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【発明の名称】 金属材の疲労強度向上方法及び疲労強度向上装置
【発明者】 【氏名】瀬戸 厚司

【要約】 【課題】疲労強度を安定して向上させることができ、従来の処理方法よりも高い疲労強度向上効果が得られる金属材の疲労強度向上方法及び疲労強度向上装置を提供する。

【構成】超音波衝撃処理手段1と冷却手段2とを備えた超音波衝撃処理装置を使用し、金属材3を超音波衝撃処理する。その際、超音波衝撃処理を施している間及び/又はその直後に、冷却手段2により、超音波衝撃処理部3aを20℃/秒以上の冷却速度で冷却する。また、必要に応じて、超音波衝撃処理の前に、予め金属材3を80〜250℃に加熱する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材に対して超音波衝撃処理を施している間及び/又はその直後に、前記金属材の超音波衝撃処理が施された部分を20℃/秒以上の冷却速度で冷却することを特徴とする金属材の疲労強度向上方法。
【請求項2】
液体又は気体を噴きつけることにより、前記金属材の超音波衝撃処理が施された部分を冷却することを特徴とする請求項1に記載の金属材の疲労強度向上方法。
【請求項3】
前記超音波衝撃処理の前に、予め前記金属材を80〜250℃に加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属材の疲労強度向上方法。
【請求項4】
金属材に超音波衝撃処理を施す超音波衝撃処理手段と、
前記金属材の超音波衝撃処理が施された部分を冷却する冷却手段及び前記超音波衝撃処理手段の先端工具を冷却する工具冷却手段のうちの少なくとも一方
を有することを特徴とする金属材の疲労強度向上装置。
【請求項5】
更に、予め超音波衝撃処理を施す部分を加熱する加熱手段を有することを特徴とする請求項4に記載の金属の疲労強度向上装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄、アルミニウム、チタン及びマグネシウム等からなる金属材の疲労強度向上方法及びそれに使用する装置に関し、特に、自動車、家電製品、建築構造物、船舶、橋梁、建設機械、各種プラント及びペンストック等に用いられる構造部材に適用される金属材の疲労強度向上方法及び疲労強度向上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材に、溶接、プレス、切断及び/又は打抜き等の加工が施され、その部材に繰返し荷重が作用すると、これらの加工部は、その形状に起因する応力集中と引張残留応力の存在により、疲労き裂発生が容易になり、疲労強度が低下する。このため、金属材の加工部の耐疲労特性を向上させる方法が切望されている。
【0003】
このような金属材の疲労問題を受け、近年、溶接部等の疲労強度向上を目的として、金属材に対する超音波衝撃処理方法が開発されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。超音波衝撃処理とは、超音波発生機から発生した数十kHzの超音波振動を、ピン等の工具を介して対象物に押し当てて、塑性変形を与えることにより表面形状の改善及び残留応力の緩和・再配置等を行う処理である。特許文献1及び2には、溶接部及び機械加工穴に超音波衝撃処理を施すことにより、その疲労強度を向上させる方法及び装置が開示されている。また、特許文献3には、金属粉供給手段、加熱手段及び/又はシールドガス供給手段を設けた超音波衝撃処理装置が開示されている。
【0004】
一方、超音波衝撃処理以外にも金属材の疲労強度を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献4〜6及び非特許文献1参照。)。特許文献4には、鋼板製の板ばねを対象とし、鋼の再結晶温度よりも低く常温よりも低い温度範囲において変形抵抗が極大となる温度で温間加工又はショットピーニング等の噴射加工を施すことにより、板ばねに残留応力を付与して疲労強度を向上させる方法が開示されている。また、特許文献5には、焼鈍後の冷却工程で、150℃になるまでの温度域において、ばね材にショットピーニング施すことにより、ばね材を強化する方法が開示されている。
【0005】
