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【発明の名称】 半硬質磁性材料の製造方法ならびに半硬質磁性材料
【発明者】 【氏名】横山 紳一郎

【要約】 【課題】半硬質磁性材料の製造途中過程で、逆変態オーステナイトを生成する工程や、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理後の冷間圧延によってオーステナイトの形態を制御する工程を含まず、工業的製造が容易な半硬質磁性材料の製造方法ならびに半硬質磁性材料を提供する。

【構成】質量%でNi:10.0〜25.0%、Mo:2.0〜6.0%、残部が実質的にFeでなる半硬質磁性材料素材を、熱処理或いは熱間加工により90%以上のマルテンサイト組織に調整した後、減面率50%以上の冷間加工を行ってマルテンサイト組織が95%以上であって伸展状の組織を有する素材とし、その後、前記素材を400〜570℃、より望ましくは470〜530℃の範囲で逆変態オーステナイトを30.0%未満生成させる熱処理を行う半硬質磁性材料の製造方法である。この方法で製造する半硬質磁性材料は、1000〜5600A/mの保磁力を得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でNi:10.0〜25.0%、Mo:2.0〜6.0%、残部が実質的にFeでなる半硬質磁性材料素材を、熱処理或いは熱間加工により90%以上のマルテンサイト組織に調整した後、減面率50%以上の冷間加工を行ってマルテンサイト組織が95%以上であって伸展状の組織を有する素材とし、その後、前記素材を400〜570℃の範囲で逆変態オーステナイトを30.0%未満生成させる熱処理を行うことを特徴とする半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項2】
半硬質磁性材料素材のNi量は、質量%で15.0〜22.0%であることを特徴とする請求項1に記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項3】
半硬質磁性材料素材のMo量は、質量%で3.0〜5.5%であることを特徴とする請求項1または2に記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項4】
半硬質磁性材料素材に行う熱処理或いは熱間加工は700℃を超え1200℃以下で行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項5】
半硬質磁性材料素材に行う熱処理或いは熱間加工は800〜1150℃で行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項6】
半硬質磁性材料素材には800〜1000℃の熱処理と、900〜1150℃での熱間加工を行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項7】
冷間加工の減面率は70%以上であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項8】
冷間加工の減面率は90%以上であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項9】
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を470〜530℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項10】
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を490〜520℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項11】
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理の保持時間を10分以上とすることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項12】
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理により、逆変態オーステナイトを0%を超え30.0%未満生成させる熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至11の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項13】
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理により、逆変態オーステナイトを5%〜25.0%生成させる熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至11の何れかに記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項14】
質量%でNi:10.0〜25.0%、Mo:2.0〜6.0%、残部が実質的にFeでなり、金属組織がマルテンサイトと逆変態オーステナイトの組織でなり、且つ組織中における前記逆変態オーステナイト量が30.0%未満の金属組織を呈し、保磁力Hcが1000〜5600A/mであることを特徴とする半硬質磁性材料。
【請求項15】
ビッカース硬さが400Hv以上であり、磁場8000A/mでの磁束密度B8000(T)と残留磁束密度Br(T)との比B/B8000が0.70以上であることを特徴とする請求項14に記載の半硬質磁性材料。
【請求項16】
質量%でNi:15.0〜22.0%であることを特徴とする請求項14または15に記載の半硬質磁性材料。
【請求項17】
半硬質磁性材料素材のMo量は、質量%で3.0〜5.5%であることを特徴とする請求項14乃至16に記載の半硬質磁性材料。
【請求項18】
保磁力Hcが1200〜4000A/m、磁場8000A/mでの磁束密度B8000(T)と残留磁束密度Br(T)との比B/B8000が0.80以上、残留磁束密度Brが1.0T以上であることを特徴とする請求項14乃至16に記載の半硬質磁性材料。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば防犯センサーのバイアス材として用いられる半硬質磁性材料の製造方法ならびに半硬質磁性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
大型量販店等において、盗難防止のために商品に取り付けられる磁気センサータグ(以下、防犯センサーと記す)は、共振する磁歪薄片とそれに磁界を与えるバイアスとで構成される。
防犯センサーのシステムは、料金を支払わずに商品を店外に持ち出そうとすると、磁歪薄片が共振して警報が鳴る機能を有しているが、正規に料金が支払われた場合には、磁歪薄片が共振しないように共振周波数を変化させる必要がある。磁歪薄片の共振周波数を変えるためには、バイアスが磁歪薄片に与える磁界の大きさを変える必要があり、より具体的には、料金が支払われるまでは着磁状態にあるバイアスを、料金支払い後には脱磁状態に変える必要がある。
このため、料金支払い後には、レジのカウンター台に付属した脱磁装置でバイアスを脱磁する作業が行われる。この際、バイアスを構成する材料の保磁力が大き過ぎると脱磁し難くなる。逆に、保磁力が小さ過ぎると脱磁し易いものの、着磁状態で磁歪薄片に与える磁界が小さくなる問題がある。更には、バイアスに僅かな逆磁場が印加されることによって防犯センサーとしての機能を失うため、信頼性に乏しくなる。
