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【発明の名称】 鋼材加工時の水素脆化割れ発生防止方法
【発明者】 【氏名】石黒 康英

【氏名】橋本 裕二

【氏名】河端 良和

【氏名】豊田 俊介

【氏名】荒谷 昌利

【氏名】鈴木 孝司

【氏名】佐藤 昭夫

【氏名】郡司 牧男

【要約】 【課題】鋼材を酸洗等の薬液処理を施した後に加工するに当り、水素脆化割れの発生を防止する方法を提供する。

【構成】引張強さ:690MPa以上を有する鋼材に薬液処理を施したのち、加工処理を施すに当たり、薬液処理後に大気中放置、または熱処理からなる加工前処理を施し、しかるのちに加工処理を施す。大気中放置は気温10℃以上、1日間以上とすることが好ましく、また、熱処理は40〜100℃で、かつ10min以上とすることが好ましい。また、鋼材の出荷時に、試験材を採取し、試験材に、出荷後の薬剤処理相当の薬剤処理を施し、加工処理を施されるまでの状況、加工処理条件を考慮して、所定の大気中放置、あるいは所定の熱処理からなる加工前処理を施し、しかるのちに、出荷後に施される加工処理を模擬した条件で加工し、試験材の破壊状況を調査する。薬液処理を施さない非処理試験材の破壊状況と対比して、鋼材加工時の水素脆化割れ発生の有無を判断する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強さ:690MPa以上を有する鋼材に薬液処理を施したのち、加工処理を施すに当たり、前記薬液処理を施した後に大気中放置、または熱処理からなる加工前処理を施し、しかるのちに前記加工処理を施すことを特徴とする鋼材加工時の水素脆化割れ発生防止方法。
【請求項2】
前記大気中放置が気温10℃以上で、かつ1日間以上の大気中放置であることを特徴とする請求項1に記載の水素脆化割れ発生防止方法。
【請求項3】
前記熱処理が40〜100℃の範囲内の温度で、かつ保持時間を10min以上とする処理であることを特徴とする請求項1に記載の水素脆化割れ発生防止方法。
【請求項4】
前記薬液処理が酸洗処理であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の水素脆化割れ発生防止方法。
【請求項5】
前記加工処理が、最も加工度の高い箇所における真歪で0.05以上となる加工であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の水素脆化割れ発生防止方法。
【請求項6】
前記加工処理が、最も加工度の高い箇所における歪速度で、3×10-4/s以上となる加工であることを特徴とする請求項5に記載の鋼材加工時の水素脆化割れ発生防止方法。
【請求項7】
製造時に薬液処理を施された引張強さ:690MPa以上を有する鋼材の出荷時検査方法であって、出荷時に、前記鋼材から試験材を採取し、該試験材に、出荷後加工処理を施されるまでの状況、加工処理条件を考慮して、所定気温、所定期間の大気中放置、あるいは所定温度および所定時間の熱処理からなる加工前処理を施し、しかるのちに、出荷後に施される加工処理を模擬した条件で加工し、該試験材の破壊状況を調査することを特徴とする引張強さ:690MPa以上を有する鋼材の出荷時検査方法。
【請求項8】
前記鋼材と同種で、製造時に薬液処理を施されない鋼材から採取した非薬液処理試験材に、前記出荷後に施される加工処理を模擬した条件で加工を施し、該非薬液処理試験材の破壊状況と、前記試験材の破壊状況とを対比して、前記製造時に薬液処理を施された鋼材の加工時の水素脆化割れ発生の有無を判断することを特徴とする請求項7に記載の鋼材の出荷時検査方法。
【請求項9】
前記大気中放置の所定気温が10℃以上で、所定期間が1日間以上であることを特徴とする請求項7または8に記載の鋼材の出荷時検査方法。
【請求項10】
前記熱処理の所定温度が40〜100℃の範囲内の温度で、かつ前記熱処理の所定時間が10min以上であることを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の鋼材の出荷時検査方法。
【請求項11】
前記薬液処理が酸洗処理であることを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載の鋼材の出荷時検査方法。
【請求項12】
前記加工が、曲げ加工であることを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載の鋼材の出荷時検査方法。
【請求項13】
引張強さ:690MPa以上を有する鋼材の出荷時検査方法であって、該鋼材が、出荷後、薬液処理を施され、しかるのちに加工処理を施されるものであり、出荷時に該鋼材から試験材を採取し、該試験材に、前記薬液処理相当またはそれ以上の苛酷な条件で検査用薬液処理を施し、該検査用薬液処理後直ちに、あるいはさらに前記加工処理を施されるまでの状況を考慮した、所定気温、所定期間の大気中放置、あるいは所定温度および所定時間の熱処理からなる加工前処理を施したのち、前記加工処理相当またはそれ以上の苛酷な条件で加工を施し、該試験材の破壊状況を調査することを特徴とする引張強さ:690MPa以上を有する鋼材の出荷時検査方法。
【請求項14】
前記試験材の破壊状況を、前記検査用薬液処理を施さない非処理試験材の破壊状況と対比して、鋼材加工時の水素脆化割れ発生の有無を判断することを特徴とする請求項13に記載の鋼材の出荷時検査方法。
【請求項15】
前記薬液処理が酸洗処理であることを特徴とする請求項13または14に記載の鋼材の出荷時検査方法。
【請求項16】
前記加工が、曲げ加工であることを特徴とする請求項13ないし15のいずれかに記載の鋼材の出荷時検査方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、薄鋼板、厚鋼板、鋼管等の鋼材の加工時の水素脆化割れ防止方法に係り、詳しくは、鋼材に酸洗等の薬液処理を施したのち、成形加工を施すに際し、引張強さ以下の応力の付加で発生する脆性的破壊(以下、水素脆化割れともいう)の発生を防止する方法に関する。なお、ここでいう「鋼材」とは、薄鋼板、厚鋼板、鋼管等を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
