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【発明の名称】 環状部材の製造方法
【発明者】 【氏名】原嶋 照

【要約】 【課題】肉厚が薄く、さらには径が大きい内周面に機械加工が施された環状部材を精度よく製造する方法を提供することにある。

【構成】リングギヤRの内周面75に機械加工を施す前に、リングギヤRの外周面74を焼入れすることで、その外周面74の剛性が向上し、機械加工を行ってもリングギヤRの外周面74への加工歪を抑制させることができる。これにより、焼入れによる熱変形も小さくなり、リングギヤRの真円度や軸心方向の真直度の精度を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に機械加工を施す環状部材の製造方法であって、
前記環状部材の外周面に焼入れを行う第1の焼入工程と、
前記外周面に焼入れが行われた環状部材の内周面に機械加工を施す機械加工工程と、
前記機械加工が施された環状部材の内周面に焼入れを行う第2の焼入工程とを、
有することを特徴とする環状部材の製造方法。
【請求項2】
前記機械加工は、前記環状部材の内周面に内周歯を形成する歯切加工であることを特徴とする請求項1に記載の環状部材の製造方法。
【請求項3】
前記環状部材は、遊星歯車装置を構成するリングギヤであることを特徴とする請求項1または2に記載の環状部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば車両用自動変速機に備えられている遊星歯車装置のリングギヤなど、内周面に機械加工が施された環状部材の製造方法に関し、特に、その環状部材の真円度や軸心方向の真直度の精度向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用自動変速機に備えられている遊星歯車装置のリングギヤなど、内周面に機械加工が施されることで内周歯などが形成された環状部材がある。このような環状部材は、内周面に内周歯等の動力伝達部が設けられるため、比較的高い精度が要求される。この問題対して、特許文献1では、内歯歯車(本明細書では環状部材に相当)の歯部(内周)と本体(外周)とを別体で製作し、一体化する技術が開示されている。この技術によれば、加工後に焼入れを行いつつも精度のよい内歯歯車を製造することができる。また、特許文献2では、内歯歯車の歯部(内周)と本体(外周)とを別材料で構成する技術が開示されている。この技術によれば、本外(外周)を軽い材料、歯部(内周)を耐圧および耐摩耗に優れた材料で、内歯歯車を製造することで、軽量で耐久性も高く、比較的精度にも優れた内歯歯車を製造することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−154850号公報
【特許文献2】特開2006−15452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した特許文献1および特許文献2をはじめとした従来の環状部材の製造方法は、何れも内周面の機械加工後にその加工部に焼入れを行う。このため、環状部材の肉厚を薄くする、さらには径を大きくする場合には、内周面の機械加工の際に環状部材の外周面の剛性が低いため加工歪が生じ易く、さらに加工歪が生じたまま内周面を焼入れるため、熱変形も大きくなり、著しく環状部材の真円度や軸心方向の真直度が損なわれる恐れがあった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、肉厚が薄く、且つ大径である内周面に機械加工が施された環状部材を精度よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)内周面に機械加工を施す環状部材の製造方法において、(b)前記環状部材の外周面に焼入れを行う第1の焼入工程と、(c)前記外周面に焼入れが行われた環状部材の内周面に機械加工を施す機械加工工程と、(d)前記機械加工が施された環状部材の内周面に焼入れを行う第2の焼入工程とを、有することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1に記載の環状部材の製造方法において、前記機械加工は、前記環状部材の内周面に内周歯を形成する歯切加工であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2に記載の環状部材の製造方法において、前記環状部材は、遊星歯車装置を構成するリングギヤであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1にかかる発明の環状部材の製造方法によれば、環状部材の内周面に機械加工を施す前に、環状部材の外周面を焼入れすることで、その外周面の剛性が向上し、機械加工を行っても環状部材の外周面への加工歪を抑制させることができる。これにより、焼入れによる熱変形も小さくなり、環状部材の真円度や軸心方向の真直度の精度を向上させることができる。
【0010】