【0003】
前述のバイアス用の材料としては、8000A/m以上の高保磁力を持つ硬質磁性材料(永久磁石)と800A/m以下の低保磁力を持つ軟磁性材料との中間の大きさの保磁力を持つ半硬質磁性材料が好んで用いられている。
具体的には、保磁力Hが1000〜5600A/m、より望ましくは1200〜4000A/mの範囲の磁気特性と、着磁状態と脱磁状態でのオン・オフの違いが明確であることが望まれるため、飽和磁束密度Bと残留磁束密度Bが高く、更にB−H曲線における角型比B/Bが高い値を示す磁気特性とを併せ持った材料であることが望まれる。
【0004】
また半硬質磁性材料は、上述した防犯センサー用途の他に、リレー用途やモータ用途にも使用されている。
このような半硬質磁性材料の一つとして、特開昭60−116109号公報(特許文献1)には、質量%でNi:16.0〜30.0%、Mo:3.0〜10.0%、残部が実質的にFeで成るFe−Ni−Mo系半硬質磁性材料とその製造方法が開示されている。
この提案では、加工率20〜80%の圧延、引抜、スウェージング加工を行う。この時の金属組織は加工度に応じてマルテンサイト組織が増加し、オーステナイト+マルテンサイト組織となる。その後、600〜700℃の温度で10分〜5時間保持して逆変態オーステナイトを生成させて30〜70%のオーステナイト組織とマルテンサイト組織の混合組織とし、再度、圧下率50〜98%の加工を施し、更に最終の時効処理を500〜600℃の温度で10分〜5時間保持して、逆変態オーステナイト組織を生成させて、質量%で30〜70%のオーステナイト組織に調整する製造方法を開示している。
【0005】
また、特表2000−504069号公報(特許文献2)には、質量%でNi:16.0〜30.0%、Mo:3.0〜10.0%、残部が実質的にFeで成るFe−Ni−Mo系半硬質磁性材料の製造方法として、マルテンサイト組織の材料を約475〜625℃で約4分間加熱して逆変態オーステナイトを生成させた後、冷間圧延によって、この逆変態オーステナイトを細長く伸ばして伸展状の組織とし、所望の保磁力(2400A/m以上)を得る提案がなされている。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−116109号公報
【特許文献2】特表2000−504069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した2つの提案では、最終的なマルテンサイト+オーステナイトの混合組織を得るために、中間工程においても意図的に逆変態オーステナイトを生成させてマルテンサイト+オーステナイトの混合組織としている。
特許文献1では、30〜70%のオーステナイト組織をマルテンサイト組織中に生成させるために、各工程中もオーステナイト組織+マルテンサイト組織の混合組織を維持しつづけ、最後のエージングにより所望の金属組織に調整する。しかしながら、最終エージング前の金属組織は、例えば熱履歴により金属組織がその都度変化し易く、更に冷間圧延時の各パスでの圧下率でも金属組織を変化させることから、最終エージング条件を固定しようとすると、磁気特性にばらつきが生じることがある。
【0008】
また、特許文献2においては、生成した逆変態オーステナイトを冷間圧延して伸展状の組織とし、マルテンサイトと逆変態オーステナイトの層状組織を得ようとしている。しかしながら、本発明者の検討によれば、逆変態オーステナイトを冷間圧延すると、僅かな圧下率でマルテンサイトに変態し、その変態量は、材料と接触する圧延ロールの温度(圧延温度)にも依存して変化する。それ故、冷間圧延工程を最終工程として逆変態オーステナイト量を調整する技術には、高い生産技術が必要とされる。
本発明の目的は、上記の問題に鑑み、効率良い工業生産が可能で、かつ逆変態オーステナイト量の調整も比較的容易な半硬質磁性材料の製造方法を提供することである。更には、所望の材料組織と磁気特性(保磁力と角型比)をもった半硬質磁性材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、強磁性のマルテンサイト組織と常磁性の逆変態オーステナイト組織を混在させて所望の保磁力の半硬質磁性材料を得る最適な方法を鋭意検討した。
その結果、冷間加工に先立って行う熱処理或いは熱間加工工程から磁気特性(特に保磁力)を決定付ける逆変態オーステナイトを生成させる熱処理の直前までは、少なくとも95%以上がマルテンサイト組織の、実質的にマルテンサイト組織単相となるような工程とし、最後に行う磁気特性を決定付ける逆変態オーステナイトを生成させる熱処理によって、常磁性の逆変態オーステナイト組織を生成させる方法が最も安定的に所望の磁気特性が得られることを見出し、本発明に到達した。
更に本発明者は、半硬質磁性材料の組織と残留磁束密度ならびに角型比の関係について検討した結果、金属間化合物を微細析出させた高硬度の組織とすることにより、高い残留磁束密度と角型比が得られることを見出し、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理時に高硬度の組織を得るための熱処理温度と保持時間を検討した結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、質量%でNi:10.0〜25.0%、Mo:2.0〜6.0%、残部が実質的にFeでなる半硬質磁性材料素材を、熱処理或いは熱間加工により90%以上のマルテンサイト組織に調整した後、減面率50%以上の冷間加工を行ってマルテンサイト組織が95%以上であって伸展状の組織を有する素材とし、その後、前記素材を400〜570℃の範囲で逆変態オーステナイトを30.0%未満生成させる熱処理を行う半硬質磁性材料の製造方法である。
好ましくは、半硬質磁性材料素材のNi量は、質量%で15.0〜22.0%である上記の半硬質磁性材料の製造方法である。
また、好ましくは、半硬質磁性材料素材に行う熱処理或いは熱間加工は800〜1150℃で行う半硬質磁性材料の製造方法である。
更に好ましくは、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を470〜530℃の範囲で行う半硬質磁性材料の製造方法であり、上記熱処理の保持時間を10分以上とする半硬質磁性材料の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、質量%でNi:10.0〜25.0%、Mo:2.0〜6.0%、残部が実質的にFeでなり、金属組織がマルテンサイトと逆変態オーステナイトの組織でなり、且つ組織中における前記逆変態オーステナイト量が30.0%未満の金属組織を呈し、保磁力Hcが1000〜5600A/mである半硬質磁性材料である。
好ましくは、ビッカース硬さが400Hv以上であり、磁場8000A/mでの磁束密度B8000(T)と残留磁束密度Br(T)との比B/B8000が0.70以上である上記の半硬質磁性材料である。
更に好ましくは、質量%でNi:15.0〜22.0%である上記の半硬質磁性材料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半硬質磁性材料の最終製造工程を逆変態オーステナイトを生成させる熱処理とすることによって、最終工程を冷間圧延とした場合より保磁力の調整が容易である。それ故、本発明は、半硬質磁性材料を工業的に製造する上で、重要な技術となる。
