剰添加は、コストの上昇を招く。従って、Ni含有量は、11.0mass%以下が好ましく、さらに好ましくは10.5mass%以下である。
【0017】
(5) 12.0mass%≦Cr≦22.0mass%。
Crは、オーステナイト系ステンレス鋼の基本元素であり、耐食性及び機械的特性の改善に寄与する。このような効果を得るためには、Cr含有量は、12.0mass%以上が好ましい。更に好ましくは、14.0mass%以上とする。
一方、Crの過剰添加は、熱間加工性及び靱性を低下させる。従って、Cr含有量は、22.0mass%以下が好ましく、さらに好ましくは17.0mass%以下である。
【0018】
(6) 0.002mass%≦N≦0.08mass%。
Nは、結晶粒を微細化させ、機械的特性を向上させる。また、Nは、V等と結合し窒化物を形成する。このような効果を得るためには、N含有量は、0.002mass%以上が好ましい。
一方、Nの過剰添加は、高度の溶解技術を必要とし、製造コストを増大させる。従って、N含有量は、0.08mass%以下が好ましい。より好ましくは、0.05mass%以下とする。
【0019】
(7) 2.0mass%≦V≦8.0mass%。
Vは、捻回特性や弾性特性を向上させる微細な第2相粒子を形成するために必要な元素である。また、Vは、マトリックス中に固溶して結晶粒を微細化させ、耐孔食性を向上させるとともに、余剰のVは炭窒化物を形成してマトリックス中に分布し、機械的特性を向上させる効果もある。このような効果を得るためには、V含有量は、2.0mass%以上が好ましく、さらに好ましくは2.4mass%以上、さらに好ましくは2.6mass%以上である。
一方、Vの過剰添加は、コストを上昇させるだけでなく、第2相粒子を粗大化させる。従って、V含有量は、8.0mass%以下が好ましく、さらに好ましくは4.0mass%以下、さらに好ましくは3.7mass%以下である。
【0020】
また、この場合、Vを2.0mass%以上添加すると、マトリックス中にVを含む第2相粒子が分散しているステンレス鋼が得られる。第2相粒子は、主として、V系の炭化物又は窒化物(例えば、(Fe、V)3C、V43、VC、VNなど)からなり、結晶粒を微細化させ、弾性率を向上させる効果がある。このような効果を得るためには、V含有量が上述の範囲にあることに加えて、V含有量とC含有量及びN含有量との間に、次の(1)式の関係があることが好ましい。
8×(C+N)≦V≦20×(C+N) ・・・(1)
V含有量が(C+N)量の8倍未満であると、十分な効果が期待できない。一方、V含有量が(C+N)量の20倍を超えると、第2相粒子が粗大化し、加工性を低下させる原因となる。V含有量は、さらに好ましくは、(C+N)量の10〜16倍である。
【0021】
第2相粒子の大きさは、ステンレス鋼の機械的特性に影響を及ぼす。一般に、第2相粒子が粗大になると、加工性が低下する。良好な加工性を得るためには、第2相粒子の大きさ(断面積からの換算径)は、5.0μm以下が好ましく、より好ましくは、0.1〜3.0μmである。その調整は、材料の成分、熱処理条件の任意選択によって可能である。
また、第2相粒子の量も同様に、ステンレス鋼の機械的特性に影響を及ぼす。一般に、第2相粒子の量が少なすぎると、弾性率や捻回特性の向上が不十分となる。高い弾性率と高い捻回特性を得るためには、第2相粒子の面積率は、0.05%以上、より好ましくは、0.08〜10.0%が好ましい。
ここで、「第2相粒子の面積率」とは、200倍の顕微鏡観察下において、1視野当たりの第2相粒子の面積の割合(視野の面積(S0)に対する第2相粒子の占める合計面積(S)の割合(S×100/S0))を測定し、その例えば20視野で測定した値を平均した値をいう。なお、第2相粒子は、通常、種々の大きさを有し、また、種々の位置に分布することから、本発明では、その面積率の測定に際しては、便宜上、粒径0.5μm以上のものを対象とすることとした。
【0022】
本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、上述した各種の元素に加えて、以下のいずれか1以上の第1の添加元素をさらに含んでいても良い。
(8) 0.1mass%≦Mo≦4.0mass%。
Moは、耐食性や強度をさらに高める必要がある場合に添加される。そのためには、Mo含有量は、0.1mass%以上が好ましく、さらに好ましくは0.5mass%以上である。
一方、Moの過剰添加は、熱間加工性が阻害され、コストアップの要因ともなる。従って、Mo含有量は、4.0mass%以下が好ましく、さらに好ましくは2.0mass%以下、さらに好ましくは1.0mass%以下である。
【0023】
(9) 0.05mass%≦Cu≦0.50mass%。
Cuは、耐食性、特に還元性酸環境中での耐食性向上に有効である。また、冷間加工性を高め、熱処理によって抗菌性を発揮させることもできる。このような効果を得るためには、Cu含有量は、0.05mass%以上が好ましい。
