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【発明の名称】 靭性および延性に優れたパーライト系レールの製造方法
【発明者】 【氏名】狩峰 健一

【氏名】上田 正治

【氏名】竹下 哲郎

【要約】 【課題】高靭性、高延性のパーライト鋼レールを得る

【構成】質量%で、C :0.6〜1.3%、Si:0.1〜1.2%、Mn:0.1〜1.2%、Nb:0.002〜0.05%を含有する圧延素材を加熱し、その後熱間圧延を行い、さらに仕上圧延を行うことにより、延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールを製造する方法であって、前記熱間圧延を行うための加熱工程において、加熱炉内で前記圧延素材を1200〜1350℃の範囲で4時間以上、60時間以下保持することを特長とする。この加熱方法により、レール鋼内部のNb炭窒化物の最大厚さが10μm以下になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.6〜1.3%、
Si:0.1〜1.2%、
Mn:0.1〜1.2%、
Nb:0.002〜0.05%、
を含有する圧延素材を加熱し、その後熱間圧延を行い、さらに仕上圧延を行うことにより、延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールを製造する方法であって、
前記熱間圧延を行うための加熱工程において、加熱炉内で前記圧延素材を1200〜1350℃の範囲で4時間以上、60時間以下保持することを特長とする延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【請求項2】
前記圧延素材は、質量%でさらに、
Mo:0.005〜0.07%、
Cr:0.05〜1.0%、
V :0.005〜0.07%、
Al:0.005〜0.05%、
Ni:0.01〜1.5%、
Cu:0.01〜1.5%、
Mg:0.002〜0.01%、
Ca:0.001〜0.05%、
B :0.0001〜0.005%、
N :0.002〜0.03%、
の1種または2種以上を含有することを特長とする請求項1に記載の延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【請求項3】
レール内部のNb炭窒化物の最大厚さが10μm以下であることを特長とする請求項1〜2記載の延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【請求項4】
前記仕上圧延における前記圧延素材の温度が摂氏温度で950+4720xmass%Nb以下800℃以上であり、
前記仕上圧延が完了した後に、レールの頭部中心の表面温度で700℃以上1050℃以下を開始温度としており、レールの頭部中心の表面温度で600℃以下を停止温度とした加速冷却を、冷却速度が1℃/s以上30℃/s以下となるように行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【請求項5】
少なくともレール頭部における金属組織が断面の面積比率で95%以上がパーライト組織となることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、レール鋼のパーライト組織を微細化して靭性および延性の向上を図ったパーライト系レールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道輸送は輸送効率向上のための重積載化、輸送迅速化のための高速化が進められており、レールの特性に対する要求が厳しくなっている。特に、寒冷地の鉄道では冬季にレールクラック発生によるレール取替が集中しており、レール材の靭性改善がレール寿命の延伸に必要な課題になっている。また頭部の内部疲労損傷性の改善には、レール材の靭性および延性を向上させることが重要である。パーライト組織では組織を細粒にすることにより、靭性、延性を改善することができる。これまでに以下のような方法による組織の細粒化が図られている。
【0003】