また、本発明の半硬質磁性材料は、逆変態オーステナイトの量や硬さの調整により、所望範囲の保磁力と高い残留磁束密度と角型比を得ることができるので、例えば、防犯センサーのバイアス材として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上述したように、本発明の重要な特徴は、半硬質磁性材料の製造途中過程で意図的に逆変態オーステナイトを生成する工程や、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理後の冷間圧延によってオーステナイトの形態を制御する工程を含まず、最終冷間圧延後の逆変態オーステナイトを生成させる熱処理工程のみで逆変態オーステナイトの量、ひいては半硬質磁性材料の磁気特性を調整する製造方法を採用し、半硬質磁性材料の製造工程を簡素化したことにある。
以下、本発明の半硬質磁性材料の製造方法ならびに半硬質磁性材料における規定理由を述べる。
【0014】
まず、本発明の製造方法における半硬質磁性材料素材、および本発明の半硬質磁性材料の化学成分を規定した理由を述べる。なお、各元素の含有量は質量%である。
Ni:10.0〜25.0%
Niは、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理によって常磁性のオーステナイト組織を生成させて半硬質磁性材料の保磁力を調整するために必要な本発明の必須元素である。Ni量が10.0%より低いと、熱処理中に生成した逆変態オーステナイトが室温まで冷却される過程において、オーステナイトからマルテンサイトに変態開始する温度(M点)が高くなる。
その結果、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理の加熱中に生成したオーステナイトの大部分がマルテンサイトに変態していまい、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理後に適量のオーステナイトを残せない懸念がある。それ故、Ni量の下限を10.0%に規定した。一方、Ni量の上限が25.0%を超えると、逆変態オーステナイトは安定化するものの、半硬質磁性材料の残留磁束密度Bが低下する。それ故、Ni量の上限を25.0%に規定した。Ni量のより望ましい範囲は、15.0〜22.0%である。
【0015】
Mo:2.0〜6.0%
Moは、マルテンサイトからの逆変態で生成したオーステナイトを安定化させるのに有効な元素である。また、Moは、Niとの金属間化合物として組織中に微細に析出して半硬質磁性材料の硬さを高め、ひいては半硬質磁性材料の残留磁束密度と角型比を高める役割がある。但し、2.0%未満ではオーステナイト安定化の効果と金属間化合物として析出する効果がともに小さく、逆に6.0%を超える範囲では半硬質磁性材料の残留磁束密度Bが低下するので、2.0〜6.0%の範囲に規定した。金属間化合物として微細析出して半硬質磁性材料の硬さを高める点からは、Moのより望ましい範囲は、3.0〜5.5%である。
【0016】
残部:実質的にFe
残部を実質的にFeとするのは、単一の化学組成で成る半硬質磁性材料において、強磁性のマルテンサイト組織(体心立方格子)と常磁性のオーステナイト組織(面心立方格子)を混在させるために、Fe基合金の相変態を利用する必要があるからである。
なお、本発明の半硬質磁性材料には、C,Si,Mn,P,S,O,N等の不可避不純物は当然ながら含まれる。これらの不純物元素は、半硬質磁性材料の磁気特性(飽和磁束密度B、残留磁束密度B、角型比B/B、保磁力H)に特に影響を及ぼさない範囲として、C≦0.10%、Si≦1.0%、Mn≦1.0%、P≦0.10%、S≦0.10%、O≦0.010%、N≦0.010%の範囲に規制することが好ましい。
【0017】
次に本発明の製造工程の規定理由について述べる。
本発明の製造方法で最も特徴的なものは、冷間加工に先立って行う熱処理或いは熱間加工工程から磁気特性を決定付ける逆変態オーステナイトを生成させる熱処理の直前までは、マルテンサイト組織が90%以上の実質的にマルテンサイト組織単相状態を維持し続けるような工程とし、最後に行う磁気特性を決定付ける逆変態オーステナイトを生成させる熱処理によって、常磁性の逆変態オーステナイト組織を生成させる方法にある。
なお、以下で説明するマルテンサイト量はエックス線積分強度比により算出したものである。後述する逆変態オーステナイト組織の計算方法と併せて、組織量の計算方法を以下に示す。
【0018】
<組織計算方法>
例えば90%以上のマルテンサイト組織とは、次式(1)〜(3)で表されるXα(%)の値が90%以上となる組織を指す。
また、本発明で逆変態オーステナイト量(またはオーステナイト量)という場合には、(2)式で示すXγ(%)を指す。
α(%)=100×{ΣIα/(ΣIα+ΣIγ)}…(1)
γ(%)=100−Xα(%)…(2)
ΣIα=Iα(110)+Iα(200)+Iα(211)…(3)
ΣIγ=Iγ(111)+Iγ(200)+Iγ(220)+Iγ(311)…(4)
ここで、(3)、(4)式に記したIα(110)、Iα(200)、Iα(211)、Iγ(111)、Iγ(200)、Iγ(220)、Iγ(311)は、それぞれ素材の表面を電解研磨してエックス線回折した際に検出されるマルテンサイト組織のα(110)、α(200)、α(211)面、及びオーステナイト組織のγ(111)、γ(200)、γ(222)、γ(311)面の各面の積分強度値である。
【0019】
上述した組成を有する半硬質磁性材料素材を熱処理或いは熱間加工により90%以上のマルテンサイト組織に調整する。
90%以上のマルテンサイト組織に調整するには、マルテンサイト変態させるに十分な高い温度に加熱し、空冷以上の冷却速度で冷却することによって金属組織をマルテンサイト化することができる。そのための加熱は製品重量、製品寸法に応じて熱処理のみとしても、熱間加工のみとしても、或いは熱処理と熱間加工とを組合わせても良い。なお、重量や寸法が大きかったりすると、冷却速度を速める衝風冷却を行っても良いが、例えば熱間圧延材のように厚さが1.5〜5.0mm程度の板材であれば、空冷であっても差し支えない。
また、冷却過程で過度な変形を伴うような水冷等は後工程の冷間加工前に変形を矯正する工程を追加する必要が生じるため、空冷、衝風冷却、液体を噴霧するミスト冷却を適用するのが良い。
【0020】
この熱処理或いは熱間加工時の加熱温度は700℃を超える温度範囲が望ましい。
この理由は、700℃を超える温度域に加熱した後に空冷以上の冷却を行うと、金属組織を90%以上のマルテンサイト組織に調整し易いためである。特に好ましいのは800℃以上の温度域であり、より確実に金属組織を90%以上のマルテンサイト組織に調整できる。
また、加熱温度の上限は1200℃を超える温度に加熱してもより一層のマルテンサイト化効果は望めないことから、上限は1200℃とすると良く、特に望ましい上限は1150℃である。
なお、熱処理を行う場合、熱処理条件としては温度800〜1000℃、処理時間は0.5〜5.0時間であれば良く、熱間圧延等の熱間加工の場合は900〜1150℃程度が最適である。
【0021】
次に、上述の金属組織を90%以上のマルテンサイト組織に調整した素材を、減面率50%以上の冷間加工を行ってマルテンサイト組織が95%以上であって伸展状の組織を有する素材とする。