一方、Cuの過剰添加は、高温での粒界脆性が進み、熱間加工性を低下させる。従って、Cu含有量は、0.50mass%以下が好ましい。
【0024】
(10) 0.1mass%≦Co≦2.0mass%。
Coは、固溶強化によってマトリックスを高強度化させる効果がある。このような効果を得るためには、Co含有量は、0.1mass%以上が好ましい。
一方、Coの過剰添加は、コストアップの原因となる。従って、Co含有量は、2.0mass%以下が好ましく、さらに好ましくは1.0mass%以下である。
【0025】
本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、上述した各種の元素を含むことに加えて、次の(2)式に示すPIが18以上であるものが好ましい。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(2)
PI(ピッティングインデックス)は、耐孔食性の指標であり、PIが大きくなるほど、耐孔食性が優れていることを示す。
【0026】
本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、上述した第1の添加元素に加えて又はこれらに代えて、以下のいずれか1以上の第2の添加元素をさらに含んでいても良い。
(11) 0.001mass%≦Al≦1.0mass%。
(12) 0.001mass%≦Nb≦1.0mass%。
(13) 0.001mass%≦Ta≦1.0mass%。
(14) 0.001mass%≦Hf≦1.0mass%。
これらの元素は、いずれも、炭化物又は窒化物を複合形成する効果、及び、結晶粒を微細化させて靱性を高める効果がある。このような効果を得るためには、これらの元素の含有量は、それぞれ、0.001mass%以上が好ましい。
一方、これらの元素の過剰添加は、高度の技術を要することに加えて、加工性を低下させ、製造歩留まりを悪化させる。従って、これらの元素の含有量は、それぞれ、1.0mass%以下が好ましい。
【0027】
(15) 0.0005mass%≦Ca≦0.010mass%。
(16) 0.0005mass%≦Mg≦0.010mass%。
(17) 0.0005mass%≦B≦0.010mass%。
(18) 0.0005mass%≦REM≦0.010mass%。
これらの元素は、鋼の熱間加工性を向上させる効果がある。このような効果を得るためには、これらの元素の含有量は、それぞれ、0.0005mass%以上が好ましい。
一方、これらの元素の過剰添加は、効果が飽和し、逆に熱間加工性が低下する。従って、これらの元素の添加量は、それぞれ、0.010mass%以下が好ましい。
なお、「REM」とは、Ce、Laあるいはこれらの合金をいう。
【0028】
本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、不可避的不純物が含まれていても良い。不可避的不純物としては、例えば、P、S、Oなどがある。
Pは、粒界に析出して粒界腐食感受性を高め、靱性低下の原因となる。従って、P含有量は、0.05mass%以下が好ましく、さらに好ましくは、0.03mass%以下である。
Sは、鋼の熱間加工性を低下させる。従って、S含有量は、0.010mass%以下が好ましく、さらに好ましくは0.005mass%以下である。
Oは、冷間加工性や捻回特性を阻害するとともに、耐食性を低下させる。従って、O含有量は、0.030mass%以下が好ましい。
【0029】
次に、本発明に係るステンレス鋼線及びその製造方法について説明する。本発明に係るステンレス鋼線は、上述した組成を有する高強度高弾性型ステンレス鋼(例えば、ROD)に対し、少なくとも伸線加工を施すことにより得られる。伸線加工は、冷間伸線でも良く、あるいは、例えば温度50〜150℃程度での温間伸線でも良い。温間伸線加工は、靱性を高め、捻回値を高める効果がある。また、本発明では、前記伸線加工の前に、必要に応じて溶体化処理を行い、該熱処理と伸線加工を繰り返しながら細径化することが望ましい。
【0030】
溶体化処理は、通常、鋼塊を950〜1100℃で0.1〜60分間保持し、急冷することにより行う。
図1に、本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼の状態図の一例を示す。図1に示すステンレス鋼は、Fe−15Cr−9.5Ni−0.5Si−0.85Mn組成を有し、かつ、Vを3.0mass%含むものである。図1より、含有炭素量と熱処理温度に応じて、γ+α相、γ+α+VC相、γ+VC相などの各種の組織が得られることがわかる。例えば、このステンレス鋼に0.08〜0.32mass%のCを加え、1050℃前後で保持すると、鋼の組織は、γ+VC相となる。
【0031】