更に、特許文献6には、溶接接合された水車部材を対象とし、最終肉盛溶接層に100〜600℃の温度でピーニング処理を施すことにより、この部分の残留応力を低減して疲労強度向上を図った水車部材の溶接方法が開示されている。更にまた、非特許文献1には、200〜400℃の温度範囲でショットピーニング処理を施すことにより、金属材の疲労強度を向上させる技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6171415号明細書
【特許文献2】米国特許第6338765号明細書
【特許文献3】特開2004−167363号公報
【特許文献4】特開昭61−99625号公報
【特許文献5】特開平6−41631号公報
【特許文献6】特開平9−10985号公報
【非特許文献1】丹下彰,小山博,辻博人、「ばね疲労特性に及ぼす温間ショットピーニングの効果」、ばね論文集、1999年、第44号、p.13−16
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した従来の技術には以下に示す問題点がある。特許文献1には、溶接構造物の補修を目的として、溶接部及び疲労亀裂先端に開けたドリル穴縁への超音波衝撃処理の適用技術が開示されているが、溶接部への超音波衝撃処理に関する詳細な記述は無い。また、特許文献1に記載の技術では、溶接部全般について溶接の跡を後ろから追いかけるように超音波衝撃処理を行っているが、この方法では十分な圧縮残留応力が得られず、疲労強度の更なる向上は見込めないという問題点がある。更に、ドリル穴への超音波衝撃処理については、ドリル穴縁の上下の角部全周にわたって面取りを行うように処理することが示されているが、この方法でも十分な圧縮残留応力は得られず、疲労強度の更なる向上は見込めないという問題点がある。
【0008】
また、特許文献2には、超音波エネルギーを振動に変換するトランスデューサーのヘッドに針状の工具を取り付けた装置、及びこの装置を使用してドリル穴を処理する方法が開示されているが、この特許文献2に記載の処理方法も、前述した特許文献1と同様にドリル穴の端面及び角部全周を一様に処理しているため、十分な圧縮残留応力は得られず、疲労強度の更なる向上は見込めないという問題点がある。
【0009】
更に、特許文献3には、超音波衝撃処理を施す部分を加熱する手段を備えた超音波衝撃処理装置が開示されているが、この装置を使用して超音波衝撃処理を行った場合、超音波衝撃処理した部分とその周囲とで温度差が生じ、処理後の冷却過程において超音波衝撃処理した部分の圧縮残留応力が減少するため、十分な疲労強度向上効果が得られないという問題点がある。
【0010】
一方、特許文献4に記載の技術も前述の特許文献3に記載の技術と同様に、処理後の冷却過程において超音波衝撃処理した部分の圧縮残留応力が減少し、十分な疲労強度向上効果が得られないという問題点がある。また、特許文献5に記載の方法では、その実施例に鋼表面の冷却特性が示されているが、ショットピーニング後のばね材を大気中で自然冷却(大気中放冷)している。このため、特許文献5に記載の技術も前述した技術と同様に、処理後の冷却過程において処理部の圧縮残留応力が減少し、十分な疲労強度向上効果が得られないという問題点がある。更に、特許文献6及び非特許文献1に記載の技術でも、超音波衝撃処理した部分とその周囲とで温度差が生じるため、処理後の冷却過程において超音波衝撃処理した部分の圧縮残留応力が減少し、十分な疲労強度向上効果が得られないという問題点がある。
【0011】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであって、疲労強度を安定して向上させることができ、従来の処理方法よりも高い疲労強度向上効果が得られる金属材の疲労強度向上方法及び疲労強度向上装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る金属材の疲労強度向上方法は、金属材に対して超音波衝撃処理を施している間及び/又はその直後に、前記金属材の超音波衝撃処理が施された部分を20℃/秒以上の冷却速度で冷却することを特徴とする。なお、本発明における金属材とは、母材、溶接又は成形等の加工を受けた溶接金属、及び溶接熱影響部のうちの少なくとも1種を含む。
【0013】