ボルト、バネ、PC鋼棒、薄鋼板、厚鋼板、鋼管等の鋼材を高強度化するに伴い、降伏強さ以下の応力付加にもかかわらず、応力付加後、特定時間経過後に鋼材が破壊する現象が、古くから知られており、破壊が、応力付加後、しばらく時間が経過してから発生することから、遅れ破壊現象と呼ばれている。
遅れ破壊は、水素が直接的あるいは間接的に影響していることは実験的な事実として認められているが、遅れ破壊の発生機構については、まだ完全に確証を得たわけではない。古典的には、遅れ破壊は、例えば、鋼中に侵入した水素原子がFe−Fe結合を弱めるためである、あるいは亀裂の進展を水素が促進するためである、という説が唱えられてきた。最近では、鋼中の原子空孔(Vacancy)が、水素の存在下でエネルギー的に安定化し、通常であれば生成して消滅していくのに対し、残存するためである、という説が唱えられている。
【0003】
遅れ破壊は、凡そ引張強さ:980MPa超えの強度を有する鋼材で、発生が懸念され、多くの防止対策が提案されてきた。例えば、特許文献1には、C、Si、Mnの適正量を含み、必要に応じてさらにNb、Ti、Bを含む組成を有し、残留オーステナイト量が5%以下である、引張強さ:100〜150kgf/mm2の、加工性および耐置き割れ性に優れた高強度薄鋼板が提案されている。特許文献1に記載された技術では、残留オーステナイト量を低減することにより、耐置き割れ性が向上するとしている。
【0004】
また、特許文献2には、C、Si、Mn、Cr、V、B、Mg等の適正量を含み、Mgの酸化物、硫化物、複合晶出物および複合析出物のいずれか1種または2種以上の複合酸化物を適正量含む、熱間プレス用高強度鋼板が提案されている。特許文献2に記載された技術では、Mgの複合酸化物を含むことにより、水素のトラップサイトが増加し、耐遅れ破壊性が向上するとしている。
【0005】
また、特許文献3には、C、Mn、Cr の適正量を含み、Si、P、Sを所定値以下に低減した鋼を、燐を含まない潤滑被膜形成剤(但し、石灰を除く)で処理した後、成形加工並びに焼入れ・焼戻処理する耐遅れ破壊性に優れた高強度部材の製造方法が提案されている。特許文献3に記載された技術では、部材表面に、燐を含まない潤滑被膜を形成することにより、耐遅れ破壊性が向上するとしている。
【0006】
また、特許文献4には、燐酸塩被膜処理鋼材を冷間成形したボルトを熱処理するに当り、酸化雰囲気下で中間熱処理を行い、その後焼入れ焼戻処理する高張力ボルトの耐遅れ破壊性向上方法が提案されている。特許文献4に記載された技術では、焼入れ焼戻処理前に、燐酸塩被膜が除去でき、耐遅れ破壊性が向上するとしている。
また、特許文献5には、C、Si、Mn、Cr、Mo、Ti、Vの適正量を含み、さらにCr、Mo、Ti、Vを所定の関係式を満足するように含む、冷間加工性と耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼が提案されている。特許文献5に記載された技術によれば、Ti、Vを複合添加することにより、炭化物を効率よく析出させることができ、水素のトラップ能が向上して、酸性環境下や熱負荷が加わる環境下における耐遅れ破壊性が向上するとしている。
【0007】
また、特許文献6には、鋼材部品を高周波または超高周波により表層部を、好ましくは100〜300℃の温度範囲に加熱する鋼材部品のベーキング処理方法が提案されている。特許文献6に記載された技術によれば、鋼中に含まれる拡散性水素を除去、または非拡散性水素に移行させて無害化することを、極めて効率的に行なうことができ、水素脆化による遅れ破壊を防止できるとしている。
【0008】
また、非特許文献1には、一定応力下(使用応力下)で鋼材に遅れ破壊が発生しない限界水素量を定義し、限界水素量に比べて、環境から侵入する拡散性水素量が少ない場合には、その鋼材(ボルト鋼)は遅れ破壊しないと推定する方法が提案されている。
【特許文献1】特公平7−74412号公報
【特許文献2】特開2006−9116号公報
【特許文献3】特許第2713382号公報
【特許文献4】特許第3048238号公報
【特許文献5】特開2005−240086号公報
【特許文献6】再公表特許WO2002/046479号公報
【非特許文献1】N.Suzuki et al.:Journal Wire International, vol.19,(1986),pp.36−47
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜6に記載された技術はいずれも、主として焼入・焼戻処理によって高強度化した鋼材の、一定応力の負荷という条件下における遅れ破壊の発生防止を主たる目的として成されたものである。しかし、最近、本発明者らは、引張強さ:980MPa未満の鋼材を、酸洗等の薬液処理後に所定形状に加工する際に、引張強さ以下の応力で、脆性的破壊が発生することを知見した。この破壊は、(1)加工を加える時の破壊である点、(2)一定応力下での破壊ではないという点、および(3)引張強さ:980MPa超えるような高強度化した鋼材における破壊ではないという点で、特許文献1〜6に記載された技術で関係する、遅れ破壊とは異なる現象であるといえる。特許文献1〜6のいずれにも、かかる脆性的破壊現象についての言及は全くない。かかる脆性的破壊現象を、本発明者らは、「水素脆化割れ」と呼ぶことにした。
【0010】
このような状況に鑑み、本発明は、鋼材を酸洗等の薬液処理を施した後に加工するに当り、かかる脆性的破壊、すなわち水素脆化割れの、発生を防止する方法を提供することを目的とする。なお、対象とする鋼材は、引張強さ:980MPa以上の高強度材、および従来遅れ破壊が殆ど問題とならなかった、比較的低強度の引張強さ:980MPa未満で690MPa以上の鋼材をも含むものとする。また、本発明は、鋼材を製品として出荷後、鋼材加工時に、かかる水素脆化割れの発生を防止できる、鋼材の出荷時検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、かかる脆性的破壊の発生に影響する各種要因について研究した。
