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【発明の名称】 鋼線材のパテンティング方法
【発明者】 【氏名】山田 勝彦

【要約】 【課題】高品質ピアノ線の製造に際して線材に適用される鉛パテンティングと同等品質を確保し且つ多品種・多サイズの併行処理が可能な無鉛パテンティングの方法・装置を提供し、鉛の消耗による重金属汚染の危険性の問題を解決する。

【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炭素鋼及び高炭素低合金鋼の線径の異なる多数の線材を線軸方向に平行して直進走行させつつ同一の加熱炉を通過させて所定温度に加熱した後、流動床冷却炉を通過させて連続的にパテンティングを施す方法において、1)線径の近い線材どうしを集約して数段階の線径群としてまとめて走行させ、2)各群の基準線速を各群の基準線径に反比例して設定し、3)流動床冷却炉内には各線径群を分離するよう並行的に隔壁を設けて各群個別に炉温を設定して線径に対応した冷却を施し、4)該流動床冷却炉の実効長さを各群の基準線径に対応して設定し、5)該流動床冷却炉の下流に空冷帯を直結・後続させて冷却速度を直前より低下させて変態を終了させ、6)さらに各群内においては個々の線材の線速を該線材の線径と基準線径との比に対応して微調整することを特徴とする鋼線材のパテンティング方法。
【請求項2】
空冷帯に次いで保温炉を通過させるとともに、該空冷帯と該保温炉の長さをそれぞれ各群の基準線径に反比例して設定することを特徴とする請求項1に記載の鋼線材のパテンティング方法。
【請求項3】
各群の流動床実効長さを基準線速×[パーライト変態までの冷却時間+変態時間×(0.5〜1.0)]に、空冷帯の長さを基準線速×変態時間×(0.3〜1.0)に、保温炉の長さを基準線速×変態時間×(1〜4)にとそれぞれ設定することを特徴とする請求項2に記載の鋼線材のパテンティング方法。
【請求項4】
流動床冷却炉内の各群のパスにおいて走行方向と直角に線材が貫通可能の隔壁を設け、上流側を各パス一定の炉長一定の炉温とした予備冷却帯とし、下流側をパス毎に基準線径に反比例した炉長を持ち且つ個別の炉温を持つ変態維持帯とすることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の鋼線材のパテンティング方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度鋼線の材料とされる高炭素鋼又は高炭素低合金鋼の線材のパテンティング(通常約1000℃から約550℃の鉛浴に焼入して恒温変態を誘導する操作)の方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炭素鋼線材は伸線前にパテンティングと称される一種の恒温変態処理が適用される。ピアノ線等精密鋼線はパテンティングにより金属組織は微細ラメラの均質パーライトに改質され、その結果材料は強化され且つ靱性・冷間加工性が向上する。該材料は伸線による加工硬化により著しく強化され高強度鋼線となる。当工程の品質・性能水準は変態温度とその恒温性(変態温度幅が小さいこと)に依存することは周知で、冷却方法としては現在鉛浴焼入が品質面、作業面とも最良とされている。
【0003】
その根拠は、鉛浴焼入における熱伝達率の値が極めて大きいので、1)線材(通常5〜15mm径)の予備冷却(変態温度までの急冷)において必要な冷却速度がほぼ得られること、2)所望変態温度と鉛浴温度との差が比較的小さくなり、従って恒温変態が誘導され易いこと、3)同一浴温で線径が異なってもほぼ同様の冶金効果が得られることにある。
【0004】