減面率を50%以上としたのは、前述の熱処理或いは熱間加工工程後のマルテンサイト組織量を同等以上に維持・向上させ、金属組織を十分に伸展状の組織にするためである。また、減面率が高いと、その後の逆変態オーステナイトを生成させる熱処理時に、マルテンサイトからオーステナイトへの逆変態の駆動力と、金属間化合物の析出サイトを増す効果がある。好ましくは70%以上の減面率とするのが良く、更に好ましい減面率は90%以上である。
【0022】
ここで、本発明の半硬質磁性材料の製造方法において、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理前の素材の組織を規定した理由を述べる。
素材の組織形態を伸展状の組織とした第1の理由は、この組織が、後工程となる逆変態オーステナイトを生成させる熱処理によって、高温で生成したオーステナイトを室温まで安定に存在させるために必要な組織であるからである。高温で生成した逆変態オーステナイトの安定性は、オーステナイトの結晶粒径と関係し、結晶粒径が細かいほどマルテンサイト変態への抵抗力が高まることによって安定化する。
各結晶粒が細かく伸ばされた伸展状の組織は、逆変態オーステナイトを安定化するのに好適である。逆に、熱間加工や熱間加工後の熱処理によって、再結晶組織となった素材では、結晶粒が大きいために高温で生成した逆変態オーステナイトが安定化し難い。それ故、素材の組織形態を伸展状の組織に規定した。
【0023】
また、素材の組織形態を伸展状の組織とした第2の理由は、高い残留磁束密度Bと角型比B/B8000を得るために、この異方性組織が必要となるからである。更に、素材の組織をマルテンサイト組織が95%以上の組織で成ることとした理由は、この組織が高い残留磁束密度Bを得る上で必要な組織であるからである。より望ましくは、マルテンサイト組織が98%以上であると良い。
【0024】
上記した伸展状のマルテンサイト組織が95%以上の板状素材を得るための一例としては、1000℃以上の高温での熱間圧延によって作製されたコイル状に巻かれた板状素材を、800℃以上の温度に保持したバッチ炉内で0.5〜5.0時間保持後、空冷する熱処理を施して、再結晶したマルテンサイト組織とした後に、減面率90%以上の冷間圧延を施してマルテンサイト組織を細かく伸ばすと良い。
また、熱間圧延後の素材も圧延中の動的再結晶によって再結晶組織となっていることが多いので、素材を製造する際の工程短縮を図りたい場合には、バッチ炉を用いた熱処理工程を省略しても良い。
【0025】
また、冷間加工中の加工硬化によって、素材の端部の割れが懸念される場合には、冷間加工工程の途中に熱処理工程(以下、中間熱処理と記す)を入れても良い。この場合、中間熱処理が本発明における熱処理となる。
但し、この中間熱処理をバッチ炉で行うと、素材の生産効率が著しく低下することから、中間熱処理は、連続炉で行うことが好ましく、素材の温度が800℃以上となるように調整された加熱炉の中を順次通板して行くと良い。
この中間熱処理を行うことによって、板状素材は再結晶したマルテンサイト組織に調整できる。中間熱処理を行った場合には、中間熱処理の後に冷間加工を施して、再び伸展状のマルテンサイト組織にすると良く、中間熱処理後の冷間加工時の減面率を90%以上とする。換言すれば、最終板厚まで冷間加工した時に最終減面率が90%以上となるように、中間熱処理を行う板厚を決定すると良い。
以上、述べた方法により伸展状のマルテンサイト組織が95%以上の板状素材とすることができる。
【0026】
次に逆変態オーステナイトを生成させる熱処理の温度範囲を400〜570℃に規定した理由を述べる。このオーステナイトを生成させる熱処理工程は最終工程とする。
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理は、半硬質磁性材料中のオーステナイト量を調整し、ひいては半硬質磁性材料の保磁力を調整するための重要工程である。また、この熱処理は、逆変態オーステナイトの生成と併せて金属間化合物を析出させる時効処理としての役割も兼ねており、この金属間化合物の析出によって半硬質磁性材料の残留磁束密度と角型比を調整するための重要工程でもある。
本発明者の検討によれば、例えば、防犯センサー用のバイアス材に望まれる1000〜5600A/mの範囲の保磁力を得るためには、逆変態オーステナイト量を30.0%未満の範囲に調整することが必要とされる。更に、より望ましい範囲である1200〜4000A/mの保磁力を得るためには、逆変態オーステナイト量を30.0%未満(0%は含まない)の範囲に調整すると良く、更に望ましくは5.0〜25.0%の範囲に調整するのが良い。
【0027】
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の下限を400℃としたのは、400℃未満の温度では逆変態オーステナイトが生成せず、保磁力を1000A/mまで高める効果が小さいからである。また、400℃未満の温度では、金属間化合物を析出させる効果も小さく、ひいては残留磁束密度と角型比を高める効果が小さいからである。但し、熱処理温度が400〜470℃の範囲では、逆変態オーステナイトが生成しても望ましい範囲である5.0%に満たない場合がある。それ故、逆変態オーステナイト量をより確実に5.0%以上とするためには、熱処理温度の下限は470℃であることが望ましい。
一方、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の上限を570℃としたのは、熱処理温度が570℃より高温になると、再結晶が始まることによって、伸展状の異方性組織が崩れ始め、残留磁束密度と角型比が低下するからである。それ故、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の上限を570℃に規定した。但し、熱処理温度が530〜570℃の範囲では、逆変態オーステナイト量が30.0%近傍となり易く、残留磁束密度と角型比が低下する惧れがある。それ故、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度のより望ましい上限は、530℃である。逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の更に望ましい範囲は、490〜520℃である。
【0028】
次に、望ましい範囲として、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理の保持時間を10分以上とした理由は、保持時間が10分未満の範囲では、逆変態オーステナイトの生成と金属間化合物の析出がともに不十分であるため、所望の範囲の保磁力と角型比が得られ難いからである。より望ましい保持時間は30分以上である。また、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理の保持時間の上限は、特に規定しないが、半硬質磁性材料の生産性を劣化させない範囲として、5時間以下であることが望ましい。
【0029】
最終工程となる逆変態オーステナイトを生成させる熱処理は、コイル状に巻かれた板状素材をバッチ炉に入れて行えば良い。また、熱処理雰囲気はアルゴン、窒素、水素等の無酸化雰囲気中かあるいは真空中で行っても良い。また、熱処理後の冷却は、空冷するかあるいは空気、アルゴンガスや窒素ガスを吹き付ける衝風冷却としても良い。
【0030】
次に、本発明の半硬質磁性材料における磁気特性の規定理由を述べる。保磁力Hcの範囲を1000〜5600A/mの範囲に規定したのは、この範囲が、例えば、防犯センサー用のバイアス材として必要とされる範囲であるからである。より望ましくは、1200〜4000A/mであると良い。