まず、本発明を成す契機となった実験結果について説明する。
黒皮付780MPa級熱延鋼帯(板厚:3.2mm)を連続してロール成形してオープン管としたのち、オープン管の端部同士を電縫溶接して780MPa級鋼管(外径89.1mmφ×肉厚3.2mm)とした。また、この電縫溶接ままの鋼管(鋼管A)に、酸洗処理(薬液処理)を施して表面のスケールを除去し、脱スケール処理済み鋼管(鋼管B)とした。また、比較として、上記した黒皮付780MPa級熱延鋼帯(板厚:3.2mm)を連続酸洗処理(薬液処理)を施し、脱スケール処理済鋼帯としたのち、該鋼帯を連続してロール成形し、電縫溶接して鋼管(鋼管C)とした。
【0012】
ついで、これら鋼管(鋼管A、B、C)から切断によりそれぞれ、適当な長さの試験鋼管を採取した。
得られた試験鋼管に、室温で、図1に示す扁平試験を実施した。この扁平試験では、図1(a)に示すように試験鋼管3を試験機の台2上に静置させ、図1(b)に示すように加工ヘッド1で管断面が偏平化する方向に圧縮する加工を施した。なお、試験を実施するに当たり、電縫溶接部が台2に接触するような位置に試験鋼管をセットした。また鋼管Bでは、薬液処理終了後できるかぎり速く試験を実施した。薬液処理後最長でも5時間以内には試験を完了した。
【0013】
その結果、鋼管A(電縫溶接まま)、鋼管Cは、塑性変形して偏平化し、加工限界を超えたのち延性的に破断した。一方、鋼管B(薬液処理実施)は、加工限界の遥か手前で、独特な甲高い金属音を発し、殆ど塑性変形することなく脆性的に破壊し、破断した。なお、破断部は、圧縮成形加工時にもっとも高い曲げ応力がかかる部位3aであった。鋼管A、鋼管Cと鋼管Bとでは、明らかに破壊挙動、破壊形態が相違しており、単に表面肌の違いに起因した摩擦係数の違いによるとは言えないことを知見した。
【0014】
なお、試験鋼管と同じ母板(熱延鋼帯)から、切欠き付き定荷重片を採取して、塩酸浸漬環境下で、鋼管Bが破壊する直前の応力に相当する一定応力を負荷し100h間浸漬する試験を実施したが、遅れ破壊は発生しなかったことを確認している。
従来から100〜120キロ級高張力鋼材(引張強さ:980〜1180MPa)では、使用環境によって遅れ破壊が発生することが懸念されてきた。しかし、本発明者らが新たに見出した上記した脆性的破壊は、加工時に発生すること、比較的低強度の鋼材に発生することから、本発明者らは、従来から言われてきた遅れ破壊とはその機構を異にしていると考えた。
【0015】
このような結果に基づき、本発明者らは、さらに考究した結果、比較的低強度(引張強さ:980MPa未満)の鋼材を酸洗等の薬液処理を施した後に加工するに際し発生する脆性的破壊は、薬液処理終了後長時間経過した鋼帯を使用して電縫溶接して得られた鋼管Cでは発生せず、また、薬液処理を施さない試験鋼管(鋼管A)では発生しないことから、薬液処理に際し鋼中に侵入した水素に起因する水素脆化割れであると推察した。というのは、酸洗等の薬液処理では、鋼材中に水素がチャージされる可能性が高く、そのために鋼材が水素脆化し、加工に際し、割れが発生する危険性が高くなるからである。
【0016】
本発明は、上記した知見に基づいてさらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)引張強さ:690MPa以上を有する鋼材に薬液処理を施したのち、加工処理を施すに当たり、前記薬液処理を施した後に大気中放置、または熱処理からなる加工前処理を施し、しかるのちに前記加工処理を施すことを特徴とする鋼材加工時の水素脆化割れ発生防止方法。
【0017】
(2)(1)において、前記大気中放置が気温10℃以上で、かつ1日間以上の大気中放置であることを特徴とする水素脆化割れ発生防止方法。
(3)(1)において、前記熱処理が40〜100℃の範囲内の温度で、かつ保持時間を10min以上とする処理であることを特徴とする水素脆化割れ発生防止方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記薬液処理が酸洗処理であることを特徴とする水素脆化割れ発生防止方法。
【0018】
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記加工処理が、最も加工度の高い箇所における真歪で0.05以上となる加工であることを特徴とする水素脆化割れ発生防止方法。
(6)(5)において、前記加工処理が、最も加工度の高い箇所における歪速度で、3×10-4/s以上となる加工であることを特徴とする鋼材加工時の水素脆化割れ発生防止方法。
【0019】
(7)製造時に薬液処理を施された引張強さ:690MPa以上を有する鋼材の出荷時検査方法であって、出荷時に、前記鋼材から試験材を採取し、該試験材に、出荷後加工処理を施されるまでの状況、加工処理条件を考慮して、所定気温、所定期間の大気中放置、あるいは所定温度および所定時間の熱処理からなる加工前処理を施し、しかるのちに、出荷後に施される加工処理を模擬した条件で加工し、該試験材の破壊状況を調査することを特徴とする引張強さ:690MPa以上を有する鋼材の出荷時検査方法。
【0020】
(8)(7)において、前記鋼材と同種で、製造時に薬液処理を施されない鋼材から採取した非薬液処理試験材に、前記出荷後に施される加工処理を模擬した条件で加工を施し、該非薬液処理試験材の破壊状況と、前記試験材の破壊状況とを対比して、前記製造時に薬液処理を施された鋼材の加工時の水素脆化割れ発生の有無を判断することを特徴とする鋼材の出荷時検査方法。
【0021】
(9)(7)または(8)において、前記大気中放置の所定気温が10℃以上で、所定期間が1日間以上であることを特徴とする鋼材の出荷時検査方法。
(10)(7)ないし(9)のいずれかにおいて、前記熱処理の所定温度が40〜100℃の範囲内の温度で、かつ前記熱処理の所定時間が10min以上であることを特徴とする鋼材の出荷時検査方法。
【0022】
(11)(7)ないし(10)のいずれかにおいて、前記薬液処理が酸洗処理であることを特徴とする鋼材の出荷時検査方法。