鉛浴は温度一定の単一槽であるから鉛浴長さを必要最長に設計しておくことによりどの線径にも対処することができる。通常太径線材ほど線速が小さく浸漬時間が過剰になるが特に不都合が起こらない。逆に一般には気付かれていなかったが内部に偏析欠陥を持つ線材を無難に消化していたという隠れた効果がある。その理由は偏析部は焼入性が大きく、変態時間が長いので理論的浸漬時間では不足するからである。
以上の特徴から鉛浴焼入方式のパテンティング炉では恒温変態に近い熱処理が得られ、その上異なる線径の線材をしかも線径の最大最小比が3倍にもなる場合の併行操業も比較的容易となっている。
【0005】
鉛浴焼入における大きな問題は重金属汚染の危険性である。
1) 焼入槽に鉛−酸化鉛−酸化鉄等の凝結した塊状異物が発生し廃棄処理されている。
2) 鉛浴焼入線材の表面に鉛が付着残存し、一部分が工場内で飛散する。
3) 付着鉛は次工程の酸洗・水洗において残滓となり最終は廃棄される。
有害重金属の使用はコスト問題だけでなく、環境規制からも廃止が期待される。無鉛パテンティングは色々模索されているが未解決ないし不十分である。以下本発明の関連先行例を説明する。
【0006】
A: 流動床による冷却(例えば特許文献1)
本方法は床面より噴出する気流上に粒径1mm前後の砂を浮遊させて伝熱媒体とする。熱伝達率は単なる気流だけなら約50(kcal/m2h℃)であるが約1000に増幅され且つ安定している。2mm径以下の細径鋼線のパテンティングに適用されている。
問題は熱伝達率の大きさが鉛浴の2000〜2500に対して半減以下となる。その結果4mm径以上の線材では冷却不足となり、得られる強度は鉛浴焼入に劣る。鉛浴と同等の冷却能(=熱伝達率×材料・冷媒間温度差)とするため流動床温度を低めに設定すると高発熱の変態前半は適切になっても低発熱の後半では冷却過剰になる。その場合ベイナイトの増加やマルテンサイトの混入という品質上の欠陥が発生する。
【0007】
B: 多室流動床による冷却1(特許文献2)
本方法は細径の鋼線のパテンティングにおいて走行方向に流動床室を数個連結し、各室の温度を適切に設定して上記問題を解決している。第1室を最低温度(250℃以上)に設定して必要且つ充分な冷却速度を確保すると開示されている。変態部では550℃近辺に設定される。問題は線径、鋼種の変更に対して極めて追随しにくく、且つ混在するとなおさら困難になる。即ち線径の異なる鋼線を併行処理すると一方の条件が適切でも他方が不適切になる。単機能的で単純量産には向くが多品種・少量生産には不向きである。しかも5mm径以上の太径線材への適用可能性が一切言及されていない。線径の最大最小比が3倍にもなる線材を同時併行処理するにはスペース、炉長、制御システム、条件の調節と管理等各所に無理が生ずる。
【0008】
C: 溶融塩焼入(例えば非特許文献1)
熱伝達率は1500〜2000が得られ鉛浴に準ずる。即ち鉛浴同等の冷却能を得るため塩浴温度を鉛浴の場合より多少低温に設定した前段槽と所望変態温度に保持する後段槽を設置して鉛浴焼入と同様の効果を得ている。線材圧延工程に直結・後続されていて単機能的であるがどの線径の線材についても適用可能である。
本方法における第1の問題は鉛浴焼入同様の品質が得られ、重金属汚染も解消されるが新たに溶融塩のヒュームによる周辺汚染、ドロス(塩と酸化鉄の化合・混合物)の発生とその廃棄、溶融塩の劣化による廃棄等環境上の問題が残る。
第2の問題は、典型的大量生産方式であるから一般の鉄鋼メ−カー線材工場には適切でも、少量多品種の線材2次加工工場には不向きである。
【0009】
D: 多室流動床による冷却2(特許文献3)
上記文献には一つの流動床炉にリング列状の被処理材の走行させ、走行と直角の方向に隔壁を設けて多室とし、各室を個別に炉温設定して各種の加熱と冷却を行う方法が開示されている。既述のBの方法と比較し設備は簡素になるが同様に線径の異なる線材の併行処理には適さない。
【0010】
E: 多品種線材の併行処理(特許文献4)