また、請求項2にかかる発明の環状部材の製造方法によれば、前記環状部材の内周面の歯切加工は、内周面への前記第2の焼入工程前に行うため、焼入れによる影響が回避され、精度のよい内周歯を成形することができる。
【0011】
また、請求項3にかかる発明の環状部材の製造方法によれば、前記環状部材は、遊星歯車装置を構成するリングギヤであるため、リングギヤの真円度や軸心方向の真直度の精度が向上し、遊星歯車装置の噛合伝達誤差を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明が適用された車両用自動変速機8の一部を示す断面図である。車両用自動変速機8の軸心部分には、第1入力軸10と第2入力軸12とが同軸心C上に直列に配設されている。第1入力軸10と第2入力軸12とは、第1入力軸10の第2入力軸12側の内周面に設けられたスプライン歯14と、第2入力軸12の第1入力軸10側の外周面に設けられたスプライン歯16とが互いに噛み合うことにより、軸心まわりに一体的に回転させられる。この第1および第2入力軸12、14は、エンジン等の走行用駆動源によって回転駆動される図示しないトルクコンバータのタービン軸である。
【0014】
第1入力軸10の第2入力軸12側の端部には、フランジ部18が形成されている。このフランジ部18の外周面には、スプライン歯20が形成されていると共に、軸心方向の一方側から径方向外側に突き出す突起部22が形成されている。サンギヤSは、内周面の一部に形成されたスプライン歯24が上記フランジ部18のスプライン歯20と噛み合うことにより、第1入力軸10に対して相対回転不能とされている。また、サンギヤSは、その側面が突起部22の側面に当接させられることにより、軸心方向の突起部22側への移動が禁止されている。
【0015】
サンギヤSには、ピニオンギヤPが噛み合わされており、また、ピニオンギヤPはリングギヤRとも噛み合わされている。ピニオンギヤPの軸心には、ピニオンシャフト26が挿し通されており、ピニオンシャフト26は、キャリヤCAに支持されている。これら、サンギヤS、キャリヤCA、ピニオンギヤP、およびリングギヤRなどによって遊星歯車装置28が構成される。
【0016】
キャリヤCAは、ハブ部30と、ハブ部30の一方の端に連結されて径方向外側に向かう連結部32と、連結部32の外周端に連結されて、軸心方向のハブ部30とは反対側に延び、ピニオンシャフト26を支持する円筒状の支持部34とからなる。ハブ部30は、第2入力軸12の外周側に設けられ、第2入力軸12と同軸上でその第2入力軸12に対して相対回転可能とされた第1中間軸36にスプライン嵌合されている。前記ピニオンシャフト26は、支持部34を軸心方向に貫通する軸方向穴38に挿入され、且つ、その両端が支持部34に支持されているので、ピニオンギヤPは、キャリヤCAと一体回転させられる。
【0017】
キャリヤCAの支持部34のハブ部30とは反対側の端部には、支持部34の外周面と前記軸心方向穴38とを連通する第1径方向穴40と、その第1径方向穴40と同軸上において、支持部34の内周面と前記軸心方向穴38とを連通する第2径方向穴42とが形成されている。
【0018】
また、ピニオンシャフト26には、ピニオンシャフト26を径方向に貫通し、ピニオンシャフト26がキャリヤCAに支持された状態で上記第1径方向穴40および第2径方向穴42と連通する貫通穴44が形成されている。そして、第1径方向穴40に挿入されたピニオンシャフト固定ピン46の先端がその貫通穴44に嵌め入れられることにより、ピニオンシャフト26はキャリヤCAに固定されている。さらに、ピニオンシャフト26には、そのピニオンシャフト26の軸心を通り、一方の端が上記貫通穴44と連通させられている軸心穴48が設けられている。
【0019】
キャリヤCAの支持部34の上記第1径方向穴40および第2径方向穴42が形成されている側の端部の内周面には、ブッシュ50(滑り軸受)が圧入により嵌合されている。また、支持部34のブッシュ50が圧入されている側の端部の外周面には、摩擦係合装置の構成部材であるブレーキハブ52がスプライン嵌合されている。
【0020】
上記ブッシュ50の内周には、さらにスリーブ54が嵌め入れられており、キャリヤCAは、スリーブ54およびブッシュ50を介して、非回転部材であるケース56に相対回転可能に支持されている。
【0021】
また、サンギヤSのハブ部30とは反対側の側面と、ケース56の段付壁58との間には、スラストベアリング60が介装されており、サンギヤSはスラストベアリング60を介してケース56に対して相対回転可能に支持されている。
【0022】
リングギヤRの外周面の一端には、スプライン歯62が形成されており、有底円筒状のブレーキハブ64の円筒部の内周面に形成されたスプライン歯66と嵌合されて互いに相対回転不能となっている。また、リングギヤRのスプライン歯62の中央部には、環状溝68が形成されていると共に、ブレーキハブ64のスプライン歯66にも環状溝68と同じ溝幅を有する環状溝70が形成されており、それぞれの環状溝68、70にスナップリング72が嵌め着けられることで、軸心方向への移動が阻止されている。
【0023】