(12)(7)ないし(11)のいずれかにおいて、前記加工が、曲げ加工であることを特徴とする鋼材の出荷時検査方法。
(13)引張強さ:690MPa以上を有する鋼材の出荷時検査方法であって、該鋼材が、出荷後、薬液処理を施され、しかるのちに加工処理を施されるものであり、出荷時に該鋼材から試験材を採取し、該試験材に、前記薬液処理相当またはそれ以上の苛酷な条件で検査用薬液処理を施し、該検査用薬液処理後直ちに、あるいはさらに前記加工処理を施されるまでの状況を考慮した、所定気温、所定期間の大気中放置、あるいは所定温度および所定時間の熱処理からなる加工前処理を施したのち、前記加工処理相当またはそれ以上の苛酷な条件で加工を施し、該試験材の破壊状況を調査することを特徴とする引張強さ:690MPa以上を有する鋼材の出荷時検査方法。
【0023】
(14)(13)において、前記試験材の破壊状況を、前記検査用薬液処理を施さない非処理試験材の破壊状況と対比して、鋼材加工時の水素脆化割れ発生の有無を判断することを特徴とする鋼材の出荷時検査方法。
(15)(13)または(14)において、前記薬液処理が酸洗処理であることを特徴とする鋼材の出荷時検査方法。
【0024】
(16)(13)ないし(15)のいずれかにおいて、前記加工が、曲げ加工であることを特徴とする鋼材の出荷時検査方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、引張強さ:690MPa以上を有する鋼材の加工時に水素脆化による脆性的破壊の発生を防止でき、生産性向上に寄与でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、出荷後の鋼材加工時に水素脆化割れの発生を抑制できる鋼材の取扱い管理方法を提案することもでき、鋼材出荷後のトラブル発生を未然に防止できるという効果もある。なお、この提案はミルシート、契約書等の書面として提示できるようにすることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
まず、本発明が対象とする鋼材は、引張強さ:690MPa以上を有する鋼材とする。本発明では、対象とする鋼材は、引張強さが690MPa以上を有する鋼材であればよく、とくにその組成は限定されない。本発明では、薬液処理された、引張強さ:690MPa以上を有する鋼材を加工するに際し発生する、脆性的破壊を防止する。なお、この脆性的破壊の発生は、組成や強度レベルや加工の度合い、薬液処理の程度によって、発生状況は多少変動する可能性はある。
【0027】
本発明が対象とする鋼材で加工時に発生する脆性的破壊とは、引張強さ以下、場合によっては降伏強さ以下の低い応力負荷時に、加工部分において、甲高い金属音を伴い脆性的破壊を伴う破壊をいう。この破壊では、多くの場合、複数の個所から同時発生的に亀裂が発生し、やがてこれらの亀裂が連結する。薬液処理を施していない鋼材の破壊と比較して、この脆性的破壊の特徴としては、破壊時に甲高い金属音を伴うこと、破壊が生じる応力が低いこと、破面が延性的でないことが挙げられる。本発明では、この脆性的破壊を、「水素脆化による割れ」、あるいは「水素脆化割れ」とも称する。なお、本発明者らの検討では、引張強さ:690MPa未満の鋼材では、かかる水素脆化割れの発生は認められなかった。
【0028】
加工時に発生する、かかる脆性的破壊、「水素脆化割れ」は、鋼材に酸洗処理をはじめとする薬液処理を施した場合に発生する。薬液処理は、鋼材製造工程、鋼材の切断加工工程や、鋼材を所定の製品に加工する加工処理工程等で通常に行なわれているが、鋼材に薬液処理を施さない場合には、この水素脆化割れは発生しない。なお、ここでいう「薬液処理」とは、酸洗処理、pHが低い状態での化学処理等を含むものとする。酸洗処理は、濃度:10vol%以上の塩酸、あるいは硫酸水溶液を用いて、しかも、室温〜70℃程度の温度で処理される場合が多く、鋼中に水素がチャージされる可能性が高いため、水素脆化割れが発生しやすくなる。また、pHが低い状態での化学処理は、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、ノンクロメート処理等が例示され、pH2〜4程度が標準的な処理である。pH値が低い場合には、鋼材中に水素がチャージされる可能性があり、水素脆化割れが発生する可能性がある。
【0029】
本発明では、薬液処理された鋼材に種々の加工処理を施すに際し、加工時に水素脆化割れの発生を防止して、鋼材を加工する。本発明では、鋼材に薬液処理を施した後、大気中放置または熱処理からなる加工前処理を施し、薬液処理時に侵入した水素を鋼材の外に排出し、鋼材加工時の水素脆化割れの発生を防止する。
本発明では、加工前処理における大気中放置は、鋼中に侵入した水素を積極的に排出させることを目的として行なう処理であり、気温10℃以上で、かつ1日間以上とすることが好ましい。大気中放置時の気温が、10℃未満では、水素の排出が不十分で、水素脆化割れの発生を防止できない。また、大気中放置時の期間が1日未満では、同様に水素脆化割れの発生を防止できない。
【0030】
また、本発明では、加工前処理における熱処理は、上記した大気中放置と同様に、鋼中に侵入した水素を積極的に排出させることを目的として行なう処理であり、40〜100℃の範囲内の温度で、かつ10min以上保持する処理とすることが好ましい。熱処理の温度が、40℃未満では、水素の排出が不十分で、水素脆化割れの発生を防止できない。一方、100℃を超える温度では、鋼材の強度が低下する場合がある。とくに、熱処理温度が、200℃以上の高温となると、マルテンサイトを主体とした組織を有する鋼材の場合には、ε炭化物が生成し、若干、強度が低下することが多い。なお、強度低下や組織変化を許容できる場合には100℃を超える温度で熱処理を行ってもよい。また、上記した温度域の温度であれば、10min以上の保持で所期の目的を十分に達成できる。なお、保持時間は長ければ長いほど水素の排出が十分に行なえるが、60minを超える保持は生産性が低下するという問題がある。
【0031】