この疲労強度向上方法においては、液体又は気体を噴きつけることにより、前記金属材の超音波衝撃処理が施された部分を冷却することができる。
【0014】
また、前記超音波衝撃処理の前に、予め前記金属材を80〜250℃に加熱してもよい。
【0015】
本発明に係る金属材の疲労強度向上装置は、金属材に超音波衝撃処理を施す超音波衝撃処理手段と、前記金属材の超音波衝撃処理が施された部分を冷却する冷却手段及び前記超音波衝撃処理手段の先端工具を冷却する工具冷却手段のうちの少なくとも一方を有することを特徴とする。
【0016】
また、予め超音波衝撃処理を施す部分を加熱する加熱手段を有していてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超音波衝撃処理部とその周囲との温度差が小さくなり、室温に冷却されるまでの熱収縮によって生じる超音波衝撃処理部の圧縮残留応力の減少が抑制されるため、材料及び対象部材の種類によらず疲労強度を安定して向上させることができると共に、従来の処理方法に比べて金属材の疲労強度向上効果を高めることができ、その工業的意味は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。本発明者は、金属材の疲労特性を更に向上させるため、先ず、超音波衝撃処理を施した部分(以下、超音波衝撃処理部ともいう。)の温度及び残留応力の履歴について検討した。その結果、金属材の超音波衝撃処理部は、以下のような履歴を示すことが判明した。図1(a)及び(b)は夫々横軸に超音波衝撃処理開始からの時間をとり、縦軸に温度又は残留応力をとって、超音波衝撃処理中及び処理後における金属材の超音波衝撃処理部の温度及び残留応力の変化を示す図である。図1(a)及び(b)に示すように、超音波衝撃処理中a(2〜5秒間程度)は、金属材の表面が塑性変形を受け、周囲の拘束により圧縮残留応力を生じる。このとき、塑性変形は発熱を伴うため、処理部の温度は100〜200℃に上昇する。そして、超音波衝撃処理終了時bには、超音波衝撃処理部に大きな圧縮残留応力σが発生しているが、その後、空気中に放置され室温まで放冷される冷却過程c(5〜10分間程度)において超音波衝撃処理部のみが熱収縮し、この熱収縮によって超音波衝撃処理部の圧縮残留応力に減少分σlossが生じる。このため、冷却過程c後の室温での圧縮残留応力σが、超音波衝撃処理終了時bの圧縮残留応力σよりも小さくなってしまう。
【0019】
そこで、熱収縮による超音波衝撃処理部の圧縮残留応力の減少分σlossを小さくする解決方法について鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、圧縮残留応力の減少抑制には、超音波衝撃処理部を冷却し、塑性変形に伴う加工発熱による温度上昇を極力抑えることが有効であり、金属材の疲労強度の更なる向上に効果的であることを見出し、本発明に至った。
【0020】
即ち、本発明の金属材の疲労強度向上方法においては、金属材に対して超音波衝撃処理を施している間及び/又はその直後に、超音波衝撃処理部を20℃/秒以上の冷却速度で冷却する。図2は本発明の超音波衝撃処理装置により、金属材に超音波衝撃処理を施す方法を模式的に示す図である。また、図3(a)及び(b)は夫々横軸に超音波衝撃処理開始からの時間をとり、縦軸に温度又は残留応力をとって、図2に示す方法で金属材を超音波衝撃処理したときの超音波衝撃処理部の温度及び残留応力の変化を示す図である。
【0021】
具体的には、図2に示すように、先端工具1aを備えた超音波衝撃処理手段1と、冷却手段2とを有する超音波衝撃処理装置を使用し、冷却手段2を先端工具1aよりも処理方向5に対して後方に配置し、冷却手段2により、先端工具1aの直後の超音波衝撃処理部3aに向けて冷却媒体4を吹付ける。これにより、塑性変形に伴う加工発熱によって生じる超音波衝撃処理部3aの温度上昇を即座に抑制することが可能となり、図3(a)及び(b)に示すような温度及び残留応力の履歴が得られ、圧縮残留応力の減少分σlossを50MPa未満とすることができる。その結果、超音波衝撃処理部3aにおける圧縮残留応力を確保し、金属材の疲労強度をより向上させることができる。なお、図3(a)及び(b)に示す履歴における超音波衝撃処理中aの時間はせいぜい10秒間程度である。
【0022】