(1)熱間圧延後、一旦室温まで冷却したレールをオーステナイト温度域のなるべく低い温度域に再加熱した後、加速冷却する方法。この方法は、例えば特許文献1に記載されているように、レールを成型後、850℃以下の低温度オーステナイト域に再加熱し、細粒のオーステナイト状態からパーライト変態させて、パーライト組織を微細化しようとするものである。
【0004】
(2)パーライト変態時にオーステナイト結晶粒界に加え、オーステナイト結晶粒内からも変態を促進し、微細なパーライト組織を得る方法。この方法は、例えば特許文献2に記載されているように、MnS上に析出させたV炭窒化物、Ti炭窒化物を変態核として、パーライト変態の核生成を促進させて組織を微細化する方法である。
【0005】
(3)制御圧延によりオーステナイト粒を微細化した後、レール頭部を加速冷却する方法。この方法は、例えば特許文献3に記載されているように、Nbを含有する圧延素材を温度制御圧延することによりオーステナイト粒の細粒化を図ろうとするものである。Nbは加工後の再結晶粒の粒成長を防止する効果がある。
【0006】
【特許文献1】特開昭55−125231号公報
【特許文献2】特開平6−279928号公報
【特許文献3】特開昭52−138427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記方法の(1)では、低温かつレール頭部内部まで加熱を深めようとすると、投入熱量を下げて長時間加熱する必要があり、過加熱防止、温度ムラの防止などのための、加熱制御が難しいという難点がある。
【0008】
また、上記方法の(2)の方法では、V炭窒化物、Ti炭窒化物を利用すると、高温での変態速度が早まり、高温で変態が完了しやすくなる結果、強度が低下しやすいという難点がある。
【0009】
また、上記方法の(3)の方法に関しては、本発明者らは、10μm以上の粗大なNb炭窒化物が生成しやすいこと、及びレールのような高炭素鋼ではこのNb炭窒化物が衝撃破壊の起点となりやすいことを把握した。特許文献3には、Nbを固溶させるために1220℃以上の加熱処理を行うことを規定しているが、本発明者らは通常の一般的なレール鋼圧延での1〜3時間程度の加熱時間では上記、Nb炭窒化物を完全に無害化することは困難であることを把握した。
【0010】
本発明はNbを利用する際のこの問題点を解消するために、Nb炭窒化物の無害化方法について研究した結果、得られた知見に基づき、Nbの有効利用方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
レール鋼は0.6%以上という、多量のCを含有している。レール鋼を高温のオーステナイト温度域から冷却すると700℃程度からパーライト変態が起こり始める。パーライト変態核はほとんどがオーステナイト結晶粒界で生成する。このため変態前組織であるオーステナイト組織が細かいほど、パーライト変態核の数が増え、変態完了後のパーライト組織は細かくなる。
【0012】
本発明は寒冷地において要求される良好な延・靭性を有するレールを得るために、オーステナイト粒を細粒にして、パーライト組織の微細化を図るものである。その要旨は以下のとおりである。
【0013】
(A)質量%で、
C :0.6〜1.3%、
Si:0.1〜1.2%、
Mn:0.1〜1.2%、
Nb:0.002〜0.05%、
を含有する圧延素材を加熱し、その後熱間圧延を行い、さらに仕上圧延を行うことにより、延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールを製造する方法であって、
前記熱間圧延を行うための加熱工程において、加熱炉内で前記圧延素材を1200〜1350℃の範囲で4時間以上、60時間以下保持することを特長とする延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【0014】
(B)前記圧延素材は、質量%でさらに、
Mo:0.005〜0.07%、
Cr:0.05〜1.0%、
V :0.005〜0.07%、
Al:0.005〜0.05%、
Ni:0.01〜1.5%、
Cu:0.01〜1.5%、
Mg:0.002〜0.01%、
Ca:0.001〜0.05%、
B :0.0001〜0.005%、
N :0.002〜0.03%、
の1種または2種以上を含有することを特長とする上記(A)に記載の延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【0015】