また、本発明では、水素脆化割れの発生が問題となる加工処理は、最も加工度の高い箇所における真歪で0.05以上となる加工とすることが好ましい。加工度が増加するに従い水素脆化割れは発生しやすくなるが、最も加工度の高い箇所における真歪が0.05未満では、状況によっては水素脆化割れの発生が認められない場合がある。なお、図1におけるような鋼管の偏平化加工においては、最も加工度の高い箇所は3aであり、真歪εは次式
ε=In(1+t/(2R−t))−In(1+t/(D−t))
(ここで、R:扁平部曲率半径、D:加工前外径、t:肉厚)
を用いて算出される。なお、ここでいう加工処理は、引張加工でも、圧縮加工でもよく、引張、曲げ、張り出し、深絞り等いずれの加工モードでもよい。
【0032】
また、水素脆化割れの発生が問題となる加工処理においては、加工の歪速度は3×10-4/s以上に限定することが好ましい。歪速度が3×10-4/s未満では、本発明で対象とする水素脆化割れの発生が認められなくなる。なお、実際の加工は複雑であり、加工歪はプレスの押込み量や、加工冶具の降下距離等の加工パラメータに比例しない。このため、加工処理における歪速度は、図6に示すように、加工歪(真歪)と、加工パラメータとが比例関係を示す領域で定義するものとする。なお、本発明では水素脆化割れが発生すればよいのであって、歪速度の上限については、特に限定する必要はない。
【0033】
また、本発明で規定する加工の歪速度は最も加工度の高い箇所におけるものとする。
また、本発明では、上記した鋼材加工時の水素脆化割れ発生防止方法を応用し、製造時に薬液処理を施された鋼材の出荷時に、当該鋼材から試験材を採取し、該試験材に、出荷後、加工処理を施されるまでの状況を考慮した加工前処理を施したのち、該試験材に、出荷後に施される加工処理条件を模擬した条件で加工処理を施し、該試験材の破壊状況を調査し、出荷後の加工時に水素脆化割れが発生しないことを確認する、鋼材の出荷時検査方法とすることが好ましい。出荷後に加工処理を施されるまでの状況、出荷後に施される加工処理を模擬した条件で、加工時に鋼材に脆性的破壊が発生する場合には、更なる加工前処理を施すことが望ましい。
【0034】
なお、本発明の鋼材の出荷時検査方法では、試験材の破壊状況を、製造時に薬液処理を施されない同種の鋼材から採取した非薬液処理試験材に、前記試験材と同じ出荷後に施される加工処理を模擬した条件で加工処理を施して得られた該非薬液処理試験材の破壊状況と、対比することにより、鋼材加工時の水素脆化割れ発生の有無を推定してもよい。同一加工状態で、製造時に薬液処理を施されない鋼材から採取した非薬液処理試験材の破壊状況と、製造時に薬液処理を施された鋼材から採取した試験材の破壊状況を対比することにより、水素脆化割れの危険度の判断が明確にできることになる。製造時に薬液処理を施されなかった鋼材では水素脆化割れの発生はないため、製造時に薬液処理を施された鋼材から採取した試験材の破壊状況と、製造時に薬液処理を施されなかった鋼材から採取した非薬液処理試験材の破壊状況と、が同様であれば、鋼材加工時の水素脆化割れの発生はないと判断できる。
【0035】
加工前処理としては、出荷後加工処理を施されるまでの状況を考慮した、所定気温、所定期間の大気中放置、あるいは所定温度および所定時間の熱処理とすることが好ましい。出荷後加工処理を施されるまでの状況、加工処理を考慮した条件で、加工時に鋼材に脆性的破壊が発生する場合には、加工前処理を変化して同様な試験を実施して、脆性的破壊が発生しない条件の、大気中放置、あるいは熱処理を選定することが好ましい。
【0036】
加工前処理である大気中放置は、加工処理を施されるまでの状況に応じて、放置温度、保持期間を適正範囲に調整することが好ましいが、少なくとも気温10℃以上で、かつ1日間以上とすることが好ましい。また、大気中放置では、時間がかかりすぎる場合には、所定温度および所定時間の熱処理としてもよい。熱処理条件は、加工処理を施されるまでの状況に応じて、処理温度、保持時間を適正範囲に調整することが好ましいが、少なくとも、40〜100℃の範囲内の温度で、かつ10min以上保持する処理とすることが好ましい。
【0037】
本発明の鋼材の出荷時検査方法によれば、出荷後の加工処理時における、水素脆化割れの危険度を予測でき、出荷後に鋼材加工時の水素脆化割れを回避し、加工処理を効率よくしかも安定して行なうことができるようになる。
上記した鋼材の出荷時検査方法は、出荷後に薬液処理を施すことを想定していない場合である。鋼材出荷後に薬液処理を施し、ついで加工される場合には、実施する薬液処理に応じて、水素脆化割れの発生を回避するために、薬液処理後に所定の加工前処理を施す必要がある。
【0038】
鋼材が、出荷後薬液処理を施され、しかるのちに加工処理を施される場合には、出荷時に該鋼材から試験材を採取し、該試験材に、前記薬液処理相当またはそれ以上の苛酷な条件で検査用薬液処理を施し、該検査用薬液処理後直ちに、あるいはさらに加工処理を施されるまでの状況を考慮した、所定気温、所定期間の大気中放置、あるいは所定温度および所定時間の熱処理からなる加工前処理を施したのち、加工処理相当またはそれ以上の苛酷な条件で加工を施し、該試験材の破壊状況を調査することが好ましい。
【0039】
試験材に施される検査用薬液処理、及び、加工は、共に、実際に受ける状況に相当する条件とするか、あるいは実際よりも過酷な条件とすることが好ましい。薬液処理が、鋼材製造時を含めて、加工処理を施されるまでに、複数回行なわれる場合には、もっとも厳しい薬液処理、または、加工処理に一番時間的に近い薬液処理に相当するものを基準とすることが好ましい。
【0040】
なお、実際よりも過酷な条件とすることにより、実際の鋼材加工時に水素脆化割れの発生がないことを高精度に保証できる。また、曲げ・曲げ戻しを伴う“ヘム部”等の複雑な加工を受ける部位では、加工度を明確にできない場合があるが、実際の加工度よりも、一層苛酷な条件で試験しても、水素脆化割れの発生がなければ、実際の鋼材加工時に水素脆化割れの発生がないことを高精度に保証できる。
【0041】
上記した鋼材の出荷時検査方法によれば、出荷後に薬液処理を施される場合においても、水素脆化割れの危険度が予測でき、試験材の破壊状況が脆性的破壊(水素脆化割れ)でないことを確認できれば、鋼材加工時に水素脆化割れ発生が回避できることになり、加工処理を効率よくしかも安定して行なうことができるようになる。