このとき、超音波衝撃処理部3aの冷却速度が20℃/秒以上となるようにする。以下、その数値限定理由について説明する。本発明者は、超音波衝撃処理部3aの冷却速度について鋭意検討したところ、冷却速度を20℃/秒以上とすることが、金属材の疲労強度の更なる向上に有効であることを見出した。この冷却速度は、超音波衝撃処理部3aが塑性変形による発熱によって加熱される速度に対応した値である。従って、冷却速度が20℃/秒未満の場合、塑性変形による温度上昇を抑えることができず、超音波衝撃処理部3aの温度が上昇し、室温まで冷却される過程において超音波衝撃処理部の圧縮残留応力に減少分σlossが生じ、圧縮残留応力が200MPa程度減少してしまう。一方、冷却速度の上限については特に限定する必要はないが、大きな塑性変形を与えるような超音波衝撃処理条件の場合でも、塑性変形による発熱は200℃程度であるため、冷却速度を200℃/秒程度に設定すれば、超音波衝撃処理部の温度上昇を十分に抑制することが可能である。
【0023】
また、超音波衝撃処理部3aを処理中及び/又は処理直後に冷却する方法としては、超音波衝撃処理部3aのみを局部的に冷却する方法、又は金属材3を冷却媒体に浸漬した状態で超音波衝撃処理する方法等が挙げられるが、超音波衝撃処理部3aに気体又は液体等の冷却媒体4を直接吹付ける方法が特に効率的かつ効果的である。その際使用する気体又は液体は特に限定するものではなく、気体の場合は、空気、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム及び窒素ガス等の安定な気体であれば差し支え無い。一方、液体の場合は、例えば、水、油、溶融塩、アルコール及び液体窒素等を使用することができる。また、このような冷却媒体4により超音波衝撃処理部3aを冷却する方法は、特に限定するものではないが、例えば、冷却媒体を入れた容器をポンプ等で加圧し、ホース及びスプレーノズル等の冷却手段2を介して、超音波衝撃処理部3aに対して冷却媒体4を噴出、噴霧、又は液体であれば滴下等の方法を適用することができる。
【0024】
更に、本発明の金属材の疲労強度向上方法においては、超音波衝撃処理後にのみ冷却を行う場合の冷却を開始するまでの時間については特に限定するものではなく、超音波衝撃処理後のできるだけ早い時間に冷却を開始すればよい。ただし、超音波衝撃処理後60秒を超えると、自然放冷により超音波衝撃処理部の温度が大幅に低下していることがある。その場合、冷却開始時までに熱収縮によって圧縮残留応力が大きく減少し、冷却の効果が低下することがあるため、超音波衝撃処理後にのみ冷却を行う場合は、超音波衝撃処理が完了してから少なくとも60秒以内に冷却を開始することが好ましい。
【0025】
更にまた、本発明の金属材の疲労強度向上方法においては、上述した各工程を行う際に、超音波衝撃処理する部分及びその周囲を、予め室温よりも高い温度範囲に加熱しておいてもよい。即ち、超音波衝撃処理を施す部分及びその周囲が室温よりも高い温度になるように金属材を加熱した後、超音波衝撃処理を行い、更に超音波衝撃処理中及び/又は処理直後に超音波衝撃処理部を冷却してもよい。これにより、超音波衝撃処理部の変形抵抗が低下し、塑性変形による温度上昇量を抑制できるため、圧縮残留応力の低下を更に抑制することが可能である。
【0026】
図4は本発明の他の超音波衝撃処理装置により、金属材に超音波衝撃処理を施す方法を模式的に示す図である。なお、図4においては、図2に示す超音波衝撃処理装置と同じ構成要素には同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。また、図5(a)及び(b)は横軸に超音波衝撃処理開始からの時間をとり、縦軸に温度又は残留応力をとって、図4に示す方法で金属材を超音波衝撃処理したときの超音波衝撃処理部の温度及び残留応力の変化を示す図である。図4に示すように、超音波衝撃処理前に、予め金属材3における超音波衝撃処理する領域7及びその周囲を、室温よりも高い温度になるように加熱する場合、例えば、処理方向5に対して先端工具1aよりも前方に加熱手段6が配置された超音波衝撃処理装置を使用し、この加熱手段6により、先端工具1aの前方の領域(超音波衝撃処理する部分7)及びその周囲を比較的広範囲に加熱する。
【0027】
