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【発明の名称】 表面外観に優れた容器用薄鋼板の製造方法および設備
【発明者】 【氏名】二宮 涼一

【氏名】竹野 謙介

【氏名】吉居 功

【要約】 【課題】容器用薄鋼板表面の肌荒れの発生を防止するとともに圧延ロールの表面荒れも回避して鋼板の品質向上および圧延ロール原単位悪化を回避することができる容器用薄鋼板の製造方法および設備を提供する。

【構成】連続焼鈍炉出側の水スプレー設備2および/またはウォータークェンチ設備3内部の雰囲気中の酸素濃度を、1000ppm以下に制御して通板する。また連続焼鈍炉出側の水スプレー設備2および/またはウォータークェンチ設備3にて使用される冷却水の溶存酸素濃度を2ppm以下とする。これにより連続焼鈍炉1の出側における鋼板の酸化が抑制され、肌荒れと呼ばれる鋼板表面の肌荒れを防止できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備内部の雰囲気中の酸素濃度を、1000ppm以下に制御して通板することを特徴とする表面外観に優れた容器用薄鋼板の製造方法。
【請求項2】
水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備に通板される鋼板の高温側から低温側へ雰囲気の流れをつくり、該設備の入口での鋼板温度より低温側にて炉外または大気へ排出することにより、設備内部の雰囲気中の酸素濃度を1000ppm以下に制御することを特徴とする請求項1に記載の表面外観に優れた容器用薄鋼板の製造方法。
【請求項3】
連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備内の炉圧を大気または炉外より高くすることを特徴とする請求項1または2に記載の表面外観に優れた容器用薄鋼板の製造方法。
【請求項4】
連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備内の雰囲気をブロアーで吸引し炉外または大気へ排出することを特徴とする請求項1または2に記載の表面外観に優れた容器用薄鋼板の製造方法。
【請求項5】
連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備にて使用される冷却水の溶存酸素濃度を2ppm以下とすることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の表面外観に優れた容器用薄鋼板の製造方法。
【請求項6】
連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備の入口での鋼板温度より低温側に、設備内雰囲気ガス排出設備を設けたことを特徴とする表面外観に優れた容器用薄鋼板の製造設備。
【請求項7】
設備内雰囲気ガス排出設備は、雰囲気ガスをブロアーで吸引し炉外または大気へ排出する方式のものであることを特徴とする請求項6に記載の表面外観に優れた容器用薄鋼板の製造設備。
【請求項8】
連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備が、さらに冷却水の溶存酸素脱気のための脱気装置を備えていることを特徴とする請求項6または7に記載の表面外観に優れた容器用薄鋼板の製造設備。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、食缶、飲料缶、18リットル缶などの容器用薄鋼板の製造方法および設備に関するものであり、特に表面の肌荒れを防止した外観に優れた容器用薄鋼板の製造方法および設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前記のような容器用薄鋼板は、熱間圧延後、所定の板厚に冷間圧延され、さらに焼鈍、調質圧延され、必要あれば2次冷間圧延されて出荷され、客先にてそのままもしくは表面処理を施されて前記のような缶に使用されるか、調質圧延後引き続きブリキやティンフリースチールなどの表面処理を経て、客先にて前記のような缶に使用される。また一部では表面処理の後に鋼板表面にフィルムラミネートやダイレクトに極薄樹脂コーティングされ、同様に使用される。
【0003】
近年、生産性や材質の均一性の観点から、前記焼鈍が鋼板コイルを積み重ねたバッチ式焼鈍から連続焼鈍に変更されているが、連続焼鈍化の進展に伴って、鋼板表面の肌荒れの発生が顕著となった。肌荒れは、鋼板表面がオレンジの表皮状の外観をなし、同時に鋼板表面の粗度も上昇する場合も多いが、上昇せずに外観だけ肌荒れ状になることもある。肌荒れの発生時は連続焼鈍出側の調質圧延機の圧延ロール表面も荒れており、調質圧延機の圧延ロール替えも頻繁化し、鋼板品質欠陥のみならず圧延ロール原単位の低下にも大きく影響する。
【0004】
容器用薄鋼板の肌荒れ防止技術としては、特許文献1、2に記載されたように、平均結晶粒径を6μm以下とする方法や、特許文献3に記載されたように結晶粒径と炭化物の平均間隔とを適正化する方法が提案されている。しかしこのように鋼板自体の結晶粒径を微細化しても、連続焼鈍設備により製造される容器用薄鋼板に関しては、肌荒れの発生を完全に防止することはできなかった。
【特許文献1】特開平11‐209845号公報
【特許文献2】特開平11‐222647号公報
【特許文献3】特開平11‐279688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の課題を解決し、容器用薄鋼板表面の肌荒れを発生を防止するとともに圧延ロールの表面荒れも回避して鋼板の品質向上および圧延ロール原単位悪化を回避することができる容器用薄鋼板の製造方法および設備を提供することを目的とするものである。