なお、上記した鋼材の出荷時検査方法では、薬液処理を施した試験材の破壊状況を、薬液処理を施さない非処理試験材の破壊状況と対比することにより、鋼材加工時の水素脆化割れ発生の有無を推定してもよい。同一加工状態で、薬液処理を施さない非処理試験材の破壊状況と、薬液処理を施した試験材の破壊状況とを対比することにより、水素脆化割れの危険度の判断が明確にできることになる。薬液処理を施さない非処理試験材では水素脆化割れの発生はないため、薬液処理を施した試験材の破壊状況と薬液処理を施さない非処理試験材の破壊状況とが同様であれば、鋼材加工時の水素脆化割れの発生はないと判断できる。
【0042】
また、薬液処理を施した試験材の破壊状況が、薬液処理を施さない非処理試験片の破壊状況と異なり、脆性的破壊であれば、鋼材加工時に水素脆化割れが発生すると判断される。その場合には、水素脆化割れを回避できるように、加工前処理条件を選定し、推奨することが好ましい。
なお、本発明の鋼材の出荷時検査方法では、試験材に施す加工の条件は、実際に鋼材に施される加工処理以上の苛酷な条件としてもよい。また、試験材に施す加工は、曲げ加工とすることが好ましい。というのは、曲げ加工は、簡便、かつ、結果の判定が容易で、苛酷な条件を容易に負荷できるからである。曲げ加工としては、内側曲げ半径を変化したU字曲げ試験、負荷応力を変化した4点曲げ試験、折れ曲がり角度を変化した折れ曲がり試験等が例示でき、それぞれ付加する加工度が容易に変化可能である。なお、鋼材が鋼管の場合には、図1に示す偏平試験としてもよい。偏平試験では、扁平高さを変えて加工度を変えることができる。
【0043】
試験材の破壊状況は、破壊時の特性で評価しても、あるいは、破面観察で行なってもどちらでもよい。破壊時の特性で評価する場合には、その評価手法が有する誤差を踏まえたうえで、判断することが肝要である。また、典型的な水素脆化割れの場合には、破面に特有の脆化面(延性破面でない破面モード)が観察される。また、破面を突合せて観察すると、鋼管における水素脆化割れの場合には、図2(b)に示すように、同時多発的に脆性的な割れが発生し、それらが連結して最終的に破断する傾向があり、脆性面が個々に連結して、段差のある包絡線状になる場合と、脆性面から割れが始まり、最終的に延性的に破断する場合等がある。一方、非水素脆化割れの場合には、破面を突合せて観察すると、図2(a)に示すように、延性的に割れが発生し、破断する。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
表1に示す鋼a組成の780MPa級熱延鋼板から条取りした帯鋼(黒皮付)を使って製管し、電縫溶接して得た電縫鋼管(外径101〜102mmφ×肉厚3.4mm)(電縫まま)Aを素材とした。なお、素材とした電縫鋼管Aは、シームアニールなしとした。素材鋼管(非シーム部)から管軸方向が引張方向となるように、JIS 12号A試験片(弧状)を採取し、引張試験を実施したところ、降伏強さは781MPa、引張強さは819MPaであった。なお、比較として、表1に示す鋼a組成の780MPa級熱延鋼板を用い、インラインで連続的に酸洗し黒皮を除去し、酸洗後約1〜2週間程度経た熱延鋼板(帯鋼:黒皮なし)を素材として製管した電縫鋼管(黒皮なし鋼管)Bも用いた。
【0045】
素材である電縫鋼管A、電縫鋼管Bから試験材(管)(長さ:65mm)をそれぞれ採取した。試験材(電縫鋼管A)には、さらに薬液処理を施したのち、加工前処理として、表2に示す条件の大気中放置あるいは熱処理を施した。薬液処理は、10%塩酸水溶液(液温:25℃)に30分間浸漬する処理とし、鋼管表面の酸化膜を除去した。熱処理は、恒温槽に試験材を装入し、所定時間保持する恒温槽処理とした。ここでいう恒温槽処理とは、所定温度の炉内温度環境に、所定時間だけ装入する処理をいうものとする。所定温度は試験材(鋼管)温度を必ずしも意味しない。
【0046】
これら試験材を用いて、加工処理として、図1に示す偏平試験(偏平化加工)を実施した。偏平試験では、試験材を、シーム部が殆ど加工を受けないように、シーム部を台2に接触させて配置し、試験を実施した。偏平試験は、加工ヘッド1を下降させて試験材(鋼管)3を完全偏平化するまでの加工を施した。
また、試験途中に、試験材3に割れが観察される寸前の試験材(管)の高さ(偏平高さ)を求め、偏平高さ比(=偏平高さ/試験材(母管)高さ)を算出した。なお、偏平試験では、加工ヘッド1の下降速度を30mm/minとした。なお、この下降速度は、最大加工度(真歪:0.1)位置での歪速度で、5×10-3/sに相当する。
【0047】
試験後、試験材の破壊状況を観察した。破壊状況の調査項目としては、目視または走査型電子顕微鏡(SEM)観察により破面を観察し延性破壊か、あるいは脆性破壊かの破面モード調査、および破断面を突き合わせたときの破断面形態の調査、および加工時(試験時)に試験材が発する音響の有無の調査とした。
破面モードの調査では、試験材破面について、目視、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM)観察により観察し、延性破壊の場合を延性、脆性破壊の場合を脆性として判定した。
【0048】
また、破断面を突き合わせたときの破断面形態の調査では、破断面を付き合わせて、図2に示すように、試験材(管)長手方向に沿って(A−A矢視)、目視で破断位置近傍を観察し、破断面形態を直線状か、段差状か判定した。破断面形態が直線状(図2(a))であれば、延性破壊であり、鋼中の介在物を起点にして、糸状の亀裂が進展した形態を呈している。一方、段差状(図2(b))であれば、水素脆化割れであり、亀裂がガタガタした段差状の形状を呈し、割れの起点では脆性面が口を開いた形状になっている。
【0049】
加工時(試験時)に試験材が発する音響の調査では、加工時に発生する音の有無を調査した。延性破壊であれば、鋭い金属音の発生はないが、水素脆化割れの場合には、ある瞬間から、甲高い独特の金属音(短周期で一瞬の“バリバリ”とした音)を発する。
得られた結果を表2に示す。
【0050】
【表1】