また、望ましい範囲として、磁場8000A/mでの磁束密度B8000(T)と残留磁束密度Br(T)との比B/B8000が0.70以上であることとしたのは、この範囲が、着磁状態と脱磁状態でのオン・オフの違いが明確であることとして望まれる範囲であり、例えば、防犯センサー用のバイアス材として用いるのに好ましいからである。より望ましくは、比B/B8000が0.80以上であると良い。また、本発明においては、残留磁束密度Brの範囲は特に規定しないが、例えば、防犯センサー用のバイアス材として用いるためには、1.0T以上であることが望ましい。
【0031】
次に、本発明の半硬質磁性材料の組織規定理由を述べる。マルテンサイトと逆変態オーステナイトの組織でなることとしたのは、強磁性のマルテンサイト中に常磁性の逆変態オーステナイトを存在させることによって磁化過程における磁壁移動を阻害し、保磁力を高めるためである。なお、本発明のマルテンサイトと逆変態オーステナイトでなる組織とは、半硬質磁性材料をエックス線回折により分析した際、マルテンサイトとオーステナイトの相が検出される状態を指す。
この組織の内、逆変態オーステナイトの量を30.0%未満としたのは、逆変態オーステナイトが30.0%以上の範囲では、保磁力が5600A/mを超える場合があるとともに、残留磁束密度と角型比が低下するためである。逆変態オーステナイト量のより望ましい上限は、25.0%である。
一方、逆変態オーステナイト量の下限は、特に規定しないが、1000A/m以上の保磁力を得るためには0%でないことが望ましく、逆変態オーステナイト量のより望ましい下限は5.0%である。
【0032】
望ましい範囲として、半硬質磁性材料のビッカース硬さを400Hv以上であることとしたのは、硬さがこの範囲であれば、金属間化合物が微細に析出していると見なすことができ、ひいては半硬質磁性材料の残留磁束密度と角型比を高めることができるからである。
本発明の半硬質磁性材料中に生成する金属間化合物は極めて微細であるため、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて金属間化合物を直接観察することは極めて難しい。しかしながら、金属間化合物が微細に析出すると、析出硬化によって高硬度化するので、ビッカース硬さを金属間化合物が析出していることの指標とすることができる。
ビッカース硬さが400Hv以上であれば、金属間化合物が微細に析出していると見なすことができ、更にB/B8000を0.70以上に調整することができる。それ故、ビッカース硬さを400Hv以上の範囲に規定した。尚、本発明の半硬質磁性材料中に生成する金属間化合物は、NiとMoの化合物であると考えており、より具体的にはNiMoであると考えている。
本発明の製造方法により作製した半硬質磁性材料は、保磁力Hを1000〜5600A/mの範囲内に調整することができるとともに、残留磁束密度を高めることができ、角型比B/B8000を望ましい範囲である0.70以上の値に調整することができる。それ故、本発明の半硬質磁性材料は、例えば、防犯センサー用のバイアス材として用いることができる。
【実施例1】
【0033】
以下の実施例で、本発明を更に詳しく説明する。
工業規模の量産用設備を用いて真空溶解後、1100℃での熱間鍛造工程を行い、半硬質磁性材料素材No.1を得た。この半硬質磁性材料素材No.1の化学組成を表1に示す。
【0034】
【表1】


【0035】
No.1の組成を有する半硬質磁性材料素材に1100℃での熱間圧延を行い2.5mm厚さに仕上げ、更に830℃に保持したAr雰囲気中で1時間保持後、空冷の熱処理を行った。
この時の熱間圧延後のマルテンサイト量は98.8%、熱処理後のマルテンサイト量は99.0%であった。なお、マルテンサイト量の測定方法は、上述したエックス線積分強度比によりマルテンサイト量を測定し、熱間圧延後及び熱処理後の金属組織は、何れも再結晶したオーステナイトが冷却中に変態したマルテンサイト組織であった。
熱処理後のコイル状素材に施す冷間加工として、減面率を60%〜96%の範囲で冷間圧延を行って、板状の素材とした。
【0036】
上述の板状素材の断面組織の例として、減面率96%の板状素材を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図1に示す。
圧延方向に沿って伸展状の異方性組織が得られていることが分かる。この減面率96%の板状素材のエックス線回折図形では、図2に示すように体心立方格子の回折ピークのみが検出されており、マルテンサイト量が100%の組織となっていることが分かる。
なお、減面率60%〜96%の冷間圧延を行った板状素材のマルテンサイト量も100%であった。なお、冷間圧延の減面率が大きいほど、各結晶粒が細かく伸ばされた伸展状の組織となっており、後の逆変態オーステナイトを生成させる熱処理によって得られる磁気特性に影響を及ぼす結果となった。この結果は後述する。
これより、本実施例の製造方法では、冷間圧延が完了するまでの途中過程で、逆変態オーステナイトは殆ど生じていないことが確認された。
【0037】
冷間圧延によって伸展状のマルテンサイト組織が100%となった各板状素材から、幅8mm×長さ90mmの短冊状試験片と幅10mm×長さ15mmの試験片を切り出し、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理として、Ar雰囲気炉中で425〜650℃の範囲で1時間保持後、空冷する熱処理を行い、半硬質磁性材料とした。
熱処理後のオーステナイト量をエックス線回折により測定し、冷間圧延後と熱処理後の硬さをビッカース硬度計を用いて荷重0.1kgの条件で測定した。また、冷間圧延後と熱処理後の直流B−H曲線を直流磁束計により最大印加磁場8000A/mの条件で測定した。このB−H曲線より、磁場8000A/mでの磁束密度B8000(T)、残留磁束密度B(T)、角型比B/B8000、保磁力H(A/m)を決定した。
【0038】
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理後のエックス線回折図形の例として、減面率96%の板状素材を500℃で1時間保持後、空冷する熱処理を行った材料のエックス線回折図形を図3に示す。体心立方格子のマルテンサイトと面心立方格子のオーステナイトが検出されており、マルテンサイトと逆変態オーステナイトの組織になっていることが分かる。
【0039】
冷間圧延の減面率を変化させた各板状素材について、オーステナイト量に及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を図4に示す。
何れの減面率の板状素材においても、オーステナイトを生成させる熱処理温度が400〜570℃の本発明の範囲では、熱処理温度の高温化とともにオーステナイト量が増加している。そして、オーステナイト量は、575℃で最大となった後には高温化とともに低下している。これは、575℃を超える温度では再結晶が始まるために、加熱中に生成したオーステナイトが不安定になるためと考えている。
また、本発明でより望ましい範囲とした470〜530℃の範囲では、オーステナイト量が30.0%未満となっていることが分かる。
【0040】
一方、図5は、冷間圧延の減面率を変化させた各板状素材について、ビッカース硬さに及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す。