この方法で金属材3に超音波衝撃処理を施すと、超音波衝撃処理する部分7の温度が室温よりも高温になるため、変形抵抗が小さくなり、超音波衝撃処理による加工発熱も小さくなる。その結果、冷却過程で発生する熱収縮も小さくなり、図5(a)及び(b)に示すように、圧縮残留応力の減少分σlossも50MPa未満と小さくなる。そして、この状態で超音波衝撃処理部3aを冷却し、周辺部よりも温度を低くすることにより、周辺部が室温まで冷却される際に、大きな圧縮残留応力を発生させることができる。なお、図5(a)及び(b)に示す履歴における超音波衝撃処理中aの時間はせいぜい10秒間程度である。
【0028】
その際の加熱温度は、80〜250℃の範囲とすることが望ましい。これにより、超音波衝撃処理部3aの温度と周囲の温度との差によって生じる熱収縮、及び圧縮残留応力の減少分σlossを最小限に抑え、冷却後の室温での圧縮残留応力を大きくすることができる。加熱温度が250℃を超えると、塑性加工によって導入された転位が再配列を開始する回復現象が生じてしまい、塑性ひずみが減少するため、発生する圧縮残留応力σが小さくなり、結果的に冷却後の室温での圧縮残留応力σも大きな値が得られにくくなる。一方、加熱温度が80℃よりも低いと、金属材の変形抵抗が室温とさほど変わりなく、更には塑性変形による発熱量及び温度上昇も室温の場合と略同等となるため、冷却時の収縮による圧縮残留応力の減少分σlossが比較的大きくなる傾向がある。
【0029】
また、超音波衝撃処理する部分7を予め80〜250℃に加熱するための加熱手段6は、特に限定するものではなく、ガス炎、レーザー光線、赤外線及び高周波加熱等による直接加熱、又は電熱ヒーター等による間接加熱のいずれでもよい。また、溶接された場所に超音波衝撃処理を施す場合には、溶接による熱でも差し支え無い。
【0030】
なお、図2及び図4に示す超音波衝撃処理装置では、超音波衝撃処理手段1と冷却手段2とが個別に設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、先端工具1aに冷却機能をもたせてもよい。図6及び図7は冷却機能を備えた先端工具における冷却機構を示す拡大断面図である。先端工具の冷却機構は特に限定するものではないが、例えば、図6に示すように、先端工具11aの内部の表面近傍の部分に流路12を形成し、この流路12に冷却媒体を循環させたり、又は図7に示すように、先端工具21aの内部の中心及び表面近傍に流路22を形成し、この流路22の中心から表面近傍へ冷却媒体を循環させたりすることができる。このような冷却機能付きの先端工具を使用することにより、より効率的に超音波衝撃処理を施すことができる。なお、この冷却機能付きの先端工具は、単独で使用しても、冷却手段2と併用してもよい。
【0031】
上述の如く、本発明の金属材の疲労強度向上方法を適用することにより、超音波衝撃処理に伴う加工発熱及びその熱収縮を抑制でき、超音波衝撃処理による塑性加工によって生じた圧縮残留応力の減少を阻止することができ、その結果、金属材の疲労強度を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0032】
また、本発明の超音波衝撃処理装置を用いることで、必要に応じて超音波衝撃処理する部分を予め80〜250℃に加熱して超音波衝撃処理を行い、その処理中及び/又は処理直後に超音波衝撃処理部を冷却することができるため、上述したように金属材の超音波衝撃処理部における圧縮残留応力の低下を強く抑制し、疲労強度を更に向上させることが可能となる。
【0033】
ばお、本発明の金属材の疲労強度向上方法の適用対象は特に規定されるものではなく、鉄鋼、アルミニウム及びその合金、チタニウム及びその合金、マグネシウム及びその合金等の金属母材、並びにそれらが溶接及び塑性加工等により加工されたものであれば、板材、棒材、管材及び形材並びにこれらを加工した複雑な形状の部材でもよく、疲労破壊が問題になる箇所に対して本発明の方法を適用することが可能である。
【0034】
また、超音波衝撃処理において付与する超音波は20〜32kHz、ピン振幅は25〜35μm、塑性変形量(変形深さ)は20〜30μmとすることが好ましい。
【0035】