上記文献には複数の線材をいくつかの群にまとめて加熱炉を通過させ、加熱炉内には並列的に隔壁を設けて群毎に処理温度を設定する方法が開示されている。又複数の加熱炉が直列的に配置され、パスを組み合わせて多種多様な加熱条件が容易に同時設定することができ、多品種の生産が効率的になされる。走行方向と平行に隔壁を設けて個別に加熱温度設定する方法は線材2次加工ではしばしば採用される。当該方法を冷却に適用した例、流動床に適用した例は見当たらない。冷却に重点があり、処理温度が狭く且つ処理時間が短いパテンティングに応用できるかどうかは全く示唆されていないし、当業者なら特別の工夫を要すると推測することができる。
【0011】
【特許文献1】特開2001−073113
【非特許文献1】鉄と鋼 Vol. 69 (1983) S570
【特許文献2】特開平3−146623
【特許文献3】特開2006−144032
【特許文献4】特開平4−276028
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上述べたように高炭素鋼線材の鉛浴焼入によるパテンティングでは、操業面において使用される鉛が処理槽内、処理工場、後続工程の酸洗・水洗等各所で消耗され、多くは回収・廃棄物とされているが重金属汚染の危険性という環境上の問題がある。
鉛浴に代替可能な従来の方法、例えば流動床冷却では上記環境問題は解決できても冷却能不足により線径が大きいと品質面で鉛浴処理に劣り、冷却能を補うため前段には炉温を相当低温に設定し、かつ中段、後段には炉温を上げた直列の多室流動床炉を採用すると特定線径には適合できても線径や焼入性が異なる線材を併行処理する場合には対処できないと言う問題がある。
加熱処理に際して、加熱炉内に走行方向と平行に断熱隔壁を設けて個別に温度を設定して多品種の併行操業を行う方法では生産性に有利であるが、精密制御を要するパテンティングの冷却には適用例が無い。
本発明は鉛浴を使用しない流動床冷却のパテンティングにおいて鉛浴焼入同等の恒温変態を確保すると共に多種多様の線材を合理的に併行処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題を解決するため以下の要素手段が効果的に組み合わせられる。
1) 冷却炉として鉛浴を使用せず流動床炉を適用し、冷却能の不足は冷媒の低温設定に より対処する。
2) 多種の線径の多数の線材をいくつかの線径群にまとめて併行処理する。
3) 線径群毎に適切な線速・炉長・炉温を設定する。
4) 強制冷却と空冷と保温の組合せにより恒温性を補償する。
5) 各郡内の線径差に対応して個々の線材の線速を微調整する。
【0014】
本発明の要旨は、高炭素鋼及び高炭素低合金鋼の線径の異なる多数の線材を線軸方向に平行して直進走行させつつ同一の加熱炉を通過させて所定温度に加熱した後、流動床冷却炉を通過させて連続的にパテンティングを施す方法において、1)線径の近い線材どうしを集約して数段階の線径群としてまとめて走行させ、2)各群の基準線速を各群の基準線径に反比例して設定し、3)流動床冷却炉内には各線径群を分離するよう並行的に隔壁を設けて各群個別に炉温を設定して線径に対応した冷却を施し、4)該流動床冷却炉の実効長さを各群の基準線径に対応して設定し、5)該流動床冷却炉の下流に空冷帯を直結・後続させて冷却速度を直前より低下させて変態を終了させ、6)さらに各群内においては個々の線材の線速を該線材の線径と基準線径との比に対応して微調整することを特徴とする鋼線材のパテンティング方法である。
【0015】
上記の要旨において、空冷帯に次いで保温炉を通過させるとともに、該空冷帯と該保温炉の長さをそれぞれ各群の基準線径に反比例して設定することを特徴とする鋼線材のパテンティング方法はより望ましい。
【0016】