何れの減面率の板状素材においても、ビッカース硬さは、オーステナイトを生成させる熱処理温度に対して逆V字型の挙動を示して変化しており、熱処理温度が400〜570℃の範囲では、冷間圧延ままの状態より高い硬度を示している。
このことから、この400〜570℃での熱処理後には、金属間化合物が析出していることが分かる。更に、本発明のより望ましい範囲とした470〜530℃で熱処理後には、400Hv以上の硬さが得られており、金属間化合物が特に微細に析出していることが分かる。
【0041】
図6は、各減面率の半硬質磁性材料素材に対して逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を施した後の残留磁束密度B(T)、角型比B/B8000、保磁力H(A/m)に及ぼす熱処理温度の影響を示す。
425〜500℃の範囲で熱処理後の残留磁束密度Bは、冷間圧延後の状態より高い値を示し、500℃を超える温度範囲では、一旦低下した後、575℃を超える温度で再び増加している。
角型比B/B8000も、残留磁束密度Bとよく似た傾向を示し、425〜525℃の範囲では、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の高温化とともに増加するが、525℃で最大値を示した後に一旦低下し、575℃を超える温度で再び増加している。また、保磁力は、総じて逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の上昇とともに増加しているが、オーステナイト量が最大となる575℃付近では、一旦、低下している。
図6から、本発明で規定する400〜570℃の範囲での逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を行った場合には、1000〜5600A/mの保磁力を持つ半硬質磁性材料が得られている。更に、本発明でより望ましい範囲とする470〜530℃で逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を行った場合には、本発明で望ましい範囲とした0.70以上の高い角型比(Br/B8000)も併せて得られることが分かる。
【0042】
図7は、減面率96%の半硬質磁性材料素材に対して、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を施した際の逆変態オーステナイト量(%)、ビッカース硬さHv0.1、残留磁束密度Br(T)、角型比Br/B8000、保磁力Hc(A/m)に及ぼす熱処理温度の影響を一覧にして示す。
熱処理温度の変化に伴う保磁力Hcの挙動は、逆変態オーステナイト量の挙動とよく似ており、逆変態オーステナイト量を調節することにより保磁力を制御できることが分かる。また、500℃以上の熱処理温度では、残留磁束密度Brと角型比Br/B8000の挙動は、逆変態オーステナイト量と裏返しの関係になっていることから、逆変態オーステナイト量の調節は、BrやBr/B8000の制御にも有効であることが分かる。
但し、逆変態オーステナイト量の少ない500℃未満の熱処理温度域においては、BrとBr/B8000の挙動は、ビッカース硬さHv0.1の挙動とよく似ており、この熱処理温度域においてBrとBr/B8000は高い値を示している。
このことから、BrとBr/B8000を高めるためには、金属間化合物を微細析出させる必要があることが分かる。このように、本発明の半硬質磁性材料の保磁力と逆変態オーステナイト量には密接な関係があり、更に高いBrやBr/B8000と金属間化合物の析出状態にも密接な関係がある。
【0043】
図6において、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の変化に伴う磁気特性の変化は、いずれの減面率を施した場合にも、よく似た挙動を示しているが、Br,Br/B8000,Hcの各特性値は減面率により異なっており、磁気特性が減面率依存性を持つことを示唆している。
そこで、冷間圧延後に500℃で1h保持後、空冷する熱処理を施した場合と、冷間圧延ままの状態でのBr,Br/B8000,Hcの各特性値に及ぼす減面率の影響を図8に示す。冷間圧延ままの状態では(図中○)、減面率が変化しても、各特性値の変化は顕著でないが、500℃での熱処理後には(図中●)、減面率の増加とともにBr,Br/B8000,Hcの各特性値は上昇している。
また、各特性値の上昇は、減面率を90%以上とした場合に特に顕著であることが分かる。このことから、冷間圧延率の減面率を高めることによって、熱処理後に1000〜5600A/mの保磁力Hcと、好ましい範囲とした0.70以上の高角型比Br/B8000が得られ、半硬質磁性材料の磁気特性に良好な結果をもたらすことが分かる。
【0044】
図8の結果を材料組織の面から解釈するため、冷間圧延後に500℃で1h保持後、空冷する熱処理を施した場合と、冷間圧延ままの状態でのビッカース硬さHv0.1と逆変態オーステナイト量(%)に及ぼす減面率の影響を図9に示す。
硬さは、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理後、冷間圧延後のいずれの状態においても減面率の増加とともに上昇しているが、減面率60%の場合には冷間圧延後(336Hv)と熱処理後(417Hv)の硬さの差が81Hvであるのに対し、減面率96%の場合には冷間圧延後(378Hv)と熱処理後(484Hv)の硬さの差が106Hvにまで広がっている。
また、冷間圧延後のオーステナイト量は、先述したように、いずれの減面率の材料においても0%であるが、熱処理後の逆変態オーステナイトの生成量は減面率60%の場合で1.2%、減面率96%の場合で6.3%と減面率とともに増加している。
このように逆変態オーステナイトを生成させる熱処理後の硬さと逆変態オーステナイト量に減面率依存性がある要因は、減面率の増加により金属間化合物の時効析出サイトと、マルテンサイトからオーステナイトへの逆変態の駆動力が増加するためと考えられる。そして、これらの金属間化合物の時効析出サイトと、マルテンサイトからオーステナイトへの逆変態の駆動力の増加が、図8に示した減面率の変化に伴う磁気特性変化の要因であると考えている。
【実施例2】
【0045】
実施例1の結果を基に、以下の製造工程での半硬質磁性材料の工業的試作を実施した。
工業規模の量産用設備を用いて真空溶解後、1100℃での熱間鍛造工程を行い、半硬質磁性材料素材を得た。この半硬質磁性材料素材に1100℃での熱間圧延を行い2.5mm厚さに仕上げた後、真空熱処理炉での熱処理を施した。なお、半硬質磁性材料素材の化学組成は表1に示すものと同じである。
熱処理条件としては、830℃まで昇温後、1時間保持し、Nガスにより急冷した。この時の熱間圧延後のマルテンサイト量は98.8%、熱処理後のマルテンサイト量は99.0%であった。なお、マルテンサイト量の測定方法は、上述したエックス線積分強度比によりマルテンサイト量を測定し、熱間圧延後及び熱処理後の金属組織は、何れも再結晶組織であった。
この熱処理した板状素材に対し、減面率60%の冷間圧延を施して板厚1mmとした後、中間熱処理(連続炉熱処理)として、板状素材の温度が約900℃となるように調整された加熱炉の中を通板させて、板状素材を軟化させた。中間熱処理後の板状素材に対し、減面率95%の冷間圧延(以下、最終冷間圧延と記す)を施して、板厚0.05mmの板状素材を得た。
中間熱処理後、及び最終冷間圧延後の板状素材のエックス線回折図形を調べたところ、いずれもマルテンサイトが100%となっていた。