(C)レール内部のNb炭窒化物の最大厚さが10μm以下であることを特長とする上記(A)又は(B)に記載の延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【0016】
(D)前記仕上圧延における前記圧延素材の温度が摂氏温度で950+4720xmass%Nb以下、800℃以上であり、
前記仕上圧延が完了した後に、レールの頭部中心の表面温度で700℃以上1050℃以下を開始温度としており、レールの頭部中心の表面温度で600℃以下を停止温度とした加速冷却を、冷却速度が1℃/s以上30℃/s以下となるように行うことを特徴とする上記(A)〜(C)のいずれか一項に記載の延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【0017】
(E)少なくともレール頭部における金属組織が断面の面積比率で95%以上がパーライト組織となることを特徴とする上記(A)〜(D)のいずれか一項に記載の延性及び靭性にすぐれたパーライト鋼レールの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧延後に微細なオーステナイト組織が得られる。微細なオーステナイト組織から変態して得られるパーライト組織も微細となり、靭性および延性に優れたパーライト系レールを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
レール圧延用素材を転炉、電気炉などで成分調整を行い、さらに必要に応じて脱ガス処理などの二次精錬を経て凝固させる。その後、圧延用素材を再加熱炉で高温に加熱して複数の圧延機により、徐々にレール形状に成形し、最終的に800〜1100℃で仕上圧延を行うことにより、レール形状に仕上げる。そして、所定の形状に仕上がったレールに対して所定の温度まで加速冷却を行い、その後放冷する。
【0020】
上記した製造工程において、圧延時の金属組織はオーステナイトである。鋼材を熱間圧延すると鋼中に導入された歪エネルギーにより、オーステナイトの再結晶が起こる。再結晶直後の組織は細粒であるが、その後、結晶粒が互いに侵食し合い、粒径が増大する粒成長が起こる。再結晶、粒成長は加工直後に短時間で起こる。
【0021】
粒成長の速度はその成分によって影響を受ける。組織中に粒界の移動を妨げる異物粒子が存在すると、加工後の粒成長が抑制される。この現象は析出物によるピン止め効果、ピンニング効果と呼ばれる。Nb添加鋼においては、固溶NbおよびNb炭窒化物がオーステナイトの粒成長抑制に有効である。多パス圧延において、各パスの後の粒成長速度が下がると、結晶粒径が増大する前に次の圧延加工を加えることが可能となり、そこで再結晶がさらに微細に起こるため、圧延パスの繰り返しによる結晶粒の微細化が顕著となる。
【0022】
図1は本発明者らが小型の熱間、平板圧延試験で得た、Nb添加によるオーステナイト結晶粒の微細化効果を示す図である。素材は0.8mass%C鋼であり、元厚50mmの素材を、1250℃で1時間加熱した後に、4回の多パス圧延により22 .5mmまで圧延し、圧延後の素材のオーステナイト状態の粒度を調べた結果である。圧延温度は材料を加熱炉から抽出した後に、加工待機時間を変化させて調整している。
【0023】
横軸は最終パス直前の材料温度であり、縦軸はJISの粒度判定方法によって求めたオーステナイト結晶粒度番号である。粒度番号が大きくなるほど、結晶粒径は小さくなる。第1図に示すように、最終パスでの材料温度が低下すると、粒成長速度が遅くなるため、オーステナイト粒度番号は大きくなり、結晶粒径は微細化する。優れた延靭性特性を得るためには、オーステナイト粒度は6番以上であることが望ましい。
【0024】
図1によれば、最終パスでの材料温度が同じ状態では、Nb添加量が多いほど、結晶粒は微細となる。最終パスでの材料温度が比較的高い条件でも、Nb量の増大に伴い、細粒が得られるようになる。オーステナイト粒度が6番以上となるためには、仕上げ圧延温度がNbの質量含有量(mass%Nb)に応じ、摂氏温度で950+4720xmass%Nb以下であることが望ましい。一方、仕上圧延温度は800℃以下ではレールの圧延反力が増大し、造形が困難となる。
【0025】