さらに前項の発明において、各群の流動床実効長さを基準線速×[パーライト変態までの冷却時間+変態時間×(0.5〜1.0)]に、空冷帯の長さを基準線速×変態時間×(0.3〜1.0)に、保温炉の長さを基準線速×変態時間×(1〜4)にとそれぞれ設定することを特徴とする鋼線材のパテンティング方法は一層望ましい。
【0017】
上記3方法の発明において、流動床冷却炉内の各群のパスにおいて走行方向と直角に線材が貫通可能の隔壁を設け、上流側を各パス一定の炉長一定の炉温とした予備冷却帯とし、下流側をパス毎に基準線径に反比例した炉長を持ち且つ個別の炉温を持つ変態維持帯とすることを特徴とする鋼線材のパテンティング方法も同様に望ましい。
【発明の効果】
【0018】
上記の発明による第1の効果として、パテンティングに対して鉛を一切使用しないので環境改善に役立つ。
第2の効果として、従来の鉛浴焼入と同等の冷却条件が得られるので流動床冷却による品質低下が避けられる。
第3の効果として、従来の流動床焼入では得られなかった鉛浴焼入と同様の多サイズの線材の併行処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の方法によるパテンティング装置の例の全体構成を示す概略平面図、図2は同要部の概略縦断面図である。該装置に各種線径の高炭素鋼又は高炭素低合金鋼の多数の線材コイル1が供給される。各線材2は互いに間隔を持って且つ平行して線軸方向に水平直進で走行し加熱炉3に供給される。該加熱炉3は数本から数十本併行処理することができる幅を持つ。各線材2は線径群4例えば13〜15mm径、10〜12mm径、・・・・、5〜6mm径毎にまとまって該加熱炉3を通過しつつ約1000℃に加熱された後流動床冷却炉5に送られる。
【0020】
線径が異なる場合の線速の決め方は種々あり一長一短があるが、本発明では線速は線径に反比例させる。正確には群毎の基準線速は基準線径に反比例させる。その結果同一の加熱長さに対して通過時間は線径に反比例する。加熱・冷却速度は本来線径に反比例するので加熱炉出口の線材の温度はどの線径でも同一となる。該加熱炉3は均熱帯を持つので多少線速が上下しても線材は同一温度で冷却炉5に送られる。
【0021】
該冷却炉5は炉床6に多数の送風ノズル7が配置され所定圧の送風により炉床上に堆積された流動砂8を浮遊・流動させて冷媒とし、浮遊層中に線材を通過させて冷却する構造になっている。冷却能は設定温度に依存し当然低温ほど強く冷却される。該冷却炉5の内部は線径群4毎に走行方向と平行に隔壁9で仕切られ線径群パス10を構成する。各パス長さは線径群の基準線径に対応して設定され、線径が小さいほど大きくなる。
該隔壁9は特許文献2に開示された複数の炉を直列配置する方法に対して並列配置に変えたようなもので、加熱炉では例があるが流動床冷却炉では見当たらない。しかも極めて簡素に実施することができる。
【0022】
流動床の熱伝達率は鉛浴の約1/2〜1/3であるが炉温を低く設定することにより鉛浴と同程度の冷却能が得られ恒温変態の誘導の第1条件が解決される。
該冷却炉5の温度はパス毎に設定され、線径が大きいほどより低温に設定して鉛浴焼入の冷却速度に近似させる。炉温はバーナー17、水冷管18等により調節される。約600℃までされるとパーライト変態が始まる。本発明の一つの実施方法は上記の如く各パス毎に一つの炉温が設定される。
【0023】
もう一つの方法は、ここで更に流動床各パスの中間に線材の走行方向と直角に線材が貫通可能な隔壁11を設け、上流側を冷却帯12、下流側を変態維持帯13に分ける。冷却帯の炉長及び炉温を各パス同一と設定すると、冷却速度は線径に反比例し、線速は線径に反比例するので冷却帯12の出口で各パスの線材は線径が異なっても同一温度になる。
【0024】