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋼板表面の肌荒れの発生原因を鋭意追究した結果、連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備の雰囲気条件によって鋼板表面の酸化膜発生状況が変化し、調質圧延後の鋼板表面性状および圧延ロール表面性状に大きな影響を及ぼすことが判明した。
【0007】
すなわち、連続焼鈍炉を出た鋼板はその出側に配置された連続焼鈍炉出側水スプレー設備及びウォータークェンチ設備により冷却されるが、水スプレー設備入口での鋼板温度は200℃前後あり、水スプレーで冷却してウォータークェンチ設備に入る直前では100℃以下に冷却されている。この水スプレー設備入口近傍の酸素濃度は数百〜数千ppmの範囲にあり、特に酸素濃度が1000ppmを超えると肌荒れの発生が著しくなることが判明した。なお、本明細書における酸素濃度はガルバニ電池式の微量酸素濃度計により測定された値を用いており、具体的には、テレダイン社の型式3000TA−EUの微量酸素濃度計による測定値である。
【0008】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであって、連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備内部の雰囲気中の酸素濃度を、1000ppm以下に制御して通板することを特徴とするものである。なお、水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備に通板される鋼板の高温側から低温側へ雰囲気の流れをつくり、該設備の入口での鋼板温度より低温側にて炉外または大気へ排出することにより、設備内部の雰囲気中の酸素濃度を1000ppm以下に制御することができる。
【0009】
なお、酸素濃度を1000ppm以下に制御するために、連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備内の炉圧を大気または炉外より高くすること、連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備内の雰囲気をブロアーで吸引し炉外または大気へ排出すること、連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備にて使用される冷却水の溶存酸素濃度を2ppm以下とすること等の手段を採用することができる。
【0010】
また本発明の容器用薄鋼板の製造設備は、連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備の入口での鋼板温度より低温側に、設備内雰囲気ガス排出設備を設けたことを特徴とするものである。なお、設備内雰囲気ガス排出設備は、雰囲気ガスをブロアーで吸引し炉外または大気へ排出する方式のものであることが好ましく、連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備が、さらに冷却水の溶存酸素脱気のための脱気装置を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、連続焼鈍炉出側の水スプレー設備やウォータークェンチ設備における鋼板表面の酸化膜形成が抑制され、鋼板表面の肌荒れが著しく改善される。また肌荒れ起因の表面欠陥回避による歩留まり向上および圧延ロールの原単位低下を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1において1は連続焼鈍炉であり、その最終部分は過時効炉または冷却炉となっている。2は連続焼鈍炉1の出側に直結された水スプレー設備、3は水スプレー設備2の下方に設置されたウォータークェンチ設備である。板厚が0.1〜0.4mm程度の容器用薄鋼板は連続焼鈍炉で焼鈍されたうえ、水スプレー設備2において冷却され、さらにウォータークェンチ設備3において冷却水中を通過して水冷され、出側ルーバー設備4を経由して調質圧延機5で調質圧延されて巻き取られる。
【0013】
連続焼鈍炉1の内部は還元性雰囲気であり、その出側に直結されている水スプレー設備2及びウォータークェンチ設備3の内部にも外気は侵入しない構造となっているのであるが、前記したとおり数百〜数千ppmの酸素濃度が測定された。連続焼鈍炉出側の水スプレー設備2および/またはウォータークェンチ設備3で酸素濃度が高い理由は、水スプレーやウォータークェンチに供給される水の溶存酸素が気化するためであると推定される。そして図2に示すように、これらの設備中の酸素濃度が1000ppmを越えると、肌荒れが発生し易くなることが確認された。
【0014】
本発明においては、鋼板表面のESCAによる酸素回析強度積算値(以下、単に酸素回析強度積算値という)とそれに大きく影響する連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備における雰囲気中の酸素濃度が重要である。なお、図2の縦軸であるESCAによる酸素回析強度積算値は、アルバック・ファイ社の光電子分光装置により測定した。
【0015】
図2に示されるように、水スプレー設備2における雰囲気中の酸素濃度が低下するにつれ、鋼板表面の酸素回析強度積算値も低下し、鋼板表面の酸化膜が減少しているものと考えられる。この結果、水スプレー設備2での雰囲気中の酸素濃度が1000ppm以下で鋼板表面の酸素回析強度積算値が4.00以下で鋼板表面の肌荒れが出荷可能レベルとなった。より好ましくは水スプレー設備2での雰囲気中の酸素濃度が500ppm以下であれば問題はない。また、図2では水スプレー設備直上での雰囲気中の酸素濃度にて評価したが、その下のウォータークェンチ装置3においても、雰囲気中の酸素濃度が同じような値を示した場合、同様な結果が得られた。