【0051】
【表2】


【0052】
また、比較として、電縫鋼管Aを製造するに際し、製造ラインの入り側で、条切りされた状態の熱延鋼板を抜取り、該熱延鋼板から、図5に示す形状の切欠き付き試験片を採取し、図4に示す試験機で、10%塩酸水溶液中で定荷重試験も実施した。定荷重試験は、無負荷の状態で、10%塩酸水溶液中に30分間浸漬させた後、所定の荷重(750MPa)を印加させ、50hを満了条件として、遅れ破壊の発生の有無を評価した。なお、10%塩酸水溶液中に30min間浸漬させた状態での拡散性水素量を、昇温脱離式ガスクロマトグラフィーで測定した。なお、ガスクロマトグラフィーでの昇温速度は、200℃/hとし、温度−脱離水素量の関係から、低温側に出る第1ピークに相当する水素量を拡散性水素量として定義した。第1ピークの高温側の“裾”がゼロになる温度は、250℃〜300℃であり、第1ピークに相当する水素量は、正確にはその温度以下で脱離した水素量を意味する。得られた結果を表3に示す。
【0053】
【表3】


【0054】
本発明例はいずれも、薬液処理を施しても、水素脆化割れの発生が防止されている。一方、薬液処理を施し、本発明範囲内の大気中放置または熱処理からなる加工前処理を施さない比較例は水素脆化割れが発生している。なお、使用した鋼管は薬液処理を施さない場合(鋼管No.1、No.11)には、水素脆化割れの発生は認められない。
鋼管No.1は、扁平高さ比が0.12であり、完全扁平試験時でも、延性モードで破壊し、また、突合せた破面形態は、直線状であり、破壊時に金属音の発生も認められなかった。鋼管No.11は、酸洗後約1〜2週間程度を経て製管された鋼管(電縫鋼管B)であり、扁平高さ比は鋼管No.1とほぼ同程度である。このことは、酸洗処理後、かなりの時間が経てば、水素脆化割れの発生は無くなることを意味している。
【0055】
また、鋼管No.2〜4、No.7(比較例)は、薬液処理後に、加工前処理として大気中放置を行なっているが、不十分で、大気中放置時間が長くなるほど、偏平高さ比は小さくなって、大気中放置の効果が認められるが、破面モードは脆性で、破面突合せ形態が段差状(図2(b)参照)で、また、加工(試験)時の金属音の発生も認められ、完全には水素脆化割れの発生を防止できていない。
【0056】
また参考として行なった定荷重試験の結果から判断すると、使用した鋼管は、降伏応力に近い応力を負荷しても、遅れ破壊の発生は認められず、耐遅れ破壊特性に優れた鋼管であるといえる。また、試験時に試験片中に含まれる拡散性水素量もかなり低く値であった。この値は、ボルト等で遅れ破壊が発生する限界であると説明されている限界拡散性水素量(非特許文献1参照)と比較して、低い値となっており、耐遅れ破壊性に優れると判断することができる。
【0057】
しかし、耐遅れ破壊特性に優れている鋼管であっても、薬液処理後の処理条件によっては、鋼管No.2〜No.4、No.7等におけるように、加工時に水素脆化割れが観察されることがある。このことは、拡散性水素量が少ないレベルでも、水素脆化割れが発生することを示している。
(実施例2)
表4に示す組成の鋼(No.b〜No.e)を用いて得られた鋼管強度590〜1280MPa級の電縫鋼管、および表1に示す組成の鋼(No.a)を用いて得られた鋼管強度780MPa級の電縫鋼管から、実施例1と同様に、試験材を採取し、表5に示す条件で薬液処理、および加工前処理を施したのち、加工処理として、図1に示す偏平試験(偏平化加工)を実施した。
【0058】
なお、薬液処理は、10%塩酸水溶液(液温:10℃)に、または5%塩酸水溶液(液温:25℃)に30min間浸漬する処理とし、鋼管表面の酸化膜を除去した。偏平試験は、加工ヘッド1を下降させて試験材(鋼管)3を完全偏平化するまでの加工を施した。なお、試験途中に、試験材3に割れが観察される寸前の試験材(管)の高さ(偏平高さ)を求め、偏平高さ比(=偏平高さ/試験材(母管)高さ)を算出した。なお、偏平試験では、加工ヘッド1の下降速度を1700mm/min、30mm/min、10mm/minまたは2mm/minとした。なお、この下降速度は、最大加工度(真歪:0.1)位置での歪速度で、3×10-1/s、5×10-3/s、1.7×10-3/s、0.3×10-4/sにそれぞれ相当する。また、一部では偏平試験の途中で加工を停止し、加工度(真歪)を変化して、偏平高さ比(=偏平高さ/試験材(母管)高さ)を求めた。なお、加工度(真歪)は、次式を用いて算出した。
【0059】
ε=In(1+t/(2R−t))−In(1+t/(D−t))
(ここで、R:扁平部曲率半径、D:加工前外径、t:肉厚)
偏平試験後、実施例1と同様に、試験材の破壊状況を観察した。
得られた結果を表5に示す。
【0060】
【表4】