高C材では、凝固末期に粗大なNb炭窒化物が晶出して、衝撃試験、引張試験における破壊起点となり、延靭性が低下する。図2はシャルピー衝撃試験時に低エネルギーで破壊した試験片をSEM観察した写真である。この写真から、粗大なNb炭窒化物が破壊起点となっていることが分かる。
【0026】
この対策として、粗大なNb炭窒化物を高温の加熱によって溶体化することが有効である。図3及び図4は、1250℃および1200℃で長時間加熱処理した場合のNb炭窒化物のサイズ変化を示したものである。析出物のサイズ測定は、圧延板の幅及び長さそれぞれの中央で、長手方向かつ板厚方向に断面を切り出して鏡面研磨し、その中央部の5mm×5mm断面を、光学顕微鏡を用いて観察することで行った。図3及び図4に示した析出物サイズは、低延性破壊に影響する、析出物最大厚さである。Nb析出物は凝固の際にデンドライト樹間に生成するため、細長い形態を示すため、図5に示すように、最も厚みの厚い部分を代表値とした。
【0027】
Nb炭窒化物が破壊起点とならないためには、厚みを最大でも10μm以下にすることが必要である。Nb炭窒化物の厚みが10μm以下になるまでの所要加熱時間は、加熱温度が高温になるほど短縮される傾向にあるが、いずれの温度においても、大半のNb炭窒化物の最大厚さが10μm程度以下となるめには、4時間以上の加熱保持が必要である。一方、加熱時間が60時間を越えると、それ以上のNb炭窒化物のサイズ変化はなく、加熱のためのエネルギー費が増大する。また、加熱温度が1200℃未満ではNb炭窒化物を溶体化するための加熱時間が増加し、製造コストが増加するため望ましくない。一方、加熱温度が1350℃を超えるとレール鋼材の融点を超え、材料表面に焼き割れを生じることがあり、好ましくない。
【0028】
一方、高速軌道、重荷重軌道の急曲線部においては延靭性と共に、1000MPa以上の高強度が要求される。このような高強度を得るためには、圧延終了後のオーステナイト状態から、パーライト変態温度域である700〜550℃間を加速冷却することが望ましい。加速冷却を行うと、放冷の場合に比べて低温までオーステナイト組織が維持された状態からパーライト変態が起こる。低温で変態が起こると、パーライトの強度は増大する。また、変態核の生成速度が増加するため、パーライト組織を微細にする効果があわせて得られ、一層の延、靭性向上を達成することができる。
【0029】
加速冷却時の頭部中央の冷却速度は1℃/sec以下では必要な高強度は得られにくく、30℃/sec以上では延靭性に有害なマルテンサイト組織が生じるため望ましくない。加速冷却速度は、顧客が指定するレール硬度範囲と鋼材の成分に応じて、1℃/sから30℃/sの間で適切な値を設定する。加速冷却の冷却媒体は空気、水ミスト、水スプレー、塩浴などの液体浸漬などを利用することができる。
【0030】
上記の製造方法により変態後のパーライト組織が微細になり、優れた靭性および延性を有するレール鋼を得ることができる。このような微細なパーライト組織は、少なくとも、車輪からの衝撃的な負荷の加わりやすいレールの頭部に形成されている必要がある。
【0031】
次に、圧延素材すなわちレールの成分を限定した理由について述べる。成分の含有量は質量%である。
【0032】
C:レール鋼における高強度化およびパーライト組織生成のための必須元素である。レール鋼で重要な特性である耐摩耗性は組織の影響を強く受ける。耐摩耗性はパーライト組織が最も優れており、断面での組織分率が95%以上であることが望ましい。Cが0.6%未満では、必要とする高強度のパーライト組織が得がたく、また、フェライト組織分率が促進され、その分パーライト組織分率が低下する。フェライトはミクロ的な強度低下部位をもたらして破壊起点となることがあるため、組織分率が断面の面積分率で2%以下であることが望ましい。またCが1.3%を超えると延靭性に有害な初析セメンタイトが発生するため好ましくない。初析セメンタイトは少量でも組織を脆化させる影響が強く、断面の面積比率で0.5%以下であることが望ましい。また、高炭素鋼では冷却速度が速すぎるとベイナイト組織が生じることがあるが、その生成量が増大すると耐摩耗性を低下させるため、組織分率は5%以下であることが望ましい。さらに、冷却速度が速まるとマルテンサイト組織を生じるが、マルテンサイト組織は微量でも延靭性を低下させるため、発生しないことが望ましい。