次に、溶体化処理が施された鋼塊や線材に対し、冷間又は温間で伸線加工を行う。溶体化処理によって、準安定オーステナイト相が生成するので、これを伸線加工すると、加工誘起マルテンサイトが生成し、高強度が得られる。高強度を得るためには、伸線加工率は、40%以上が好ましく、さらに好ましくは60%以上である。なお、加工誘起マルテンサイトの生成は、加工性の低下をもたらすので、1回の伸線加工で目的とする断面形状が得られない場合には、溶体化処理と伸線加工とを必要回数だけ繰り返す。
【0032】
得られたステンレス鋼線は、例えば、線径0.05〜5mm程度に細径化され、そのまま各種の用途に用いても良く、あるいは、必要に応じて最終製品に仕上げるための成形加工(例えば、コイリング加工)や、伸線加工後又は成形加工後に、時効熱処理を行っても良い。時効熱処理を行うと、添加元素に応じて各種の金属間化合物などが析出し、さらに高強度が得られる。時効熱処理は、成分組成にもよるが、通常は、加工後のステンレス鋼線を300〜500℃で30分程度保持することにより行われる。
なお、伸線加工後にさらに成形加工が行われる場合、時効熱処理は、伸線加工後に行っても良い。しかしながら、成形加工前に時効熱処理を行うと、成形加工が困難になる場合があるので、成形加工後に時効熱処理を行うのが好ましい。
さらに、このようにして得られたステンレス鋼線は、基本的には耐食性に優れている。しかしながら、より高度の耐食性が求められる場合には、表面にニッケルメッキなどのメッキ層を形成することが好ましく、このメッキ処理は、通例、伸線加工前に形成される。
【0033】
上述した方法により、引張強さが1600〜3300MPaであるステンレス鋼線が得られる。
また、上述した方法により、縦弾性率が180〜220GPaである高弾性のステンレス鋼線が得られる。縦弾性率は、より好ましくは、190〜210GPaである。
また、上述した方法により、引張強さ(σ)と0.2%耐力(τ)との耐力比(τ×100/σ)が84〜98%であるステンレス鋼線が得られる。
さらに、上述した方法により、縦・横の弾性係数の比(ポアソン比)が0.19〜0.30であるステンレス鋼線が得られる。
ポアソン比は、例えば、次式で求めることができる。
ポアソン比=(縦弾性係数/2×横弾性係数)−1
【0034】
なお、本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、線材以外の用途に用いることもできる。この場合、伸線加工に代えて他の加工方法(例えば、帯状にする場合には、圧延加工)を用いれば良い。伸線加工以外の製造工程に関するその他の点は、ステンレス鋼線を製造する場合と同様である。
【0035】
次に、本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼及びステンレス鋼線の作用について説明する。
本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、従来のばね用ステンレス鋼に比べて、V含有量が多いことを特徴とする。Vは、添加元素の中でもC及びNとの親和力が強く、(Fe、V)3C、V43、VN、VNなどの安定な炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成する。マトリックス中にこのようなV系の第2相粒子を分散させると、オーステナイトの粒成長が抑制され、結晶粒を微細化することができる。
また、V系の第2相粒子は、他の化合物粒子に比べて微細かつ硬質である。例えば、V43は、融点が2800℃以上で、硬さが2500〜3200程度である。しかも、V系の第2相粒子は、フェライト及びオーステナイトマトリックスと結晶方位関係をもって微細に析出する。そのため、顕著な強化複合作用が得られ、高強度、かつ、高捻回特性が得られる。しかも、マトリックス中に分散している第2相粒子は、転位をピン止めする作用もあるので、耐へたり性が向上する。
【0036】
また、V系の第2相粒子は、マトリックスに比べ弾性率が大きい。そのため、これをマトリックス中に分散させると、材料全体の弾性率も向上する。特に、V量と、C量及びN量との関係を最適化すると、所定量の第2相粒子をマトリックス中に析出・分散させることができるので、強度及び弾性率を同時に向上させることができる。
さらに、ステンレス鋼線をコイルばね用として用いる場合、変形応力は、引張方向以外に捻り方向にも作用する。従って、この種の用途に用いるステンレス鋼線は、縦方向の弾性率と横方向の弾性率の双方が優れているものが好ましい。上述した成分組成及び製造条件を最適化すると、ポアソン比が所定の範囲にあるステンレス鋼線が容易に得られる。
本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、ステンレス鋼の基本組成であるNi−高Cr系であるので、耐食性に優れている。また、その表面にメッキ処理を施すと、さらに耐食性が向上する。そのため、これを伸線加工することにより得られるステンレス鋼線は、ばねやワイヤーロープなど、高強度、高弾性率、高捻回特性、耐へたり性、耐食性等が要求される各種の用途に用いることができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1〜26、比較例1〜3)