更に、前述した特許文献1〜6及び非特許文献1には、超音波衝撃処理部を冷却する方法について何ら開示されていないため、前述したような本発明の効果は得られない。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例及び本発明の範囲から外れる比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。図8(a)は本発明の実施例における疲労試験片を示す平面図であり、図8(b)は図8(a)に示すA−A線による断面図である。図8(a)及び(b)に示すように、本実施例においては、下記表1及び表2に示す引張強度レベル及び板厚の熱延鋼板30を溶接して、溶接部31を含む試験片を作製し、この試験片の両面の止端を、下記表1及び表2に示す温度に加熱しながら超音波衝撃処理すると共に、超音波衝撃処理中及び/又は処理直後に超音波処理部を冷却を施した後、疲労試験を行った。また、比較のため、本発明の範囲外の加熱温度及び冷却速度で超音波衝撃処理した試験片、加熱も冷却も行わずに超音波衝撃処理を行った試験片、並びに超音波衝撃処理を施さない試験片も製作し、疲労試験を行った。疲労試験条件は、応力比(=最小荷重/最大荷重)を0.1とする片振り荷重制御疲労試験であり、室温・大気中で行った。そして、荷重の制御が困難となる寿命を破断寿命として、破断寿命が200万回となる荷重範囲を鋼板の断面積(=板厚×試験片幅)で除した値を疲労強度として比較した。その結果を下記表1及び表2に併せて示す。なお、下記表1及び表2に示す冷却開始時間は、超音波衝撃処理完了から冷却開始までの時間である。また、超音波衝撃処理はいずれも1パスとした。更に、超音波衝撃処理の前に加熱せず、冷却のみを行った試験片は温度上昇を抑制しており、冷却速度を直接測定することができなかったため、同一条件で超音波衝撃処理を行い、冷却しない試験片の温度上昇速度と冷却速度とが等価であるとして、温度上昇速度を冷却速度とした。更にまた、下記表2における下線は、本発明の範囲外であることを示す。
【0037】
【表1】


【0038】
【表2】


【0039】
上記表1及び表2に示すように、引張強度レベル及び板厚が同じ熱延鋼板を溶接した試験片同士の疲労強度を比較した場合、例えば板厚が2.3mmの440MPa級鋼では、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.40の試験片を基準とすると、本発明の範囲外の温度に加熱して冷却しなかった比較例No.26及びNo.27の試験片、本発明の範囲外の冷却速度で冷却した比較例No.28〜No.30の試験片、並びに加熱も冷却もしなかった比較例No.31の試験片は、いずれも疲労強度向上度が50%程度であった。
【0040】
これに対して、本発明の範囲内の条件で超音波衝撃処理を施した実施例No.1〜No.7の試験片は、全て2倍以上の疲労強度向上効果が認められた。特に、80〜250℃に加熱した後、超音波衝撃処理を行った実施例No.1〜No.4の試験片は、超音波衝撃処理前に加熱していない実施例No.5の試験片、加熱しているがその温度が80℃未満であった実施例No.6の試験片、及び250℃を超える温度まで加熱した実施例No.7の試験片よりも疲労強度向上が著しく、本発明の方法がさらなる疲労強度の向上に有効であることが確認された。
【0041】
また、板厚が2.3mmの780MPa級鋼の場合は、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.41の試験片を基準とすると、本発明の範囲外の温度に加熱して冷却しなかった比較例No.32及び比較例No.33、本発明の範囲外の冷却速度で冷却した比較例No.34〜No.36の試験片、並びに加熱も冷却もしなかった比較例No.37の試験片は、いずれも疲労強度向上度が25〜30%程度であった。
【0042】
これに対して、本発明の範囲内の条件で超音波衝撃処理を施した実施例No.8〜No.13の試験片は、全て2倍以上の疲労強度向上効果が認められた。特に、80〜250℃に加熱した後、超音波衝撃処理を行った実施例No.8〜No.10の試験片は、超音波衝撃処理前に加熱していない実施例No.11の試験片、加熱しているがその温度が80℃未満であった実施例No.12の試験片、及び250℃を超える温度まで加熱した実施例No.13の試験片よりも疲労強度向上が著しく、本発明の方法がさらなる疲労強度の向上に有効であることが確認された。
【0043】