【0033】
Si:パーライト組織中のフェライト相への固溶強化による高強度化への寄与に加え、若干の靭性および延性改善効果がある。0.1%未満ではそれらの効果は少なく、1.2%を超えると脆化をもたらし溶接性も低下するので、0.1〜1.2%に限定した。
【0034】
Mn:パーライト変態温度を低下させ、焼入れ性を高めることによって高強度化に寄与する。しかし、0.1%未満では効果が小さく、1.2%を超えると偏析部にマルテンサイト組織を生成させ易くするため好ましくない。
【0035】
Nb:鋼中に固溶したNb、および圧延中に再析出する微細なNb炭窒化物が粒成長を抑制し細粒化に寄与する。この効果を得るためには0.002%以上のNbが必要である。しかし0.05%を超えると粗大なNb炭窒化物が長時間の加熱によっても10μm以下にならず、靭性が低下するため好ましくない。
【0036】
さらに本発明においては、上記成分の他に必要に応じて1種又は2種以上のMo,Cr,V, Al、Ti、Ni,Cu,Mg、Ca、B,N、の添加によってフェライト地の靭性改善、レール圧延素材の加熱時におけるオーステナイト粒の、あるいは圧延時におけるオーステナイト粒の細粒化によって高靭性を得ることができ、あるいは、より高強度を得ることができる。これらの化学成分を限定した理由を以下に説明する。
【0037】
Mo:パーライトの変態速度を抑制し、パーライトブロックサイズを微細化する効果がある。しかし0.005%未満ではこの効果は少ない。一方、Moが0.07%を超えると、偏析部においてパーライト変態が過剰に遅滞し、ベイナイト組織やマルテンサイト組織が生成するため好ましくない。
【0038】
Cr:パーライト変態温度を低下させることによって高強度化に寄与するとともに、溶接継ぎ手部軟化防止の観点で0.05%以上の含有が有効である。一方1.0%を超えて含有すると強制冷却時に元素偏析部のみでなく、過冷却傾向の強いレールの肩部にベイナイトやマルテンサイトが生成し靭性の低下をもたらすため好ましくない。
【0039】
V:パーライト変態核となるV炭窒化物を析出し、オーステナイト粒界および、粒内からの変態核生成の促進によりパーライト組織を微細化する効果がある。しかしVが0.005%未満ではこの効果は弱く、0.07%以上ではV炭窒化物が粗大になって破壊起点となるため好ましくない。
【0040】
Al:Nとともに圧延中に析出するAlNはオーステナイト粒成長をピンニングによって抑制する効果がある。その効果を得るためには0.005%以上が必要である。一方、Alが0.05%を超えるとAl酸化物が粗大化し、靭性の低下をもたらすため好ましくない。
【0041】
Ni:フェライト中に固溶し、フェライトの靭性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Niが0.01%未満の場合にはその効果が少なく、また1.5%を超えて含有してもその効果は飽和する。
【0042】
Cu:Niと同様にフェライト中に固溶し、フェライトの靭性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Cuが0.01%未満の場合にはその効果は少なく、また1.5%を超えて含有してもその効果は飽和する。
【0043】
Mg:Mg酸化物、Mg−Al酸化物、Mg硫化物が析出し、これらを核としてMnS、V炭窒化物の析出核となる。これらの介在物は粒内変態の促進効果によりパーライト変態後のパーライトブロックを微細にする。しかし、0.002%未満ではパーライトブロックサイズ微細化がほとんど無く、0.01%を超えると粗大な介在物が生成し、靭性が著しく低下するため好ましくない。
【0044】
Ca:硫化物を形成し、MnSを微細に分散させ、MnSの周囲にMnの希薄帯を形成し、パーライト変態の生成に寄与し、その結果、パーライトを微細化する効果がある。しかし、0.001%未満ではその効果は弱く、0.05%を超えて添加すると粗大酸化物が生成し、レールの延性や靭性が低下するため、好ましくない。
【0045】
B:微量添加においてもオーステナイト粒界に偏析し、変態を遅らせることにより焼入れ性を改善する効果がある。この効果を得るためには、Bは0.0001%以上必要である。しかしBが0.005%を超えるとBの炭窒化物が生成し、靭性が低下するため好ましくない。