変態開始とともに発熱が始まる。発熱能率(kcal/h/kg)は一定ではなく、変態進行(いわゆるロジスティック・カーブ)の率に従い、時間経過ともに0から急速に増加してピークを越え、以後低下を引きずる。ピークは変態時間のなかの前から約30%にある。恒温変態を誘導する第2条件は該発熱に見合う冷却を施すことである。線径に対する適正炉温は経験的に知られており、例えば2mm径では約530℃である。
【0025】
恒温変態には、変態前冷却ではより早く、変態中は対発熱均衡が条件となる。冷却のための適正炉温と変態温度維持のための適正炉温は異なる。本発明では隔壁11により上下個別に炉温を設定することを原則としそれぞれ最適化する。設備の簡素化のため隔壁11を設けず同一炉温とし、且つ従来一般の流動床より多少低温側に設定して実施することもできる。その際の新規必要手段は後述する。
【0026】
変態時間は鋼種と変態温度に依存するが線径にはほぼ無関係で一定である。従って変態維持帯の必要長さは一応変態時間相当分とすると線速×変態時間となり線径に反比例する。流動床冷却炉の長さは変態前冷却帯と変態維持帯の和であり、前者は一定を原則とするが隔壁11を設けない場合はパス毎に異なる。冷却部の長さの決定は、適用する冷却能即ち冷媒の熱伝達率と冷媒の設定温度に関わり当業者なら特別の困難は要しない。
【0027】
ここで流動床温度を変態維持を優先して設定すると変態までの冷却能が不足する。逆に冷却を優先すると変態中の冷却能が過剰になる。厳密には発熱の大きい変態前期は適切に近くても発熱が低下する後期は明らかに過剰冷却になってパーライトではなくベイナイトが混入、更にマルテンサイトの混入となって加工性を損ない、正常パテンティングにはならない。
【0028】
本発明では既述のように炉温を通常の流動床より低目に設定し、変態前と変態中の冷却を適度に強化するとともに、変態後半の過剰冷却の防止策として冷却時間の短縮で対処する。これが新規必要手段である。該時間として変態時間の0.5〜1.0の間の適正値を選定する。従って炉長は各線径群とも冷却と変態のそれぞれに要する時間の和より多少短めに設定される。流動床冷却を通過することは特別な策を講じない限り通常自動的に空冷を意味し特別の意図が無い。本発明では空冷は積極的意味を持つ。空冷の冷却能は相対的に小さいので一方で過剰冷却を防止して恒温性を維持する機能を果たし、他方で変態後段の発熱を排除して同様に恒温性を維持し、本発明の不可欠要素となる。これが恒温変態の誘導の第3条件となっている。
【0029】
流動床冷却炉を通過した各線材は意図的に空冷帯14で空冷され、その後保温炉15に誘導される。空冷中に未変態部分の変態がほぼ完了する。該空冷帯14の長さは線速×変態時間×(0.3〜1.0)とする。即ち線径に反比例させる。
【0030】
材料が均質なら以上の処理で完了するが、通常材料内部の偏析欠陥の混在は避けがたい。偏析があると該部分の変態時間は数倍になることがある。その場合空冷時にマルテンサイト変態を起こす。対策として変態温度維持のため保温炉を通過させる。保温炉の後続は公知である。本発明では各線径群共通の温度の保温炉を後続させる。保温炉の適切な長さは偏析の程度や許容水準に依存し、経験的に変態時間×線速×(1〜4)とした。これは恒温変態誘導の必要条件ではないが実用条件である。変態時間は高炭素鋼の場合4秒前後である。保温炉の設定温度は単なる時間稼ぎに近いので特に厳密性を要しない。熱の出入りも小さいので簡素な加熱装置と断熱壁と制御装置があればよい。保温炉を通過して変態は確実に終了し、各線材は巻き取られて製品コイル16となる。
【0031】
以上に述べた冷却方法について線材の冷却挙動を解析する。
図3(A)は加熱温度から変態温度までの冷却を示す。流動床の熱伝達率を700(kcal/m2h℃)とした。5,10,15mm径線材に対して適正炉温としてそれぞれ400,250,150℃を設定した。各径とも10mm径の鉛浴焼入より冷却速度が劣り恒温性が危惧されるが、図3(B)に示すように変態に関係するA3 温度以下で見ると鉛浴焼入と同様になっており問題は無い。