【0061】
【表5】


【0062】
鋼管No.21〜No.30は、偏平試験を完全扁平まで実施した例であり、鋼管No.21〜No.25は鋼管強度の影響を調査したものである。鋼管の引張強さが690MPa以上の電縫鋼管では、薬液処理を施し、加工前処理が本発明範囲を外れ不十分であると、水素脆化による割れが発生する可能性があることがわかる。鋼管の引張強さが690MPa未満の電縫鋼管では、水素脆化割れの危険性はない。
【0063】
鋼管No.25は、鋼管No.24に比較し、加工前処理である大気中放置を長くしたものであり、引張強さが1280MPa級のものでも、鋼中の水素を十分に排出させることにより、水素脆化割れの発生が防止できることを示している。
鋼管No.26〜No.30は、加工処理時の加工速度の影響を示した例である。加工ヘッドの下降速度が、2mm/min以上1700mm/min以下(鋼管No.26、No.28、No.29)では、いずれも水素脆化割れが観察される。しかし、鋼管No.27、No.30では、それぞれ加工ヘッドの下降速度が1700mm/min、2mm/minであるが、加工前処理である大気中放置を十分行って鋼中から水素を排出すれば、下降速度:1700mm/minで加工しても、また、2mm/minで加工しても、水素脆化割れの発生を防止できることがわかる。
【0064】
鋼管No.31〜No.35は、加工処理時の加工度の影響を示した例である。鋼管No.31は、加工度が真歪:0.43(割れ限界まで加工)で、割れが発生しているが、破面モードは延性で、破面突合せ形態は直線的、割れ時に音の発生がないことから、延性破壊であり、鋼中の介在物を起点として、鋼自体の加工限界で割れたと考えられる。鋼管No.32と鋼管No.33との比較から、加工度が真歪:0.10でも、大気中放置の条件によって、水素脆化割れが発生しないことを示している。なお、鋼管No.35は、加工度が真歪:0.02程度では、酸洗処理後直ちに加工処理を施しても、加工度が低い場合には水素脆化割れの発生は認められないことを示している。
【0065】
(実施例3)
表4に示す組成の鋼(No.e)を用いて得られた1280MPa級の電縫鋼管(素材:冷延鋼板)から、試験材(板状:長さ150mm×幅50mm×板厚2.4mm)を採取し、表6に示す条件で加工前処理を施し、図3に示す曲げ試験を実施した。なお、曲げ試験における曲げの程度は、割れの有無に関わらず、試験材31が下部の台21に付くまで実施した。加工の程度は、スプリングバッグ等や、大気放置時間等の影響で、割れの有無が異なり、なお、曲げ試験では、加工ヘッドの下降速度を15mm/min(最大加工度部での歪速度で2.5×10-3/s)とした。
【0066】
曲げ試験後、実施例1と同様に、試験材の破壊状況を観察した。
得られた結果を表6に示す。
【0067】
【表6】


【0068】
鋼管No.41は、薬液処理なしのものであり、比較例であり、曲げ試験では割れの発生は認められない。鋼管No.42〜No.44では、加工前処理が本発明範囲から外れる場合には、水素脆化割れの発生が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】偏平試験方法を模式的に示す説明図である。
【図2】偏平試験後の破断状況の一例を模式的に示す説明図である。
【図3】曲げ試験方法を模式的に示す説明図である。
【図4】定荷重遅れ破壊試験方法を模式的に示す説明図である。
【図5】遅れ破壊試験片の形状を模式的に示す説明図である。
【図6】歪速度を定義する領域を模式的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0070】
1 加工ヘッド
2 台
3 鋼管
3a 最大加工部
10 試験片(遅れ破壊試験用)
11 水素チャージ用薬液
12 重錘
13 定荷重遅れ破壊試験機
14 ガラス製容器
21 台(曲げ試験用)
31 試験材(曲げ試験用)
41 曲げ加工ロール
51 支持ロール
【出願人】 【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
【出願日】 平成18年7月27日(2006.7.27)
【代理人】 【識別番号】100099531
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 英一


【公開番号】 特開2008−31512(P2008−31512A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2006−204901(P2006−204901)