それ故、この実施例2の製造工程においても、途中過程で逆変態オーステナイトは生成していない。また、中間熱処理後と最終冷間圧延後の組織を観察したところ、中間熱処理後には再結晶組織となっていたが、その後の圧下率95%の最終冷間圧延により、伸展状の組織となっていることを確認した。
【0046】
また、この板厚0.05mmの板状素材より、実施例1と同様の試験片を切り出し、475〜525℃に保持した実験用の小型Ar雰囲気炉中で1時間保持する逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を行って半硬質磁性材料を作製した後に、オーステナイト量と磁気特性を評価した。更に、板厚0.05mmの板状素材をコイル状に巻いた状態で、量産用の大型熱処理炉に挿入し、508℃に保持したAr雰囲気中で1時間保持する逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を行って半硬質磁性材料を作製した後に、オーステナイト量と磁気特性を評価した。
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度とオーステナイト量(%)、磁束密度B8000(T)、残留磁束密度B(T)、角型比B/B8000、保磁力H(A/m)の値を一覧にして表2に示す。また、半硬質磁性材料のB−H曲線の例として、量産用の大型熱処理炉において508℃で1時間熱処理後のB−H曲線を図10に示す。
【0047】
【表2】


【0048】
表2から、本発明の製造方法で作製した半硬質磁性材料では、オーステナイト量が望ましい範囲である1.0〜30.0%未満の範囲内となり、1000〜5600A/mの範囲の保磁力が得られている。更に、ビッカース硬さも望ましい範囲である400Hv以上となり、1.16T以上の高い残留磁束密度と0.797以上の高い角型比が得られることが分かる。
また、図10に示したB−H曲線からも、本発明の半硬質磁性材料における角型比の高さが分かる。
【実施例3】
【0049】
実施例1の結果を基に、以下の製造工程での半硬質磁性材料の工業的試作を実施した。
工業規模の量産用設備を用いて真空溶解後、1100℃での熱間鍛造工程を行い、半硬質磁性材料素材を得た。この半硬質磁性材料素材に1100℃での熱間圧延を行い2.5mm厚さに仕上げた。なお、半硬質磁性材料素材の化学組成は表1に示すものと同じである。
次に、工程短縮のため、熱化処理を行わずに、そのまま圧下率98%の冷間圧延を施し、板厚0.05mmの板状素材を得た。この板状素材においても、マルテンサイトが100%で、かつ伸展状の組織となっていることを確認した。
実施例1、2と同様に、この板状素材から試験片を切り出し、475〜525℃の範囲で逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を行って評価に供した。
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度とオーステナイト量(%)、磁束密度B8000(T)、残留磁束密度B(T)、角型比B/B8000、保磁力H(A/m)の値を一覧にして表3に示す。
【0050】
【表3】


【0051】
表3から、実施例3の製造方法においても、オーステナイト量が望ましい範囲である1.0〜30.0%未満の範囲内となり、1000〜5600A/mの範囲の保磁力が得られている。更に、1.38T以上の高い残留磁束密度と0.775以上の高い角型比が得られている。
【0052】
本実施例1〜3の製造方法で作製した半硬質磁性材料では、製造途中過程で意図的に逆変態オーステナイトを生成する工程や、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理後の冷間圧延によって逆変態オーステナイトの形態を制御する工程を含まなくても、冷間圧延後の逆変態オーステナイトを生成させる熱処理工程でオーステナイト量を調整することにより、所望の磁気特性を持った半硬質磁性材料が得られることが分かる。
すなわち、本実施例1〜3により、半硬質磁性材料の製造工程を簡素化できることを実証できた。
【実施例4】
【0053】
実施例2で作製した最終冷間圧延での減面率95%、板厚0.05mmの半硬質磁性材料素材から試験片を切り出し、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理時の保持時間の影響を調べる実験を行った。
逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度を490℃または500℃に固定し、保持時間を5〜60分の範囲で変動させた場合のビッカース硬さとオーステナイト量の変化を図11に示す。
490℃、500℃のいずれの熱処理温度でも、保持時間の増加とともにビッカース硬さとオーステナイト量は増加している。また、保持時間の増加に伴う磁気特性の変化を図12に示す。
保持時間の増加とともに、Br,Br/B8000,Hcの各特性値は増加しており、本発明の製造方法で望ましい範囲とした10分以上の保持により、BrとBr/B800は、特に高い値となっている。更に、より望ましい範囲とした30分以上の保持により、Hcは1000A/m以上となることが分かる。このように、最終工程となる逆変態オーステナイトを生成させる熱処理には10分以上、より望ましくは30分以上の保持をすると良いことから、バッチ炉による熱処理が適している。
【実施例5】
【0054】
表1に記した化学組成の周辺組成の半硬質磁性材料におけるオーステナイト量、硬さと磁気特性を調べるため、Ni量とMo量を変動させた11種類の半硬質磁性材料素材を真空溶解により各10kgずつ作製した。作製した各半硬質磁性材料素材の化学組成を表4のNo.2〜12に示す。
これらは、いずれも本発明の範囲内の化学組成である。これらを1100℃に加熱して熱間鍛造して20mm×60mm×600mm程度の鍛造材を得た後、各鍛造材を1100℃に加熱して熱間圧延し、厚さ2.5mmの熱延材を得た。この熱延材の酸化スケールを除去した後、830℃に保持したAr雰囲気中で1時間保持後、空冷する熱処理を行った。この熱処理後に減面率96%の冷間圧延を行って、板厚0.1mmの板状の半硬質磁性材料素材とした。
【0055】
【表4】


【0056】
実施例1と同様に、各半硬質磁性材料素材より、幅8mm×長さ90mmの短冊状試験片を切り出し、逆変態オーステナイトを生成させる熱処理として、Ar雰囲気炉中で425〜650℃の範囲で1時間保持後、空冷する熱処理を行った。この熱処理により、各半硬質磁性材料素材は、半硬質磁性材料となる。
冷間圧延後と熱処理後の直流B−H曲線を直流磁束計により最大印加磁場8000A/mの条件で測定した。このB−H曲線より、磁場8000A/mでの磁束密度B8000(T)、残留磁束密度B(T)、角型比B/B8000、保磁力H(A/m)を決定した。また、磁性測定後の一部の試験片から幅8mm×長さ15mm程度の試料を切り出し、エックス線回折によるオーステナイト量測定とビッカース硬さ測定に供した。
【0057】
半硬質磁性材料素材No.2、3、7、9と表1の半硬質磁性材料素材No.1に逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を施した際のオーステナイト量に及ぼす熱処理温度の影響を図13に示す。