図2は、図1のリングギヤRを拡大して示した断面図である。リングギヤRは比較的肉薄で大径である環状部材であり、外周面74の一端には、スプライン歯62が形成されており、そのスプライン歯62の中央部には、図1のスナップリング72を嵌め付けるための環状溝68が形成されている。また、リングギヤRの内周面75にはピニオンギヤPと噛み合うための内周歯76が形成されている。なお、リングギヤRは軸心Cに対して対称となっているため、図2においては、軸心Cから下半分が省略されている。また、本実施例の遊星歯車装置28を構成するリングギヤRが本発明の環状部材に対応している。
【0024】
図3は、そのリングギヤRを製造する一連の工程を示したフローチャートである。まず、外周面焼入工程S1では、リングギヤRの外周面74に焼入れを行う。焼入れは、たとえば高周波焼入れによって実施され、焼入れによる熱硬化によって、図2の斜線で示されるリングギヤRの外周部表層の剛性が向上させられる。なお、本実施例の外周面焼入工程S1が、本発明の第1の焼入工程に対応している。
【0025】
次いで、歯切工程S2では、リングギヤRの内周面75に歯切加工を施し、内周歯76を形成する。内周歯76は、たとえば、歯車シェービング盤やブローチ盤などの歯車加工用機械によって歯切される。この歯切加工では、外周面焼入工程S1によってリングギヤRの外周部の剛性が向上しているため、歯切の際に生じる外周部への加工歪が抑制される。また、リングギヤRの内周面75は外周面焼入工程S1によって熱硬化されていないため、歯切加工の際に歯車加工用機械の刃部にかかる荷重が大きくなり、その刃部の寿命が低下するなどの弊害が回避される。そして、内周歯焼入工程S3では、その歯切された内周歯76に焼入れを行うことで、内周歯76の表層を硬化させる。なお、内周歯76の焼入れについても前述と同様に高周波焼入れによって実施される。また、本実施例の歯切工程S2が、本発明の機械加工工程に対応しており、内周歯焼入工程S3が、本発明の第2の焼入工程に対応している。
【0026】
ここで、外周面焼入工程S1では、リングギヤRの外周部の剛性が向上させられるため、歯切工程S2の歯切加工において、リングギヤRの歯切加工による加工歪が抑制され、内周歯焼入工程S3の焼入工程においても熱変形が減少し、リングギヤRの真円度や軸心方向の真直度の精度を向上させることができる。
【0027】
上述のように、本実施例によれば、リングギヤRの内周面75に機械加工を施す前に、リングギヤRの外周面74を焼入れすることで、その外周面74の剛性が向上し、機械加工を行ってもリングギヤRの外周面74への加工歪を抑制させることができる。これにより、焼入れによる熱変形も小さくなり、リングギヤRの真円度や軸心方向の真直度の精度を向上させることができる。
【0028】
また、前述の実施例によれば、リングギヤRの内周面75の歯切加工は、その内周面75への焼入工程前に行うため、焼入れによる影響が回避され、精度のよい内周歯76を成形することができる。
【0029】
また、前述の実施例によれば、リングギヤRは、遊星歯車装置28を構成するリングギヤRであるため、リングギヤRの真円度や軸心方向の真直度の精度が向上し、遊星歯車装置28の噛合伝達誤差を抑制することができる。
【0030】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0031】
たとえば、本実施例では、本発明の環状部材はリングギヤRであったが、遊星歯車のリングギヤに限られず、本発明は、たとえば内周面にスプライン歯が形成された部材など、内周面に機械加工を施す他の環状部材にも適用することができる。
【0032】
また、前述の実施例では、リングギヤRの焼入れは、高周波焼入れによって実施されたが、特に高周波焼入れに限定されるものではなく、たとえば炎焼焼入れやレーザ焼入れなど、他の焼入れ法であっても構わない。
【0033】
また、前述の実施例では、リングギヤRの内周歯76は、、歯車シェービング盤やブローチ盤によって成形されるが、特にこれらに限定されるものではなく、ホブ盤など、他の歯車加工用機械によって内周歯76を成形したものであっても構わない。
【0034】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明が適用された車両用自動変速機の一部を示す断面図である。
【図2】図1のリングギヤを拡大して示した断面図である。
【図3】リングギヤを製造する一連の工程を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
28:遊星歯車装置 74:外周面 75:内周面 R:リングギヤ(環状部材)
【出願人】 【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【出願日】 平成18年7月19日(2006.7.19)
【代理人】 【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸


【公開番号】 特開2008−24977(P2008−24977A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−197484(P2006−197484)