更に、板厚3.8mmの440MPa級鋼の場合は、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.42の試験片を基準とすると、加熱も冷却も行わなかった比較例No.38の試験片の疲労強度向上度は、50%程度であった。これに対して、本発明の範囲内の条件で超音波衝撃処理を施した実施例No.14〜No.19の試験片は、2倍以上の疲労強度向上効果が認められた。特に、80〜250℃に加熱した後、超音波衝撃処理を行った実施例No.14〜No.16の試験片は、超音波衝撃処理前に加熱していない実施例No.17の試験片、加熱しているがその温度が80℃未満であった実施例No.18の試験片、及び250℃を超える温度まで加熱した実施例No.19の試験片よりも疲労強度向上が著しく、本発明の方法がさらなる疲労強度の向上に有効であることが確認された。
【0044】
更にまた、板厚3.8mmの780MPa級鋼の場合は、超音波衝撃処理を施さなかった比較例No.43の試験片を基準とすると、加熱も冷却も行わなかった比較例No.39の試験片の疲労強度向上度は、50%程度であった。これに対して、本発明の範囲内の条件で超音波衝撃処理を施した実施例No.20〜No.25の試験片は、2倍以上の疲労強度向上効果が認められた。特に、80〜250℃に加熱した後、超音波衝撃処理を行った実施例No.20〜No.22の試験片は、超音波衝撃処理前に加熱していない実施例No.23の試験片、加熱しているがその温度が80℃未満であった実施例No.24の試験片、及び250℃を超える温度まで加熱した実施例No.25の試験片よりも疲労強度向上が著しく、本発明の方法がさらなる疲労強度の向上に有効であることが確認された。
【0045】
以上のように、本発明の金属材の疲労強度向上方法は、金属材の疲労強度の更なる向上に有効であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)及び(b)は夫々横軸に超音波衝撃処理開始からの時間をとり、縦軸に温度又は残留応力をとって、超音波衝撃処理中及び処理後における金属材の超音波衝撃処理部の温度及び残留応力の変化を示す図である。
【図2】本発明の超音波衝撃処理装置により、金属材に超音波衝撃処理を施す方法を模式的に示す図である。
【図3】(a)及び(b)は夫々横軸に超音波衝撃処理開始からの時間をとり、縦軸に温度又は残留応力をとって、図2に示す方法で金属材を超音波衝撃処理したときの超音波衝撃処理部の温度及び残留応力の変化を示す図である。
【図4】本発明の他の超音波衝撃処理装置により、金属材に超音波衝撃処理を施す方法を模式的に示す図である。
【図5】(a)及び(b)は横軸に超音波衝撃処理開始からの時間をとり、縦軸に温度又は残留応力をとって、図4に示す方法で金属材を超音波衝撃処理したときの超音波衝撃処理部の温度及び残留応力の変化を示す図である。
【図6】冷却機能を備えた先端工具における冷却機構を示す拡大断面図である。
【図7】冷却機能を備えた先端工具における他の冷却機構示す拡大断面図である。
【図8】(a)は本発明の実施例における疲労試験片を示す平面図であり、(b)は(a)に示すA−A線による断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 超音波衝撃処理手段
1a、11a、21a 先端工具
2 冷却手段
3 金属材
3a 超音波衝撃処理部
4 冷却媒体
5 処理方向
6 加熱手段
7 超音波衝撃する部分
12、22 流路
30 熱延鋼板
31 溶接部
a 超音波衝撃処理中
b 超音波衝撃処理終了時
c 冷却過程
σ,σ 残留応力
σloss 応力減少分
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成18年8月9日(2006.8.9)
【代理人】 【識別番号】100107250
【弁理士】
【氏名又は名称】林 信之

【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元


【公開番号】 特開2008−38222(P2008−38222A)
【公開日】 平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願番号】 特願2006−216653(P2006−216653)