【0016】
通常、通板される鋼板温度がより高い連続焼鈍設備前段側(加熱〜均熱〜冷却/過時効〜水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備直前)では、鋼板の外気侵入による酸化防止のため雰囲気中の酸素濃度を下げるべく、対象炉設備に窒素ガスを投入するなどして酸素濃度低減に努めている。連続焼鈍炉出側の水スプレー設備2および/またはウォータークェンチ設備3についても同様の操業を実施することが好ましいが、それだけでは外気進入を防止するのみで、冷却水から気化し続ける溶存酸素を完全に無害化することはできず、無害化しようとすると大量の窒素ガス投入が必要となる。
【0017】
そこで発明者らは連続焼鈍炉出側の水スプレー設備2および/またはウォータークェンチ設備3における炉内雰囲気を調査観察した結果、連続焼鈍炉出側の水スプレー設備2および/またはウォータークェンチ設備3に通板される鋼板の高温側から低温側へ雰囲気ガスの流れをつくり、該設備入口における鋼板温度より低温側にて炉外または大気へ排出すれば、より効率的に当該設備雰囲気ガス中の酸素濃度を低減できることを見出した。
【0018】
連続焼鈍炉出側の水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備の入口付近では、前述のように通板される鋼板温度が200℃前後あり酸化しやすい状況にある。このため酸素濃度を下げるべく雰囲気ガスを排気する場合には、当該設備に通板される鋼板の高温側から低温側へ雰囲気ガスの流れをつくり、低温側にて炉外または大気へ排出すれば当該設備入口の高温部での酸化を積極的に回避できる。
【0019】
図3はその具体例を示すもので、水スプレー下もしくはウォータークェンチ水面近傍に設備内雰囲気ガス排出設備としての排気口6を設け、大気圧Paよりも高い炉圧Prを利用して設備内部の雰囲気を排気することによって、設備雰囲気ガス中の酸素濃度を低減することができる。このように、水スプレー設備2および/またはウォータークェンチ設備3での炉圧Prを大気圧Paまたは炉外圧より高くすることで、圧力差により自然排気することができる。
【0020】
また図4のように、排気口6に設備内雰囲気ガス排出設備としてのブロアー7を接続し、強制的に排気することもできる。さらに当該設備での炉圧Prを検出して排気管8に設けられた弁9の開度やブロアー7からの排気量を炉圧Prに応じて調整すれば、より確実に酸素濃度を低減することができる。
【0021】
このほか酸素濃度を下げる根本的な対策として、図5のように冷却水を循環タンク10とポンプ11、12により循環使用して冷却水の溶存酸素濃度が下がった状態を維持する方法や、あるいは図6のように水スプレー設備2および/またはウォータークェンチ設備3で使用する冷却水の溶存酸素濃度を予め煮沸等実施して下げておくか、脱気装置(例えば(株)横田製作所製/ASP型)を用いて溶存酸素濃度を下げておく方法を取ることも有効である。また窒素などの不活性ガスによるバブリング装置を設けることも有効である。
【0022】
図7に示す冷却水中の溶存酸素濃度とブタ面発生状況の調査結果から、冷却水の溶存酸素濃度は2ppm以下が好ましく、1ppm以下であればより好ましいことが分る。但し操業中に冷却水を補給することもあり得るので、図3、図4に示した排気手段と併用することがより好ましい。
【0023】
上記のように、水スプレー設備および/またはウォータークェンチ設備での雰囲気中酸素濃度を制御することで、その後の調質圧延の圧延ロール表面の荒れも少なくなり、鋼板表面の肌荒れが発生しなくなった。これは鋼板表面の酸化膜形成が抑制され減少したことにより、調質圧延時に鋼板表面から微小剥離して圧延ロール表面に付着する酸化膜が少なくなり、圧延ロールの表面が荒れなくなったため鋼板の肌荒れが発生しなくなったと推定される。さらに、調質圧延機の圧延ロールや補強ロールにポリッシャーを設置すれば、ロール表面に付着した異物と同時に付着した酸化膜も除去できて好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】連続焼鈍炉の出側の設備配置の説明図である。
【図2】水スプレー設備雰囲気中の酸素濃度と鋼板表面の酸素回折強度積算値との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の第1の実施形態を示す説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を示す説明図である。
【図5】本発明の第3の実施形態を示す説明図である。
【図6】本発明の第4の実施形態を示す説明図である。
【図7】冷却水中の溶存酸素濃度と鋼板表面の酸素回折強度積算値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 連続焼鈍炉
2 水スプレー設備
3 ウォータークェンチ設備
4 出側ルーバー設備
5 調質圧延機
6 排気口
7 ブロアー
8 排気管
9 弁
10 循環タンク
11 ポンプ
12 ポンプ
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成18年8月1日(2006.8.1)
【代理人】 【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄

【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫


【公開番号】 特開2008−31546(P2008−31546A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2006−209371(P2006−209371)