【0032】
図4は変態中と変態後の冷却線図を示す。変態時間は線材中心部の冷却遅れを考慮して線径に対して修正(見かけ上増加)してある。各径とも適切な炉温設定により鉛浴焼入と同様の恒温性が得られている。しかし変態終了後の冷却が早く、もし未変態部が残存しノーズ温度(540〜570℃)を下回ると既述のように異常組織を誘発する。変態途中からの空冷と保温の適用が図中の点線で示したように恒温性を維持して当該問題を解決する。
【0033】
各線径群には当然太め、細めの線材が混在する。基準径からの差により熱処理条件が最適からずれる。本発明ではそのズレを個々の線材毎に線速を微調整して修正する。細めの場合は線速を多少早める。変態初期の温度は僅かに低下するが変態末期は同等になる。加熱温度は線速の多少の変化にも影響は受けない。
【0034】
鋼種の差により変態時間が異なり冷却炉の全長に過不足が生ずる場合がある。多くの場合線速の修正により対処することができる。
【0035】
流動床内における変態中の冷却時間率(変態維持部の冷却時間/変態時間)の適正値として0.6〜0.8が望ましいが、下限値を0.5とした理由はこれ以下では未変態部の発熱のため以後の昇温が大きくて不都合である。上限値を1.0とした理由は炉温が比較的低いので変態末期では明らかに過剰冷却となるからである。
【0036】
空冷部はもう一つの機能を持つ。各線材は露出するので測温装置19の設置や目視チェックに極めて便利である。暗視野により変態進行の状況を全数即時に読みとることができる。
【0037】
焼入性の大きい低合金鋼線材に対しては、偏析対策として炉長に充分な余裕があるので炭素鋼と同様に処理することができる。それでも不足する場合は炉長の長い細径群のパスを使用する。一つの線径群パスを一時的に当該鋼種向けに条件設定することもできる。具体的には、基準より低速とし、流動床温度を鉛浴同等の温度とすればよい。線径群毎に冷却炉温度は調整できるので多種多様の線材の平行処理に広範に対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
高炭素鋼の高級鋼線の製造にはパテンティングが不可欠であり、旧来の線材2次加工工場では未だ鉛浴焼入がなされている。鉛浴焼入方式には線径の異なる線材を併行処理することが容易であるという特徴がある。当該設備を本発明に代替させることにより鉛の使用を廃止することができる。鉛浴の設置規制問題を解消して新規参入もやり易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を実施するパテンティング・ラインの例の概略平面図である。
【図2】同上の要所の概略縦断面図である。
【図3】本発明による線材の変態前の冷却線図を示す。
【図4】本発明による線材の変態中、変態後の冷却線図である。
【符号の説明】
【0040】
1:線材コイル 2:線材 3:加熱炉 4:線径群 5:流動床冷却炉 6:炉床 7:送風ノズル 8:流動砂 9:隔壁 10:線径群パス 11:隔壁 12:冷却帯 13:変態維持帯 14:空冷帯 15:保温炉 16:製品コイル 17:バーナー 18:水冷管 19:測温装置
【出願人】 【識別番号】306027781
【氏名又は名称】株式会社アルケミー
【出願日】 平成18年8月16日(2006.8.16)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−45171(P2008−45171A)
【公開日】 平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願番号】 特願2006−221745(P2006−221745)