【0046】
N:Alとともに晶出するAlNはオーステナイト粒成長をピンニングによって抑制する効果がある。その効果を得るためには0.002%以上が必要である。しかしNが0.03%を越えると高温度域で脆化現象が起き、鋳造における鋼材内部割れが起きるため好ましくない。
【0047】
なお、Tiは製鋼工程において不可避的に混入するが、その窒化物は硬くてもろいため、延靭性を劣化させることが多い。このため、できるだけ低いことが好ましい。また、Ti窒化物はNb炭窒化物と同様の結晶構造を持ち、Nb炭窒化物と同時に析出することが多い。Nb炭窒化物の溶体化を容易にするためにも、Tiは低いことが好ましい。
【0048】
また、P、S、Oは鋼中に不可避的に含まれる。P、Sはフェライト層を脆化させて衝撃特性を低下するため、低いことが好ましく、0.025%以下であることが望ましい。同様にOは、0.02%以上になると粗大な介在物が生じて靭性の低下をもたらすため、それ以下であることが望ましい。
【実施例】
【0049】
次に、本発明により製造した高靭性を有する高強度レールの製造実施例について述べる。実施例で採用した鋼材成分を表1に、加熱条件を表2に示す。
【0050】
(1)実施例−1
表1に示す成分からなる鋼材を用い、表2に示す加熱条件(ニ)で鋼材を加熱してレールを製造した。圧延素材は連続鋳造で製作した、300mmx400mmの矩形断面材である。仕上圧延温度は970℃となるように圧延開始待ち時間を調整した。熱間圧延における圧下率は、レール頭部の断面積の減少率(百分率)で示すと、仕上げ圧延機から粗圧延機まで順に、10%−5%−20%−2%−15%である。
【0051】
【表1】


【0052】
【表2】


【0053】
熱間圧延完了後、レール頭部表面の温度が750℃となった時点から空気により700℃〜550℃間の冷却速度を1〜10℃/sの範囲で制御冷却し、頭頂面から2mm下の断面における硬度がHv350以上になるようにした。材質評価はレール鋼の引張試験強度、伸び、および20℃、2mmUノッチシャルピー試験における衝撃値で行った。
【0054】
引張試験片はレール頭部表面下5mmの位置から、長手方向に切り出し、平行部の直径6mmφ、平行部長さ30mmのJIS4号相似、丸棒引っ張り試験片とした。
また、引張試験片残材を圧延方向に対して直角方向に切り出して、鏡面研磨して測定荷重20kgfでビッカース硬度を測定し、さらに5mmx5mmの範囲で、光学顕微鏡でNb炭窒化物の最大厚みを調べた。
【0055】
また、熱間圧延後のオーステナイト粒度を確認するために、レールから100mm長さのサンプルを熱間切断して、水槽に浸漬して焼き入れた。この試料の頭部からレール長手方向、鉛直面内の鏡面研磨試料を採取し、ピクリン酸でエッチングして旧オーステナイト状態で凍結された組織を観察した。観察位置は頭部表面下5mm位置とした。
【0056】
延性及び靭性は鋼材の炭素量により大きく影響を受ける。このため、Nb添加と加熱効果は同一レベルの炭素量の材料で比較する必要がある。表3に比較結果を示す。
【0057】
【表3】


【0058】
表3に結果を示すように、本発明鋼はC量が同等の比較鋼に比べて、高い衝撃値(靭性)及び延性が得られた。
【0059】
詳細には、比較例(A)は、衝撃値、引っ張り性能は良好であるが、Cが低すぎるため組織中に初析フェライトが多量に生じたため、均一なパーライト組織が得られなかった。
比較例(B)は、Cが高すぎるため、組織中に初析セメンタイトが多量に生じたため、均一なパーライト組織が得られず、材質(靭性及び延性)も劣化した。
比較例(C1)は、Nb添加していないため、Nγ<6となり組織が微細化しなかった。
比較例(N1)は、Nb添加していないため、組織が微細化しなかった。
比較例(E1)は、Nb添加量が課題であるため、Nb炭窒化物が十分に小さくならず、機械試験時の破壊起点となり、延性及び靭性が劣化した。
比較例(E2)は、Si量が過大であるため、材質(延性及び靭性)が劣化した。
比較例(E3)は、Mn量が過大であるため、偏析部にマルテンサイトが生じたため、組織が均一なパーライト組織とならず、材質(延性及び靭性)も劣化した。
比較例(E4)は、Nb添加していないため、組織が微細化しなかった。