[1. 試料の作製]
表1に示す化学成分を有する鋼塊をそれぞれ高周波誘導炉で溶解し、鋳造した。次いで、得られた鋳塊を鍛造後、熱間圧延して直径12.5mmの線材を得た。これを1050〜1100℃での溶体化処理と伸線加工とを繰り返し行いながら細径化した。さらに、表面に厚さ2μmのNiメッキを付着させ、これを最終加工率75%での冷間伸線加工によって、線径2.0mmのステンレス鋼線を製造した。
【0038】
【表1】


【0039】
[2. 試験方法]
[2.1. 耐食性]
耐食性は、塩水噴霧試験で評価した。試験片には、直径12.5mmの線材を矯正し、1050℃で1.0時間溶体化処理を行ったものを用いた。試験片は、表面を#400で研磨し、10φ×50mmの円柱体とした。この試験片を用いて、35℃の5%塩化ナトリウム水溶液での噴霧環境中において、96時間の暴露試験を行った。評価は、全く発錆しなかったものを「A」、点状のしみが数点認められたものを「B」、面積率5%以下の範囲で赤錆が認められたものを「C」、さらに面積率が5%を超えるものを「D」として、目視により判定した。
[2.2. 機械的特性]
伸線加工した直径2.0mmの線材から試験片を採取し、0.2%耐力、引張強さ、弾性率及び捻回値を測定した。引張強さ及び弾性率は、JIS−Z2201に基づき、それぞれ、線に引張荷重を加えた特の破断応力、及び、弾性領域内での傾き(縦弾性率)として求めた。また、捻回値は、標点間距離が線径×100倍となるように線の一端を固定し、他端を2回/分の一定の速度で回転したときの破断するまでの捻り回数で評価した。
[2.3. 第2相粒子の面積率、マトリックス中のC量]
第2相粒子の面積率は、その横断面での顕微鏡写真と、EPMAでの定性分析によりVを測定し、画像解析によって1視野当たりの面積率を求めた。また、マトリックス中のC量は、EPMAによる定量分析で行った。
【0040】
[3. 結果]
次の表2に、試験結果を示す。
熱間加工性は、介在物の増大及び合金元素量の増加に伴って低下した。しかし、特に、Ca、B、Mg又はREMを添加した実施例2、5、8、14、15、21、25、26は、他の試料に比べて良好な熱間加工性が得られた。耐食性は、添加元素によらず、いずれも良好な結果が得られた。
実施例1〜26において、EPMAにより測定されたマトリックス中のC量は、いずれも試料中に含まれる全C量より少なくなっていた。従って、その差が第2相粒子の生成のために消費されていると考えられる。
さらに、実施例1〜26は、いずれも、比較例1〜3に比べて、強度、弾性率及び捻回値がいずれも向上し、特に、2500MPa以上の高強度で5回以上の優れた捻回特性を有することが確認された。これは、Vを相対的に多量に添加したために、マトリックス中に微細なV系の第2相粒子が分散したためと考えられる。図2に、代表例として、実施例17で得られたステンレス鋼線の断面の光学顕微鏡写真を示す。図2より、微細な第2相粒子が均一に分散していることがわかる。
【0041】
【表2】


【0042】
[4. 時効熱処理の効果]
次に、前記実施例の中から、試料番号6、10、19及び23の各ステンレス鋼線について、温度400〜500℃×1Hrの時効熱処理を行い、引張強さ、耐力比、縦弾性係数、ポアソン比、及び、捻回値について調査した。表3に、その結果を示す。
表3より、いずれの試料とも各特性が向上しており、ばねをはじめワイヤーロープ用、シャフト用等の硬質用として期待できる特性が得られていることがわかる。
【0043】
【表3】


【0044】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼は、ばね、ワイヤーロープ、橋梁用メインケーブル等に用いられる線材用材料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る高強度高弾性型ステンレス鋼の状態図の一例である。
【図2】実施例17で得られたステンレス鋼線の断面の光学顕微鏡写真である。

特許の図
【出願人】 【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
【識別番号】000231556
【氏名又は名称】日本精線株式会社
【出願日】 平成18年8月18日(2006.8.18)
【代理人】 【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫

【識別番号】100123537
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 かおる


【公開番号】 特開2008−45177(P2008−45177A)
【公開日】 平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願番号】 特願2006−223056(P2006−223056)