No.2、3、7、9においても、No.1と同様に熱処理温度の高温化とともにオーステナイト量は増加し、No.3とNo.9においては550℃でオーステナイト量の最大値を示している。生成するオーステナイト量は、化学組成の違いによって変動しているが、いずれの半硬質磁性材料素材とも、本発明の400〜570℃のいずれかの温度で熱処理した後にはオーステナイトが生成しており、本発明でより望ましい範囲とした470〜530℃で熱処理後には、そのオーステナイト量は30.0%未満となることが分かる。
【0058】
また、半硬質磁性材料素材No.2、3、7、9と表1の半硬質磁性材料素材No.1に逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を施した際の硬さに及ぼす熱処理温度の影響を図14に示す。
いずれの半硬質磁性材料素材とも、本発明の400〜570℃のいずれかの温度で熱処理した後には、冷間圧延ままの状態より高い硬度を示しており、金属間化合物の微細析出による硬化現象が起きている。特に、Mo量をそれぞれ4.14%、4.04%、5.95%としたNo.1、2、7では、本発明で望ましいとする400Hv以上の高硬度が得られている。
【0059】
次に、半硬質磁性材料素材No.2〜12に対して逆変態オーステナイトを生成させる熱処理を施した際の磁気特性(Br,Br/B8000,Hc)に及ぼす熱処理温度の影響を図15〜17に示す。
図15は、Mo量を約4%に固定し、Ni量を12.52〜20.19%の範囲で変動させた半硬質磁性材料素材No.2、5、8、11の磁気特性に及ぼす熱処理温度の影響を示す。
BrとBr/B8000は、熱処理温度の高温化とともに上昇した後、500〜575℃の範囲で一旦低下した後に再び上昇している。また、Hcは、総じて熱処理温度の高温化とともに上昇する傾向にある。Br,Br/B8000,Hcの各特性値は、Ni量により異なっているが、この要因は、逆変態オーステナイトの安定度の違いによると思われる。すなわち、高Ni量の半硬質磁性材料素材ほど、マルテンサイトからの逆変態で生じたオーステナイトが安定であるため、室温で多量のオーステナイトが残存する結果、Br,とBr/B8000は減少し、逆にHcは上昇すると思われる。
熱処理温度と磁気特性の関係に着目すると、本発明の400〜570℃のいずれかの温度で熱処理した後には、1000〜5600A/mの保磁力と、望ましい範囲とした0.70以上のBr/B8000が得られている。更に、より望ましい範囲とした470〜530℃で熱処理後には0.70以上のBr/B8000が、より確実に得られていることが分かる。
【0060】
同様に、図16は、Ni量を約15%に固定し、Mo量を2.03〜5.95%の範囲で変動させた半硬質磁性材料素材No.3〜7の磁気特性に及ぼす熱処理温度の影響を示す。
Br,Br/B8000,Hcの各特性の熱処理温度依存性は、図15とよく似た傾向を示している。また、各特性値の値は、Mo量により異なっており、Mo量が多くなる程、Brは低く、逆にHcは高くなっている。
熱処理温度と磁気特性の関係に着目すると、本発明の400〜570℃のいずれかの温度で熱処理した後には、1000〜5600A/mの保磁力と、望ましい範囲とした0.70以上のBr/B8000が得られている。更に、より望ましい範囲とした470〜530℃で熱処理後には0.70以上のBr/B8000が、より確実に得られていることが分かる。
【0061】
更に、図17は、Ni量を約20%に固定し、Mo量を2.10〜5.08%の範囲で変動させた半硬質磁性材料素材No.9〜12の磁気特性に及ぼす熱処理温度の影響を示す。
Br,Br/B8000,Hcの各特性の熱処理温度依存性は、図15〜16とよく似た傾向を示している。
熱処理温度と磁気特性の関係に着目すると、本発明の400〜570℃のいずれかの温度で熱処理した後には、1000〜5600A/mの保磁力と、望ましい範囲とした0.70以上のBr/B8000が得られている。更に、より望ましい範囲とした470〜530℃で熱処理後には0.70以上のBr/B8000が、より確実に得られていることが分かる。
以上の実施例から、半硬質磁性材料素材の化学組成を本発明の範囲内とし、更に本発明で規定する方法で製造した本発明の半硬質磁性材料では、1000〜5600A/mの保磁力と、0.70以上の高い角型比(Br/B8000)を得ることができ、例えば、防犯センサー用のバイアス材として適用できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の製造方法を適用した板状素材の断面電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の製造方法を適用した板状素材のエックス線回折図形である。
【図3】本発明の半硬質磁性材料のエックス線回折図形である。
【図4】オーステナイト量に及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す図である。
【図5】ビッカース硬さに及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す図である。
【図6】残留磁束密度、角型比と保磁力に及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す図である。
【図7】オーステナイト量、ビッカース硬さ、残留磁束密度、角型比と保磁力に及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す図である。
【図8】残留磁束密度、角型比と保磁力に及ぼす冷間圧延時の減面率の影響を示す図である。
【図9】オーステナイト量とビッカース硬さに及ぼす冷間圧延時の減面率の影響を示す図である。
【図10】本発明の半硬質磁性材料のB−H曲線である。
【図11】オーステナイト量とビッカース硬さに及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理時の保持時間の影響を示す図である。
【図12】残留磁束密度、角型比と保磁力に及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理時の保持時間の影響を示す図である。
【図13】オーステナイト量に及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す図である。
【図14】ビッカース硬さに及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す図である。
【図15】残留磁束密度、角型比と保磁力に及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す図である。
【図16】残留磁束密度、角型比と保磁力に及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す図である。
【図17】残留磁束密度、角型比と保磁力に及ぼす逆変態オーステナイトを生成させる熱処理温度の影響を示す図である。
【出願人】 【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
【出願日】 平成19年6月26日(2007.6.26)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−31553(P2008−31553A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2007−168135(P2007−168135)