比較例(F1)は、Nb添加していないため、組織が微細化しなかった。
比較例(L1)は、Nb添加していないため、組織が微細化しなかった。
比較例(M1)は、Nb添加していないため、組織が微細化しなかった。
【0060】
(2)実施例−2
表1の鋼材(E)を用いて、表2の種々の加熱条件で鋼材を加熱してレールを製造した。加熱炉から材料と取り出した後の製造条件は実施例1と同様である。
表4は加熱条件、および、材質試験結果を示す。
【0061】
【表4】


【0062】
この結果が示すように、本発明の加熱条件範囲に加熱して製造したレール鋼は、Nb炭窒化物のサイズが小さくなり、良好な衝撃値(靭性)及び延性が得られた。
加熱条件(イ)は加熱温度が低すぎるため、Nb炭窒化物のサイズが大きく、材質(延性及び靭性)が良くなかった。
加熱条件(ロ)は加熱時間が短かすぎるため、Nb炭窒化物のサイズが大きく、材質(延性及び靭性)が良くなかった。
加熱条件(へ)は加熱温度が高すぎるため、Nb炭窒化物のサイズは小さくなり、材質は良いが、加熱内で材料が過剰に加熱され、鋼材表面に焼き割れを生じ、最終製品に疵が残留したため、レール商品としては不良となった。
【0063】
(3)実施例−3
表1の鋼材のうち数種類を使用して、加熱条件として表2(ニ)の条件で鋼材を加熱し、2種類の仕上圧延温度でレールを製造した。圧延素材は連続鋳造で製作した、300mmx400mmの矩形断面材である。仕上圧延温度が狙いの温度となるように、加熱炉抽出後の圧延開始待ち時間を調整した。熱間圧延における圧下率は、レール頭部の断面積の減少率(百分率)で示すと、仕上げ圧延機から粗圧延機まで順に、それぞれ10%−5%−20%−2%−15%、である。圧延完了後の加速冷却条件、材料評価内容は実施例−1と同じである。
【0064】
表5は仕上圧延温度、および材質試験結果を示す。表中のTtはNbの質量含有量(mass%Nb)に応じて求まる、オーステナイト粒度を6番以上とするための仕上圧延温度の計算式であり、Tt=950+4720xmass%Nbである。
【0065】
【表5】


【0066】
この結果が示すように、本発明の仕上げ圧延温度範囲で圧延したレール鋼は、オーステナイト粒が6番以上の細粒になり、良好な衝撃値、延性が得られた。
比較例1はNb含有量から求まる、オーステナイト粒度番号を6以上とするための仕上圧延温度Ttが992℃であるのに対して圧延実施温度が1000℃と高く、オーステナイト粒度番号が6以下の粗粒になり、材質(延性及び靭性)が良くなかった。
比較例3はNb含有量から求まる、オーステナイト粒度番号を6以上とするための仕上圧延温度Ttが973℃であるのに対して圧延実施温度が1000℃と高く、オーステナイト粒度番号が6以下の粗粒になり、材質(延性及び靭性)が良くなかった。
【0067】
なお実施例5及び6はNb含有量が高いことから、オーステナイト粒度番号を6以上とするための仕上圧延温度Ttが1167℃と高く、実際の圧延温度が実施例1、3と同じ1000℃であるにもかかわらず、細粒が得られる例であり、1.25%C鋼としては良好な材質(延性及び靭性)が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】圧延温度とオーステナイト粒度の関係を示すグラフ。
【図2】Nb炭窒化物の例。
【図3】Nb炭窒化物の長時間加熱によるサイズ変化を示すグラフ。
【図4】Nb炭窒化物の長時間加熱によるサイズ変化を示すグラフ。
【図5】Nb炭窒化物の最大厚さ評価方法を示す図。
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成18年7月6日(2006.7.6)
【代理人】 【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇

【識別番号】100110777
【弁理士】
【氏名又は名称】宇都宮 正明

【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温


【公開番号】 特開2008−13811(P2008−13811A)
【公開日】 平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願番号】 特願2006−186312(P2006−186312)